東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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遠く未来の話

 

《かなり遠くの未来の話》

 

 

「ちょ、やめ…………ぐはぁっ!!」

 

人間の里の夜道のど真ん中。

人が寝静まった夜とはいえ、昼間は通行人であふれるこの道で、通り魔が発生した。

 

「あ…………あ…………やめてくれ…………この子だけは…………!!」

 

男性が血まみれになりながらも、子供を抱き締めている。いや、庇っている。

 

「その子供が、どうかしたってのか?」

 

「この子供は、寺子屋に入ってから大きく変わったんだ。前まで誰とも話していなかったのに。それが、やっとおしゃべりさんになって、友達もたくさんできて…………この子の人生はこれか…………」

 

「黙れ、寺子屋(ボロ小屋)がどうした?」

 

「うっ……………どうして……………こんなことに……………」

 

「ふん、自分達にとって都合の良いことばかりを学んで、過去の過ちを一切伝え遺さないクソみたいなボロ小屋で学んだくせに、量子力学も分からないのか。ならば教授しよう、なぜお前らがここで俺に殺されなければならないのか。簡単なことだ、【運が無いから】だよ」

 

男はそのまま手にした西洋刀を振り上げる。

両方に刃のついたその剣が振り下ろされるその刹那。

その凶刃は横からの攻撃で弾かれた。

 

「──────誰だ、お前らは」

 

静かな怒りを込めた対応にも屈せず、男の前に二人の女が親子を守るように立ちふさがる。

 

「先に行っててください!早く!」

 

一人は銀髪の背の低い、刀を持った少女。

 

「ここは私たちが食い止めますから、早く逃げて!」

 

もう一人は兎の耳が生えた、紫毛の少女。

二人が庇ってくれている隙に、親子は大急ぎで逃げる。

 

「運の話をしている最中に、部外者の助けで九死に一生かよ。空気読むの下手クソだな、お前ら。伝統と歴史で編まれた人間の里に似つかわしくない洋服を着ているような女はだいたい危険だ、とは小耳に挟む程度には聞いていたが。本当に無粋な野蛮人ばかりだな」

 

順手に持っていた剣を逆手に構えて男は女たちの方を見つめる。刀の少女が持つ太刀にも及ぶ長さの西洋刀を逆手に持って構えるとは、何か特別な流派を持っているようだ。

男の標的は完全に少女たちの方に変わった。

 

「さぁ、武器を置いて手を挙げなさい」

 

「抵抗するなら、こちらも強行な手段を取りますよ」

 

指鉄砲と刀が構えられる。

意思表示としては十分な威圧。

 

「俺が、そんな話に乗るとでも?」

 

男はそれを軽く受け流す。

 

「思いません、けど、私たちは貴方をまだ信じているから」

 

「どうしてこんなことをしたんですか」

 

どうやら、この二人はこの男のことを知っているようだ。

 

「─────兎の獣人か、初めて見たな。そっちの小さいのも、人間とは別の種族の気配がする」

 

「────私のことを忘れたんですか?」

 

兎の少女が表情を変えずとも、声色だけ変える。

 

「少なくとも、人生、兎の知り合いなんて居ないな。しかし、俺の前に恐れもせず、か。中々な蛮勇だな。どうやらこういうことは珍しくない、相当場数は踏んでいる精鋭のようだな」

 

「…………………………………」

 

「だが、お前たちがどんな相手とやり合ってきたのかはともかく俺をそこら辺のものと一緒にされては困る」

 

三度笠の男は西洋刀を構えたまま、立ち尽くす。

どうやら、向こうから来ない限り、戦う意思はないようだ。

 

「いいえ、貴方の能力は、私たちなら知っている。貴方はこうなると、勝てなくなるはずです」

 

「ほう。どういう事だ、俺の能力なんて何処で知った?」

 

「貴方の自己申告です。その能力は、通常の弾幕には適応されない」

 

「──────ふむ。弾幕か。なんだ、接近戦よりも遠距離戦の方が好みか?」

 

三度笠の剣士はゆっくりと刀を握っていない左手を挙げる。

すると、空中に刀が出現してきた。

 

「────────な、」

 

その全てが、緑色の光を帯びていて、その切っ先を少女たちに向けている。

─────それは、間違いない。

戦闘開始の合図だった。

 

「させない─────!!」

 

兎の少女が常人の目に留まらない、消えるような俊足で疾走を始める。

あっという間に男との間合いを詰めきった。

 

「───────────」

 

そこへ叩きつけられる、逆手に持った西洋刀の一振。フックを当てるように繰り出された、遠心力を主動力とした高速の刃は、

 

「ふっ!!」

 

高速の、革靴の蹴りで弾かれる。

勝った。この距離で攻撃を無効化できれば、相手より早く弾丸を撃ち込めば勝てる。

 

「遅い、脆い…………何より、甘い」

 

だが。

それを狙っていたかのように、男は焦りも一切見せずに剣の鞘で真正面からやってきた兎の少女を殴り付けた。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

あまりの勢いか、ド派手な砂嵐を撒き散らしながら遥か彼方へと転がっていく兎の少女。

ずっと向こうにある蔵に直撃したことで塵の爆発が起こる。

 

「鈴仙さん─────!!!」

 

銀髪の少女が慌てて青年に背を向けて蔵の方向へと走り出す。

 

「待て」

 

空中で独りでに待機していた4本の刀が、青年が左手を出すと同時に矢のように放たれる。

 

「うっ…………!!!」

 

慌てて振り返る銀髪の少女。

最初の三発は刀で弾けたが、4発目が刀とぶつかり合うと、後ろにのけぞって尻餅をついてしまった。

 

「─────小さいから軽い、ってのは物の道理だな。ま、体格の割には良い怪力じゃないか、アンタ」

 

青年は持っていた剣を順手に構える。

 

「くっ────────」

 

「流派は教えない。なんせ、公式な流派名もないんだからな」

 

「弾幕が…………使える…………!?」

 

「何のこと言ってるんだ。意味はわからないが、とりあえず今どきは男も女もその弾幕ってのをする時代だったりするんじゃないか?俺もビリヤード得意だし」

 

なんか急にお茶目な余談を挟んだ直後、

直立したまま予備動作も見せずに青年は一瞬で少女の間合いへと踏み込んできた。

 

(速い…………………!!!)

 

少女は慌てて刀を握り直し、背中に差したものを加えた2本の刀で応戦する。

武器の数は2倍なのにも関わらず、少女は一方的に防戦の立場。

相手の動きが早すぎて、重い刀を振り回すには時間の余裕が無さすぎる。

高速で振り回される相手の刃に対して、少女は一撃の度に片足一歩ずつ、徐々に後退しながら攻撃を防ぐことしかできない。

 

「日頃から真面目に鍛練はしているようだが、剣を取って半年の俺に()されるのは些か実力不足が過ぎないか?」

 

左手で少女の太刀を握る右手を掴むと、剣の柄で二の腕を殴り付ける。

 

「しまっ…………!?」

 

太刀が地面に転がる。

もちろん相手はその隙を逃さない。

 

「出直せ─────!!!」

 

急激な回転と共に、地面を這うように迸る刃。

少女の膝下を払うように放たれる一閃。

先ほどまで袈裟に振り回された刃が急に足下を狙えば、躱すことはかなわないだろう。

だが、少女も少女で、伊達に剣を振っていたわけではない。窮地において冷静を欠かないことこそ、剣士の本質。

 

「──────はぁぁぁっ!!!」

 

足下を薙ぎ払う死の鋼を跳躍で躱した。

更に、残った2本目の刃を両手で握り、真下にいる相手を睨み付ける。

勝機はここに有り。

脳天から股下へと一直線にまっすぐ刀を振り下ろすだけ。

死ぬかもしれないが、この相手を生かすのもどうかというところ。

やらなければ死ぬ。ならば、やるしかない。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

隕石を落とすように振り下ろされる刃。

 

「─────輝火土(カグツチ)

 

しかし、その攻撃は─────

 

青年は瞬間的に、順手に持っていた剣を逆手に持ち変え、身体を斜めに傾ける。

前傾姿勢に構え、右足で蹴り込む。

そして、逆手に剣を持つ右腕を虹の橋を描くように振りかぶる。

 

「ぜぇぇぇぇぇぇぇいッッッ!!!」

 

空色の軌跡を描くその剣が、上空から全重力を掛けた少女の必殺の一撃を防いだばかりか、弾き飛ばしてしまった。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

家の高さほどの跳躍から剣を振り下ろした少女は、里全体を一望できるほどの高さまで打ち上げられ、真っ逆さまに地面に打ち付けられた。

 

「か──────はッ……………!!!」

 

これでも実力者。咄嗟の判断で受け身を取れたが、流石に高度が高すぎた。

剣を握る体力ごと失われ、残り一人も再起不能に陥る。

 

「僅か半年、されど半年。常人が剣を握るには十分すぎる歳月だ。素人と侮ったな、小人」

 

「うっ……………………」

 

「……………あまりの衝撃で刃こぼれを起こしているな。そちらもそちらで、大したもんだ。今の、普通はそっちの剣だけが折れるはずなんだが、形を保っているばかりかこちらの剣にも衝撃を与えたのか」

 

お気に入りなのか、青年は西洋刀を残念そうに見つめる。

かといって別に表情は見えないままだし、感情や声質も変えずに、そのまま少女の元へと向かう。

 

「──────と、思ったら」

 

青年は西洋刀を鞘に仕舞う。

 

「チッ、世の中上手いこと出来ているもんだ。なんで悪者が正義の味方を追い詰めた時に限ってこうも新たな助けが雨水みてぇに降ってくるかな。流石に巫女さんと賢者様の相手まではしていられない。【一気に倒してしまったら】バチが当たりそうだからな」

 

ズレかけた三度笠を直して、青年はゆっくりと家屋の間の路地に入って撤収する。

 

「うっ……………くっ……………」

 

追い付こうとするが、少女はもう歩く体力も立ち上がる余力もない。

自分よりもずっと背の高い男を相手にしたとはいえ、剣を学んで僅か半年の相手に圧倒的な敗北を期したのだ。

 

「大丈夫、妖夢?」

 

赤い服を着た巫女と、紫色の服を着た女が現場に合流してくる。

 

「いえ、全く…………歩けません…………」

 

「無理は良くないわ。しばらく動かずに休みなさい」

 

巫女は背中にさっき吹っ飛ばされて気絶した兎がおぶっていた。

その状態で怪我の程度を確かめている。

 

「紫、近くに何か居る?」

 

「つい数秒前までは居たみたいだけど、もうどこかへ行ってしまったみたいね」

 

「ちくしょう、【また】逃げられたわ…………」

 

八つ当たりに地面を軽く殴り付ける巫女。

 

「霊夢さんも、あの男性を、追っているんですか?」

 

「まぁね。今頃、里の誰もが捕まえようと頑張っているわ。三度笠を被り、西洋刀を逆手に持ち、夜道を歩く人間を誰彼構わずその剣で斬り殺す……………」

 

「人間以外の種族全員を見逃すところを見るに、明らかに快楽殺人犯ではないわ。人間を斬ることだけを目的とした犯行、」

 

「ついに尻尾を出したのよ、今回の、獣人の山賊の件における、組織の最強戦力が」

 

「最強……………?」

 

「つまり、山賊側はもうかなり追い詰められているということ。ずっと眠らせていた獅子を放つなんて、いよいよこの【百獣夜行異変】も大詰めね」

 

「だから、私と紫が嫌々手を組んでその最強戦力を叩いてしまおうって話なのよ」

 

「あら?私は楽しいわよ、貴女と共闘するなんて久しぶりだから」

 

「こっちは全然嬉しくないわよ─────それはそれとして。とにかく、あの三度笠の剣士の存在は、もう私たち全員が認知しているし、焦っているわ。慧音や妹紅も頭を悩ませている。まさか、こんなところでこんな武装蜂起をしてくるなんて、誰も思わないもの。「弾幕は使えない」と自己申告しておいて、まさか最後の最後でこんなド派手な裏切りをするなんて。刀を飛ばしてくる弾幕なんて物騒すぎるわよ、弾幕ごっこもへったくれもない」

 

「そこで、私と霊夢はあの剣士を今回の騒動の最大の危険人物として最善の処置を取ることを決意したわ。敵は三度笠の西洋剣使い。通り名を────」

 

 

 

 

 

賢者は真剣な表情で、剣士の二つ名を呟く。

 

 

 

 

 

「人斬り準白沢(ワーハクタク)…………」

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