東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
マーガレットの短い縁
─────9月20日、夜8時。
「ただいま~」
俺はこうして、寺子屋で子供たちに色々教えてから家に戻ってきた。
いやー、恥ずかしそうに和歌を詠む妹紅が最高に面白かった。しばらくお腹がネジ切れるくらい大笑いしていたら、涙目の妹紅にブローを食らったので今、頬が腫れている。
忘れてた、戸締まりのこと。
まぁ、あれは急ぎの用事だったから戸締まりなんて考えている場合ではなかったけどね。
「さて、どうしてくれるのって話だけど」
店の戸締まりをしなかったのは俺の責任であって、誰のせいでもない。
そして、戸締まりを忘れたのは急ぎの用事だから誰も悪くない。
それはそれとして。
「店主より先に客が店に来ているなんて余程のお得意さんだ。どういう事かな」
仕方なく空いているとはいえ、問答無用で入り込むのはどうかと思うんだ。
匂いがするから、俺が戸締まりし忘れていたうちに、店に一人来店していたかと思ったら、あらびっくり。店の向こうにある俺の家の居間、その中央に置いてあるお菓子を美味しそうに食べている少女がいるではありませんか。
法律に詳しい人に聞きます。さて、この状況において、店に入るのならともかく、店と一体化している俺の家にまで知らない人が入ってきたのは誰の責任なんでしょうか。これは侵入と呼んでいいのではないでしょうか。
戸締まりをしている場合じゃなかったので店が空いているのは仕方ない、店に入っているのはまだわかります。
けど、家にまで踏み込むのは違うんじゃないでしょうか。
「誰、君」
俺は真っ先に一番聞きたいことを言った。
まず、めんどくさいのでなんでここに居るかは聞かないから、とにかくあんた誰。
この問題において、とにかくこの少女の目的とかここに来た経緯とか以前に、彼女が誰なのかわからないのが俺、一番困っている。
「忘れたとは言わせないわよ。誰が魔法の森で迷子になったお馬鹿さんを案内してあげたと思っているの」
「ごめん、俺知らない」
記憶にございません!
なに、そのオシャレな格好。私服とかじゃないでしょ、勝負服とかでしょ。なに、今から夜中に誰かとデート行くつもり?
店に侵入…………もとい、ご来店していただいていたのは金髪の少女。
袖のない、青いワンピースのような物を来ていて、白くて短いケープを着用している。
ワンピースと言っても慧音さんのような涼しげな軽装というより、さらに一回りお上品なイメージかもしれない。ワンピースと呼べるかな。俺、服にはあまり詳しくないからなぁ。言うならばドレス風ワンピースというか。
第一印象で、シャンプーやリンスにはとてつもないこだわりが有るとわかる。
そんな格式高そうなお嬢さんが俺んちに侵入して居間のおせんべいをつまみ食いしているから複雑な気分だ。
こう見えて普段から拾い食いとかしてるのかな。
でも…………その顔、どっかで見たような気がするんだよなぁ。
「あ!そうだ思い出した!」
「あら、そう。それは良かったわ。旧知から忘れられるのはこりごりよ」
「君ってさ、里に稀にやってくる人形劇役者さんだよね!」
「~~~~~~~~~~?」
すごいわかりやすく困るじゃん。
どうやら向こうが期待していた対応とは違ったらしい。
「え、違うの?いつも女の子の人形で劇やってくれているじゃん。たまに里を歩いていると見かけるけど、ついつい最後まで見ちゃうんだよね~」
「───────そ、そう。それは、うん」
「なになに、ひょっとしてここで人形劇やるつもり?今なにしているの?ちなみに言うとそのおせんべい俺のだよ?」
「貴方、相当私のこと覚えてないようね」
「覚えているよ~。だって、あの人形劇俺結構好きなんだよ」
「そうじゃなくてね……………一度話してるからね、私と貴方」
俺が向こうの話を理解するのに20分ほどかかったのでここまでの過程は割愛させてもらいました。
「なるほど、つまり君は俺が魔法の森で迷子になったところを助けてくれた女の子でもあったんだね」
「なんでそっちの記憶がないのかしら。私の人形劇が好きなんだったら、好きな女優に助けてもらったことなんて死ぬまで忘れないと思うのだけど」
「あはははははは、女優だなんて、ご冗談を」
「殴られたいのね?」
「ごめんなさい」
「はぁ…………………」
少女はため息をつく。
「じゃあ、次、俺も話していい?」
「どうぞ」
「何しに来たアンタ」
秒で背後に回って少女を羽交い締めにする。侵入者排除します。
「ちょっ、なにするの!?」
「そりゃこっちのセリフだよ!なにうちの家に勝手に入ってんのさ」
「だって…………空いていたんだもの」
「じゃあその口についているせんべいの欠片はなに?持ち込んだの?」
「それはその…………美味しそうだったから…………」
「髪剃り落とそうか?」
「ごめんなさい」
理由じゃないよ、せんべいに関しては。
俺の数少ない食糧だよそれ。
貧乏人に追い討ちをかけるなんて、貧乏人代表として許せない。
そのオシャレな洋服を
なんてのは冗談として拘束を解く。
大声出されたら負けだからね。
「ま、空いていたからなんて嘘を吐くのはそこまでにしてと。なんでうちを訪れたんだ。小さい子供以外で俺の店を訪れるとなると、魔法使いか巫女のどちらかっていうことになるんだけど?」
「鋭いわね、話が早くて助かるわ。霊夢や魔理沙の友達枠で来てあげた、アリス・マーガトロイドよ。人形を使った魔法を得意とするまぁ、通りすがりの魔法使いさんよ」
と、言うことで、アリスさんが仲間になった。
息をするように自己紹介する人は好きだよ。やっぱり女の子はこういうクールで物静かなイメージの子じゃないとね。
「俺は神門青葉。見ての通り、そこらへんの貧乏人」
握手すべきか迷ったが、とりあえず手を差し出す。
「霊夢から聞いたわ。物凄く強い獣人さんなんだってね。あのときは手を抜いていたってことかしら」
──────完全無視。
「ごめん、魔法の森がうーのこーのっていうのは忘れた」
「そう。まぁ、いいわ。別にあの縁は大したことないから今の私たちには関係ないし。それより、少し聞いてくれないかしら」
「はいはい」
「ちょっと、私命を狙われている立場だから、しばらくの間匿ってもらえないかしら」
「お帰りください」
「ちょっ!?」
「命を狙われているお方とは一緒に過ごせません」
俺まで狙われなきゃいけなくなるもんね。
だいたい、誰に命を狙われているのよ。
「あのね、結構大きな問題なのよ?」
「知ってる。そりゃあ、毎日のように人の家のお菓子つまみ食いするやつなんて、いつか命を狙われるに決まっている」
「違う違う。獣人の山賊のほうの話」
「あぁ、そっちね」
面白いな、アリスさん。冗談聞いてくれるのいいね。
「でも、俺を助けられるアリスさんなら普通に山賊なんてコテンパンにできるでしょう?」
「普通じゃないから助けを求めているんじゃない」
「はーはー。いよいよ、幹部のようなものが動き出した感じかな……………」
なにそれ。コンテンツ広っ。妹紅と捕まえた泥棒たち下っ端で、もっとすごい相手がいるってことか。
もしかしたら、一角に魔理沙のような能力者がいてもおかしくはないのかもしれない。
アリスさんはおそらく俺よりも強いのだろうけど、それがこんなところに逃げてくるということは、なかなかどうしで相手もやり手のようだ。
「どうやら例の組織は、そこらの暴力団に毛が生えた程度のものではないみたい。きっと、私を襲ってきたもの以外にも、まだたくさんの能力者がいるかもしれないわ」
「やだなぁ。そいつらとやりあうの。俺、弾幕勝負苦手なんだよなぁ」
「いいえ、貴方は最強格と誇ってもいいわよ。貴方相手にしたらスペルカードが使えないのだから」
とは言ってもねぇ、俺は通常の弾丸がないから。
俺にできることはせいぜい、そこにあるさっき鉄屑で作った刃のない刀を振り回すことぐらいだ。
「まぁ、心配はないわ。私がついているから。私がいる限り、貴方が諦めて自刃しない限り、死ぬことはないわよ」
おぉぉ……………カッコいい………………
ちょっと、自分の顔が暑くなったような気がした。
「残念だけど、泥棒を捕まえた時点で貴方は必然的に、いつかは獣人の山賊たちに狙われるわ。それから生き延びるために、山賊と対立している霊夢の手を借りたのでしょう?」
「まぁ、そうだね」
「なら、最後まで私ら一行に付き合ってもらうわ。貴方にできることは、隠れることと、私たちの足を引っ張らないこと。露払いができるほどの実力がある貴方なら、決して負けない。さぁ、共に生き残りましょう。貴方は逃げるため、私は生きるために、ね」
アリスさんはそう言って手を差し出してきた。
え?さっき俺の握手無視しといて?
「う、うん。よろしく、アリスさん」
「アリスでいいわ。私も貴方のことは青葉と呼び捨てにするから」
俺はゆっくりとアリスの手を握る。うわ、小さ、てゆーか柔らかっ。
─────考えてみれば、これは戦いの始まりのようなものか。アリスの命を狙う謎の能力者を探す、となると、俺はこれから戦いになるのかもしれない。
俺にできることは限られているけど。
「────────────」
置いてある、刃のない刀を握ってみる。
そうだな、俺は不殺にして平和を取り戻してみせる。
俺は文字通り、「誰も死なせない」。
自分も、アリスや霊夢たちも。里の人々たちも。もちろん、山賊たちも死なせない。あいつらだけは死なせない。必ず、生きて罪を償わせる。
「罪を償うにはとにかく永く生きていなければならない」、と妹紅が言っていた。意味はわからないけど、でもわかる気がする。
そうだよね、「死んで詫びる」なんていうのは間違っているはずだ。
ならば、俺は彼らに償いのチャンスを与えるためには、誰かに殺される前に。この世を嫌って自殺する前に、俺たちの手で捕まえて、誰にも手の届かないところで反省してもらうしかない。
もちろん、檻の中でね。
檻は逃げられない上に、誰も触れられない。
必ず彼らを保護する。そして、必ず償わせる。
それが、俺と同じように、人生のどこかでコケてしまった者への、救いの手だと思うから。
「そうだね、まずはやってみることだよね」
「えぇ、そうね」
神門青葉は、道具屋から……………何に変わるんだ?
自警団?あー、なんだろう。
いや、どうでもいい。肩書なんてものはいらない。とにかく、俺は正しいと思ったことを自分の思うようにやる、それだけだ。
そう、やりたいことを、やる。そのために、俺は父さんの跡を継いだんだから。
悪性はハクタクの王様に消される。そうなったら、その人の罪はなかったことにされる。忘れられる。誰からも覚えてもらえなくなる。もう二度と悪を繰り返さないために、平気で人を巻き込んで悪を為す、人々を困らせる梟雄者が現れないように。
俺は、その
ハクタクの王様に代わって。
─────ワーハクタクの王子様として。
───────彼女は歴史をきざむ。
───────彼女は歴史をつくる。
───────彼女は歴史をたべる。
───────さて、それは誰の為だと言うのでしょうか。
幻想郷のため?里に住まう人々のため?
寺子屋の子供たちのため?
いや、それは■■のためなのかもしれない。
───────上白沢慧音の過去に迫る、作者が勝手に想像、解釈した意味不明二次創作。
───────最初の出会いは些細なもの。
彼女の運命を握る鍵は、三度笠の青年。
彼女の宿命を覆す梃は、モンペの少女。
彼女の生命を縛る枷は、満月夜の白沢。
出会いは些細、事は重大、結末は決死の難題。別れは突然、再開は遥先。
小さい物語は、長い旅路に繋がる。
そしてその長い旅路は、多くの物語と平行する。
一幕 アリス編~アイリスの路しるべ
《意味の無い花》
二幕 文編~山々燦々
《戦姫ソウラン》
三幕 早苗編~儚き人々に信仰を…………
《幻想郷封神演義》
三,五幕 チルノ&大妖精編~どたんば恋娘
《おおいなる妖精妃》
四幕 咲夜編~ロイヤル・ルナ・クロック
《時を見透かす者》
五幕 妖夢編~妖々白く、成り往く枝垂桜
《白玉楼幻想剣豪春一番勝負》
六幕 魔理沙編~死に損ないの矜持
《残党の朽墓標》
七幕 霊夢編~約束の幻想郷
《帰路の記憶》
八幕 鈴仙編~新代月面戦争
《あと一人の不老不死》
終幕 慧音編~決戦月夜
《歴史を■■■程度の能力》
(作者のやる気が残れば)シリーズ長編化予定。
今後ともよろしくお願い致します。