東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
私は眠る─────────
「くっ……………なんなんだよもー!これじゃあ近づこうにも離れようにも勝てないじゃないか!」
「落ち着くんだよ□□□!私らが敗けたら、誰がこの山を…………!」
2人の女の人が、地に膝をつく夢を見た。
「そんなコト言ったってさぁ!あんなの勝ち目がないじゃないか!」
「いや、まだ終わらない。勝機は必ずどこかにある。それを待つのよ…………忘れたとは言わせんよ?この私が武を司る神であることを」
『──────もうやめてください…………■■■様、□□□様!
そんなボロボロになってまで戦わなくたって…………早く逃げましょう…………!』
私はその人に向かって泣きながら名前を叫んだ。
「いいや、それは叶わないですねぇ」
私の方へ向かって、空から声が響いた。
お空に、一人の影がある。
男性用の中華服にマウンテンパーカーを羽織った銀髪の人。
見た目も声も、ほとんど男の人のようだったが、なんとなくで女性だとわかった。
「というか………わたくしを前に逃げるってなんです?わたくしが………このわたくしが、一人たりとも逃がすとでも思ってるんです?」
「…………………………そんな事はやってみなくちゃわからないさ」
「ははっ。バカ言わないでくださいよ〜。誰ひとり逃がすわけないじゃないですか。わたくしは幻想郷の全神を封じる、あなたたちだって例外ではない」
その人は、短い棍棒のような
なぜだろう。その人を見ると、辛く、悲しく、恐ろしい気持ちになる。
「◯◯…………お前は逃げるんだ!」
「ここは私たちが食い止める。お前はとにかく遠くへ逃げてほしい」
「いや………でも…………」
「たしかに私たちでは敵わないかもしれない。けれど、こっちだって曲がりなりにも神様をやってきた身だよ。大事なの娘を逃がす程度の時間稼ぎはできる」
「さぁ早く。山を降りて、誰にも見つからない場所まで逃げるのよ。きっと、誰かがお前に力を貸してくれるに違いない」
私は逃げたくなかった。
この2人が誰なのかは知らないけれど、なぜかこの2人だけを置いて去りたくなかった。
逃げなければ自分がやられるのに、なぜか私は背中を向けたくなかった。
だけど、これほどの絶望的な状況で見せた、私への精一杯の強がった笑顔でそんなコトを言われたら…………だれだって、泣きながらその場を立ち去ることでしょう。
私は身体の9割を蝕む「離れたくない」という気持ちを押し殺しながら、2人の声に従って背中を向け、この場所を立ち去ろうとした。
「さぁ─────付き合って貰おうか!神を一度に二柱も相手にするその狼藉、その命で償って貰おう!」
「大地の怒り、山の怒り、民の怒り、神の怒り。全ての怒りがお前を襲う…………たとえ私たちがまけても、彼女を逃がすまで、絶対にお前を通すものか!」
2人は勇敢に、あの空飛ぶ女性の方へ向かっていった。
1人は、背中に巨大な縄を背負ったとても大きな身体の人。
もう1人は、特徴的な帽子を被ったとても小さな、けれど内にとてつもない強大な意志を秘めた女の子。
「それッ!!!願わくば、私らが勝ったほうがいいんだけどねっ!!!」
大きい方の女の人が手を振りかざすと空中から太い大木のような柱が幾本と降り注ぐ。
「やれやれ……………」
中華服の人は右手の棍棒を振り上げると、その先端から光の触手が溢れ出す。
それらはマフラーを編むかのように編み上げられ、やがて一本の青色の剣になる。
さらに同時に左手には金色の槍が現れ、その人は目にも留まらない速度で高く飛び上がった。
「まったく…………図体がでかいわりには、脳容量は著しく足りてないみたいですねぇ!」
飛んできた柱は、持ち上げることは絶対にできない大きさと長さ。
けれども、彼女は左手の槍で真っ向から一本、弾き返してしまった。
そのまま降り注ぐ残りの柱を足場のようにして飛び継ぎ、あっという間に間合いに入ってしまった。
「まさか……………!」
「そぉぉぉぉぉぉぉ……………れ、」
「てぇぇぇいやぁぁぁぁっ!!!」
その刃が届く前に、小さい方が2枚の鉄の輪を投げると同時に地面を叩くと、地面が割れて、地中から建物よりも大きな大きな、白い蛇が牙を剥く。
「えーっ、でかっ!?」
蛇は勢いよく空へと首を伸ばして、謎の女の人を噛みちぎろうとした。
でも、
「はい残念!内務職と侮りましたね?これでも、鞍馬天狗に兵法と武術を授けた超一流の武闘派獣人なんですよ!ははっ!」
槍の石突で蛇の頭を殴って噛みつきの軌道を逸らすと、頭の上に飛び乗り、その背中を風のように駆け抜けていく。
「そぉぉぉらっよっと!!!」
そのまま剣を蛇の身体に突き刺すと、剣を引きずり回すように走り抜けて、やがて蛇を真っ二つに切り裂いてしまった。
「う、うそだ…………足止めにもならないなんて…………」
「さてと……………神威を絶て、
剣の刃がなくなったかと思えば、今度は光の鞭が現れた。
そのまま柄ではなく紐のほうを手に取ると、鎖鎌を回すかのように回転をし始めた。
「我が打神鞭の特性、ご存知ないです?柄を投げると確実に相手の脳天を穿つ、なんてのがあるんですよ!ははっ、これじゃまるで必中技ってやつですかね?」
「必中だと…………!?しまった、◯◯!!!」
私は逃げるのに必死で、その声を聞いていなかった。
「いや──────もう遅い!!!」
無慈悲に、光の縄に繋がれた棍が投げつけられる。
その一撃は確実に私の頭を打ち付けるとともに、
───────その場に雷鳴が鳴り響いた。
「………………………………うはっ…………!?」
そして私、カナエは目覚めた。
起きたばかりの私は、辺りを見渡す。
そこは綺麗に整頓された部屋で、真ん中にちゃぶ台があるだけの広くもなければ狭くもない部屋だった。
記憶がないままに青葉さんの所で暮らし始め、カナエという名乗る名前を貰ってから二日。
もうすっかりここでの暮らしには慣れてしまったけれど、まだ私は………………毎日のようにこうして夢にうなされる。
「……………………………………………………」
なぜだろう…………何も覚えていないのに、あの夢だけは毎日同じようにみる。
私が、誰かもわからない人が辛そうに傷つきながら必死に戦っている姿を見ながら、雷に打たれる夢。
あの場所がどこかもわからない。
あの大きな女の人が誰かもわからない。
あの小さな女の子が誰かもわからない。
あの絶対的な強さを見せた謎の女の事も覚えていない。
そして何より、どうしてあんなことになったのかも覚えていない。
心当たりのない光景を毎晩見せられ、それでもなお何かを思い出すこともない。
「………………………………………」
ふと、自分の両手を見つめる。
自分は、弱い。
あんな大きな柱を投げることも、大きな蛇を呼ぶこともできないし、それらを全て斬り伏せる剣術や槍術も持っていない。
私がもっと強かったら、夢の中のあの2人を助けてやることもできたのかもしれないと思うと、悲しい気持ちになってくる。
なぜだろう…………どうして、まったく知らない赤の他人が困っているのに心を痛めることはあっても、それを助けられなかったことをここまで悔やむのだろう。
「………………………………私は……………」
私は、何者なのだろう。
ただそれだけを思いながら私は布団から起き上がった。
机の上には無造作に、「買い出しに行ってくるから外出するね」と青葉さんの字で書かれていた手紙があった。
その頃──────ここは旧地獄と呼ばれる幻想郷の地下に存在する都市。
「ふぁぁぁあっ。予定より早く着いてしまいましたねぇ」
男性物の中華服を来た中性的な見た目の女が、鞭を腰に差した状態で、ブドウをつまみ食いしながら道を歩いていた。
「それほどの余裕を持っているとは、貴様はあいも変わらず楽天的なのだな」
その横で、濃い紫色の髪の女が歩いていた。
「モーガン君もブドウ食べます?大ぶりでおいしいですよ。皮も食べれるし種ないし、ははっ」
「いらん」
その後ろからまた1人が駆けつけてきた。
短いスカートの特徴的な軍服を身につけ、腰にサーベルを吊るした少女だ。
「おぉ、汝らか!橋の付近で待機していたが、こうもあっさりと侵入してしまっていたか!」
「おや?灼君ではないですか。あなたもお館様より任務を受けておるのですか?」
「応。私には闘争がなければ飢えてしまうのでな。闘争なくして国とは捕れぬもの、私はお館殿の国を造る為に、この身を持って幻想郷を制圧することを託されているのだからな。汝らの行動にも興味を示すというものだ」
「つまり貴様がここにいるのはお館様の命令ではなくお前が勝手に来ただけということだな。そういえばいいものを」
「いいんですよ。そこのバーサーカーには言葉通じませんから、あはは」
灼彗袁、モーガン、そしてもう一人の謎の女が揃った。
「ときに
「あのちっこい橋姫ですか?2分とかからずに仕留めましたよ。今ごろはこの中にいます」
そう言って政子牙という女は腰の帯に差した鞭を抜くと、柄をくるくると回す。
灼にはその意味がわかってなかった。
「
「貴様は内務も戦闘もなんでも誰よりも器用にこなすが、ことネーミングセンスにおいてはこの世で最低だな」
「そんなことないですよ〜」
そう、旧地獄には旧都という街があり、そこへ向かうには橋を渡る必要があるのだ。
しかし、その橋には橋姫という門番のようなものがおり、不審な人物は通れないはずなのだが………
その守りは難なく突破されてしまったようだ。
「しかしそれにしても政子牙…………貴様は何か隠し事をしているな?」
「おや?なんのことでしょうか。このブドウがお館様から貰った任務の支給金をちょろまかせて買ったものってぐらいですか?」
「そんな事ではない。もっと根本的なことだ…………忘れてはいないだろう?私は真実と虚構を見破れる。消えた歴史や見えてない光景も私の目には見ることができる。貴様、さっきはあたかも妖怪の山の神々を全滅させたかのように言っているが…………一人取り逃がしたな?」
「………………………ま、いいんですよ。ははっ。どうせ何もできはしない。奇跡の力もない風祝ごときに、いったい何ができるっていうんです」
政子牙はそのまま歩く脚を止めない。
「待たれよ政子牙殿!この旧地獄にはどのような神々がいるというのだね?」
「あぁ、それはですね、例えば太陽の力とか…………」
「太陽だと!?ついに汝、星を手にするか!」
楽しそうに会話している2人をよそに、モーガンは無言でその背中を眺めていた。
「だから私はあれほど貴様の気楽さを指摘したというのに……………貴様が捨て置いたそのわずかな綻びが、貴様の歴史を食い潰すと言うことを、この後に貴様は身を持って知る事だろう」
モーガンは意味ありげに、何かを言い始める。
「貴様は問題としていないようだが…………守矢の風祝が生き残っている時点でそこは貴様の【予定外の領域】だ。見えぬもの、知らぬものを制御するのは如何に貴様ほどの優れた軍師であっても不可能だ──────哀れだな、
そう呟いて、モーガンは二人の後をついていくのであった。