東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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彼岸花

 

幻想郷、里から遠く離れた山奥に、大きな武家屋敷が建っていた。

 

「へぇ、返り討ちにされておいてノコノコ帰ってくるなんて良いご身分じゃねぇか」

 

簾の奥に座る男の声がする。

 

「す、すんません……………」

 

「アイツら、ワケわかんないっスよ………」

 

「あんなの、俺らがまとめてかかっても勝てやしねぇ」

 

3人の人物が、正座しながらその男に何かの弁明をしていた。

 

「人間の里には、闘えるヤロウなんていねぇだろうが。いったい何人がかりでやってきたんだよ」

 

「それが……………」

 

「オレとコイツとで一人の男に負けました」

 

「俺は女一人に」

 

「へぇ。お前ら下っ端とはいえ、いちおう武術の心得はあるんだろ?」

 

「はい」

 

「なら、余計に疑問だなぁ。いつからそんな猛者が里に現れやがった。いよいよ、自警団でもお招きしたってところか」

 

「………………?」

 

「言ってみろよ、そいつらどうやってお前らを捕まえたんだよ」

 

「その……………よく覚えてなくて…………」

 

男にやられたという2人が両方とも頭を悩ませている。

 

「俺は女に髪を焼かれました。どっからか炎を出してきてさ、まるで不死鳥みてぇに」

 

「不死鳥、ねぇ……………いや、意味わかんねぇよ。もっと詳しく言え」

 

「そんなんわかんないっスよ、ただそこら辺にいるだけのちょっと美人なだけの女が、急に俺のこと襲ってきて…………」

 

「感想じゃねぇ、性能訊いてんだよ」

 

「性能………は、なんとも…………格が違いすぎて」

 

「……………使えねぇな」

 

「あ!思い出した、俺ら2人は三度笠を被ったガキにやられたんだった」

 

「あー、そういえばそうだったかもな」

 

「三度笠ぁ?」

 

男が三度笠という単語にピクッと反応する。

 

「へぇ。誰のことかわかったぜ。女についても今のでだいたいわかった」

 

「分かるんですか?」

 

「あぁ、女のほうは稀に里にやってくるヤツだろうが、たぶん三度笠のツレのようなもんだ。たぶん、その2人は一緒に行動していることが多いんだろうな」

 

「有名人……………と」

 

「有名かどうかは知らねぇ。ただ、俺は知っている。里にある道具屋でな。店の名前は……………忘れちまった」

 

「は、はぁ…………」

 

 

 

 

 

「しっかし、なるほどなぁ。アイツは闘えるのか」

 

スッ、と男は立ち上がると簾を掻き分けて廊下に出て、

 

 

 

即座に弓を放った。

 

 

「うわぁぁぁぁっ!?」

 

突然のことに3人が飛び退く。

 

「悪りぃな、覗き見してくる趣味の悪いやつがいたんで、ぶっ潰してやったぜ」

 

天井に刺さった矢に串刺しにされていたのは金髪の幼い少女の見た目をした人形だった。

 

「偵察用の人形か?まったく、物騒な物を持ち込みやがって」

 

人形を拾い上げて男は呟く。

 

「さ、さすが…………気付きませんでした」

 

「お前らに警戒心がなさすぎるだけだよ」

 

「いえ、先程の一射、素晴らしかったです」

 

「どうでもいい。とにかくここからはお前らに聞かせる話じゃあない、とりあえず出ていけ。娑婆(シャバ)に復帰してから初のメシにでも行ってこい」

 

「は…………はっ」

 

3人の泥棒たちは急ぎ足で屋敷を出ていく。

瞬く間に人形を迷うことなく撃ち落とした男の射撃の腕はどれほどのものだったのか。簾を掻き分けて、最低でも30メートルは離れた場所の天井に張り付いていた人形を違わず即座に一発で撃ち落としたのだ。

そもそも人形に気付いたことも人間離れたした直感だ。

 

 

 

「しかし、俺らを相手に人形か。舐められたもんだ。皮肉のつもりか?なら、売られた喧嘩は買ってやるぜ────おい、」

 

男の一言と共に、近くの部屋の襖を開けて誰かが入ってきた。

それは、どこか折れた花のような不思議な雰囲気を纏った一人の少女だった。

 

「この人形の持ち主、逆探知できるか?同じ人形師のお前なら分かるだろ」

 

「─────────」

 

短い茶髪の少女は優しくゆっくりと頷くと、男が仕留めた人形を受け取って見つめる。

─────まるで物事に関心しない女だ。

無垢というのか。まぁ、だがそれで無感動もまた切ないものだが。

 

「────持ち主の痕跡が薄いです。ですが、操り人形(パペット)の一種と思われます。逆探知が難しい類いですが、本気で調べ上げれば辿り着くのは不可能ではないかと」

 

「そうか、なら徹底的に調べ上げろ。俺たちの邪魔をするヤツは、徹底的に叩き潰せ。誰にも、そして何人たりとも、俺たちの邪魔をさせはしねぇ。命令だ、必ず探し出せ、そしてブッ殺せ」

 

着物を着た大男は簾の中に戻っていく。

 

「──────必ずや」

 

「よし、行け」

 

少女は黙って頷くと、ゆったりとした足取りで部屋に戻って支度を始めた。

少女は茶髪に赤い振り袖が特徴の、どこにでもいるような「少女」。だが、その瞳には狂気にも似た濁りを宿す。

 

「──────ところでお館様」

 

「なんだ?」

 

「私の、「先生」はお元気でしたか?」

 

「──────残念だが、まだ見つけてねぇ。だが、明日には見つかる」

 

お館様と呼ばれた男は先程放った弓の手入れをしながら答える。

 

「──────と、言いますと?」

 

「──────居所だけはわかってる。問題は接触のほう」

 

「──────護衛が居る、ということですか。ならば、ついでにそれらも」

 

「いや、やめておけ。居ない時を当たるに越したことはない。別に護衛なんてものは居ないが、人間との交流が増えているらしい。一人ぐらい、【何かとんでもない者】がついていてもおかしくはない」

 

「とんでもない者?」

 

少女は準備を終えて立ち上がる。

 

「野生の勘、ってヤツだよ。とにかく、先生を探すのは他に任せるから、お前はさっきの人形の元を潰すことだけに専念しろ。だが気を付けろ、もしかしたら、強力な後ろ楯があるかもしれないからな」

 

「ご心配なく。この私を前に、如何なる人形師も先には行かせませんから」

 

「ま、そうだよな。お前のことは信じている。並みの魔法使いさんじゃあ、お前には簡単には勝てないさ。んじゃ、頼んだぜ、(あずさ)

 

「──────必ずや、ご期待に応えてご覧に入れましょう」

 

梓と呼ばれた少女は、そうして軒を降りて屋敷から出るべく歩き出す。

 

────赤い振袖、歩く姿は牡丹の花。

紫の瞳に宿した光は撫子のよう。けれど髪の茶色は枯れた花弁。されどその赤い着物は汚れを知らず。

担いだ風呂敷に最低限の荷物を仕込んで彼女は戦いに出る。

 

右手に金槌、左手には藁で編まれた、人の形をした何か。

 

────赤い振袖、歩く姿は牡丹の花。

美しく、嫋やかに、煌びやかに。そして可憐な匂いを撒きながら。

けれど、その花が醸し出す狂気の色は、その瞳に宿した死の気配は、藁人形を握るその姿は。

 

何より、全てを怨めしく見るようなその容貌は、

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで、岸に咲いた彼岸花の様であった。

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