東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

130 / 161
傷を負った街に檻は翔ぶ

 

 

妖怪の山に朝が訪れた。

 

 

昨日起きたことを簡単にまとめるとしよう。

 

 

まず、妖怪の山で唯一といっていい孤立した種族であった鞍馬天狗と鴉天狗の戦争が巻き起こった。

鞍馬天狗側は鴉天狗の少数の精鋭を前に敗北を喫し、大将の百鬼丸は、鴉天狗の飯綱丸と和解。

1000年におよぶ鞍馬天狗と鴉天狗のわだかまりにはついに終止符が打たれる。

 

 

しかし、時を同じくして鴉天狗の御湯殿いづなが放火、襲撃を受ける。

被害は御湯殿いづなのおよそ6割。

半分以上の建物が焼失し、温泉観光どころではなくなった。

 

すぐさま復興対応に見舞われることになる。

 

 

さらに……………御湯殿いづなに観光に来ていた神門青葉が昨夜より行方不明になった。

モーガンという御湯殿いづなを襲撃した一味のうちの一人が青葉を連れ去った。

 

こうして、一次的に御湯殿いづなは崩壊から免れ、住民の迅速な避難対応により無事に死傷者も奇跡的になく次の朝を迎えることができたが…………

 

 

 

 

「………………………………………」

 

 

だが私、上白沢慧音は満足には眠れなかったのだ。

 

 

「ふわぁぁ…………おはよ、慧音」

 

 

なんの偶然か、妹紅も私と同じく朝七時に起床した。

外には明るい朝日が差し込む。

 

ホテルのバルコニーから眺められる景色はのどかな山の緑が拝める。

せめてこの景観だけは損なわれなかったことが嬉しいのか。

 

 

「オオバのやつ、どこいっちまったんだろな………アイツのことだからしぶとくやってるだろうけど、」

 

「そうだな…………だが、このままでは行けない」

 

 

親友を連れ去られて、私としては落ち着ける状態ではない。

 

 

「うぐ……………」

 

「慧音!?おい、無理はすんなって。昨日は満月だったんだろ?慧音だって体力すげぇ使ってるはずだ」

 

「あぁ…………ありがとう、」

 

 

早いところ青葉を助けに行ってやらなければ………でも、どうしたらいいのだろうか。

居場所もわからないのに、助けに行くなんて。

それに、こんな状況で、青葉のことを真っ先にすべきだろうか。さすがに御湯殿いづなの復興が優先されるだろうか。

 

今この状況で助けに行こうとしても、やはりこちらの陣営を壊されるだけだ。

それなら…………

 

いや………それでも、友達を見捨てるなんてそんなこと………

 

 

「私ちょっと降りてくるわ。慧音なんか帰り際に買ってきてほしいもんとかある?」

 

「い、いや。いいよ、ありがとう」

 

「そっか、」

 

 

妹紅は部屋から出ていった。

 

私はもう一度ベッドで横になる。

 

 

「──────青葉、」

 

 

お前は今、どこで何を………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァっ!?ちょっオイ待て!大天狗!今、なん

つった!?」

 

 

だが、青葉が消えたこともまた無視できない問題であり、それを理解していたのは私たちだけではなかった。

 

朝の会合では飯空Projectの大半のメンバーが集合していた。

参加できなかったのは、体調不良の御劔一千子と不在の神門青葉。

 

静観とした気分で迎えた朝食にはいきなり安曇の怒号が響き渡る。

 

 

「おいおい安曇………そこまで怒るんじゃあない。大天狗だって、考えた上で決めたんだ。私たちもそれに異論はない」

 

「山如は黙っていやがれ………俺は大天狗に訊いてんだ。こんな時に、オオバを見捨てるって言ってやがんだぞコイツは………!!!」

 

「安曇………落ち着くんだべ。大天狗は青葉を見捨てるとはひと言も…………」

 

「だったら!今からにでも助けに行かなくちゃいけねぇだろがよ!街なんて明日にでも明後日にでも直せぁいいじゃねぇか!オオバの身柄は、今どうなってるかもわかってねぇんだぞ!今日中に死んじまったりでもしたら、アンタ責任取れんのかよ!?アンタそれでも大天狗か!」

 

「………………あ………安曇…………」

 

 

「や、やめるんだ………!」

 

 

部屋から食堂にやってきていきなりその惨状をみた私はすぐに止めに入る。

安曇はこうなるとヒートアップしてしまう。

このままでは仲間までバラバラになってしまう。

 

 

「安曇、よく考えてみるんだ。今御湯殿いづなは6割も燃やされた。こんなんでは観光客も安心して過ごせない。またいつあいつらの奇襲を受けるかも分からない。今は街を立て直して人々を守るほうが大事なんだ。わかってくれ、」

 

「いいや!分かんねぇな!次に奇襲受けりゃこんな小さな街、更地にされて終いだ!街に柵でも作るってか?ボロ木で柵なんか立てようが大人6人かかっちまえば終いだ。街を守れるのは俺らだけだろ!?オオバなんて最前線で百鬼丸とやりあった最優先戦力だろーが!昨日街が助かったのは、オオバの身柄があったからだ!連中はなんでかしらねぇが、オオバを捕まえたら満足して帰っていった。アイツらはオオバに何かさせる気なんだよ。それを許しちまうのが今一番駄目な事だろうが………!大天狗………なんでテメェはいっつも一番大事なことが見えねぇんだ………俺たちゃ仲間を一人取られたんだぞ!それ黙って見ておいて、なにがビジネスだ!」

 

 

安曇が言い過ぎたのもある。

だが、飯綱丸も飯綱丸で、彼の言ってることには思いがあった。

 

飯綱丸は机に拳を叩きつける。

私だけじゃない。飯空Projectのメンバー全員が、初めて飯綱丸が怒った瞬間を見たのだ。

 

 

「わかってるんだよ………そんなこと!お前こそわかってない!私は青葉だけじゃない、この御湯殿いづなまで失ってるんだぞ!これを作るのに、どれだけの時間と労力をかけたか………ここに住まう人たちのことをどれだけ考えてきたか………お前にはわからんだろ………!私の考えることは一つや二つじゃないんだよ………!青葉が攫われただけなのならば、私だってそうした………でも、それができないからこうするしかないんじゃないか………!飯空Projectの人数では………できることに限りがあるんだ。この人数じゃ、物事に順序をつけていかないといけないんだ………!!」

 

 

飯綱丸の声に安曇は怒り返すこともしなかった。

怒りより呆れが出てきたのだろう。

 

 

「ふん。そうかよ………もう知らねぇな。アンタは無能だが、それでも頑張るってガッツだけは信じてた。だってのに………今のテメェは人望も尽かしたぜ」

 

 

安曇は余ったご飯をかき込むように食べきって立ち上がり、背中を向ける。

 

 

「ご馳走さんネムノ、最後まで美味かったぜ」

 

「あ、安曇さん!」

 

「どこへ行かれるのですか!」

 

 

文と椛が安曇を止めようとするが、安曇は上衣を羽織る。

 

 

「──────ここを出るんだよ。もう限界だ。テメェらには付き合ってらんねぇ。昔っから誰かにこき使われるのは嫌いだったが、使えねぇヤツの下で働くのはもっとシャクなんでな。俺はオオバを助けに行く。飯綱丸が助ける気もねぇってんなら、俺は飯空Projectを抜けて、俺のすべき事をする。そんだけだ、」

 

 

安曇は早歩きで私の横を抜けて、部屋から去った。

 

 

「あ、安曇…………!」

 

 

山如は追いかけようとするが、ネムノに止められた。

 

 

「アイツに強制する権利は私らにはないべ………それに、こんな状況で引き止めてもロクに働いてくれねぇべ。アイツには、アイツのできることをさせたほうがいい」

 

「安曇……………」

 

 

 

「─────ふん。せいせいした………前々から私のことを好き放題言って………どうせ彼には何もできまい。夕方にはノコノコ帰ってくるさ。起きたことは仕方ない。気にせず行こう、」

 

 

飯綱丸も完全に知らんぷりだ。

青葉と続いて、安曇が離脱してしまった。

 

 

「おっと…………すまないな見苦しいところを見せて。おはよう慧音…………」

 

 

 

「─────────っ……………」

 

 

できない。

安曇をあのままにしておくなんて。

それに、青葉のことだって…………!!!

 

 

「すまん!すぐに戻る………!!!」

 

「ちょっ!慧音!?」

 

 

私は仲間たちから離れ、出ていった安曇を追いかけていくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────上白沢慧音、化野安曇、

 

  飯空Projectより離脱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────ん、」

 

 

私はいづな旅館を出た所で、安曇が膝をついているのを見た。

 

 

「安曇!」

 

「………………慧音先生か、」

 

「へっ………情けねぇよなぁ。あんな大口叩いといて少し走っただけでこのザマだ。昨日、ナスビとの戦いで貰いすぎて、ホントは戦える状態なんかじゃねぇ」

 

 

なんでその身体で無茶をしたのか意味不明だが、男というのはそういう生き物だ…………

 

 

「止めてくれるなよ慧音先生。俺は何が何でもオオバを助け出す。手遅れになってからじゃ遅ぇ。飯綱丸には半ば突き放す形で言っちまったが、そうでもしねぇとあの空気からは逃げれねんだよ」

 

「あぁ…………わかるぞ…………私だって、青葉のことは助けなければ…………」

 

「おいおい意外だな。真面目な先生がまさかこっち側とはな。俺って案外、正しいこと言ってたか?」

 

 

正しいとかではないと思う…………

というより、どう考えても悪いのはお前だろう。

 

だが、そういうことでもない。

 

 

「青葉は私をかばったせいで攫われた。なら、私のすべきことは責任を持って青葉を助けることだ」

 

「へぇ、あのお堅い慧音先生が味方とは心強い。さ、行こうぜ。街の復興は飯綱丸たちに任せる」

 

「だが…………どこへ行けばいいんだ?」

 

「それについちゃ、知ってる奴がいるかもしれねぇ。聞き込みすんだよ、聞き込み」

 

「地道な作業となりそうだ…………」

 

 

私は安曇に続き、御湯殿いづなを出る。

だが、意外にも安曇の足取りは素早かった。

どうやら何か心当たりがあるのかもしれない。

今は頼れるのが彼しかいない。

彼に頼るのはどうにも心配だが、熱血バカだ。やると決めたことは最後まで折らない強みがきっとそこにある。

 

今は…………彼を信頼するしかない……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…………………」

 

 

俺は……………なにを……………

 

ここは……………

 

 

「──────────────」

 

 

目が覚めた時…………俺は平原に立たされていた。

 

 

「…………………………………………」

 

 

昼間の日差しが降り注ぐ広い大地に寝そべっていた。

空は青く、高き雲は流れ、日は明るく暖かに地を照らす。

草茂る大地を抱く俺は、昼寝から覚めたように起き上がった。

 

 

「───────ふふ、」

 

 

気持ちのいい風だ。

これほどに広くのどかな場所があっただろうか。

 

見てほしい、小鳥がさえずり、俺の右手にとまった。

 

 

「ふふっ……………」

 

 

可愛い小鳥だ。

俺の手にとまったと思ったら、腰を下ろして羽根を休めた。

 

 

「君は、どこから来たんだい?ここには木もないから、君には生きづらいと思うけど」

 

 

俺の憂いも気にせず、小鳥は俺の手の中に埋もれている。

 

 

「……………可愛いね」

 

 

俺はすでに手の中でハラワタぶちまけて死んでいる鳥の頭を優しく撫でた。

 

 

「…………?どうしたんだい、死んでしまっているけれど…………」

 

 

俺は君を乗せただけだけど、君はどうして潰れて死んでいるんだい。

俺は別に君を握り潰したりなんてしていないし、殴りつけたりもしていないのに。

 

 

 

「───────────────」

 

 

 

不穏な空気が流れる。

冷たい風が流れ、草花の香りは血の臭いへとかわりゆく。

 

空は赤金色に染まり、流れる雲は黒く、太陽を陰らせた。

 

 

「な………なんだ…………っ………うわぁぁぁっ!?」

 

 

俺は自分の手の中で全身をぐちゃぐちゃにして死んでいる小鳥を慌てて投げ捨てた。

 

 

「な………ななな…………なにが起きて………」

 

 

気がつけば、俺は周囲を取り囲まれていた。

草花の茂る大地は気がつけば無生の荒野と化していた。

 

 

「………………君たちは…………あれっ?」

 

 

 

 

俺を取り囲んでいたのは、はたてさん?

 

あれは、椛さん?

 

駒草太夫?ネムノさん!

 

にとりや、たかねに…………

 

文さんに飯綱丸様まで!

 

 

 

………………妹紅と安曇と慧音さんがいないけど、皆無事なようだ。

 

 

 

 

「みんな、無事だったんだね!よかった!」

 

 

 

だが、気がついたら俺は彼女たちに取り囲まれていたはずが、俺は身体を失い、空からそれを俯瞰していた。

 

 

「な……………っ!?お、俺の身体は!?」

 

 

俺が見下ろすその真下には、俺と同じガワをかぶった男が立っていた。

 

 

「お、おい…………!?」

 

 

俺は慌てて周囲を見渡し、自分の身体を触ろうと両手を必死に振り回す。

 

だが、俺の身体はない。

いや、腕や足を振り回している感覚すらもない。

 

あるのは意識と、『俺は観ている』という事実だけ。

 

 

 

見渡せば、彼女たちだけじゃない。

俺の見知った顔によく似ている妖怪たちが俺のことを取り囲んでいるじゃないか。

 

 

そういえば、さっきのみんなも、顔はよく似ていたけど何か、地味に違ったような…………本人とは別のような…………まるで兄弟か父母のような?

 

 

「ど、どういう………………」

 

 

なぜ俺が二人いる?

そして、なんで皆が集まっている?

なんで空の様子がおかしくなったんだ!?

 

いろいろな疑問を抱えている俺のことは誰も気がついていない。

 

 

 

「────────────」

 

 

その時、真下にいる『オレ』が刀を抜いた。

 

その白刃、空に鋭く光る。

 

それは間違いなく─────真剣!!!!

 

 

「お、おい!何をする気だ!?やめろ!!!」

 

 

嘘だ俺の剣は模造刀だったろう!?

猛烈に嫌な予感がした俺は必死に叫びかけるが、真下にいる神門青葉含めてほかの誰にも俺の声は届いていない。

 

 

「ハハハ………………」

 

 

オレが…………不気味に笑っている。

 

 

「妖怪は………皆殺しだぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

そう言って、オレは刀を振り上げて真正面にいる射命丸文を縦に切り下ろした!!!

 

 

「ああっ…………!!!!文さん!!!!」

 

 

文さんによく似た人影は脳天から股下まで両断され、一撃で絶命した。

 

それを受けて、オレを取り囲む他の妖怪たちも一斉にオレに襲いかかる。

 

 

 

「お前たちも…………人間を襲う(あやかし)か!ならば…………すべて、この場で血煙と化すがいいさ!!!」

 

 

オレは手にした刀を自在に振るい、四方八方から迫る妖怪の大群たちを次々と斬り殺していく。

 

 

「あぁ………あぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 

見知った命を息をするように斬り殺していく俺は、自分の姿を信じられなくなる。

 

 

「やめろ…………!!!やめてくれぇぇぇ!!!」

 

 

叫びが届かない、手も足も出ない。

見ていることしかできない。

目を閉じたいのに、目を背けたいのにそれすらさせてくれない。

 

 

まるで、「現実を見ろ」と強制されているように。

 

 

何もすることができないこの自分を呪いたい。

 

 

 

「はーっはっはっはーッ!!!!!」

 

 

恐ろしいことに、今の俺は俺よりも強い。

剣技も、纏う妖力も…………何もかも違う。

ほんとうに自分なのか、自分の力を疑うほどに強大で、暴虐だ。

 

 

どいつもこいつも原型を留めていないせいで誰の死体かはわからない。

片っ端から妖怪を捕まえて斬り殺しては、中身を引きずり出して潰していく。

 

 

「あ…………………ぁ………………………」

 

 

やめてと言ったのに…………なんでそんな事をするんだ。

 

俺の仲間を…………彼らに何の罪もないのに…………

 

 

 

「ハァ───────」

 

 

だが、俺は信じられない光景を目にする。

 

 

「ぅ………、…そ、だ……………」

 

 

俺は逃げることすら覚えずに俺をつけ狙う妖怪たちに襲いかかり、組み伏せたあとにその身体を噛みちぎり始めた。

 

 

「────────────────」

 

 

俺は……………俺の仲間を……………食ってるのか?

 

殺すなんてもんじゃない…………食うなんて……………

 

そんなの、許されることなのか…………?

 

 

 

「あぁぁ……………うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

目の前で、何もできずに…………目の前で、見知った仲間が、俺と同じ見た目をした俺自身に殺され、食われ…………

 

 

「終わりだ……………妖怪ども………………」

 

 

赤い空から雷鳴が振り注ぎ、血の雨の中、嵐のなかに俺は佇んでいた。

 

 

「───────アァ……………っ、」

 

 

その俺が見据える先に、安曇たちがいた。

 

 

「うっ……………ぶごっ……………」

 

 

この世のものとは思えない惨状に、俺は咳き込む。

猛烈な嘔吐感に誘われてもなお、俺は目を背けられない。

 

なぜなら、そこにいる俺は俺なのだから、目を背けられるはずがない。

 

俺は初めから何も見ていない。

 

俺が見ているのは、俺が見ているものだからだ。

 

 

 

 

「俺は──────なんなんだ……………俺は─なんなんだ……………!!!!!」

 

 

自分で自分がわからなくなった俺は─────

 

 

 

 

 

「……………見えたろう?それが、全ての歴史の始まりだ………」

 

 

俺は気がつけば─────あののどかな平原に立っていた。

 

手の中で、クチバシで羽を手入れしている小鳥を見つめる俺の背後には、あの男がいた。

 

さっきまでの光景はすべて嘘のように消えていった。

 

 

「オマエは…………なんて悪趣味な夢を見せやがるんだ…………この、ド外道が!!!」

 

「ド外道…………はは、たしかにそうであるかも知れんな…………」

 

 

また、あの男だ。

俺によく似た姿をしている……………人の頭骨ほどの大きさの水晶を手にした男だ。

 

 

「たしかに俺は外道だ。他でもない、お前と同じ外道だ。お前が見たものと同じ、外道だなぁ…………」

 

「嘘だ…………そんなはず…………俺は、生まれてきてから、誰かを殺したことなんて…………ない…………!!!」

 

「あぁ。そうだな?お前は何も間違っちゃいない。お前は誰も殺さなかったし何も誰も殺さなかった。だが…………お前じゃない俺はどうだろうな?お前になる前の俺ならば、どうだったろうな?」

 

「何を言ってる……………!?」

 

 

オレオレオレオレ煩いやつだ…………!!!

 

 

「フフフ…………まだ知らなくていいんだよお前はよ、知ってもお前は耐えられないし知らないほうがお得だよなぁフフン…………」

 

 

視界が、黒く落ちていく。

 

 

去り際に、奴はひと言残していく。

 

 

「──────人の上に立つ事ってのは、随分と重い事なんだぜ…………今のお前が思っているよりはな…………」

 

 

引き止める間もなく、俺はその場から消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ…………ぅ……………ぉ………………お、お゙え゙え゙っ…………」

 

 

俺は血の混じった胃の中身を吐き出しながら地面に激突した。

 

 

「が………がほっ、がほっ…………うっ………」

 

 

ゆ、夢か………………なんつう悪趣味な夢だ……………

 

俺が…………仲間のみんなに似た人たちを襲って、斬って、食う夢……………

 

 

「────────────」

 

 

床には手錠のような拘束具の破片が散乱していた。

俺の背後の壁には金具と鎖が取り付けられている。

 

どうやら俺は先ほどまで、ここで監禁されていたようだ。

 

 

「う、ん……………」

 

 

ここは……………

 

 

「………………………………………」

 

 

俺は冷静に状況を分析する。

とにかく、まずここがどこなのかが知りたい。

まず、自分の身に何があったのかを思い出さなくちゃ…………

 

 

 

 

 

「我が名はモーガン。お前たちに正しき歴史を授ける者。虚史に生きる愚者共よ………お前たちに未来はない、あるとしても………こうやって私たちが轢き潰すまでだ!!!」

 

「う…………ぐおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 

「青葉ーッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

俺はモーガンという女に、沼の中に引きずり込まれた。

 

そこから先の意識はない。

だが、俺は敵に捕まったとみていいだろう。

 

事実は……………俺は捕まったこと。

だが俺は拘束を破壊したこと。

 

そして…………俺の全身は切り傷と火傷でひどく爛れていたこと。

 

 

この身体じゃあ、簡単には動けない。

脱出しようにも、目の前には檻がある。

 

この強酸に触れて融解したような有様の腕じゃ檻を壊すことも決して叶わない。

 

 

「………ぐ……おっ………おぉぉっ……!?」

 

 

脳が自身の肉体の状態を認識したことで傷から痛みを発し始めた。

 

 

「うぐぉぉぉぉぉぉ……………おぉっ…………!!!」

 

 

痛い……………だが、痛む間は生きているってことだ…………なら、まだ大丈夫……………

こんな状態でなんで生きているのかも不思議だが、前々から俺の身体は異常にタフだ。

 

ひとまず、強い身体に俺を産んでくれた父さんと母さん、それから強い身体に育ててくれた永琳さんや依ねぇに感謝するしかない。

 

 

「しかし、どうする………ここから出られない」

 

 

武器は流石に没収されてしまったみたいだし、仮に剣が残っててもこの腕じゃ振るえない。

 

この監禁部屋にあるもので上手く脱出できないか……………

 

 

床にある手のひら大のレンガブロック一つ。

これしか使えそうなものはない…………

 

看守が来た時にこれ投げて看守を驚かすか?

いや、この身体じゃ大した投擲もできない。捕まり直すだけだ。

 

割れそうな窓もない。

 

 

この鉄格子の上に置いて、看守が檻を開いたときに頭に落ちるように………いや、気絶させるだけの高さがない。

それに看守は一人で来るとも限らない。

戦うという発想はやめておこう。

でも………他に何に使える………?

 

 

 

 

 

その時、檻の外から物音がした。

重い木の扉が開かれる音。ついでに足音が近づいてくる!

 

誰かがここに近づいてくる………!

 

 

「………………!」

 

 

俺はレンガを慌てて崩れた壁の元の位置に戻して、部屋の角に隠れようとした。

 

 

「──────そうか、しまった…………!」

 

 

俺は拘束ぶち破ったんだった…………

何やっても無駄だ。

死んだふり?いや、再拘束されて終わりだ。

次にまた鎖をちぎって脱出できる保証がない。

 

 

やるなら今しかない……………だが……………!!

 

 

「ど…………どうする……………っ……………!!!」

 

 

 

 

 

「お、お姉様…………ほんとにやっちゃうんですか………?」

 

「あったりまえじゃん。あの男はアタシらにとってマジで都合の悪い障害よ。すぐに処刑しなきゃならないからね」

 

 

俺の牢に近づいていたのは2人の女の子たちだった。

短い青髪が一人、長い金髪が一人。

 

 

「けれど………モーガンさんと、灼さんは丁寧に運んできたじゃないですか………」

 

「なぁに、別に大事なのは霊魂と身柄だけよ。ここで首を刎ねて生命活動を停止させて、精神だけを奪えばいいじゃん」

 

「で………でも…………簡単にやっちゃうなんてそんなの………かわいそうというか…………」

 

 

青髪の娘は抵抗があるように物を言う。

 

 

「うっさいわねぇ、」

 

 

金髪のほうが青髪の頭を叩く。

 

 

「あたっ…………!」

 

「アンタのそーいう弱気な所があるせいでアタシらナメられるんでしょうが」

 

 

 

 

 

 

「────────────っ、」

 

 

よく分からんけど、俺はこのままじゃ絶対にやられる…………!

一人だけ弱々しい子がいて、俺を助けてくれそうだけどその子あまりにも自我が弱すぎてもう1人に押されてる…………!

ワンチャン助からないかなと思ったけどこれ多分無理だよね!?

 

 

くそっ、いったいどうしたらいいんだ!?

 

もう時間がない…………今から何考えても無駄だ。

こんなレンガで壁掘って脱出なんて無理だし鉄格子から逃げたらバッタリはち合わせる。

詰みか………!!

どうする、どうしたらいい…………!!

 

た、助けて永琳さん………!!

 

 

 

「む、物音がするわね………目ぇ覚ましたんじゃない?暴れてんじゃないかしら」

 

「はわわわわどうしましょう………!やっぱホントに生きてるー!!!」

 

「いいからさっさと行くよ!」

 

 

 

ヤバい奴らに気付かれた………!!!

もう逃げられない…………!!!

ここで迎撃するしかないのか…………!!!

 

でも、どうやって…………!?

 

 

「う…………うぅ………っ!!!」

 

 

俺はレンガを振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラァ、テメェっ!捕虜は暴れてんじゃあねぇ!!!」

 

 

直後、檻をこじ開けて2人の少女が部屋に突入してきた。

 

 

「なっ……………!?」

 

 

しかし、2人は口を空けて驚きの声を上げることになった。

 

なんと、檻の壁に穴が空いており、穴の先から真っ白な光が差し込んでいた!!!

 

 

「か、壁がブチ破られてる!?」

 

「そんな!?どうして!?」

 

 

2人は大急ぎで檻の奥に向かう。

 

 

「あたっ………!!」

 

 

青髪の少女は壁に空いた孔に飛び込もうとしたが、頭に強い衝撃を受けて弾き返された。

 

 

「んだよ…………これっ!?」

 

 

そう…………初めから、壁に孔なんて空いていない。

 

そして入り口から牢の鍵が閉まる音。

 

 

「よし…………!!」

 

 

俺はレンガの欠片で壁を削った。

壁を削ることで壁の塗装が剥げて白くなる。

 

そして俺はそれを利用して超リアルな絵を描いた。

昔から絵を描くのは得意でね。

この本物さながらの光の加減、わかるわけがない。

 

檻に入ってきた瞬間を突いて、隠れていた影の中から抜け出し、鍵をスって檻を出たんだ。

 

 

「きゃぁぁぁっ!閉められちゃいました!」

 

「て、てめぇっ………!!!」

 

 

慌ててこっちに走り寄ってくるがもう遅い。

檻はしっかりと閉めさせてもらった。

 

 

「おい!こんのクソガキ!出せ、ほら、早く出せよ、オラァ!!!」

 

「そ、その言い方なんか色々と良くないような気がしますぅ………!」

 

「うっさいわね!あんたが気が付かないのが悪いんでしょーが!」

 

「ひぃぃ、痛い痛いっ!」

 

 

く、クソガキ……………

 

 

「俺をここに収監したのは君たちだね。どうして俺を攫った、ここはどこだ?」

 

「はァ?知るかンなもん、アタシらは命令されてやっただけだよ」

 

「そのわりには、俺が逃げ出したと気づいた時には随分と焦っていたようだが?」

 

「な………それがどうした!言うわけねーだろーがよ!テメェ、こっから抜け出して助かるとでも思ってんのか?」

 

「助かるかはわかんない。でも、俺は必ずここから生きて帰る。御湯殿いづなを燃やした犯人を見つけ出して、俺を捕まえようとしたモーガンというやつを引っ張り出して話を聞き出す必要があるからね」

 

 

俺は鍵束を持ったままその場を立ち去ろうとした。

 

 

「オイコラ、クソガキ!!!」

 

「うぉぉぉぁぁっ!?」

 

 

背後からえげつない音を立てて女が檻を蹴っ飛ばした。

 

 

「な、なんだ………」

 

「テメェ、まさかこの鍵空けずに消えようとしたのか?あぁ、コラ!?」

 

「そりゃあそうだよ。君たちを出してあげても、あまりいいことは無さそうだからね」

 

「舐めやがってクソガキが…………こっちはテメェみてぇな人間よりもずっと長く生きてんだぞ…………あ?テメェ、ビビってんだろ?アタシらここから出して、生きて帰れるわけねぇからな!縮こまってるんじゃねぇぞガキが。そのオシャレな着物脱いで、シナシナに萎縮した汚ぇモツ見せてみろよ腐れ童貞が!!!あんま舐めてっと粗末なモンをタマごと食いちぎってブチ殺すぞ!!!」

 

「……………………………………………」

 

 

な、なんなのこの子…………言葉汚すぎるよ…………

 

 

「ご、ごめんなさい!お見苦しい所ばかりお見せしてしまって…………!」

 

 

対してこの子は弱気にペコペコと…………こっちはほんとに敵なの?

 

 

「あぁッ!?誰が見苦しいってんだボケが!テメェも両乳もぎとってやろうか、アァ!?」

 

「ひぇぇぇぇぇっ…………ごめんなさぁい…………」

 

 

黄色い方は青い子の胸ぐら掴んでグラグラ揺らしている。

 

 

「…………………………………………」

 

 

俺はダメだこりゃと思い、ここから出るために出口を探し始めた。

 

 

「オイ待て!!!鍵空けろや!!!だいたい、どうやって手錠引きちぎったんだテメェは!!!オイ、怪力クソゴリラ童貞、テメェそんなだから女にモテねぇんだろ?ここでこそ紳士の誠意ってのを見せてみろよ!テメェのモツは飾りかコラ、アァ!?」

 

「────ふん。悔しかったら自分で檻を破って出てきなよ、おばさん。ヨボヨボの両手じゃ無理だろうけどね」

 

 

さすがにムカついたのでちょっと煽って去ることにした。

 

 

「ば…………バカオイテメェ!!!ふっざけやがって…………このアタシをコケにしやがったなクソがぁぁぁー!!!!!」

 

 

牢獄の中には閉じ込められたまんまのあの子の叫びが響き渡っていた。

 

 

 

 

 

「ふぅ……………危ないところだった、」

 

 

とはいえ…………もしあの絵が上手く引っかからなかったと考えたら…………なかなか肝が冷える体験だった……………

 

 

俺は廊下の螺旋階段から地上に出てきた。

 

地上に着く直前、もう一つ鍵のかかった部屋があったので鍵束に入っていたもう一つの鍵で開けたら、中に没収された道具や模造刀が置いてあったのでしっかりそれも回収してきた。

 

 

「…………………………よし、行こう」

 

 

他にめぼしいものは何もなかった。

鍵なら元の位置に戻しておいた。いくらあいつらに牢の外に出てほしくないとは言ったって、泥棒するのは良くないからね。

 

机の上に置いてあった木いちごだけ一通りいただいてそのまま俺は牢獄を出た。

 

 

 

 

「うっ……………」

 

 

俺の目の前に差し込むのは雲一つなき晴天の広い空。

 

高き空に風が(すさ)び、涼しい流れが着物をはためかせる。

 

 

「んー!美味しい空気と温かい日差しだ、」

 

 

ようやく俺は妖怪の山に戻ることができた。

 

さぁ、ここから御湯殿いづなを探して、みんなと合流することにしよう。

あちらに街のようなものが見えるな。あそこなら、誰か何かを知っているかもしれない。

 

 

「よし…………行こう!」

 

 

俺は駆け足で最初に見えた街を目指すことにした。

待ってて、慧音さん、妹紅、文さん、みんな。

 

日が落ちるまでには、そっちに戻れる気がするから!

 

 

 

 

 

 

 

 

───────意気揚々と平原を駆ける青葉。

 

 

少し俯瞰して見ていこう。

高度を上げて行くとしようか。

 

 

青葉が駆ける平原が広がっていて、彼が目指す街があって、

 

近くには湖があって、他にも小さな集落が点在していて……………

 

……………………どんどん視野が広がっていく。

 

 

 

 

 

 

そして、地平の果てが見えてきた。

 

雲一つない青空?当たり前だ。

 

 

青葉は今、雲より高い座標に存在しているからだ。むろん彼はそんなことまさか気が付かないが。

 

 

 

 

 

 

そう、この空間すべて────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山のはるか上空を飛行する『飛行物』の上に作られた天空世界であるということ。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。