東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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空飛ぶ円盤の謎

 

刀を突きつけられても、武蔵は動じなかった。

 

 

「武蔵…………説明しろ。この円盤はなんだ、何の目的で作った、答えろ!」

 

 

青葉は怒声を上げる。

それもその筈、妖怪の山で起きている異変………正体不明の飛来物の正体は、鞍馬天狗が開発したと思われるレーザー攻撃を行う兵器だったのだ。

 

 

「あ、青葉…………!」

 

「ちょっと、うーん………お店で荒事はやめていただきたいですね…………」

 

「お二人とも!神様の御前ですよ!?」

 

「………………………………」

 

 

武蔵は周囲を見渡した後ゆっくり口を開く。

 

 

「誰も信じてくれないだろうが、この円盤、ウチのモンではないんだよ…………」

 

「なんだって………?」

 

「その、レーザー兵器研究ってやつ?鞍馬天狗は何も噛んでいないんだ…………どうなっているんだい。あんたらは、誰から何の話を聞いた?」

 

 

不思議と、武蔵の表情からは嘘をついているように感じられない。

 

 

「おいオオバ、どうなってやがんだ!?鞍馬天狗はレーザーの研究してるって、そういう話じゃあなかったのかよ!?」

 

「その筈だけど…………じゃあ安曇や太夫、それからにとりたちが聞いてたのは…………」

 

「鞍馬天狗がレーザーの研究かい…………はてさて、そんな事あったかねぇ…………まぁいいや、とりあえず帰ったら百鬼丸様に確認してくるよ。鞍馬天狗にそういうビジネスがあったのかってね」

 

「調べてくれるのか?」

 

「そりゃこっちとしても鞍馬の沽券に関わることだよ」

 

「今のところ鞍馬天狗は罪のない種族をいきなり襲って大怪我負わせるって評価になってんぞ」

 

「だとしても、鞍馬天狗の集落の中で、そんな表にでていない闇の商売だの研究だのがあるんなら、調べないわけには行かないさ。こっちとしても、百鬼丸様の命令は絶対だけどそれとは別で、山の治安を守りたいっていうあんたらの言葉には賛成だからね」

 

 

どうやら鞍馬天狗の中でも話が通じる方のようだ。百鬼丸を説得することは敵わないものか………

 

 

(いや、無駄だよ慧音。あいつ、百鬼丸への忠誠度ヤバいことになってる。むしろ、百鬼丸が頷かない限り最後までこっちの味方にはならない)

 

 

私の表情から読み取ったのか、妹紅がささやいてくる。まぁ………流石に無理か。あちらにも立場がある。

 

 

「……………………………………………………」

 

 

青葉が何かいいたげに、背後にいる私たちを見つめてくる。

 

 

(その顔………青葉、お前まさか…………)

 

(慧音さん、これなら行けるかもしれない)

 

 

青葉は視線でメッセージを送ってくる。

それは私と文の二人が意図を汲み取った。彼が何を考えているのか。

 

 

(青葉さん、私は貴方の意見を尊重します。今の私達にできることは武力解決ではなく、対話的な解決だと思います)

 

(同じくそう思う。現在の武蔵の危険度と警戒度は最低。鞍馬天狗と対話が可能な瞬間は今だけだろう、今しかない)

 

 

青葉は頷いた。

 

 

「武蔵、そのレーザー研究には、レーザー機器の輸入が関わっている」

 

「ほほう、まぁそうだよねぇ。機械の研究なんてそんな高尚な技術、今の鞍馬にはない、お手本となる機材が必要だろうさ」

 

「その取引に携わっているのが、月虹市場………明日の夜に開かれる市場。俺たちはその月虹市場へ、調査に赴く予定だ」

 

「……………まさか、あたしも行けってかい?」

 

 

私たちは頷いた。

 

 

「なるほど…………やれやれ、百鬼丸様には隠し事する事になっちゃうな、てゆーか…………それ、あんたらには何のメリットがあるわけよ?」

 

 

……………………たしかに。

 

青葉はいったい何を考えて…………

 

 

「いや、お互いに同じ問題に立ち向かうのなら、情報は共有しないと。そちらが百鬼丸からレーザー研究が存在するのか聞き出してくれるという条件に交換してこちらが持っている情報を教えた」

 

「はー損得とか考えないタイプか。ま、絶対に裏があると踏んでるけども、別になんかあったらあたしらが力技で突破するだけだからね…………おーそうだ、ならナスビを連れて行こう。それでどうだい?」

 

 

那須備壱与……………私たちの軍勢を壊滅させた張本人…………

 

 

「どうしてだ?」

 

「簡単さ。あたしを連れ込んで騙し討ち、なんて可能性もゼロではないからね。あたしが先に折れてやったとは言え、それでも一回あんたらに負けてる身だ。あんたらが総全力で来られたら万に一つガチで負けるかもしれないからね。あたしとナスビがいれば大丈夫さ」

 

「そ、そんな事が許されるわけ…………」

 

 

それならこちら側にも叩き潰されるリスクがあるわけだ。

そんな事…………

 

 

「なら、交渉は決裂かな。別に、あたしはここで今戦ってやっても良いよ?敵じゃない限りは暴れないつもりでいたが、そっちがあたしを騙し討ちにしようとするのなら、話は別だ」

 

「ま、待て!!!」

 

「くそっ…………オオバ…………どうすんだよ!」

 

 

まさかの対話を望むはずがあちらの一方的な土俵になってしまった。

ナスビを連れるだけならまだしも、この二人が揃えば私らが何をしても勝ち目がない。

これだけの力が揃ってしまえば、あらゆる脅迫をも可能にするだろう。私たちはこの圧倒的な力の前に要求を飲むしかなくなる。

そうなれば、このあと異変調査にどれだけの影響が及ぶか考えたくもない。

 

 

「……………仕方ない、ここは条件を飲もう」

 

 

しかし、なんとオオバは素直に武蔵の提案を受け入れたのだ。

 

 

「おやおや!アンタ正気かい?自分が何言ってるか分かってんのかい?」

 

「オオバ!お前………!」

 

「青葉さん…………流石に今回ばかりは賛同しかねます…………」

 

「青葉、よく考えろ。ナスビと武蔵の二人だぞ。明日の夜、この二人が月虹市場に現れるということなのだぞ」

 

 

私たちは異変調査のために、明日、満月の夜に月虹市場を訪れなくてはならない。

これは絶対の予定だ。この機会を逃せば異変調査は停止する。やっとの思いでたどり着いた「鞍馬天狗のレーザー兵器の研究」と「飛来物の正体はレーザー兵器である」というこの共通点。それが台無しになってしまう。

それほどにまでして訪れなければならない場所に、私たちを満身創痍に追い込んだ武蔵とナスビのタッグが必ず現れるということになる。

 

遭遇は避けては通れないだろう。果たして戦いになるのかそうでないのかは分からないが、万が一向こうの魂胆が兵器研究についての口封じであるのならば、私たちは圧倒的に不利な状況に陥る。

 

向こうが武力においてこちらを何万倍も上回っている以上、私たちは彼女らの要求を拒否する事ができないのだ。

 

 

「貴方が今言っているのは、私たちを圧倒する最強の敵の数を2体に増やすばかりか、それを明日の私たちの動線上に配置するということですよ………!下手したら、全員命を落としかねない………!私も大怪我を負った身です。皆さんにそんな目に遭ってほしくない………どうか、考え直してください!」

 

「青葉………お前ならば、もう少し考えてくれるものかと思っていたが、ソレは私の思い違いだったのか………?」

 

「………………………………………………」

 

 

青葉は黙ってしまった。

 

 

「いや、そうも言ってられねぇ。こっちが言い出しちまったんだ、もうお前は完全にその気なんだろ武蔵」

 

「あぁそうさ。もう後戻りはできない。約束だね。破ったら許さない」

 

 

武蔵はニヤリと笑った。

 

 

「青葉…………お前というやつは…………!!!」

 

「まぁ慧音、責めるなよ」

 

 

なぜだ、いつも感情的な妹紅がやけに冷静だ。

 

 

「んじゃ、そういうことで。明日の夜………だったよね。あたしはこれで帰る。次はいい夜になると良いね、お前さん達」

 

 

ナスビは甘味処を抜け出していった。

 

 

部屋には沈黙が流れてしまった。

 

もう…………後戻りはできない。

青葉の発言のせいで、私たちのせっかくの大チャンスは、全て泡沫と消えた。

 

だが、もうこうなってしまった以上は仕方がない。

武蔵とナスビが、鞍馬の沽券に関わる、あるいは鞍馬の闇かもしれない場所を調査している私たちに全面的に鞍馬天狗側として協力してくれるという………限りなくゼロに近い可能性に懸けるしかなくなった。

 

青葉……………急にどうしたのだろうか…………

 

彼の優しさは一級品だが…………今まで彼が、何の後先も考えずにこういう事をしたことはなかったのに……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉の目の前で、武蔵は手を振って甘味処の扉の向こう、店の外へと消えていく。

青葉は口をつぐんでその様子をただ見守っている。

 

───────店の扉が静かに閉まる。

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………ハッ、」

 

 

 

 

 

────その一瞬、青葉の口元がたしかに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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