東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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史上最大の兄弟喧嘩

 

御湯殿いづなのある日の夜、その中庭は戦場と化していた。

神門青葉と化野安曇、親友二人どうしの喧嘩が巻き起こっていたのだ。

 

原因となったのは鞍馬天狗の内情をめぐるいざこざ。荒ぶる安曇を止めようとした青葉が逆恨みに遭い、このような事態になってしまった。

 

 

先手を切ったのは安曇。

安曇は青葉との幼なじみ。喧嘩は青葉より強い。

 

私の目の前で巻き起こる仲間同士の戦闘だが、これを止めようとする者は誰もいなかった。

 

それもそのはず、

 

 

 

「ウゥォォァァァァァァァァ!!!!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

その闘いは、常軌を逸している凄まじさだったからだ。

青葉も安曇もともに弾幕は使えない、徒手での殴り合い勝負だ。

だが、両者ともに速すぎて見えないのだ。

 

肉と骨の塊をぶつけあう戦いのはずが、なぜか剣戟のような音が響き渡り、辺りには土埃が撒き散らされる。

そしてその中に、何やら2つの光のようなものが滑るように動き続け、交差し合う様子だけが私たちの目に映る。

誰にも邪魔ができなかった。弾幕勝負とは何もかもが違う、全く別の次元の戦い。

 

そこへ割って入るものは誰もいなかった。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!!」

 

 

その時、安曇が驚きの行動にでる。

 

安曇の上段蹴りが青葉を直撃する。

両腕腕を差し込んで防御した青葉だったが、その衝撃で激しく後方に弾き飛ばされる。

 

そんな青葉に向かって、中庭から突如として土の塊が触手のように覆いかぶさってきたのだ。

 

 

「な、にっ………!?」

 

 

青葉の片腕が土に絡め取られる。

 

 

「忘れたとは言わせねぇぜ。俺は陶工の息子だ。土いじりはこの世の誰よりも得意なんだよ、」

 

 

焼き物を生業とする安曇は、妖力で土や砂を自由自在に操れる………たしかに理屈で言えばその通りだが、その能力は初耳だ………

 

 

(『土や砂を操る程度の能力』………)

 

「くっ…………」

 

 

青葉ですら抜け出せない頑丈な土の塊。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉりやぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

そこに安曇の強烈な飛び蹴りが炸裂する。

土の塊は一瞬にして粉々に粉砕された。

 

 

青葉の胴をめがけた蹴りだったようだ、青葉はなんとかかわしたが土壁の崩壊に巻き込まれてまたも激し飛ばされた。

 

そして地面に転がる青葉に追い打ちの拳が降り注ぐ。

 

 

「ドラァァァッ!!!」

 

 

地面が陥没して巨大な地響きが起きた。

周囲にいる私たちの身体が浮き上がる。

 

 

「うわぉぉぉぉっ!?」

 

「ドララララァァァァッ!!!」

 

 

さらに連続して繰り出される拳に青葉は吹き飛ばされる。

 

 

「ぐっ………!!!」

 

 

青葉は私たちの目の前を通り抜け、すぐそこの池を切り裂き、そのほとりに倒れる。

 

 

 

「勘違いするなよオオバ。お前より俺のほうが喧嘩は強ぇんだぞ。さっさとどけ、そのスパイさえぶっ殺せれば俺は他に言うことないんだよ」

 

「うぅ…………っ、」

 

「つかお前、なんで敵を守るんだよ、その神経が知れねぇんだ俺は。俺だって親友をボコスカ殴りてぇわけじやねぇんだよ。お前がいつまでたっても目ぇ覚めねぇからこうするしかねぇんだ、」

 

 

青葉はゆっくり立ち上がろうとする。

目線で池を見つめている。

 

 

「違う…………そうじゃない。間違ってるのは………目が覚めてないのは君のほうだ安曇。彼女を殺す必要なんてどこにもない………殺されていい人なんていない!」

 

「それまだ言うか?その説明はさっきしたろうが。こいつ消さねぇとこっちがドンドン不利益になるんだよ。ここで仕留め損ねて、もし敵の所に帰られたりしたらどうなるよ。鴉天狗の集落が滅びたのはそいつを野放しにした俺らの責任になるだろーがよ、俺たちは戦争してんだぞ、」

 

「やっぱお前なんもわかってねぇな安曇、」

 

 

横から妹紅が口を挟む。

 

 

「はぁ………?」

 

「誰が鞍馬天狗と戦争してるつってんだよ。だーれもそんなこと言ってねぇよ。初めからみんな鞍馬天狗とは対話の方針を貫いてるんだよ。お前以外の全員がずっとな。勝手に戦争しようとしてるのはお前だけだ、」

 

「………………………………」

 

「それがまだ分かんねぇんなら、たぶんお前は数秒後にオオバにやられるな。ほら見ろ、お前の本性悟ったせいでオオバ怒ってるじゃんか、」

 

 

妹紅が指差すと、青葉は黙って立ち上がる。

 

 

「俺が…………コイツに?ははっ………ふざけるのも大概にしろよ。俺は喧嘩だけが取り柄なんだよ、コイツにだけは………そこ一点だけでは、コイツに勝ってるんだよ………」

 

 

安曇が土から巨大な鍾乳洞のような物を作り出した。ここまでの鋭さを持つならば、まるで槍のように見えてくる。

 

まさかそれを青葉に投げつける気か!?

 

 

「やめろ安曇!」

 

「うるっせぇ!!!俺の邪魔をするやつは、誰だろうがブッ飛ばす!!!」

 

「─────いい加減にしろ安曇!!!!!」

 

 

青葉が叫ぶ。

 

 

「もしそれ投げてみろ。ブッ飛ばされるのはお前の方になる………!」

 

 

青葉は安曇を睨む。

その目は本物だ。本気で安曇と戦う気だ。

 

安曇は一瞬だけためらいを見せたが、彼も男だ。大勢の手前、もう引けなくなってしまったのだろう。

 

 

「…………ちっ、じゃあやってみろよ…………オオバ────!!!」

 

 

安曇が土塊を投げつけた。

その速度はその質量からのものとはとても思えない。

 

青葉は一歩も動かない。

 

 

「青葉─────!!!」

 

 

私は青葉に叫ぶが、青葉は怒った表情のまま、安曇を睨みつけていた。

 

 

「俺は…………間違ってねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

 

 

 

「──────────────!!!!!」

 

 

ついに青葉がブチギレた。

 

 

「ならここまでだ、」

 

 

青葉はその場にしゃがみ込み、目の前にある池の水面に右手を添えた。

 

 

瞬間、水面が揺らぎ、荒れ狂う水の柱が立ち上った。

 

 

土の塊は青葉めがけて飛んでいく。

ならば当然、両者の間に生まれた水の柱の中に飲み込まれていく。

 

 

土は当然、水に飲まれて融解してしまう。

 

 

「な…………なんだとォォォォォォォ!?」

 

 

安曇は何が起きたのか分かっていなかった。

青葉に水流を操る能力は一切ないからだ。

 

 

 

 

「さっきから気になっていたんだよ。池の水面に映る────【新聞の文字】にね!」

 

「文字……………だと!?」

 

 

私は横に視線を移す。

いづな旅館の壁に掲示されていた今日の文々。新聞の文字が絶妙な角度で水面に映っていたのだ。

 

 

「水面に映る文字を書き換え、巨大化させて、相対的に池の大きさを大きくした。水の量そのものは増えていないけど、水の位置が移動することで池を膨らませたんだ」

 

 

広く薄く水面が広がる池を、狭いかわりに高く昇る水の柱に変えた。

質量保存はなされているが、単純に形状を変化させることで土の塊を飲み込んだのだ。

 

 

 

「─────────────」

 

 

青葉は冷めた目で安曇をみている。

 

 

「なんだよその目は…………!!!!」

 

 

安曇は激しく歯ぎしりする。

まさかこうもあっさり、してやられるとは思っていなかった。

 

 

「俺を馬鹿にしてるのか…………青葉!!!!」

 

 

 

「────────いいや?」

 

 

 

 

青葉の放った言葉は単純明快。

 

 

 

 

「俺の勝ちだと思っただけだ」

 

「ふ、ふざけんじゃ…………………!!!!」

 

 

 

安曇の怒りが頂点に達する。

拳を振り上げるがもう青葉は一瞬で懐を侵略していた。

 

 

 

「うっ……………!?」

 

 

「ウゥゥゥゥゥゥリィィィィィァァァァァァア!!!!!!!」

 

 

 

青葉の強烈な一撃が安曇の頬に叩き込まれた。

今のは直撃だった。

私たちも安曇も、今の青葉の素早い踏み込みは一切見えていなかった。

意識外からの攻撃の威力はそれこそ桁違い。

 

 

安曇はここに至るまでの中で最大の吹っ飛びを見せる。

 

 

すぐそこにあった空き瓶置き場に背中が飛び込み、周囲をめちゃくちゃにして倒れた。

 

 

 

 

「安曇…………オオバも修行と経験を積んできてる。もう流石に、オオバの方がお前より強いんだよ」

 

 

 

「クソが………!なんでお前ばっかりが………俺よりも………なんでもかんでも………お前は考えたことねぇだろうな………同じ年のガキでも、お前ばっかりが期待されて立場が怖い思いばっかりしてきた俺の気持ちとか、せめて喧嘩だけはお前より強くなくちゃって頑張ってた俺の気持ちとかよ………」

 

「………………………………………」

 

「お前はすげぇよな………ちょっと頑張るだけで、他のやつが人生かけて作ってきた自分の取り柄をぜんぶ上回っちまうんだからよ………何やっても上の上にある上に立てる………」

 

 

安曇の今の言葉には、何か本心のような物を悟った。きっと彼には、青葉への妬みのようなものがあったのだろう。

 

 

「安曇、いちおう今の君が唯一勝ってる場所、あるよ。君、根だけは俺よりもいいと思う」

 

「……………いや、なんだよ、だけって」

 

「君がそんなに鞍馬天狗に怒ってる理由………だいたい想像つくよ。君は、俺が傷つけられたことに怒ってたからなんだよね、」

 

「……………………………………………………」

 

 

青葉は上半身だけ起き上がる安曇の横に座った。

 

 

「大切な仲間のためにこんなに怒れる事、それは才能だと思うんだよ俺は。俺もさっきは怒っちゃったけど………冷静に考えてみればあれは君のためにはならなかったと思う。なにがなんでも君の暴力を止めなくちゃって思っただけだから、」

 

「………………………………………………」

 

「君がぜんぶ俺に劣ってるなんてそんなことないよ。でも、君の才能を、こういう所で勿体なくして欲しくないんだよ俺は。道を踏み間違えることもあるとは思うけど…………せめて、他人の言うことは聞こう。やめてって言ったら、やめよう。君に足りてないのはそれぐらいのことだと思う、」

 

「オオバ……………………」

 

 

安曇はそれで戦意を失った。

 

 

「わ、わりぃ…………さっきは、」

 

「うん。いいんだよ、俺もめちゃくちゃ強く殴ってごめん。さぁ、立って今日は寝よう。明日は月虹市場に行くんだよ」

 

「お、おう。切り替え早いなお前」

 

「まぁね。男の親友同士は殴り合って分かり合うものだ。終わったらそこでおしまい仲直り。男なら恨みっこ無しだ。力比べなんてまた後で受けて立つからさ、」

 

 

青葉はもう完全にさわやかな笑顔を取り戻した。

 

 

「安曇、明日君には色々と頼みたいことがあるんだよ。だからこそ、ここは今一度、仲間だってことを再確認したい。はたして君のことを信頼していいのかどうか、俺はともかく………他のみんなは迷っているだろうから。俺のことわかってくれたら、もう一回一緒にやってほしいんだよ…………飯空プロジェクトを、」

 

 

青葉の声に安曇は仕方なそうにため息をつく。

 

だが、最後の一瞬は笑ったように見えた。

 

 

「まぁいい、負けたのは俺だから勝ったやつの言う事聞くのは当たり前だろ。真面目にやってやるから」

 

「な…………なんか違う……………けどまぁいいや、よろしくね〜」

 

 

青葉と安曇は握手をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいやいやいやいやいや!!!どう考えても『まぁいいや』じゃねぇだろ!!!なんでお前らだけで勝手に空気良さそうに納得してんだよ!?」

 

 

妹紅がいい感じの空気を切り裂くように飛び込んできた。

 

 

 

それで周囲にいた全員の緊張が解けたようで、中庭には大笑いがこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと私は空を見上げる。

夜空には丸に限りなく近い月。

明日はついに満月か。

 

 

 

やれやれ………………

 

 

 

明日の私は忙しいな。

 

 

 

 

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