東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
御湯殿いづなの一室にて…………
「うぅ………ん………ナスビ……………」
常盤百鬼丸繰経はベッドに眠っている人物の横に座ってまどろんでいた。
ベッドに眠っているのは那須備壱与。
昨日の戦闘で致命傷を負い、現在のところは昏睡状態になっている。
「………………………………………」
百鬼丸の横には従者である高倉院武蔵もいる。
「……………ナスビの容体は酷いもんだ。まず全身が重度の火傷。鼓膜が破裂し、身体に数カ所もの刺し傷に、脇腹の肉が抉れて、頭部にも殴打による酷い損傷もあるって…………次の日までベッドで息してるだけで奇跡だよ」
「……………ナスビは私のために、これほどにまで傷を負ってもなお、命を賭けることを辞さなかった。でも、どうしたらいいんだ。このままナスビが目覚めたにしろ手遅れだったにしろ、私はナスビに、なんと伝えてやればいいんだ…………王のために命を賭して戦い、名誉の戦死を遂げた英雄として褒め称えるべきなのか?それとも、私のせいで非業の最期を遂げた事への謝罪なのか………?わかんない…………わかんないよ…………」
百鬼丸は椅子から立ち上がり、武蔵に泣きつく。
武蔵は百鬼丸の頭を撫でながら、考える。
「気持ちはわかるけど、仕方ない…………こっちから吹っかけたケンカだ。負けたのに私たちを処刑するでも幽閉するでも賠償を請求するでもなく、むしろ和解してそのまま単独行動すらも許してくれる龍ちゃんはやっぱり聖人君子だよ、」
「……………………ナスビはね、昔からね、自分のことすごく軽んじてるの」
「そうだったのかい…………まぁ、そんな感じはしてたけど…………」
「私のためだったらいつでも自分は死ぬ、っていつも口癖みたいに言ってるの。私イヤだから、そんなのだめって言ってるのに…………最期まで、だめって言ったのに、ナスビ聞いてくれなかった…………」
百鬼丸の胸に去来するいつからかの記憶…………
「……………ナスビ。武蔵からお前を兵士長に推薦するって事で任命式も無事に終えれたな…………あれば形式めいたものだが、それと別で私からもお祝いに来たんだ。これ、お前の好きな菜の花の御浸し」
「ありがたい、百鬼丸様」
貧民上がりの那須備壱与は百鬼丸に拾われた後、当時、百鬼丸の補佐を務めつつ兵士長を兼任していた武蔵の元で育てられた。
武蔵も百鬼丸も、ナスビが今の彼女のような武者を望んだわけではなかった。
ナスビの生き方はナスビ自身が決めるべきだと考えていたからだ。
だが、ナスビは気がつけば兵となり、武功を挙げ、今では武蔵に兵士長の座を託された。
ナスビがその道を志したわけではなかった。
単純に彼女は目の前の時間を生きていたら、気がついたらこうなっていた。
もともとナスビは目標を持って生きている生き物ではなかった。夢、理想、生きる目的、そして生への執着を持たない。幼少期の体験はナスビに生きる感覚という当たり前の感情を失わせ、すでに彼女の精神は幻想郷のあらゆる妖怪よりも達観したものとなっている。
ただ、ナスビには一つだけ決まりがあった。
生きる目的というより、彼女の持つ行動の方向性、いわゆる性質。
それは、恩人であり親友である百鬼丸に貢献したいという思い。
その最も手っ取り早い行動が、百鬼丸から最も厚い信頼を受けている武蔵と同じ行動を取ることだった。
武蔵が兵士職だとか、そんなことは考えていなかった。
「念のため言っておくが………お前は二つ返事で兵士長に入れ替わり就任してくれたが、武蔵はあくまで推薦しただけだよ。お前がそれに着任したいかどうかはお前が決めることであって、私や武蔵に決定権はないんだ」
「分かっている百鬼丸様。だが、私のすることは変わらない。那須備壱与の命は他でもない貴女が拾ったものだ。それを消費する権利は貴女にある。貴女が私を消費しないというのならば、私は自動的に自分の意思で、貴女のために自分を使うだけだ」
「……………………私は不安なんだよ、ナスビ。お前なら私に尽くしてくれるのは分かっている。だが、お前はあまりにも自分を顧みなすぎる」
「…………?なぜだ?なぜ、それが悪いことなのだ?私は、生きる目的を持たない。本来なかったような命を利用するのは、これに価値を見出し獲得した貴女のすべきことだ」
「それだよ………お前はなんとなくだが、いざというときは自分の命を放棄してでも私に献身しようとしそうだから怖いと言ってるんだ………前にも言っただろう、月面戦争の事。あの時のお前は武蔵の部隊の最後列にいたから生きて帰れたが………」
「…………彼らのことは災難だった。家族や報酬など己の目的とするもの、欲するもの、生きがいとするものを持っていただろうに、」
「そうじゃない。私は夢持つ民が消えた事を悔やんでいるんじゃない。民を守れなかったこと、目の前で消えゆく命を前に何もできなかった己の無力を嘆いているんだ…………そして民とは、夢や生き甲斐の有無では区別しない。私が愛するこの國に住まうすべて…………それはお前も含まれている、ナスビ」
「…………?私は頭が悪いからよくわからん。私たちは兵士だ。百鬼丸様こそ天下無双の鞍馬天狗だが、それでも王を守るのは我々兵隊の義務だ。なぜ王が民を守る?逆ではないのか?」
「違うよ、ナスビ。王こそ國で最も力を持つ存在であるからこそ、民を守る義務があるんだ。私はその王としての務めを果たせなかった事を今でも悔やんでいる。だからこの千年、私はこれ以上、誰一人として命を落とすことのない國を目指した。誰もが國の中で笑い合い、二度と他の場所を侵略しない、そして外から脅威の来ない、最強の國を…………最強とは外への圧力ではない。最強とは内側の安寧の約束。私はそれが欲しかった………それが私の常盤國を守る目的であり目指すべき方向だ。だから、お前が自身をどう軽んじたところで、私にとっては他の民とお前の価値は変わらないんだ。誰であっても。いかなる重鎮であろうとも、国民と区分けされる存在はすべて、私にとってはすべてが等しく、何よりも尊いものなんだよ、お前もだ………ナスビ」
「うーん…………?」
「…………………ナスビは頑張りすぎただけだよ、きっと起きてくれるさ」
「………………そうだと、いいな………」
一方………………青葉を捜す慧音と安曇。
安曇はなにか青葉の居場所を聞き出すに、アテがあるらしい。
「テメェ!知らねぇわけがねぇだろうがよ!関係ねぇことでもいいんだ、一個ぐらい言えやボケ!!!」
「ひ、ひぃぃぃ……!!やめてください………!!もう勘弁してください………お願いします………!!」
「そういう事を訊いてるんじゃあねぇ!俺の兄弟がドコ言ったかって訊いてんだよ!」
安曇は鞍馬天狗の少女の胸ぐらを掴んでグラグラ揺らしていた。
その少女はもちろん、安曇がにとりとたかねに初めて会ったときに捕らえ、装甲車に詰め込んで拉致し、脅迫されながら文と椛の感情をさせられ、挙げ句の果てにスパイと勘違いした安曇にボコボコにされたメチャクチャ可哀想なあの鞍馬天狗だ。
「もういいホントにいいからやめろ安曇ーっ!」
「ぐふぇ…………ごめんなさいごめんなさい…………なんでもしますから許してくださいほんと勘弁してくださいどうか命だけは…………」
「っしゃ!なんでも、つったな!じゃあ今日の夕方までに神門青葉の居場所を探せ!テメェが連れ帰れとは言わねぇ、どこにいるかの情報を突き止めてこい!できなかったら、何でもできるってこの俺に嘘をついたってことになるからな。先に言っとくが、俺はこの世で嘘が一番キライだぜ」
「は、ハイィィィィッ!!!喜んで!!!」
「返事よし!はよ言ってこいノロマが!!!」
鞍馬天狗は逃げるように病室を飛び出していった。
いづな旅館を離れ、病室にいた理由?安曇にボコされたからだ。そこを無理やり蹴り起こしたのが安曇だった。
「なぁ安曇…………お前…………まさか、アテって………」
「あぁ。アイツのことだ。なんやかんやでアイツは脅迫したら文ちゃんと椛ちゃんをわずかとはいえ、戦線復帰させたヤツだぜ。アイツが豚でもおだてりゃ木に登る野郎だ。アイツにやらせる」
はぁ…………私が進んでこんな事をしているみたいでひどく嫌な気分だ…………
「だが、実際のところ鞍馬天狗を当たるのは正しいんだぜ慧音先生。なんてったって、放火襲撃のタイミングが良過ぎる。俺等の警備が一番手薄な時に放火は起きた。つまり犯人は鞍馬天狗と鴉天狗があの夜、あの時間に戦争をするって事を知ってたってことだ。なら、鞍馬天狗の中に放火犯の内通者がいたってことだ。鞍馬天狗の計画が、外部に漏れてたんだよ。鞍馬天狗を探るには俺たちや忙しい百鬼丸と武蔵がやるより、こんな何の取り柄もねぇザコに任せたほうがいい」
なるほど………鞍馬天狗の内通者を通して放火犯………モーガンたちの居場所を突き止め、奴の手から青葉を取り返す。
まぁ、悪くはない策だ。
「問題は、今のところ手がかりが何もないってことだな。こんなんじゃ、アイツに任せてもロクな収穫はねぇだろう」
「モーガンと名乗ったあの女が何者なのかも、分からないようでは、どこを探せばよいものか………そもそも、妖怪の山にいるかどうかもわからない」
「参ったなオイ…………」
最初は好調のように思えた青葉捜索作戦も、気がつけばお昼を過ぎていた。
「チッ…………太陽がもう南の空に…………仕方ねぇ、一旦休もうぜ。どっかで昼メシでも食おうや」
「し、しかし…………」
「しゃあねぇよ。今行こうが昼メシ後に行こうが、手がかりは増えねんだ。それに、相手はあのオオバだ。きっと向こうじゃあいつの方から策を練ってるだろう。こういう時にこそ誰よりも頭がキレるやつだ。おそらく俺の読みが正しけりゃ、もう脱走はしているだろう」
「わかるのか?まさか今の段階で脱走など………」
「わかんねぇけど、あんなに頭いいやつを一日も監禁するのは、たぶん不可能だろ」
その頃、神門青葉は街にいた。
青葉が囚われたのは、地上数キロメートルもの上空に作られた空中都市。
妖怪の山の上空を漂う「飛行物体」だった。
妖怪の山に度々不時着したり、青葉をゴンドラから突き落とそうとしていた数々の「飛来物」は、その機械のうちの一つと捉えていいだろう。
なぜ街が出来上がるほどに巨大なものと、人の身長の高さにも及ばない小さなものがあるのかは不明だが、少なくとも青葉はまだその結論に至れていない。
まさかここが地上はるか上空であるということに気が付いていないからだ。
「すみません、紙とペンを貸していただけないでしょうか。今お金がなくて、お礼ができないんですが、」
青葉は街の中にはいると、真っ先に紙とペンを借りた。
「どこもかしこも、地主さんの邸宅とか、稗田邸ほどの大きな建物ばかりだ。この街、けっこう大きいんだな…………地面も石畳ですごく綺麗に舗装されている…………」
青葉は建物の屋根の上に飛び乗ると、そこから周囲を見渡す。
だが、そこから見える光景もいたって普通の街だった。
しかし、青葉の目は明らかに違和感を捉えていた。
「────────風車?」
青葉は街のあちこちに、風車が取り付けられた建物が一直線に点在していることに気がついた。
「うーん…………風車なんてあったかな。里の用水路とかでも水車はよく見かけたけれど…………風車があるということは、このあたりは風がけっこう吹くのかな」
青葉は目に映る光景を紙にスケッチしていく。
「直線にこんな数の風車が並ぶということは気流の流れを利用して何かしているな………生活に必要なものなのかな。となると、この場所、やはり標高が高い?でも、見渡す限り地平線が続いていて、どこもかしこも平地ばかりだ。妖怪の山にこんな場所があったなんて…………いやいや、そもそも山が見えないんじゃやっぱりここ、妖怪の山ではない………?」
青葉にとってこの場所は全く未知の世界だ。
ここがどこなのかも、どちらに行けば知ってる場所へ出られるかどうかも分からない。
青葉はため息をついて寝転がる。
「雲一つない空だ。昨日山が燃えたばかりなのにこんなに晴れ渡ってる」
青葉は紙の裏面にまたメモを書き足していく。
「よし、これはこんなもんか…………」
青葉が紙をつつくと、書いてある文字が変化して、別の内容を書いたメモに変わる。
青葉が文字を書き換えて、足りない分のページを保存しつつ紙を白紙にしたのだ。
「ほんとは紙に文字をびっしり書いているけど、書いてある文字を、紙と同じ色にすれば、実質的に白紙に戻る。そして、紙色にした文字を再度黒色に戻せば、一枚の紙に無限に文字を書いて必要な内容だけ浮かび上がらせることができるんだ」
青葉は無事に御湯殿いづなに帰った後のために、敵地の情報を書き記していたのだ。
「でも、俺は脱走犯なのに、誰も俺のことを気にしないんだな。さっきの天狗のお姉さんも俺に優しく紙とペンをくれた。借りるだけで良かったのに、まさかそのまま俺のものにしてくれるなんて」
どうやら、住民が全員青葉を敵視しているわけではないようだ。
「…………………………よっ、」
青葉は建物から飛び降りて、先を目指す。
「よし、もう少し歩こう」
青葉が街の出口を目指そうとしたその時。
「あれっ…………あなたは…………!!」
「え?」
青葉を引き留める声がした。
青葉は背後を振り返る。
すると、そこには割烹着を着た赤毛の少女の姿があった。
「君は………」
「御湯殿いづな女将代表の朋恵でございます。青葉様もこちらにいらっしゃったのですね………!」
「朋恵さん!?慧音さんが言ってた!?な、なんで君がここに!?」
青葉の前に現れたのは、御湯殿いづなの女将、朋恵だった。
「昨日の放火襲撃に乗じて、私も敵に捕らえられてしまったのです………なんとか脱出に成功したのですが、青葉様と同じくここで迷ってしまい…………」
「そうだったのか…………」
(すごいな…………脱出したって、たぶんあの牢獄からでしょ?どうやったんだ…………)
青葉はひとまず知っている名前と会えたことに安堵した。
「朋恵さんは、ここのことについて何か知らないかい?」
2人は街をほっつき歩きながら今の状況を共有していた。
「いいえ…………私は火災の中で意識が…………」
「一酸化炭素中毒の中等症状か…………」
「えっと………その………よくわからなくて………」
「血中のカルボキシヘモグロビンの濃度が平均45%を超えると、目眩や意識障害を引き起こすんだ。朋恵さんは火災の黒煙に含まれている有毒ガスを吸い込んじゃったんだよ」
「は、はぁ…………物知りなんですね…………」
「ん?あぁ、いや。この程度の知識は受け売りだよ。師匠が本物のお医者さんだったからね。さて、看板によると…………」
青葉は看板を見つめて、現在地と出口の位置関係を調べようとしていた。
その時、向こうからブンブンブーン、と爆音が響き渡ってきた。
音はどんどん接近してきている。
「あ、あのっ!青葉様!」
「んー?どうしたの?今、俺は地図を見てるんだけど…………」
「あっちから何か迫ってきていますよ!!こっちに来る!!」
「えっ?」
青葉が振り向いた瞬間、石畳の街路をものすごいスピードで何かの物体が駆け抜けてきた。
ブゥン、ブゥン、ブゥンブンブンブーン!!!
二輪の機械にまたがっている2つの人影!!
それは、青毛の少女と金髪の少女!!
牢獄にいたあの二人!!!
「あ、あいつらは────!!!」
(なんだアレ!?なんだあの機械!?二輪の車輪で自走してるぞ!?)
「青葉ァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
鬼気迫る、迫真の形相でこちらへと襲いかかる金髪の少女!!!
「きゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「危ない下がって!!!」
青葉は朋恵の襟を掴むと、物凄いスピードで襲いかかる二輪車にギリギリ轢かれない位置に引っ張った。
「きゃっ!」
衝撃で朋恵は青葉の身体に激突する。
「大丈夫か朋恵さん!?今すごくギリギリだったけど!?」
「だ、大丈夫です………!」
(な、なんなのこの厚い胸板……すごく凄い………)
青葉は安否を確認すると、すぐさま二輪車が走り去った方向に向き直る。
青葉を追った黄金のバイクはドリフトし、スライドブレーキで横斜め向きにつけた。
「お、お姉様!なんかその感じ、どっかで見たような構図になっちゃってますよ!バイク赤色に塗ったりしたら………あたっ!」
「余計な事言ってんじゃあないよ!んなことより、目の前にいるクサレ童貞のモツ、へし折ってやるからさぁ!!!」
「看守の静かなお姉さんとうるさいおばさん!?」
「てめ、ガキコラ今なんつった!!!」
バイクから鉄パイプを手に飛び降りてきたのは、上裸の上からサラシと特攻服だけ着てきたいかにもヤバいやつだった。
「御前会副長・鈴鹿山ヤマブキ、アタシ、テメェみてぇなガキ許せないんで、ボッコボコにしてやんよ」
ヤマブキと名乗った女はバイクを倒し、鉄パイプをブンブン振り回しながら降りてきた。
「ひっ、お姉様!まずいですって!こんな街中で暴れたら………!」
「黙ってな、『アオイ』!このアタシを閉じ込めやがったんだおかげさまでメンツ丸潰れなんだよこっちはよ!オイそこのボン、あのあとアタシら誰に出してもらったと思う?」
「はぁ………どうせ部下とかでしょう………」
青葉はだんだん相手するのがめんどくさくなってきたようだ。
「そーだよ分かってんじゃん。部下にケツ持たされてる副長とかカッコつかないでしょ。アタシだってね、一丁前にこの街じゃ何百年もずっと番張ってんだよ。テメェになんかできねぇぞ。逆立ちしてもできねぇわ、街を百年も管理とかな!なんで、テメェどうやらアタシを女だと思ってナメてるみてぇだし、番張ってきた人間として、ちょっくらオトシマエ付けさせてもらうわ」
鉄パイプが地面をぶん殴り、火花が散る。
「…………………………っ、」
「青葉様!ここは逃げましょう!そんなボロボロの身体では………!」
「いや、ここで逃げてもたぶん彼女は地平線の彼方まで追ってくる。だったら、いったんここで分からせたほうが早い気がする」
気がつけば、群衆が円を描くように集まった。
その中央に立つヤマブキと、その背後に隠れている妹のアオイという少女。
青葉も朋恵を人混みの中に隠し、たった一人でその円の中に踏み込む。
両者ともに獲物は片手で振るう鉄塊。
「ハッ。うざってぇ顔だわぜってぇその袴の下、粗末なモンぶら下がってんだろい?おぉ?」
群衆の中に、ヤマブキと同じような黒い上着を羽織った男たちがやってきた。
「姉御!!!駆けつけてきましたぜ!!!」
「御前会、全員集まってまっせ!!!」
「んで?どいつをとっちめんでっか!?」
「…………おっせェんだよグズ共が!!!アタシの呼び出しには3分以内に来いって言ってんだろが!!!なんだテメェらもケツしばいてタマ握り潰されてぇのかコラ!!!」
「ひ、ひひぃぃぃっ!!!」
「も、申し訳ありません姉御!!!」
「次からは一分で着いてみせやす………!!!」
屈強な男たちも、ヤマブキの貫禄の前ではひざまずくしかないようだ。
「いいか誰も手出しすんじゃないよ。コイツはアタシのイベントだ。だが、盛り上げんのはテメェらに任せたよ!クソ野郎ども!盛り上げやがれや!!!」
「おぉぉぉぉぉぉっ!!!」
「うぅぅぅぅぅっす!!!」
「しゃぁぁぁぁぁっ!!!」
「姉御!姉御!ヤマブキの姉御!」
「姉御!姉御!ヤマブキの姉御!」
「姉御!姉御!ヤマブキの姉御!」
腕組みするヤマブキの姉御の背後からは手下たちのどよめきが響き渡る。
「いけいけー!姉御!あの優男をぶっ潰しちまえ!」
「無敵の姉御の力、思い知れぇッ!」
「御前会の恐ろしさを味わいやがれ、ガキが!」
ヤマブキは得意そうにしている。
「どうした?ガキぃ。怖気づいて声も出ねぇかぁ、アァン?今すぐテメェのその袴ひっぺがして、そのちっこいモン晒してやりてぇよ!」
ヤマブキは憎たらしい笑みで青葉を挑発する。
しかし、青葉は挑発に対して全く反応しない。
「…………………………君、可愛くないね、」
代わりに、なんの意図もない普通の返しをぶつけてくる。
「………………あ?」
「言葉遣いが荒いし、なにかにつけてモノの長さの話ばっかりしてくるけど、君の人を測る尺度はそれしかないのかい?後ろに並んでる手下のことも、しょせん棒切れにしか思ってない?人は身体の一部よりも、中身で見るべきだ。人のガワしか見ないヤツは、少なくとも人の上には立てないよ」
「んだとコラ……………」
「おっと失敬。ははっ、もしかして、人の価値を測る尺度じゃなくて、単純に君が好きだからその話ばっかりしてたり?意外と可愛いところあるじゃん。…………いいよ、来なよ。生意気な女の子を分からせるのは、男のやる事だ。そのふざけたコートひっぺがして、胸のサラシ斬り刻んだあとに、女の子らしく可愛くなるように徹底的に教育してやるから」
珍しく青葉が敵を挑発しながら手招きまでした。
「───────フッ…………」
「可愛い部下の前で恥晒したくなかったら、今すぐここで土下座して、二度と俺には近寄りません、って約束したほうがいいよ。じゃないと、御前会の番長に今から生き恥晒させるからね。優男に分からされたら、流石に姉御の名が折れるよ」
「こ、コイツ………あの姉御にタンカ切ってやがる………」
「おいおいアイツ死ぬんじゃねぇか………?」
「大した度胸だ………オレ絶対無理だわ………」
「どっから来やがったんだあいつ?」
「オレあいつ地味に好きかも、普通に顔良いし」
「こっそりアイツのこと応援してるわ、俺」
「───────────────」
「───────────────」
「お、お姉様…………なんか、雲行きおかしくないですk……うぎゃぁぁぁぁぁっ!!!」
余計な口をついたアオイが鉄パイプでぶん殴られた。
「だぁぁぁぁぁらっしゃぁぁぁぁいクソボケが!!!このアタシをコケにしやがって、マジバチボコチンにしてやんよカスがオラァァァァァァ!!!」
鉄パイプを振りかぶって、ヤマブキが一直線に青葉に突っ込んできた!!!
「ムカつくおばさんだ………悪いけど、俺の事は諦めてもらうよ!!!」
謎の地に現れた謎の集団とその番長。
一体青葉は、どうなってしまうのか────!?
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雲海を游ぐ黄金
鈴鹿山 ヤマブキ
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