東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「………………………………」
私………神門カナエは人里を歩いていた。
記憶を失い、名前も忘れてしまった彼女は神門青葉にカナエという名前を与えられしばらく彼の家であるいぬゐ舎で暮らすことになった。
ある日青葉が買い出しで家を開けていた時。
彼女は一人で店の外に出てみた。
積雪に埋もれ、重い低体温症と重い怪我を負った状態で発見された彼女は基本的に青葉と一緒にいない時間がなかった。
それだけ彼からは心配されているのだ。
この日が初めてだった。長時間で青葉がカナエから離れるというのは。
「……………………ここが、人間の里…………」
カナエは周囲を見渡す。
木造の家が長屋かと思うのように並び、多くの人間が歩き回り、おしゃべりを楽しんだり客の呼び込みが行われていた。
カナエの向かいから二人の若い乙女たちが歩いてきた。
「それでね〜!神門さんがそん時あたしに手を振り返してくれてね!今なら行ける!って思って近づいたらさ、あの人私が髪切ったの気づいてくれたのよ!」
「えー。そりゃ気づくでしょう?長髪を短髪にしたんだから」
「そりゃあんたは気づくだろうけど、神門さんあたしとほとんど接点ないんだよ?そもそもあたしのこと覚えてくれてるのが嬉しいのよ!」
「まぁたしかにそうかもねー」
「これって脈アリってやつなんじゃないの!?神門さん超イケメンだし可愛いからああいう人と一緒になれたら嬉しいのになぁ〜!」
「ナイナイ。あんたなんかがそんな絵に描いたような王子様に拾われるワケない」
「なによそれー!友人ならもうちょっと応援してくれてもいんじゃないの!?」
ちょっとした会話を聞いていたカナエは二人の歩いてきた方向に歩いてみる。
少し先に、床屋が見つかった。
「髪………………青葉さんはどっちが好きなんだろう」
カナエは青葉から小銭を預かっていたことを思い出した。
(うちは貧乏だから、カナエには色々不便かけちゃってるよね…………そこで、もし一人で外を出歩けるようになったら女の子らしく着飾ってみるのもありじゃないかなって。ほら、服もそんな温泉上がりみたいな浴衣ばっかりじゃ
カナエは命を助けてもらっただけでも、居場所を与えてくれただけでももうこれ以上望むものはないというのに、彼は貢ぐかのようにカナエに尽くしている。
カナエは記憶を失っているが、それでも年齢で言えば年端も行かない少女。
着飾って自分を表現したいとは思う。
「なんだか、懐かしいなぁ」
カナエの身体は、髪を切るという行為を遠く久しぶりに感じていた。
自分を縛るものが何もなく、自由に自分でいられるということ。
「………………ふふっ、」
不思議と笑みが溢れる。
そして、その一方……………
「お前が……………お前が守矢神社と、旧都を…………!」
円筒状の空間の中に、政子牙の姿があった。
彼女を睨みつけるのは、白と緑の服を着たカラスのような羽の少女だった。
「間欠泉地下センター。獄下のマントルの真上に作られたこの核融合炉が幻想郷に大きなエネルギーをもたらしていると…………」
「何を………何を言ってるんだお前はぁぁ!!!」
カラスの突然の速射。
突如として燃え上がる太陽の光のような黄金の光線が幾条にも折り重なりつつ放たれて、政子牙の立つ足場の一切を粉砕してしまった。
熱線が炸裂着弾して少し遅れてから巨大な爆発が起こる。
遠く離れている彼女の周囲すらもその煙で覆われるほど。
しかし………………
「な─────っ!?」
政子牙は浮遊状態で高速飛行し、熱線の範囲から難なく逃れたのだ。
そのまま鞭を抜く。
「可哀想に…………こんな鳥頭にそんな強い
「こんのぉ…………!!!」
カラスの突進。
さらに突進しながら熱線を放射状に放つ。
「わたくしはあなたをただの
そう言うと、政子牙の鞭の縄部分は光の縄になって柄の中に吸い込まれていった。。
残った柄としての棍棒から、また新たな光線が発生した。
「偉そうな神様だから見せてあげましょう。私がなぜ幻想郷で最強の封神官としていられるか………身の程を知りなさい、鳥頭!!!」
光は鞭から切り離され、独立した光の玉となって膨張していく。
それは次第に人型となっていく。
「うっ………!させるかーっ!」
「
政子牙は声とともに指を振りかざす。
すると、光の塊は完全に人型になり、背中に巨大な縄を背負った大柄な女の姿になった。
「か、神奈子様─────!?」
烏の少女、空は一歩後ろに下がる。
それが命取りとなった。
「死になさい!!!」
「うぐぅーっ!!!」
大柄な女の影が巨大な柱を手に取ったかと思えば、凄まじい勢いで空を殴りつけたのだ。
空は壁際までふっとばされ、叩きつけられる。
「う…………そんな、なんで…………!!!」
「良いですよねぇ。かつての敵を味方にして使えるって。まるでモンスター育成ゲームみたいじゃないですか。ははっ」
「その笑い方を………やめろ………さとり様には、近づけさせない………!」
空はヨロヨロと中央に戻った時、猛烈に力を溜める。
「うぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
空の咆哮の衝撃で地下のマグマが波を立てる。
粉砕された瓦礫の破片が宙に浮かぶ。
「やれやれ──────行きなさい、」
政子牙の指示に影は頷きもせずただ空に向かって柱を次々と投げ飛ばす。
「ふぅっー!!!」
そのすべてを焼き尽くしながら空は政子牙の方へと突っ込んでいく。
これほどの熱量で直撃されれば生き残ることは絶対にできない。
「む───────!!!」
「オォォォォォッ!!!くたばれーッ!!!」
その凄まじい勢いの突進は近づいた柱は空に触れるまでもなく焼失していく。
空気の全てを焼き尽くすかのようなその一撃を政子牙に避けることは不可能。
だがしかし、
「核熱『核反応制御不能ダイ────」
「甘い甘い。それでよくやってけますね?ははっ!」
「うっ………………!?」
空の猛烈な突進は突如として勢いを失い、まとう炎や核エネルギーも全て消えてしまった。
「スペルカードを、使いましたね?ははは、残念でした。私にスペルカードを使っても、無効化されるだけですよ!」
政子牙は棍棒を構える。
棍棒が形を変え、金色の槍に代わる。
「
真上から真下に向けての強烈な槍の突き出し。
突き出しは勢い余って投擲へと変わり、空の身体を直撃。
「ぅぐぁ……………!」
空はそのまま刺さった槍の勢いに連れられて真下に真っ逆さまに落下。
「さらに追加!
追加で上空から無数の巨大な柱が落下。
空はなんとか飛行して落下から逃れようとするが降ってきた無数の巨大な柱に押し潰されてさらに下に落下する。
その柱と共に溶岩の海に落下した。
「ぎ…………あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
灼熱の海の中で空は悶絶する。
しかし、柱が杭となって地下の底に打ち付けられたまま抜け出すことができない。
破損部位にマグマが流れ込んで肉体が瞬く間に電磁波を放ちながら炎上する。
「wwwwwwwww ははっ!ははっ!あははははっ!40年ほど使いこんだオモチャみたいな壊れっぷりですね!大丈夫です、八咫烏の権能を含む神威はちゃんと無傷で回収しますから!しかしあなたの自我とその脆い肉体ではこの力を有効に活用できない。だから、ちょうどいい焼却炉があるんだから、あなたはそこで跡形もなく融解されていなさーい!」
「あぁぁぁぁぁっ!!!助けて…………ぇぇぇぇ!!!あつい……………あつい!!!やだ………嫌だ、いやだァァァァァァァァァァァァァァァ」
最期に赤の水面が膨張し光を放った次の瞬間、
空の中に含まれていた核エネルギーが暴発し、大爆発が起きた。当然、円柱状の壁面は一切が爆破によって粉砕され、原子炉に引火し、次々と誘爆が乱発する。
円筒の間欠泉地下センターは一瞬にして爆炎の渦が駆け巡り、最後に地上に開いた、地下センターから青空を見上げる大穴から天まで届くほどの紅が、火山の噴火のように撒き起こった。
旧地獄にも地下センターの残骸が降り注ぎ、原子炉の破片が落下、起爆。
旧都の建物も次々と被害に巻き込まれ、地獄は一瞬にして極炎の中に飲み込まれていった…………
「ほう、これが八咫烏…………仰ぐ太陽の力か…………なんたる惨、いや…………強大な力よ。この星の生き物であれば人妖を問わぬ、生きとし生けるもの全てに等しく訪れる破滅の唄────」
「まったく、事態を大きくするなとあれほど。こんなことをしてはロクでもない結末になるに違いない。私らは帰還するぞ灼。お館様への報告と、我々の準備を進めなければならないからな」
「相分かった、政子牙殿には頑張ってもらいたいな。これほどの破壊力を手にすれば、よもや彼奴に敵などなかろうて。「あんびぃたぶる」という事柄であるな!」
「………………「無敵」ときたか。さて、それもどこまで続くだかな。本当にこれだけで良いのならば、私らなぞなくてもすべては奴一人で十分だ」
そして世界の終焉のような炎の雨の中、モーガンと灼は足早に消えていく。
そしてついに、妖怪の山に火の手が登ったのだった。
「………………いま、なにか」
カナエが髪を短く切り、白いベレー帽と白と黒のボーダーのセーター、それから黒い長スカートを纏っておしゃれを楽しんで、次は靴が欲しいと思い始めた頃。
少しした時、彼女は何かを感じた。
まるで、何かが爆発したかのような大きな音。
「────────────────」
カナエは怖いという気持ちだけを胸に、自分の胸を両手でぎゅっと抱きしめる。
「カナ!大変だよ!妖怪の山が…………!」
「あぁ、私も見たよ。ありゃあ…………間欠泉地下センターか!?」
「な、原子炉か爆発したっていうの?そりゃマズいよ、急いで空の様子を見に行こう!」
「あぁ…………!」
後ろから二人の人影が走ってきた。
「きゃっ…………!」
「あっと、すまないね………!急いでるんだ!」
「前を見てなくてごめん!次見かけた時、いゃんと借りは返すからー!」
カナエの先へと走っていったのは、黒いカッターシャツを着た青髪の誰かと、子供用のダウンジャケットを着た特徴的な帽子の誰かだった。
「…………………………………………」
人里は異変を一切感じていない。
普通にみな買い物を楽しんでいる。
「…………………………………………行かなくちゃ、」
ナゼ?
ドウシテ?
わからない……………だけど、何か、なぜか。
彼女たちの後を追わないと、いけない。
─────そんな………そんな気がする。
カナエは一人ゆっくりと、二人の後ろ姿を追いかけていった。
火の柱を上げた大きな山、見知らぬ2人の女性。
記憶の断片にも残らないほどのわずかな奇跡が、
偶然にもカナエを目的の場所へと導いていく────