東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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人形術師アリス

 

───────9月21日、午前10時。

 

 

 

 

 

俺は、昨日の流れでうちに泊まっていったアリスに連れられて、魔法の森を訪れていた。

 

「アリスは魔法の森から逃げてきたんじゃないのか?」

 

「えぇ。魔法の森の近くに私の家があるから」

 

「え、じゃあなんでまた森に戻っているのさ」

 

「できれば早々に決着つけたい相手なのよ。神出鬼没な上に普段の居所がわからないから、痕跡ぐらいでも確認しておかないと」

 

アリスって意外とせっかちな所あるな…………

いや、それだけ急がないといけないほどの大物、ということでもあるのかな。

そのわりには、ゆったりとした足取りだけどね。走るのはあまり好きじゃないけど、こんなにゆっくり歩いたのも久しぶりだ。

 

「──────下がって」

 

アリスは急に右手で俺を静止させると、なんにもないところで立ち止まってしまった。

 

「え?なん、」

 

「しっ、静かに」

 

アリスの囁くような忠告の直後、地響きのような物を感じた。

それは心音のように定期的に流れる。どすん、どすん、どすん、と。

これはまさか、足音か?

何も来ていないことを祈りながら俺は周囲の匂いを探知しようとするが、アリスがいい匂いすぎてどこに何があるかわからない。

スキンケアもほどほどにしないと、こういうとき損するんだな。

 

「───────いた」

 

「───────マジか」

 

木々の向こうに、ひときわ背の高い木がある。しかもそれが、歩いている…………?

あれだけ葉っぱ生えてないじゃん。なんで?

と思ったら、理由はそんなに難しいことじゃなかった。その木に顔がついていたんだもん。

恐ろしく巨大な口。瞳のないギロッとした目。見るからに怪物といった見た目の大きな生物が、こちらに向かってゆっくりと迫ってきているのだ。

 

「─────どうしよう、俺の模造刀じゃ倒せないぞ流石に」

 

俺は昨日造ったあの模造刀を鞘に仕舞って持ち運んでいた。

 

「気にしないで、そんな棒切れで戦えないのは当たり前だから」

 

……………失礼な。

 

「グガァァァァァァァァァ!!!!」

 

突然、俺たちに近づいていた木が咆哮した。

 

したかと思うと、その木は一直線に走り出してきた。

そして、その方向にいるのは俺たち。

 

「気付かれた!?」

 

俺に一瞬の戸惑い。じり、と一歩右足を後退させる。

立ち尽くすアリスの腕を引っ張って逃走しようと図った次の瞬間、

 

「───────────」

 

消えるような速さでアリスが大木の化物の前に飛び出していったのだ。

 

「ちょ────アリス!!」

 

慌ててアリスの方向に走り出す。

なにやってるんだこんな時に!

せめて、アリスにだけは怪我がないように済ませたい…………!!

 

 

 

「─────上海(シャンハイ)!」

 

アリスが両手を広げる、と同時に可愛らしい女の子の人形たちがアリスの背中から飛び出してきた。

ナイフやダガーやハルバード、ランスを握った複数の人形たちはアリスの呼び掛けを命令のように思って主に従うかの如く、一斉に化物へと突進していった。

俺たちの5倍近くの背丈を誇る大木と、手のひらサイズの人形たち。見た目での性能差は一目瞭然。

大木の化物は自分に迫ってくる人形に気付きもせずに、その突進で人形たちを踏み潰して行くのかと思われたが、

 

「─────ふっ!」

 

アリスが右手を一閃。

同時に、右手にランスを握った人形が一気に加速して急にシンカーを為す。

急激に軌道を変えたランスの人形が、矢に射貫かれたリンゴのように、大木を勢いよく貫いた。

 

「グォォォォォォォォォォ!!!!」

 

化物は苦悶のような雄叫びを上げながら突進を止める。

矢のような突進をする化物はアリスの20メートル先でギリギリ停止した。

かく言うアリスの方は、その見た目での威圧に屈する事もなく、顔色変えずに人形を使役して攻撃の手を止めない。

走るのをやめた大木に向かってさらなる追い討ちをかけていく。

 

「──────蓬莱(ほうらい)!」

 

止まった大木の枝にしがみついた人形たちが手にした武器で大木をガツガツと攻撃していく。

仕留めた牛から皮を剥ぎ取るように、ザクザクと猛攻を刺していく。

ノコギリのような大剣を持った人形が勢いよく枝を切り落とす。

 

「ギャァァァァァァァァァァ!!!」

 

そして、人形たちによる数の暴力にとうとう耐えられなくなったのか、

大木は爆発するように起き上がったかと思うと、反対方向に向かって走り出してしまった。

速すぎてもう追い付けない。あっという間にその姿は見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

「─────────」

 

アリスは何もなかったかのように人形たちを片付けると、すたすたと俺の所へ戻ってきた。

 

「大丈夫?怪我はない?」

 

「う、うん」

 

強っ…………………

 

「───────────」

 

俺の助けなんか要らんじゃん。

え、なに?俺、この人が怖がるような相手を捕まえないといけないの?

なんか無理な気がしてきた。

 

「どう、少しは私も頼りになるかしら?」

 

「いや、俺、足手まといにしかならなくないか」

 

「そんなことないわよ。戦力は多い方がいいもの」

 

「いやいや…………」

 

こんなのおかしいって。

俺、弾幕できないよ。これ、どうすればいいのよ。

 

「大丈夫かな…………俺、弱いよ。ホントに、俺アリス…………というか、そもそも皆の役に立てるのかな…………今まで社会に貢献したこともないし」

 

「そんなこと気にしちゃだめ。貴方には必ず、貴方にしかできないことがあるのだから」

 

「ないよ…………俺はアリスさんみたいに魔法は使えないからね、スペルカードの模倣なんて、人里で生きるには使わないし、俺自身が弾幕使えないからそもそも大したことないし…………皆違って皆良いって言うけど、そういうこと言うと、必ずどこかに良くないモノが混じっているんだよ」

 

「だからってやる前から諦めてしまったら意味がないわ。確かに、周りと自分を比較してしまうのは人間の(さが)なのかもしれない。でも、大切なのは周りと自分がどう違うかじゃないわ。貴方の言う通り、皆がすべて「良い」なんて言われは確かにない。けれど貴方は自分の能力を他人のものと照らし合わせて、自分は劣っているんだと思い込んでいるだけ。それぞれが「特別」だからってそれが「良い」かはわからないわ。だって、みんなが違うのだから、比較なんてしようがない。自分が周りと違うことが「良い」か「悪い」かは、その人本人にしか決めれない」

 

「───────────」

 

「それを良いと思えるか悪いと思うのか、それが一番大事なこと。まだ貴方は自分の良さに気付けていないだけなのかもしれない。それがなにかを悟るまで、貴方は自分を探すことを諦めてはいけない。他人との能力の差よりも、他人との努力の差で比較しなさい」

 

そう、アリスは頼れるお姉さんのような口振りで言ってくれた。

 

「──────そうだね、周りとどう違うか、じゃなくて。自分自身がどう思うか、だよね。ありがとうアリス。さぁ、先へ行こう!」

 

「えぇ。気が晴れたようで何よりよ。馬鹿に凹み面は似合わないから」

 

そうして、俺たちは森の探索を再開することになった。

 

「やっぱり、アリスは頼れるお姉さんなんだね。妹とか居るの?」

 

「お世辞は結構よ。褒めたって、何もあげないからね」

 

少し照れながらも極力クールな姿を保とうと頑張る健気なアリスお姉さんなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石に、居ないか」

 

「ここが、アリスん()?」

 

フローリングの床、だと!?

外の世界風の木造建築はこんなにも立派なのか!えーと、西洋だっけ………?外の世界におけるそういう地域の文化を彷彿とさせる落ち着ける家だ。

西洋人形のイメージがするアリスらしい家と言えるだろう。

 

「えぇ。狭いけどここでゆっくり一休みしましょ」

 

狭くないよ、一人暮らしにしては広すぎるよここ。

こんな立派なおうちに俺も住んでみたい。

 

「ここにわざわざ来るってことは、アリスは家で襲われたの?」

 

「正確には家を少し出た先で襲われたって感じね。相手のほう、下調べはしっかりしていみたい。けれど家には何事も起きていないのを見ると、ここには居ないみたいでよかった」

 

「わざわざ家にまでやってくるなんて、なかなかな執着だな。やっぱり、山賊関係ないでしょ。アリスが覚えていないうちにお菓子つまみ食いしたから襲われたんじゃないの」

 

「もうそのことは良いから忘れて………」

 

「いや、無理な相談だよ。俺とアリスの縁はそこから始まっているからね。絶縁しない限りイジり続けるよ、俺は。といっても、もう忘れることはないだろうけど」

 

「──────嬉しい」

 

アリスが小声で何か呟いたような気がしたけど聞こえなかった。

 

「何か言った?」

 

「ううん、何でもない」

 

アリスは立ち上がって部屋を出る。

 

「もう休憩終わるのか?」

 

「早く出ましょう。もう気付かれていたわ」

 

え?気付かれていた、ってなに?

とりあえず俺は駆け足でアリスについていく。

アリスは玄関から出るかと思ったら、お上品なリビングの窓から外に飛び出ていった。え、なんで?

 

「ちょ、アリス、待って!」

 

俺もそれに続いて窓から外に出る。

窓枠に足を乗せるのはなんか行儀悪すぎて嫌な気分だが仕方ない。

飛び降りて地面に着地する。

すると、目の前でアリスは向こうを見ながら立っていた。

 

「な、なに。今度は」

 

「─────────伏せて!!」

 

アリスが急に後ろ蹴りで俺を吹っ飛ばした。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

突発的な蹴りに反応して、俺はブロックの体勢を構える。それによって俺は大きく吹き飛ばされなかった。

 

「なん、危ないじゃないか急に蹴った────」

 

しかしそれが仇となる。

正面から小さな光る物体が飛来してきたのだ!

 

「──────ごもッ!?」

 

光る物体は俺のこめかみを掠めて、アリスの家の壁に突き刺さる。

突然のことで頭が真っ白になって、俺は2秒凍結した。

状況の整理がついて後ろを見てみたら。家壁に刺さっていたものは、

 

「───────え?」

 

工具用と思わしき、何の変哲もない五寸釘だった。

だが、ざっくりと突き刺さっているのを見るに、俺の皮膚を貫くには事足りるほどの物であった。

アリスの蹴りがあと少し弱ければ、俺はブロックしきってまったくのけぞる事なく釘に串刺しにされていたに違いない。

首の皮一枚、間一髪のところで俺は生き残れた。

 

「大丈夫、青葉!?」

 

アリスは顔だけこっちを見ながらも、向こうを警戒している。

 

「うん、ありがとう助かった!アリスは!?」

 

「まったく問題ないわ、けど……………」

 

「なんだ、奇襲か…………!!」

 

「えぇ、さっそくお出ましね。私に襲いかかってきたヤツが」

 

アリスの声から俺も向こうを見つめる。

木々の間に抜けた一直線の道。

その先に……………………

 

 

 

赤い振袖を着た、茶髪の少女の姿を俺は見た。

アリスを西洋人形に例えるならば、あちら側はまさに日本人形の如し。

綺麗で清潔感があるのに、どこか脆い、不気味な出で立ち。折れた花のような不可思議な危うさを思わせるその姿。

遠くからでも何かしらの恐怖のようなものを感じる。

手には何も持っていないが、五寸釘の飛んできた方向的に、あの女の子が投げつけてきたものだとわかった。

悪戯だと信じたいが、悪戯にしては悪質すぎるし、あの距離から家壁を貫くほどの勢いで五寸釘を投げつけれるとは思えない。

しかも、こんなに正確な狙いで。

間違いない、あれがアリスと敵対している人物だ。

 

「──────まさかここに戻ってくるのを予想していたわけ?」

 

警戒心で何もできない俺に対して、アリスには余裕があるようだ。

意味のない問答で時間稼ぎをしようとしている。

 

「……………いつか戻ってくるのは予想していたけれど、本当に戻ってくるとは思っていなかったわ」

 

茶葉の少女はゆっくりと話す。

暗い声。ここまで来ると最早女の子かどうかもわからない。出で立ちも、声質も、ほぼ幽霊と言ってもいいほどの不気味さだ。

だが、その瞳の奥には、こちら側への明確な殺意が宿っていた。

 

「その人は誰。お仲間?」

 

アリスしか見ていなかった女は俺のほうを見つめて威圧してくる。

おおぉぉ、怖っ!!

アリスぅ、頼むよ、俺のことはうまいこと誤魔化してくれぇ…………!!

 

「えぇ、そうよ。私では貴女を倒すには勿体無いからね。ちょうどいい相手を連れてきてやったわ。そこらへんの、弾幕の撃てない獣人を」

 

ちょ、待て、最悪!!全部言ったこいつ!!

あと、なんでこんな明らかにヤバそうなやつを挑発するんだアリス!!

 

「───────そう……………なら、両方とも殺してくれってことね……………」

 

挑発に乗ってるのかな、気にしてないのかな?感情薄すぎてぜんぜんわかんねぇ!

 

「フフフフ──────なら、お望み通り両方とも呪い殺してあげる」

 

いや、なんか急に怖ッッッッ!!!

少女は笑顔ですらない邪悪な真顔を向けると、再度五寸釘を投げてきた。さっきよりも数が多い。凌ぎきれるか…………?

 

「───────そんなの無理よ」

 

アリスが手を突き出すと、大きな盾を構えた人形たちが一斉にアリスの前に集合して、五寸釘の投擲を片っ端から無効化していく。

小さい人形、大きな力。さっきの木のバケモノを楽にやっつけたところを見たので、もう俺に心配はない。

アリスがいれば絶対に負けることはない…………!!

 

「───────ふっ」

 

人形が攻撃を防いでいる中、飛来する五寸釘を躱しながら少女に突撃していく剣を持った人形たち。

大木を貫くほどの攻撃が人間に突撃してくれば、一溜りもないはずだ。

盾の人形の制御で精一杯だからか、少女に突撃していった人形は3体のみ。

大剣を持った人形とランスを担いだ人形、そしてダガーを持った人形。

しかし、小柄な女の子一人仕留めるには十分すぎる戦力。人形一体一体の戦力は人間の成人男性よりも上だ。勝てる、ただでさえ強い人形たちが数集まればまさに無敵だ。これならやれる!!

 

「鬱陶しい……………近付かないで、殺すわよ」

 

心底嫌々そうに少女が着物の内側から、なにかを取り出す。

 

「トンカチ!?」

 

どこにでもある、何の変哲もない金槌だった。

少女は何の変哲もない五寸釘を叩く、何の変哲もない金槌を取り出した!

そんな装備で大丈夫か………?

そんな軽装だろうとお構い無しに正面から少女の元へと迫ってくる人形たち。

それを──────

 

「ふっ…………!!」

 

少女は跳ね返してしまった。トンカチで。

武器を持って目に留まらぬ速度で突撃してくる、手のひらサイズの人形たちをトンカチで弾き返すという人並み外れた離れ業。

動体視力どうなってるんだ。てゆーか、力強ッ!?

大木を貫く渾身の一撃だぞ…………!?

 

 

「─────なるほど…………」

 

アリスが不愉快そうな態度を出す。

まさか、焦っている…………?押されているのか?あのアリスが…………?

それでもアリスは引き続き攻撃を続ける。離れていればアリスの勝利は揺るがない。弾かれたとて、何度も攻撃していればいつかは当たる。

死角から。避けたその先から。弾いた隙を突いて。

自分なりに工夫しながらアリスは3体の人形で攻撃していくがまったく当たる気配がしない。

どのような死角からの攻撃も回避し、避けた先を狙った突撃も弾き返し、その隙を突いた一撃も軽くいなしてしまう。

そして、この瞬間に、勝負の優劣が一気に揺らぐ。

 

(ころ)してやるわ、」

 

3体の人形が同時に正三角形状に、それぞれの頂点、すなわち60度ごとの角度からの同時攻撃。

1点を見れば残り2点はすべて死角。その、不可避の攻撃は鮮やかなバック宙で避けられる。

 

「──────う……………くっ!」

 

今のにすべてを賭けたのか、アリスの頬に冷や汗が滲む。

 

「えぇぇぇぇ!!避けた!?」

 

俺は目をひんむいて驚いた。

身のこなしまで冴えている、なんなんだ、この相手は!?

 

「………………さよなら」

 

突撃を外した人形たちに大きな隙が生まれる。もちろん、相手もその硬直を逃す筈がなかった。

少女がバック宙を解いて、空中から絶対に逃がすかと五寸釘を投擲。

この世で最も美しい図形である正三角形の、3つの頂点から中心へと突撃した人形ならば、外した後の軌道も綺麗な図形になるのは道理。

そこに寸分違わず細い五寸釘を投げつけるには、少女にとっては容易いことだった。

投げた五寸釘が人形たちに突き刺さる。

 

 

─────しかし、相手は忘れている。

 

相手は生きたように複雑に動く人形だが、それは所詮人形。生きてなどいない。この無機物を操作するのはアリス。アリスが素晴らしい手付きで人間らしく生きたような動作をさせているだけであって、人形を串刺しにしたところでなんの意味もない。

これが、人形師の特徴。本人に近付かない限り、絶対に有利不利は揺らがない。

まだアリスのターンは終わらない。

 

 

 

 

 

──────俺もアリスも、そう思っていた。

 

 

 

 

 

「無駄──────!!」

 

人形が釘に打たれても、なおアリスは攻撃を止めない。

人形は変わらずさっきと同じように、問題なく操れている。ならばこのまま攻撃を続けることに支障はない。

しかし──────

 

「──────ねぇ、貴女」

 

少女が呟く。

 

「……………それが、ただの釘だとでも思った?」

 

右手にトンカチを握る少女が左手からとんでもないモノを取り出した。

それは、遠くからでもわかる。

茶色い藁で編まれた、藁人形!!

 

俺たちが藁人形を認識したと同時に、藁人形が怪しい紫色の光を放つ。

俺が彼女から感じていた恐怖にも似た気配の正体はこれか!!

アレは間違いない、「呪い」だ!!

 

「……………同じ人形師として、人形の特性ぐらい、百も承知よ」

 

藁人形が紫色に禍々しく光ると同時に、アリスの人形たちに刺さっていた五寸釘も紫色の光を伴って薄く陽炎のようにゆらゆらと揺らいで消滅する。

いや、浸透していく…………?

 

「残念ね。私の弾幕は、一度当たっただけですぐには死なない。けれど、」

 

藁人形が三つに増える。

三つ……………釘が刺さったアリスの人形の数と同じだ!!

 

「ちょ、貴女まさか─────」

 

「こうすれば……………たとえ一発であろうと、【何処に当たっても】確実に死ぬ」

 

藁人形が中空に浮く。頭、両腕、両足。人の形を単調に表したまるで土偶のように単調なその記号の如し藁人形の中心に、少女の釘が向けられる。

 

「──────しまった………!!」

 

アリスは大急ぎで切り返す。

人形たちを一斉に少女の元へと突撃させるが、もう遅い。

 

「───────死ね、人形共」

 

中空に浮かせた釘をトンカチで叩く。

物凄い速度で飛んでいく三つの五寸釘は、一秒もない刹那のうちに、三体の藁人形の中心…………人間でいえば胸にあたる部分を勢いよく貫いた。

次の瞬間──────

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

少女に襲い掛かった人形たちが、服の内側から数えきれないほどの棘を生やしてしまった。

そして、制御を失い、内綿を撒き散らしながら地面に落ちた。

死ね、という一言から、二秒もなかった。

藁人形が釘に貫かれたら、ノータイムでアリスの人形たちが撃墜された。

 

「あ────────」

 

「は……………?」

 

え、今……………

ベタかもしれないが、状況の整理が全くつかない俺、これだけは言いたかった。

 

「え、何が起きたの?」

 

地面には、胸を貫かれて元のカタチを失った三体の人形と、胸に大穴を開けた三体の藁人形が転がっていた。

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