東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「そろそろマンネリ化してくる時期じゃないか!?」
「今回の問題はこれ!」
「おや、今回は異常に簡単だな。この中華拳法風の構えときたらもう答えは一択だろう」
「正解は本編の後!」
「それで、今日はどこに行くんだい」
俺は今日も店にやってきたアリスと並んで人間の里から少し離れた長閑な草道を歩いていた。
「今はとりあえず梓に対抗する策を考えなければならないわ」
「そんなことはわかっているよ。具体的に何をするのかって話をしているんだ」
「まず、梓の能力について、今わかっていることを纏めましょう」
アリスは手帳を取り出すと、ペンで色々書いていった。
とりあえず、梓はどんな相手なのかということだ。
まず、五寸釘の弾幕を使ってくる。
能力は相手を呪い殺す程度の能力。
遠距離攻撃のみならず、金槌を使った近接戦闘もでき、動きも冴えている。
だが、身のこなしは永琳さんの元で修行してきた俺にとっては大したものには見えない。俺を何百回と木刀で殴り付けてきたあの依ねぇに比べたら、あの程度はそよ風にもなりやしない。
問題は能力のほうだ。
相手を呪い殺す程度の能力、あれは五寸釘を当てた相手に呪いを付与し、相手に見立てた藁人形に釘を刺す事で、対応した部位を「殺す」ことができる能力。
五寸釘に命中した時点で負けが確定する。
たとえ脚に当たろうと、腕を掠めようと、「当たってしまえば」藁人形の心臓を貫かれてこちらの心臓も貫かれる。
一撃で倒されるとなると困ったものだ。一発たりとも当たることは不可能、そして当たれば即座に死だ。
そして、あの呪いは生き物以外も殺してしまう。例えばアリスの人形とかだ。
「生き物以外ですら殺せてしまうなんて、凄い能力だな」
まさか、彼女なら妹紅すらも殺せてしまうのかもしれない。
「おかしいわね。生きていないものを「殺す」なんて」
アリスは両手を広げて呆れる。
「いや、生きていないものにも死という概念自体は存在している、って慧音さんが言ってた」
「わからないわね。命がないのだから、命を奪ってもしょうがないでしょう?奪われる命がないのだから」
「あぁ、だからアレは「殺す」といっても、命の奪うというよりかは「何かを終わらせる」という解釈に近いのかもしれない」
「ふむ、使い物にならない状態にしてしまうってことね」
「あぁ。「意味から殺す」っていうのかな、アリスの人形を人形とは呼べないような姿形に変容させたって言うことは、対象を跡形もなく粉砕するというより、「ソレがソレであることを壊す」という形だろう。まぁ、どのみち俺たちが食らったら死ぬってことなのに変わりはない」
「警戒すべきはあの釘か…………さすがの青葉にも無茶をさせるわけにはいかないわ。死なれたら全てが台無しだもの」
助かった。アリスがここで「とりあえず青葉は切り込み隊長ね」って言い出したら大変なことになっていた。
「近付くことができれば大したことはない相手だ、俺でも昨日追い詰めることができたからね。だが、離れていたらいつまでたっても向こうのターンだ。あんなに大量に即死技を出されたら接近ができないし、何より体力が持たないよ」
「えぇ、そうだろうと思っていたわ。だから、今回はそれを補ってくれるような仲間をあたりにいくの」
まさか、アリスがそこまで考えているとは思っていなかった。
アリスも無計画ではないとは思っていたが、俺よりも考えが進んでいる。
つまり俺たちは今からサポート役の仲間を探しに行くということだ。しかし、悠々としているアリスの様子を見るに、どうやらアテはあるみたいだ。
「いったい、どんな人たちなんだ?」
「彼女らはそこら辺にいるわけじゃなくて、里やその周囲、魔法の森など、あちこちで活動しているわ。だから、こうして私たちも歩いていないと簡単には見つけられないの」
幻想郷のあちこちで活動……………旅商人さんかな?彼女ら、ってことは複数人で活動しているのか。
「人数集まっているなら見つけやすいとは思うけど、そんなに活動範囲が広いの?」
「えぇ。地上ならどこでもよ。ただし、見つけると言っても、この場合は耳を澄ませていた方がわかりやすいわね。前もって貴方に耳掃除するよう奨めておけばよかったわ」
「聞こえにくくなるまで放置しないよ……………ていうか、そんなに言うならアリスがやってくれれば良いじゃないか」
「はぁ!?」
「冗談だよ。耳を澄ませろってことは音楽団か何かなのかい?」
俺がそう言った瞬間に、周囲に優しい音楽が流れ出した。
狭苦しくも暖かい、子供を抱き締めるように優しい音色がするヴァイオリン。
静かなヴァイオリンの合間を縫うようにして、曲にメリハリを持たせてくるトランペットの大きな音。
そして、トランペットが独走状態になった時や、静かなヴァイオリンパートが静かすぎて冷めてしまうような所をさらに支えるキーボードの音。
弦、管、鍵盤とで楽器の種類も、音の種類も、音の印象もそれぞれでまったく異なる物でありながら、その音色は綺麗に纏められている。技術も一流だが、そこには長い練習時間があることも予想できる。
そして何より、その音楽はすごく楽しい。
俺にはわかる。好きで演奏して、純粋に今そこにある音色を楽しもうとする自由な音楽と、コンクールなどに向けて練習して失敗の許されない厳しい規定とプレッシャーの中で他に負けぬよう皆の努力と熱意で研鑽される音楽の違いを。
今回のものは前者であった。そこには利益や名声を求めたような音は聞こえない。そこにはただ、「楽しんでくれる人がいるから」、「自分達が音楽を演奏するのが好きだから」という理由が声もなく、文字にも書かれずとも俺たちに伝わる。
アリスも瞳を閉じてその素晴らしい音色に聞き惚れる。
俺は今になってようやく気付いた。
俺たちの前から、三人の少女がやって来ていたということに。
一人は金髪に紫色の洋服が特徴のヴァイオリニスト。
一人は蒼髪に桃色の洋服が特徴のトランペッター。
一人は茶髪に赤色の洋服が特徴のキーボーディスト。
三者三様の少女たちは楽しそうにお互いに笑い合い、楽しそうに演奏しながら歩いてこちら側に向かってくる。
癒しと楽しさと心地よさが辺り一面を満たしていく。この世の全てがまるで平和かのように思えてしまう。
長閑な景色も相まってここは天国かと俺自身が錯覚する。
三人は仲良く並んで演奏しながら俺たちの前まで歩いて来ると演奏を中止した。
止めるときの迫力も素晴らしい。そしてタイミングがぴったりすぎる。
どれほど息を合わせているのか、もちろんここまで強い絆で結ばれた似た者同士だ、この3名は互いに血縁関係なのだろう。
「……………………すっごい」
俺は色々言おうとしたが、手が勝手に拍手してしまっていた。
アリスも同じだ。口より先に手が動いてしまった。
三人はにこやかな顔で深々とお辞儀した後、俺たちの元へもうひとつ近付いてくる。
「私たちを呼んだのは貴方たち?」
なんだ、まるでずっと憧れていた名役者に声を掛けられたような歓喜がする。
俺はこの子たちのことは一切知らないのに。
「き、君たちは……………」
誰だい、と聞こうと時に、再び金髪の少女のヴァイオリンの音が聞こえてきた。
今回はソロだ。
「ルナサ・プリズムリバー」
清楚な金髪の少女は短時間だけ演奏してからその名前を名乗る。
続いてトランペットの音色。
「メルラン・プリズムリバー!」
快活な蒼髪の少女の自己紹介。
さらにそれに続いて最後にキーボードの音。
「リリカ・プリズムリバー!三人揃って…………」
元気な茶髪の少女が名乗り出る。
そして、三人が再び短時間の全体演奏。
そして極めつけに、
「「「プリズムリバー三姉妹!」」」
また天使の笑顔でプリズムリバー三姉妹が決めポーズ。
俺は気が付いたらまた拍手してしまっていた。
「最高だ、幻想郷って」
「知る人ぞ知る、幻想郷最高の大人気の演奏家姉妹よ。貴方には初めてだから、それはもう驚いたでしょう?」
ずるい、アリスはもっと前から知っていたんだ。
「うん、なんでもっと早くから知っておかなかったんだろうって後悔してる」
「ふふふ、ありがとう!ファンになってくれても良いのよ?」
メルランが誘ってくる。
「はい、なります!!」
こんなのファンにならない筈がない。
あ、そういえば……………
「ところでアリス、アリスが言ってたのって…………」
「えぇ。彼女らのことよ」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
戦闘とはこの世で一番遠そうな見た目しているこの人たちが!?
「どうかしたの?何やら驚いているみたいだけど…………」
ルナサが顔を覗きこんでくる。
(いやいやいや、絶対戦えるわけないって…………!演奏は素晴らしいけれども)
ひそひそ声でアリスに抗議する。
こんな子たちに戦わせたくなんかないし、戦えそうにも見えない。
(いいえ、彼女らの音楽には特別な力があるのよ)
(ないないない!どうせ眠たい曲で敵を寝かしつけるとかでしょ…………?なんの役にも立たないって…………!せいぜい場を盛り上げる程度のことしかできないでしょ、どう見ても!てゆーか、こんな礼儀正しくて優しい子たちを危ない事に巻き込むわけには行かないよ…………!!)
プリズムリバー三姉妹は最高だ、間違いない。だが、絶対に戦えるわけがない。アリスを尊敬した俺がバカだった。アリスのやつ、梓がおっかなすぎて、目に映る知り合い全てを戦士だと思っていないか…………?
「あっ!見て!煙が……………!!」
リリカが真っ先に俺たちの背後を指差す。
「うん?」
俺はそれに習って背後を見る。
そこにはなにもない。
だが、その遠く先に───────
「は……………?」
「ふむ…………つまり君たちはここじゃなくて、また別の道具屋に用があるってことかい?」
一方その頃人間の里で。
人間の里にはいぬゐ舎とは別で、古道具屋が存在していた。
そこの店主は、銀髪に背の高い眼鏡を掛けた美男子。
彼は腕を組んで悩みながら、来客と話す。
「はい、私たちは三度笠を被った人に用がありまして。今、「道具屋」とおっしゃいましたね。もし良ければ、その道具屋の場所を教えて頂けないでしょうか?」
店にやってきたのは高級感溢れる洋服に身を包んだ紳士1人。
彼は穏やかで聞き取りやすい声で店主と会話する。
「あぁ、確かこの近くに鈴奈庵という貸本屋があってね。そこの通りの一番端っこにある。ただ、残念ながら今日は閉まっているよ。ちょっと外の世界の文献の翻訳を依頼しようと思ったんだけど、生憎と留守だったんでね」
「ふむ。では、彼はどこに行ったか、ご存知ですか?」
紳士は困ったような表情をする。
「そうだね…………彼は簡単にいえば風来坊に近いし、いろいろな所と交流があるんだ。僕以外にも友達が多いものだから、もしかしたら里を出ているのかもしれない。もし彼が帰ってきたようなら、連絡を君に渡そうと思うから、連絡先をくれないかな」
「成る程、お二人はご友人どうしなのですか?」
「ま、違うと言えば嘘になるかな。道具屋同士の腐れ縁って言えば正しいかもしれない。ただ、向こうも僕も、お互いの事は尊敬し合っているから、良い同業者という面では親友と言えるだろうね」
眼鏡の店主は照れくさそうに頭を掻きながら笑う。
「成る程、分かりました─────おい」
紳士は態度を急変させると、外に向かって呼び掛けた。
「おう旦那ァ!娘さんの仇の手掛かりァ見付かったかい?」
そして荒々しい声と共に快活な大男が店にずかずかと入ってきた。
「残念ながら尻尾程度だな。だが、友人という範囲ならまだ収穫の範疇だ」
大男は自分の身長をも上回る、黒塗りの大剣を担いでいる。
紳士の部下か何かだろうか。だが見て呉れだけでも、危ない人物であることだけは間違いない。
「どういうことかな、
店主はあくまでも冷静に対応する。
さっきからと同じように立ちながら、真剣に、かつ慎重に対応する。
「問題ない、君が抵抗しなければこちらから危害を加えないと約束しよう。ただ、あの三度笠が大人しく言うことを聞いてくれたら、の話だが………………捕らえろ」
「おうさ旦那ァ。悪ぃな、ちぃとばかり大人しくして貰うぜ、店主さんよォ!」
大男が手を伸ばしてくる。細身の店主を握り潰してしまいそうな豪腕。
「う~む……………これはまずいな」
店主はひょいと腕を避けると、店の奥の裏口から隣の部屋へ避難する。
「逃げなければ手を出さないと言っているんだ、逃げるのはやめないか。追いかけろ」
「チッ、めんどくせぇ奴だぜ」
剣を担いだ男がそれを追いかける。大柄な身体だが、わりと脚は速め。決して神速とまでは言えないが、普通の成人男性よりかは速い。
「困ったな、少女はともかく、男から逃げるっていう経験は今までなかったな」
店主は隣の部屋で何かをしてから、部屋の隅にある非常口から脱出する。
「ヤイヤイ、裏口から逃げるのは結構だが、逃げ道わかるようにしちゃあダメだろうがよ」
非常口といっても、火事になった時に使うようなものなので、隠し通路のような使い方はできない。どこから出ようが、追跡は避けられない。
「ふぅ、あとは誰かが気付いてくれれば良いんだけどね」
店の外に出てから、店主は追手を撒くために、テキトーに里を走り回ることにした。
「人間の里から煙が出ているわ!」
メルランが指差して言う。
「火事かしら、大変、早くしないと」
ルナサが焦る。
「いや、火事にしては規模が小さすぎるし、煙も真っ白だ」
「どういうこと?何かの合図かな?」
リリカの言う通りだ、アレは何かの狼煙だ。
「青葉、覚えは?」
「いや…………何があったかなぁ。思い出せそうでギリギリのところで思い出せないんだよなぁ…………」
えーと、えーと、どっかがなんか危ないことになったら煙上げるよみたいな感じで誰かと約束したような……………あれ誰だっけなぁ。
「あっ、こーりんか!「君は弾幕使えない上に俺みたいに剣も振れないんだから、もし香霖堂で何かあったときは、助けを呼ぶために煙を上げるようにしとくのがいいよ」ってアイツにアドバイスしたんだった!」
「ちょ、それ必要ってことは結構な緊急事態じゃないの!」
「トイレでちり紙がないとか、そういう次元の問題では煙は上げてこない。こーりんは冷静なアリスのさらに8倍ぐらい冷静沈着だからね。それが緊急の合図を上げてくるってなると、」
「何かがあったのね!」
「急いで助けに行かないと!」
「私たちもついていくわ」
どうやらプリズムリバー三姉妹も助けてくれるみたいだ。
戦えるのかはどうか知らないけれど、もしアリスが言っていることが本当なら、彼女らに任せておけば解決するかもしれない。
ただ、これは親友の危機。急いで行かなければ、もしかしたら里全体に何かが起きているのかもしれない。
「アリス!プリズムリバーの皆!後から追い付いてきてくれ!俺は先に行ってくる!」
刀を腰に差したまま、俺は全速力で里に向かう。
「ちょ、待ちなさい!どこでどうやって合流しろって、」
「それは音楽でも鳴らすなり偵察人形出すなり好きにしてくれ!とにかく、俺は真っ先に里につくからな!」
すまないアリス、勝手に単独行動取ってしまって。だが許してくれ、今の人間の里は、考えられないほど物騒だ。いつ何が起きてもおかしくないなら、時間かけてゆっくり歩いて行くわけにも行かない。
この中では一番俺が脚が速い。ならば、自分よりもアリスたちのペースに合わせるより、真っ先に俺が1人で現場に急行するほうが先決だ。
それはアリスならわかってくれる筈だ。
とにかく、今はいち早く里に向かわないと…………!!
「上白沢慧音と藤原妹紅のたのしいたのしいシルエットクイズ、解凍編!」
「もはや解答の誤字が気にならなくなってきた」
「正解はIOSYS様の「スカーレット警察のゲットーパトロール24時」に出てくるあたいの足技みさらせやーチルノだ!」
「うわ大人しく見ていれば正解していたな!先入観って良くないな!」
「よし、このコーナー教育コーナーにしようよ慧音!」
「いや、それは無理だろう…………」
To be continued…………