東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
翌日─────────
「と、いうわけで!」
「御湯殿いづな観光施設編、はっじまるよー!」
テンション高いな…………今日の2人。
私、上白沢慧音は神門青葉と藤原妹紅との3人で温泉旅行に来ていた。
いや…………正確には温泉旅行をうたった異変解決の戦略動員なんだが、異変の調査が詰まってしまい、ひたすら時を待つしかない状況となった。次に動きがあるのは明日の夜。
というわけで、暇になった私たちは束の間の休息を楽しんでいたのであった。
「って!誰だよオマエ─────!?」
すかさず妹紅のツッコミが入る。
それもそのはず、私たちの横にいる青葉は普段の彼の姿とは全然違ったからだ。
「えっ?俺は俺だよ」
「なんで笠脱いでんだよ、なんで髪下ろしてんだよ、てかなんでそんなオマエ顔美人なんだよ!笠のない青葉なんて青葉じゃない」
「俺のアイデンティティ笠しかないの!?」
そう、今日はまっとうな温泉旅行ということで私や妹紅も普段着ているワンピースや冠、モンペを脱ぎ捨てて浴衣姿で来たわけなのだが、青葉に関しては浴衣姿に笠も脱ぎ捨て、そればかりか結っていた髪を下ろしていたりしている。
いつまでたっても青葉が来ないなと思って。私が通行人に三度笠の少年を見かけなかったか、と質問したらその通行人がまさかの本人だった時は思わず腰を抜かした。
それぐらい、彼の姿は別人と見違えるかのように変化していたのだった。
「だって、温泉旅行っぽい格好で来いって言うから…………この山は標高が高くて、雲や霧が上空に出がちだから日光を浴びる心配もないしね。日が差してきたらこのタオル頭に巻けばいいんだし。日が出てない笠ときたら、そりゃ不便だよ」
青葉は肩にかけているふわふわのタオルを見せつける。
「やれやれ…………まぁ、行くとするか。お土産探しということだったな?今朝調べてみたのだが、どうやらここの大きいお土産屋があるようだ。訪ねてみるとしよう」
「よし、そうと決まれば出発だ!」
〜御湯殿いづな公認土産屋 招きねこ〜
着いた。ここがこの御湯殿いづなの土産屋、『招きねこ』だ。
一階建ての建物だがそこは工場のように広く、和風な建築の中に広がる洋風のカーペットが特徴。
まだ朝だと言うのに人でいっぱいだ。
今日家に帰る観光客たちなのだろう。
「へぇ〜。けっこう広いんだな、よし。自由に見て回ろう」
「そうだな。…………あれ?青葉はどこだ?」
「そういや、いないな」
突然、青葉の姿が失われていた。
御湯殿いづなの道にはそれほどの人の流れはなかったのに。
まさか彼に限って迷子なわけがないし。
「はぁ………はぁ………ごーめん、お待たせ………」
すると、息を切らした青葉が走って追いついてきた。
「オオバ。どこ行ってたんだ?」
「急に道の女の子たちに声をかけられてさ………そしたら次から次へと他の通行人の子たちに連鎖反応してぜんぜん逃げれなかったんだよ………囲まれて大変だった………」
「はいはい気の毒だったな色男め」
青葉は着るものを変えれば女性に見えてしまうほどの美人だ。色白で細いのでついつい惹かれてしまう少女は多いはずだ。というか、大多数がそうだろう。
「それにしても…………すごいね。こんだけのお土産、選ぶのが大変そうだよ」
「あやあや〜?もしかして青葉さん、こちらでお土産の品をお買い求めですか〜?」
「うん、そうなんだよ………ってえ゙え゙え゙え゙え゙え゙っ!?」
「射命丸文!?」
青葉の背後からヌッ、と文が顔を出してきた。
「文さん!?なんでここに………大ケガしたんじゃ………」
「はいそうですね。しばらく全速力での飛行はできません。取材効率が7割減ですよ…………」
文はがくっ、とうつむく。
しかし、すぐに「ですがっ!!!」と顔を上げる。
相変わらずの明るい顔になんとなく私たちはひとまずの安堵を浮かべる。
「そんなことよりももっと価値のある取材先を見つけたのです!そう、貴方ですよ青葉さん!!!」
「お、俺が?俺にそんな価値あるの?」
「はい!知ってますか?男も女も顔がすべてです!青葉さんの美人ぶりは幻想郷の男衆の中でも頂点に位置するほど!御湯殿いづな………いや、この妖怪の山に現れた幻の美男子の独占取材なんてしようものなら我が文々。新聞の売れ行きはグラフの四角の一番上の辺を突き抜け、紙を貼り付ける壁をかけぬけて天井を貫く具合までになりますよ!」
なるほど結局新聞の売れ行きのことしか考えていないのか。
「ということで、お願いします!私に貴方たちの温泉旅行の取材をさせてください!もちろん、相応の謝礼はご用意いたしますよ〜」
文は深々と最敬礼を発動する。
「な………なんか…………照れるな。俺は別に構わないんだけど、2人がなんて言うかな…………」
青葉はこちらに視線を向けてくる。
「いんじゃないか?面白そうじゃんか」
妹紅は意外にも快諾した。
「ではそのようにしよう。どうせ青葉ばかりにスポットライトが向く。私たちがそこまで気にすることはないな」
「あやった〜!交渉成立です!………と、言うわけで!」
文はバサッ、と音を立てて一回転。
鴉の黒い羽がこちらの視界を遮るその一瞬のうちに文は取材用の服に着替えた。
茶色のジャケットとキャスケットを着用して準備万端。
「というわけで!みなさんには今からちょっとしたゲームに挑戦していただきます」
ここまで勝手に話が進んでいくとは思わなかった。
「ゲーム?」
「はい。今からみなさんにはこの招きねこでいくつかゲームに挑戦してただき、楽しい温泉旅行を満喫していただきます。…………と、その前に。一つ、前置きのお楽しみを」
文はパチン、と指を鳴らすと店の奥から突風が撒き起こる。
「ちょっ、うわぁぁぁぁ!?」
「ついてきてくださーい!ご案内いたします!」
突風に飛ばされた青葉を抱きかかえると、ドキューンと文は反対方向の建物へと消えていった。
「なんであいつだけ…………」
妹紅はそれを追いかけながら呆れる。
「妹紅、忘れたのか。青葉はいま、取材対象の芸能人だぞVIP待遇は当然だろう」
「まったく………なんであいつはこんなにも女から特別扱いされがちなんだか」
「顔がいいからだろう」
「はい、到着いたしました!」
そしてたどり着いたのはまたもや店。
だが、今度は無数の衣装が並んでいた。
「というわけでまずは今から浴衣を脱いでいただき、こちらの衣装に着替えていただきます」
「ど…………ドウイウコト?」
私たち3人はまったく理解が追いついていない。
「だって御三方、美男美女揃いだというのに、浴衣1枚では華がありませんとも。とうぜん、着飾って街を歩いていただきますよ?」
「勝手なことを…………」
「あっ、ちなみにルールを設けますね。服は自分ではなく他人にコーディネートしてもらっていただきます」
「えっ?」
「そっちのほうが盛り上がりますよ。そうですねぇ…………青葉さんは妹紅さん、妹紅さんは慧音さん、慧音さんは青葉さんの衣装のコーディネートをお願いします」
私が……………青葉の服を選ぶのか……………!?
「もちろん自由ですしここの衣装は千差万別。えげつないほどダッサイ衣装を着せるもよし、似合う服を選んであげるもよし。このあとの取材はすべてその衣装でやっていただくことをお忘れなく!それではー…………スタート!」
な………なんということだ……………私には、男の服を選ぶなど…………そんな経験…………
「オオバ…………この私に変なの着せたらマジでお前…………」
「あははっ。大丈夫だよ。ちゃんと妹紅に似合うものを選んでくるから」
なぜこの二人はここまで乗り気なのだ…………!?
妹紅と青葉はそれなりに付き合いがある。お互いのイメージは何となく分かるだろうが………私に関しては青葉…………私に限って異性の衣装選びとは難しいことをさせてくる…………
「──────ニヤァ」
あの顔…………!!!!!
ぜったい私に青葉の服を嫌がらせで選ばせる予定だったんだろう!
あと、なんだ!その「こいつは絶対に面白い服を選んでくる」といわんばかりのニヤケ面は!私の服がおかしいとでも言うのか!
屈辱的な…………ここは青葉に合う服を適切に選んで…………!!!
30分後───────
「ねぇ慧音さん。君もしかして服あんまり興味ないの?」
まさか青葉が私に失望の眼差しを向けてくるとは思わなかった。
「……………もう、好きに言ってくれ…………………」
「慧音先生…………いくらなんでも、これはない」
私には……………早すぎた。
「いいかい慧音さん。ふつう、常識的に考えて柄のあるアイテムは2点以上着けない。…………この世で君だけだよ。格子柄のシャツの上からアーガイル柄のセーター着せる人」
青葉にとっても、この事態はあまりにも想定外だったようでツッコミがかなりソフト。
本気で私の心配をしている。気を遣われて苦しすぎる。
「しかも帽子は緑のベレー帽だし。スコットランドキルトか何かをイメージしたの?」
「なんですか、スコットランドキルトって」
「外の世界の服だよ。男の人が格子柄のスカート履いてバグパイプって伝統楽器を吹くんだ」
「ふーん」
私はまったくそんなイメージでコーディネートしてない………
「もしかして慧音さん、文さんにダサい服着せてもいいって言われたから俺に悪戯仕掛けようとしたの?そっちのほうが俺はまだ納得できるよ」
「ううっ………………………」
「まぁ…………そんな形の帽子被ってるような慧音さんが選ぶ服だから、元々そんなに期待してはいなかったんだけど」
私はこれが自分に似合ってると思って被っているのだがね。
「青葉さん、大丈夫ですか?その格好でお外出て恥ずかしくないですか?」
ついに文がイジりを捨てて本気の心配をし始めるほどに私のファッションセンスは壊滅的だったらしい。
「大丈夫だよ。慧音さんが頑張って選んでくれたものだ。これも味だよ」
「青葉…………お前というやつは…………」
その一言にどれだけ私は救われたというか。
彼の口からはつねに相手へのリスペクトと思いやりに満ちた音声しか流れない。
彼ほどのできた人間は、私は他に知らない!
「青葉さん、心づもりは素晴らしいですが新聞の見栄えが悪くなるので着替えてください」
「はい」
「文、キサマ───────!!!!!!」
「アヤーッ!!!!!」
「慧音さん!いつの間にコブラツイストなんて覚えてきた!?」
うっわ、既視感しかねーわ。どこのアリスとは言わないけど…………
さて、場所は戻って招きねこ。
「さて。そんなわけなんですが!気を取り直して!」
「結局俺だけ普通に俺の一張羅になるのか」
「はい!青葉さんの
「う…………うーん。まぁ、いまは笠がないから剣士っぽさには少し欠けるけども…………」
「さて続きまして妹紅さん!………あらまぁ〜素敵なスカートじゃないですか〜、しかも妹紅さんらしい赤!」
「オオバ………私、惚れ直したよ………お前、私がこういうの着るのが夢だった事どこで気づいたんだ?」
「惚れ直す、って違うでしょ言い方。妹紅はかわいいの好きだからね。こういう軽くてふわっとした物を選んであげたら喜ぶかなって思ったんだ」
「おぉ………お洒落だしセンスもいいし………何より私が女の子だってことを分かってくれてるよ………愛してるぞオオバー!!!」
テンション高いな……………
「そして慧音さんは…………」
「あぁ。慧音のぶんは私が選んでやったぞ。慧音といえば青のイメージあるけど、大人っぽさ引き出すために黒白の取り合わせなんて似合うと思ってな。私の赤が黒になっただけのようなものだから、選びやすかったよ」
「妹紅みたいな感じで選ぶのが主流なんだよ。まず最初に並んでいる服を下見して、次にコンセプトを選ぶ。それからアイテムを組み合わせる、これがオシャレの基本中の基本だ」
「よし、もう服を選ぶ時に私を呼ぶな。今のを聞いて何も分からなかった」
私はできるだけわかりやすいように拗ねる。
「おやおや〜?お客さんだね?」
すると、私たちの背後から声が聞こえてきた。
「む?」
私たちは声の方角を向く。
「やぁやぁ、よろしくね!ここでは他の場所では買えないここ限定のお土産が並んでいるんだよ〜。お客さん、ラッキーだね〜、見る目あるねぇ〜」
現れたのは白い衣装のまさに招き猫のような見た目をした人型。
「私はこの招きねこの代表をやっている豪徳寺ミケだよ。誰かと思えば文ちゃんじゃないの〜。君たち3人………見ない顔だね。やけに幸薄そうだけど、どしたん?財布でも落としたの?」
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〜商売繁盛の縁起物〜
豪徳寺ミケ
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