東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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大炎上御湯殿

 

 

「よっ、と!」

 

 

力尽きたナスビの身柄を抱えて文は妹紅たちの前に戻ってきた。

 

 

「文………ちゃん………お前、なんで今更………ゲフッ、」

 

 

安曇、妹紅、にとり、たかね、千亦は突然現れた射命丸文と…………敵のはずの高倉院武蔵の姿に困惑を隠しきれない。

 

 

 

 

 

 

 

実は、文と武蔵が月虹市場から離れた後、二人の間にこんなやりとりがあった。

 

 

 

「ちっ…………速すぎるよ、あの鴉天狗………!!」

 

「幻想郷最速のこの私に追いつくなんて無理ですよ、無理無理!」

 

「くぅぅぅ…………っ!」

 

「───────よっ、と。ここまで離せばいいかな」

 

 

武蔵から逃走している文は突然停止した。

 

 

「どうしたんだい?こんな何もないところで立ち止まって。まさか、一人であたしとやるってのかい?」

 

「それはちょっと遠慮しましょうかね…………それより、少し話をしませんか?あなたは話が通じそうですから、」

 

「話だって………?」

 

「えぇ。飯綱丸様と百鬼丸様をめぐる一件、つまりこの戦いの行く末について、ね」

 

 

文は武蔵と一対一の対話をするためにこの場に武蔵を誘い込んだ。

実は最初からそういう手筈であった。

 

武蔵とナスビの足止めが必要ではあるが、武蔵と無理に戦闘する必要はない。

武蔵とは対話が可能だということは、青葉や慧音や妹紅に文…………彼らは知っていたからだ。

常に正々堂々としており………そしてなにより、鴉天狗との対話を試みた唯一の鞍馬天狗だったからだ。

御湯殿いづなに彼女が顔を見せた時、あれがナスビか百鬼丸だったならば御湯殿いづなは武力攻撃を受けていたに違いない。

 

ナスビとの戦闘は避けては通れない。ならば、ナスビと武蔵を呼び寄せた月虹市場でこの2人の相手をする事は避けなければならない。

だからこそ、ナスビと戦うために武蔵をさらに足止めする必要があった。

その大役を任されたのが文。

 

文単体の力ではぜったいに武蔵には敵わない。

それは文自身も、武蔵も理解していた。

 

だからこそ、武蔵側は文との対話はやってみる価値があると思ったのだ。

あのまま飛んでいれば、文は逃げ切れた。

なのにそれを途中でやめるということは、なにか相当な理由があるのだろうと武蔵は理解していたからだ。

 

 

「まず第一に理解してほしいのは、私たち鴉天狗は鞍馬天狗との対話を望んでいるということです。願わくば、助力まで欲しい所です」

 

「あぁ。それは聞いていたよ。だから私も知恵を授けてやったのさ。例の飛行物体の写真の事ね、」

 

「単刀直入に訊きますが…………あなたは、私たちとはどうありたいのですか?」

 

 

文は気になっていた。武蔵は…………

 

 

「ナスビは百鬼丸様に忠実です。百鬼丸様の命令に従い、百鬼丸様から見たら侵略者である私たちに猛烈な攻撃を仕掛けてきました。ですがあなたは『常盤国に攻め込まない限りは手出しはしない』………そう言っていましたね」

 

「…………………………………………………」

 

「現に、私とこうして会話してくださっている。つまり、あなたはひょっとすると気づいているのではないですか?……………今の百鬼丸様が、間違っているということに」

 

 

武蔵は腕を組んでただ文の話を聞いていた。

文の真剣な対応に武蔵は信頼を置いていたのだ。

そして、すぐに否定の言葉が出ないということ、それは文の発言が図星だったことでもある。

 

 

「……………………もう1000年以上も前か。月面戦争で仲間を大勢失った時、百鬼丸様には鬼が宿った。思えばあの時からだね…………百鬼丸様がおかしくなったのは。百鬼丸様は相変わらず最高の大天狗だった。常盤国のみんなのことを愛していたし、みんなも百鬼丸様のことが大好きだった…………平民にも優しいし、昔貧民のために始めた炊き出しは今でもやっているさ。でも…………」

 

 

武蔵は拳を握りしめる。

 

 

「ぜんっぜん…………百鬼丸様はちっとも幸せそうじゃあない…………いつだって、何かが満ち足りなそうな顔をしているんだ、」

 

 

武蔵は百鬼丸を誰よりも近くで長く見続けてきた。

彼女が幼い頃からずっと。

自分の娘か、妹か。それくらいの距離から彼女を知る武蔵にとって、今の百鬼丸がどんな状態なのか、手に取るようにわかる。

そして武蔵は、百鬼丸がいままさに、誰よりも辛い思いをしている事が理解できていた。

 

 

「あたしゃね。百鬼丸様の忠実な従者だ。今も昔もこれからも。だがね………時々思うんだ。『今のままでいいのかな』ってね………百鬼丸様は暴君じゃあない。それはホントさ。あのお方は、いつだって民のことを考えてくれる。でも、あたしは違うんだ。あたしは王様じゃない。あたしが守るべきなのは…………常盤國じゃなくて、百鬼丸様なんだよ…………!!!」

 

「─────その言葉が聞きたかったんです、」

 

 

文は自ら武蔵の懐に飛び込む。

 

武蔵と文は正面から向かい合う。

 

 

「きっと、百鬼丸様は私たちとは会話にならないでしょう。いかに元親友の飯綱丸様が来たとは言え。そこで、あなたに百鬼丸様を説得してもらいたいんです。もう一度、鴉天狗と鞍馬天狗が、仲良く共存していける時代を取り戻すために………!」

 

「………………………………………………………………」

 

 

文は自分よりも背丈の高い武蔵を見上げ、その瞳を見続ける。

 

刺すような視線には決意の火が宿っていた。

 

 

「あなただけじゃありません。私も、思うんです。飯綱丸様の、何かが足りないようなあの感情を。私は飯綱丸様の幼いころを見ていたわけではないです。でも、あの人の部下として、様子の違いくらいは見えます。昔から見せる、あの無理をして自分を作っているようなあのお姿が…………私にはずっと疑問だったんです…………」

 

 

文は地上に降り立つと、武蔵に向かって跪いた。

 

 

「お願いです!百鬼丸様と飯綱丸様を仲直りさせて、2人の心を助けるのを手伝ってください!」

 

 

文は手を伸ばす。

 

 

「私とはたてと椛の3人を見てくれたあの人が…………私たち三人を見る度に…………寂しそうな顔をするあの顔が…………私にはつらいんです…………」

 

 

文の目には小さな涙が浮かぶ。

 

飯綱丸はポンコツながらも、一人でずっとやってきた。

隣にいた親友は突如として姿を消して、いつも二人でやってきたことは彼女一人になってしまった。

百鬼丸と共にいたから築けてきた信頼も、所詮出世上がりしただけの元一般天狗には、築ける信頼は少なかった。

だから何度も商売を起こして、何度も失敗して…………

 

それでもめげない、涙も悔しさも見せない。

まるで花のように明るく、それでいて感情のない不気味な上司の姿も、それはそれで文たちを締め付けていた。

 

 

「あんたは明るさ一点のように感じられたけど、意外と感受性豊かなんだね」

 

 

武蔵は文の手をつかんで立ち上がらせた。

 

 

「こっちこそお願いだ。あたしはね、百鬼丸様が一番だけど、飯綱丸様のことも助けてやりたいんだよ。彼女が子供の時から百鬼丸様と一緒に見てきたんだからね。あんたらがそのどっちも救いたいっていうんなら…………あたしは手を貸すよ!」

 

「武蔵さん…………!」

 

 

なんと、文は一人で武蔵の説得に成功した!

見事に武蔵の信頼を勝ち得て百鬼丸の戦力を削ったばかりか、強力な助っ人を手に入れた。

これで、武蔵が鴉天狗に敵対することは絶対になくなった。

それに、武蔵が説得できれば、常盤國の兵士の多くも納得させてやることもできるかもしれない。

 

 

「それで?今から常盤國に戻ればいいのかい?いや、その前にナスビを説得しなきゃね」

 

「はい。今ごろ、私の仲間たちと激しく戦っているかもしれません」

 

 

 

 

 

 

 

「───────というわけだったんです」

 

「まさかそんな事が……………」

 

「嘘だろ俺らナスビ倒すのにあんだけ苦労したのに、文ちゃんお前無傷で武蔵を止めたのかよ…………」

 

 

「ふふふ。ペンは剣よりも強し………文のほうが武より強い、ということですよ」

 

 

文が抱えているのは瀕死のナスビ。

武蔵がナスビの元まで飛行し駆け寄ってきた。

 

 

「ナスビ!ナスビ…………!!」

 

 

武蔵はナスビの身体を激しく揺らすが、ナスビから応答はない。

 

 

「……………………………………………」

 

「ま、まずい!仲間の仲間を傷つけてしまっては、武蔵も怒…………」

 

「お、お前の超音波角笛のせいだぞ!私は………何も知らないからな!」

 

「いいんだよ。あのナスビが相手だ。ここまでしないと止まらないさ、正当防衛ってやつだよ」

 

 

思いの外武蔵はあっさりと納得してしまった。

 

 

「物分かりが良くて助かるぜ。だがお前いいのかよ?仲間がやられたんだぞ」

 

「あんまこういうこと言っちゃまずいと思うけど、先にあんたらをボコスカやったのはナスビだ。報復戦ぐらいは当然だと思うんだ、」

 

「へぇ。よく分かってんじゃねぇか。お前は嫌いじゃねぇぜ」

 

「それに、あんたらはナスビを助けようとしてくれた。赤い嬢ちゃん、見てたよ。ナスビをあの膝切から守ろうと、自分から突っ込んでいってくれたよね。ありがとう、ナスビを助けようとしてくれて」

 

 

武蔵は妹紅のほうを見て言う。

 

 

「ま、まぁ…………なんだ…………仲間がやられたとはいえ、死なせるのは違うっていうか………さ、」

 

「照れんなよ妹紅ちゃん、顔に出てんぜ」

 

「う、うっさいな!」

 

「おゲェっ!!!」

 

 

妹紅が安曇の顎を殴り上げた。

安曇は「テメェなぁ………」と顔をしかめた。

 

 

「ここからは二手に分かれましょう。私と武蔵さんは常盤國に直行して、百鬼丸様を説得します。他の皆さんは御湯殿いづなに戻って、休息を取りつつナスビの手当てをしてください」

 

「いや、俺はまだまだ行けゴフッ………」

 

「馬鹿かお前は。お前なんて最優先で戦線離脱だよ、」

 

「畜生…………不甲斐ねぇ…………」

 

「お話は終わりましたか?そろそろ市場を再開しても…………」

 

 

ただ一人、巻き込まれた被害者である千亦は戸惑った様子を見せている。

 

 

「あぁ、邪魔したな。俺らの用事は終わりだ」

 

「あっ、ほんとに終わりなんですね!?」

 

 

わちゃわちゃしていた所、にとりとたかねが何か話していた。

 

 

「おーい、にとり、たかね。帰るぞー」

 

 

妹紅が二人を呼びに来ようとした時、にとりとたかねが急に叫び声をあげた。

 

 

「ちょちょちょちょちょ!!!みんな!!!聞いてくれ!!!」

 

「御湯殿いづなが…………燃えているぞ!!!」

 

 

にとりとたかねの口から出たのは信じられない言葉だった。

 

 

「ば、バカな──────!?」

 

 

全員が同じ方向を向いた。

 

だが、そのまさかは現実となっていた。

 

御湯殿いづなのある方向が、赤と橙の激しい輝きと灯りを放っていたのだ。

その色はどう見ても、火の手の色だった。

 

 

「なぜだ…………!?まさか鞍馬天狗の兵士があっちに攻撃へ行っていたのか…………!!!」

 

「いや、そんなはずはない!あそこにはだって………慧音がいるはずだろ!?慧音が、御湯殿いづなの歴史を消し─────いや、待て………にとり、たかね、なんでお前たち…………しかも武蔵も、なんで歴史から消されて見えないはずの御湯殿いづなが見えているんだ!?」

 

 

慧音が一時的に御湯殿いづなの歴史を消す。

そういう手筈だ。それなのに御湯殿いづなが消えていないのだ。

そればかりか、何者かの手によって火を放たれていたのだ。

 

 

「最悪だ…………よりにもよってこんな、警備が一番手薄な時に…………」

 

「敵は、この機会を狙って………!?」

 

 

全員があっけにとられている中、武蔵があることに気づいた。

 

 

「ちょっと待ちな!あたしらは御湯殿いづなに侵攻するなんて、何も聞いていないぞ!?百鬼丸様もそんなこと言っていなかった!たしかにさっきあたしらが脅し文句として言わせてもらったけども、そんな計画はなかった!」

 

「じゃあ誰が御湯殿いづなに火をつけたってんだよ!」

 

「……………待ってください。まさか、計画が漏れていた…………?」

 

 

 

「「「!?」」」

 

 

 

瞬間的に全員が絶句した。

 

 

「だとしたら…………なんで…………誰が…………?」

 

「チクショウ…………誰が………誰が俺らを裏切りやがった…………クソが────!!!」

 

「言ってる場合か………!はやく戻るぞ!文、武蔵、お前たちは先に常盤國だ!じゃないと、オオバと大天狗とはたてが死んじまう!!!」

 

 

妹紅が素早く判断を下した。

 

 

「は、はい…………!!」

 

「悪い……ナスビのこと、任せたよ────!!」

 

 

文と武蔵は二人でこの場から急いで離脱した。

 

 

 

「──────許せませんね、」

 

 

残ったメンバーは最初は沈黙に駆られていたが、意外にも最初に千亦が口を開いた。

 

 

「この御湯殿いづなは、龍がビジネスのために開いた温泉街。そこには、お土産屋さんや飲食店が集まっています。商売と商売をつなぐ巨大なマーケットだったんです。そこに人々の笑顔も加わった、偉大なる市場に…………火を放つ賊なんて…………到底、見過ごせない…………!!!」

 

 

千亦が拳を握りしめている。

 

 

「盗み、奪うならまだしも、炎とはすべてをゼロにするもの…………積み上げてきたものも、財産も、人の命も…………!奴らは市場の参加者すらも踏みにじった…………!市場の神として…………いや、パーソン()として…………許しがたい悪逆無道…………!!!」

 

 

震えて憤怒する千亦が噛み締める唇から血が滴る。

 

 

「えぇい、こんなの店じまいよ、店じまい!今すぐ行って、放火魔をぶっ飛ばしてやるわ!!!」

 

 

千亦は言うが速いか、一直線に御湯殿いづなを目指して行った。

 

 

「……………………結局行くのかよアイツ、」

 

「まぁ、仲間になってくれるならいいんじゃないか?それより、はやく様子を見に行くぞ!」

 

 

妹紅もその場を急いで飛び出し、それに続いて安曇とにとりとたかねも燃えあがる御湯殿いづなに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

頃は、事が起こる少し前……………文と武蔵が話し合い、妹紅たちがナスビと戦っていた時にさかのぼる。

 

 

謎の獣人、モーガンと対峙した慧音の前に現れたのは新地獄の創設者、日伯残無とその従者である豫母都日狭美の二人。

 

 

「貴様…………地獄の鬼人風情が、何をしにここへ…………」

 

「なぁに。ときおり盤面を見るのは軍略の基礎であろう?それで必要とあらば手を差し伸べる。儂ははじめから、この展開を待ち続けておったのじゃ」

 

「残無様は鴉天狗と鞍馬天狗が手を取り合う道を望んでおられますゆえ。我々は常に中立。そのため鴉天狗のことも、鞍馬天狗のことも、支援することはできませんでした」

 

「じゃが…………鞍馬でない勢力が鴉天狗に攻め込むのであれば話は別よ。真打は必要な時にのみやってくる………覚えておくんじゃな」

 

 

慧音はイマイチ状況が読めていない。

 

 

「はっ…………戯言を。貴様らが何をしようが無駄なこと、今この時が私たちの勝機だ。幻想郷一大勢力たる天狗族、その総本山を攻め落とす時だ。この妖怪の山総攻撃が、我ら幻想獣国同盟の時代を拓く一手となるのだ!!!」

 

 

モーガンは両腕を広げる。

 

その瞬間、モーガンの背後で大爆発が起きた。

 

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 

慧音は爆風で吹き飛ばされた。

 

地面に打ち付けられ、起き上がると慧音はモーガンの背後が紅に染まっているのを見た。

 

 

星月夜だというのに、まるで夕焼けのように空が赤い。

 

 

「な…………なん、だと…………」

 

「よくやった灼。これより、侵攻作戦は第2段階へ移行するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「我らの覇道を、阻むに能うものなし!!!恐れを知らぬ、情けを持たぬ、命を惜しまぬ戦士たちよ、今こそ己の手で勝利と自由と栄光を掴み取れ!!!」

 

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

御湯殿いづなの正面から無数の兵士がなだれ込む。

慧音の秘匿した歴史は、もはや完全に意味を失っていた。モーガンが慧音の秘匿を解除したことで、全員がその存在を感知してしまったのだ。

 

 

慧音の秘匿とは歴史をなくすことである。

モーガンはそれを看破した。

一度たりとも見つかればそれは歴史の一部となる。

認知されればもはや、なかったことにすることなど不可能。

 

 

「蹂躙せよォォォォォォォォ!!!!!!」

 

 

灼彗袁もサーベルを抜き、西洋銃を乱れ撃ちながら前線を切る。

陣頭指揮のはずが先陣を切り、一番槍に戦場を駆け抜ける様子はさながら戦乙女。

 

 

灼は開けた場所に出たところで走る足を止め、銃を構えた。

 

 

「─────────角度よし。地点よし。月の角度からしてまもなく作戦決行の瞬間。時は来た、さぁさ、いざ参らん。刮目せよ、我らが勇士を!!!鴉ども────!!!!!」

 

 

灼は迷いなく引き金を引いた。

 

銃弾が蔵を貫く。

 

 

「手応えあり、突入!!!」

 

 

灼のサーベルが蔵の扉を真っ二つに切り裂いた。

 

 

「すでに設置された爆薬を確認。数に増減なし、一連に問題なし。着火用意!!!爆発まで10秒前後!!!総員離脱用意!!!」

 

 

さらに蔵の中に松明を投げ込んだ。

 

 

「ぜぇぇぇぇぇりゃぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

油に満たされた部屋の中に松明が投げ込まれる。

 

 

「私の名誉の自死をなげうってでも成すべきを成ァす!!!」

 

 

灼は腰から吊るした手持ちの爆弾を取ってピンを抜き思いっきり蔵の中に投げ込んだ。

 

 

「ちょちょちょちょちょちょ姐さん何やってんすか!?」

 

「黙れェェェェいッ!!!戦士として爆破より華々しい瞬間などあるか!!!」

 

「やばいっすって!!!せっかくこれまで手はず通りだったのに、こんなところで姐さんの思いつきで勝手なことしたら計算が狂……………」

 

「喰らえェェェェェェェェェイッ!!!!!」

 

 

爆弾に向かって銃撃一条。 

手のひらサイズの手榴弾に寸分の狂いもなく弾を当てた能力は本物である。

 

 

手榴弾の爆発とともに、延焼した蔵の中にある爆薬が連続的に爆破していき、蔵は粉々に爆散した。

 

 

 

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うごぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

兵士もぶっ飛んで行く中、灼は涼しげに、爆発する蔵の前に立っていた。

 

 

「総長!!!危険です!!!離れてください!!!」

 

「離せェェェェイッ!!!貴様らはなぜ爆弾の樽を並べたのか分からんのか!!!」

 

 

そうこう言っている間に、蔵のあった場所の真上に爆薬の入った樽が複数個飛び上がった。

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!!!!」

 

「ホラ、こうなるからだ。物理は完全ではない。気象や運命の悪戯でいつも想定した通りには行かん。爆薬の入った樽をこの街道に撒き散らすという計画が、これでは達成されないではないか」

 

 

灼が再びサーベルを抜く。

 

 

「だから、軌道の逸れた爆薬を、街道にふっ飛ばさなければならんのだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

灼は飛び上がり、銃を乱れ撃ち、さらに火薬玉を投げまくる。

 

 

火薬玉はサーベルに弾かれて空高く舞い上がり、爆薬の入った樽の近くで銃弾に貫かれて大爆発。

 

爆発に押し出されて灼たちに落ちてくる樽は街道へと軌道修正した。

 

 

「さ、流石です総長………………」

 

「褒めるな!!!これぐらい当然である!!!さぁ、作戦は第2段階である!!!先に到着した鈴鹿山と組み、この集落を攻め落とす!!!この腕と、この脚でなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

灼は勝手にどこかへと走り出していった。 

 

 

「何をしているか!!!私に続け!!!」

 

「へ………へいいぃっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんということだ………………御湯殿いづなが…………」

 

 

慧音はショックで膝をついた。

 

 

「ふむ……………これは読んでおらんかったわ。まさかそれほどにまで貴様らが見境ないとは思うておらんかったぞ。これは、ちとばかしやり過ぎじゃのぉ…………」

 

「残無様、お灸を据えてやるべきですか?」

 

「あぁ。可及的、速やかにな」

 

「ほう?やってみせよ……………今ここには我ら幻想獣国同盟の要が四人もいるのだぞ?貴様らごときに…………何ができる?」

 

「ふっ………………ふっふっふ、」

 

 

モーガンの挑発に残無は笑って返した。

 

 

「何がおかしい…………舐めているのか、貴様」

 

「いいや?お主こそ、妖怪の山を舐めないほうがいいぞよ。ご丁寧に計画まで立ててくれて結構じゃが、あんまりにもくどい計画を立てて相手に時間を与えると、ろくなことにならぬぞ?」

 

「なに………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ニャー!!!猫だけに火の車ですにゃあぁ!!!」

 

 

御湯殿いづなに来ていた観光客や天狗たちはとっくに離脱していた。

 

 

「さぁ、さぁみなさん!こっちですにゃー!急いで!豪徳寺ミケのまねき猫!豪徳寺ミケのまねき猫ー!猫はコタツで丸くなる、こんな事もあろうかと地下室をご用意いたしましたにゃ!早く逃げるのですにゃ!身体の大きい大人はあと!まずは身体の弱い人と子供が優先ですにゃ!」

 

 

「はいみなさん。こちらにお並びください。丸いものしかございませんが、食料の備蓄はできております。しばらくはここで持ちこたえてください!」

 

 

たとえ街が燃えても、人の命だけは守らねばならないと。

街が燃えてもそれでも、その中には、必死で助けを求める者と、それに手を差し伸べる者たちで溢れていた。

彼らは協力して住民を守ろうと奔走していた。

 

 

 

「さて、これで全員ですにゃ…………」

 

「えぇ……………あとは……………」

 

 

 

こんな有事にも冷静に対応できるのは、そう他でもない──────

 

 

 

「こんな事したやつを引っ掻き回してやりましょうにゃ…………!」

 

「犯人には頭を丸めて貰わないと気が済みませんね。さすがの私ですらも、角が立ちましたよ…………!」

 

 

 

御湯殿いづなのスタッフの誰も彼もが、常人とは一枚も二枚も異なる特別な存在だったからである!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────なに、住民がいない…………?」

 

 

 

「ほぉれ、言わんこっちゃない。この街に核弾道でも放てば即決だったものを」

 

「どう料理してやりましょうか?」

 

「お主らは何のつもりじゃ?住民の命を奪う事が目的か?ならば、吐き気を催すほどの外道じゃ。この日伯残無が許さんぞ、」

 

 

残無が指を鳴らすと、モーガンの周囲が炎の柱で包まれた。

 

 

 

「貴様ら………………………」

 

「なぜお前が怒っている?怒りたいのは…………私たちの方だ…………!!!」

 

 

慧音は炎の壁に見向きもせず、モーガンに突っ込んでいった。

 

 

「この奸佞邪知が…………!!!貴様は絶対に許さんぞ!!!」

 

 

慧音の頭突きがモーガンの頭に突き刺さる。

 

 

「ぐぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

モーガンは激しく吹き飛ばされた。

 

 

「ぐぅぅ………ぉぉぉぉっ………!!!」

 

 

頭に受けた衝撃でモーガンは固まっている。

 

 

「おう。いい頭突きじゃのぉ」

 

「ハァ……………ハァ……………ハァ……………」

 

 

 

 

 

百鬼丸との激闘。

 

燃える御湯殿いづな。

 

まさに火急の惨事に次ぐ大惨事。

 

この状況を打破する事は出来るのか。

 

 

 

 

 

 

 

「貴様らなんぞに守れるものか。何としてでも、この場所は滅ぼし、ここに、我らの新たなる国を興す!!!」

 

 

 

 

「そんな事…………死んでもさせるかッ!!!天狗たちがこの温泉街に積み重ねてきた、彼らの歴史を冒涜するなど…………お前たちはこの山のすべての敵だ!!!」

 

 

 

 

 

 

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