東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「始まったか…………」
鴉天狗の集落からも、常盤國からも遠く離れた場所に3人ほどの女が並んで立っていた。
「モーガン、わたくしたちも仕事に取り掛かるべきでしょうか?」
中華服にジャケットを羽織った妙な風体の怪しい女は、寄り添う用に一人の者の横に立っていた。
「……………そうだな。守矢神社の下調べと、奴らへの【状況報告】…………だが今すべきことでは無い、今あそこに下手に足を付けば厄介事が増えるだけだからな、」
そして中央に立っていたのは、大きな毛の尻尾と、長い槍のように立派な一本の角を携えたモーガンという女だった。
そしてなぜかそこには、話が通じないでおなじみの灼彗袁もいた。
「灼、鞍馬に対して奴らは何を仕掛けると思う?」
「真っ向からやっても勝ち目はあるまい。陽動部隊を置いても消し粒にされるだけだ。そうなると侵入作戦しかないだろうな。二日前に敗れたのならば回復も万全ではあるまい。だというのにその懲りない姿勢、さては今夜が満月であることを狙っているか?」
「おや。珍しく灼くんに話が通じているではないですか」
「はっはっは!私はこの身を我らが大願のために捧げ、この地に嘆きの雄叫びを上げる迷える弱獣たちに手を差し伸べる将となった。これぞまさしく自由軍!おお母よ!おお父よ!私は今戦ってるぞ!他でもない、私を愛したこの地のために!私が愛するこの地のために!」
灼のテンションが急におかしくなり始めた。
「…………要するに軍事のことになれば話は通じるということだ」
「はぁ、」
「さて、暇ですし賭けでもしませんか?鞍馬と鴉のどっちが勝つか………ってね。わたくしは流石に鞍馬に入れますよモーガンくんは?」
「関係ない。私が問うのは勝敗ではなく正義だ。この角が貫くのは、人間という俗悪のみだ」
「つまり、勝つのは鴉じゃないってことですね?」
「当然だ。いかなる作戦を組もうが、鞍馬の兵力を前にしては我らですら消し粒だろう。ましてあんな弱小な妖怪の衆など…………」
「ほんとうにそう思うか?私は鴉天狗が勝つと思うぞ」
灼は呟いた。
「おやおや!軍事の事になると話が通じるんではなかったのですか!」
「汝ら戦の素人には分かるまい。戦とは常に種族値や兵力が指すものではない。地の利、兵器の性能、知識量、資源の量、たしかに総合的な種族能力としては鞍馬が勝るが最終的に勝つのは鴉だ。お前たちは人間と鯨の全面戦争で鯨の側に投票しているようなものだ」
「んふー。なんでそんなにたとえが悪いですかねぇ。人間とクジラ比べられても…………」
鞍馬と鴉天狗の対決………どちらが勝つなど、一昨日の結果を見れば一目瞭然だというのに、灼は鞍馬天狗の圧倒的な可能性を否定した。
「まぁ、まずは見るのだ。連中だって素人ではない。なんの勝算もなく二度目の戦いなどするわけがないだろう」
その頃、天狗の集落常盤國にある百鬼丸の城では。
「むさし〜、お腹空いた〜。ごはん〜」
空腹の百鬼丸が武蔵を探していた。
しかし、城のどこにも武蔵はいない。
「あれっ?むさし?…………どこいったんだろう、」
武蔵は現在……………………
(なるほど…………やれやれ、百鬼丸様には隠し事する事になっちゃうな、てゆーか…………それ、あんたらには何のメリットがあるわけよ?)
昨日の青葉の提案に乗っかり、月虹市場の会場を目指していた。
(…………おーそうだ、ならナスビを連れて行こう。それでどうだい?)
それに伴い、武蔵に同伴したナスビも現在外出中。城にいるのは百鬼丸だけだった。
「うっ…………うぅ……………」
百鬼丸から不安げな声が漏れる。
「………出かけるなら、先に言っておいてほしいのに………」
百鬼丸は一人になるのが嫌なのでなるべく部下や家来や警備のいそうな所を探して走り出した。
「さて…………もうすぐ着くね、ゲッコーなんたらに」
「武蔵!あれを見ろ!」
「なんだい!?やっぱり待ち伏………」
「星が綺麗だぞ!」
「良かったね!?」
ナスビは仕事のことをきっかり忘れ、満天の星空に夢中だ。
「そうだ!私、カメラを持ってくる。ついでに百鬼丸様の様子を…………」
「ナスビ、カメラなんて取りに帰ってる暇あるかってんだい」
「で、でも…………」
「星空なんて帰ってからでも撮れるだろう?」
「…………………………それもそうだな!!!!!」
一瞬、常盤國に帰ろうとしたナスビだったが武蔵が遮ったせいでやめてしまった。
「でも私、何か忘れているような……………」
「気にすんな、どうせいつもの事さ」
《 〜常盤國〜 》
「ここが百鬼丸の王宮……………」
「こりゃ………でっかいな…………」
はたてさんと俺は常盤王宮までたどり着いた。
「百鬼丸はこの奥に…………」
「気をつけて。ここから先は鞍馬天狗ですら立ち入りを許されない。鞍馬天狗に紛れたとしてもこの場所で見つかった時点で終わりよ、」
はたてさんは上手いこと柱の死角に隠れながら回廊を進んでいく。
王宮には兵士が大量に配置されているが、全く怪しまれる予兆もない。
「しかし、はたてさんは凄いや。こんなにも見つからないなんて」
「潜入記者としては文より私のほうが一枚上手。スニーキングなんて大の得意分野なんだから」
はたてさんは跳ねたり飛び出したり転がったりしながら俺を先行し、先に周囲の様子をうかがってくれる。
俺は膨らんだお腹を抱えながら、見張りがいない間に、彼女の合図に合わせてついていく。
「ところで、ほんとに上手くいくんですか?」
「あぁ。きっと上手くいくさ」
はたてさんが俺のお腹に向かって敬語で話す。
お腹から返答がある。
「敵は…………いないようだな。さて、王宮の最奥も近い。ここで今から先の動きを最終確認するぞ」
俺のお腹の中には大天狗、飯綱丸龍が隠れていた。
「武蔵とナスビは今、月虹市場に向かっている。青葉が餌付けしてくれたおかげでな」
「武蔵とナスビを、私たちの前に出てくるように仕向けたって最初に聞いたときはどうなるものかと思っていたけど、まさか作戦だったなんてね。あんたにはほんと恐れ入るわ」
「俺が何も考えないでそんな凡ミスを犯すわけないじゃないか。大天狗のいう限り、百鬼丸が恐ろしいというよりは武蔵とナスビが恐ろしいんだろう?だったら、この2人を百鬼丸から離すようにすればいい」
武蔵がこちらの話に食いついてきた時、俺は「こいつは使える」と思った。
最初から武蔵と仲良くなんてするつもりはない。仮にも俺の貞操を奪い、トヨさんと俺の恋路を断とうとした最低最悪のクソ女だ。こんな奴、マトモに相手する訳ないだろう。
その正々堂々とした性質を逆に利用してやろうと思った。まぁ要は結果的に武蔵を騙したわけだな。武蔵は「騙し討ちされるかもだからナスビを連れてこよう」なんて事を言いだした。
ふふっ、たしかに武蔵の予想はある意味正解だ。実際に彼女を騙したわけだから。
武蔵としては「自分とナスビのコンビで来ればお前たちはなんも文句言えまい、計画はご破産だね」という天才的な発想をしたかのような笑いを浮かべていたが、それこそお笑いだ。
百鬼丸を守るという根本的な職務を完全放棄して目の前の事………しかもなんの意味もない事にぶつかろうだなんてあまりにもバカすぎる。
まぁそのおかげでこの状況が成り立っているわけだ。慧音さんたちが焦ってくれたおかげで武蔵は自身の作戦により一層自信をつけたことだろう。さらに鴉天狗と秘密の密会なんて百鬼丸に報告できるわけがない。
つまり百鬼丸は、武蔵とナスビから何も聞かされずにひとりぼっちにされるわけだ。
そして大天狗の言葉通りなら、武蔵とナスビがいないあいだの百鬼丸は気が弱い。
なら、こちらが百鬼丸の心に攻め込むのは容易ってわけ。武蔵が即興で建てた作戦と言えない作戦も、すべて俺の読み通りだったわけだ。
「それで、一人になった百鬼丸を私たちで突撃し、弱気になっている百鬼丸を和解に持ち込む。最悪騒ぎになったとしても、武蔵とナスビのことはしばらく安曇たちが足止めしてくれるとの事だ」
「でも問題は市場にいる彼らね。最悪の場合…………」
前回俺たちはナスビにボコボコにされてなんとか助かった身だ。だが、次ナスビの邪魔をしたらさすがに誰かしら命を落とすかもしれない。
「大丈夫だよ、はたて。その心配はない。なぜなら、あの場所は月虹市場だからな」
大天狗は何やら自信があるようだ。
なんでそんな自信があるのかはわからないが、市場のことは俺たちよりもこの人のほうがよくわかっている。
そこまで言うのなら大丈夫なのだろう。
「ただ、どうするんですか。もし見つかって、万が一百鬼丸が本当に戦うとしたら…………」
「それについても大丈夫。今回は地の利というのがある。今宵は月虹市場の開催日………だが、【イイコト】があるのは市場が開かれるコトだけではないというのを見せてやろうじゃないか」
そしてついに、俺たちは百鬼丸のいる場所までやってきた。
「この先が玉座ね…………」
「玉座って言うの?」
「まぁ、百鬼丸が事務仕事を行う場所だから玉座なんじゃないか?」
百鬼丸はこの先にいる。
出会い頭に何が起こるかはわからない。
「青葉、はたて。ここを抜ければ百鬼丸と再度対峙することになる。今度という今度は、逃げ帰れる保証はない、心してかかれよ」
「……………はい、」
「行くよ……………」
そして俺達はついに、この玉座の間へと入っていく。
《 〜月虹市場〜 》
「おやおや…………こりゃどういうことだい」
「なんでだ?なんでお前たちここにいるんだ?」
月虹市場にたどり着いた武蔵とナスビは、妹紅たちの顔を見て戸惑っている。
「もしかして、ほんとに騙し討ちする予定だったのかい?」
武蔵の問いかけに妹紅は首を横に振る。
後ろには安曇たちもいる。
「いいや。お前らを討つつもりなんてないし、討てるわけがないだろ?」
「だが、テメェらを騙したのはホントだよ!!」
「あーっ!やっぱり騙されたんだ私ら!途中からなんとなくそんな感じはしたんだよな!」
「だったらそれを先に言いなよ!!!!!」
「ごめん」
鞍馬天狗はどういうわけか知能に優れていない。
武蔵とナスビは完全に豆鉄砲を食らったような顔をしている。
「だが、あんたらどうするつもりなんだい?こんなコトして生きて帰れるわけないじゃないか。そもそも狙いはなんなんだい?」
「おいデカブツとナス野郎。冷や汗かいてんぞ。そうだよなぁ?怖ぇよなぁ?テメェらがハメられてるうちに何が起きているのか、テメェが今からどんな目に遭うのか…………想像もできねぇよな!!!脳のシワをぜんぶ筋繊維に変換したようなバカ共にはな!!!」
「う、うるさーい!キレるぞ!てかキレてるぞ!」
ナスビは安曇に向かって弓を構える。
「いいよ、こいよ。撃ちたきゃ撃ってみろよ。だが勘違いすんじゃねぇぞ………【ここは山じゃねぇ、ここの大将はお前らじゃねぇんだよ】」
「黙れっ!お前前々から腹立つから撃つもん!…………前前前って面白いな」
「こんな時にバカ言ってんじゃねぇぞテメェ!!!」
ナスビはお構い無しに弓を放つ。
その矢は寸分違わず、安曇の脳天を貫こうとしている。
だが、途中で矢が静止してしまった。
「何ぃぃぃっ!?止まっただと!?私のめっちゃ強い弓が!?」
「─────市場を治めるマスターとして、お客様どうしでの争いなんて許さないわ!」
なんと市場を仕切る天弓千亦によって、攻撃行為が全て無効化されてしまったのだ。
さらにナスビの一切の行動が完全に封じられ、武器が消失してしまった。
「武装が…………!?」
「この市場の所有権は私にあるもの。私のルールでこの市場は回り、公平な取引でこの場は取り仕切られるの。…………フェア・トレードに背こうとする不届き者め、裸一貫になるがいい!」
千亦は一瞬にしてナスビの目の前にワープしてきた。ここは千亦の市場。空間すらも彼女の所有物に等しい。
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
近距離から千亦の猛烈なラッシュが降り注ぐ。
妹紅「まさかのこいつ打撃キャラだったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
文「あややーっ!!!市場の女神の貴重な素手ラッシュ!動画に撮らないとー!!!」
安曇「強すぎんだろコイツ!月虹市場なんでも「アリ」かよ!」
にとり「ぜんぜん上手くないぞ安曇」
たかね「死ねよ安曇」
「アァァァァリィィィィッ!!!!!」
「ぼわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ボッゴォォォーンと強烈なパンチが炸裂し、ナスビは市場の外へとふっ飛ばされていった。
だがしかし────────
「………………………ふん!私を舐めすぎだ!市場の中では貴様にかなわないとしても、市場の外からの射撃なら防げまい!」
市場の領域から外れたナスビは再度弓を放つ。
もうとてつもないほどの距離が離れているが、狙いを付けるまでもない速射だった。
「私の射撃は絶対に当たるんだ!百回中百回当たる。狙った獲物は外さない、それが私の弓だ!
…………弓符『平安末期のフェイルノート』!!!」
ナスビの弓は剛弓にして柔弓。パワフルな射撃が速射でかつ、ハイスピードで放たれる。
突然撃たれては対応できるはずもない。
ましてこれほどの距離が離れていれば、市場にいる文たちはナスビが矢を射ったことにも気づかないだろう。
「無駄ですね!」
だが相手はナスビの予想を超えるほどの反則だった。
千亦の服の中から無数のカードが現れ、弾幕となって降り注ぐ。
必殺の矢は対抗するカードの雨に打たれて徐々に勢いを殺される。
そして目で追える程度の速度になった途端、千亦は腕を自在に回し、ポーズをとる。
後ろから月光に照らされて影に染まる千亦は、まるで貨幣を表す『$』マークのような形に見えた。
「市場の神である私は、暴力と略奪が最も嫌い!こんなコトして私の自慢の市場をめちゃくちゃにするなんて、絶対に許さないわ!」
文たちの立つ足場に巨大なジッパーが生み出される。
チャックが開き、広がった空間の向こうには虚無のような渦が広がるだけだった。矢はジッパーの中に飲み込まれ、チャックが閉じると同時にその中に飲み込まれて消えてしまったのだ。
「はー!?意味分からんぞ何をした!?てか武蔵あいつは何をしてる!!!」
暴力禁止なので市場の中にいる武蔵は手伝えません。
「オラ来いよ!またかかってきてボコボコにされてみな!」
安曇はこれ見よがしに手招きする。
安っぽい………もとい安曇っぽい挑発だが、ナスビには効いているようだ。
武蔵はその様子を黙ってみていた。
「ふーんなるほど。でも残念だったね、あんたらがそんな事してる間に鴉天狗の里は今頃大変なことになってるだろうさ」
そしてその一言は突然だった。
「あんたらの作戦はわかってる。あたしらをここにおびき寄せてるうちに百鬼丸様を叩くってんだろ?考えたのは…………百鬼丸様があたしらがいないとチキンだってこと知ってる大天狗あたりかい?」
「アヤッ!?」
「はい、図星のようだね。だとすると、門番は今ごろ陽動部隊であるあんたらの残りの部隊の侵入を嗅ぎつけて、報告に言っているだろうさ。となると、軍が目指すのは真っ先にあんたらの本部…………鴉天狗の集落さ。戻ったほうがいんじゃないかい?」
そう。武蔵はもうこちらの手を読んでいた。
青葉たちの作戦のさらに上を行こうとしていた。
たしかに鞍馬天狗は頭があまり良くない。だが、こと戦略においての頭脳は規格外だ。
勝てるはずもない。
「クソッ…………なんでこいつだけ頭いいんだよ!」
「さて、あたしは颯爽と百鬼丸様のところに戻るよ!」
武蔵は月虹市場から脱走した。
「ま、待てよオイ!!!」
妹紅があわてて捕まえようと追いかける。
「命を捨てに来たのか!アホウドリめ!」
「ぐぅぉあっ!!!」
妹紅はナスビの矢をモロに受けてしまった。
武蔵は羽を生やし、凄まじい速度で市場から離れていく。
「ナスビ、ここは任せた。あたしは百鬼丸様のところに行く。こいつらの足止めは頼むよ」
「承知だ。お前も気を付けろよ武蔵」
「へっ………わかってるって!」
武蔵はついに市場を離脱してしまった。
ナスビは引き続き、千亦の支配権が及ばない距離から弓を放とうとする。
「みなさん行きますよ…………!【ここまではすべて青葉さんの計画通り】。私らがやることはただ一つ…………【予定通り、ナスビをここで止める事】!!!」
「あぁ、アイツらのぶんまでとことんやってやるよ!」
「にとり、たかね!文ちゃん!妹紅ちゃん!ここが踏ん張りどころだぜ!!!椛ちゃんやはたてちゃんや、ババァ共やオオバや一千子や大天狗は今も頑張ってんだ。俺らだけ作戦見破られた役なんて寒い役、やってられっかよォォォ!!!」
「あぁ。そこに関しては激しく同感だね!」
「前の借りは返させてもらう!」
にとりとたかねは背中に機械を背負う。
「んじゃ、作戦通りにな。にとり、たかね、おまえらはこのためにいると言っても過言ではない。絶対に失敗すんじゃねぇぞ!」
「うるさいな!………私らが失敗するとでも思うのかい?」
にとりは憎らしい笑みを安曇に返す。
「ははっ、河童ならミスるだろ?」
たかねも笑い声を上げる。
「私も忘れてもらっては困りますよ!幻想郷で一番の俊足ですから!ま、今から私が行くのは常盤國ですがね!」
「あぁ。あのバカオオバのことは頼んだぜ文ちゃん、」
「はい!では行ってまいります!」
文は武蔵を追うようにしてその場から立ち去る。
ナスビは武蔵を追って常盤國に向かおうとする文に照準を向ける。
しかし、その時彼女の視界と射線をにとりとたかねが遮った。
2人は背中に機械を背負っており、その機械からは鋼鉄の羽と、炎を出す筒が取り付けられていた。
「うっ、邪魔な河童と山童だ…………!」
「ドォォォォォラッ!!!!」
「ぐぅぅぅ!!!」
あちらに意識を向けているナスビに向かって、妹紅の強烈な飛び蹴りが突き刺さる。
ダメージとしては小さなものだが、体勢を崩されてしまい、文を撃ち落とすにはもう間に合わない。
「まぁ待ちなって。お前だって武人なんだろ?『私らを倒してから先に進みな』って言えば、乗ってくれるだろう…………だよな?」
妹紅は真正面からナスビを嘲笑うように見つめる。
耐久戦となれば妹紅は無敵だ。
「おのれ……………!!!」
「にとり!たかね!分かれて飛ぶぞ!こいつの狙いを惑わせるためにな!」
「了解!」
「了解!」
妹紅とにとりとたかねはナスビの周囲を複雑に飛行し始め、ついにナスビとの対峙を開始した。
安曇はどうしているのかというと、まだ市場に残っていた。飛翔する力がない安曇には他にやるべき事がある。
「千亦…………だったよな。それじゃ、色々と聞かせてもらおうか!」
「あら。ケンカのインネンに市場を汚されるだけかと思ったら、まだ何かご用があったのね!よかったらこの空白のカード買っていく?」
「………………よくわかんねぇけど買うから話しろ」
「いいでしょう!お金という名の供物を捧げ、好意をむげにしないその誠実さに免じて何でも話してあげます!」
(コイツ金欲しいだけだろクソ貧乏神が!!!)
安曇は文から預かった写真を手に、レーザー取引の件について千亦と相談し始めた。
暗くてよく見えない夜空を高速で飛び交う3つの影に、なかなかナスビは狙いを定められない。
これでも一流の弓の名手。弓は射っているぶんには射っている。彼女の弓は相手を逃さない追尾能力がある。
だが、妹紅たちの飛行はテキトーに撃った弓よりも速いし、妹紅はそもそも矢が効かない。
にとりとたかねも、近づいてきた矢を発明品でへし折って破壊している。
「んんんんんおのれ!!!!!なんなんだコイツら!!!急に強くなって……………!!!!」
「そりゃどうも!強いって悔しがられるのは最高の褒め言葉だよ!」
「だがいいのか!鴉天狗の集落に、まもなく我らの兵がたどり着く!いざとなれば、人質に取ることもできるのだぞ!」
「ほんとにそうか?」
妹紅は確信をもって問いかける。
「なんだと…………」
「親友・飯綱丸龍の国を人質に取るなんて…………そんなこと、百鬼丸が許すわけないだろ!!!」
「それは……………!!!」
そう。
百鬼丸は、そんな事をするはずがないのだ。
「たしかにお前らの兵士は今こっちに向かってきているのかもしれない。だが、そんなのどうでもいいよ」
「なに………………?」
妹紅は続けて言う。
「お前らでは鴉天狗の集落を攻め落とせない。いや…………【攻めれるはずがない】」
「どういうことだ…………何を言っている貴様!」
「へへっ。敵に情報渡すわけないだろ?…………にしてもほんとに今宵は…………」
……………………いい満月だよなぁ。
「─────────────────」
そう、今宵は満月。
それは月虹市場の開かれる時。
そして…………………
「さぁ………………」
鴉天狗の集落に残っていた、もう一人の飯空Projectメンバー………
「歴史から消えて見えなくなった鴉天狗の集落を、見つけて攻め落とせるか、鞍馬天狗…………?」
──────上白沢慧音が、獣となる夜だ。