東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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【秘封倶楽部レポート・『神の蛇』】

 

 

 

『カッ…………クソが…………俺の………天下も………ここまでか………!』

 

『ここまでだぜ。こいつは、俺の戦いじゃあねぇ。こいつは俺の兄弟のための戦いだ…………俺の兄弟のカタキ受けてから、あの世に行きな』

 

 

「は………はわわ…………」

 

「……………………………………………………」

 

 

『兄弟…………仇は、討ったぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────近未来・日本

 

とあるファミリーレストランにて。

 

 

 

「はー、面白かったね!メリー!」

 

 

私、宇佐見蓮子(うさみれんこ)は親友のメリーを連れて映画鑑賞に行っていた。

その帰りに寄ったファミレスでお昼でも食べようとしていた。

この世の数多のオカルトや伝説の謎を紐解き調査する私たち秘封倶楽部はまぁあちこちに調査に赴くわけなので足腰に響く。レポートで頭脳をフルで活用してからこの人間の脚で大地を走り回るのだ。休憩がなくってはあっという間に死亡。

 

たまには調査を忘れ、道楽に浸る時間というのも必要だ。

 

 

「メリー、どうだった?」

 

「うん。そうね………少し怖かった………かも、」

 

 

メリーは少し疲れてそうな顔をしていた。

ありゃ、大人しく怖がりなマエリベリー・ハーンさんにはあまり休まらない映画だったか。

 

 

「そうだよね。怒鳴ったりするシーンや銃撃戦のシーン………毎回メリーったら私の横でビクッ!ってなって私の腕に抱きついてくるんだから可愛かったな〜あれ!」

 

「しょ………しょうがないわよ!だって、銃声なんて知らないんだもの………!あんな暗い映画館で、怖い男の人達が殺し合いをする映画なんて………」

 

「そうね。任侠モノの映画なんて私たちはほとんど見ないから私たちには特別な体験かもね」

 

「もう!半分笑ってる!」

 

 

メリーがガタン、と席から立つ。

 

 

「あははっ、ごめんごめん」

 

 

ぷくーっとした顔で座り直すメリー。

しかしすぐに咳払い一つとともに立て直してこんな事を聞いてきたのだ。

 

 

「そういえば蓮子。あの映画に映っていたおじさんたち………背中に絵を描いていたわよね。あれはなんだったのかしら」

 

 

メリーは刺青について訊いてきたのだ。

私たちが、見た映画では任侠組織に属する主人公が、他の組に自分の兄弟分を殺されてしまい、その復讐に燃えるというものなのだが、登場する男たちの背中には刺青が彫られていた。

 

 

「あれは刺青といってね。あぁいう任侠モノには切っても切れない縁があるのよ」

 

「イレ………ズミ………?」

 

「そう。私も本職じゃないんだけど、端的に言うと極道が己の生き方を示すために掘るものよ」

 

「掘る?どうやって掘るの?」

 

「どうって、背中に直接彫り刻むに決まってるじゃない」

 

「だ………大丈夫なのそれ!?痛くない………?」

 

 

よくわからんけど痛いと思うよそりゃ!?

 

 

「きっと痛いでしょうね。でも、その痛みに耐えたこともまた強さの証というやつなのかな?」

 

「生き方を示す…………それって、お魚みたいにぴょんぴょん跳ねて生きるってこと………?」

 

「ぷぷっ…………」

 

 

しっかりもののように見えて実は天然なメリーがそんな事を言い出すなんて面白い。

きっと登場人物の一人の背中に刻まれた鯉の刺青のことを言ってるのだろう。

 

 

「鯉は縁起の良い生き物なのよ。ほら、登竜門って言葉があるでしょ?あれは黄河の滝を登りきった鯉は龍となる、っていう伝説から来ているの。だから登竜門には「出世や大成する前の避けては通れない関門や困難、課題」っていう意味があり、そして同時に鯉には出世や恋愛成就のご利益があるんだ」

 

「龍…………龍はたしか、主人公の背中に刻まれていた…………」

 

「えぇそう。その龍よ」

 

「ドラゴンと龍は、まるで違うのね。同じようなものだと聞いていたのに」

 

 

ドラゴンはすなわち竜。

災害を伴う怪物として恐れられているものだ。

ドラゴンはトカゲに翼が生えたような姿をしているが龍は蛇のような姿をしている。こういったところにも龍とドラゴンの違いは顕著に表れている。にているように見えて実は全く別の存在なのだ。

 

 

「メリーは、龍には実は瑞兆としての信仰があるってことを知っているかしら?」

 

「龍に、良いご利益?」

 

「えぇ。龍にも色々種類があるの。でも、主人公の背中に描かれていたのは…………間違いなくあれは「応龍」ね。任侠モノの刺青に彫られる龍といったら青龍か応龍、あるいは黄龍の3択だもの」

 

「青龍はたしか四神の一つね。応龍は…………初めて聞いたわ」

 

 

ご注文の品でございます、と店員さんが私たちの注文したカルボナーラを持ってきてくれた。

同時に、おつまみがてら持っていた生ハム。 

 

 

「ひゅー!やっぱコレがなくっちゃね〜」

 

 

私は生ハムをお箸でつまんで口に含む。

お肉とは思えない、口に含んだだけで唾液で溶けてしまいそうな柔らかさと、ガツンと、かつ上品に響くお肉の味。

 

 

「もう………蓮子ったら食べすぎよ。さっきデザートまで頼んでたわよね?」

 

 

「龍とは為政者そのものを示す瑞兆であると同時に、その時代の皇帝に仕え、その繁栄を見守るという言い伝えがあるの。メリーは知ってるかしら?龍の指の本数の違い。龍の指は基本的には3本なんだよ。でも、格の高い龍は5本指。5本指の龍は龍神と呼ばれていて最も格の高い神様なの」

 

「たしか………龍によって玉を握る指の本数が違うのよね。如意宝珠だったかしら」

 

「えぇ、そのとーり。…………応龍は中国の古い皇帝に仕えていたとのことなんだけど、ある時戦いが起きた。大陸の妖怪たちの長、シウウという軍神との戦いがね…………応龍は皇帝と人々を守るために嵐を起こし、魑魅魍魎を…………」

 

 

生ハムの横に添えられてたトマトをフォークで突き刺す。

 

 

「……………滅ぼした」

 

 

私はミニトマトを頬張る。

 

 

「しかし、殺生を行ってしまったことで妖怪の血と邪気を纏った応龍は天へと戻ることができなくなり、またその王の天下も長く続かなかった。それと同時に、応龍はどこかへ流れ、消えてしまったたらしいわ…………その後のことは誰にもわからない。今どこにいるのかしら…………」

 

「…………なんだか………悲しいわね」

 

 

メリーはパスタを巻きながらつぶやく。

 

 

「一説によれば、その末裔が蛇なんても言われていたりしているようね……………っと!ごめんごめん!せっかくの休日なのに…………あーダメだダメだ、つい神話の話とかになってくると研究部モードが…………!あーもう、やめやめ!」

 

「うふふっ…………得意げに語る蓮子の顔、やっぱりこれがないと私たちっぽくないわね」

 

 

メリーがくすりと笑う。

 

 

「うふふっ。そうね………次の調査は、龍の話にしてみましょうか」

 

「そうね。もうすぐ冬だし、龍が苦手なムカデも冬眠に入る頃よ」

 

「あら。龍って大きな身体だと思ってたのに、そんなちいさな生き物が怖いのね〜」

 

「まぁ………言い伝えだけれどもね。俵藤太という武将では龍神から大蜈蚣を対峙しろという天啓を授かったと言われている。インドの龍神はナーガ・ラジャとも言われているの。ラジャは王って意味ね。偉大な王のことはマハーラジャなんて呼んだりもするわ」

 

「ふふっ………神様なのにムカデが苦手で人間に対峙してもらおうなんて。家のスズメバチの巣を業者に取り除いてもらう感覚なのかしら………意外と龍神さまってかわいいものなのね」

 

「そ………そうかなぁ………」

 

 

荒神の一面と慈悲深き神である一面も持ち合わせている龍神のことをギャップ萌えって言い方ふつうはしないものなので色々いいたかったが、小動物とかけっこう好きなメリーがこんなにも目を輝かせているのでなんか、かわいいからそのまんまにしとこう。

 

 

「メリーは蛇とか飼うの向いてるのかなぁ………」

 

 

うぅ…………やだなぁ。

蛇飼って可愛がってるメリーの姿。解釈違いだなぁ…………

 

 

 

 

「そうね。言われてみれば龍って蛇の神様みたいなものよね。あら、かわいいじゃない。もっと小さかったら友達になったりしてみたいわ〜。もしかして、その辺にいたりして。探してみようかしら」

 

「そんな、ツチノコ探そうみたいなテンションで言わないでよ…………どこにいるかもわからないのに」

 

「それはほら…………堕天した龍の流れ着いた場所を調べるに決まっているわ!まずはそうね、ペットショップに向かいましょう。蛇の生態についてしっかり調べないと。どういう砂が好きなのかとか」

 

「だからそれ、蛇飼おうとしてない───!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人から求められなくなり、仕えるべき為政者が消え失せ、世界中が共和制となって役目もなくなった龍。

 

為政者を探し求めて彷徨い流れ、その姿はどこへ向かうのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはさながら王を導く瑞獣である白沢のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

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