東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

2 / 161
里まで続け、貴公(きみ)(えにし)

 

「うわ、眩し!!」

 

俺は朝の光を目に食らって飛び起きた。

目が痛い、というか、背中が痛い。

昨日、感傷に浸ってそのまま布団にも潜らずに眠ってしまったのか。

 

「あいたたた…………なんだよ…………」

 

痛い、めっちゃ痛い。

ちゃんとこれからは絶対に体勢を整えてから眠ろう。

 

「ふぅ…………どうしようかな」

 

とりあえず朝飯は目の前のちゃぶ台に置いてあった胡瓜。

 

 

 

食べ終わってから、俺は家をうろうろする。

家を一月も開けていたからね。もしかしたら空き巣に遭ったかもしれないから大事な持ち物が失われていないか確認するが、途中でやめた。

こんな貧乏宿から盗むような泥棒なんかいないって。

泥棒してくださいと言わんばかりのこの家でほんとうに盗みを働くなら相当頭の悪い泥棒だろう。そんなやつは2日後に捕まっているだろう。

お金さえ盗まれていなければあとは好きにしてくれればいい。

この家、貧乏すぎてゴミ屋敷にすらならないんだからね。俺が綺麗好きっていうのもあるんだけど。

…………まぁ、目に見える家具が消えてなければそれでいい。一月も空けるわけだから食べ物なんかないし、調味料とか持っていかれてもたぶん俺、気付かない。

 

えーと、まずは郵便受けに溜まった文々。新聞を回収するのと、それから買い出しに行かないと今、食べ物の貯蔵がない。

ついでに店も再開しないといけない。

 

「一つずつやっていこう」

 

腹が減っては戦ができぬ、とはよく言う。まずは郵便受けとご飯の買い出しだ。

明日を生きるために働かないといけないけど、今日を生きるためのご飯がなければ元も子もない。

とりあえず、買い物すべく街に出よう。

 

 

 

「あ、これもあるのか……………」

 

郵便受けを開けてみたら、チラシや新聞の山に紛れて一枚だけ文書が袋に入って丁寧に入っていた。

中身は…………なるほど、阿求さんからだ。

ふむふむ、記録の中に不備があったから、書き換えするのか。

はいはい、お安い御用だ。相手が稗田家となると話は変わる。これは責任重大だぞ。

 

 

 

机の上に、大きな巻を広げる。

 

「うわ…………やっぱすごいな」

 

阿求さんこれ一人でやってるのか?

一回でもどこかで書き損じてしまったら萎えてしまうよこんなの。

 

「不備があるのは……………ふむふむ、ここかな?」

 

はぁ…………はぁ…………うん。なるほどね。よし、だいたいわかった。

しかし、これ朝からやるのか。

 

「えーと…………」

 

障子、襖すべてを閉めて、太陽の光が入らないようにする。

別に理由はないが、太陽の光があると気が散って【作業】に集中できない。

 

「──────ふぅ」

 

引き出しから筆を出す。右手に持つ。

(すずり)に墨を作り、そこに浸した筆を握り、正確に巻物目掛けてゆっくりとかざす。

ここが大事。ここをミスってしまうと作業は台無し。依頼失敗だ。もちろん、そんなことは決して許されない、まして阿求さんの果てしない苦労を無碍にするわけにはいかない。

逆に、ここを乗り切ればあとは簡単だ。

全ての集中力をここに費やす。

 

依頼書には目を通してあるから、どこを【変えたら】いいのかわかる。

だが、1ミリのズレも許されない。ミスをしてしまえば注文どおりにならないし、何より、土台となる紙が駄目になってしまう。後世に遺すべき記録を傷めてしまうなど、あってはならない。

俺の作業に幻想郷の未来が関わっていると思え。

 

 

 

「ふぅ…………書き換え完了…………と」

 

筆の穂先を置いた瞬間に、巻物に書いてあった文字が別の字に置き換わる。

なんとか上手く行ったようだ。

紙も傷んでない。字体も阿求さんのものにそっくりだ。

 

「よし、上出来だね」

 

巻物を丁寧に巻いて、袋の中に仕舞う。

よし、これを稗田邸に持っていこう。

 

 

 

 

 

…………今のは、俺の生まれつきの能力、「文字を書き換える程度の能力」。

 

その名の通り、文書や文献、看板。その他あらゆる物に書いてあるあらゆる文字を書き換える能力。

外の世界由来の文献の翻訳などの依頼が香霖堂からよく寄せられる。

その他にも、看板の誤字脱字の修正など、基本的に文書の修正、翻訳、改訂が主な依頼だ。

ここは道具屋だが、正確なニュアンスとしては民間書士の方が近いかもしれない。

もちろん、道具屋として、香霖堂のヘンテコなもの以外なら道具を直したりもできる。

 

別に、驚かれるほどの能力でもないけどね。俺の故郷には能力者しかいないし。

 

 

 

「……………………?」

 

コンコン、と扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「は~い」

 

玄関の扉を開ける。

 

 

 

「よう、帰ってきたって永遠亭のから聞いたよ。挨拶にし来たぜ」

 

出てきたのは、長い銀髪、赤いモンペ、お札みたいなリボンが特徴の美人だった。

その姿、見間違うはずもない。

 

「も、妹紅!?」

 

まさか、藤原妹紅(ふじわらのもこう)が直接俺の家を訪れてくるとは思ってもいなかった。

 

「珍しいね、竹林から出てくるなんて。しかも、俺のとこにわざわざ来るってどういう風の吹きまわしなんだ?」

 

「せっかく来てやったのに、ひどい言い方するんだなぁ。私だって、できれば竹林からは極力出たくなかったんだよ。挨拶するならそっちからでもいいのに」

 

妹紅は不満そうな表情をする。

あんまりこの人のことには詳しくないが、なにかと知らぬうちに仲良くなった。

ある日、とあるモノを回収するために迷いの竹林に侵入した時、迷子になってしまった。そのときに助けてくれたのがこの妹紅だったのだ。

彼女は、竹林で迷った人を案内してあげたり、自警団のような立場で人々を守ってくれている、スーパーヒーローみたいな存在なのだ。

モンペ姿に銀髪、その珍しい出で立ちは子供の俺だったら憧れてしまっていただろう。

それから何度も竹林に入ってその度に迷子になるものだから、いい加減に妹紅がキレてしまい、危うく殺されかけた。

 

「二度と竹林に来るな、って言ったのは妹紅だろう?あんなに派手に弾幕ぶちかまされて、ホントに熱かったんだからね」

 

「うるさいなぁ。こっちだって、死なないように加減してやったのに、そっちが本気出してくるから、危うく死ぬところだったんだよ」

 

死ねるのならあんた本望でしょ、と言いかけたけど大型地雷ワードなので伏せておいた。言ってしまったら本気で殺される。

 

「…………ったく、女相手にヤケな男だよなぁ、お前」

 

妹紅が綺麗な頭をかきむしる。

 

「そりゃそうだよ。自分より100倍も長く生きた相手に加減してる場合じゃなかったんだもん。それで?挨拶以外ホントになにもなしなの?」

 

「そうだけど文句あるのかよ。なにかモノくれってか?残念だけど、なんにもくれてやるもんは持ってないよ」

 

「そっか、別になんでもいいけど」

 

どんだけ義理に厚いんだよこの人。

マジで挨拶するためだけに来たのか。

ご飯食べに来たとか、そういうわけでもなし?

 

「ところで、そんな大荷物、どうしたんだ?」

 

「急に話題変えるんだね。…………稗田家宛の荷物だよ。これから渡しに行くんだ」

 

「手渡し?運送使わないの?」

 

「まぁ、うん」

 

あのねぇ、こういう正式なモノは普通手渡しするもんだよ……………

 

「よっし、じゃあ付き合ってやる。お前と話せるのも久しぶりだしな」

 

「別にいいよ。妹紅も忙しいだろ?」

 

「付いていく、つってるだろ。私は良いから早く行こうぜ」

 

「はぁ、はいはい、わかりましたよ」

 

まぁ…………なんだ、いい人だよなぁ、この人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、妹紅は稗田邸の門まで来たら「待ってる」とか言い出したもんだから、結局俺一人が渡した。

 

「渡し終わったか?」

 

「うん、バッチリ。阿求さんからお礼にお菓子貰ったよ、妹紅もいる?」

 

「当たり前だ。同伴したんだからな」

 

当たり前…………?

言うが早いか、妹紅は白い手を伸ばすと紙袋からお饅頭を二つ程かっぱらっていった。

 

「最初からこれが狙いだったんだろう」

 

バレた? と妹紅は悪戯な笑みを浮かべる。

まったく…………数少ない報酬がおしゃべりしに来た相手に取られるなんて。

まぁ、いいけど。

 

「しかしお前、ほんと怒らないよなぁ」

 

「それに比べて君はすぐ怒るよなぁ…………俺だって、怒る時は怒るよ。ま、そんな事はとうぶんないんだろうけどね。俺、基本的になにかあっても気にしないから」

 

「心が広い、というか寛容なんだな。尊敬するなぁ、私は気にくわないことがあったらすぐに気を損ねるからな」

 

なんか、妹紅みたいな人生経験豊富な美人に真っ直ぐそう言われると照れるな。

 

 

 

「─────いてっ!!」

 

突然、頭に衝撃を感じた。

 

「っと、オオバ、大丈夫か?」

 

「大丈夫…………なんだ…………(まり)か?」

 

地面に鞠が落ちていた。

 

「あー、ごめんなさーい」

 

そしたら、向こうから二人組の子供たちがやってきた。

どうやら、鞠で遊んでいたら俺に鞠が直撃したみたいだ。

 

「はい、鞠だよ。元気なのはいいけど、気をつけてね。危うく、大きなたんこぶできるところだったよ」

 

「ありがとう~!」

 

子供たちはきゃっきゃと笑いながら帰っていった。

 

「──────この辺りに子供って住んでたんだ」

 

俺もさすがに家の周囲のことは把握している。この辺ではあんなに小さい子供はあまり見ないはずなんだけど…………

 

「そうなのか?寺子屋が近いから、てっきり多くの子供が住んでいるのかと思ったよ」

 

妹紅はぽつりと呟いた。

 

「─────え?テラコヤ?」

 

寺子屋!?初めて聞いたぞそんなの。

 

「知らないのか?いや、知ってるわけないよな。…………実は、お前が家空けている間に、あそこの外れに寺子屋ができたんだよ」

 

「そうなんだ。てか、なんで妹紅がそんなこと知ってるの?」

 

ここ、妹紅に縁がない土地でしょ。

 

「あそこの寺子屋を開いているのは、私の友人なんだ」

 

「へぇ、妹紅、人里に友達いたんだ」

 

「あのなぁ、私にだって友達の一人や二人いるんだよ…………」

 

まぁ、確かにそうだな。

 

「なるほど男かぁ…………妹紅もスミに置けないね」

 

「女だよ、やんのか?」

 

妹紅が口から火花を出す。

 

「ごめんごめん、冗談だよ」

 

ここで弾幕勝負だけはやめてくれ。

妹紅とやる弾幕はごっことかじゃ済まされない。

 

「けれど意外だね」

 

「何がだ?」

 

「妹紅の友達が寺子屋教師って、なんか、意外だ。もっとこう、ワイルドな友達かと思っていたら、清楚な感じの人と仲良いんだね」

 

「清楚…………かどうかはわからないぞ、アレは相当堅苦しいやつだよ。だが、凄くいいヤツだよ。お前なら、あいつともすぐに仲良くなれそうだな。なんてったって…………」

 

妹紅は息を大きく吸って、

 

「そいつは、ワーハクタクなんだからな」

 

……………と言った。

 

「──────マジで?」

 

妹紅と親友の寺子屋教師…………会ってみたいなぁ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。