東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
妖怪の山、秋。
鞍馬天狗と鴉天狗の激闘は、鴉天狗側の大敗に終わった。
その日の夜──────
「星が綺麗だ」
「うん。これだけ高い場所に、貸し切りの露天風呂なんてズルい部屋だ…………一生ここで住んでたいよ、」
飯塚丸龍から、任務で行動可能な時間が合わない都合でしばらく観光を言いつけられた慧音と妹紅は何も背負うものがない状態で、御湯殿いづなで温泉旅行を満喫していた。
見事な晴天で青い夜空に白い星々が瞬く夜、一行の部屋のバルコニーには貸切の露天風呂が設置されてある。
「うん。俺も露天風呂は入ったことあるけど、こんな高い所で入れるなんて初めてだ」
そして………女子ばかりの楽しい楽しい花の楽園にしれっと混じっている神門青葉の存在。
邪魔極まりないがちゃんと仕切りが立ててあるのでそこは問題ない。
「なぁオオバ、こっから飛び降りてくれよ。なんだか気持ちよさそう」
「…………俺に死ねって言ってる?」
「妹紅、死の縁から蘇った人間に飛び降り自◯の強要はどうかと思うぞ」
疲れた身体を湯に浸す快感で全員の脳が萎縮している。
血管が開き、固まっていた血流が改善され、眠気が襲ってくるのだから当然も当然。
「しかし青葉、お前はよくそこまで生き残れるんだな。あれほどの重傷を負って動けるとは。さらに、今回だけではない」
「そうだな。ちょっとオオバは死ななさすぎだな。私は蘇るだけで、実際戦いでは何度も死にまくった。だが、お前は一つしかない命でこれだけ長いこと戦えている………いや、どれほどの攻撃を受けても死なないんだよな」
慧音と妹紅は、青葉のその強靭な生命力がやはり気になっていた。
「なんでだろうね。でもたしか永琳さんは、『俺は人よりも死ににくい身体なんだ』とか、なんか言ってたような気がするよ」
「なんだ?それ」
「さぁ。俺も詳しくは聞いていないし、永琳さんも理屈では説明してくれなかった。なんか、病気や怪我にはめっぽう強い身体なんだってさ。ちょっとやそっとの病気や怪我で死ぬことは絶対にないらしい。でも、死んだらそこまでらしいよ」
「なんだそれ。生き返らない版蓬莱人みたいな?」
「それはただの人でしょ」
青葉はなんとなくで、永琳の元で修行していた時代を思い浮かべる。
(青葉、貴方には前もって説明しておかないといけないわね)
(説明?)
(……………貴方は、高い生命力を持っているの。命は一つしかないし、死んだら貴方はそこで終わり。ただ、貴方の命は他のものに比べて死ににくく【なっている】)
(なっている………?なんでわかるんですか?)
(……………いいえ、ごめんなさい。私のカンよ。)
(まぁても、『死ににくい』ってことは『普通より長生きできる』ってことなんですよね?そりゃ嬉しいことこの上ないですね、あははっ)
(………………………………………そう、ね)
(あなたが……………竹林の万能の薬師さんですか!?…………ぼくの、ぼくの友達をたすけてください…………!)
俺は───────あの後どうなったんだっけ。
(死んではならない──────)
(貴方だけは、死んではならない──────)
(たとえ─────────)
「オオバ、今何考えてた?」
「………………………………………………」
どうやら妹紅には、そういう不吉なものは見えるのかな。俺は、何も口にしていなかったのに。
家族、かぁ。家族………………
あっ。そういえば───────
「二人とも。明日お土産屋さんを見に行かない?」
「土産もん?」
「あぁ。慧音さんも、生徒に何かお土産選びに行かなくちゃいけないでしょ?俺もウドンゲさんや永琳さんにお土産買いに行かなくちゃいけないからさ」
「おぉ、そういえばそうだったな。これほど広い温泉街なら土産屋さんもたくさんあるだろう。今のうちに下調べしなくてはな」
せっかく温泉旅行に来ているんだ。家族にお土産を買わないなんて、そんなことありえないだろう。
「さて…………そろそろ私は上がるかな」
「そうだな、私も上がるわ」
水音と共に慧音と妹紅が湯から上がる。
「そっか。じゃあ2人が行くなら俺も上がるよ」
青葉も風呂から堂々と上がる。
三人で並んでベランダの窓を開き、そのまま部屋に入る。
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
途端に何かおかしなものを感じて3人は顔を見合わせる。
「キャァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
「キャァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
「ぐほぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」
「─────俺、昼間死にかけた重症者だよね」
割れた額から流血しながら俺はベッドで横になる。
床には縁がちょっと赤くなったテーブルランプが転がっていた。
「マジでお前、ド変態だな。ちっとは頭使えよ。どんだけ湯船に仕切りあるからって、同時に部屋入ったら仕切りの意味ないだろ」
「青葉と温泉旅行に行く時は次回から男女別だ」
「………………はい」
俺たち3人は就寝時間というわけなんだが、暗闇で顔の見えない部屋ではどんな話も可能だ。
3人しかいないし、声で誰が言っているのかはわかるんだが、不思議とノロケ話が増えてくるのはそう。
「それで、オオバは女選びで特に大事にしてる部分どこなんだ?」
「これまた攻めたこと聞いてくるんだね」
「私らしかいないだろ?な?慧音」
「そ、そうだな!うん!そうだな………!」
一人だけ明らかにテンション違う人いるよね。
「俺はトヨさん以外に興味ないよ。そもそも、特に大事にしている部分ってなんのこと?」
「女を見極める時に一番最初に見る部分。例えば目とか鼻とか髪とか」
「あー…………なるほど…………なんだろうな、包容力のある人は好きかも」
「なんか違うんだよなぁこいつの言ってる事。見た目とかで言って欲しかったんだが私」
「見た目なんて言われても………俺はトヨさんのそういう所に惹かれたんだしトヨさんも俺のことは中身で見てるもん…………それに、見た目に関係なく俺が好きになる人には慧音さんみたいな優しさは要るよ」
「ひゃいっ!?」
ん?今、なんの音?
(こいつどこでもてめぇの知らぬ間にナンパしやがるなクソムカつく…………しかも私の慧音に…………)
「そんなところかなぁ」
「ちょっ待てぃ!私の要素ないのか!?」
「ないよ」
「おま……………っ、」
「あいでえ゙っ!!!誰だ今俺の顔に灰皿投げつけたやつは!」
「お前マジで味方の女作るのも早いが敵作るのと早いよな!!!」
「妹紅!そんな事より、客室は全室禁煙だ!喫煙室の灰皿をこっちに持ち込んで吸うな!」
一方その頃、隣の部屋
「安曇。こんな夜更けまで何やってんのさ」
隣の部屋では職人2人組が夜を過ごしていたがまったく消灯もしていなければ就寝にもついていない。
「そういうお前は何やってんだ一千子」
「私ぁ、鞘をあてがってるだけだよお前さんは何してるのさ。壺作ってるわけでもなけりゃあ、拳と鉄棒ぶん回してよ」
「俺はただの鍛錬だよ」
「あんだけやられていてそんだけ動けるなんざ、大した体力だわさ」
安曇は鞍馬天狗に敗れたこと、なにより親友の青葉をやられたことを未だに引きずっているようだ。
「俺はもう負けねぇ。俺は何が何でも鞍馬天狗をぶっ飛ばす。俺の友達をやるって事はそういう事だ、誰が止めようが関係ねぇ…………」
「血気盛んだなぁ。私にぁ無理なことさ………ゲホッ、」
一千子はとつぜん咳込む。
「一千子…………お前さっきから顔色わりぃぞ。早く寝ろよ」
「いいや、そんな場合ぁないさ。それに、体調悪かないさ。ただ妖力を使いすぎただけさ」
「妖力がない?何に使ったんだよ」
「──────お前さんには説明したほうが良いか」
一千子は鞘と刀を置くと安曇に向かい合う。
「私ぁな、刀を持ってる間は今のとのろ飯空Projectの人員の誰よりも強い自信がある。というのも、鞍馬天狗とマトモにやれたのは青葉と私ぐらいだ。…………だが私の青葉との違いは燃費なのさ」
「燃費?」
「あぁ。私が一度にできる攻撃は1回だけだ」
「一回?一回って、一回?」
一千子の説明は本当だ。
実際、昼間の激闘でも、一千子が百鬼丸に放った攻撃は一回のみ。
しかしそれでも帰還後は体調を崩してすぐに復帰できなかった。
「私の造る刀には、一本一本に私の魂がかかっているのさ。魂ってのは文字通り、魂のことさ。なくなっちまえば、御劔一千子のカタチがなくなる。命とは別の私を生かしている力、あの『魂』さ」
「……………………お前、命かけて刀造ってんのか」
「ま、そんなところさ」
「お前、いいのかよ。またそんなに刀鍛えてさ」
「補足しとく。私の刀がある限りは私の魂は減らねぇ。だが、『何らかの理由で破損』すふと私の魂の一部が割れていく」
「攻撃ってのは『そういうコト』か?」
「あぁ。私の刀に妖力を流し込み、竈に炎ぶっこんで身体燃やす覚悟で灼熱の中刀鍛えてる刀鍛冶の魂とともに、爆発的な威力を出す。破壊力だけなら鞍馬の最終兵器と名高い名剣「膝切」と良い勝負だろうさ。だが、それほどの威力出しゃあ所詮ぁ鉄の塊だから刀が耐えられねぇ。刀、私の魂はひとたび壊れるってわけさ」
「……………じゃあやめろよ、それ。なんでお前はそこまでして刀造るんだ?お前はそれ造るたびに、死に向かっているって意味でもあんだろ?」
安曇は静かな声で一千子に語りかける。
やめろよ、と強い口調だが、それはやめてほしいという懇願の声に聞こえた。
「私の身を案じてくれんのか?優しいなぁお前さんは」
「あったりまえだろ………お前ぁ、俺の数すくねぇ理解者だろうが…………」
「やれやれ、結局友達とかそういうもんを優先するのかねぇ。あんたはまだまだ職人としちゃ半人前だな。でもそれでいいのさ。私はそれが生きる目的だ。職人ってのぁひたすら自分との戦いさ。敵は常に自分。昨日の自分を超えること、それが鍛えるってことさ」
一千子は何でもないように笑う。
「いや、それは違う」
「化野?」
「職人は己との戦いだ?ちげぇよ。ぜんぜん、ちげぇよ。俺はそうは思わねぇ。職人の仕事ってのぁ一人の戦いじゃねぇ。仲間との絆だ。
安曇の言葉に一千子は少し俯く。
横目に、置かれた未完成の刀を見つめる。
火を起こすのも自分でできるし火の加減なんて自由自在だから薪も砂もいらない。火を見ることもない。せいぜい鉄をたたいて刃を研いで鞘あてがうぐらいしかやることがない。
そのうちに一千子は知らなかった。モノを生み出すには仲間の協力が必要ということに。
「…………………………………………そうか、勘違いしてたのは私のほうだったのかい……………こん若造が。そうだな、そうかもなぁ」
一千子は頷く。
「ありがとさ、化野。お前さんのおかげで私もまた一個成長できた気がする」
「一千子……………俺はお前の友達だ。お前が一人で勝手に死んでお前がそれで納得するだけならどうでもいいけどよ、それは俺が嫌だからやめろ」
「わかったわかった。だがこっちも刀作るのが仕事さ。死なない範疇ではやらせてもらうからなぁ」
「それなら構わねぇ。俺はお前の刀…………お前の命っていう俺たちの切り札を使わなくても良いように仕向ける」
安曇はその場を立ち去り、ベランダへと出る。
安曇の前には幾億の白い点が瞬く青の星空。
その星々が泳ぐ銀河を見上げて安曇は誓う。
「そのためには、俺は、もっと強くならなくちゃいけねぇ。誰よりも……………」
決意に燃える安曇の瞳は笑っていなかった。
覚悟の色に染まった顔は無心で作を造る職人のような気合。
「俺は…………もっと…………もっと強くなる。あいつよりもな……………!」
安曇の睨む星空は変わらない。
覚悟を決めた青年の未来のように、果てしなく無限に広がっている。
そう……………無限に。
……………どのような方向にでも。
……………いかなる方向にでもだ。
時にそれは奇跡を育み、
時にそれは星々の調和を司り、
時にそれはすべてを飲み込む黒い孔をもいざなう。
そんな宇宙のように広大な彼に──────
求めたのは、誰かを守るための力。
何者にも打ち破れない圧倒的な『力』を。