東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「百鬼丸!!!」
大天狗・飯綱丸龍の叫びと共に、青葉とはたての2人はついに常盤國の玉座、百鬼丸の場所へとたどり着いた。
扉はなかった。
階段を駆け上がった上にそのまま空間が広がっていた。
ただそこには木製の太い柱などが幾本と立っており、はるか高い位置にある屋根を力強く支えていた。
その少し先にある階段の上に、鞍馬天狗の大将、常盤百鬼丸繰経は座っていた。
「………………………!!!!」
そして、青葉たちが真っ先に見たのは百鬼丸を守るように立ち塞がる、無数の兵士たちの数々だった。
「お前たち…………よくも懲りないな」
百鬼丸は玉座から青葉たちを見下ろしている。
(すっごい遠くにいるんだけど)
(この兵士の数なんなのよ………!)
(武蔵とナスビが不在だからあわてて兵を配備したんだろう)
「この玉座の間にたどり着いたところまでは褒めてやろう。このわずか2日のうちに、貴様らも腕を上げたようだな」
(いや回廊に誰もいなかったんだよ………!)
(たぶん王宮守ってる兵士全員ここに呼んだんだろうね)
(すまん2人とも私も百鬼丸がここまでビビリだとは思ってなかった)
「だが、まさかたったの3人で来るとはな…………」
百鬼丸は薙刀を手に取り、玉座から青葉たちの目の前へと飛び降りてきた。
「百鬼丸。一回私の話を聞いてくれ。また訊きたいことがあるんだ」
「問答無用だ、」
「なぜ、私たちが調査している飛来物の件、お前が調査を手伝ったんだ?」
「私、問答無用って言ったよね今」
駄目だこりゃ、と青葉は目頭を押さえる。
「まぁどうでもいい。また来るようであれば、もう一度叩き潰すまでだ」
百鬼丸は冷たく言い捨てると、龍に向かって薙刀を突きつけた。
「百鬼丸、お前……………」
「あと貴様、私の脛蹴っ飛ばしたのまだ恨んでいるからな」
(そんなに痛かったか…………)
「百鬼丸、君は…………さみしくないのか?」
青葉が口を開いた。
「いったい…………君の何が、大天狗様を拒んでいるんだ?君はどうして、大天狗様から離れようとするんだ………?」
百鬼丸の本心は、龍と共にいること。
だが…………現実はそうはならなかった。
「……………………月面戦争で地獄を見たあの日、私は己に呪いをかけた。二度と鞍馬の誰も傷つかない國を作らねばと。月面戦争で我が友を殺したのは、國を治める者として仲間を守れなかった私だ。だが…………すべては月面戦争自体が招いた引き金だ………!妖怪共が………我らの兵力を利用して………それで余計な血が流れ、それ以上に私の命よりも大事な民が失われた。もう私は誰の事も信頼しない、誰の手も貸り受けん。私の力だけで…………私が望む常盤國を作る…………!!!」
「百鬼丸…………それは、詭弁だよ」
龍が百鬼丸に一歩、歩み寄る。
「今のお前はだいぶ違ってる。昔のお前と全然ちがうよ、」
「黙れ飯綱丸!!!…………お前に、私の何が分かる!!!」
百鬼丸の叫びは暴風となって吹き荒れる。
「どわぁぁぁぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
青葉とはたては風圧でなぎ倒される。
だが、龍はその中でまっすぐ立ち続けてみせた。
「そうだ…………貴様は昔からそうだ…………!ただの名も無い鴉天狗だったのにあの時から私と同じぐらい皆に慕われていた!お前とは育ちは同じだが、生まれは全く違う!頭も回らない、民の事など考えられもしない、右も左も分からない中で王に仕立てられた私と違って、お前はただ周りの期待に応えるだけでよかった!それも、お前の力だけでだ………!努力などせずとも、苦労など積まぬとも、初めからお前自身の才能だけですべてをこなしていた!なぜだ…………なぜ…………なぜ私は、王に生まれなかったお前なぞに國の良し悪しを決められなければならない…………!なぜ…………お前だけが私にないものばかり持っているんだ…………!」
百鬼丸が龍に向けた敬遠の眼差しは、他種族への不信から来るものだけではなかった。
裕福な王家に生まれても王としての資質を持たず苦難ばかりを強制された百鬼丸に対して、一般の生まれから才能を買われて出世を繰り返してまたたく間に成り上がった龍。
そんな成功者である彼女への妬みから来るものでもあった。
幼い頃はそれを感じなくても。成長したときにこそ、百鬼丸は自身と龍と違いに気づいてしまった。
自分よりも龍のほうが低い身分に生まれながらも、自分より成功した統率者であること。同じ大天狗の立場であること。
慕っていたはずの仲間に裏切られたような気分。
共に歩んだつもりだったはずなのに自分の中での思い込みと現実とでの激しい乖離。
それが百鬼丸の心をひどく痛めつけていた。
「もうやめろ、百鬼丸。私は私であって、お前はお前でしかない。私はお前になれないし、お前は私にはなれはいんだ」
「そうだな、もうやめにしよう。全て、常盤の全ては私だけで良い…………お前と同じように…………私だけでも國は作れる…………一度、間違えた私には、もう二度と同じことの起こらない平穏を造るまで、彼らの命を償えないんだ…………!それが成されてようやく久方ぶりの平穏を取り戻したというのに…………なのにお前が…………!!!」
百鬼丸は薙刀を投げつけた。
龍の真横を素通りした薙刀は、青葉の足元に突き刺さった。
間一髪で飛び退いた青葉は百鬼丸の方を向く。
「青葉!大丈夫!?」
「うん、大丈夫………!」
薙刀はひとりでに百鬼丸の手元へと戻る。
薙刀は激しく振り回され、青葉の方向を向く。
「貴様が来てしまったせいで、私は忘れもしないこの怒りに油が注がれた………!そして飯綱丸………お前のせいで私は気付かされたんだ!お前への未練が…………この妬みが…………私の邪魔をしているとな!!!」
「百鬼丸……………」
「私の生まれた意味、それは鞍馬を守ること。守るのならば、私が私である必要などない…………だから、お前という私の証は不要なんだよ飯綱丸…………かつての弱い私と決別するために、お前たちを、ここで消す」
「お前はそれで満足なのか?お前は、上手くいかなくて悩んでいるのではなかったか?それに私はお前の思っているほど出来ているものじゃない。間違えることだってあるし、信頼されないことだってある。私のせいで飯空Projectは何度も危機にさらされた」
(……………それは俺も切に感じている)
飯綱丸はさらに一歩百鬼丸に近寄る。
「黙れ……………」
「お前、月面戦争に行く直前、私と約束しただろ?鞍馬と鴉で力を合わせて、人一倍巨大な國を興そうと約束したじゃないか」
「黙れ……………」
「目を覚ませ百鬼丸。お前がやろうとしていることは、お前の國をより小さくすることだ」
「黙れ……………」
「真の平穏とは、手を取り合うことで築かれる。お前のように、多種族を信頼することなく排除するような國、平穏の欠片もない。お前のやってることは、お前のやりたいことと真逆なんだ。百鬼丸、」
「黙れ黙れ………………!!!」
「百鬼丸。お前のやっていることは………矛盾している」
飯綱丸は真顔でそう言った。
「……………黙らぬか、飯綱丸!!!」
ついに百鬼丸が薙刀を構えた。
戦闘態勢だ。それに合わせて兵士たちも槍や弓を構える。
「そんなお前が邪魔だと言っているんだ………!!!」
「……………………………………………」
「お前の知る百鬼丸はもう死んだんだ…………私はもう、國を守ることしかないんだよ…………お前みたいに、何もない…………人の命を預かっておきながらそれを守れなかった最低最悪の私には、もう鞍馬の当主としての機能しか残っていないんだよ…………!」
「百鬼丸……………」
百鬼丸の身体から暴風が巻き起こる。
「頼むよ…………【めぐみん】…………これを失ったらもう私には、何もないんだよ…………!お前に何も敵わないこの私でも、家柄だけはお前より優れている…………鞍馬の当主としてもう一度立ち上がり、民を守る。この最後の役目すらも捨てろというのか………たった一つしかない生きる意味を捨て去り、何の価値もない骸となれと言うのか!?私がいなくなれば、誰がここの民を守る!?誰が、私の代わりに散った仲間たちの魂を慰める!?許さん……………許さんぞ飯綱丸……………!!!」
「ふふっ…………………」
「何がおかしい!!!三脚で部下をぶん殴るパワハラ上司が!!!」
「あっはっはっはっは!!!!」
百鬼丸の怒号に対して飯綱丸が返したのはなんと、笑いだった。
「飯綱丸様…………?」
「いやぁ…………まさかの皮肉だなと思って。昨日の晩、誰とは言わないが仲良し二人組の男たちが殴り合ったという話を聞いたんだ庭をめちゃくちゃにしたとかな」
「あっ、えーっと…………」
完全に自分のことを言われて戸惑う青葉。
「だが、私はなんとなく今わかったんだ。喧嘩するほど仲が良い…………というやつかな。友とは、争い合うことで分かり合うものだ。私とお前も、たくさん喧嘩して、その都度仲直りして、遊んで…………そうして絆を深めてきたということを思い出したんだ」
「…………………貴様…………!!!」
「青葉、はたて。悪いね、私たちの喧嘩に巻き込んでしまって」
「いいや。俺はあなたについていきます、『飯綱丸』様。分かり合えないのなら、分かり合いたい…………それは俺も賛成だ!」
「私も飯綱丸様の部下として、最後までお供します!」
青葉は刀を抜く。
「百鬼丸!君に足りないのはこういうところだ!飯綱丸様の懐の広さを舐めるな!信じる力、手を取り合う絆の力は何よりも強いということを教えてやる!」
「くだらん…………何もかも!!!そこまで言うのならば、貴様ら共々、この山の木々の肥料になれ!!!」
百鬼丸は薙刀で床を勢いよく叩く。
その時、地響きが鳴った。
「な、なんだ…………!?」
「ちょっと!!!王宮の周囲に…………石壁が…………!!!」
地響きと共に現れたのは、王宮の周囲地中からゆっくりと現れた巨大な石の壁。
王宮の周囲四方を取り囲む石壁と共に、四方の壁から突如として大滝が形成されていく。
「ここをどこだと思っている、鞍馬天狗の治める常盤國。貴様らには、最大限に不利な土壌で戦闘をしてもらおうか!!!」
玉座の間の天井から轟音が鳴り響く。
「まさか………!!!」
青葉が見上げてももう遅い。
真上から大滝が降り注いだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「水ぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
「何をする気だ─────!!!!!」
王宮は一瞬にして水に飲み込まれ、浸水し、その海面に沈んでいった。
青葉たちがあまりの眩しさに覆う腕を外したとき、そこに広がるのは一面の水だった。
「まるで海だな……………」
「見て!!!これ、舟じゃない!?」
「ほ、ほんとうだ!!!」
青葉とはたてと龍は、木で作られた。一隻の小舟に乗っていた。
「───────!!!あれは…………!!!」
青葉が指した方向から、無数の舟がやってくる。
どの舟も青葉たちの乗るものと同じ形状だ。
その中に一隻だけ、わずかに大きな船があった。
その船には、小さな小屋のようなものが建っていた。
その船首に立つのは、薙刀を構える百鬼丸。
彼女は天を貫くように薙刀を掲げた。
「聞け!!!同胞たちよ!!!我らはこれより、過去の呪いを断ち切り、全ての鞍馬天狗が等しく平穏に生きる國を興す!!!貴様らの命は、この百鬼丸が預かる!!!全ての鞍馬の平穏と秩序のために、今一度、お前たちの力を私に託せ!!!」
舟の上から次々と歓声が巻き起こる。
「…………私の演説よりも盛り上がっているじゃないか百鬼丸。ふふっ………私なんかより、お前のほうがよっぽどリーダーにふさわしいよ…………」
百鬼丸に届かないその呟きは龍の精一杯の皮肉だった。
「さぁ、ゆくぞ飯綱丸!!!この常盤國海上戦訓練疑似戦場・ダンノウラにて、お前を討つ!!!敵は飯綱丸龍……………では、参る!!!!!」
この一瞬で、百鬼丸からは弱気は消え失せて力ある猛将としての彼女を取り戻した。
恐れを捨てた彼女に、敵は居ない。
「2人とも、百鬼丸はやる気だぞ………いけるな?」
「はい!!!」
「はい!!!」
「上出来!!!ならば、私たちも行くぞ!!!」
完全に負け戦である。
それでも負けられない理由、譲れない意思がそこにある。
この場にいるのは3人だけだが、それだけの意思ではない。
この作戦を遂行するにあたって、飯空Projectの全てのメンバーが力を合わせた。
本来ここに3人がたどり着いていること自体が奇跡なのだ。
武蔵とナスビがいない今この瞬間しか百鬼丸を打倒する事が出来る瞬間はない。
これを逃せばもう終わりだ。一瞬にしてこの3名………そればかりか鴉天狗の軍勢は全滅する。今度の場合、その対価は命で支払うことになる。
それだけ、鴉天狗のほうも後がないのだ。百鬼丸を救うそのためだけにすべてを
鴉天狗と鞍馬天狗の長きに渡るわだかまりにもいよいよ決着が着こうとしていた。
「行くぞ、百鬼丸──────!!!!!」
「来い………飯綱丸──────!!!!!」
互いの種族の全てをかけた決戦の火蓋が切って落とされた!!!
高倉院 武蔵(たかくらいん むさし)
鞍馬天狗の頭領である百鬼丸が誇る右腕。
巨大な体躯と剛腕から繰り出される圧倒的なパワーを持つ戦車のような姉御肌。僧兵のような見た目をしている。
百鬼丸が幼い頃から彼女の世話役を任されているため、非常に長い歳月を生きている鞍馬天狗。
それゆえに戦闘においても幻想郷で指折りの最強天狗である。
百鬼丸は幼い頃からずっと武蔵に世話をされてきたため、武蔵がいないと百鬼丸はかなり何もできなくなってしまう。
事実上、武蔵がいないと成立しない百鬼丸だがそれでも武蔵は百鬼丸の頭領としての才能を誰よりも知り、認め、慕っている。
過去に打ち倒してきた猛将から戦利品として手に入れた999本の太刀を弾幕のように自由自在に投げ飛ばしてくる。背中に背負う7本の宝具も彼女の力の証である。
那須備 壱与(なすび いよ)
通称ナスビ。
常盤國の兵士長であり、百鬼丸から強く信頼されている。
あらゆる種族の中でも特に戦いに特化した精鋭揃いである鞍馬天狗の兵士の長を務めるだけあって、その実力は確かなもの。特に弓の技術に至っては『一矢必中』と讃えられており、あの百鬼丸と武蔵をも含めて鞍馬天狗で彼女の右に出るものは居ない(なぜか矢に追尾機能が付いているかのように敵を追い掛けるが、ナスビがそういう軌道になるように射っているらしい)。
ザ・武士といった甲冑に身を固めているが、めちゃくちゃ頭が悪い。もともと知能に長けていない鞍馬天狗の中でも呆れられてしまうほど。
だが戦闘IQが異常に高く、弓の技術と、武蔵と双璧を成す程の実力も相まって、アホな感じからは想像もつかないほどの圧倒的な強さを見せつける。兵士長を務めるにはまだまだ若いが、彼女が隊長であることにに不満を持つ者は居ない。
ナスビと呼ばれるとキレる。いや、だってお前の名前ナスビだもん。