東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
─────────一方その頃、常盤國。
「撃て!!!撃ち落とせ!!!」
そこでは百鬼丸率いる鞍馬天狗の総戦力と、青葉、龍、はたてのわずか3人の壮絶な戦いが繰り広げられていた。
ただでさえ無敵の種族と称される鞍馬天狗が、青葉たちの百倍近くものが数いる。
青葉側に勝算など微塵もない。
むしろここまでたどり着けていることが奇跡である。
百鬼丸の指示で鞍馬天狗の兵士たちは一斉に弓を引く。
現在両軍は、常盤國海上戦訓練疑似戦場・ダンノウラにて交戦中。
ダンノウラは常盤國の王宮に大量の水を張ることで作られた擬似的な海上戦場。
なので鞍馬天狗たちは舟に乗っている。
青葉たちも戦うためには百鬼丸が寄越してきたこの小舟を使うしかない。
無駄に正々堂々としている百鬼丸はさておき、兵力差は歴然としすぎている。
青葉側がこれを凌駕することは絶対に叶わない。
飯綱丸龍は策があると言っていた。
そのための青葉と龍とはたての3人なのだ。その策がもし百鬼丸のスケールにとって容易い細工であるのならば終わりだ。
百鬼丸の異常性がこちら側の能力を遥かに凌駕していただけの事、考慮に入っていない。
「2人とも伏せて!!!」
「はたて!」
「うっ………!!」
とはいえ、飯綱丸も何も考えていないわけはない。あれだけ完膚なきまでに叩き込めされた2日後の話だ。それでも百鬼丸に突撃するということは相当な考えがあるに違いない。
現在、文や妹紅の働きによって鞍馬天狗の最強戦力である高倉院武蔵と那須備壱与を足止めできている。百鬼丸を攻めるなら今しかない。
「こ、こんな小舟で勝てるワケないじゃない!」
「落ち着けはたて。どうせ甲鉄艦を持ってきても百鬼丸の前では同じようなものだ、」
武蔵とナスビを遠ざければ臆病な百鬼丸の心に隙が生まれると踏んでいた龍だったが、百鬼丸は決意と怒りによって恐怖を克服してしまった。つまるところ龍の読みは一度外れている。
だがしかし、武蔵とナスビがこの場にいれば10秒以内に全滅している。
武蔵とナスビを嵌めて足止めすることができたことが大の収穫。
あとは作戦勝ちして百鬼丸を取れば青葉たちの勝利だ。
戦況は依然として絶望的な状態だ。
これをひっくり返すほどの一手が、果たして彼らの手にはあるのか…………?
青葉たちは小船の中でかがみ込み、矢の雨をなんとかしのぎながら言葉を交わす。
「ど、どうする………?」
「どうするじゃないですよ飯綱丸様………!」
「たぶんこの中で唯一、百鬼丸と真正面からやれるのは俺だ。あの時、最終的にはやられたけど、わずかな間だけは百鬼丸に食らいつけた」
「あんた何者なのよ…………」
「だが……………この距離を詰めて百鬼丸の懐に入るまでは、なにもできない…………こんなボロ船で接近したら連中にとってはいい的だ」
海上戦では足元が悪い。その上、飛行能力を持たない青葉はどうしても海路を使った接近に頼るしかない。
すぐにでも叩き壊されそうな舟で百鬼丸のもとにたどり着けそうにはない。
「だが幸いにも百鬼丸が優しいのか頭が悪いのか、あるいは正々堂々とした勝負を望んでいるのか。私たちの舟の耐久性はかなりあるな。鞍馬天狗の放つ矢なんて普通の舟なんて一撃で撃沈させるものを」
「百鬼丸だけでも俺たちを叩き潰すのは簡単だけど、それに加えて周りの兵士…………これさえ無くせたらいいのに、」
「作戦会議の通り、第1の矢を放つのもありか………」
飯綱丸は頼りない舟の上に立ち上がり、そのまま翼を生やして中空に浮かんだ。
「敵の大将だ!撃ち落とせ!」
兵士たちが飯綱丸に向かって弓を引く。
「はたてさん!」
「ハイッ!」
飯綱丸に意識を取られた兵士たちに向かってはたてが弾幕を放つ。
しかし流石に兵士も精鋭揃い。弾幕を弓で撃ち落とす。
「ま………そう簡単には行かないよね…………!」
「でも…………そのために夜を選んだのだから、」
飯綱丸は空から百鬼丸たちを見下ろす。
(百鬼丸──────)
そのとき、彼女の脳裏を横切ったのは在りし日の思い出のこと。
アレはまだ私も百鬼丸も、天狗として若かった頃。私が次の鴉大天狗に任命された時だったか。
「というわけで、めぐみんの大出世に乾杯だ!」
その日の夜、私と百鬼丸はサシで飲んでいた。
私が大将になる頃には、すでに百鬼丸はとっくに常盤國の長、鞍馬天狗の大将だった。
由緒正しき鞍馬天狗の大将の一家に生まれた彼女は代が変わった瞬間に大将になるのは慣わしであり、仕来たりであり、約束事だった。
「しかし、めぐみんも偉くなったな。初めは我が國に訪れた、ただの商売人だったというのに」
「天魔様のご指名だ。断ることはできなかったが………やはり急に言われると実感がわかないわね。少し前までの中間管理職くらいが私にとっては満足だったかな」
私はこれまでの職務でに挙げてきた実績を天魔様に買われて大天狗となった。
彼女のように、初めからこの道が運命づけられていたわけではなかった。
これが当たり前である彼女は平気そうに振る舞っているが私の内心は不安でいっぱいであった。
「まぁそう言うな。お前と私が同じ大天狗として隣にいられることを私は誇りに思う。この前お前に紹介した客分の残無も、まもなく私の元を離れて何かすべきことをするらしいぞ。今度はお前の王としての成長を見れるのか。楽しみだ、」
「やれやれどうなることやら…………ま、鴉天狗は常盤國と比べると身分制度はそこまで強くない。王というよりは村長か、集落の代表だな」
「ふっ…………お前らしいな。私はお前のそういうところが気に入っている。驕らずとも鞍馬天狗は天狗族の中でも最強の種族だ。圧倒的な種族としての能力の高さ、経済的な潤いも良い。だから私の機嫌をうかがってゴマすってくる大天狗は多い。どうあれ天狗は力こそすべてだし、ずる賢く成り上がって生きる種族だからな」
百鬼丸は、まだ半分も残ってるかまぼこの入った箱をまるごと自分のほうに寄せる。
「だがお前は私に対して忌憚のない声を聞かせてくれる。私の力にあやかろうとする連中は私の決定に異を唱えようともしない。本質は國を良くして民を守ることにあるというのにな。だがめぐみん、お前は違う。お前は私に対して違っていることは違うと言ってくれるんだ」
「時々それで喧嘩になったりもしたけどね」
「それはそれだ。私は王としておおかた完成されているから、お前の恐れのなんたるかが伝わるぞ」
「言い切るね。よくまぁ自分で」
「お前は大天狗として挙げてきた功績を買われたと言ったが、内心は自分で挙げた成果じゃないとでも言うんだろ?たしかに私もお前も一人ではここまでやってこれなかった。だがなめぐみん、」
百鬼丸はかまぼこを食べきって酒を一気に飲むと私に顔を近づけながら言ってきた。
「お前にはいい「目」がある………」
「目…………?」
「そうだ。人材の持つ能力を適切に見極める能力だ。お前自身は何もできなくても、お前がやろうとしていることはいつも正鵠を射る。それを成すだけの能力や資源がないだけだ。そこでできる者にできることをさせる力。それがお前の真の凄さだ飯綱丸」
「だが、他の大天狗もそんなもんだろう」
「彼らや私は人材に恵まれただけだ。お前、武蔵とか見てみろ。私ら含めた大天狗よりも優秀だぞ。謙虚で力もあり、家事もできて執務もあんだけ器用にこなしてくれるんだから」
「なるほど。言えてるね」
「私らは手持ちの財産こそ恵まれているが、めぐみん、お前には砂の中から金や宝を探す力がある。有り合わせの素材しか使えない私らにはない才能だ。お前自身の手で隠された財産を最大限の力で使う観察眼。ほかでもない、お前自身が『めぐむ』力。統率者としてこれほど優秀な力、なかなかないぞ!はっはっは!」
私には見える。
お前の苦難が。数え切れないほどの苦痛が。
けれど私にはもう一つ見えるものがある。
今のお前は…………私の知る百鬼丸じゃないということ。
私はまだお前を信じている。
お前はまだ、私の親友だ。
ならば、友が道を踏み誤った時それを正すことが………お前が私に言っていた『目』のことなのならば。
「私は……………お前が相手でも………いや、相手がお前だからこそ、戦うぞ………百鬼丸」
飯綱丸様が空に飛んでいく様子を俺とはたてさんは黙って見ていた。
「…………………ごめん、百鬼丸、」
飯綱丸様は三脚を開き、上に掲げる。
「許せん………………絶対に許せんよ…………………」
俺は飯綱丸様が一瞬だけ涙を落としたように見えた。
その瞬間、空の様子がおかしくなった。
空から雲がなくなり、満天の夜空が広がる。
たしかに今日は満月。月も星も綺麗な日だが、だが…………幻想郷の夜空は………こんな色をしていただろうか。
まるで黒い闇というより、濃青。
いつもと違う色の夜空だが、星々はむしろ普段よりも輝きを増している。
空にはだんだんと、流星群が走り出した。
「許せぬ…………私は絶対に…………」
飯綱丸様は歯を食いしばる。
唇を噛んで血がにじむ。
「許せん…………お前を、こんなになるまで放置した私の愚かさが。親友だったお前が誰よりも苦しんでいる事も知らず、その横で私は龍珠を使ったアビリティカードの事だの…………温泉街を開いて新興ビジネスだの…………金稼ぎの事を考えていた…………私はいつから、こんなにも賤しい者に成り下がったんだ…………」
俺もはたてさんも、鞍馬天狗たちも流星群を眺めていた。
その流星群の数がどうにもおかしい。
………………多すぎる。
「やはり金も地位も名声もくそくらえだ。力は………人から夢を奪う。お前と一緒に、鞍馬と鴉で力を合わせて國を興すって約束…………長き時の中ですっかり忘れてしまったんだ」
「飯綱丸……………」
百鬼丸は空を翔ぶ飯綱丸様を見上げる。
その視線がついに交差した。
「そうか…………そうだったか。お前を壊した一番の悪者は、他でもない私だったか………!」
瞬間、夜空にまたたく星々がキラキラと輝きを強めた。
「な、なんかヤバそうなんですけど…………!はたてさん伏せて!!!」
「えっ!?ちょっ、きゃあっ!?」
「私が責任を取ってお前を目覚めさせてやる………!覚悟しろ百鬼丸!!!」
飯綱丸様が三脚を振り下ろした。
次の瞬間──────
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
なんと空から流星群が戦場に向かって降り注ぎ始めた。
本物の流星ならば要は隕石なのでもっとサイズはでかいが、少し小さい光の礫が数え切れぬほどに襲いかかる。
「私が道を切り開く!二人は舟を漕いでくれ!」
飯綱丸様の放った流星群が弓兵隊の弓を次々と撃ち落とし、水面を切り裂く。
水の中へと沈んでいった星の光は水しぶきを上げて、大雨になって降り注ぐ。
「ちっ…………考えたな、」
雨で矢の性能をダウンさせる。
さらに水しぶきを目くらましに、青葉たちの舟を百鬼丸のもとまで近寄らせるつもりだ。
「………………だが、考えたところで無駄なことだ」
百鬼丸は船首に立ち、薙刀を構える。
「何を考えようと、我が武術に打ち勝つことは能わない!」
百鬼丸の薙刀がめにも留まらぬ速さで振り回される。
刃が降り注ぐ流星を次々とはじき返す。
「嘘でしょ………!?」
「いや。百鬼丸が相手なら、あれぐらいは驚かないよ」
相手は依ねぇと真っ向から戦って生還した妖怪だ。どんな反則が起きてもおかしくない…………依ねぇと何千回も稽古を積んできた俺じゃなきゃ、とてもじゃないが相手にもならない…………!
そうこうしている間に百鬼丸は流星群を全て撃ち落とす。
「ふぅぅぅぅん…………破ッ!!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「うぅぉぉぉぉぉあぁぁぁぁっ!?」
百鬼丸の薙刀が突き出される。
その強烈な突きは水面を切り裂き、巨大な風の刃となって襲いかかる。
「う、うぉぉぉっ!!!」
俺は舟の中から体当りして無理やり舟を横にずらす。
間一髪、風は俺たちの真横を通り抜けたが、はたてさんの持っていた櫂が粉々に粉砕された。
「うそ…………でしょ…………?」
あんな距離から突いた時の勢いで櫂が真っ二つに………!?なんて威力だ…………
「どうしよう青葉!オールが片方折れたわ……!」
「うっ…………!これじゃ………進めない…………!」
いきなり万事休す………か………
「はぁぁぁぁぁぁ…………憤ッ!!!」
百鬼丸が薙刀を水面に叩きつけると、俺たちの目の前に3階建て建物の高さをも上回る巨大な波が立った。
「あ、あああああ青葉っ!!!」
「くっ…………一か八か…………!!!」
俺ははたてさんを抱えて舟から飛び降りると、空中から全力で舟の後ろを蹴り飛ばした。
舟は俺に蹴られて空を飛びながら波に突入していく。
波の水圧で舟が粉々に破壊された。
だが、俺の蹴りのほうが強い。
舟は粉々になりながらも、波を超えて百鬼丸軍の側に飛んでいった。
ばらばらになった木材の数々が降り注ぐ。
百鬼丸を止められるとは思っていないが、これで取り巻きの兵士に少しでも…………
「舐めているのか?」
百鬼丸の周囲に突風が吹き、木材がすべて吹き飛んで行ってしまった。
「はぁっ!!!」
「やぁっ!!!」
だが波と木くずのおかげで百鬼丸の視線を移させた!
俺達は波を盾に、一番近い鞍馬天狗の舟に飛び移り、兵士を蹴り落として舟を奪った。
「よし、ここなら舟がたくさんあるぞ!久方ぶりの床だ!」
「ど、どうするの!?あんたに言われるがままに来てみたけど、こんな敵軍のど真ん中で………!」
「舟を飛びついでいけば、そのうち百鬼丸に近づけるだろ?」
「そ、そんな無茶な!!」
俺たちの周りは四方八方すべてが鞍馬天狗。
一斉に俺たちへと襲いかかってきた。
「青葉ーっ!!!」
「行くぞ────ここまで来ておいて、ここでやらずしていつにやるんだ………ッ!!!!!」
俺は敵地の真ん中で刀を抜き放った。
今が好機と見て一斉に兵士たちが俺に飛びかってきた。
だが、お前たちとは一回やりあっている。
勝手はもう大体わかっているんだ…………!!!
「──────────甘い!!!!!」
俺は後ろに向かって宙返りしながら飛び上がって敵の攻撃を回避する。
さらに、俺は自分の中の妖力を解放した。
手から放たれた落雷が舟を貫き、派手な水しぶきをあげた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ」
「うおあぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は背後の舟に飛び乗る。
「俺がやらなきゃならないのは百鬼丸だけだ。道を開けろ、遮るならば……斬る!!!」
俺の立っている舟に乗っていた兵士が背後から襲いかかる。
「八霖儚月流──────」
「せりゃぁぁぁっ!!!」
遅いな。その程度でよく鞍馬天狗を名乗った。
「『屋根穿ち』!!!」
俺は背後の敵の顎を、背を向けたまま模造刀で殴りつけて吹き飛ばした。
兵士は空高く吹き飛ばされた。
「まだまだ!!!…………はたてさん!弾幕を出せ、援護しろ!君の周囲は俺が護る!!!」
「え、えぇ………!わかったわ!」
俺とはたてさんの周囲から襲いかかる兵士たち。
だがな、不利に見えてここに来たことには意味がある。
(ふむ……………兵士と乱戦にすることで、彼らを巻き込めない私の動きを止めようという魂胆か)
そうだ。こうしていれば、お前は俺に不用意に手出しはできないだろう。
安心してお前の取り巻きを─────
「愚か…………!!!」
しかし百鬼丸は薙刀の柄尻を両手で握り、勢いよく振りかぶったのだ。
「なにっ…………!?」
俺の想定の斜め上の行動に走った百鬼丸に俺は動揺してしまった。
次の瞬間、信じられないことが起こった。
「貴様が兵士に囲まれるになることで、むしろ貴様の運動域が狭くなったことになぜ気が付かない!!!」
百鬼丸の薙刀が勢いよく振るわれる。
巻き起こったのはなんと大嵐。
「なん、だとぉぉぉ…………!!!」
やってしまった。完全にやってしまった。
「ひゃ、百鬼丸様ぁぁぁぁぁっ!?」
「お、お助ううぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
百鬼丸の起こした嵐は自軍の兵士すらも巻き込み、俺たちも例外なく巻き込まれた。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぐぅぅぅぅぅぅ…………!!!」
まずい、読み間違えたか………!
まさか百鬼丸、自軍の兵を巻き込んででも俺たちを仕留めに来るとは思わなかった………!!
「あ、青葉!はたて!」
飯綱丸様が大急ぎで嵐の中に飛び込もうとするが、飯綱丸様は下がるしかなかった。
「いや、だめだ………こんなのに入ったら間違いなく助からん………!!!」
「その通りだ。お前たちには、私を相手に、何もできん!何も…………!!!」
気がつけば、百鬼丸軍の兵士はほぼ全員が嵐の中に巻き込まれていた。
「くっ…………はたてさん!」
俺ははたてさんを抱きかかえる。
「せぃっ!」
「ぐ、おぁぁぁぁぁっ………!!!」
俺は背中を一閃された。
「青葉!」
「くっ…………百鬼丸も異常だが、兵士たちも大した連中だ。自分が嵐に巻き込まれているっていうのに、嵐の中で抜刀して、すれ違いざまに俺を斬ってきたぞ、」
「───────────くっ、ここは任せて」
はたてさんが携帯電話を構える。
「剣術も弓も弾幕も、嵐の中では流されるけれど………!!!」
はたてさんは自身の周囲の様々な方角を撮影する。
「私の念写は…………どんな時も、固定された、私が決めた空間を撮る…………」
嵐の中にはたてさんの弾幕が現れる。
「そして、念写した空間に弾幕が出現する私の能力なら、風に影響されず、その場に固定される設置型の弾幕が出せるわ────!!!」
嵐の中に作られた弾幕はまったく動くことなく、見事に静止している。
「念写で風の流れはつかんだ!風の渦に飲まれて流れる方向に弾幕を置けば…………!!!」
嵐に巻き込まれた兵士たちが弾幕に突っ込んでいく。
カメラのフィルムのように────!!!
「私の弾幕は、風に流されない、けれどもこの嵐の風速と同じ速度の弾幕になる────!!!」
弾幕は静止していても、兵士たちは百鬼丸の嵐に流されている。ならば、兵士たちの移動速度が弾幕の移動速度だ。
百鬼丸の大嵐。その風速は尋常ならざるものだろう。ならば、自然現象の限界を超えた風速の嵐の中、ほぼ同じ速度で現れる弾幕をかわせるわけがない!!!
「写真『フルパノラマショット』!!!」
はたてさんの読みと撮影はあまりにも見事だった。
万華鏡の中の星々のように動く兵士たちが次々とはたてさんの設置した弾幕に直撃していく。
「やった!新聞記者、舐めないでよね!こちとら本業はパパラッチよ。どんな空間でも、正確に撮ってみせるんだから!」
「嬉しそうにしているところ悪いんだけど…………俺たちもこの嵐から逃れられないって話、したほうがいいかな…………っ!」
俺達が目の前の脅威を打ち倒しているうちに、百鬼丸はとっくにこの隙を狙っていた。
こんな長い隙、逃れられるわけがない。
「私は、友を捨ててでも、鞍馬を守るぞ………!」
両足で踏み込み、力強く薙刀を槍のように引く。
「受けるがいい、大嵐『八島の青嵐』!!!」
百鬼丸の突き出した薙刀から横向きの嵐が吹き荒れた。
嵐が嵐を貫くという、自然界に存在しない現象が巻き起こる。
「ぐ………あぁぁぁぁぁぁぁ………ッ!!!」
まずい、縦の嵐の中で、横向きの嵐が来れば、2つの真逆の方向の風圧が働いて、身体がバラバラになるぞ…………!!!
「くっ……………!!!」
はたてさんの身体を掴み、俺は身体を下げて嵐の外側に身体の位置をずらす。
横向きの嵐が直撃する。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
なんとか嵐の交差する地点から外れた。
外側に移動したおかげで横向きの嵐が、縦向きの嵐から俺たちを押し出した。
だが、遠心力が加わったせいで俺たちははげしく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
あまりの勢いにより、壁が陥没して粉々にひび割れて破れる。
「ぐあ………っ………!?」
咄嗟に受け身を取ったが、身体の中にとてつもない衝撃を受けた。
流石に吐血した。
「ぅっ…………ぐ、っ………!」
でも、百鬼丸がスペルカードを使った。
スペルカウンターを…………!!!
「歴符『GHQフリーズ』!!!」
青い光が百鬼丸を一直線に襲う。
「……………………ふん、」
百鬼丸は目にも止まらない速度でそれをすべて回避し、俺に切りかかってきた。
いいよ。構わない、避けてもらったほうが好都合だし、避けられる前提で使ったんだ!
「よっ…………と!!!」
俺は水面に着地する。
水面は今のレーザーによって凍りついた。
これで、さっきまで最悪だった足場がついに改善された!
地上に立てれば、まだ食らいつく余地が…………
「ハァァァァァッ!!!」
百鬼丸は水が凍ったことにはノーリアクションで俺にそのまま突撃してきた。
「くっ!!!」
見えないぐらい速い!!!
俺は転がるようにそれを躱すが、百鬼丸がすれ違いざまに振り抜いた薙刀が、すでに通り抜けた背後にいる俺にまで届いてきた。
「うぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
俺は激しく氷の地面を転がされた。
怪我はないが、転がりながら打ち付けた腕が痛む。
「ぐっ……………」
余力がかすっただけでこの威力……………災害か何かか!
「以前は運が良かったようだが…………今度こそ、貴様を仕留める」
百鬼丸は消えるような突進からまた俺に突進してきた。
「青葉!!!」
飯綱丸様が三脚を構えて俺の前に立った。
「だめだ飯綱丸様!!!」
「邪魔をするな!!!」
飯綱丸様の三脚は百鬼丸の薙刀を受けたがまったく勢いを殺しきれずに吹き飛ばされた。
「ぐわぁっ!!」
「ぐぁっ!!!」
そのまま俺をボウリングのピンのようになぎ倒していった。
「ぐ………やっぱ白兵戦ではどうしょうもないな………青葉、一瞬だけ耐えたんだろう?お前はいったい何者なんだ………」
「いや、俺はすごくないです。あるとしたら、あの時の百鬼丸は……………まったく本気を出していなかった、ということですかね」
前とは薙刀の振りから感じる闘気が全然違う。
俺は依ねぇじゃあるまいし、観察しただけで相手の次の手を読んだりするほどの戦闘マシーンではないが、相手がどれだけ力を発揮しているかぐらいは相対的にわかる。
2回以上戦った相手ならば、以前と比べてどれだけギアの違いがあるかぐらいはわかる。
そして、今の百鬼丸は、以前の彼女と比べて倍ぐらい強い……………!
兵士が勝手に減っていって安心はしたが、依然として勝てる可能性はいまだゼロ………
ここからどうやって逆転しろって言うんだ………
「ふぅぅぅぅぅん!!!」
いや、考えてる暇はない…………!!!
「はぁっ!!!」
「お………おぉぉぉぉっ!!!」
なんて剣圧だ…………受けるタイミングを間違えるだけで全然弾き飛ばされるぞ。
その勢いのまま壁に激突して、
全身骨折→死亡
なんてこと、全然考えられる。
かといって、かわせるような代物では絶対にない!
だが、一番すごいのは……………
「はぁぁぁぁ!!!ふっ!はっ!せぇっ!ぜぇぇりやあぁっ!!!」
「ぐっ…………がっ、ぅぐ…………ぐおっ………がっ………!!!」
これだけ一方的な連撃を受けて、未だ刃こぼれひとつ起きない一千子さんの刀だ…………!
以前俺が自分で鉄を溶かして叩いた模造刀だったら、間違いなく一発で粉砕されてるぞ………!
「くっ…………………」
落ち着け。動揺するな、必ず活路はある。
まずは落ち着いて、相手の動きをよく読むんだ。
神経を研ぎ澄ませろ…………相手の動きを読み、先に防御を差し込む…………!
「ふぅ………………………」
どうせ百鬼丸の攻撃はほとんど見えないに等しい。なら、見る必要はない。最低限の情報が目に映ればいい百鬼丸との距離感、そんなもんでいい。音もほとんどいらない。五感のすべてを捨てて、空気の流れ、第六感で感じ取るしかない。
「………………ハァッ!!!」
突進が来る。百鬼丸は急に走り出すがその速度はいつも最速。
速度を変えて揺さぶるなんて、そんな段階ではない。
タイミングは掴めてる。あとは薙刀の動きを読むだけだ。
正面からの横薙ぎ──────
「うっ……………!!!」
「──────────」
くそ、皮一枚削られた。先端がかすった、もっと距離を離せ…………!
繋がるように繰り出される左逆袈裟…………!
「はぁっ!!!」
「むっ……………セェリャッ!!」
一切の無駄のない動き、薙刀の向きを瞬時に切り返して燕返しの要領で連続攻撃を可能とする。
薙刀ではおおよそ不可能に等しい神業の領域だ。
だが、所詮は人間の使う武具と同じもの。どんな反則技であったとしても、いつもベストの使い方は決まっている。
ここから最速で繋がるとしたら右袈裟。
ここしかない──────!!!!
「八霖儚月流『壁破り』!!!」
「ふぅん!!!」
遅かったか………!!ギリギリで薙刀の柄が割り込んで威力がかなり下がった…………!!
百鬼丸は1ステップぶんの距離を下がった。
「………………まさかもう対応するとはな、」
「はぁ………はぁ………はぁ………」
くっそぉ………めちゃくちゃ神経使うぞ、これ………
あまりの生命危機のせいでアドレナリン出てるからできる芸当だ。普段ならこんなの絶対無理だ。
そもそも薙刀のリーチが長すぎて、剣じゃとてもじゃないけど食らいつけないぞ…………!
なんか、久しぶりに依ねぇと稽古したのを思い出す。
(はぁぁぁぁっ!ぜやっ!)
(うわわわわわわぁぁっ!?)
(まだまだ甘い!防御で待とうとしない!初めから防御するようでは、守りの浅い所を狙われるだけ!)
(そ、そんな無茶なぁぁぁぁ!!!)
(真剣ならこの打ち合いの間だけで42回は死亡しています。私に勝てとはいいません。ですが、少なくとも10分間は私の剣から生き延びなさい!)
(無理難題だよ、依ねぇぇぇぇっ!!!)
(頭の守りが甘い!!!唐竹割りの的もどうぜん!!!)
(ごっっっはぁぁぁぁぁっ!!!!)
(まったく。話になりません、一度休け──)
(うわわわわ、前に倒れ…………もにゅっ!?)
(〜〜〜〜〜〜!!!なななななななななにを考えているんですか!!!師範代の胸に飛び込むなど!!!)
(ご、ごめん………!!今ので脳が揺れて足元がふらつ…………)
(穢れ多き地上の民め!!!)
(あいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!)
────────って………!!!
何をこんな時に変なこと思い出してるんだ俺は!!!
「………………………………」
いや…………………待てよ。
案外、間違ってはいないんじゃないか………?
(百鬼丸の薙刀の刃よりも、あえて前に出る。そうすれば、刃が当たらない…………!)
よし、モノは試しだやってみよう。
この圧倒的な力の差の前でできることなんてどうせ限られているんだ。一か八かに賭けないと勝てっこない………!!
「かぁぁぁぁぁっ!!!」
百鬼丸の薙刀から巨大なかまいたちが繰り出される。
あの嵐に触れたら全身が斬り刻まれる。
ここは回り込むように避けていくしかない………
「くっ……………!!!」
俺は全速力で嵐をかわしながら回り込むようにして百鬼丸を追う。
視線は常に彼女から離さない。
「百鬼丸は俺の力量を測っている。この程度の嵐で死ぬことはないぐらい分かってる。なら、これは何かの布石だ」
「貴様はいつから、私一人とサシで戦えると錯覚していた」
「…………………!!」
俺の背後から鞍馬天狗の兵士たちが追いかけてきた。
彼らの飛行は俺の疾走なんかよりもずっと速い。
「百鬼丸様から離れよ!」
「くっそぉ………!」
一人ずつは相手してられない………!!
「青葉!振り返るな!進み続けろ!!!」
しかし、それを遮るように飯綱丸様が三脚で兵士たちの突進を押さえた。
「青葉!まわりの兵士のことは考えない!あんたは百鬼丸から目を離さないで!」
「はたてさん、飯綱丸様…………!」
「いや、もう遅い!!!」
俺が視線を戻したとき、百鬼丸が薙刀を横に振り被った状態で俺の眼前に現れた。
まるで霞の間をワープしたかのように一瞬の出来事だった。
この体勢からは間違いなく全力の横薙ぎが発動する。
90%以上の確率で俺の胴体は一刀両断。
(前に出なくっちゃ…………!!)
残り10%は、俺が前に出て刃を回避したとしても、棒部分で殴られて死ぬ事。
あんな薙刀、柄に当たっただけでも身体の骨が破壊されて内臓も潰されるだろう。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
だが俺はこの10%以下の賭けを超える───!!
「せえぇぇぇぇぇぇぇいっ!!!!!」
「ぐぅぅぅおっ………!!!!!」
俺は可能な限り、極限まで前に出る。
薙刀とは遠心力こそが武器。
つまり、先端ほど威力が高い。ならば百鬼丸の懐に近寄れば威力を抑えられる…………!!!
さらに、俺は全力で刀を縦に差し込み、百鬼丸の薙刀を横から受け止めた!!!
「がぁぁ、ぁぁっ………!!!」
しかし、防ぎに入った刀は百鬼丸の薙刀に押し返され、あまりの無理な動作とその衝撃、そひて跳ね返された刀の峰によって脇の骨が砕かれた。
これだけ頑張ってやる事やったのに、こんな大ダメージを受けないといけないのか………!!
「でも…………タダではやられないぞ…………!!」
俺は百鬼丸の薙刀をがっつり掴んだ。
この俺が…………やられて何もできずに終わると思うな!
「え………ちょっ、うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
しかし、なんと百鬼丸は俺ごと薙刀を軽々と持ち上げ、これまでにないほどの勢いで振り回し初めた。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺は難なく振り落とされた。
「無駄だと言っているだろう!!!」
百鬼丸は空高く飛び上がった。
「断崖『ヒヨドリサカサドロップ』!!!」
百鬼丸の薙刀が凍った地面に勢いよく叩きつけられた。
なんと、その勢いで─────
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「何ぃぃぃぃぃぃぃぃいっ!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
すべての氷面が粉々に破壊され、全ての氷が崩壊して荒れ狂う波へと逆戻りした。
「な、なんて力……………!!!」
まずい…………こんな所で氷の床が崩壊すれば…………!
「うわぁぁぁぁぁ海中だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
氷の床に立っていた俺たちは海面へと投げ出された。
「ぶはぁっ!?さ、寒い………!なんだこの水温は………!」
「しまった、俺がさっき凍らせたせいで、今の水の水温は氷点下のギリギリ………少なくとも水温は10℃を前後…………!!」
「さ、寒すぎて……………飛べないわよ……………!」
水温10℃の空間は幻想郷にはほとんど存在しない。翼というデリケートな部位を持っている天狗族には、冷えは大敵だ。
飯綱丸様もはたてさんも非常に弱っている。
「ふぅぅぅぅぅぅぅん!!!海底『深海壱万玖百弐拾メートルの神器』!!!」
百鬼丸は船の上に飛び乗ったかと思うとそのまま海面に向かって跳躍。
百鬼丸は波の上に立つと、足元に勢いよく薙刀を突き刺した。
「な、なんだ…………!」
「海が…………荒れている…………うわっ!?」
「流され………!!」
海が突如として荒れ始める。
波にあおられて、俺たちは復帰できないまま流され始める。
「くっ…………二人とも!舟だ!あれをつかめば………!」
俺たちが流れる先に舟が見えた。
「やったわ………!こんな寒いの、すぐにでも終わりたいのよ………!」
はたてさんは手を伸ばす。
──────しかし、あと少しという所で手は届かず、俺たちは舟から離れたところに流され始めた。
「そ、そんな!!離れていく………!!」
「この軌道、円を描いているのか?」
「………………!!!まさか…………」
俺が気づいたときと同時に、俺たちはさらに波にあおられて加速する。
「これは波じゃない!!渦潮だ────!!!」
「がっぼ………ぼぼぼふっ……!!!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙…………ぶっ…………!!!」
海がさらに大荒れする。
飯綱丸様とはたてさんは耐えられず海中に飲み込まれる。
浮かんでいた俺の首元まで水位が……………
「うわぅ…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
水の中では身体の機動力が下がる…………!!
この水温による極寒のせいで運動パフォーマンスはさらにさらに低下…………!!!
百鬼丸は舟の上だ。まずい、
まずいぞ、一番まずい、最悪の状況だ………!!!
「ぶ……もぉぉぉぉっ!!!」
ついに俺の身体も海中に引きずり込まれた。
しかも、これはただの渦潮じゃない…………!!
「ぐぼおっ………!?」
水中で百鬼丸の竜巻が起こされていたのか………!
まずい、もしそうなら、この中は斬撃の嵐!!!
「がぼぼ………ぼおっ!!!」
嘘だ…………!!!
さっきの竜巻よりも、もっと酷い…………!!!
動けない…………いっさい…………!!!
そのくせ、水中でも斬撃の威力は全く変わっていない…………!!!
渦潮の中心にたどり着いた俺たちは、渦を描いて地上に飛び出した水の柱に連れられて空高く登っていく。
「もごごごごごっ…………!!!」
「い………いぎが……………」
「ぼっ………ぶぼ………っ!!!」
やってしまった………完全に、読み間違えた………
水の土俵で、百鬼丸とやり合うなんて不可能だったんだ。
百鬼丸が、海面が凍結した時点ですぐに氷を砕かなかったのは、好機と踏んだ俺たちが舟から降りるのを待つためだったんだ…………
舟を降りたことが一番の失敗だった………!
俺はともかく、飯綱丸様とはたてさんを降ろさせることなく、ずっと飛ばさせていればよかったのに………!!!
だが、後悔しても仕方ない…………
でも…………!!!ここから、どうしろっていうんだ!?
「がぁっ…………!!!」
身体を深々と斬撃が切り裂く。
はたてさんも飯綱丸様も同じ地獄にいるのか………!無理だ無理だ………!こんなの、生きて帰れるはずがない…………!
くそ…………!!!最悪………だ………!!!
「さらばだ、飯綱丸。我が呪い─────」
だが百鬼丸は容赦しない。
再び薙刀を目一杯に振りかぶる。
薙刀に風の妖力が一気に集まる。
まだ何もしてないのに、力を溜めているだけなのに付近の舟がすべて転覆してしまい、百鬼丸の周囲の海面が大きく荒れる。
「終わりだ───魔槍『魔王尊テンペスト』!!!」
百鬼丸の薙刀が振り抜かれ、渦潮の柱を切り裂いた。
「が…………ばあ゙…………っ!!!」
その一太刀は俺の胴体を一文字に斬り裂いた。
視界が紅に染まる。
俺の流血がひどすぎて、水に溶け出てしまったからだろう。
急激な出血により、身体の中にためていた酸素も限界を迎えた。
そのまま俺は切り開かれた渦潮の外に投げ出され、真っ逆さまに海中へ転落していった。
斬られた竹のように切断された渦潮が爆発。
はたてと龍は全身に深い傷を負いながら空中へ投げ出される。
「が………ハァッ…………!?」
「うっ………………ぐぅ…………っ、」
はたてはの龍の手をつかみ、最後の力を振り絞って短距離の飛行をしてみせた。
飛行というよりは、滑空だったが。
翼の機能は完全に潰されていた。
「う……………うぅ、」
一番近くにあった舟に飛び込む。
落ちてくるはたてと龍の身体に当たりぶっ飛ばされて、舟に乗っていた兵士は海へと投げ出された。
ドゴォン、と舟に叩きつけられる二人の体。
身体中を渦潮に切り裂かれ、最後の一太刀も見事に貰った。低温で身体機能も半分以上が潰えて、さらに呼吸もできず溺れたため2人とも完全に再起不能になった。
たまたま急所が外れたので傷は完全に身体の中心に届かず、虫の息で生存していた。
しかし、青葉は身体の芯まで斬られた。
力のない状態で龍とはたての真上を落下していた。
仰向けに倒れる2人の眼前には、落下していく青葉の姿。
青葉は舟に飛び移ることもできず、海面へと落ちていった。
「あ………青………葉っ!!!」
龍は起き上がって舟の縁に駆け寄る。
水しぶきと波紋が見えた。
その場所に青葉は浮かぶことない。
ただ、青葉のかぶる笠だけが水上へと浮かんできた。
「青葉…………!!!」
「そ、そんな…………」
龍とはたては敵地のど真ん中であるにもかかわらず、海面に浮かんだ笠を見つめていた。
はたては傷が重く息もできず、さらに冷え切った身体も祟り、舟の中に倒れてしまった。
「─────────────」
百鬼丸は冷めた顔で少しだけそれを放置し、数秒待ってから薙刀を構えた。
このままあの舟に向かって投擲するつもりだ。
「百鬼丸…………このまま私をやるのか…………?」
「あぁ。それが私の今の成すべきことだ。貴様ともともと友だったかなどもはや関係ない。そんなモノは過去の話だ。今の私は、鞍馬を脅かす全てを撃滅する…………それだけだ。他者への情けなど、とっくに犬に食わせた」
百鬼丸は冷たく吐き捨てる。
だが確かに、その額には汗が浮かんでいた。
飯綱丸だけが、それに気づいていた。
「百鬼丸…………私は今、お前の気持ちを思い知らされたよ…………目の前で仲間を奪われた怒りを。正直、ほんとはらわたが煮えくり返る思いだね」
「─────────────」
「あの男は罪なき、無垢な若者だった。無辜の民が、理不尽な暴力で薙ぎ払われて命を落とす………お前が憎む悪と同じだよ………しばらく見ないうちに、お前もずいぶんと堕ちたな、百鬼丸………」
「貴様、」
「私がお前をそうさせたのだろうか………なぁ百鬼丸………あんなことがなければ、こうはならなかったのか?何が私たちの道を違えた………どこから歯車が狂ったんだ………?」
「言うまでもない───────」
百鬼丸は船首に飛び乗り、飯綱丸を見下ろす。
「すべては………………【定め】だ」
「───百鬼丸、その言葉が聞けてホッとした」
飯綱丸は弱々しく立ち上がる。
「お前がそこまでするって言うなら…………こっちだってとことんブン殴るぞ!!!」
「──────その死にかけの身体でか?」
「あぁ!そうだ!幼い頃の話とはいえ、お前と真っ向からケンカした妖怪、私以外に誰がいる!お前を止められるのは、この私、飯綱丸龍だけだ!!!」
「貴様……………飯綱丸─────!!!!!」
百鬼丸が薙刀を槍投げする様に振り被った。
「───────手加減……………」
飯綱丸が咆哮を上げる。
「…………………無用ォォォォォッ!!!!!」
「───────なっ………!!!舟が揺れ………」
百鬼丸は跳躍で舟から離れた。
コンマ後、舟が粉々に破壊された。
「───────八霖儚月流『屋根穿ち』」
舟の真下の水面から、何かの影が勢いよく飛び上がった。
金色の月に飛び上がった影を映すその存在は人形に双角を生やし、刀を振りかざす。
「あれは………!!」
はたての顔が明るくなる。
「ついさっきは、良くもやってくれたな…………」
影から赤い眼光が放たれる。
百鬼丸は別の舟に着地し、驚いたようにその影を見上げた。
「青葉!!!」
「青葉!生きていたのね!」
青葉は身体を斬り裂かれ、全身を血まみれにしながらもギリギリで繋ぎ止めていた。
そのまま青葉は再び水中に飛び込む。
「────────そこかッ!!!」
百鬼丸は水中に薙刀を突き入れる。
「…………違うか!」
「こっちだ!!!」
「ぬうっ………!!」
またもや、百鬼丸の立つ舟が粉砕された。
青葉は海中を泳ぎ、下から百鬼丸の足場を破壊していっている。
「よう、さっきぶりだな」
青葉は近くの舟に飛び降り、乗っていた兵士を一瞬で蹴り落とした。
「なんだ………この男、気配が変わった………」
「……………おかげでこの通り、俺も虫の息だよ。だが、一寸の虫にも五分の魂ってな…………今の俺になら、五分ありゃお前を仕留められるぜ」
「ふん。戯言を…………姿を変えようと同じ事!」
百鬼丸は薙刀を振り上げる。
舟を巻き込むほどの巨大な嵐が青葉に迫る。
「青葉!」
「青葉!」
二人の叫びは青葉はまったく聞く素振りすら見せない。
嵐に対して真っ向から直立してそれを待っている。
「───────ふぅん!!!」
青葉が腕を振りかざすと、嵐は青葉に命中すると同時に止まってしまった。
「なんだと…………私の嵐を止めた、だと…………?」
(…………満月だからかだろうか?力が…………みなぎってくる…………!!!)
青葉は舟からまっすぐ百鬼丸に突っ込んでいった。
「おのれ、小賢しい真似を………!!!」
青葉に対して百鬼丸が放ったのは横薙ぎ。
まっすぐ目の前からやってくる青葉に対して最適解だ。
「お前の薙刀…………もう見切ったぜ、」
しかし、青葉の身体が一瞬だけ宙に浮いた。
「なに………!!!」
「正面からつっかかれば、お前は横薙ぎを繰り出す思ったさ。お前、案外正直なんだな、」
青葉は空中で宙返りする。
そのまま百鬼丸の薙刀を飛び越え、背後に回って刀を振り上げる。
「八霖儚月流──────」
「ちっ…………!!!」
「『稲妻落とし〜霹靂』!!!」
「カァァァァァァァァァッ!!!!」
薙刀を差し込んで防ごうとした百鬼丸だが、薙刀もろともぶっ飛ばされた。
舟は見事に破壊される。
「ぐぉっ…………!」
百鬼丸は水面を転がる。
潮の流れを自在に操る百鬼丸は、海面を地面のように踏みしめることは容易い。
しかし、百鬼丸の目に映ったのはとんでもない光景だった。
「龍とはたてを弱らせたのは俺の責任だ。そのツケは、俺自身の財布で払ってみせる…………!」
堂々と海面を走る青葉の姿だった。
「なんだと………!?能力で海面を操る私以外に、どうやって海面を歩いている!!!」
「さぁな!これでも昔から俺の故郷では一番の水泳自慢だった。海を走るくらい行けるんじゃないかと思ったら、できちまったんだよ!」
「そんなバカな………!!なんという常識外れな男め………!!!」
「行くぜ百鬼丸!!!構えなァ!!!」
青葉は流水のように流れる剣撃で百鬼丸に勢いよく肉薄していく。
百鬼丸は薙刀を振るいそれを受け流していく。
そこに力の差はほとんどなくなっていた。
ペースは青葉が完全につかんだからだ!!!
「押し切る…………確実に押し通らせるぞ、いま、ここで!!!」
「なんだこの速度…………この私と、互角だと………!?」
「俺自身の能力はアンタには劣るだろうが、アンタの薙刀の弱点を正確に突いているから辛く感じるだけだ。もっとも、本来は刀よりも薙刀のほうが有利なんだけどな!」
百鬼丸は海面を飛び移り、後退しながら青葉を退けようとするが青葉はどこまでも彼女を追い続ける。
上下左右に複雑に動き回りながら、百鬼丸の薙刀の届かない角度から彼女に一撃を確実に狙い続けている。
「百鬼丸と青葉が互角…………!?」
「なんてやつだ…………最初はただの人間とほとんど変わらない妖力だったのに…………あの角が生えてから奴の妖力の回転率が尋常じゃない。あれはもはや…………神格の領域…………!!!」
神格とは、幻想郷における神様のことである。
外の世界で信仰を失う、祭殿の崩壊、宗教観の変化などのなんらかの理由で姿を失った神が幻想郷に流れ着いた存在。
自然界の現象や生命体、天候を象徴するそれらは膨大な力を有している。
自然の事物に干渉するほどの力をも有している。
「百鬼丸の嵐をものともせず、水中でもあれほどの自由自在な動き、挙句の果てにあれほどの素早さで水面を走り回る能力…………青葉はもしかして、風や水にまつわる何かしらの能力を有しているのか…………!?」
「で、でも…………………青葉って、慧音先生と同じワーハクタクなんでしょう…………!?なんで………獣人がこんな力…………!!!」
「ぐぅっ…………!!!」
「ふぅっ……………ふぅ……………ふぅ………っ、」
「青葉……………あの男は……………」
「青葉、彼は……………」
「神門青葉………貴様、いったい何者だ!!!」
「俺か?俺はな───────」
紅の瞳、2つの角。
薄緑の髪、そこに有している新たなる力。
満月…………それは獣人が獣の狂気が最大値になる夜。獣の姿に最も近寄るその時間に、青葉に発現した彼自身にも未知の能力。
神にも匹敵する莫大な妖力、どうして彼にそれがあるのか。
なぜ、獣人にこれほどの力が宿るのか。
そして、彼は何者なのか──────
「俺はな─────そのへんの商人だ、」
そのうちに宿した無尽の妖力が知られざる彼の正体へと結びついていく……………