東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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すんげぇヤベ~女

 

──────9月21日、朝。

 

 

 

「暇だなぁ」

 

俺は店の頭で花札をシャッフルしながら暇をもて余す。

 

 

 

(──────今日はこれでお開きにしましょう。青葉は怪我をしたし、私も心の整理がつかないこんな状態で、まともに梓と戦える気がしないわ)

 

 

 

アリスがそう言って、昨日はなんの収穫もなく終わってしまったのだ。

帰りにメディスンから人形を20体ほど託され、持ち帰ってきたものが店の正面にある棚の中で大事に保管されてある。

 

「アズサ…………………か」

 

アズサとは植物の名前なのだけど、実はアズサに該当する植物は二種類ある。

葛の仲間であるキササゲとカバノキの仲間であるミズメ。

梓という花は実質ないようなものであり、花言葉や誕生花としても存在していない。

まぁ、「名も意味もない花」というヤツだ。

名前につけるならどんな意味かな。まぁ、ミズメみたいにすくすく育つように~とかかなぁ。

名前の可愛い語感とは裏腹にかなり危なっかしい相手だったけど。

なんだか、何かに脅えているような印象があった。戦闘力的には俺たちなんて敵じゃないのに、なにか焦っているというか、全力だったというか、必死だったというか。

棚の縁で揺れている壺みたいな、危なっかしい印象を持っていた。

 

「───────これ面白いのかな」

 

机に置いてソレを見つめる。

先ほど、久しぶりの新規客がやってきてくれて、漂着物を売り払ってくれた。

それがこのポケットサイズの謎の機械。

白いフレームに画面のようなものがついており、何に使うのかわからないボタンが複数用意されている。

霖之助(こーりん)に使い方を調べて貰った所、どうやらこれは外の世界における娯楽の一種として知られている「携帯型ゲーム機」というモノらしい。

こーりんはモノの記憶を辿ることで名前と用途を知ることができる能力がある。道具屋としては向こうの方が先達であり、両方とも道具屋として全然活躍できない者どうし、なんか意気投合してしまう。

ほら、俺たちって両方とも少女共の勝手事に振り回される残念な男子枠だし。

今では「こーりん」、「オオバ」で呼び合う仲。

 

このお店で取り扱っているのは漂着物、不要品、中古品など。基本的に新品のモノは置いていない。

ただ品揃え自体は豊富であり、もう少しお店の外見を目立ちやすくすれば客も増えるだろうとは思うけれどね。

外の世界から流れてきた貴重な置物や絵画も置いてあるから、刺さる人には刺さると思うんだけど。

慧音さんとか外の歴史に興味ありそうだし高値で買い取ってくれそ……………っと、あんまり賤しいこと考えちゃいけないか。

 

「────────ん?」

 

ガタン、と大きな音がしたな。

店のモノが落ちたのかな。

仕方なく椅子から立って、音のした方向へ向かう。

音はこれか。人形を飾っていた棚だ。

 

「───────あ!」

 

人形が二体消えている。いつの間に?

 

「───────泥棒か!!」

 

俺の方を見ながら全速力で逃亡していく二人の男を見つけた。

運が悪かったな。こっちは今一番、泥棒に厳しい対応をする立場なんでね。

申し訳ないけれど、おとなしく捕まってもらうぞ!

 

「おぉっと、そうだ戸締まり戸締まり」

 

囮にしているうちに店に別のやつが入ってくる可能性もあるし、またお菓子食われたら終わりだし。

しっかりと鍵を締めて俺は大急ぎで泥棒二人組を追いかけ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、逃げ足だけは……………」

 

こんなところまで来てしまった。

なにここ、向日葵畑?向日葵がたくさん咲いている。え?向日葵の時期じゃなくないか今。

まぁ、いいや。それにしても、こんな人気の無いところまで来てしまったら、さすがにもう追い付けないかな。

メディスンならわかるかな、人形の位置情報とか。

え、そんなに便利じゃないって?そうか……………

 

「……………ん」

 

あれ、ここだけ向日葵の茎が折れている。

明らかに人が雑に通った痕だ。いるとしたらここの先かな。

 

「頼むから追い付けますように」

 

向日葵の茎をこれ以上踏まないように先を急ぐ。

くっ、向日葵が多すぎて通りづらい。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「え?」

 

なにか、向こうから悲鳴が聞こえたような。

大急ぎで一面の向日葵畑の間にできた細い道を進む。

 

「いだい、いだいぃぃぃぃッ!!!」

 

え?どういうこと?

 

「ほら、働け働け~。働かざる者食うべからず、犬は犬らしく働けば餌やるから、さっさとそこのもやっつけちゃいなさい」

 

──────そこには。

首輪を付けられた男二人が、俺が追っていた泥棒二人を、持っている混紡でボコボコにしている光景が。

 

「いやいや、わからんわからん」

 

どういう状況?

男たちが首輪つけられているのも頭おかしいし、泥棒たちがこんなところでボコボコにされてるのもおかしいし、そもそも……………

 

「──────使えないわね、もう私がぶん殴ってやる」

 

知らない男たちにかけられていた首輪から生えているロープのその先には、

楽しそうに日傘で泥棒たちを蹂躙していく、一人の女性の姿が…………!!

 

「ちょ、やめてあげて!?」

 

よくわかんないけどなんか可哀想だからやめてあげて!?

別に泥棒を擁護するとかそういう意味じゃなくて、なんかやめてあげて!?

 

「あら、残党が残っていたようね」

 

女は俺の方を向いて言う。

草色の綺麗な髪に、白いシャツと赤い格子模様のベストとスカート。

いかにも令嬢といった雰囲気を醸し出す一方で、鮮やかであれ華やかであれども消せない狂気のようなものがある。

まぁ、男を首輪に繋いで飼っている時点でもうとっくにやべぇ女なんだけどね。

 

「ちょ、説明して?どういう状況!?なに、特殊なアレでお楽しみ中?」

 

─────上手いこと包み隠すような言い方が思い付かないからストレートに言わせて貰うけどさ。

 

 

 

………………………それ、どういうプレイ?

 

 

 

「何って、向日葵の茎を折った連中の骨を折っているだけだけど、なにか?」

 

あー、やべぇ女だった。

 

「何かも何も、まずいってそれは!それ以上やったら死んじゃうかもしれないじゃん!」

 

「あれっ、死んじゃダメ?」

 

マジでやべぇって、この女!!

 

「断りもなくうちの花畑(シマ)を荒らしたのだから、万死に値するのは当然。むしろまだ死なない程度にしているだけ名誉なことよ。この首輪かけているバカ共も、同罪で昨日取っ捕まえてボコボコにしてやった連中なんだから」

 

「あっ、君のナワバリ荒らしたら首輪つけて飼われるんだね」

 

普通、逆じゃないかな?慈悲を与えるなら普通は瞬殺するもんじゃない?

 

「見たところ、貴方もこのバカのお仲間のようね、歓迎するわ、ようこそ太陽の畑へ。私は風見 幽香(かざみ ゆうか)。ここを私的に見守っている妖怪よ。四季のフラワーマスター、のほうが通りが良いかしら」

 

あー、知らない。

 

「俺は神門青葉。ただの道具屋。そこの泥棒たち、俺の店から物を盗っていったんだ。その犯人たち、俺に渡してくれたら嬉しいんだけど…………」

 

「あら、そう?だとしたらごめんなさい、私の花畑を荒らした犯人でもあるから。それにしても、こんな所までやってくるなんてご苦労様なことね。貴方に犯人を明け渡したら、あっさり逃がしてしまいそうだから受け渡しはお断りさせてもらうわ」

 

俺ってそんなに胡散臭いの?

胡散臭いというか、ザルに思われているの?

 

「それは別にいいけど幽香さん、君やりすぎだよ。もうちょっと手加減というか、慈悲というか。もっとこう、穏便にというか…………なんか、静かに済ませるというか」

 

「まったく…………話が合わないわね。こうなったら、」

 

あっ…………(察し)

この流れは知っているぞ俺。

頼むからやめてくれ、頼むから。ホントにそれだけはやめて。貴女、仮にも令嬢妖怪でしょ?

なら、もっとエレガントに居れないの?

その言葉発したら、君も幻想郷の一般庶民と同等のお馬鹿さんになるだけだよ?

頼むからそれだけはやめて。

 

「弾幕で決着をつける、それしかない」

 

はい出ましたーーーー!!!!

幽香さんも戦闘民族でしたーー!!!!

なんで幻想郷に住んでいる生き物ってどいつもこいつも困ったら全部弾幕で解決しようとしてくる戦闘民族ばっかりなの?

この土地、血気盛んすぎない?

 

「ちなみに言うと。女性相手に手加減、なんて紳士ぶった気遣いは要らないわ。そこらへんの巫女や魔法使いに比べたら一枚上手、私は簡単に倒せるような相手じゃないから。もちろん私も、手加減なんて一切しない。軽傷、重傷、致命傷。死傷すらも何のその。貴方が脆すぎると運悪く死んじゃうかもだけど、それは貴方の責任ってことにさせて貰うから。ほら、レディファーストっていう素敵な言葉があるでしょう?」

 

レディファーストっていうのは外の世界の古い歴史において、まだ女性の社会的地位が低かった時、女性に毒味をさせていたということが起源と言われている(諸説ある)のだけど、それをこの人はわかっていないんじゃないのか……………って思いながら俺はそれを指摘するのを黙っておいた。

ここでうんちく垂れるのは大人じゃあないだろうと思ったからだ。

 

「ほら、構えなさい?貴方のようなヒヨっこでも、その腰から吊るした剣があれば、あるいは私と互角にやりあえるかもしれないわよ?」

 

「刃ついてないんだよコレ。使い方次第」

 

「あらそう。なら、遠慮なく」

 

幽香さんはそういうと、手に息を吹き掛ける。

すると、ピンク色の花びらのようなものが舞い散る。どこから出してきたのだろう。

花吹雪を扱うようななにかしら能力でもあるのだろうか?

それは、俺の目の前まで来た瞬間、

満開の花となって俺の周囲を花の竜巻で埋め尽くした。

 

「げぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

辺り一面の、黄金の向日葵畑はあっという間に花の渦のただ中へと変貌する。

俺以外の姿が見えない。

俺の周囲だけがこの竜巻の中にある。

見た目は美しいが、目眩ましにしては見えなさすぎる。

見えなさすぎて、あちらが強襲するにも見えないんじゃないのか。

 

「いい機会だから覚えておきなさい。何事においても、【綺麗な花には棘がある】ものよ」

 

花の嵐の中に響き渡る妖艶な呟き。

その向こうで、花の女は嗤っていた。

こんな日射しも強くない日に、日傘を満開の花のように開いて、僅かに雲がかった晴天を仰いで。

 

──────絶体絶命、神門青葉。

 

 

 

よくわかんないけど、この女に負けたら絶対にイヤーな目に遭う予感がするんだよなー!!!

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