東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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小川の平和パート

 

「時間……………食っちゃったなぁ」

 

俺は川の畔で釣り糸を垂らしながらボケーッとしていた。

今日の昼飯は魚の予定だ。というわけで、見ての通り、今は魚を獲っている最中。

理由は簡単、市場で魚買うようなお金がないからだ。手に入るもの、作れるものは買わない、それが貧乏人のルール。

─────貧乏人って辛いよね。

いや、誰に共感求めているんだ俺は。

 

 

俺の数少ない趣味は漁猟なので、この行為自体は楽しいんだが、まぁ、どうしようもない寂しさのようなものを感じるんだ。せめて、話し相手がいればなぁ。里には知り合いがあまりいないばかりか、釣りをする仲間もいないので、俺は一人でこうして川の流れる音を聞きながら考え事をしているしかない。

今日はなかなか食い付きが良く、結構な大漁だった。もともとこの川は魚が多く獲れるんだが、それにしても今日は景気が良い。

 

「はぁ……………おっ、また食い付いたな」

 

釣り竿を引き上げる。

そうすると水の中から大きめのイワナが現れた。

 

「なんなんだ今日は、ラッキーだなぁ」

 

今日のうちに可能な限り釣ってしまおう。

毎日コツコツやるより、調子が良いときに一気にやって調子が悪いときはやらないのが俺のポリシーだ。

今日は気が向くまで、容器が足りなくなるまで釣るとしよう。

 

「っと……………またか」

 

結構いい食い付きだな。これはまた大物か……………

 

「ありゃっ!?」

 

糸が切れてしまった。なにそれぇ、ツイてないなぁ。てゆーか、不吉だな!

あっちゃあ…………なんだって急に流れがこんなに変わるんだ。

さっきから川の流れが安定しないなと思っていたらすぐこれだよ。

 

「───────?」

 

川の上流のほうを見て、俺はようやく気が付いた。

川で大勢の子供たちが泳いでいた。

 

「なんだ、水遊びか。そりゃあ、川も揺れるか~」

 

川の荒れは十中八九あそこからの流れによるものだが、別に川は誰のものでもないんだから仕方ない。気が付かなかった俺が悪いし、別にあの子らに責任は微塵もない。

仕方ない、糸だけでも買い換えるか。

 

「え?」

 

待てよ。こんな大勢とはいえ、子供だけで川で水遊びなんて、まずくないか?

淡水魚が釣れるような川というだけあって、流れも下流に比べると激しい。

危ないだろ、子供だけでこんなのなんて。

 

「────大丈夫なのかな」

 

俺は用具を片付けて背中に背負い、容器を提げて向こうに近付く。

─────そこでふと思った。

 

こんなのが子供の前に急に現れたら変質者だ。

こんな多くの子供に大声で助けでも呼ばれたら終わりだ。

ヤバすぎ。退散退散……………

 

「でもなぁ……………」

 

あれはあれで気になるんだよなぁ。

 

 

 

 

 

「あー!!たーすーけーてー!!」

 

「うぇ!?」

 

今の、子供の叫び声!?

ほら、言わんこっちゃない!!

 

「ちょっ、なん…………」

 

草むらから飛び出す。

見ろ、目の前を流れていく子供の姿!!

 

「やべぇぇ!?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

小さい男の子が川に流されている。

顔を出してバシャバシャと踠いているが、それでは救助が間に合わない。

 

「くそっ…………!!」

 

かくなる上には俺が救助しなければならないか…………!!

用具を置いて走り出す。

 

「おーい!!聞いてるー!?大の字になって浮いてー!!」

 

「あがっぼぼぼぼぼ………………」

 

ダメだパニックになって全然聞けてない!!

最近の子供って水泳の授業やらないの?

俺子供の頃は川で溺れたら大の字になれって教わったけどなぁ。

とりあえず大の字になってもらわないと救助できるものも救助できない。

とりあえず意思を伝えたいので俺も大の字で走る。

だが、子供は流されていくばかり。

 

 

 

「まずい、間に合わないかな……………」

 

 

 

どうしようかと思ったその時、

 

 

「う……………ううっ……………!!」

 

子供が突然、大の字になって浮き始めたのだ。

 

「マジで!?」

 

冷静だな、てゆーか教えられてたんだ!

よかったよかった。

水中では人間の身体の9割強が沈む。残りの僅か5%未満を水上に出すには、やはり呼吸器官である鼻と口が大事。

下手に踠いてしまうと5%未満が腕に使われて呼吸ができなくなり、呼吸をするために水上に上がると体力を余計に消耗して救助前に力尽きてしまう。

今回はえらい子供だったから良かったが、俺の意思が伝わらなかったらどうなっていたか。

 

「よし、今助けるからね!!」

 

大切な貰い物の三度笠が濡れる…………けどこの際は仕方ない。

何も脱がずにそのまま俺も川に飛び込んだ。

俺、こう見えて泳ぎは得意なんでね。

ストロークの速度と距離ではワーハクタクの里の誰にも負けたことがない。

あっという間にたどり着いた。

 

「ほい、助けに来たよ」

 

「お、お兄さんだれ?」

 

「そこら辺の貧乏人だよ。さぁ、俺の肩に跨がって」

 

 

 

 

 

少年を肩車した状態でなんとか岸まで上がってこれた。

 

「あいててて……………疲れたなぁ」

 

水泳で消費するカロリーってかなり量あるからね。俺にとっては貴重なカロリーがこんなところで失われた。

 

「大丈夫、怪我はない?」

 

「うん、ありがとう」

 

「良い子だ、偉いぞ。よく泣いたりせずに、冷静に大の字になれたな。俺のジェスチャー伝わってたんだろ?」

 

少年をよしよししながら自分のことも偉いぞと鼓舞する。

 

「えへへへ……………先生が言ってたんだ、溺れそうになったら大の字になって浮け、って」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

俺の手柄じゃないのね。

すでに教えられてたんだ。

やっぱりいつの時代も教育って変わらないんだな。

これも、人間の教育の賜物…………ってやつかねぇ。

 

「しかし、子供だけで大勢集まって川遊びなんて危ない真似はやめなさい。お兄さんいなかったら大変なことになってたぞ」

 

「うぅん。先生も一緒」

 

「あぁ、そうか。水泳の授業か」

 

じゃあついさっき教わったんだな。

学んだことはその日じゅうは鮮明に覚えているって言うからね。

てゆーか、大人いたんだ。申し訳ない勘違いしていたな。

なら、安心だけど、この人数を見えないほどの数の大人で、ってのはさすがに…………

 

 

 

「─────あっ、すみません!私が目を離したばっかりに…………!!」

 

お、どうやらその先生とやらがやって来てくれたみたいだぞ。

 

「あぁ、大丈夫ですよ、問題ないで…………」

 

先生の方を振り向いて笑ってみ────

 

 

 

 

「───────え?」

 

 

「───────────」

 

 

 

─────あ、慧音さんだ。

 

 

 

はぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………………?

 

 

 

この歴史編纂者、コンテンツ広っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、本当に申し訳ないことをしてしまったな、さっきのは」

 

子供たちのところへ戻ってきたタイミングで慧音さんと俺は二人で平たい岩に座りながら話していた。

 

「いやいや、いいよ別に」

 

やはり水泳の授業か。寺子屋は体育もしているなんて。てゆーか、慧音さん歴史以外にもいろいろ教えているんだね。

どうやら水泳の授業が一通り終わった後、あの少年は自由時間中に流されたそうだ。

慧音さんが目を離していた隙に。

つまり、ぜんぶこの人の不祥事ってわけだ。トイレに行ってたのかなんなのか知らないけど。

 

「大切な三度笠、濡らさせてしまったな」

 

「いやいや、別に気にしてないよ?これ貰い物だし、後で乾かせばいいんだし…………そもそも、人命には代えられないよ」

 

「お前の人が良くて助かったよ…………」

 

─────結構、落ち込んでいるな。

 

「今回はいい人が偶然釣りに来ていたから助かったんだろうけど、いつもこうとは限らないからね?これからは大人は二人以上は同伴することをおすすめするよ」

 

「そうだな。幾つになっても、学ぶべきことは多い」

 

「なぁに、まだまだ俺らは若者だよ。それにあの子供、ちゃんと大の字で浮けてたよ。慧音さんの教育の賜物だね。もう慧音さんが思っている以上に、あの子供たちは一人でできるようになっているんだから、そんなに落ち込まなくてもいいさ。あ、ほら、そんな俯いているとまた誰か流されるかもだよ?」

 

「まぁ、そうだな」

 

慧音さんはとりあえず前だけは見るように顔は上げてくれた。

だが、その…………横顔がちょっと…………

 

「責任感が強すぎるってのも考えものだねぇ。すぐ献身的になりがちになるし、全部自分が悪いと思ってしまう。人間…………いや、俺らは人間じゃないか。まぁいいや、誰にだってうまくいかない時はある。そんな時は、いつまでもくよくよしているんじゃなくて、今を楽しまなくちゃ。せめて、「あの時これで済んだからまだ助かった」と思えるようにならないと。俺だって、とんでもないやらかしをした後はそんな風にヘコむこともあるよ。でもやらかした後だからこそ、こうして盛大にやらかした直後の未来という特別な今があるわけだから、俺はそれだけで十分さ。死ぬこと以外は掠り傷ってね」

 

「────────ある過去があったからこそ今がある、か。私が、ある人に言った台詞に良く似ているよ」

 

「ある人?ほうほう、好きな人?」

 

「この場で猥談切り出すのは勘弁してくれ…………」

 

「猥談って…………それほどの事でもないでしょ。猥談っていうのはね、ここで俺が「慧音さん、競泳水着似合っているよ!」って思っているかもしれないことを叫んだりすることじゃないか」

 

「もうそれは思っているどころか言っているんだ既に!!」

 

キィーと叫び出す慧音さん。

 

「思ってない思ってない。課外で水泳の授業している教師がフリフリの水着か露出度高いモノ着ている方が怖いから安心して。ちっともおかしくはないから」

 

「半分笑ってる!!」

 

「ぶはははは!!だって!!慧音さんに、競泳水着は、違和感なさすぎておかしいもん!!」

 

噛み殺していた笑いが止まらない。

お腹痛くなってきた。

 

「クソッ、この変態が!!」

 

慧音さんは顔を真っ赤にしてから上着のようなものをがばっと羽織ってしまった。

なんだよー、面白くないなー。

 

「ただでさえ腹が減っていたのに余計な体力使ったじゃないか…………」

 

「トイレ行った直後にお腹空くなんて幸せなこった。みんな昼食食べてないの?」

 

「あぁ、寺子屋からこっちに移動するので精一杯だったからな。今日は一通り水遊びさせたらここでお開きにするつもりだが」

 

そうか………………

 

「魚あるけど、食べる?」

 

「魚?ここの?」

 

「うん、さっき釣ったんだけどね。あんまりにも大漁だから、生徒たちも誘って食べないかい?」

 

「なっ…………でも、いいのか?お前にとっては数少ない…………」

 

貧乏人への気遣いは呪いだよ。

 

「残念ながら、魚っていうのはどんなに景気が良くても鮮度っていうのがあるんだ。新鮮なうちに食べないとあたるし、魚も喜ばれないよ。どうせなら美味しく食べた方がいいさ。最高の状態で食べれるばかりか、それがこの人数となれば美味しさは段違いでしょ」

 

「─────まぁ、釣ったお前が良いのなら」

 

はい、承諾ゲット。俺の交渉術ったらサイキョーね。

 

「よーし、慧音さんのお刺身ゲットだぜ」

 

「なんで私が作る前提なんだ」

 

「大丈夫、包丁なら用意してあるよ~、七輪なんかは流石に持ってこれないから焼けないけど」

 

「違う、器具の話ではなくてな」

 

「みんなー!お腹空いたでしょー?先生が魚さばいてくれるってー!!」

 

わーい!と子供たちが一斉に川から上がってくる。

 

「ちょ、何をしと…………」

 

「いやぁ、もう遅いよ~」

 

「勝手なことを……………」

 

脳容量が耐えきれなくなってオーバーヒートしたのか、慧音さんは目頭を押さえてまた俯いてしまった。

 

「──────ご飯中に俺の特技見る?」

 

「──────良くわからんが見せてくれ」

 

はい、交渉成立。

賢い人の好奇心って、逆手に取るとめっちゃ便利だなぁー!!

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