東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
敵に捕まり、行方が分からなくなった青葉の捜索作業は最初は難航していたが、文の機転から調査は大幅に進行した。
「頭が回る青葉が詰む場所、すなわち青葉が物理的に脱出不可能な場所は逆に少ない」という奇天烈な発想だった。
ネムノ「山如!そっちはどーだったべ!」
山如「今、そこいらの天狗と河童のほうをざっと回ってきたがそれらしい情報はないねぇ」
ネムノ「ウチも山を少し下りたところも探したが、それらしい目撃情報はねー」
椛「我々、白狼天狗の哨戒隊も100人体制で鴉天狗の集落及び御湯殿いづなの付近を巡回しつつ警戒していますが、現状で新たな異常は発見できていません」
龍「くぅ…………やはりそう簡単には行かんか…………!慧音!何か分かったか!?」
捜索はとにかく山。近くの範囲から重点的に脚で捜索し、探索した範囲を慧音が地図から潰していくという脳筋な捜索。
そんなもので大きな成果など一つも見つかるはずはなく…………
妹紅「やべーよ慧音!もうすぐ夜が来ちまう………!夜になったら見晴らしが悪くなってオオバが見つからなくなっちゃうよ!」
文「まる1日帰ってこないのなら、いくら青葉さんでも厳しいですよね…………」
慧音「くっ…………前提は間違ってないはずなんだ………青葉はすでに脱出している可能性が高いと安曇は言っていたが、私もそれには同意だ。私は最初、飛ばねばならぬほどの高地を予想していたが、よく考えてもみれば地が続いている限り、青葉は必ず脱出してくるはずだ」
文「残る可能性は…………「青葉さんの脚では1日では帰れないほどの遠距離」の可能性…………」
慧音たちは机に座ったまま頭を抱える。
そもそも、彼女たちはなんの情報もないのだ。
安曇「あのなぁ、お前ら…………まだオオバの情報なんもねーのに、勝手に話し進めて勝手に悩んでんじゃあねーぞ…………」
論理の飛躍にいよいよついていけなくなった安曇が場を切り上げる。
安曇「んで?百鬼丸から見るとオオバはどんなんだ?」
百鬼丸「……………え?私がか?」
安曇「そーだよ。先生と頑張って地図読んでもらってる所悪りぃがよ」
百鬼丸「青葉は………うーん、青葉は………普段の可愛らしい様子と、いざという時のあの漢らしさが魅力というか…………ギャップ萌え…………と言うのか、」
安曇「バカ野郎そんな話してねーよスペックの話してんだよ」
百鬼丸「あっ………!?はっ………!?私、もしかして今めちゃくちゃ恥ずかしい間違いをしちゃったの!?」
安曇「恥ずいとかの次元じゃねーよお前前後の話聞いてねーだろ絶対」
百鬼丸「ちがっ、今のは違う!!!」
龍「あーあー百鬼丸………お前【も】惚れたのか?」
百鬼丸「そうじゃないってばぁ…………!!!」
文(……………惚れる惚れないは置いておいて、ギャップ萌え代表は百鬼丸様の方では………)
百鬼丸「…………ごほん─────青葉と実際に刃を交えた私が分析するに、青葉の縮地は天狗族の飛行速度にも匹敵する素早さだ。走るだけでも本気を出せば時速80kmは出る。ならば、この場所と彼の位置が遠すぎて帰れない、ということはないだろう」
安曇「なら、方向がわからねーんじゃねぇのか?」
慧音「いや。あの青葉なら太陽と影の位置を見ただけで御湯殿いづなの方角が計算できるはずだ」
百鬼丸「ということは、青葉は平面座標からはおおよそ困るところがない。慧音の当初の仮説の通り、私もやはり高度の座標が関係していると思う。飛行能力のないのなら、いかに御湯殿いづなの方角を導き出しても、空路を渡る手段がないのなら脱出は敵わん」
妹紅「けど、オオバほど動けるやつなら、どんな高所からだろうが、降りてきそうな気がするけどな。アイツの身軽さなら崖を降りるのそんな難しくなさそうだけどなぁ」
慧音「しかし─────」
鞍馬天狗「ひぃぃぃひーっ!!!助けてくださーい!!!」
すると、作戦を立てていたところへ、安曇にイビられていた鞍馬天狗がやってきた。
百鬼丸「んおっ!?鞍馬天狗だと!?貴様、なぜ此処にいる!!!」
鞍馬天狗「ってえぇぇぇぇぇ百鬼丸様!?百鬼丸様こそ、國を出てなんでここに!?」
百鬼丸「外交だ。鴉天狗との親交を取り戻した故、これからの方針について話し合っていた」
鞍馬天狗「ええぇぇぇぇぇ!?昨日まで鞍馬天狗以外とは関わらないとか、鴉天狗が来るから潰すとかなんか色々仰ってたのに!?」
百鬼丸「黙れぇい!!!武蔵たちとも話し合った結論だ!!!私の決定に異を唱えると申すか!!!」
鞍馬天狗「ひぇぇぇぇっ!!!申し訳ございません、百鬼丸様!!!どうかお慈悲をー……!!!」
百鬼丸のあくまで鞍馬天狗の前では王としての威厳を保とうとして発した怒号に鞍馬天狗は頭を抱えてうずくまる。
慧音(この一般天狗………安曇にだけいじめられているかと思っていたが、意外とどこでもこんな感じなのか………)
百鬼丸「それで、いったいどのような要件だ。我々の重要な作戦会議に割って入る以上、相当な要件と見た」
安曇「あぁ。俺、そいつにオオバを探させていたんだ。戻ってきたってことはなんか収穫があったんだろ」
鞍馬天狗「いいえ!違うんです!お尋ねの方はまだ見つかってなくて────」
安曇「テメェ何しに来たんだ使えねー奴だなこの野郎……!!!見つかるまで帰ってくんなつったろクソが………!!!どの面下げて帰ってきやがった………!!!」
安曇は鞍馬天狗の胸ぐらをつかんで持ち上げた。
百鬼丸「私の民に何をするか!!!」
安曇「ぐおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
百鬼丸が安曇の脇腹を蹴っ飛ばした。
安曇は壁を突き破って外に投げ出された。
ネムノ(あーあ)
山如(街が燃えたばっかだってのに、修繕箇所が1個増えちまったねぇ………)
一般の鞍馬天狗はガタガタと震えながら百鬼丸の脚にすがりついた。
鞍馬天狗「百鬼丸様ー!!さっき温泉街の中で、変な空飛ぶ円盤に撃たれたんですよー………!!怖かったー………!!」
百鬼丸「なに……?空飛ぶ円盤だと!?」
全員「─────!!!」
─────空飛ぶ円盤。
それは飯空Projectの調査の本題だ。
妖怪の山に現れる謎の飛来物。
これまでに何度も、その存在が現れては事件の謎を深めるばかりで、その正体は尚わからぬまま。
あるときは青葉に襲いかかり、
あるときは鞍馬天狗の領域で発見された。
レーザー兵器を内蔵した機械である事以外は何一つ分かっておらず、これがどこから来たのか、誰の手によって作られたのかも不明。
龍「百鬼丸、たしかお前………円盤のこと知らないって言っていたな」
百鬼丸「あぁ………武蔵から話には聞いていた。レーザー兵器を内蔵した機械が妖怪の山に現れるという話。だが、我々はそんな話は聞いたことがない………」
ネムノ「円盤の話に脱線しとるべ。青葉を探すんだろ?」
百鬼丸「そうだな。………手間だが、ひとまず攻撃してくる物体であるならば私が早急に排除してこよう」
文「ま、待ってください!考えがあります!」
文の一声に全員の視線が向く。
その中でも、慧音の目は文の目の中を覗くように見ていた。
「お前も同じなのか」と言うように。
文「…………その円盤、街の中で見つかったと言いましたね………?もしかして私たちに対して攻撃してくるということは、青葉さんを攫った敵が持ってきた円盤なんじゃないですか………?」
龍「そうか……………そういうことか!!!でかしたぞ文!!!」
全員が納得したように頷く。
そう、この状況で御湯殿いづなを攻撃してくる勢力は間違いなくモーガンたちの一味だ。
彼女たちの攻撃ならば、この円盤が元あった場所こそが青葉のいる場所だ。
龍「だが、あの円盤をどのようにして追えばいい?下手な動きをすれば、危険を伴うぞ」
慧音「それに関しては良い策がある。私に任せて欲しい」
慧音が立ち上がり、部屋を出ていった。
妹紅「ちょ、慧音!待ってよ!」
龍「────?まぁ、円盤の件は二人に任せよう。常盤の民、円盤は街のどこで見た?」
鞍馬天狗「え?えーっと………たくさん人が集まって、作業している所に何台も何台も………みんな逃げてますよ………今は武蔵様が戦ってますが………」
百鬼丸「なに………ッ!?すぐに行くぞ!!」
言うが早いか、百鬼丸は薙刀を握りしめて、旅館を飛び出そうとする。
ネムノ「うちらも行くべ!山如!」
山如「あぁわかってるさ!」
文「私たちも!」
椛「それはいけません文さん!作戦会議にも最低限の人数を要します」
龍「心配ない。こちらには天下無双の大天狗がいる。彼女一人いればそれだけで過剰戦力だ」
百鬼丸「買いかぶりすぎだよ、めぐみん。私にも怖いものはあるからね。とはいえ、ここは泥舟に乗った気分で任せてほしい」
龍「それを言うなら大舟だ。意味逆になるぞ」
百鬼丸「ふふっ、知らんな。いかなる波の上でも、我が流れは惑うに及ばず!」
百鬼丸は信じられないほどの速度で旅館から飛び立つと、街に向かって一直線に飛び去った。
その後をネムノと山如が追いかけていく。
「え?追尾レーダー?」
一方、慧音とそれを追いかけた妹紅は、にとりとたかねがいる部屋にやってきた。
二人はサボってたわけではなく、色々と調査に使う機材の調整を任されていた。
「そうだ。妖怪の山に現れるという円盤、あれがどこから現れたものなのかを突き止めたい。もし、遠隔で座標を特定できる機材があれば用意してほしい」
「さぁて………里で頼りにされてる慧音センセのお願いときたら答えてやりたいもんだが、相手はどこにいるかわからない上に、よく移動する小さな物体なんだろう?大きなものを追いかけることはできるけど…………」
にとりは首をかしげながら唸る。
「難しいだろうか………」
慧音もこれに賭けていただけに、手詰まったような表情をしていた。
そんな時に、たかねは読み進めていた資力の束を置いてひとこと発する。
「いいや。たしかに円盤を直接的に探知して追いかけることはできないが、円盤を間接的に追うことはできるぞ!」
「本当か!?」
たかねは頷くと、にとりの鞄を漁り、小型の赤い粒のようなものを見せびらかした。
「これは…………」
「これは小型の探知機だ。用途としては、単に位置情報をこちらにリアルタイムで送信してくるだけの簡単なものだ。こんなもので円盤を直接追うことはできない。だけど……………」
たかねはにとりの帽子にその機械をつけると、帽子をひったくって部屋の中を走りまわった。
「あっ!ちょっとこら!私の帽子を返せ!」
「ほれ、見てみな!」
「うわっと!?」
たかねは慧音に液晶画面のついた端末を投げ渡す。
「こ、これは………!!!」
液晶の画面の中には、赤く光る印が、たかねが走り回るとそれを反映するかのように動き始めたのだ。
「【動くもの】にこいつを取り付ければ、そいつがどこへ行こうとも、現在地を知らせてくれるんだ。だから、その円盤の正体を直接知ることはできなくても、今どこにいるのか、どこに向かったのかは、それで調べることができる。あとは、そこに足を運べばいいってことさ」
「なんと………!これは使えるな………!」
「やったな、慧音!こいつをあの円盤に貼っつけてやって、円盤が帰ったあとに現在地を特定すりゃ、敵の居場所、オオバの捕まってる場所が分かるかも!」
「ちょっと待った!これ、私のとっておきなんだが!?」
「頼むにとり……!これを私に売ってくれ!この通りだ、いくらでも払う!」
にとりは最初唸っていたが、慧音の必死な表情を見ると流石に折れたのか渋々と譲ってくれた。
「まぁ………いいや、飯空Projectの調査に使うんだろ?だったら、構成員の私には機材のサポートをする義務があるだろう。いいよ、タダで譲ってやろうじゃないか!大切に使うんだよ!」
「すまん、感謝する!」
慧音はそれを持って部屋を出た。
一方その頃───────
日が落ちようとしていた妖怪の山、御湯殿いづなに二日目の夜となる襲撃が巻き起ころうとしていた。
「お、お姉様…………!」
「どうしたんだいアオイ。さっきは随分とやる気満々だったくせにその威勢はどこやった!アンタもアレか?あの三度笠のクソボケ優男みてぇに、モツのねぇ野郎か?」
「そ、そりゃないですよ!女の人なんですから………!」
「……………たしかに。まぁ、それはいいとして、」
そこにいたのは鈴鹿山ヤマブキとアオイの二人。
二人は高所から夕刻の御湯殿いづなを見下ろしていた。
「…………くっだらない街。昨日ので全部燃えちまえばよかったんだ」
「ほんとにここ潰しちゃうんですか………?多少はいいと思いますが………なんか、復興するの頑張ってる人たちいますよ………?人の頑張りを踏みにじっちゃうのは、あんまり良くないような………」
「うっさいわね!人の頑張りなんか見て何が楽しいってのよ…………どうせ───頑張りなんてぜんぶ無意味なんだ。頑張りなんて人に見せるもんじゃない、見せてくるってんなら、台無しになるように壊してやるのが礼儀ってもんでしょ。赤ん坊が頑張って積み上げたオモチャを、この足で蹴っ崩すみたいにね」
「ふぇぇぇ…………ひどいです…………」
「あのクソガキは上手いことあたしを退けたみたいだけど…………もうあったま来てるから次はそうはいかないよ」
秘策ありと言わんばかりの表情のヤマブキ。
彼女たちの見下ろす御湯殿いづなに、今宵、新たなる試練が降り注ぐ。