東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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賢者の長話

 

時は流れ──────9月20日。

 

 

 

 

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうお兄ちゃん!」

 

「うん、おつかいなんて偉いね。気をつけて帰ってね!」

 

「うん、バイバーイ!!」

 

走って店から出ていく子供を見送って俺はまた机に伏せて暇を持て余しはじめた。

最近になってから、急に店の利用客が増え始めたのだ。

ここ最近の大きな出来事といえば、慧音さんと知り合ったことぐらいだが、慧音さんからおつかいでも頼まれたのか、子供がよく来てくれる。

いちおう、うちは店の隅に学校で使う備品を備えているが、ここまで利用客が増えるとは思わなかった。

寺子屋が大きくなってきたのかな、それに伴ってうちも最近忙しくなってきて、軽々と店を開けることができなくなってきた。

つい最近、何年ぶりかの品物の仕込みに行ってきた。

 

「──────繁盛って言うには程遠いけど」

 

「あら、ここが例のお店かしら、お道具屋さん?」

 

「いらっしゃいま………………え?」

 

 

俺は店の入り口を見つめた。

そこには、背の高い一人の人物が。

紫色の道士服に身を包み、傘をさした金髪の女性。

美人だが、どう見ても怪しいというか、ちょっかい掛けらしいというか。

ともかく、俺があまり好きじゃないタイプの人間だと思われる。

 

「なんですかあんた、何用ですか」

 

「いいや、そんなに堅くならなくても。私はお客さんではないわよ~」

 

いつもヘラヘラしているのは俺に少し似ているかもしれない。何かと親近感が湧く相手だ。

 

「冷やかしは受け付けてないぞ、何も用がないのなら帰ってくれ」

 

「やっぱり霊夢の言った通りになったわね…………門前払いとまでは行かなくても中までは入れてくれない」

 

いま、霊夢と言ったのか…………?

 

「霊夢の知り合い…………なのかい?」

 

「えぇ、知り合いというより、お友達の一歩手前辺りが妥当かしら。時に刃を交え、時に肩を並べて戦った仲よ」

 

なるほど、決して良い関係ではなさそうだ。犬猿の仲というやつだな、人はそれを腐れ縁と言うのではないのだろうか。

しかし、巫女と相容れぬ者…………か。

 

「なるほど、妖怪族だね?…………霊夢が言うには、幻想郷にはいかにも胡散臭い雰囲気のする、ろくでなしの妖怪賢者が居るって聞いていたけど、まさかあんたの事だったとはね」

 

「あら、霊夢も酷いこと言うじゃない…………胡散臭いだなんてとんでもない」

 

扇で口元隠しながらよよよ、と泣くフリするのやめろ、余計胡散臭いぞ。

 

「─────何がしたいんだか…………」

 

ため息をついて俺は家に戻ろうと店の奥へ行こうとする。

 

「あぁん、待って待って~。真面目な話するんだから」

 

「あんたから聞ける話なんて、負ける気しかしない商売話ぐらいだろう?俺は甘い話には乗らないぞ」

 

「第一印象から疑うだなんて、妖怪の賢者の異名もそこまで落ちているのかしら…………」

 

その面のどこが賢者だ。服装だけだよ、ちゃんと賢者しているの。

 

「霊夢から聞いたのよ。ハクタクについて知りたいんだってね?」

 

切り替えが早いのか、唐突に本題を切り出してくるんだな。

 

「──────まぁ。知っているのか?」

 

「えぇ、これでも賢者だから。こういう事については、霊夢よりも私の方に聞くと良いわ。私は八雲 紫(やくも ゆかり)。この幻想郷における妖怪の賢者よ」

 

「俺は神門青葉…………知っているとは思うけどね。確かに、霊夢よりもあんたのほうが長生きしていそうだ。胡散臭いが、賢者としては本物なのかもしれないから、いちおう話だけは聞くよ」

 

妖怪は人間よりもはるかに長寿。見た目は若い美人だが、そのくせ何百年と生きているに違いない。

外の世界のことについては、もしかしたらこの人に聞けばすべて解決と言ってもいいのかもしれない。

賢者と呼ばれるほどの博識であることは見てわかる。

狂気のある者に限って大物だからね。

 

 

 

「─────まず、あなたは何を知りたいの?」

 

八雲は急に真面目な顔つきをして俺を見つめてきた。

 

「─────じゃあ、早速一番知りたいことを聞きたいんだけど、この街で悪さをしているっていうワーハクタクは誰なんだ?」

 

「─────残念ながら、それは私の知り得る事ではないわ」

 

「…………帰ってくれないかな」

 

賢者って聞いたから手がかりがあると思ったのに。

まんまと裏切られた。

 

「あのね、私は名探偵ではないのよ。あくまでハクタクの起源や性質、生態について聞いて欲しいのであって、貴方たちの調べていることについては私の知る所ではないわ。異変でもないのだから」

 

なるほど、直接核心に迫るような答えは教えてくれないんだな。

あくまでヒントしか手に入れられない、と。

 

「俺の故郷にさ、ハクタクの王様っていう怪談があってだな…………」

 

「────なにそれ?」

 

「帰ってくれないかな」

 

ヒントもくれないじゃん。

なにそれ、基礎知識も教えてくれないの?

 

「怪談なんてわからないわよ…………どんな怪談なのかしら」

 

「月に一度、歴史を食べることによって善を残して悪を消し去るっていうものなんだけど、」

 

「へぇ、興味深いじゃない」

 

八雲はうんうんと頷く。

 

「何が?もう何かわかることがあるの?」

 

俺が訊くと、八雲は長話をはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白沢(ハクタク)、それは為政者(いせいしゃ)の前に現れる瑞獣。

何時の世においても、白沢は徳の高い、知性ある為政者の前に現れ、その統治を見届ける。

あらゆる言語に精通し、人間の言語を解す聖獣にして神獣。頭部には三つの目を持ち、背中には棘が生え、身体にも目がある。

─────貴方の故郷に伝わる白沢の姿も、それで正しいかしら?

 

 

 

俺は頷いた。

 

 

 

なるほどね。白沢というのは、為政者の前に現れるが故に、何時の世もその世界の流れを知っている。その世界で起きた事を知っている。彼が見守った世界の為政者の統治を憶えている。

白沢の起源は外の世界において、古代中国と言われているわ。

 

 

 

─────え、幻想郷じゃないのか?

 

 

えぇ、その通り。古代中国は数多の王朝が完成しては滅び、何度も国が変わり、名が変わり、民が変わり。帝国として王朝として、国として変わり続けてきた。

その度に、為政者が、皇帝が変わる度に、白沢は為政者の前に現れたというそう。

白沢は為政者にとって、「国家(王朝または帝国)の安寧」を司る瑞兆として扱われていた。瑞兆とは縁起物、即ち象徴たるものとして扱われていたの。鳩が平和を象徴するのと同じようにね。

旗を掲げたり、白沢の絵を飾ったり、あらゆる時代の王は白沢の登場を待ちわびいていたとのこと。

 

 

 

待ってくれ、じゃあ、なんで白沢は幻想郷に現れるんだ。

 

 

 

いい質問ね。話についていけているじゃない。

為政者達から崇められてきた白沢なのだけど、外の世界が近代になるとそれがなくなってしまったのよ。

中国は、とある機会を境に、王朝制を廃止したのよ。最後の中国王朝が滅びると、白沢は役目を終われたのよ。そこには、白沢が見守るべき為政者など居ない。

 

 

 

─────それは、どうして?

 

 

 

時代が変わったのよ。ただ一人の強い者が「国」と「土地」と「民」を統治するのではなく、「民」が「土地」の上でひとつの「国」を創る、そういう世界に変わったのよ。

 

 

 

─────つまり、共和制になった、ってこと?

 

 

 

その通り。共和制には王など不要、官僚はあっても為政者は不要。

この時代から、王朝制から共和制へと在り方を変えた中国には最早、白沢の存在する意味などないの。

見守るべき王、見守るべき国、見守るべき土地、見守るべき民。そして、見守るべき歴史がないのなら。

白沢には、役目がない。

近代化した大国において、王朝など古い文化。

役目を失い、行き場を喪い、何もかもを奪われた白沢は、どうやって中国で生き残れば良いと思うかしら?

 

 

 

─────無理だ、そんなこと。

 

 

 

そうね。ならば、どうすれば良いかしら?

 

 

 

─────近代化した大国を捨てて、新しい為政者を探す…………?

 

 

 

大正解。例によって中国の王朝が崩壊した後、白沢は近代大国に別れを告げ、新たなる為政者を探し求めて旅に出た。

けれども、その先にはなにもない。

かつての古い王朝などどこにもない。

女王や帝王はあっても、自身を崇める王国などない。白沢はもう、歴史から消し去られたのよ。

 

そのような珍獣、役目はないし、ほんとうに、どこにも行くべき場所がない。

 

そして、何度も行き場を捨て、何度も諦め。

それを気が遠くなるほど繰り返した結果、たどり着いたのが、逃げ込めたのが─────

 

 

 

 

 

─────この、幻想郷だったのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通り話を終えると八雲はお茶を求めてきた。

仕方なく差し出すことにした。

─────なるほど、【辻褄】が合うな。

 

 

俺にわからなかった疑問が解消されてきた。

 

 

 

「それじゃあ、俺たちワーハクタクは、みんなそのハクタクの子孫…………ってことになるのかな」

 

「いいえ、ハクタクはきっと何体もいるでしょう。その中で代々為政者の歴史を見届けてきた、【歴史を識るハクタク】こそがおそらく貴方の故郷に伝わる【ハクタクの王様】の正体なのかもしれないわね」

 

そうか、だからハクタクの王様は歴史を書き換える能力を持っているのか。

普通のハクタクには歴史を創れない。だから、古くから王朝の歴史を見てきたハクタクの王様が、故郷である外の世界を捨てて、今ではこの幻想郷の歴史を創っているのか。

 

 

 

「え?待って、それじゃあ、」

 

それだと、おかしくないか。

ここでひっそりと暮らしているハクタクの王様が歴史編纂しているのなら─────

 

慧音さんが歴史を創っていることに意味などないのではないのか────?

 

 

 

「それじゃあ、言いたいことはすべて言い終わったところだから。私はこれで失礼させて貰うわね。貴方の調べるハクタクの盗賊を調べる手がかりになったら嬉しいわ。霊夢に感謝することね、こんなに頼れる情報屋さんなんて、滅多に見られないんだから」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

そう言って、八雲は空間をチャックのように開くと、そのスキマへと入って何処かへ消えてしまった。

スキマ妖怪…………というヤツか。

風来坊とはこの事だ、ほんとうにどこからともなくやってきては急に消えるんだ。

 

「─────え?」

 

まさかな、とは思っていたが。

 

「次の満月は……………」

 

次の満月は約2週間後。

その日に、俺はすべてがわかるのかもしれない。

 

 

 

ただそれは………………

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