東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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(いくさ)

 

 

巨大な蛇の尻尾を持つ女が人間の里へ現れた次の朝。

 

里では倒壊した家屋の修繕作業が行われていた。

 

 

「倒れた柱を立て直せ!全員で息を合わせて引っ張んだ!そっちは瓦礫どけるの頑張りな!」

 

 

復興作業の最前線で一人の大男が声を張り上げて里の人々を統率していた。

 

 

「慧遠さん。久しぶり」

 

 

そう、里の狩人、澤城慧遠。

 

 

「オオバか。無事だったんだな」

 

「うん。だが、うちでも店の正面が一番壊れてしまった。今、友達と一緒に直してるところなんだ」

 

「そうかぁ。お前さんもなかなか大変な思いしたんだなぁ」

 

「うん…………でも…………」

 

 

俺は、多くの人を助けられなかった。

 

 

「俺は…………なんのために…………」

 

 

俺は、みんなを守る為に戦うと決意したのに。

結局…………俺は…………

 

 

「だが、お前さんは何もしてなかったわけじゃねぇだろう」

 

「慧遠さん…………」

 

「俺は昨日のお前のこと見てねぇから分かんねぇけどよ…………お前さんがボーッと突っ立って殺されてく人々を見ていたわけじゃねぇだろ?お前さんは自分のできることをしていたはずだ」

 

「でも…………やる事が大事なんじゃない…………ちゃんと助けられたかどうかが大事なんだ。俺は知らなかった…………自分にできることっていうのが、どれほど弱かったか…………俺がもっと強かったら、里の人々を助けてやれたかもしれないのに…………!」

 

「それは違うぜオオバ」

 

 

慧遠さんが真面目な顔で一言呟いた。

それは母親が子供を叱り嗜めるような声だった。

 

 

「知ってるぜ。お前さんが、あの蛇と一生懸命に戦ってたってことをよ…………お前さんが時間稼ぎしてくれたおかげで、里のモンは逃げれたんだ」

 

 

慧遠さんは俺の肩を持ってそう言った。

 

 

「慧遠さん………」

 

「お前さんの動きはムダじゃあねぇ。だよな?お前ら!」

 

 

慧遠さんが振り向くと、復興作業で来ていた里の人々がみんなで言う。

 

 

「そうだぞ!昨日最後、蛇の動きが止まってたろう。おかげで俺の嫁と娘は逃げれたんだ!」

 

「襲ってきたのは小さい兵士だけだった。あんな蛇に来られちゃ誰も助からなかったろうけど、お前さんのおかげでみんな助かったんだぜ!」

 

「俺たちのことは赤い服の女の子と黒い服の女の子が助けてくれたけど、あの蛇が相手だったら難しかっただろうよ」

 

「そうだそうだー、オオバのおかげだぜ!」

 

 

里のみんなが俺を励ましてくれる。

 

 

「みんな…………」

 

「な?この里はみんなのもんだ。連帯責任………ってのぁ言葉選びが違えかもしれねえが、何も、お前の責任じゃあねぇ。この里の誰のせいでもねんだ。ただそのかわり、もとに戻すことはみんなでやるもんだ。だからお前さんも、俺たちの仲間なんだよ。つらいときこそ励まし合うのが仲間ってもんだろ?」

 

 

「慧遠さん…………珍しいね…………そんな良いこと言ってくれるの」

 

「お前なぁ…………弓ぶち込むぞマジで…………」

 

 

里の人々の間から大笑いが巻き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が家に帰っている途中。

 

 

 

「ぎゃへぇーっ、こりゃひどいなぁ。せっかくあたしの絵を売りに来ようとしたっていうのに」

 

「………………………………」

 

「でもどーするっかなー。あたしもあたしで、絵を売らないとやってけないし?それかあれ?被災地の絵書いて地域のピーポーにゲンキお届けしますッ!てゆーなんていう………応援イラストみたいな?あたしそーゆーのやってないのよねぇ。ただの画家よ画家」

 

「…………………………………………」

 

「そうそう。その絵なんだけどさぁ、この幻想郷ってほんと絶景スポットが多いよね!あたしのドローイングもますますスピードアップしていくってカンジ!次から次へとアイディアがあふれ出て止まらないわー!このままじゃあたしの売れ残った絵のストックがどんどんあたしのこの背中にストックされていってそのうちあたしこのヘビーさに潰れてワステッドしちゃうかもーなーんて!」

 

「…………………………………………」

 

 

……………さっきから俺の真横をついてきているこの人は誰なの?

 

 

「てかさー、キミいいカオしてるよねっ!あたしの絵のモデルにならなーい?あたしイケメンダンシ、チョー好きよ!もし手伝ってくれちゃうならぁー………ベリー、ほーんと嬉しくなっちゃうなー。お礼になーんでもしてあげちゃうかも。ハズかしいコト以外ならな~んでもしてあげちゃうのになぁ。こんなイケメンな人、こーんなにキュートなあたしを見逃すはずナッシングだと思うんだけどなぁ〜」

 

 

俺は手持ちのありったけの小銭を手渡す。

おしゃれなカーディガンや肩掛けをかけ、濃赤のベレー帽を被った秋っぽい服装な芸術家っぽい人の顔が信じられないぐらい明るくなっていく。

 

 

「……………お願いします、絵を1枚買うから離れてください…………」

 

「マジでぇ!?あたしの絵買ってくれんの!?ヤッター!これであたしの信仰ポイントが1増えたわ!キミ、ほんとに神ね!まぁあたしも神なんだけどさ。あたしのゲイジュツを分かってくれるキミ、ほーんと、サイコーッ!もう大好き!愛してる!結婚しよ!」

 

 

金髪ボブが揺れるほどにジャンプしながら大喜びする謎の芸術家。

 

 

「ヤです」

 

「ウーン、ニヒルなところも嫌いじゃないよっ!よしよしよしよしよし、好きなの選んでいっていいわよ!久しぶりのお客だもの、もう1枚サービスでフリーでプレゼントしちゃうわ!」

 

「1枚でいいです」

 

 

いらないって俺はずっと言ってる。

 

 

「えーっもったいなぁい。それか、あたしの歌一曲つける?それでもいいよー!あたし、絵が一番うまいけどゲイジュツのことなら何でもおまかせだからね!ダンスもできるし歌も上手いわよー!」

 

「なんか全部普通にいい絵だな。これ買うので帰ってください」

 

「おっけ!これね!お買い上げテンキュー!これが少しでもセカイが変わるわよ!キミ、何度も言うけどサイコーよ!ほんっとステキ!結婚したい!………てゆーか、顔かわいいしちょっと抱きたい!ま、まぁ…………トニカク!キミのことは忘れないわよ!またいつか新作の絵が描けたらちょっとサービスでお安く売ってあげるから、また買ってね〜!あー忙しい忙しい!…………んじゃっバイバーイ!またねっ!ねっ、ねっ!!!」

 

 

そしたら急にその人は引き返して走り去っていった。

 

 

「はぁ………………」

 

 

ノリの疲れる相手にお金をカツアゲされて帰るのか。修繕費用も重なって、今月の俺は1日1食生活かな…………

 

 

「ちょっと待って!最後にこれ渡すから!」

 

 

すると猛スピードでさっきの人が戻ってきた。

 

 

「なっなになになに………また来たんですか」

 

「これ。これ持っといて!」

 

 

俺の手を無理やり引っ張って開かせるとパシン、と叩きつけるように何かを手渡してきた。

 

 

「ペンダント…………?」

 

 

それは赤色のラインの加工が施された銅のペンダント。

 

 

「捨てちゃったら絶対ダメよ!あたし悲しくなっちゃうから!また会おうね!バイバーイ!」

 

 

結局何がなんだか分からないものを渡して高速で消えていく芸術家。

可愛い子だったが、ちょっとやりづらいな…………

 

 

「───────店で売るか、」

 

 

めちゃくちゃ良い感じのペンダントなのでたぶん高く売れると思う。

店の修繕費用のアテにしよっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

 

俺はそのまま家に帰ってきた。

家には昨日の埴輪兵だけが残っていた。

 

慧音さんは寺子屋で忙しい。

寺子屋は現在、里の子どもたちの避難所になっている。親を奪われた子どもはおそらくいないと思うのだが…………大丈夫だろうか。

 

────かつて俺たちと敵対した竜胆筆竜という男がいた。彼はすでに死亡したのだが、召し抱えていた侍女たちが生き残っており、今では寺子屋の事務職員として働いている。

彼女らは結構な数がいた。だから寺子屋の人手不足はないのだが、単純に子どもたちの冷静を確保するには親だけの力では足りないだろう。それに万が一ということもある。慧音さんには寺子屋を守って貰わなければならない。

慧音さんの能力による認識操作で寺子屋を一時的に消している。子どもたちがこれ以上の被害に巻き込まれることはないはずだ。

 

 

代わりに俺は俺のやることをやらなければならない。

 

ひとつはカナエの捜索。

 

カナエは昨日の昼間に出かけてから一度もここへ帰ってきていない。

カナエのような危なっかしい子が1日以上帰ってこないということは少なくとも無事なはずがない。俺は今からそれを探しに行く。

 

 

(知らないのか…………お前が会ったカナエという少女、それは妖怪の山の山頂にある守矢神社…………そこの巫女、東風谷早苗(こちやさなえ)だ)

 

 

慧音さんは、カナエの正体は守矢神社の風祝、東風谷早苗なのだと言っていた。

早苗……………それが、カナエの本当の名前?

 

 

 

 

 

そして2つ目、この里をめちゃくちゃにした………あの政子牙という女を捕まえること。

 

ヤツは巨大な蛇の尾を持つ女神、造形神ハニヤスを連れてこの里を襲撃してきた。

この里の惨状のほぼ全ては、あの蛇女の破壊活動によるものだ。

 

 

(…………ふふっ、守矢神社ですよ!どうやらあそこに巨大な神が降臨したようです!もう守矢神社は破壊したはずなのにおかしいですよねぇ。ははっ、それでは生きてたらまた会いましょう)

 

 

ヤツは戦いの最中に、どこからともなく襲ってきた流水を浴びたあとに、不思議な事を言い始めて撤退していった。

 

守矢神社に逃げるとか…………

 

 

「手がかりは守矢神社…………妖怪の山の頂上にある」

 

 

そうと決まれば行く先は一つだけ。

俺は刀一本だけを腰に差して家を出ようとした。

 

 

「待つんだ少年、」

 

 

俺の背後から声が聞こえてきた。

 

 

「君は………」

 

 

その声は、昨日俺たちが出会った、埴輪兵の女の子だった。

土色の鎧を着た黄色の髪の女の子。

あの蛇…………袿姫という女神の生み出した存在らしい。

 

 

「私も行かせてくれないか」

 

 

彼女は鎧を身にまとい、鉄剣を手にとって俺の前に現れた。

 

 

「だが、君は昨日…………」

 

「私には袿姫様の作られた再生機能がある。里を襲撃したあの洗脳された埴輪兵たちと条件は同じ。昨日の損傷など全て再生している。こと耐久力においては貴方より一枚上手だ」

 

「な…………なるほど…………」

 

「私の目的は、操られている袿姫様の救出。貴方とは目的が違う。だが、互いの目的を果たすにあたってあの女と敵対するという点では私と貴方の利害は一致している。そこで、私は貴方の力を借り受けたいのだ」

 

 

彼女の凛々しい顔を見て俺は彼女の忠誠心と、それほどの決意を感じた。

 

俺は彼女に身体を向けて、しっかりと目を見て頷いた。

 

 

「あぁ。俺も、今は一人でも多くの手を借りたい。政子牙を倒すにあたって、君の力があればすごく助かる。一緒に来てくれないか?俺は神門青葉、この里を守る為に戦う」

 

 

俺と埴輪兵は握手をした。

 

 

「ありがとう、神門青葉。私は杖刀偶(じょうとうぐう)磨弓(まゆみ)と申す。偉大なる袿姫様によって作られし埴輪兵だ」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

   埴輪兵長

 

  杖刀偶 磨弓

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「マユミ…………色々思い入れのある名前だなぁ」

 

 

そういえばあの子は今どうしてるんだろう。

永琳さんところで元気に頑張っているのかなぁ〜。

 

 

「何か?」

 

「いや、なんでもない。行こうか、守矢神社に」

 

「あぁ。里の警護はどうするのだ?」

 

「そこに関しては問題ないよ。慧音さんがいるし、里なら万が一のことがあっても霊夢と魔理沙が何とかしてくれるさ」

 

「そうか。ならば心置きはない、参ろうぞ」

 

 

 

そんなわけで、俺と磨弓の2人は妖怪の山を目指していったのだ。

 

カナエを見つけ、袿姫をもとに戻し、そして政子牙を倒す。

埴輪兵である磨弓がいればその成功確率は大きく上昇する。

まずはカナエを見つけなければ…………とにかく、手がかりは守矢神社にあるはずだ。

 

 

政子牙が誰の差し金なのか、奴の目的は何なのかはまだ分からない。だが、それは調査を進めるうちに自ずと明らかになっていくだろう。

 

 

何を企んでいるのかは知らないが、何をなそうとしていようがこれだけのことをしておいて許すつもりは全くない。

あんなやつはロクなコトをしない。さっさと捕まえなければ…………また大きな被害が出るに違いない。

 

 

 

「青葉、その政子牙という女だが、奴と対峙するのならば造形神ハニヤス…………袿姫様は間違いなくもう一度我らの前に立ちはだかる。その時は………どうか袿姫様を見逃してはくれないだろうか。あのお方は何も悪いことはしていない。とても寛大で、お優しい方なのだ。人を愛する袿姫様が、人間の里を襲うなんて考えられない………奴はあれが袿姫様の本来の姿だと言っていたが、私はそんなことはないと思う。あのお方をお助けするためにも、どうか袿姫様を滅ぼすことだけはしないで欲しいのだ」

 

 

「……………………………………」

 

 

どうなのだろうか。果たして、あの女神は………倒さなければならないのか、倒さなくてもよいのか…………

 

 

とにかく、政子牙を捕まえることが最優先だ。

そうでなければ何も始まらない。

 

 

 

「政子牙…………お前だけは、絶対に許さない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【封神録小ネタ帖・埴輪兵、土偶兵】


磨弓「袿姫様ばんざい!ばんざい!」

青葉「磨弓は袿姫様のことが大好きなんだね。そんなにすごい人なの?」

磨弓「もちろんだ!あのお方は私のようなかわいくて強い兵士をたくさん生み出す真の意味での神!造形神ハニヤスはなかなかの奇形で見ていられないが、本当の袿姫様は青髪とご尊顔のたいへん美しい聖母のようなお方であらせられるのだ」

青葉「あぁ………たしかに造形神ハニヤスからはとてつもない底なしの力を感じた。袿姫を知っている君に訊きたい、あの造形神ハニヤスはどんな事をして来るんだ?」

磨弓「そうだな………あのお方は埴輪兵たちを召喚して戦わせることができる。本来のあのお方ならば、人々を守るために私たちに出撃を命じただろう。だが、あれらは全て里を襲うための兵士となっていた………やはり、彼らを操る袿姫様が里を消せと仰るのなら埴輪たちもそうするのだろう………」


磨弓「ここで、封神録小ネタ帖。袿姫様が生み出す私たち埴輪族の兵士は「埴輪兵」と呼ばれるが、造形神ハニヤスが召喚してくる埴輪兵たちのことは「土偶兵」と呼ばれるぞ」


青葉「ちなみに土偶は豊穣祈願や安産、怪我の回復などを祈って作られるものだけど、埴輪は古墳に埋葬されている王や皇帝など権力者の墓を守護する兵士として置かれるものなんだ。同じ粘土の置物でも、微妙に用途が違うらしいね」

磨弓「そうだ。また、土偶は野焼きで直接火で焚くことで錬成するものだが、埴輪は竈の中で土偶よりもさらに高い温度の熱を起こすことで作られるので製法も異なるのだ。違いをしっかり理解しておこう」

青葉「というわけで次回、『(ほうり)』。あれっ?このタイトルどっかで………」

磨弓「全回の小ネタ帖で作者が差し間違えたようだ。申し訳ない」

青葉「いや、このコーナーで謝るな!!!ちゃんと謝れ作者!!!」





次回に続く!!!
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