東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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かのすみか

 

 

 

───────幻想郷、某所。

 

 

 

 

 

 

周囲を緑鮮やかな木々が彩る世界が広がっていた。

木陰に差し込む天井のまばゆい光。

 

その木々に囲まれた空間の中に……………

 

無数の石と岩で埋め尽くされた場所があった。

 

 

 

「や〜ん!サニーが追いついてくる〜!」

 

「まてまて〜!逃さないぞ〜!」

 

 

 

そこでは妖精たちが岩に隠れたりしながら遊んでいた。

 

岩の形は縦長であったり横長であったり様々だ。

 

 

 

だが……………なぜかレンガのような模様が見える。

 

 

そう……………よく見れば、それは岩ではなく、建造物の跡だった。

もともとは建物でもあったのだろうか。

 

だがしかし、石壁だっただろう世界は跡形もなくなっており、瓦礫には苔が生えてただの岩となっていた。

 

ここが歴史的価値のある場所であることも知らず、妖精たちはかくれんぼや鬼ごっこをして遊ぶ。

 

 

 

「ねえ、二人とも。もう暗くなっちゃうわ。今日は帰って、続きは家で遊びましょう」

 

「ほんとうだ。もう夜になっちゃった!早く帰らないと!」

 

「いそげいぞげ〜!」

 

 

もう日も落ちる頃だった。

3体の妖精は空を飛んで森から消えていこうとする。

 

 

二人が空へ行ったとき、たったひとりだけがその場に一瞬留まった。

 

 

「スター?どうかしたの?」

 

「ううん。なんでもないよルナ。……………この石の床は、いったい何のために使われていたのかなって思ったんだ」

 

 

 

 

瓦礫と化した遺跡の奥には……………ただ一つだけそれが建造物であったことを、頭の弱い妖精族にもわからせるものがあった。

 

 

それは、周囲を囲む木々の倍以上の太さと高さを誇る巨大な楓の木。

 

そこには注連縄が巻かれており、その目の前には石で出来た床があった。

 

そこもヒビが入ったり苔が生えたりして風化した跡ばかりだが、まだまだ元の形を保てている。

 

四角形の床の縁、その一辺に4段程度の低い階段があった。

かつては何かの祭壇だったのだろうか。

 

 

「もしかして、ここに誰が住んでいたりしたのかな〜?」

 

「さぁ、どうなんだろう……………」

 

「おーい!ふたりともー!もう帰るよ!」

 

「あっ、待ってよ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖精たちが去ってしばらくすると日が落ちて月が昇り始めた。

 

日が落ちてからは木々に月光が隠され暗闇に落ちた遺跡は、ある程度月が昇る頃には木陰に月光が差し込み、明るく照らされ始めた。

 

 

 

そこへザッ、ザッ、ザッ、と。

 

 

一人の背の高い女性が優雅に歩いてきた。

 

このような人気もない、遊び場もない、民家もない。

妖精たちの秘密の遊び場にしかならないような場所へと、なんの怪しさもなく堂々と踏み込むその女性。

 

フワッとした羽衣を夜風にはためかせ、幽玄麗らかに祭壇へ歩み寄る。

 

 

そして、手に取った布を近くの清水が湧き出る池に漬け、

そして丁寧に遺跡の壁跡を拭き始めた。

家族の墓の掃除をするかのように優しく………丁寧に。

 

 

 

やがて、月の軌道で月明かりがズレていく。

 

そして光は祭壇の中央を照らす。

 

彼女はまだ掃除をやめない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────相変わらずマメだな。こんな夜にも人気ない移籍跡を掃除とは面倒でやめたくないのか?」

 

 

その時、信じられないことが起きた。

 

 

誰もいなかったはずの祭壇に、一人の男が現れたのだ。

 

狩衣を身に纏い、頬杖ついて座るその男の真横には、虹色に輝く、人頭大の玉が浮かんでいた。

 

 

「そういうわけにもいかないのです。この長い歴史の間に忘れ去られ、風化し、しまいには妖精の遊び場にされ…………せめて掃除ぐらいは、させていただきます」

 

(こいつ)をサッカーボールにでもされん限りは大丈夫だ。まぁ、気持ちはありがたいがな。お前はここで何をしている?」

 

「私は満月の夜に、この地で帰るべき者の帰りを待っているのです」

 

「帰るべきもの、か。……………記憶にない忘れ去られた故郷。言わば運命の果て、行く末の場所。帰るべき場所へ帰るとは、人生を逆さに歩み辿ること。生きた痕跡をなぞり、あるべき自分へと還ること。なるほど………ならば俺も、ここでは風化し忘れ去られた、何者かのあるべき姿とも言えるのか」

 

 

若い男は永遠と意味不明なことを口にしている。

 

 

「貴方は、ここで一人………この森を眺めているのですか」

 

「俺はここから動けない亡霊だ。亡霊とは、記憶の具現のことだ。すでに死に絶えたにも関わらず、後世にまで語り継がれる英雄や偉人や王の数々。それはそれを見た、聞いた、嗅いだ、味わった、触れた、感じた何者かが、その感覚を覚えているからだ。覚えている者が残る限りはモノは記憶に残り続け、歴史として語り継がれる。過去の偉人や英雄を「歴史人物」と呼ぶのはこのためだ。そして、過去の存在を覚えている者が人物ではなくこの森のように、周囲を取り囲む環境であった場合は自然そのものがその土地の記憶を基に「自然であろうとするために」、自然にあるべきものを現す場合がある。それが亡霊や幽霊というものだ。いわゆる地縛霊というやつだな」

 

 

男はどうやら、この祭壇の外には出られないらしい。

 

 

「俺はもう何年もここに縛り付けられている。俺もここへ来るべきものを永遠と待ち続けている。お前のように…………懐かしいものの到来をな。我が住処(すみか)に、帰るものを」

 

「えぇ。そして、()の住処へ、帰るものを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

森の中を風が吹き抜ける。

 

 

 

 

 

 

 

衣玖(いく)。この歪んだ世界の…………この歪んだ歴史の、その全てを正しき場所へと還すまで…………お前の力を借りるぞ」

 

 

男が祭壇から立ち上がり、手を差し出す。

 

 

衣玖という女性は頷くと、祭壇の前でひざまずく。

そしてその後に衣玖は立ち上がると、祭壇前の階段をゆっくりと昇る。

 

 

 

狭い石の祭壇の上で二人は向かい合う。

 

 

 

 

「えぇ。その時まで、私は貴方様の冷えた記憶を覆い暖める羽衣となりましょう……………青葉(あおは)様」

 

 

 

 

───────2人の手が触れ合う。

 

 

 

 

 

祭壇が青色の光を放つ。

 

 

 

 

 

 

そしてまた再び、座り始めた青葉。

 

その背後に絡みつくように衣玖が寄り添う。

 

 

 

「俺は…………帰るべき場所へ帰る。我が住処へな…………」

 

「そして彼の者を、彼の住処へ…………」

 

「そして我らを、帰るべき住処へ─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月とともに運命は動き出す。

 

この歪んだ歴史と、歪んだ世界のこの果てを。

 

ありえざる螺旋の間で、この、ありもしない矛盾した世界で。

 

 

 

 

 

この歪んだ幻想郷を、あるべき形に戻すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神門青葉が歪めたこの世界の歴史を。

 

 

神門青葉が書き損じたこの歴史の文字を。

 

 

神門青葉が「書き換える」。

 

 

 

 

 

 

 

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