東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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(とぐろ)

 

 

 

日も落ちてすっかり夜中になってしまった。

 

 

 

「そうなんだよね。だから、また慧音さんに協力して欲しいなって思ってさ」

 

「秋休みに続いて冬休みまでもお前に手を貸すことになるとはな。お前が行く先は絶対に事件が起きるな」

 

 

俺は慧音さんを店に連れてきた。

もちろん他でもない、カナエの件だ。

記憶を失った女の子。こんなややこしい件、慧音さんを頼った方が良いに決まってる。

編纂者なら彼女の過去について何か知っているかもしれないからね。

 

 

「ただいまカナエー。お客さんを連れてきたよ」

 

 

俺はカナエの名前を呼んで家の扉を開けて居間に帰ってきた。

 

 

しかし、カナエの返事はない。

 

 

「……………………あれっ。カナエー?」

 

「いないのか?」

 

 

慧音さんはそう言っているが…………

 

 

「カナエー?ごめん慧音さん、いっしょに探して欲しい」

 

「あぁわかった」

 

 

慧音さんと5分間家を探したがどこにもカナエはいなかった。

 

 

「……………………気配がしない、」

 

「庭と店先とその周囲を探してみたが、いなかった。部屋の中には?」

 

「カナエは基本的に居間にいる。いちおう他の場所も探したけど家の中にはいなかった」

 

 

いったいどこへ…………お金渡してたから、どこかへ食べにでも行ってるのかな。

 

 

「どこかへ出かけているのかもしれんな。どんな子なんだ?」

 

「変わった子だから探そうと思えばすぐに分かると思う。緑色の髪で、カエルの髪飾りを頭に着けてるんだ」

 

 

俺がカナエの特徴を慧音さんに伝えた時、慧音さんの顔が青白く歪んだ。

 

 

「な…………いま、なんと…………」

 

「え…………?」

 

「緑色の髪、カエルの髪飾り…………それはまさか…………守矢神社の風祝のことなんじゃないのか…………?」

 

 

慧音さんの声がひどく震えている。

 

 

「風祝……………あっ……………!」

 

 

俺は慌てて引き出しを開くと、カナエが最初に着ていた服を取り出した。

何があったのか会った時からボロボロになってしまっていたけど、原型は留めている。

 

 

「その装束、間違いない…………そんなバカな…………あの風祝が、記憶を失ったというのか…………?」

 

「慧音さんはさっきから何を…………」

 

「知らないのか…………お前が会ったカナエという少女、それは妖怪の山の山頂にある守矢神社…………そこの巫女、東風谷早苗(こちやさなえ)だ」

 

「こちや…………さなえ……………?」

 

 

初めて聞く名前だ。

それに、カナエが巫女だったということも…………

 

 

「あぁ。それが彼女の名だ。秋の頃、私らが天狗の集落にいた時に異変があったというあの守矢神社だ」

 

「で、でもそれは霊夢たちが……………」

 

 

あの異変先には霊夢たちが駆けつけてくれて、解決したという風に聞いていた。

だから…………今は平和なはずなんじゃ……………

 

 

「あぁ…………これは、何かがおかしい。青葉、何かここ最近でおかしなことはあったか?」

 

「いいや…………まったく。妖怪の山で再異変なんて、そんな兆しはなかった」

 

「であるのならば、解決したかのように思えてまだ異変の取り残しがあったということだ。きっと霊夢たちが駆けつけた時に今回のことの準備はすでにできていたんだ。それが霊夢らが帰った頃に合わせて、遅れて始まったのだ」

 

「守矢神社の様子を見に行かなくちゃ…………!」

 

 

俺は慌てて立ち上がる。

 

 

「いや、まずは東風谷早苗を探すところからだ。私は博麗神社へ向かう。お前は東風谷早苗を探しに……………ぐぅぁわっ!?」

 

 

慧音さんの身体がいきなり宙に浮かび、俺の胸の中に飛び込んできた。

びっくりして俺は慌てて両腕で慧音さんを抱くように支える。

 

 

「うわっ!?なんだ、地響きか!?」

 

「あ、あわ…………あわわわわぁっ………!!!」

 

 

慧音さんはなぜか顔を赤くしながら俺から離れる。

 

 

「今のはなんだ…………?」

 

 

俺は警戒しながら刀を取り、おそるおそる家を出る。

 

頭だけ出した時、俺は緊急事態を悟った。

 

 

「慧音さん!!!家の奥へ!!!」

 

「えっ…………!?」

 

 

俺は振り向いて叫ぶ。

慧音さんが驚くと同時に俺の背後から巨大な物体が飛来してきた。

 

 

それに殴りつけられた俺は店壁と共にふっ飛ばされる。

 

 

 

「ぐぁっ…………!」

 

 

猛烈な衝撃を受けなが壁に打ち付けられ、倒れる。

 

 

「青葉!」

 

「な…………何が起きた…………」

 

 

 

俺は刀を杖のようにしながらヨロヨロと店の外に出る。

 

 

「なっ…………そんな……………」

 

「…………………っ!」

 

 

俺と慧音さんの目の前に映ったのは、変わり果てた人間の里だった。

 

 

家屋が次々と倒壊していき、逃げ遅れた人々が次々と斬り殺されていっている姿だ。

燃えた家が周囲を明るく照らす。

 

 

 

「な、はぁ…………?」

 

 

 

 

俺は状況の整理がつかなかった。

 

 

 

「ひぃぃぃ………たすけてくれぇぇぇ!!!」

 

「に………にげ…………がはあっ、」

 

「やめて…………どうかこの子だけは…………ぐっふ、」

 

「きゃぁぁぁぁぁっ!お母さん!お母さn」

 

 

 

 

 

女子供関係なく殺戮していくのは誰だ。

 

 

俺達の住まう平和な里を、罪もない人間を斬り殺すようなやつは……………誰だ……………!!!

 

 

 

「青葉!あれを見ろ!」

 

「っ………………?」

 

 

慧音さんの声で正気に戻った俺が見たのは、信じられない光景だった。

 

 

 

 

『殲滅を開始します』

 

「がぁぁぁぁっはあっ!」

 

『我が主の贄となりなさい、人間よ』

 

「ぐぅはっ、あぁっ…………!」

 

 

 

なんと、土のような色の鎧を身にまとった兵士たちが大勢で一斉に突撃し、腰から抜いた刀で人を斬りつけていたのだ。

その人形のような精巧な作りと美形な顔。

 

 

そして、その先に見える───────

 

 

 

 

 

蛇のような巨大な尾を携えた……………蜷局を巻く、俺の身長よりも太いその尻尾の上に座る、一人の女の姿。

 

 

鮮やかな水色の髪を持つ、神々しい顔の女。

 

 

 

俺の前に一人の兵士が飛んできた。

 

誰かにやられたのか。その兵士は人々を殺していく兵士と同じ鎧を着ていた。

 

 

「がはっ……………」

 

 

その兵士は顔や身体にヒビが入っていた。

まるで陶器でできたような身体。

 

 

「青葉、間違いない、これは埴輪兵だ!」

 

「埴輪…………兵?」

 

 

聞き慣れない単語を俺は直接反復した。

 

 

「あぁ…………私たちのことだ。そして…………あの蛇が、我々をお作りくださった埴安神袿姫(はにやすしんけいき)様だ…………」

 

 

「────お前らは、何をしている………!」

 

「やめてくれ、勘違いしないでほしい。袿姫様は本来はお優しくてあそこまで禍々しい身体ではない、素晴らしいお方なのだ…………!それが、いまは…………別人のように変貌してしまったのだ。特別性である私以外の埴輪兵たちはみな袿姫様の変貌とともに袿姫様に付いてしまった…………まるで『はっきんぐ』されたかのようだ…………私ひとりでは、この凶行を止められそうにない…………!」

 

 

 

──────────────。

 

 

 

「……………わかった。お前が誰も殺してないのは殺気のなさで分かった。ただ……………他の埴輪はすべてブッ壊す」

 

 

俺は三度笠を脱ぎ捨て、刀を勢いよく抜刀する。

 

 

「あぁ。それで構わない。ありがとう…………どうかこれ以上、あのお方に罪を犯させないで欲しい…………」

 

 

埴輪兵は微笑むと穏やかに眠りについた。

 

俺ももう、怒りを抑えられそうにない。

 

 

 

 

 

「青葉!よせ!お前の力は人里で解き放つようなものではないし、あれほどの存在、いくらお前でも…………」

 

 

「それがどうかした?俺は、例え自分が死んだとしても、この命を民のために費やす…………そう誓っているんだ」

 

 

この女は今どきになって何を言い出すか、俺の覚悟なんてとっくに決まってる。

 

 

「慧音、あんたはそこの埴輪と住民を一人でも多く逃がしてくれ。これだけの事が起これば里の外から誰か助けが来る」

 

「…………………わかった」

 

 

慧音も流石に俺が止まらないと察したのか大人しく埴輪に肩を貸して逃亡した。

 

 

 

 

「…………………調子に乗ってんじゃねぇぞ…………」

 

 

俺は一歩一歩埴輪兵たちに歩み寄る。

 

 

「新たな人間発見。速やかに排除します」

 

 

埴輪兵の数はだいたい4、50か。

 

 

 

……………物の数の目盛にならんな。

 

 

 

「何をやってんだてめぇらはぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

俺は絶対に見ることのできない速さで埴輪兵に突っ込み、刀を勢いよく振り抜いた。

 

一瞬にして埴輪兵たちは粉々に破壊される。

 

 

しかし────────

 

 

 

『破損部位の修復を開始─────再生完了。戦闘行為を続行します』

 

 

埴輪たちはなんと自分の力で割れた身体を再生して立ち上がってきた。

俺が粉々に破壊したにも関わらず、まるで何事もなかったかのようにもとに戻った。

 

 

「ちっ……………再生機能か、」 

 

『戦闘の記録により、対象を非常に危険度の高い存在と断定』

 

『軽装終了。対象の危険度最大。神格に匹敵する物と推定』

 

『追、内に神威の存在を確認。現状、最も優先して殲滅すべき対象です。全力による撃滅を強く推奨』

 

『了解。任務を遂行します、対神戦闘態勢へと移行』

 

『幻想郷から一切の神を封印せよ』

 

 

埴輪たちの握る剣の刃が引っ込み、変わりに赤黒い光の刃が生えてきた。

埴輪の目も赤い光を帯び始め、いかにも本気って感じの姿勢に変わりやがる。

埴輪兵は地中に沈んだかと思えば、俺を取り囲むように地面から浮かび上がってきた。

そうか、里の地面も土。泥で作られた埴輪も土に溶け込めるって理屈か。

 

 

「おもしろい、そうでなくっちゃなぁ!!!」

 

 

卑怯でなんかいけ好かねぇが…………だが。

それぐらい必死で抵抗してくれなくちゃ、俺に無関心で人々を殺されていかれちゃあ、たまったもんじゃない。

 

 

「はぁぁぁぁ……………!!!」

 

 

俺は埴輪兵に取り囲まれた状態で力を込める。

 

 

「─────神雷(じんらい)八草の雷(やくさのいかずち)』!!!」

 

 

俺が刀を空に向けると一瞬にして雷雲がたちこめ、そこから太い雷が打ち下ろされる。

 

埴輪兵はまたもや粉々に粉砕される。

地盤にも亀裂を入れるほどの重たい雷を俺は自力で発生させた。

 

だが、まだ埴輪たちは再生する。

まぁ、そうだろうよ。そんなに甘くはないよな。

 

 

再生機能を持つ埴輪は何度潰そうが戻って来る。

こんなの相手にしてりゃ里がなくなる。

 

となると、やっぱあの兵士の通り…………あのこちらを見下ろしているだけの蛇女…………アイツをどついた方が早いか。

埴輪たちも所詮は造形物。指示を下す主さえ消えれば動く事ができなくなるはずだ。

 

 

 

だが、あの巨体をどうやったら倒せる。

 

女の体自体は普通のサイズだが、その蛇のような尻尾があまりにも長すぎる。

建物を一撃で粉砕するあの質量と巨体、そして勢いでぶん殴られたら流石の俺も即死する。

ワーハクタクの肉体があるとは言え、結局その耐久力は哺乳類のそれだ。

 

 

あの埴輪…………何も教えながらなかったな。

 

 

「─────『天穹奉納(てんきゅうほうのう)』」

 

 

俺は刀に霊力を宿し、光の弓に変える。

 

 

全力でそれを引き、放つ。

狙いは間違いない。光の矢は蛇女に向かって飛んでいく。

 

 

「おー!ちょっとちょっと!なぁにしてるんですか!」

 

 

 

その時──────予想外の邪魔が入った。

 

 

 

なんと、俺の弓を弾いたのは巨大な黄金の角を持った牛の頭だった。

 

 

「あぶねー。天爪(てんそう)飛虎大帝(ひこたいてい)五色の神牛(ごしきのしんぎゅう)』っていうね……………」

 

 

牛の頭は揺らめいて消えた。

そして空に残ったのは、浮遊する一人の影。

中華服にパーカーの異質な着こなし、黒と濃茶の間を取ったような髪。

そして手には鞭。

 

 

「誰だお前は」

 

「わたくしは政子牙(せいしが)と申す軍師にございます。全ての神を封じ、お館様の望まれる幻想郷を作らんとす封神官…………幻想郷封神の執行官です」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 

    毀神太公

 

    政子牙

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

政子牙は浮遊をやめて、蛇の尾の上に座った。

 

 

「この惨状はお前が原因だな」

 

「開口一番それですか?どこに証拠があるっていうんです。もっとも、里の家屋はドンドン倒壊していくので証拠なんてもう残らないんですがね、ははっ」

 

 

貼り付けたような怪しげな薄ら笑いで政子牙は笑う。

 

 

「だいいち、私は軍師ですよ。こんな目立つことしないですって。仲間にした神様を里にけしかけてみたら勝手に暴れ出しただけですよ」

 

「ふざ…………けるな…………おまえは…………こうなると分かっててそれを呼び出した…………」

 

 

震える声でヨロヨロとやってきたのはさっきの埴輪兵だった。

 

 

「おや、埴輪兵が一人。まだ正常なものが残っていたか。埴安神もなかなかやりますね」

 

「袿姫様を…………もとに戻せ…………!」

 

「もとに戻せ、ですって?………あははははっ、」

 

 

政子牙は口を押さえて笑いを漏らす。

 

 

「なーに言ってんですか。これがこの神の本来のあるべき姿なんですよ?もうとっくに、私はもとに戻してあげたじゃないですか。ははっ!」

 

「そ………そんなことはない………!こんな異形が………偉大な袿姫様であるはずが………!」

 

「袿姫…………まぁ、確かに幻想郷での単体の神霊(みたま)としての扱いとはまた別ですよね。ですが私の遣わす神は本来の信仰や同位置の神格と合一したいわゆる本来の姿。言うなれば、神が幻想入りする前の姿ですよ」

 

 

長々とわけのわからんことを。

 

 

「神霊?信仰?幻想入り?何を言っているお前は」

 

「理解できなくても結構です。あなた達にそれほどの知能があるとは思ってないですし、ワケがわかるより前にどうせあなたたちは死にます」

 

「ワケは要らんさ。お前が人を殺した事実だけで十分すぎるほどお前を倒す理由だ」

 

「ふーん。なるほど、やる気は変わらないって事ですね良いでしょう」

 

 

政子牙は蛇の尾から降りると、腰に差していた麺棒のような黒い棒を振り上げる。

すると、その先端から光の糸が飛び出し、鞭のような姿になった。

 

 

「あなたにこの『習合神(しゅうごうしん)』の力は勿体ない。これを操るのってそこそこに大変な作業ですからね。あなたのような名前も知らぬ誰かを仕留めるのには、これぐらいが十分でしょう」

 

 

そしてその鞭を俺の横にいる埴輪兵に向かって放ったのだ。

バチン、と埴輪兵を叩くと、鞭の縄は一瞬にして埴輪兵の身体を絡め取って締め上げた。

 

 

「ぐ………ぐぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

埴輪が苦しそうな声を上げる。

 

 

「埴輪!!!」

 

「なにこれ。神の創造物なのに1ミリも神威がないと来ましたか。所詮は泥人形か…………えぇい、もうこうなったら不本意ですが里ごと潰します。やりなさい、造形神ハニヤス!」

 

 

鞭をもとに戻すと、今度は鞭で蛇の尾を叩く。

すると、蛇の女がとてつもない唸りをあげてその巨大な尾を動かしながらこちらへと迫ってきた。

 

 

「袿姫様……………!」

 

「もう無理だな。こいつをぶっ倒すぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうしたんだい、カナエ。また学校で嫌なことがあったのかい?)

 

 

それは……………自分が泣くということに、共鳴した声。

 

 

(そうか…………あぁ、可哀想に奇跡とは言うけれども、それはいつも誰かを幸せにするとは限らないものね…………)

 

(都合の良さが人間の社会の本質。利用価値があるかどうかが個人の価値…………カナエの価値なんて、そんなやつらにはわかっちゃいないのさ…………たとえカナエじゃなくたってそうなる)

 

 

なぜか、その時は身体が痛くて心が痛くて。

いつも、あの人にすがりついて、その腕の中でずっと泣いていた。

 

 

(でも、大丈夫だよカナエ。どんな事があっても、私たちはお前の味方だ)

 

(あぁそうだね。いじめはとてもつらいことかもしれないけれど…………せめてウチだけは、カナエのためにあるべきだと思うから)

 

 

毎日違う言葉でその人たちは私をなぐさめてくれた。1時間以上泣いた時も、ずっと私が泣き止むまで寄り添ってくれた。

 

 

 

 

(たとえ世界中の何十億という人のすべてがお前を傷つけるとしても、私たちが何百億もの愛をお前にあげる)

 

(だからカナエ………いなくなりたいなんて、そんな寂しいことを言わないでよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は─────────誰、」

 

 

 

 

 

そう言って…………私は、後ろを振り向いた。

 

何か、忘れているような。

 

私は来た道を引き返す。

 

 

私が向かおうとした先には、もう形も残っていない、何かを祀るかのような荘厳な建物だけがあった。

 

 

───────私は目を閉じる。

 

 

 

(カナエ、神様はなんの意味もなく誰かに力を与えたりなんかしない)

 

(お前の奇跡は、理由があって与えられた)

 

 

「大神様…………小神様…………」

 

 

(お前は産まれたことが奇跡、)

 

(そして、ここまで生きたことが奇跡、)

 

 

「奇跡………………奇跡………………」

 

 

(お前がこの世に生を受けたこと、)

 

(それはとてもかけがえのない奇跡、)

 

 

「私は──────祝、」

 

 

(故に───────)

 

(故に───────)

 

 

「故に───────我は光をもたらす者なり」

 

 

 

 

(行くよ、カナエ)

 

(信仰忘れ去られしこの地に別れを告げ、)

 

(そして、誰も知らない場所(ところ)へ────)

 

 

 

「───────カナエ、行きます」

 

 

 

私の手の中に、(ぬさ)が現れる。

 

なぜだろうか。こんなペラペラとした、一反木綿のようなものを初めて見たのに、この道具の名前をしっている。

 

そして、これが何に使う道具なのかもわかっている。

 

 

 

「私、行かなくちゃ……………!」

 

 

私の周囲を風と光と水が渦巻き覆う。

 

 

 

 

 

「───────思い出したかい。ようやく」

 

 

「……………っ!?」

 

 

私を取り囲む白く光る波の中に、人影があらわれた。

 

 

「あなた達は……………」

 

 

 

さっきの青い髪をした黒シャツの人と、

 

 

「これで、やれるね」

 

 

さっきの変な帽子のダウンジャケットの人。

 

 

 

「もう私たちにできることはこれしかないけれど、」

 

「お前ならきっとやってくれる!」

 

 

2人は溶けるように波の中におぼれていく。

 

そして白く光る水はやがて蛇のような形になって、私の胸を切り開き、私の胸の中へと吸い込まれていく。

 

なぜか、それが私にはとても心地よく感じられた。

 

 

 

 

「────────はい!」

 

 

 

 

「いいかいカナエ。今のお前は私らを含めて3人分の神威を宿している」

 

「その強大な力は、いかに現人神(あらひとがみ)のお前であっても簡単には耐えられない」

 

「期限は1週間─────それまでにカタをつけれなかったらお前の肉体は私らの力に耐えきれずに霧散する」

 

 

 

だれも喋ってないのに、脳に声が聞こえてくる。

 

 

 

「だがその代わり…………この1週間の間だけは、お前は誰にも負けない不屈の精神と、強大な神の力を手に入れることができる…………」

 

「今の私らでは、カタチを保つのが精一杯で、力を出せない…………」

 

「だが…………形のあるお前に託すことさえできれば…………まだ幻想郷を守れる」

 

 

 

「はい…………やります。いや、やらせてください!」

 

「すまないねぇ………カナエ。お前にはいつも我慢ばかりさせてしまって」

 

「お前は本当に我慢強い子だ。お前は私たちの誇りだよ」

 

 

 

────────波と風が止む。

 

 

 

私の姿はいつの間にか変わっていた。

 

 

蛇と蛙の髪飾りはそのままに。

私の緑の髪の節々には濃い青色と薄い黄色が成る。

 

身体の節々を覆う縄と鉄の輪。

 

 

そして…………なぜかどこか懐かしさを思わせる巫女装束を見て、私は何かを思い出しそして決意した。

 

 

私の使命は、大好きなこの二人の願いを叶えること。

奇跡を起こし、この幻想郷を救うこと。

 

 

 

─────儚き人々に、信仰を授けること。

 

 

 

「守矢カナエ─────ここに()る!!!」

 

 

 

幣を真横に振るったその時、巨大な波の渦が巻き起こり、私のいる山の木々の間を切り裂き、自由に空を飛ぶ龍のように、どこかへと飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「埴輪『偶像人馬造形術』!!!」

 

 

里の地面が隆起し、一瞬にして巨人と巨大な馬の怪物が生み出される。

 

 

「やりなさい!」

 

 

「ごぉぉぉ…………あぁっ!!!」

 

 

俺は民家の壁を突き破って倒れる。

 

 

 

「素晴らしい…………これが習合神の圧倒的な力か。この力があれば、幻想郷の制圧も容易い!」

 

 

「おのれェ…………!」

 

 

「無駄ですよ。あなた達ではどんだけ頑張っても勝てはしない。わが打神鞭(だしんべん)に封じられし神々の力には、勝てるはずもない」

 

 

 

 

「青葉!大丈夫か!」

 

 

民家から出てきた俺の怪我を見ていられなくなったのか、隠れていたはずの慧音が飛び出てきた。

 

 

 

「慧音…………!来るな…………!」

 

 

 

今ここに来たら…………死ぬぞ…………!

 

 

 

「──────ん?」

 

 

しかし、政子牙は慧音をみると、音もなく殺そうとするより前に少し戸惑いを見せた。

 

 

 

「……………………いいや?そんなわけないか」

 

 

 

腕を振るい、他の住民と同じように慧音を蛇の体で押しつぶそうとしたその時。

 

 

 

 

「………………………ん?なぁにッ!?」

 

 

ヤツの背後から大量の流水で生み出された蛇が襲いかかってきた。

 

 

「なぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

 

 

 

蛇の巨体と政子牙は波に流され、たちまち水の大爆発が起こる。

 

その水飛沫は雨のように降り注いだ。

 

 

 

「青葉!あれを見ろ!」

 

「………………ぐっ………なっ!」

 

 

なんと、俺の行く手を阻む埴輪たちが溶けていっている。

 

 

「今の水によって土から泥へと変わったのだろう。これなら形を保つのは困難だ」

 

 

 

 

 

「ああっ、マジですか………!こんなの笑えないですよ………!」

 

 

政子牙からさっきの余裕がなくなってしまっている。

 

アイツ…………もしかして予想外のことに弱いのか?

 

 

雨雲によって月光が遮られ、俺は元の姿に戻る。

 

 

「守矢神社に神威………それも、こんなに大きなもの!?…………い、命拾いしましたね!あなたたちのような神威も持ってないような連中、全然後回しですよ!今日のところはこれで許してあげましょう!」

 

 

「ま、待て!どこへ行く気だ!」

 

 

「…………ふふっ、守矢神社ですよ!どうやらあそこに巨大な神が降臨したようです!もう守矢神社は破壊したはずなのにおかしいですよねぇ。ははっ、それでは生きてたらまた会いましょう」

 

 

 

「待て───────!!!」

 

 

蛇女は形が見えないほどに発光したかと思えば政子牙の鞭の中に吸い込まれて消えていく。

 

そして肝心の政子牙は瞬間移動するように消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

「──────────あの野郎、」

 

「……………くそ、袿姫を追わねば…………!」

 

「待った。青葉、そして埴輪兵。お前たちは今それどころではない。それに、里の事についてもいろいろと大惨事だ…………まずはこの始末をなんとかしなければ…………」

 

「……………あぁ、そうだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちはただ、ほとんどの家屋が倒壊し、人々が誰ひとりいなくなってしまった里の真ん中に立ちつくしていた。

 

 

 

これからどうすればいいのだろうか。

 

 

 

まるで、世界の終わりの瞬間に立ち会ったかのような気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

政子牙(せいしが)

 

獣人の山賊の頭脳。実質的な大将。

幻想郷の力ある神々を難なく撃破して封印していくほどの恐るべき力を持つ。

中華服にマウンテンパーカーを羽織り、腰には愛用の武器である「打神棍(だしんこん)」を携帯している。

打神棍は本来は何の力も持たない麺棒のような武器だが、戦況に応じて槍や剣、鞭の形状に変化させることができる。

優れた武器術と強力な仙術、そして封じた神々の力を自分のものにして行使し、さらには神々の力を利用して『習合神』なる使い魔を召喚・使役する能力まであるという、まさにその能力は底なしである。

恐ろしいほどの高度な知能もあって軍師としても一級品。

まるで弱点が存在しないが、果たしてこれを倒す方法はこの幻想郷にあるのだろうか。

 

 

 

 

造形神ハニヤス(ぞうけいしんハニヤス)

 

政子牙が召喚した習合神。

造形神(イドラデウス)とは、元は新地獄の霊長園という場所の女神「埴安神袿姫」のことであったという。

政子牙によって封じられてしまい、見るも無惨な異形の姿へと変えられて、幻想郷を滅ぼすための使い魔となってしまった。

土から人型を作り出し、兵士として使役する能力を持っており、自らもその巨体と彫刻刀のような爪で戦うことができる。

身体そのものは人型をした美貌の女神であるが、尻の付近から生える巨大な尻尾が特徴。

習合神とは幻想郷の神の本来の姿であるとされており、政子牙によって投与された別の神の神威によって変異を起こしたようだ。

 

──────家の壁にえっちなコトを書かれるとブチギレるらしい。

 

 

 




《注意》

早苗編では絶望展開が多くなりやすいので、章末に皆さんや作者を元気づけるためのネタ全振りコーナー、【封神録(ほうじんろく)小ネタ(じょう)】が用意されています。
裏設定や元ネタなどを語るコーナーですが、ここではキャライメージとか、本編のシリアスな空気感が完全に崩壊しているため、そういうのを大事にされたい方は閲覧しない事を推奨します。





【封神録小ネタ帖・打神棍】



政子牙「神霊(みたま)を穿て──旧格打神鞭!!!」


青葉「政子牙…………お前は悪いやつだけど、憎めないほどにはカッコいいよなぁ………」

政子牙「おや、そうですか?別に狙っているわけではないんですがね…………まぁカッコよさというのは狙わずにして産まれる産物ですからね。ははっ」

青葉「最初は手のひらサイズの文房具ケースみたいな棒だったのに、先端から色んな武器が出てきたよね。短刀だったり片手剣だったり槍に鞭、さらにはあの巨大な蛇とかもそこから出てきてたよね………どんな仕組みになっているんだ?」



政子牙「というわけでここで今回の封神録小ネタ帖!わたくしの打神棍はおっしゃるとおりこの黒い筒が本体、これだけではなんの効能も示しませんし何の役にも立ちません。しかし、そこに妖力を流すことによって神器の先端部分を妖力で編み上げているんですよ」



政子牙「道具っていうのはコンパクトにして当然。複数の武器を同時に抱えて持ち歩くより、一本の武器で複数の役割を果たせるほうがいいでしょう?ドライバーやシャーペンやタッチペンや定規や平衡器やライトがいっぺんに付いている多機能ペンのようにね」

青葉「他には何が出るの?」

政子牙「妖力さえあれば自由自在、手持ちの神器のデータをストックさせればいつでも出せますとも」

青葉「へぇー!すごいや!ねぇねぇ、それ少し貸してくれない?」

政子牙「はいはいどうぞ」

青葉「ありがとう!ちょっと待ってて!」





豊姫「おや、青葉さんではないですか」

青葉「トヨさん!良いものを見せに来たよ。…………じゃーん!」

豊姫「あら、それは棍………でしょうか?」

青葉「ただの棍じゃないよ。こうすると…………はっ!」

豊姫「あら!棍の先端から花束が咲きました!」

青葉「愛してる、トヨさん………」

豊姫「私もですよ、青葉さん…………」



政子牙「って!そう使うんじゃなーい!!!!」





「次回、『(いくさ)』。…………いや、早苗編っていつもタイトル短くない!?」

「放て───旧格打神鞭!!!」

「君は一旦黙っててくれ!!!」




つづく!!!!!
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