東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「なんだよ~、行かないのかよ」
心の底から不満そうな表情を見せる妹紅。
「そりゃそうだよ…………寺子屋の授業を邪魔するわけにはいかないからね」
そうか………と納得する妹紅。
「ま、放課後にでも会いにいけばどうだ」
「それもそうだな」
俺だって、ワーハクタクの寺子屋教師には是非ともお会いしたい。
もちろん、夕方になったら会いに行くつもりだ。
まぁ、それまでは里で時間でも潰しておこう。
買い出しに行かないとだし。
「っと…………なにやら騒がしいな」
妹紅が道の先を見て呟く。
「そうだな」
激しく同意する。
向こうに人だかりができている。里の人口はわりと多いが、ここまで集まるのはけっこう珍しい。
良いことでもあったのかな?
…………不吉なことじゃないといいけど。
─────なんて、甘い話は通じないか。
「ドロボー!!」
すごい。ホントにこんなわかりやすい犯行ってあるんだ。
「真っ昼間からなんなんだよ」
顔を抑えて呆れる妹紅。
「平和ボケしすぎて悪さの仕方すら忘れちゃったんだろうね」
「まぁ、ともあれ」
二人で顔を合わせる。こんな状況になったとき、やるべきことは一つに決まっている。
「二手に別れやがったぞ!」
「今日こそ取っ捕まえてやる!」
「あいつら刀持ってるぞ!」
「状況はわかったよ。妹紅はあっちに逃げた方、俺はこっちにくる方を捕まえる」
「わかった」
「気を付けてね?あと、弾幕極力使わないでね?君、弾幕担いだら殺し合いしかできないんだから」
「私だって弾幕ごっこはできるんだよ」
妹紅は屋根に飛び乗って、奥へ逃げていった泥棒たちに灼熱の弾幕を浴びせていく。
────ようし、これから妹紅と一緒に泥棒を捕まえる時は集団行動な。
さて、それはそれとして、こっちはこっちの心配をしていないと。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「どけどけ!!」
「相変わらずバカな連中だな、よし、このままずらかるぜ!」
正面から二人……………か。
俺は妹紅とは違って、弾幕を撃てないから、自分のことで精一杯だ。妹紅の援護には行けないが、まぁ、妹紅が負けるわけないだろう。
よし、行こう。
「さて、止まって貰うぞ」
こっちにやってくる泥棒たちの目の前に立ち塞がる。
「この…………」
足止めを食らう泥棒二人組。
一人は太刀を背負っており、もう一人はドスを持っている。
「ガキがぁぁぁぁ!!!」
突撃してくる。接触まで3,2,1。
「せいやっ!!」
飛んできたドスを鮮やかに躱して、当て身からの背負い投げを食らわせる。
「ぐぇぇぇぇぇぇ!?」
まず一人。
「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」
抜かれた太刀が袈裟に振り下ろされる。
「ふっ!!」
右腕目掛けて右足の蹴り。爪先が二の腕に直撃したせいで緩んだ手から刀がふっとぶ。
「俺に勝ちたかったら、弾幕でも使うんだな」
ふぅ、美鈴さんから教えて貰った護身術、わりとやっていけるもんだ。
だが……………あくまでも迎撃することしか教わっていない。
「くっ…………この野郎…………」
二人が立ち上がって武器を拾い直す。
くっ…………諸事情の都合、この場所では戦えない。
人気のないところで戦わないと取り押さえることまではできない。
仕方ない、原始的だが……………
「こっちだよ~!!」
挑発して無理やり誘導するしかない。
「待ちやがれ!!」
「ブッ殺してやる!」
単純な相手でよかった、冷静な相手だったらそのまま逃げられていたよ。
殺意を持った泥棒二人は俺を追いかけて人気のない狭い場所へ。
彼らにとっては都合がいいだろう、何が起きても周囲にはバレやしないのだから。
……………だが。
「残念だったな、ここは行き止まりなんだよ」
「さぁて、どうなるかわかってるんだろうな?」
「あぁ、追い詰められたな────お前たちが」
──────それは、こちらも同じ条件だ。
「す…………すんませんでした…………」
「謝って済むことじゃないだろ。ていうか、私に謝ってどうするんだよ」
妹紅の弾幕で髪の毛を散々に焼かれた泥棒が土下座しながら命乞いする。
「まったく…………ところで、オオバのやつは上手くやってるのかな」
後ろを振り向く妹紅。
彼女は、建物の間に逃げていく青葉とそれを追いかける二人の泥棒を見た。
「あーあ、馬鹿だなぁ。弾幕もやったことのない素人があいつに勝てるわけないっていうのに」
「ぶちのめしてやるよ!!!」
泥棒たちは二人がかりで一気に俺に飛びかかってきた。
「────頼むから、誰も来ないでくれよ?」
と同時に、俺は被っていた三度笠の縁を握る。
そして、そのまま一気に脱ぎ捨てた。
俺の水色の髪はたちまち
首の後ろで髪を結っていた
そして、三度笠を被っていた頭からは、獣の長い角が生えてくる。
………………日光により、転身が完了。
これにより、ついに解放される。
俺の────────
「──────はぁ……………」
口から吐かれる白い息と同時その刹那。
「─────
スペルカードの詠唱と同時に、右手に刀が出現した。
それを一気に握りしめ、正面からやってきたドスと太刀を一閃の元に切り捨てた。
「ぐぇぇぇぇぇぇ!?」
「ぬな─────あぁぁぁぁ!?」
武器を真っ二つに砕かれ、剣気の衝撃で二人が同時に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
今回は白玉楼の庭師兼剣術指南役の剣をお借りさせてもらった。
「どうする…………もう止めにするか?」
「な、なんだよ…………その身体は…………!!」
「質問を質問で返すのか?ちゃんと答えてからにしてくれ」
「な、何を……………!!」
二人は諦め悪く立ち上がって、素手で殴りかかろうとしてくる。
────ならばいいだろう、反省の念が無いのなら、少しばかり痛い目に遭って貰う。
「────
俺が手を広げると同時に、空から大量の女の子の人形が降ってきた。
その全てが、太い槍を持っている。
「な、ななななななななななななんだあれぇぇぇ!?」
「こっ、こっちに来るぅぅぅ!!!」
虫の大群のように群がった人形たちは一斉に泥棒二人組に突撃していく。
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「痛い、あいたたたたぁぁ!!!」
人形たちは蜂のように泥棒たちの体をチクチクと刺していく。
流血するほどの全力は出さないように調節しているが、この数に一斉にやられたらたまったもんじゃない。
「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁい!!!」
「ゆ、許してぇぇぇぇぇ!!!」
5秒も経たずに根を上げてしまったから、刺すのをやめさせる。
「反省したか?」
泥棒たちはウンウンと頭が取れそうなくらいの速度で頷く。
「──────ならいいよ。後で店主に謝って。けど、お前たちが二度とこんなことをしないように、一つだけいいかな」
「な、なんだよ…………」
泥棒たちに歩み寄る。これだけ近寄っても、もう向こうは抵抗する気を失っている。
「いや、大したことないよ。ちょっと怒るだけだから」
「え……………?」
二人が身を寄せ合う。
それもそうだ。この距離での、ヒトならざるモノの重圧。虎に組伏せられるのと状況は近い。
そして、口づけしそうなくらい、顔を近付けると、俺は久しぶりに本気で怒った顔をしてみる。
「────────っ」
「────────ひぃ…………!!」
泥棒たちは手足の力を失って、座ることも出来なくなってパタリと倒れてしまった。
「白目剥いて泡吹いてる…………」
あぁ…………あぁっと、あまりの恐怖で失神してしまったようだ。
そんなに怖いもんなのかねぇ、俺の怒った顔は。
まぁ、角の生えたワーハクタクなんて普通に怖いか。
三度笠を拾って被り直すと、髪の色は元の水色に戻り、角もひっこんだ。
簪を拾い直して髪を結い直す。
よし、これでいつもの姿に戻ったはずだ。
とりあえず、こいつらを片付けるとしよう。
「おぉ、ド派手にやったな妹紅」
「あぁ。そっちも上手く行ったんだな」
泥棒を縛って路地裏を出たと同時に、妹紅と合流できた。
髪が燃えて無くなっているやつが妹紅に羽交い締めにされている。
妹紅が燃やしたんだな。ホントに人命被害が出なくて助かった。
「もっと穏便に済ましてやってあげてよ…………俺みたいに」
「ふん、生憎と、殺し合い以外で弾幕は使わないんでな」
うん、知ってた。
「お前、顔色悪いぞ。力を使ったのかよ?」
「まぁね、だから今日はもうやりたくない」
人間からハクタクの姿へと変わるには身体の構造から作り替えるわけだから、全身の体力を多く消耗する。使った後は食べるか寝るかしないと身体が持たない。
体力的に、変身は1日に1~3回までだ。
ちなみに変身してからの体力消費は無いに等しい。あくまで変身することに体力を消費するわけで。
「大丈夫か!?」
「何事だ!!」
お、奉行所からお迎えが来たぞ。
「はい、こいつ泥棒」
「頼んだよ」
台車の荷台に泥棒たちを投げ込む。
「まったく、どうして急にこんなに増えたのかねぇ」
奉行所の兄さんがため息をつく。
「増えた…………?」
「あぁ、最近になってから里で暴れる輩が増え始めたんだ。ったく、どういう事だよ。寺子屋が開かれたぐらいの時から急激に増えやがった。寺子屋に通う子供が巻き込まれることがないといいんだがな。とりあえず、あんたらには感謝するぜ、ほら持っていきな」
いくつか小銭を投げ渡してくれた。
「やったー、お金だ~」
俺が一番ほしいものだ。
「さ、これでご飯食おうぜ~」
「なんで妹紅が決めるんだよ…………」
「だって、今回の件は私のお手柄なんだからな」
「そんな、俺だって頑張…………」
「何してるの、あんたたち」
「え?」
横から割り込むように、強気な声が聞こえてきた。
「お前は…………」
「竹林のがいるのも意外だけど、なんでここに獣人がいるのよ」
「な…………なんで…………」
さては見ていたな。俺が戦っているところを。
その赤い服とリボン…………たしか、どこぞやの神社の巫女さんだったな。人気が無いに等しいあの神社。
名前は…………
「妹紅、なんでここにいるのよ。そんなことよりそこのあんた、妖夢の剣とアリスの人形。どこで手に入れたのか教えなさい、返答次第では─────」
御札を指の間に挟みながら臨戦態勢を整える巫女。
「ちょ、ストップ!!血気盛んだなぁ………」
「ほら、早く。どこで拾ってきたのか教えなさい!」
今度はお払い棒で小突いてくる。
「わかった、わかったから!!」
なんだこの子。負けん気強すぎないか。
てか、妖怪だったら即お陀仏だったでしょ、今の。
「さっきのは、ただ単に俺がスペルカードを使っただけだよ…………盗んだり奪ったりはしていない」
「はぁ?どういうことよ、余計意味わからないわ、教えなさいよ」
「俺は文字を書き換える程度の能力を持っているんだよ。その名の通り、書いてある文字を書き換える能力」
「それとこれとがどう関係するのよ」
「基本的には看板や文献、書類に使うんだけど、ほら。弾幕にも文字は使われているだろう?」
俺は妹紅みたいに弾幕は撃てないが、スペルカードなら限定してそれに近いものを発動できる。
「なるほど、合点がいったわ。そういうコトね。【スペルカードの書き換え】…………か」
なんだ、思ってたより賢い巫女さんだ、一番長く説明すべきところを理解してくれた。
「そう。
「なるほど、要は、あんた自身は弾幕を使えない代わりに、他人のスペルカードを改造して自分のものにして使っているわけね」
「…………記されたものには必ず著作権が与えられる。俺は改造したスペルカードの特許を得て、自分のスペルカードにして使っている。それが、さっき使った白楼剣のレプリカと、上海人形のパチモノってことだよ」
「名前のくせにとんでもない能力ね…………つまり、あんたにはスペルカードは通用しないってことでしょう?ここで私があんたに初見のスペルカードを使っても、すぐに書き換えて、自分のものにして私に返してくる。弾幕を伴って、ね」
「そういうこと。だから、妹紅に弾幕勝負を吹っ掛けられても無傷で帰ってこれたんだ。竹林が通常の
まぁ…………俺は弾幕が撃てないし、
だけど、スペルカードであればどんなものでも改造して使用できる。
ただし、
そして、再現はできない。改造の際は、スペル名そのものを変える必要がある。名前を似せたり、決まった
白楼剣のレプリカを発動した時も、まさか剣気まで出るとは思っていなかった。
名前を似せたり、キーワードで方向性を絞ることはできるが、原点に近づくほど威力は低くなる。
原点とは程遠いものに変えるほど威力は上がるが、簡単な弾幕になったり、予期していたものと違う弾丸が放たれたりしてしまうから、調整する作業は簡単じゃない。
そもそも、改造したスペルカードのインストールには相当な体力を消費する。
数分間疲れすぎて走れなくなったり、目眩がしたりすることはよくある。
「それで?あんたワーハクタクでしょ。なんでこんなところにいるのよ」
うーん…………言われてみればなんだろう。
生きるため…………?
「…………質問を変えるわ。なんで獣人が馴れ馴れしく人里に紛れ込んでいるのよ」
それを聞いて、俺は答えられなくなる。
「獣人は山でおとなしくしているものじゃないの?それとも、あんたは
巫女が一気に詰め寄ってくる。
「お、おい…………」
妹紅が巫女をなだめる。
「親父の店が里にあるから、跡を継いだ俺も人里で暮らすしかなかったんだ」
「─────────」
巫女が睨んでくる。
まずいか、と思ったとき。
巫女はただため息をついた。
「なぁんだ、それだけのことか」
そう言ってお札とお払い棒を片付けてしまった。
「なるほど、陽射しが強くもないのにずっと三度笠を被っているヘンなやつがいると思ったら、そういうことだったのね」
「な、陽射しが強くなくても三度笠を被ることに意味があるのか?」
妹紅が驚いたような表情を見せる。
「当たり前じゃない。ワーハクタクは夜に月の光を浴びると人間の姿からハクタクの姿に変わるのよ」
すかさず巫女が返す。
「じゃあ、昼間に被る意味はないじゃないか」
「何言っているの。月の光も日の光も同じでしょ?」
「そうか!月光は月の地表が日光を反射したものだったな!」
なるほど、と妹紅は手を叩く。
「そういうこと。まぁ、あんたの思っている通り、満月の夜じゃなくても…………なんなら、日光の下でも人間のカタチを保てないような敏感…………いや、純度が高いと言ったほうが正しいかしら。そんなワーハクタクは見たことがないわね」
「そうなのか?」
「あぁ、こいつと私が知っているワーハクタクっていうのは、満月の夜に人間からハクタクに変わるものだ。お前みたいに、光を遮る笠がないとこんな真っ昼間から変身する、なんてものは聞いたことがない。…………まぁ、私たちも本物のワーハクタクなんて一人しか見たことないからな。案外ワーハクタク界では異質なのかな、あいつは」
満月の夜…………?
「あぁ、例の寺子屋の…………」
「あら?寺子屋に用があるの?」
「いいや。暇潰し程度にね。せっかくの人間の里にいるワーハクタク仲間だ、挨拶しようと思っているんだ」
「そう。まぁ、何はともあれ、怪しいのじゃなくてよかったわ。あんたたちもお察しの通り、ここ最近は危ないからね。あんたみたいなのを見るとすぐに疑っちゃうのよ。失礼なこと言って悪かったわね」
巫女は背を向けて去っていった。
「……………妹紅」
「あぁ、私も同じこと思っていたぜ」
あの巫女も同じことを勘づいていたようだ。
平和ボケしたこの人間の里での泥棒行為自体、珍しいといえば珍しいのだが、それよりも不思議だったことが一つあった。
あの泥棒3名にはある共通点があったのだが……………まぁ、そんな気にするほどのことじゃないよね。
集団犯行なら、こういうことはあり得なくもない話だし。