東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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アバウブ

 

 

───────また薄気味悪い夢か。

 

 

そう思いながら、俺は目の前で血の海に沈む自分自身を眺めていた。

 

 

俺によく似ているが、目の色とか髪の色とかが、時々違っていた。

どんな死に方をしたのか分からないが、手足がひしゃげてしまっておりとっくに原型をとどめていなかった。

 

地にひとりぼっちに伏して忘れられたように横たわるその姿は、俺の姿形をしていることに関わらず、我がことのように見るのが寂しかった。

 

 

だが、俺がそれよりも辛かったのは─────

 

 

「……………この大嘘()き、」

 

 

物言わぬ骸となった俺を見下ろす、一人の女の姿だった。

この惨状は、彼女の手によって生まれたものなのか、それとも彼女は居合わせただけなのか。

様々な些末な考察が頭に浮かんでは消えてゆく。

 

 

「この裏切り者……………」

 

 

ただ、可哀想というだけの感情が俺の中にあった。

 

 

 

 

 

 

「強情だな─────おまえに、他人の不幸を悲しむ資格の一端でもあるみたいに思っているんだ」

 

 

俺の背後から肩を掴んできたのは、角を生やしたもう一人の『俺』。

 

 

「なんなんだ、お前は…………俺に嫌がらせみたいにこんな気味悪い夢ばかり見せて。何がしたいんだ。同じ俺にこんな仕打ちされて、お前は何も思わないのか」

 

 

なぜだか分からないが、俺はコイツが目の前に現れるとやけに腹が立つ。

見たくもないものを見せてきては、意味深なことだけを言い残してその説明もなく消えてゆく。

 

コイツの相手をしているといつか『ロクでもない目に遭う』という確信があるから俺はコイツが嫌いだ。

 

 

「思うことがあるとすれば、哀れだなという事だろうか。どこの誰から産まれたかも知らぬお前には、知らねばならない真実がごまんとあるのにソレを知ろうとせず、()から眼を背けようとする姿がな」

 

「なんなんだそれ………」

 

「ほら。『知らねばならぬ真実とは何か』について訊かない。お前は恐れている。真実を知ることに。そして、お前がきれいさっぱり忘れたおかげで、同じ俺もお前にソレを説明してやることができなくなった─────やれやれ…………思い出そうとした言葉が喉元まで出かかって、何を言い出そうとしたか忘れたような気持ち悪さだよ」

 

「……………………………………………………」

 

 

コイツはそうだ。

いつも何も知らない。俺も何も知らないのに、思わせぶりなことだけ言っておいて説明だけしないんだ。

 

 

「しかし………お前の言う通り、哀れなことこの上な女だ。契りを破られ、最悪の形で約束が引き裂かれた。世を恨み、燃え盛る太陽のごとし憎悪を胸に燃やすには値する理由だと思う、」

 

「お前…………彼女のこと知ってるのか?」

 

「今言ってただろ?血溜まりに伏す骸に大嘘吐きだとさ。酷い言われ様だ、これが俗に言う『死体蹴り』というヤツか、」

 

 

屈み込んで涙を流す女の顔を無粋に覗き込むと、俺の姿をしたもう一人のオレはそこから立ち去ろうとした。

 

 

「待て!」

 

「待たん。待ってもお前と交わす言葉はもうない。次に告げるべきことができたときに、またお前を冷やかしに来るさ」

 

「…………一つだけ聞かせろ。前にお前、俺が破滅に向かっているとか言ってたな。それ、どうなったら俺は終わりなんだ。どうすればその破滅を止められるんだ。俺の中で、今何が起こってる?」

 

 

意外そうな顔をしたところで、男の身体から青い炎が優しく燃えたぎり始めた。

 

 

「うわぁっ!お前、燃えてるぞ!?眩しすぎ………っ!!!」

 

 

 

蒼き炎の止んだ後に、俺は自分の向かいにとんでもないものをみた。

 

 

「な──────っ、おま………え………」

 

 

 

 

「─────君が、()のようになった時だ」

 

 

それは、姿を変えて、服装の変わった俺だった。

髪色も、髪型も、姿形の変わった、別人のような自分自身に。

 

 

 

()はお前だ………オオバ────いや、■■■■(オオバ)

 

 

■■(オオ)……………■■()…………?」

 

 

その名を反復したところで、空間が光を放ち地響きとともに崩れ落ちていく。

夢が覚めてゆく。こうして俺はまた、わけのわからない事実に怯えながら次の目覚めを迎えるのだろう。

 

真理には届かない。

その答えを探すのは、俺の歩みだけか頼りなのだから。

 

でも、奴は最後にたしかにこう言った。

 

 

 

 

■■■■(オオバ)と、俺のあだ名でそれを発音した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行くぞ妹紅!!御湯殿いづなの街中に!!」

 

 

大急ぎでいづな旅館を飛び出した私と妹紅は、空飛ぶ円盤がやってきたとされる温泉街の中に向かう。

 

旅館から温泉街までの距離はそれほど遠くない。

走っても余裕で間に合う。

 

だが…………問題は………………

 

 

 

 

 

 

 

「なんだなんだ!?」

 

「なんだあの空飛ぶ円盤は!?」

 

 

ニュー飯空Projectのメンバーとして加入した一般人たちだ………!!!

彼らは戦闘能力を持たない………もし円盤がレーザーを撃つことのできるという話が本当ならば、民衆は間違いなく敵の攻撃に巻き込まれる。

 

それだけじゃない。彼らが建て直した家屋も、攻撃を受けて再度倒壊する可能性だってある。

 

よって、猶予はない。

 

 

百鬼丸様たちが一足先に現場へ向かったらしいが、彼女たちだけでこの広い街を見ることができるとは考えにくい。

百鬼丸様なら行けるだろうが、彼女の強大な力をこんな街中で使えば、敵の攻撃を受けるどころの騒ぎではなくなる。

彼女の出力は限界まで下がっている。

 

それにつけ込んでいる場合ではない。

にとりから貰ったこの装置を円盤に取り付け、可能な限り円盤を破壊ではなく、撃退する。

 

円盤が撤退したあとは、この装置が座標を追跡してくれる。

それをにとりのところの装置が遠隔で確認し、敵の居場所を特定する。

以上が今回の作戦だ。

 

 

─────この作戦は、私と妹紅の働きにかかっている。

 

 

「慧音!街に出るぞ!こっからは敵が出てくるかもしれないから、私の後ろに下がってろよな!」

 

「すまん、たすかる!」

 

 

 

 

街は大惨事というほどでもなかった。

だが、明らかに騒ぎが起きている。

 

ニュー飯空Projectに携わるメンバーたちが逃げ惑っている。

その後ろを、見たこともない不審なものが追尾していた。

 

 

「慧音!!アレ!!」

 

「なんだ………なんだアレは…………!?」

 

 

私が目の当たりにしたのは、白銀の円盤。

なんと自分で空を飛び、投げられたディスクのように回転しながら自由自在に飛行している!!

 

 

「アレが妖怪の山を騒がせている飛来物────空飛ぶ円盤の正体か!!!」

 

「言ってる場合じゃないよ慧音!!さっさと皆を助けるんだ!!」

 

「あぁ、分かってる!」

 

 

待っている隙はないようだ。

私と妹紅は一直線に走り出す。

 

 

(しかし、どうする─────こんな激しい攻撃を仕掛けてくるのなら、この円盤は一つ残らず撃ち落とさなければならんぞ…………)

 

 

最低でも一機は残して帰還させなければ、折角にとりから貰った装置を取り付けたところで撃ち落としてしまえば敵の居場所を掴めない。

 

…………いや、そんなものは後でいい。物事の優先順位の問題だ。

今は眼の前のことを解決しなければならないんだ、そう己の中で割り切る。

 

青葉なら、自分を助けてもらうよりそっちを優先したくれたほうが喜んでくれるに違いない。

 

 

「撃ち落とすぞ妹紅!」

 

「言われなくてももうやってるさ!」

 

 

妹紅と私は射撃で遠距離から円盤を撃ち落としていく。

1、2発程度の射撃で円盤は墜落して爆散していく。

唯一助かる所があるとするなら、円盤の一つ一つの防御力は大したことがないという所か。

 

 

「こんなものを出すくらいなら直接御湯殿いづなを叩きに来たほうが良さそうだが………」

 

 

どうやってこの機械を量産しているのかは不明だが、予算的には決して優しい代物ではないはずだ。

なんのためにこの円盤を…………?

まぁ………能力を持たない一般人を襲うには十分すぎる戦力ではあるが。

 

 

「慧音、こっちはぜんぶ落とした!まだ街の中にいるかもしれない!」

 

「あぁ。次へ行くぞ」

 

 

私は襲われた人々を旅館のなかに誘導してから、街の奥に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

「あれは………百鬼丸様!?」

 

「ネムノと山如もいるぞ!…………なっ、アレなんだ!?」

 

「─────っ!!!」

 

 

 

私と妹紅が御湯殿いづなの入り口の門の近くに来た時、そこに臨戦状態の百鬼丸と山如とネムノがいた。

 

 

 

──────そして、中空に浮遊する二人の女の影があった。

 

一人はやや色黒で特攻服のような奇抜な衣装を着た金髪の女と、もう一人は小柄で弱々しい青髪の少女だ。

 

 

「慧音、妹紅!来てくれたんだべか!」

 

「こっちは随分と面倒沙汰だ。ここへ来るまでに何台撃ち落としたか…………だっていうのに、こりゃあなんなんだい」

 

 

宙に浮く女たちの周囲には無数の円盤が光にたかる羽虫のように浮かんでいた。

 

 

「来たか、もこけーね。どうした、助太刀は不要だぞ?」

 

 

百鬼丸様はこちらに視線も顔も向けることなく、目の前に浮かぶ女だけを目をそらさず見続けている。

 

もこけーね………?

妹紅と私のことを続けて言っているのか?

それとも何かの呪文か作戦名か?

 

 

「なぁなぁ百鬼丸。円盤の位置を探知して敵の位置を探ろうとしてるんだが、円盤1台くらい残せないかな…………?」

 

「無理だな。円盤の耐久力は低いが、攻撃力は申し分ない。一発の威力はナスビの射撃に匹敵する。街に1台でも残してしまえば惨事を招く事になる」

 

「マジかよあのナスビの射撃と!?」

 

「まぁ、ナスビの射撃は追尾してくるし弾速も違うし色々と違いはあるのだが、威力だけで言えばな。レーザーの一条で建物に穴が空くし、数が集まればこの通り、ネムノと山如を疲弊させるくらいには…………」

 

「数が多すぎる…………1台ごとの力は大したことがないが、それでも一発でも貰えば深傷になると考えれば…………」

 

「この老体にはこたえるべ………」

 

 

 

あの円盤は1台でも残してはならない………?

だとすると計画はご破産になる。

青葉の位置を探知するには、あの円盤を1台でも残し、帰還させる必要があるからだ。

でも、もし円盤が撤退せず、こちらへの攻撃を継続した場合は?

 

 

「くっ……………」

 

「それより百鬼丸、アイツら誰なんだ!」

 

「さぁ、な。それは今から分かるところだろう」

 

 

 

 

 

「アタシらはね、くだらねーこの街を念入りにぶっ壊しにきてやったんだよ」

 

「わ、私たちの意思じゃないですからね!?う、上の指示で………仕方なくです………あいたっ!」

 

「…………そんなわけで、この薄汚ねぇ街ごと、テメェらをゴミにしてやらァ!」

 

 

 

 

 

 

 

「─────そうか、ならば死ね!!!」

 

 

それに最速で反応したのは百鬼丸様。

相対する存在がこちらに明確に敵意を示す対象であるということを把握した瞬間に、手に持っていた薙刀を容赦なく全力で投げつけた。

 

この投擲の余波だけで周囲に暴風が吹き荒れ、私たちの身体は吹き飛ばされた。

 

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁーっ!!!」

「なんだぁぁぁーっ!!!」

 

 

私や妹紅、なんならネムノや山如までもが吹き飛ばされるほどの強烈な一撃だった。

 

戦いに関係ない私たちまで吹き飛ばされるその様子は、私たちがまるで転がる小石や小さな枝の破片に等しい何かであるかのよう。

 

 

嵐はわずか一瞬のものだったが、止んだときにはすでにそこには誰もいなかった。

 

 

「な…………なんという…………圧倒的力…………」

 

 

青葉たちは、コレと真っ向から戦ったというのか………?

百鬼丸様の明確な実力を見せられたのが初めてだっただけに、その事実が未だに信じられない。

彼女さえいれば、もう幻想郷に起こるあらゆる問題は解決してしまうのではないのか………?

 

 

「さすがだな百鬼丸!アイツら一瞬で吹き飛んでいったじゃないか!」

 

 

妹紅が飛び上がって喜ぶ。

 

 

「あぁ………おかげさまで、敵の正体もわからなくなっちまったがねぇ………」

 

「助かったが、流石にやりすぎだべ………」

 

 

百鬼丸様の規格外の力は、こっちの常識を覆してくるので逆に扱いにくい所だ。

 

 

「…………奴らはこの場から退却している。このまま追跡すれば連中の根城が明らかになるぞ。ここは私が追おう」

 

「へへっ。味方になると頼りになるな。そんならいっそ、敵の根城もぶっ潰して来て欲しいところだけどな」

 

「すまないが、それはできないな。私の力は、民を守るためのものであって、他の種族を侵略するためには振るわない。今も昔も、それは変わらんとも」

 

 

鞍馬天狗が多種族を侵略するというのなら、この千年で幻想郷の地図から常磐國以外が消滅するだろう。

飯綱丸様に助け出してもらうより前からでも、誰一人として攻めるために力を振るわないという考えは変わっていないようだ。

 

 

「わかってるよ。そうだ、百鬼丸にはこいつを持っててもらいたい」

 

 

妹紅はにとりから預かった探知機を手渡した。

 

 

「こいつを身につけている限り、にとりがいつでもお前の位置を探知できるんだってさ。そいつをもって、奴らの本拠に行ってほしい。私たちも頭数揃えてすぐに追いつくからさ」

 

「流石は河童の優れた技術だ。頼りにさせてもらう。だが………そんなにも手離してはならぬなら、いっそ身につけるより、飲み込んだほうが良いのではないか?」

 

「それは絶対に駄目!!!」

 

 

何を考えているんだこの人は。

 

 

 

「では、征こう。私は一度敵の本拠にてお前たちの合流を待機することにする。"もこけーね"はすぐにめぐみんの所にに戻ってくれ。円盤は武蔵がすべて撃ち落とす。ネムノんとダユーも円盤の処理を任せた」

 

「なんか独特なあだ名が付けられてるべ……」

 

「あぁ。だが、悪い気はしないさ。箱入りお嬢様のお願いだ、しっかりと聞き入れてやろうじゃあないか。行こうか、ネムノ」

 

「んだぁ。街はウチらに任しといてくんろ。慧音と妹紅は頼んだべ」

 

「承知した。すぐににとりの元へ向かう」

 

 

ネムノと山如は一斉に退却した。

私たちも旅館に戻ろうとしたが、去り際に妹紅が百鬼丸に言葉を残していった。

 

 

「んじゃそっちは頼んだよ百鬼丸。やられんなよ?」

 

「この私を誰だと心得るか、天下無双の鞍馬天狗、常磐百鬼丸繰経であるぞ」

 

「そーいうのをフラグっていうんだからさ。お前は心が繊細なんだから、泣いたりすんなよ?」

 

「無用な忠告痛み入る。今の私にはめぐみんがついている。今ではむしろ不屈の闘志こそがこの百鬼丸の真髄よ!」

 

 

百鬼丸は天高く飛び上がって離脱した。

 

 

「あの様子なら、向こうでやられたりすることはなさそうだな」

 

「あぁ。心置きなく単独行動を任せられる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょちょちょちょお姉様ーっ!ぜったいヤバいですヤバいですってアレ!!!」

 

「うっさいわねェ!無駄口叩くな!今は逃げることだけ考えてりゃいいのよ!!」

 

 

百鬼丸の起こした竜巻に吹き飛ばされた後、アオイとヤマブキの二人は大急ぎで逃走をしていた。

 

 

(なんなのアレ………!なんで鞍馬天狗の女王があんな寂れたカスみたいな街にいんのよ!!!ウソでしょまさか味方になったの……!?と、とにかく………早く戻って、どうするか姉貴に訊かなきゃなんないじゃない………!)

 

 

本来の百鬼丸ならば、これだけの時間差が開いていようとも瞬く間に距離を詰めることができるが、あえて彼女たちを逃がしきれるように加減して追いかけている。

そのため、ヤマブキとアオイはまだ、百鬼丸の追跡する姿は見えていない。

 

 

「お姉様!もう追手は来ていませんよ!」

 

「うっさいわね!もしかしたらコッソリ付けて来てるかもしんないじゃないのよアホ!アンタはアタシの言うことだけ聞いてたらいいんだよ!」

 

(…………………………)

 

 

アオイは後ろを振り向く。

百鬼丸は追いかけてはいるが彼女たちの視界に入らないように動いている。

アオイはしばらく後ろを見つめていたが、すぐにヤマブキに向き直った。

 

 

「────ひ、ひぃぃーっ!すみませんすみませんー!ちゃんと言う事聞きますからぁー!」

 

「いいからさっさと戻るよ。もしかしたら、いきなり大事になるかもしんないね…………鞍馬は触られない限り戦わないって噂はどこいったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、もう付けてきたのかい?」

 

 

にとりとたかねは一瞬で戻ってきた私と妹紅に連れられて、作戦室へとやってきた。

 

 

「話は2人から聞いている。彼女たちはどこにいるんだ?」

 

 

龍をはじめ、文たちもその場にいた。

ちょっと待っておくれよ、とにとりは手に持った平たい端末を取り出す。

 

 

「この画面に映っている赤色の点を見てくれ。これが反応だ」

 

「その光ってる所に百鬼丸はいるんだな?」

 

「あぁ、それで、緑の点が私たちのいる場所だ」

 

 

そこまで複雑な顔面ではないようだ。

赤い点と緑の点しか写っていない。

幻想郷の地図が書いてあるとかそういうことではなく、ほんとうにただ赤と緑の光の位置関係しかわからないようだ。

 

 

「赤と緑の点の大きさが違うのはなぜだ?」

 

「それは高さの差を表している。小さいほど、高い座標にいる。高さが近づけば自ずと表示の点の大きさが同じになるのさ」

 

 

ということは、百鬼丸様は現在この場所よりも高い位置にいるということだ。

それも、ちょっとやそっとの大きさの違いではない。これほどにまで明確に点の大きさが違うということは、かなり高い場所にいると予想できる。

 

やはり文の推理は間違っていなかった。

青葉がここへ戻れないのは、あまりにも青葉のいる座標が高すぎるせいで、ここへ降りてこれないからだ。

 

青葉は今、この山のはるか上空にいるんだ。

 

 

 

「ということは、ここより上に向かえば青葉を探し出すことができると予想できるな」

 

「そうと決まりゃ、さっそくオオバを助けるためのメンバーを決めようぜ、大天狗!」

 

「ふっ…………あぁ、そうだな。青葉を助けに行こうか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、青葉を救出するための作戦会議が練られることになった。

円盤を片付けた武蔵たちも帰還し、メンバーの全員が揃った。

 

 

・飯綱丸龍

・射命丸文

・姫海棠はたて

・犬走椛

・河城にとり

・山城たかね

・坂田ネムノ

・駒草山如

・上白沢慧音

・藤原妹紅

・化野安曇

・御劔一千子

・高倉院武蔵

 

そして、重傷につき絶対安静の那須備壱与と、

現在すでに敵地に向かった常磐百鬼丸繰経。

 

 

 

龍「まず、部隊は2つに分ける。敵地に向かい、青葉の救出に向かう救出部隊、それと………彼らが離脱している間に御湯殿いづなの警護を行う防衛部隊。昨日の今日で何かが攻めてくるとは思えないが、とはいえ警護を手薄にしては、次に攻め込まれれば御湯殿いづなは今度こそ復興不能になるのでな」

 

安曇「敵は空高くに棲んでいやがる。だったら、行けるのは空中戦が得意なメンバーに絞られるな。俺らなんかじゃ、そもそも敵地に行くこともままならねぇな………」

 

文「そこは私たちに任せちゃってください。上空戦こそ、私たち天狗族の本領ですから!」

 

椛「いやまぁ………私は地上戦が担当なのですが………」

 

慧音「百鬼丸様がこちらから離れている以上、常磐國の事も考えて武蔵には地上に残ってもらう必要があるだろう。あちらへは私や妹紅、それから文たち天狗族が行くべきだ」

 

一千子「地上の警護は私らに任しときな。いざって時はこの私が魂に賭けて消し飛ばしてやるんだわさ」

 

安曇「…………………いや、一千子は最後の切り札だ。極力前線には出さないようにしてくれ。それに、昨日の深傷も、まだ治ってないんだろ」

 

一千子「まぁなァ。だが、今はここが踏ん張りどころだ。鍛冶場なんていつだって煮えてるもんだわさ」

 

 

安曇が一千子の身を深く案じているのが伝わる。

彼も変わったのだろうか。あんまりこういうことに気を配ったりしないような性格だと思っていたが。

 

 

たかね「にとり、百鬼丸様の反応は?」

 

にとり「微弱に動いてはいるが、高さの座標はそれほど変わっていない。こうしている間に、どうやら到着しているかもしれないぞ?」

 

龍「だいたいどれくらい離れている?」

 

にとり「いやぁ…………流石にそこまでは………だけど、こんくらいの高さの差があるなら、もう地上から数十キロは離れているだろうね30、40………いや、もっとあるかな」

 

椛「そこまで来ると、大気圏ギリギリの圏内です。そもそも、高度1万メートルがほとんどの生命体の活動限界です。それを超える高さにいるなんて………本当に雲を突き抜けるほどの高さということですか………!?」

 

はたて「なんか、雲行き怪しくない?」

 

山如「あぁ。そもそも飛べる飛べないさておきそこに行けるかどうかも怪しいねぇ………」

 

ネムノ「だども、百鬼丸様はなんで生きてんだべ?」

 

慧音「天狗族も、地上数十キロを飛行する理由なんてないからな。普通はそんな高さを征くことなどできないんだが………何らかの方法によってそのあたりの気圧や酸素濃度を地上とほぼ同じものに保っている可能性はある。というか、逆にそうでないとそこに敵がいて青葉を拘束できるということに説明がつかない」

 

妹紅「てか、私らそこまで飛んで行かなきゃいけないのかよ?ただでさえ40キロも飛行なんて骨が折れる話だってのに、生き物生きる限界超えてそんな長さを飛行し続けるとか、私以外にできるやついるのか?」

 

武蔵「ここにきてまさか新しい問題が浮上してくるとはねぇ………となると、連中はどうやってここまでやってきたのか。それが気になるね。生半可な飛行では安全が保証されてないとなると、連中が昨日と今日とで少なくとも2回は地上とこちらを行き来する特別な手段があったわけだよ。それがないと、敵地に近寄ることもできない。百鬼丸様はどうやって追いかけられたんだろうねぇ」

 

 

百鬼丸様は、一体どうやって追いかけることができたんだ?

 

 

龍「なんか、あの百鬼丸のことだし、普通について行ったら着きましたとかは余裕であり得る話だと思うんだが………いくら百鬼丸でも、天狗の限界を超えれるわけではない。案外、どうにかなるのかもしれんな………ここ幻想郷だし」

 

妹紅「…………ダメ元で一回やってみるか?」

 

慧音「─────そうだな…………」

 

 

 

 

 

 

すると、部屋の奥から龍の下僕、典がやってきた。

 

 

「飯綱丸様、飯綱丸様。ちょっとお耳を………」

 

「典じゃあないか。どうしたんだ?」

 

 

ヒソヒソと典は飯綱丸に耳打ちした。

 

 

「…………なに、青葉以外にも行方不明者だと?」

 

 

──────ヒソヒソした意味は。

 

 

龍「…………どうやら、女将代表の朋恵が昨日から行方が分からないらしい」

 

安曇「んーっと、誰だっけ。まぁいいや、どうせオオバと一緒にさらわれたんだろ。ついでに助けてやろーぜ」

 

慧音「───────うん………?」

 

 

朋恵まで攫われたのか?

私は昨日、旅館の歴史を消して………たしかにモーガンに見破られてしまい、秘匿が無効化されたが、青葉以外に奴らが身柄を奪うべきような人物などいたか………?

 

それに、モーガンが攫ったのは青葉だけだ。この私がずっと彼女と対峙していたのだ。ちゃんとそれは見てる。

なら、モーガン以外の誰かが、あの騒ぎの中、朋恵を狙った………?

あの時、旅館に辿り着いたのはモーガンだけではなかったというのか!?

 

それに、なんでもない旅館にいるだけの一般の女将を攫う………?

 

あの一連の流れの陰に………なにか、私たちには見えていない大きな見落としがあるはずだ。

だが、それが一体なんなのかが………わからない。

 

いや、ここでそれを口にしたところで場が混乱するだけだ。

私たちの目的は単純、青葉を助け出し、さらに同時に攫われた朋恵も助け出す。

それが分かっただけでもいい。

 

誰に攫われたのか、なぜ攫われたのか。

そのあたりの事は後で本人に聞けばいいのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

─────私は縁側から漏れる夜空をみあげる。

 

星が雲なき夜空を明るく照らすが、敵の本拠らしい影は見当たらない。

手がかりは百鬼丸の場所を示す赤い光のみ。

 

 

赤い光が導く、妖怪の山をまたぐ一つの事件の真相、御湯殿いづなを襲った敵の正体、その目的。

 

すべての謎を解き明かすために、飯空Projectは夜空の彼方、空の上へと。

 

 

 

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