東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
〜御湯殿いづな名物甘味処 おたま屋〜
「はい着きました!ここが御湯殿いづなの観光名所、絶品甘味処、『おたま屋』です!」
「おぉ!こりゃいいな!いい匂いがするよ!」
青葉のリクエストで射命丸文に連れてこられたのは小さな甘味処。
先ほど訪れた土産屋の「招きねこ」はかなりの広さを誇っていたが、こちらはポツンとした建物だった。
アレだろうか。隠れた名店というやつか?
「そういえばオオバのやつ、またどっか行きやがったな」
「まったく、また女に捕まったのか…………?」
そうこうしていると、化粧室の扉が開いて青葉が姿を現した。
「おぉ、遅いぞオオバ…………って!お前それ着るのかよ!?」
青葉はさっき文から受け取った『だれでも射命丸文コスセット(潜入衣装ver.)』を早速着用していた。
黄色のショルダーバッグ、茶色のジャケットとキャスケット。紛れもない、射命丸文の潜入取材用の衣装だ。
「セットに入ってたズボンの丈が短くて履けなかったんだけど、そんな時にこれを見つけてね。慧音さん、最初の言葉は取り消すよ。まさか俺がこれを着るのを見越して、ベージュのバレルパンツ選んでくれたんだね。そうか…………未来に着替えることを想定した服選び、勉強になるよ」
「そ、そそそそそそうだな!あぁ、お前のことだからそう言うと思って選んだんだ!喜んでくれたなら………何よりだ!」
良くわからんかったが私が選んだズボンは正解だったらしい!さすが私!
「それにしてもオオバは何を着ても似合ってるな。やっぱアレか、女顔だからか?」
「そうかもね。あと、ミケさんが気を利かせてゆとりのある寸法で選んでくれたからだと思う」
「髪は結ったほうが良さそうだな?」
「そっか、ありがとう」
青葉は黒のヘアゴムで髪を結ってから、お土産を包んだ紙袋の中身を漁ると、革で出来た箱を取り出す。
「さっき買ったものがいきなり活躍だ」
箱から出てきたのは丸い黒縁の眼鏡。
「どう?似合ってる?」
「うぉぉぉーっ!可愛い!お前一生それでいろよ!」
妹紅がなぜか大興奮している。
可愛いもの好きな妹紅がはしゃぐということは、よほどだ。
確かに、明らかに「射命丸文!」な服装を貰った割にはオリジナリティを前面に出せている気がする。帽子と眼鏡、そして顔立ちによって男か女か分からないそのミステリアスさ。そして何より私が選んだ服を一部取り入れてくれた細かい所への気配り。
彼はおそらく、道具屋より仕立屋のほうが向いていると思うのだが…………
「さて。しばらくの間はこれで歩き回ろうか、俺は結構気に入ったよ」
「あやや〜。青葉さん、私の衣装をこんなにも着こなしてくれて、私は感激です〜」
「…………せーのっ、あやや〜!」
「…………せーのっ、あやや〜!」
おそろいコスチュームで2人一緒にピース。
パシャ。
兄妹か、お前らは。
「さて、気を取り直して…………ここは甘味処………なんだよね?なんだか不思議な空気感だ」
青葉の言う通り、この店からは確かに甘い匂いがするが、店の内装がかなり独特だったのだ。
壁や天井に描かれたカラフルな水玉模様の数々。
天井から吊るされているカラフルな丸いランプ。
というか、窓も丸いし、そこら中に敷かれているカーペットも全部丸の形だ。
というか店の名前が「おたま屋」だ。
なんだこの店、どれほどにまで丸が好きなんだ。
「今回は謝礼ということで来ましたが、くれぐれもイタズラは勘弁してくださいね?この場所は神様がおわす由緒正しい場所ですから」
「この店がか?」
「はい。店員さんをお呼びしますが、失礼のないようお願いします」
文は従業員カウンターから声をかける。
すると、店の奥から誰かがやってきた。
「あらあら。いらっしゃいませ。皆さまも丸がお好きなのですね?それは嬉しいです。私たち仲間かもしれませんね〜」
出てきたのは、麻色の髪の女。
赤と橙の明るいエプロンを着て、服の周囲にはなんと様々な色の勾玉を大量に着けていた。
「ご挨拶がまだでしたね。私は
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
本物の勾玉製作職人
玉造 魅須丸
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お玉…………?ってことは、このお店はあなたの…………」
「はい。丸いものが大好きなので、全て丸にしました」
窓や照明が丸いのはそういうことだったか。
「もちろん、この建物も木造の球体になってます」
「いや、どうなっとんじゃぁぁ!!!!!」
「うぇー………注文票も全部丸だ。机も丸いし椅子も玉。お尻痛いなぁ」
ひとまず席に着いたがあまりにも使いにくすぎる。
「お玉ー。水は?」
「水は丸じゃないからありませんよ。その代わり水まんじゅうとフルーツゼリーならあります。水分が欲しい時はどうぞ。無料で提供していますよ」
「オイ射命丸!ほんとにこの店名店なのかよ!?」
妹紅がドチャクソなクレームを叫びながら堂々と文に非難の眼差しを向ける。
「まぁまぁ、そう言わずに。まだ食べてすらもいませんよ?」
「違う!味の問題以前に、食いもん出す店として破綻してんだろ!!!水が出ねぇとかありえねぇだろ!!!」
「あらやだ。迷惑客かしら………」
「お冷を要求する迷惑客ってなんだよ!?」
「まぁまぁ落ち着いて妹紅。美味しかったらいいじゃないか」
青葉が笑いながら妹紅をなだめる。
「お前フルーツゼリー食ってんじゃねぇよ!!せめて水まんじゅう食えよ!」
「ゼリーおいしいよ。水分たくさんあるし、水の代わりにはちょうどいい。ちなみにもこたん、水まんじゅうの原料はくず粉だからほとんど水分なんて含まれてないよ」
「もこたん言うなキモい!!!
「妹紅さん、昨日死にかけた人を殴らないであげてください」
騒がしい連中だ…………おいそれと注文もできない。
「あらあら。愉快な人たちですのね」
「申し訳ない………神様の前で失礼がないように、と釘を刺してもらっていた筈なのだが………」
「いいんですよ。若者に元気があるのはよいことです」
「あんドーナツおいしそう、俺これ欲しいです」
「それじゃあ私はバームクーヘンでお願いします」
「私どうしよっかなぁ…………この丸いシュークリームで頼むわ」
「では私は…………大福をいただこうかな」
もはや驚きもしないがメニューもすべて丸いものばかりだ。
「はい、承りました〜。ただいまお持ちしますので少々お待ちください」
お玉が店の奥に消えると同時に、青葉も席を立つ。
「俺、ちょっと席外すよ。外に用事があってね。すぐに戻るから」
青葉は店の外に退出した。
「さて、ここでも皆さんにはゲームに挑戦していただきます」
文がまた妙な事をいい始めた。
「おいおい、オオバが出ていった瞬間に始めるなんて性格悪いなお前………」
「というのもこのゲーム、青葉さんが居られましては進行に影響しますから。ちょうどいいタイミングです」
「ははぁ…………」
「題して、『古今東西!青葉さんの良い所1周ゲーム』!!!」
文は席を立ってド派手に宣言する。
「は?」
「今から私を含めた3人で、青葉さんの良い所を言っていくゲームです」
「意味あんのかそれ?」
「青葉さんの素性を知るために必要な行為です」
「だからオオバの素性を知るのがお前にとって何か意味があるのかって訊いてんだ」
「記事書くには青葉さんの人となり知らないといけないですから」
「それをずっと言ってんだよ!!!結局お前のためじゃねぇか!!!」
妹紅がガタンと席を立つ。
「あややー………妹紅さん、まさか青葉さんの良い所があげられないなんて………」
「な、なんだと………!?」
「私は悲しいですよ………大切なお友達の良い所を挙げられないなんて………私なら恥ずかしくて外も歩けません………」
「んだとコラァ!いいだろう、受けて立つ!」
いやいや、無理してそう言ってる時点で。
「慧音もやるぞ!お前も巻き添えだ!」
「な、なぁっ!?」
文がニマニマと笑っている。
あーーーーーーーーめっちゃ頭突きしたい。
「それでは、付き合いの短い順に行きましょう。私、慧音先生、そして妹紅さんの順でお願いします」
「いいだろう。古今東西、オオバの良い所1周ゲームスタート!!!」
ノリノリだなァおい!?
文「優しいところ!」
バカな…………!!!
初手からそれを言われては私のほうが断然不利…………!!!
「うっ、うぅ……………」
「あや?慧音さんまさかゼロで終わりますか?当たり前ですが、全員言い終わっても誰か脱落するまでやり続けますよ?」
地獄か。
たしかにこれは本人が場にいなくてよかった。
「ぐっ……………うーん……………」
「はやくー」
「慧音、お前そんなにオオバ何もないか?あいつ泣くぞ。感情薄いから泣かないけど」
慧音「ど………どれだけ他人より優れていても謙虚なところ………とか、」
妹紅「…………具体的だな」
文「けっこうしっかり見てるんですね…………」
妹紅「じゃあつぎ私な。味噌汁美味い」
文「ノリが良くて好きです〜」
なっ…………もう私の番なのか!?
慧音「ひ、人に頼られたりすると断れない所…………」
妹紅「焼きそば美味い」
文「時々天然な所!」
ふ、2人とも早すぎる…………
てか妹紅!お前食べ物の話しかしてないだろ!
「うっ…………うぅ………………知らずのうちに、人に感謝されるような事をして、感謝されたら心当たりなさそうにしながらも素直に嬉しがってくれる所が可愛い所だ!!!」
(んいゃ…………)
(細かーっ!?)
「はぁ、はぁ…………はぁ…………」
見事に言い切った。えらいぞ、私。
「慧音、うしろ」
「へ?」
妹紅に指さされて後ろを向く。
すると、私の真後ろに──────
「……………………?」
きょとん、としている青葉がもう戻ってきていた。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーっ!?」
予想外の参戦に私は声を裏返して驚いた。
すると青葉は照れながら頭をかく。
「そっかー、可愛いかー。ふふっ、嬉しいなー。俺、可愛い系男子で売っているからさ、ピンポイントで指摘してくれて嬉しいよ。もっと大雑把な褒め方してくれてよかったのに。なんか、俺のことしっかり見てくれてるみたいでちょっと照れるなぁ〜」
「ち、違うッ!!!他の二人が私の言おうとしたことを全て言っていくから…………!」
私はガタンと席を立つと、瞬間周囲に一瞬のまばゆい光が差し込んだ。
「やったー!大スクープですよ………!寺子屋教師、男を捕ま────アヤーッ!?」
「慧音の頭突きが顔面にめり込んだッ!?」
「いたそう」
すると、お玉が現れた。
「ご注文の品が到着しましたよー。どれもステキな美しい丸型…………」
「あっ!バームクーヘン!私はこれで失礼しますッ!!!」
文は代金をお玉のお盆に乗せると袋に包まれたバームクーヘンを取って凄まじいスピードで撤退する。
「さて、いい取材が取れましたー!それでは私はこれで!」
「ちょっと待てーッ!!!」
店から飛び出し、再び逃走を図る文。
まずいぞ、これを捕らえられなかったら変な記事を書かれて私が破滅を迎える。
「別に恥ずかしい事なくない?俺と慧音さんが仲良くしてるのなんて普通の事じゃないか。俺は慧音さんのこと好きだよ?」
「おい、うれしいことを………って、そうではない!天狗の書く記事だ、ありもしない噂を書かれるに決まってる!婚約とか………」
(私の慧音が………オオバに嫁入り………ダトッ!?)
「まずい………!そんな記事がトヨさんに見つかったらなんて言い訳すればいいか………!絶対に阻止しよう、」
珍しく青葉が事の重大さを理解したようだ。
「さっきは捕まってしまいましたが今度はそうはいきませんよ!!!」
文は飛翔せず、すぐさま低空飛行に移り、とてつもない速度で逃げ去っていった。
「しまった、文の飛行速度には、私たちでは追いつけん…………!」
文の飛行速度はまさに俊足で、幻想郷でも最速と言われる飛行速度を持つ。
追いつくことは絶対にできない。
「よし、これだけ距離を離せば大丈夫で…………ゲッ!?」
「待て文さん!!!追加取材したなら見返りも追加しろ!!!」
「はぁ、はぁ、はぁ、さすがに逃げられたか…………」
「なんだよアイツ………てか、オオバは?」
私は文が最初に曲がった角をなんとか走って曲がり切るが、距離が離れすぎた。さすがにもう…………
「………………あ。あっさり捕まった」
「───────え?」
道の先には、文を強く抱きしめる青葉の姿。
なるほど……………文が角を曲がるより早く、家屋を飛び越えて待ち伏せしたか。
文は角を右折した先でさらに右折。
最終的に別の列の路へとUターンする挙動になったわけだが、青葉はおたま屋の建物を飛び越えることで、文がUターンするより早くに、文の進むルートを先読みし、先回りしていたのだ。
だが………青葉の拘束の仕方があまりに特殊すぎて。
好青年が少女を抱きしめる様子はなんというか………アレで、周囲にひとだかりができていた。
しかも最悪なことに青葉と文はペアルックだ。
やれやれ………私に変な疑いをかけるような記事を書こうとするから同じ汁を飲まされたわけだ。自業自得というやつだ。
「もう逃さないよ…………文さん、」
「ちょっ…………離してください青葉さん!?人!人が集まってますって…………!」
「嫌だ。ここで離したら君はまたいなくなるだろ。俺は絶対に、君を離さない」
「あややややや……ちょっとした冗談です!離してください……!これじゃ私だけじゃなくて、貴方にまで妙な噂が………」
──────ど、どういう状況…………?
青葉に抑えられて苦しいのか?文の顔が真っ赤になっているが…………
「撮るよ、文さん」
「あっ!だめ!撮っちゃだめ………!!」
「これでもう、余計な動きはできないね。何か妙な事したらこの写真、里の男たちにばらまくよ」
「あぁぁっ、撮っちゃ、らめぇぇぇぇぇっ♡」
「馬鹿だろあいつら」
「オオバあいつスゲェな。制御不能ぶりで有名なあの文すら手籠めにしやがった………」
「うぁぁぁぁぁぁん!乙女の心と身体を弄んだ罪は重いですよ!もう退散、退散ーっ!私の負けですから!降参しますから、もうやめてください………!お願いしますなんでもしますから!」
あっ、墓穴掘った。
「なんでも……………?言ったね?今、」
「ひっ………!!!に、逃げますー!!!!!」
文はあろうことか、青葉に拘束された状態で飛行を開始。
青葉は文の勢いに連れて行かれ、凄まじい勢いで地面に引きずられて向こうに連れて行かれる。
「青葉ーッ!!!!!」
「おいおい、馬に引きずられてるみたいになってんぞ…………!あいつ死ぬんじゃないか?」
しかし、青葉はすぐに脚を地面に突き刺すようにしてブレーキをかけ、文のスピードに逆らう。
「いい加減に………………………………」
青葉が右腕を大きく振りかぶる。
「しなさーーーーーいッ!!!!」
「あやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
青葉の掌が文の臀部を直撃。
周囲に木造家屋が倒壊するかのような轟音が響き渡った直後、文が尻から黒い煙を上げながらうつ伏せに地面に倒れる。
「ふぅ……………やっと止まってくれた!」
よくお前そんな爽やかな顔できるな。
「なんという威力の平手打ち…………右臀部が陥没している…………」
「──────オオバ…………お前ぜったいにスパ〇キングとかやめてね」
「…………?なにそれ?」
「知らなくていいぞ青葉………………」
魅須丸「みなさーん!お団子はいかがですかー?」
「お前はもうちょっと空気を読め!!!!!」
「慧音、これがオチで正解だと思うよ」