東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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Scarlet

 

 

 

─────────幻想郷某所。

 

 

 

 

「ひぇぇぇぇぇっ!!!勘弁してくださいよ咲夜(さくや)さーん!!!」

 

 

一人の若い女は泣き叫びながら、目の前からマシンガンのように飛んでくるナイフの嵐を躱していく。なお、ちょくちょく刺さっている。

 

 

「…………遅い!いつになったら来るの!約束の時間を5分も過ぎているじゃない!」

 

「そ、それで私を串刺しにするってちょっとおかしくないですか!?」

 

「だまらっしゃい!」

 

「あぎゃーっ!!!」

 

 

投げたナイフが胸に突き刺さる。

なお命に別条はない。

 

 

 

美鈴(めいりん)、どうなっているの!出迎え役は貴女に任せたはずよね?まさか、さては………ずっとこの門で待機していたとかそんなわけじゃないのよね?」

 

「ひ、ひぃぃっ!!!いや、なんか…………門にいたら来るかなぁ…………って!」

 

「………………………………………………」

 

 

再び右手のナイフが振り上げられた。

 

 

 

 

 

……………と、その時ナイフを振り上げる少女の右手をパシンと掴む男が背後からやってきた。

 

 

 

「なっ!?」

 

「まぁまぁ咲夜さん、そんなに怒らないの。遅れてきたのは俺の方だからさ」

 

 

どこにでも現れる神門青葉。

 

 

「青葉、ごめんなさい。私がお店に出迎えれば良かったというのに、よりにもよってこの美鈴に任せた…………私の人選ミスが全ての原因よ。次からはこのようなことがないようにまずは美鈴を消して、それから善処しますわ」

 

 

慌てて青葉の手を振り払うと、手を繋いだのが何か問題があったのか、あるいは見苦しいところを見せたのが恥ずかしかったのか、少し顔を赤らめながらメイド服の少女は頭を下げる。

 

 

「あっ、どう転んでも私は◯ぬんだ」

 

「そんな頭下げないで咲夜さん。たしかに少し遅れちゃったけど、最初からこんな事になると思ってたから自分一人で来ただけだよ」

 

「それはそれで悲しいよ私」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺こと神門青葉は、幻想郷イチバンの危険地帯、万魔の集う恐怖の魔王城、そう……………紅魔館へ来ている。

 

 

「ここに来るのはざっと4、5ヶ月ぶりぐらいかな。最近のことなのにひどく古い事のように思えるな」

 

「あははっ。青葉くんまだまだ若いのに、どこでそんな言い回し覚えてきたのー?」

 

 

俺はワケあってここには多少馴染みがある。

普通の人間がここまでくれば普通は玄関口で即死だ。

 

 

「それにしても、お嬢様はなんで俺を今になって呼んだのだろう」

 

 

俺は懐に入れていた一冊の招待状を取り出す。

手紙からはこの館の主、「お嬢様」の匂いがする。

彼女が直々に俺に手紙を寄越してくるなんてこんなことは初めてだった。

それに俺は、彼女に自分の家の場所を教えた記憶はない。

 

 

「突然のことに驚いたでしょう。お嬢様が私に「青葉の住所を調べてきなさい」と私にご命令なさったのよ」

 

 

ということは、そこのメイドにわざわざ俺の家を調べさせた、ということか。

というか、俺の家は人が簡単に寄り付かないように結界を張ってるはずなのになんでわかったんだ。

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 紅魔館のメイド

 

  十六夜咲夜

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

……………………こちらは十六夜咲夜(いざよいさくや)さん。この紅魔館で唯一の人間であり、お嬢様お抱えの忠実な従者だ。

紅魔館のメイドの長。メイドの中のメイド。

俺もここにいる時は上司としてよくしてもらった。

 

 

「お嬢様が直々に家を調べるなんて、君は相当気に入られているんだなぁ」

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

  華人小娘

 

   紅美鈴

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

そしてこちらの中華服の人は紅美鈴(ほんめいりん)さん。この館の門番で、場合によっては咲夜さんの代理としてメイド業を行うこともある。

俺がこの場所に留まっていた時期にはよく身体の使い方を教えてもらった覚えがある。

要は、俺にとっての格闘の師匠といったところか。まぁ剣術ほどではないのでちょっとかじった程度だが。

 

 

 

 

さて、俺たち3人は紅魔館のエントランスに到着。

荘厳な赤い絨毯が敷き詰められ、上には無数の黄金に光を発するランプの明かり。

これこそが、この幻想郷の一大建造物、紅魔館である。

 

 

「ただいま戻りました。…………神門青葉を連れて参りました、お嬢様」

 

 

咲夜さんが奥に向かって透き通った声で呼びかける。

 

 

「送迎、ご苦労。下がってよい」

 

「はっ」

 

 

奥から響くような声で主の声が聞こえてきた。

 

 

かつ、かつと革靴が床を踏みしめる音がこちらへ近づいてくる。

奥の部屋の暗がりの中から、紅魔館の主の姿が現れた。

 

 

「よく来たわね青葉。ちょっと見ないうちに、顔つきがまた一段と、良いものになったじゃない」

 

 

 

 

 

 

それは、紫色の服を着た、女の子だった!!!

 

 

「………………ちっさ!!!!!」

 

「誰じゃ小さいつったのはァァァァ!!!!!」

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

俺は顔面にティーポットを投げつけられて倒れた。

 

 

「……………このくだり毎回しないといけないの?アナタ初めてここに迷い込んだ時も初対面でこの私に向かって「主、小さくない!?」って言ったわよね」

 

「お…………お久しぶりです…………レミリアお嬢様」

 

 

俺は顔面を腫らしながら上半身起き上がってお嬢様に挨拶をする。

 

 

「えぇ。久しいわね、青葉」

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

  永遠に紅い幼き月

 

 レミリア・スカーレット

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「さて。紅魔館(うち)での厳しい規則から解放されて、また訪れたこの場所はどうかしら?」

 

「シャバの空気からまたブタ箱にぶちこまれた気分です」

 

「お前消すわよ」

 

 

彼女はこの背丈の低さと子供らしい声と口調だが、これでも紅魔館のれっきとした主であり、俺よりも何倍も長生きしている、非常に強力な力ある偉大な吸血鬼だ。

その能力は幻想郷の妖怪の中でも頂点のものだという。

 

 

「ほんとうはただの人間なんか呼ぶに値しないのだけど、初のアルバイターにして、紅魔館の史上初の男手でもあったアナタを特別に今回の機会に招待してあげたのよ。感謝なさい」

 

「それはそうですね。ありがとうございます。別にこっちも働きたくて来たわけじゃないんですけど」

 

 

 

慧音さんと出会う少し前。俺は一月間店を開けていた。それは故郷に帰省するという理由もあったが、その多くはここでの時間に使われていた。

 

俺が偶然に迷い込んだこの屋敷で不審人物として捕らえられ、殺されるはずのタイミングでお嬢様が助け舟を出してくれた。

 

 

 

(咲夜。男を飼うなんて今までで初めてかもしれないわね。ちょっと面白そうだし、顔も良いし生かしてあげることにしましょう)

 

 

 

顔で気まぐれを起こしてくれたおかげで助かった。

どうやら紅魔館は何かするべきことがあったらしく、あの時期だけ人手が大きく不足していたらしい。

 

てか、妖怪メイド以外に咲夜さんしかいないし普通にいつも人手不足だと思うんだけど。

 

まぁそれはそれとして、そんなわけなので紅魔館はその作業に携わるフリーアルバイトを募集していたらしいのだ。

 

とはいえ、フリーアルバイトなど初の試み。どうなるかわからないため、その実験台として俺を使ったのだ。

一月間働かされた後、俺は秒速で解雇され、「はよ実家に帰れ」と言われた。

働くだけ働かされて結局ゼロ給料。命を助けてもらうのがお代みたいになっており、結局何もないまま里に帰宅した俺だったのだ。

 

だから彼女は俺のことなど覚えているわけもないと思っていたのだが、どうやら頭の片隅には残っていたらしい。

 

 

「それで…………俺を呼んだのはいったい…………何かのパーティーに招待していただけるって聞いてるんですが」

 

「まぁ、そう急がないで。ここ数ヶ月貴方がどんな日々を送ってきたか、その思い出話も聞きたいし、少し早いけどお茶会としましょう」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 

咲夜さんは一礼するとティーセットでも取りに行ったのか部屋を退出した。

足音一つない速やかな瞬間移動。

 

 

 

「私は他のみんなを呼んでくるから、青葉と美鈴はお庭でセッティングを頼むわね」

 

「かしこまりました〜」

 

「りょ、了解です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして俺は招待客の身でありながらなぜか手伝いをすることになる。

幸い、一月分の間隔は残っていたので思ってたより手際よく作業できた。

 

せいぜい机と椅子を出す程度のことなので、美鈴さんと二人がかりなら一瞬で終わってしまった。

やることがなくなり、一足先に座っていたときだった。

 

 

「青葉くん。しばらく見ないうちに………変わった?」

 

 

美鈴さんがふとそんなことを言ってきた。

 

 

「えっ。そういうの分かるんですか」

 

「当然よ。だって、前と明らかに発している気の種類が違うんだもん」

 

「違う………?どう違うんですか」

 

「なんだかねぇ。私もよく分からないんだけど、前の君は人間らしい感じをしていたんだ。けれど今はまるで……………まぁ。つまり、生き物としてだいぶ強くなってるなぁって。以前とは妖力の量と質がまるで全然違うんだ」

 

 

美鈴さんは根拠もなく不思議なことを言う。

俺は昔も今も俺のままだ。

たしかに、精神的には色々な変化があったか。

 

 

「このわずかな期間だけでもすごく多くの死線を潜っている感じが伝わってくる。そして、君は精神的にも明らかに多くの辛い体験を経てきているように見えるんだ」

 

「………………確かに、」

 

 

俺の心境は、今大きく変わりつつある。

自分が信じていたものをことごとく打ち砕かれ、心の底から絶望しそうな状態。

いつ限界を迎えてもおかしくないギリギリの心でなにかわらぬ日々を送るような骸のような自分。

 

 

「でも………君は明らかに強くなっている。いや、真に迫っている。卵の殻を破るように………?そんな感じで、君は今までの君とは違う、まったく違う何かに生まれ変わろうとしている。それは、心が右にも左にもひどく揺らぐ今だからこそ起こることなんだよ」

 

「美鈴さん…………」

 

「多くの人との出会いや別れを経験することで、

君の中での考え方や心は大きく変わる。君がこの先どう変化しようと、それは君だけのものだし君だけの人生。今は辛いかもしれないけれど、きっと君のその苦労は報われるさ」

 

「ありがとう、美鈴さん」

 

 

この人は天然でマイペースな人だ。

だからいつもどんな時も元気をくれる。

 

 

「ただ…………真面目な話をすると、君の成長につれて、何かがおかしくなっている気がする」

 

「……………えっ?」

 

「いや、なんとも言えないんだけれど。…………なんだろう、君が成長することはとても良いことのはずが…………なんだか、嫌な予感がする」

 

 

美鈴さんは不思議なことをいきなり言い出してきた。

 

 

「物事にはいつか終わりがある。永遠のものなんていうのはない。今を生きるということは、理屈で言えば、いつか死ぬ時に近づいていくということ。だけど君は……………いや、気にしても仕方ないよね!さすがの私も未来までは見えない。今を楽しむほうが、ずっと大事に決まってるさ!」

 

 

美鈴さんは楽しそうにステップでどこかへ行くと、何かを持ってきた。

 

 

それは、超絶長い急須だった。

 

 

「これ知ってる?長流壺っていう茶器だよ。実は私もお茶淹れるの得意なんだ。八宝茶でもいかがかな〜?」

 

「うおっ、すごいや。それじゃあ一杯だけ……」

 

「はいさ、召し上が…………れっ!」

 

 

腰を落として背中をねじり、すごい体勢で美鈴さんはお茶を淹れてくれた。

こんな武芸が存在するなんて、俺の知見もまだまだ狭いね。

 

……………美鈴さんは、俺の身にただならぬ事が起きていることは分かっているようだ。

 

もちろん俺も自分の身体のことは自分が一番わかっている。俺がこのままだとなにか、取り返しのつかないことになるということはなんとなくだけど勘づいている。

だからこそ、こうやって必死に励まそうとしてくれる美鈴さんのことがありがたいと思った。

 

色々な事があったけれど、俺にはまだ味方がいる。紅魔館の人たちも俺を好いてくれているし、竹林にも愛する家族がいる。最近ではたくさんの新しい友達に恵まれて、多くを望むには幸せすぎた。

 

 

一個一個の出会いがかけがえのないものであるがゆえに、俺はそれを失いたくないと思っている。

だからこそ、ちょっとしたことで嘆いたり挫けたりしている場合ではないと思うんだ。

 

 

俺はまだ……………生き続けなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の記憶…………失った俺の半身を取り戻すまで…………

 

 

 

 

 

それを取り戻すということが、何を指すのかという事を分かっていたとしても。

 

 

 

 

 

俺は、あるべき自分の姿に戻らねばならないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────神門青葉の余命、残り5日。

 

 

 

 

 

 

 

 

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