東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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波濤には嵐が荒ぶ〜Tempest on Blue seas

 

 

「オォォォォォォォォ!!!!」

 

 

常盤國では引き続き、青葉と百鬼丸の2人による壮絶な戦いが繰り広げられていた。

最強の天狗百鬼丸と一介の妖怪に過ぎない青葉がほぼ互角という信じられない事実に全員が圧倒されていた。

 

そしてその戦いは今回の鴉天狗と鞍馬天狗との戦いのなかでも群を抜いた苛烈さを極めている。

もはや間に入ろうとする者は誰もいなかった。

入った瞬間に巻き込まれて自分が霧散する。

そんな戦いである。

 

 

「うぅ…………ッ!」

 

 

種族値においても、身体能力においてもあらゆる面において百鬼丸のほうが何倍も青葉に勝っている。

 

 

「はぁっ!!!」

 

「ぐっ…………………ま………まだまだァ!!!」

 

 

だがそれでも青葉は百鬼丸に真っ向から食らいつく。

 

 

(剣術では私の薙刀とほぼ互角………だが、なぜこんなにも私は手こずっている…………?なぜ、剣しかない粗末な相手にこんなに苦戦している………?剣の技量だけでは説明がつかない何かが、私とこの男の生物としての差を埋めている…………!)

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

 

百鬼丸が大きく振りかぶった薙刀が青葉の刀を直撃する。

青葉はそのまま水場の壁を突き破って投げ出される。

 

 

「ぐぅ…………うぉぉぉぉっ………!!!」

 

 

青葉は空中でなんとか体勢を立て直し、王宮の外壁に着地する。

 

 

「───────逃がさん、」

 

 

百鬼丸は目にも留まらぬ疾風のごとし素早さで戦場を飛び出し、王宮に直進していく。

距離にして数百メートル離れている王宮に一瞬にしてたどり着き、青葉の足場めがけて薙刀が振り下ろされた。

 

 

「ぐぅぅぉぉぉぉっ!?」

 

 

王宮の一角が轟音のとともに爆発霧散した。

瓦礫が市街地へと降り注ぐ。

自分の家だろうが迷うことなく破壊していく百鬼丸の姿は鬼のようだった。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

「ウォォォォォォォォ!!!」

 

 

百鬼丸と青葉の激しい斬り合いが交錯する。

2人が突撃して切り合う度に王宮の壁が抉れて無数の瓦礫が舞う。

二人の戦場は水の上を越え、ついに常盤國の城下に及んだ。

 

 

「うぅぅぅ………!!!はぁぁっ!!!ぜえゃぁぁぁっ!!!」

 

「はぁっ!せェやっ!」

 

 

すでに複数の家屋が倒壊していく。

百鬼丸の薙刀は刃に触れた柱を粉々に砕き、さらに風圧で離れた建物の屋根をひっくり返す。

 

しかし、それほどの猛攻の嵐を浴びせても、青葉の太刀筋が止まる様子は見られない。

むしろ青葉の動きはさらに加速していく。

 

 

(なぜだ、こんな相手、これほど手間がかかるはずがない………何がこの男を強くしている………?)

 

「焦りが見えてきたな。まぁ無理もない、俺の剣はお前を苦しめた月の都の太刀筋だ。長時間戦闘を続けるうちに、トラウマが蘇ってくる物だろう」

 

「だ……黙れ………誰が…………私は屈さぬ!!!」

 

 

百鬼丸は怒号を上げるがその動きは明らかに悪くなっている。

青葉ははじめのうちは百鬼丸の薙刀を受けてもなお負傷するはずだったのが、今では楽に受け流せるようになっている。

 

 

(違う…………この男は、全く強くなっていない…………!私の動きを見慣れたとは言え、これほどの優劣の変動、これは…………私が弱っているとしか…………!)

 

「認めん…………認めんぞぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「ほらよっ!!!」

 

 

そしてついに百鬼丸の薙刀がついに空を切ってしまった。

 

 

「カウンターの、一撃ィィィィィィィ!!!!」

 

「ぬぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

そして、待ちに待った青葉のターンが回ってきた。青葉は宙返りしながら百鬼丸の薙刀を回避すると、空中から刀を全力で叩きつけた。

 

百鬼丸の薙刀はそれを軽々と受け流したが、百鬼丸は大きく弾かれた。

 

 

「お前の弱点は心にある、お前の心が折れるより早くに、俺を仕留められなかったお前の負けだ、百鬼丸──────!!!!」

 

 

青葉が百鬼丸の懐に飛び込む。

そのまま振り上げられた神速の切り上げが百鬼丸が動くより早くに薙刀を弾いた。

反動で百鬼丸の身体が大きくのけぞる。

 

 

「う、うるさい!!!私の心が折れるなど、断じて…………!!!!」

 

 

しかし、百鬼丸の周囲に暴風が巻き起こる。

 

 

「なん…………だと……………おぉぉぉ!!!」

 

 

あと一歩というところで、青葉の身体が風圧で止められる。

 

 

「私のために散った命の数多!!!私の甘えで無下にするなど、1000年の時を経ても報われぬ我が民に対する最大級の無礼千万!!!彼らのために、私は…………屈しては、ならんのだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

 

百鬼丸の纏う暴風が爆発した。

 

 

「あと一歩だったのに、クソッタレぇぇぇ!!!」

 

 

成すすべもなく青葉は吹き飛ばされる。

 

 

「くっ…………………な………っ!?」

 

「アァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 

百鬼丸はなんと、倒壊した王宮の柱を抱え、青葉に向かって投げつけた。

 

 

「こいつ…………完全に暴走しているぞ…………!」

 

 

青葉の刀が投げられた柱を真っ向から叩き壊す。

 

 

青葉の背後には、いつの間にか百鬼丸の姿があった。

 

 

「…………………………私は…………!!!この常盤國を統べる王…………!!!ゆえに、民を守る責務がある!私はこの命に代えてでも、己が責務を全うする…………!」

 

(チッ……………何が命に代えてでも、だ。こいつ、まだ全く底が見えてこない。こいつ自身は真剣にやってるんだろう。だが、百鬼丸の能力があまりにも無尽蔵すぎて、戦闘中に平気で彼女の限界を超えていく。「成長株」ってこういうもんなのか…………)

 

「その責務がお前をこんなにも縛り付けたんだぞ、百鬼丸」

 

「………………………ッ!!」

 

「なぜ飯綱丸を捨てた。なぜ飯綱丸に一度でもお前の胸の内を打ち明けなかった?あの人は、お前のことを誰よりも分かってくれていただろう。お前にとってはとても大切な、多種族の友だ。王たるお前には鞍馬天狗の中に頼れるものなどない。だが、お前と対等の友であるのならば、いつでもお前に力をくれた。武蔵やナスビがそうであるように、」

 

「うっ…………違う…………」

 

「違わない。お前は間違っているんだよ、月面戦争の時からずっとな。お前の運命を狂わせたのは他ならぬお前自身だ。お前と飯綱丸があの時、悲しみを、苦難を分かち合えたのならば、お前の苦痛は二分の一にも三分の一にも減っていたろう。それをお前は…………何年かけた友情かは知らんが、信頼ならないと吐き捨てた」

 

「違う…………!!!飯綱丸は…………めぐみんは…………!!!」

 

「俺はぶっちゃけ言うとお前よりは友達がいる自信がある。今となっちゃ友達の一人もいないお前に、いま何ができる?お前はいま、俺を倒せなくて困っている。俺も、お前が何もわかってくれなくて困っている。そういうときに、最後何に頼ると思う?」

 

「…………………………くっ、くだらん…………くだらん!!!友情など───そんなもの………!!!」

 

 

 

「お前は色々失いすぎた。お前なりに国民から信頼は築いていたんだろうが、お前が救うべきだったのは、守るべきだったのはお前自身だったってことを今から俺たちが教えてやる、」

 

 

 

 

 

 

 

 

「青葉さーん!!!!」

 

「ようやく来たか!!!」

 

 

青葉のもとに一人の影が飛び降りてきた。

 

 

「貴様は……………」

 

「幻想郷の誇る天狗、射命丸文!ここに見参!です!」

 

「鴉が……………貴様が来たところで何ができる!!!」

 

「文だけじゃないよ………百鬼丸様、」

 

 

百鬼丸の前にもう一人の人影が降りてきた。

 

 

「なっ………………」

 

 

百鬼丸はその顔を見て止まった。

 

 

「百鬼丸様、もう………やめにしないかい?あんたの苦しさは、あたしが一番わかってるんだよ」

 

 

そこに現れたのは百鬼丸の右腕、武蔵。

 

 

「………………文、上手く手懐けられたようだな」

 

「はい……………彼女も、百鬼丸様を止めたかったんでしょうね」

 

 

 

 

「百鬼丸様……………あれからいろいろあったけど、あたしの言うことはずっと信頼してくれたよね。あたしは感じていたよ。百鬼丸様の信頼をね」

 

「武蔵……………」

 

「あたしが保証するよ。この人たちは悪い人なんかじゃない…………ナスビのこともあたしのことも助けてくれた。百鬼丸様…………あんたのことも、助けようとしてくれてるんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

武蔵の脳裏に浮かんだのはあるなんでもない日の出来事だった。

 

 

(ハッ!セェァッ!!!)

 

(わわわぁぁっ!?)

 

 

百鬼丸が空から地面に落ちてきた。

 

 

(百鬼丸様、大丈夫かい?)

 

(やった!これで通算私の100勝目だな!)

 

(ぐっふ…………そんな…………この私が100回も負けるなど…………)

 

(まーた弾幕勝負なんて。飽きないねぇ、龍ちゃんも百鬼丸様も)

 

(あぁ。飽きんな。いったい誰が考えたのだか、こんな面白い遊び)

 

(武蔵、弾幕勝負というのはなぜこんなにも私たちに不利なルール構成をしているんだい。これでは勝負にならないじゃないか、)

 

(あっはっは!そりゃ私たちが本気を出したらそれこそ遊びの領域をはみ出しちゃうじゃないか!縛らなければ逆に龍ちゃんにとって不公平さ、)

 

 

百鬼丸様、あん時……………あたしは教えたよ。

 

 

(百鬼丸様、勝負事ってのは楽しんだモン勝ちさ。結局のところは優劣を決めるもんとは言え、弾幕勝負は種族をつなぐ遊びなんだろ?接待勝負だと思えばいいさ)

 

(だが、私ばかり負けていてはつまらない、)

 

(そうかもね。でもね百鬼丸様、ご覧。龍ちゃん、あんなに楽しそうにしているよ。なんやかんやで、百鬼丸様も楽しそうに勝負していたのもあたしには見えていたよ)

 

(え…………?)

 

(友達ってのはいいねぇ。分け隔てなく話せるし、こうやってガチでぶつかり合ったりもできる…………龍ちゃんだって、最初は百鬼丸様との勝負で勝てるものなんてなかった。でも、百鬼丸様と一緒にやっていくうちに強くなっていったのさ)

 

(…………………………)

 

 

 

(友達が人を強くするんだよ百鬼丸様。友達は悲しみや辛さを分かち合ってくれるだけじゃない。嬉しいことや楽しいことも、そして力も分けてくれる。あたしはね、百鬼丸様。あんたの顔を思い出す度に強くなれるんだよ、それは力が強いとか足が速いとかそういうことじゃない…………守れるものがあって、それを守るために力を使える人っていうのは、勝手に一番強くなっていくからさ)

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────百鬼丸様、あたしはずっとあんたを守るためにやってきたんだよ。今までも、これからも…………あんたはずっと苦しんできた。もうこれ以上苦しむ必要がなくてもいい、もうこれから先はずっと幸せでもバチなんて当たらないくらいにね」

 

「う……………………」

 

「百鬼丸様は、縛られているんだろ?責任感とか、色々にさ。百鬼丸様はマジメだから自分が許せないんだよね…………だから自分という一番最初に救うべきだったものを自分で助けてやれなかった……………」

 

 

武蔵は主である百鬼丸に向かって太刀を向けた。

 

 

「だったら、あたしが百鬼丸様を救うよ。あんたが自分を許せないのなら、あたしがあんたを許してやるからさ。あたしは百鬼丸様の家族なんだよ?たとえ百鬼丸様が嫌と言っても、鎖でがんじがらめにされたその心からあんたを救い出すよ!」

 

 

武蔵の目から涙がこぼれてくる。

 

 

「武蔵さん…………………」

 

「……………………………………」

 

 

文と青葉はその様子を黙って見ていた。

 

 

百鬼丸は薙刀を握りながら震えている。

 

 

 

「あ…………ああ…………あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

百鬼丸が身体に暴風を再び纏う。

 

 

「貴様も…………貴様もか!!!お前も私が間違っていると申すか武蔵!!!お前だけは、私のことを…………分かってくれると思っていたのに…………!!!」

 

「わかるからだよ、百鬼丸様」

 

「黙れ!!!お前なんぞにわかるか、私のこの苦しみが!……………私は、王になんてなりたくなかったんだ!私はもっと、普通の暮らしをして…………普通の女の子として…………好きなものを食べて、甲冑なんかじゃなくて綺麗な着物を着て…………薙刀なんかよりも、風車なんかを振り回して遊びたかったんだ…………!なのに…………何が私をこんな場所に産んだんだ…………自分のしたいことは何もできない、自由も何もないのに永久に責任だけ問われ続ける…………!私には、そんな能力なんてないのに…………!執務はわからないからお前に任せてばかりだし、民にゴマ擦られてちやほやされたってなんにも嬉しくない…………私は…………ほんとは…………!」

 

 

百鬼丸は薙刀を地面に投げ捨てた。

 

 

 

 

「私は……新聞記者になりたかったんだ!!!」

 

 

 

 

百鬼丸は膝をついた。

 

 

「國の外に出て…………知らないことを…………もっと、たくさん調べて…………知らない場所の、知らない種族の暮らしを眺めて…………そんな暮らしがしたかったのに…………私は何も選べなかった…………それでも、与えられた使命だけは全うしようと…………頑張って………頑張って………頑張った!!!なのに…………」

 

 

 

「あんな、あんな一瞬にして…………私の大切な仲間たちがいなくなって…………自分は何もできなかった…………選んだ道でもない場所で、こんな無力感だけを感じさせられて!未だに己の夢も叶わず!古い時代に背負った業に苦しめられ、自分が誰なのかも分からなくなったこの私の苦しみを…………!!!いったい、私以外の誰に理解できるのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

百鬼丸が涙を流しながら絶叫する。

 

 

百鬼丸を中心に巨大な地響きが鳴る。

 

 

 

「まずい!!!百鬼丸の妖力が暴走しているぞ…………!!!」

 

「百鬼丸様…………あ、青葉さん!武蔵さん!どうにかできないんですか!」

 

「いやぁ…………これはもう…………無理かもしれないよ…………他でもない百鬼丸様の苦しみだもの。綺麗事並べ立てたって、彼女以外にその苦しみが分かるはずがない。百鬼丸様はもう……………」

 

 

 

 

 

百鬼丸の手に薙刀が入る。

 

薙刀が薄緑色に光を放つ。

 

 

 

「まずい…………アレは…………!!!」

 

「何がまずいんですか?」

 

「百鬼丸様の膝切…………!!!」

 

「膝切ってまさか…………最終兵器の…………」

 

 

膝切は百鬼丸、武蔵、ナスビの三人が持つ鞍馬天狗の持つ術の秘奥。

薄緑色に光る薙刀をやり投げの要領で投げ飛ばし、強烈な妖力のエネルギーを周囲に爆発として撒き散らす破壊の矢である。

 

 

「あたしとナスビの膝切なんてあれに比べちゃ爪楊枝みたいなもんだ。なんせ百鬼丸様の膝切は、月面戦争で幻想郷側と月の都側の両方に大ダメージを負わせるほどの、戦争終了兵器だからね…………」

 

「そ、そんなのが投げられたら…………!!」

 

「妖怪の山は消し飛ぶのは当然。それどころか、幻想郷の環境が丸ごと変化しちまう。もしかしたら………幻想郷が更地になるかもね…………」

 

「何とか止める方法はないのか…………!!!」

 

 

そうこう話している間に百鬼丸の薙刀に妖力が込められていく。

 

 

「もういいんだよ…………全部、終わりにするんだ…………私も…………この國も…………私を産んだこの世界も…………」

 

 

 

 

ラストワード、

宝剣膝切(ほうけんひざきり)(あらため)薄緑之太刀(うすみどりのたち)鬼切丸(おにぎりまる)〜』。

 

 

百鬼丸の持つ最強の技。

膝切の真名、薄緑之太刀。

武蔵やナスビの膝切も、所詮はこれの低品質の量産型に過ぎないのだ。

月面戦争を終わらせた絶滅の流星。

 

それが今、幻想郷のど真ん中で打ち上げられようとしていた。

 

 

三人は必死に止めようとするが、溢れ出す膨大な妖力の壁と、百鬼丸の周囲に巻き起こる嵐に阻まれて近づくこともできずにいる。

 

 

「ヤバいヤバイヤバイヤバイ…………!!!」

 

「止める方法は何かないのか…………!!!」

 

「このままじゃ…………幻想郷が…………!!!」

 

 

百鬼丸が大きく腕を振りかぶる。

 

 

「いや、無理だ!!これはもうどうしょうもない!!2人とも、可能な限り遠くへ逃げるんだ!!死ぬよりは良い!!」

 

「そ、そんなの…………!!」

 

「まさか…………ここまでなのか…………!!!」

 

 

 

「……………『宝剣膝切改薄緑之太刀〜鬼切丸〜』」

 

 

百鬼丸が薙刀を天空に向かって投げつけた。

 

 

「あ…………………」

 

「あ…………………」

 

「あ…………………」

 

 

 

百鬼丸の薙刀は空を切り裂き、あの星空の中に消えていく。

緑の流星は射線を絞り、落下地点めがけて星空の彼方で向きを変えた。

 

 

標的は定まった。

妖怪の山の真ん中。

もう発動してしまったものを止めるすべはない。

落下してくるのは避けられない。

希望があるとすれば落ちてくる流星を受け止めて防ぐこと。

 

否。そんなこと、絶対にできるわけがない。

空から降り注ぐ流星を防ぐなんて、絶対にできない。

 

こればっかりは青葉もどうしようもない。

 

 

静かに滅びの時を待つしかない。

残された猶予は何秒だか。

その何秒のうちに、幻想郷すべてが燃え尽きてしまい、あらゆる歴史が無へと戻っていくその一瞬。

 

終わりを確信するまでもなく幻想郷は滅びるだろう。

逆に関係ない人にとってはそれのほうが救いであるとも捉えられるのか。

いや、それではならないのか。

 

まぁ、そんなことはともかく────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「百鬼丸───────!!!!!!!」

 

 

その時、物理と歴史を超越した驚愕の現象が巻き起こる。

最強の妖怪である百鬼丸の薙刀を止めることはできない。そればかりか空から降り注ぐ流星など。絶対に止められるわけがない。

 

だが、百鬼丸の投げた薄緑は、今も星空のただ中を漂っているではないか。

まっすぐ落ちてくるはずの流星が、渦潮に揉まれたように、星空の中を泳いでいる!!!

 

 

 

 

 

「青葉さん!!!武蔵さん!!!あれ!!!」

 

「え…………?」

 

「なぁぁぁぁっ!?百鬼丸様の薄緑が止められたぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 

星空の中を泳いでいる薄緑は、当分こちらに落ちてきそうな様子が見られない。

 

 

「な…………なぜだ…………私の…………薄緑が…………」

 

 

過去一番の予想外に、完全に呆気にとられている百鬼丸がいる。

 

 

その真正面に、新たな来客があった。

 

 

 

「百鬼丸──────!!!」

 

 

「─────ッ!!!お前は……………!!!」

 

 

そこに現れたのは、青い服と黒いマントの天狗が一人!!!

 

 

 

「百鬼丸!!私の話を聞いてくれ!!」

 

 

大天狗、飯綱丸龍────!!!!!

 

 

「飯綱丸……………貴様、なぜここに、」

 

「はたてが念写でお前を追ってくれた。それより、お前……………何を使おうとしていた!?私が星空を操ってお前の薙刀を星の軌道の中に閉じ込めなかったらえげつない妖力が幻想郷に着弾していたんだぞ!?」

 

 

 

「飯綱丸様だ!!!」

 

「そうか、星空を操って薄緑の軌道を反らしたんだな」

 

「か、間一髪じゃないか…………やるねぇ龍ちゃんも、」

 

 

飯綱丸は百鬼丸の正面に恐れず立つ。

 

 

「…………………百鬼丸、言葉はいらない。お前には色々と因縁もあるし、積もるものも色々ある。だから、お前とはここで決着をつける!!!」

 

「貴様のような一般人上がりの鴉風情が、この私と一対一で決着をつけるだと?傲慢ここに極まったな飯綱丸!」

 

「まぁまぁ…………そう殺気立つな百鬼丸。お前も幻想郷に住む妖怪なら分かるだろ?私はお前に、この幻想郷のしきたり、弾幕勝負での決着を申し込む!」

 

「飯綱丸様!何を…………!」

 

 

 

 

「何を言い出すかと思えば…………!!!そういう事はあの薄緑を止めてから言え!!!」

 

 

百鬼丸は飯綱丸を力強く威圧したが、飯綱丸は足一本下がらず、むしろ不敵に笑いながら前に出た。

 

 

「上等!!!!手加減無用だ!!!!」

 

 

飯綱丸は三脚を投げつける。

 

 

「なんだと…………!」

 

 

その言葉が予想外なのか、三脚を投げてきたのが予想外なのか、百鬼丸は投げられた三脚をモロに受けた。

 

 

(俺があんだけ苦労して一発も食らわせてないってのに………初めから飯綱丸が出たほうが良かったんじゃないのか)

 

 

 

 

「この分からず屋が………!!!貴様もろとも、この山をゴミクズ同然にしてくれるわ!!!」

 

「やってみろ!!!星空は私の一方有利だ!お前の薄緑を、この星空の中で止めてやる!!!」

 

 

飯綱丸の言葉とともに星空が回転を始めた。

その中に無数の流星群が飛び交い始めた。

 

 

「思い上がるな飯綱丸!!!貴様のようなひ弱な存在に、いったい何ができると……………何っ!?」

 

 

百鬼丸が星空を見あげて絶句する。

 

 

「なぜだ、薄緑の勢いが弱まりつつある………だと………!?」

 

「お前の薄緑に向かって、回る星々とその合間を縫う流星群の数々が体当たりをしているんだよ。お前の薄緑を星空で止めると言っただろう?このまま、薄緑の勢いを削ぎ落としてしまえば、着弾の心配も爆発の心配もない!」

 

「させるか──────ッ!!!!!」

 

 

百鬼丸も負けてはいられない。

自身の無尽蔵の妖力を薄緑に供給しようと試みる。

だが、あまりにも距離が離れてしまっているせいで効率が悪くなっている。

百鬼丸の肉体から薄緑に移るまでの間に、妖力が空気中に流れ出たり、そもそも妖力が距離を移動することに妖力を消費するせいで全く行き届いていない。

それでも彼女は己のありったけを振り絞っていた。

 

飯綱丸の能力に消費する妖力は、百鬼丸が星空の中にある薄緑を動かす妖力に比べると限りなく格安。

なぜなら、飯綱丸の妖力自体が星空。

百鬼丸は無線で遠隔操作しているが、飯綱丸は有線で接続されているのだ。

 

 

「オオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」

 

 

まさに意地と意地のぶつかり合い。

 

連戦の数々と過度のストレスと感情の起伏で、体力的にも精神的にも疲弊しきって、妖力すらも尽かそうとしている百鬼丸。

方や、体力的には限界をとうに超えているが、みなぎる決意と友である百鬼丸への熱い想いが、無限の精神力となって未だ湧き上がり続ける飯綱丸。

 

 

(ぐすっ…………うっ………ずずっ、)

 

(めちゃくちゃ禍々しいオーラがでているところを探すんだ!それだけだ!)

 

(ん〜、あと5分だけー。いいだろー、寒い)

 

(仲良くやろう!そして怪我なくな!はい作戦会議終わり!)

 

 

飯綱丸はどこか頼りなさが目立つ上司ではあったが、百鬼丸の一件が明らかに彼女を強くした。

もう、今の飯綱丸の精神力は百鬼丸にも劣らない。その圧倒的な力と妖力は、山を治める大天狗の一人として全く不足のない莫大なエナジーだった!

 

 

「が…………ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

血涙を流し、口から血反吐を垂らしても飯綱丸は気合を止めない。

星間を矢のように貫く薄緑が減速し始めた。

 

 

「ば…………馬鹿な…………私の…………薄緑が……………」

 

「これが、私の…………!『スターライトイズナドロップ』だッ!!!」

 

 

無数の流星が束となり、一条の巨大な光になる。

青白い光の矢は薄緑を真っ向から叩き伏せる。

 

 

「そんな…………私の……………覚悟、が……………!!」

 

「いぃぃぃぃっ、けェェェェェェェ!!!!」

 

 

飯綱丸の攻撃が、百鬼丸の薄緑を真っ向から押し返す!!!

 

 

「うぅぅぅぅ……………っ!!!」

 

 

「百鬼丸────!!!お前が何と言おうと、お前に何度拒まれようとも………!私は、お前の…………親友だ!!!」

 

「飯綱丸………………!!!!」

 

「お前が道を踏み外した時は、いつでも駆けつけ、正す!!!それが、親友だ………!!!」

 

「親友…………私は…………!!!」

 

 

気がついた時、すでに流れは飯綱丸が持っていた。

薄緑は、真っ向から迫る青白い巨大な力に耐えきれず、どんどん押し返され、勢いを弱めていく。

不思議なのは、それでも薄緑のほうが何百倍も、何千倍も力強い妖力を持っていることだ。

明らかに攻撃としては薄緑のほうが圧倒的に優れていて強烈なものだ。

それを飯綱丸の流星が押し返しているのは、質量的な問題でも、速度的な問題でも、また妖力の量の問題でもなかった。

 

 

「百鬼丸!絶望に身を任せるな!お前という心の闇に負けるな!敗者とは、自分で自分自身を見限る者のことだ!」

 

 

「め……………ぐ………………っ、」

 

 

 

 

 

 

「百鬼丸────!!!いつだって、お前には私が、ついている─────!!!」

 

 

 

───────ガラスが割れるように、

 

 

───────薄い氷に湯をかけたように、

 

 

───────悪しき記憶が溶け消えるように、

 

 

薄緑が割れて砕けた。

 

 

「………………………………………………」

 

「………………………………………………」

 

 

飯綱丸の流星も霧散した。

全力の一撃は相討ちだった。

 

両者ともに、全く動ける状態じゃない。

弾き返され、ラストワードの反動もある。

この間の2人ならば、誰でもトドメをさせるだろう。

しかし、この距離離れていて、2人とも弾け飛んだのなら、この勝負は百鬼丸の粘り勝ちだ。

百鬼丸の体力ならば、消耗しきった飯綱丸を仕留めることなど容易い。

百鬼丸の力なら、2秒もあれば復帰できる!!!

 

 

 

 

 

だが、2秒では、遅い──────!!!!!

 

 

 

 

 

「未だ──────文ァァッ!!!!」

 

「───────はっ!!!」

 

 

飯綱丸の絶叫と共に、文の周囲に暴風が巻き起こる。

 

 

「文ちゃん!!!あたしからも頼む!遠慮はいらない、百鬼丸様に、お目覚めの一発、キツいの食らわせてやってくれい!!!」

 

 

武蔵も文にありったけの声援を送る。

我が主を助けてやれる、絶好にして最終最後のチャンス!!!

 

 

「はい!!!行きます─────!!!」

 

 

文の翼が開く。一瞬にして前傾姿勢が取られる。

 

 

空気を蹴る。

直線に射程を絞り、ルートを定める!

 

ルートはもちろん百鬼丸までの、一直線!!!

そして狙う箇所は、もう決まっている!!!

 

 

「文!!!こいつを使え!!!」

 

 

青葉が自身の模造刀を文に投げ渡す。

青葉の唯一の武器。これがなければ青葉は何もできない。

百鬼丸が立ち上がろうものなら一撃も防げずに死亡する。

 

だが、青葉の頭の中にはそんな未来は想定されなかった。

文を信頼し、すべてを託した一発。

 

 

文はそれを力強く握りしめた。

 

 

 

結論から言うと文より速い者はいる。

それこそ百鬼丸などがその例だ。

文は幻想郷最速を謳うが、それは彼女の風来坊さを表す比喩だ。

 

 

しかし、直線距離の飛行での最高速度。

それに関しては、たしかに彼女の右に出る者はいない!

 

 

 

「───────『無双風神』!!!」

 

 

あまりの圧倒的速度で文の姿が消えて、代わりに彼女の影は一条の赤いレーザーへと姿を変えた。

 

 

現場にいる全員に視認ができなかった。

刀を握った文は刀を振ることもなく、ただ刀を横向きに構え、そのまま刃のない刀を押し付けるようにして百鬼丸に突進していった。

 

 

狙いはもちろん、百鬼丸の弱点、右脚の脛。

 

 

「ぐ─────────────っ、」

 

 

文の神速の突進に連れられて百鬼丸は一瞬にしてその場から消失。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ────ッ!!!」

 

 

矢でリンゴを射るように、文と百鬼丸は常盤國の王宮を一直線に、大穴を開けながら貫いた。

 

 

 

隕石が落ちたような土埃の爆発が巻き起こる。

 

 

 

 

 

「うっ……………………!!!!」

 

 

衝撃で大ダメージを負った文は、受け身も取れず、傷だらけになりながら無様に地面を転がされる。

 

 

「くっ…………………」

 

 

文は身体中を擦りむき、打ち付けてボロボロになった身体でも最後の力を振り絞って立ち上がった。

 

 

 

「ぐ……………ぁ……………………っ、」

 

 

長距離にわたって、ブルドーザーでも通ったかのような轍を作ったその先に百鬼丸はうつ伏せに倒れていた。

 

震えながらもなんとか立ち上がり、復帰しようとする百鬼丸だが、弱点である右脛に今までの戦いの中でも受けなかったような一撃を受けてしまい、立ち上がろうにも立ち上がれない。

 

 

「う、っ…………………!!」

 

 

百鬼丸は這うようにしながら、目の前に立つ文を見あげる。

 

 

「─────────────」

 

 

文は黙って百鬼丸を見ていた。

 

 

「───────うぐぅ…………」

 

 

そして深手を負い、百鬼丸はついに両手で這う力すらもなくなってその場で倒れた。

 

 

 

「えっ…………?もしかして、私、やっつけちゃった…………!?」

 

 

自分が一番信じられない結果に、文自身が一番驚いた。

 

 

「私が…………やっつけた………?最強の天狗を………?やっつけたの………?私が…………?」

 

 

しかし、彼女の手は無意識に手帳を開き、ペンを握りしめていた。

 

 

「だ………ダ………大スクープですよ!!!次回の新聞の1面は!!!もう決まりましたよ!!!私、射命丸文の!!!自分語り!!!これで!!!決まったぁぁぁぁぁーっ!!!」

 

 

文句なしの大金星だった。

 

 

「射命丸文!!!敵将・常盤百鬼丸繰経、討ち取ったり─────!!!!」

 

 

 

文の強烈なガッツポーズと勝利の雄たけびが、常盤國のど真ん中で響き渡った。

 

 

 

 

 

 

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