東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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今宵は青い白沢と今酔も翠の白沢

 

 

 

「…………………なんで、俺だけ殴られないといけないの?てゆーか怪我人殴るてどういう神経ぞお主ら」

 

私に頭突きされたおでこ、妹紅に殴られた右頬を真っ赤に腫らしながら青葉は目の前の刺身を美味しそうに食べる。

 

「当たり前だ、女の着替えを覗き見するような頭イカれた奴、こうなって当然だ」

 

妹紅が拗ねた表情で角煮にがっつく。

 

「俺が通らない場所で着替えろってちゃんと言った上でキッチンで着替えて電気もつけずにいつまでたっても女の子二人裸で色々触り合っているほうが方が頭おかしいでしょ……………」

 

今回ばかりは青葉が正しいのは仕方ない。

 

「だからといってノックもせずに入らないのはどうかと思うぞ」

 

だが、素直に認めるわけにもいかないので、数の暴力に頼って私も妹紅に同調する。

 

「なんで自宅でいちいちノックしないといけないのよ俺が!?」

 

────────間違いない。

うぅ…………と呆れたように青葉が頭を押さえてうなだれる。

 

「しかし、笠を被っていないオオバってのはなかなか貴重だな。笠さえ脱いでいれば美人なんだから、もうずっとハクタク化していればいいのに」

 

妹紅がそういう話をするなんて珍しい。

でも確かにそうだ。青葉が今回に限って笠を脱いでいる。部屋の中だから月光を浴びづらいからだろう。だから人間の姿を保っているが青葉の髪がいつにも増して艶やかさを帯びているので普通に美男子だ。

もしかしたら、里の女性たちも皆この秘められた美貌を見てしまえば最後、まとめて惹かれるのではないのか…………?と思ってしまうほど。

 

「資産に恵まれていないなら、見た目で帳尻合わせするしかないんだろうね。大丈夫、顔が整っていなくてもお金さえあれば女の人はもうメロメロだから」

 

「あー、今のはあからさまな女性軽視だぞお前」

 

「え?そうなの?」

 

「あぁ、金さえあれば女性を釣れると思ったら大間違いだぞ」

 

「あれ?俺そんな言い方したかな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

机の上に並んだ料理は私が作ったもの。

青葉も実は料理が得意ならしいが、私も怪我人の介護に付き添うとなったら料理を私に委ねてきた。

本当は元気なのではないのか?

まぁ、怪我は本物ではあるし、一刻も早く治って欲しいのは事実なのでこんなことで怪我を治そうとする気になってくれるのであれば喜んで作ろうとした。

しかし青葉の家は食材があんまりにも少ないもので困った。

おそらく、1日でどの食材を食べるか決めた上で買い出しに出ているのだろう。自称貧乏人の青葉らしいやり方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、お腹一杯~」

 

妹紅は腹を満たすとそのまま寝転がってしまった。

─────こいつ、青葉の看護の為に来んだよな?

 

「まったく、相変わらず生活態度の悪いやつだ…………」

 

頭を押さえて我が友のだらしなさを再認識する。今度また叩き直さなければならないか…………この機会にでも青葉に諭して貰いたかったものだが。

 

「仕方ないよ、「人の欲に果てはなし」と言うように、人間は欲求が満たされると他の欲が大きくなるんだ。食欲が満たされたあとは睡眠欲が増幅して眠くなるんだって。だから、眠った次は……………」

 

「睡眠欲が満たされた後は性欲を求めるというわけだn…………って何を言わせるんだ」

 

「なに、全然恥ずかしいことじゃないよ。さて、焼き鳥も眠ったことだし、こっそりとデザートの時間と行こうか」

 

妹紅を焼き鳥呼ばわり………………

青葉は楽しそうに私と妹紅が着替えたあの物置兼厨房に向かうと、籠とクーラーボックスを持ってきた。

 

「普段は俺が真夜中に独り占めしているけど、今日は慧音さんもお手伝いに来てくれたし、一緒に食べようか」

 

「いいのか?なんか申し訳ないな…………」

 

「いいよいいよ。皆で食べたほうがおいしいから」

 

じゃあなんで妹紅が寝てからそれ出したんだ。

 

「妹紅がいたらどんな食べ物も灰にまっしぐらだからね。デザートに真っ黒な炭を食べるのだけは勘弁だ」

 

箱を開けると、中から氷とそれに包まれた瓶が出てきた。中身は…………ペースト?

 

「これね、うちの庭で取れるやつなんだよ~俺の真の大好物。鯛の刺身よりも鯖の押し寿司よりも愛して止まない最高の品物だぁ~♪」

 

籠に入っていたのは赤い果物。

ゴツゴツとした固そうな表面をするその果物を青葉は包丁で真っ二つにする。

断面から、開いた花のような真っ赤な中身が現れる。

 

「これはまさか、無花果(いちじく)か!?」

 

「大正解。うちの庭で栽培している無花果だよ。今みたいな秋時が収穫時で、ついでに旬でもある。こりゃあもう最高だよ」

 

「同感。これを越える果物があってたまるか」

 

「慧音~、それなに?」

 

妹紅が騒ぎを聞き付けて起き上がった。

 

「無花果だ。「無い花の果実」と書くあれ」

 

「花が咲かない果物なんてのがあるのか?」

 

「あははははは、違うよ。無花果は果実の中に花が咲くんだ。昔はそれを花が無いかのように例えて「無花果(むかか)」や「映日花(えいじつか)」と名付けられたんだ。別名は「蓬莱の柿」、「南蛮の柿」、「唐の柿」。とにかく異国の果実って感じ美味しいよ~」

 

「蓬莱……………か。なんの因果だろうな」

 

名前に興味を持ったのか、妹紅はさっと手に取ってみる。結局なんにも言わない青葉。まぁ、彼が本気でそんな意地悪するわけないだろうし、最後は結局妹紅を起こす気だったのだろう。

 

「おぉ、苦そうな見た目なのになんだか甘いな!」

 

最初は警戒気味だった妹紅だが、一口食べたら狂ったようにがつがつ食べ始める。

 

「あぁ。無花果の果実には糖分が沢山あるからね」

 

「いいのかな。こんなの食べてたら太りそう。私はどんな傷も完治するように脂肪とかもすぐ炎上するからともかく、慧音はいま痩せようとしているとかなんとか」

 

「寝も葉もないこと言うな!」

 

「無花果は栄養あるから身体にいいよ。有機酸、ビタミンC、ミネラル満天の神の食材だからね」

 

青葉はやはり私が思っている以上に博識だ。

私も人間の里では、子供に教えを施す者として一番二番を争うほどの知識があると、傲りではなく責任的な意味でそう自負はしていたが…………意外と青葉の方が賢い、というか?物識りというのだろうか。

 

「あぁ。さらに消化促進酵素や腸の動きを良くする食物繊維も豊富だしな」

 

負けじと私も知っている限りの知識をひけらかしてみせる。

 

「そうそう。民間療法の一種として便秘薬として使われるだけでなく、痰、咳、喉痛、さらには痔にだって効果がある」

 

な、そんな余裕な表情で次から次へと言葉が出てくるのか!?

植物図鑑か彼は!?

 

「葉には蛋白分解酵素が豊富に含まれており、血圧を下げる効果もあるな」

 

この辺りが限界だが、無花果の健康的効果って言われてもここまでがメジャーなものだろう。

 

「うんうん。うちでも入浴剤にして使ってるよ。肌荒れや神経痛に効くんだよねこれが」

 

え!?無花果って入浴剤にできるの!?

 

「あ、あぁ!そうだな!あらゆる観点から見ても万能薬とも言えるその果実に付けられた呼び名は……………」

 

クソッ、らちがあかない。こうなったら強制的に私がこの話を終わらせる─────!!

 

 

 

 

 

「不老長寿の果実!!」

「不老長寿の果実!!」

 

 

 

 

 

青葉と二人声を揃えて叫ぶ。

妹紅はなんにも反応を示さずに「おぉ、美味いな」と言いながら無花果を食べている。

気まずそうにお互いに座る。

駄目だ、植物に関しては青葉の前にまるで頭が上がらない。

山で育ってきた相手には分が悪すぎた。

 

「さらにこの無花果を隠し味にしてカレーを煮込み、出汁を加えてカレーうどんにできる。カレーうどんが少なくなったら水を足してかさ増ししてカレー鍋に。これだけで3日生き延びれる」

 

さすが自称貧乏人。カレー節約術を極めている。並みの節約術とは格が違う。

もう、お前、道具屋やめて無花果生産者になったらどうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、青葉が風呂まで貸してくれるという事だったので、ありがたくお借りさせてもらった。

風呂上がりに妹紅と交代したのだが、青葉の姿がどこにもない。

二階にいるのかと思ったが、青葉の匂いがしたので、一階の居間に出る。

そこにも居ない。匂いはこの先の縁側か。

 

ゆっくりと障子の間を抜けて縁側に出てみる。

 

 

 

「──────────」

 

そこには先程私が入ってきたときにもみたあの美しい庭と、縁側に座って酒を口にしている青葉の姿だった。

しかし珍しいことに、彼の頭からは角が生えていた。部屋では笠を被っていない彼だが、その状態で縁側に出て、今まさに空に浮かぶ金色の月に照らされたことでハクタクの姿になったのだろう。

ヒトならざる姿になろうとも相変わらず彼の顔は整いきっており、その美貌はまさに絶世の美少年と言っていいだろう。

眉が隠れるか隠れないか程の長い前髪。普段は蒼いものの今は翠を僅かに帯びて翡翠色となったその長髪は後ろの首もとでサラシを巻いてその上から簪を差して結っている。長い尻尾のように生えた残りは腰まで伸びている。

普段から蒼いその瞳は、この姿の時だけ赤色になっている。

 

「───────────」

 

彼がこちらに気が付いたようだ。

 

「──────おう、慧音か」

 

声は優柔な普段の青葉とは異なり、少しだけメリハリがある気がする。

 

「──────あ、あぁ。風呂、借りて悪かったな、ありがとう」

 

「そこまで戸惑わなくていいさ…………あぁ、そうか。師範様に呼び捨ては不躾だったか?」

 

「あぁ、いや。そういうことじゃないんだ」

 

「そう、悪いな。俺の場合は慧音のほうが呼びやすいというか、しっくり来るんでな」

 

性格や口調にも少しだけ変化が見られる。

 

「ハクタクの姿だと、その性格になるのか?」

 

「あんただって、ハクタクの姿になる時は気がたかぶる気がするだろう?それと同じだ。俺はハクタク化すると、こうなるんだよ。ま、今日は客人の手前、酒が入っているから落ち着いているけどな」

 

はぁ。お酒が入るとローになる系統か彼は。

 

「今日は悪いな。看護すると言っても、俺がたんに怪我したというより、暴れすぎただけなんだ。喧嘩の最中で三度笠が脱げたりするヘマをやらなければ、こうはならずに済んだかもしれないっていうのに」

 

─────だが、これはこれで話づらい感じもしない。彼らしさもあるし、青葉であることに代わりはないから、結局は善人であるはずだ。

ハクタクになった青葉の隣に座る。

 

「─────綺麗な庭だな」

 

「─────ありがとう。ま、別に綺麗にしようとしているわけでもないんだけどな」

 

「ここから見える星空は里から見えるものよりも美しい。なぜここには結界が張られているんだ?」

 

「結界じゃないさ。歴史編纂者ならわかる仕組みだと思うんだけどな」

 

いや、まったく。妖術や魔法はからきし駄目だからな、私は。

さぁ?と首を傾げる。

 

「俺の能力が文字を書き換える能力ってことは知っているな?」

 

私は黙ってうなずく。

 

「俺はそれで看板の文字を書き換えているんだ」

 

「はぁ。それに意味があるのか?」

 

「【文字を書き換えること】の意味で一番わかりやすいものは主に三つ。一つ、書いてある内容を【適した形に変える】こと。別の言語に翻訳したり、難解な文章を子供向けにしたりな」

 

「なるほど、」

 

「二つ、【書いてある事の意味を書き換える】こと。これはスペルカードの書き換えを見せたからわかるよな」

 

「あぁ。名前はその名を与えられた存在のあるべき形、すなわち方向性を示すものだ。それを書き換えれるお前は、その名前を変えることでその存在の在り方を変えることができる」

 

「そうそう。そして三つ目、【書かれてある事に対する印象を変える】ことだ」

 

最後の一つはなんだ…………?

 

「慧音は里を歩くことはあるか?」

 

「あぁ。もちろんだ」

 

「なら、そこにあるそれぞれの店の看板の違いはなんだと思う?」

 

違い……………?

それぞれの店の看板の、それぞれの違いか…………?

 

「書かれてある言葉の違いとか…………?」

 

「あぁ。それも間違いではない。でも、それはどちらかというと二つ目のやつだな。じゃあ質問を変えよう、同じ物を売っているお店二つを見ても何も感じないか?」

 

「──────────」

 

「たとえば、うどん屋なんてそこらじゅうにある。でも、それぞれの看板が違っているということはあんたもわかっているはずだ。じゃあ、何が違う?だって、全部「うどん」の看板だっていうのに」

 

「字体が違うから……………?」

 

そうさ!と青葉は自分の足をパン、と叩く。

 

字体(フォント)とはその文字に対する印象を変えるんだ。筆圧が薄く線が細ければ弱々しく、逆に筆圧が濃くて線が太ければ強く見える。それが違いだ」

 

「つまり、お前の店の看板は……………?」

 

「昔ながらの古臭さをイメージしているんだ。アレは俺が手入れせずに老朽化しているから薄汚れている看板に見えるんじゃなくて、アレは元からそういう構造(デザイン)なんだ」

 

……………………だから客が寄ってこないんじゃないのか。

あえて古臭くしているのは彼の勝手だが。

 

「ところがどっこいだ、編纂者くん」

 

「────────???」

 

「あんた、この店に入る時なんか感じなかったか?たとえば、「古臭さが抜けないが、歴史的には素晴らしい建物だな」とか」

 

図星だ。私は入る時にたしかにそう思った。

もしや、アレは私が勝手に抱いた印象ではなく……………

 

「アレはあんたがうちの看板の文字を【見た】からだ。文字によって固定観念として付与されたこの建物への印象は本人の脳裏に刻まれ、その建物をそのイメージで認識させる。視覚情報は情報の7、8割以上を占めるからな。そして、【歴史ある建物】という印象が籠められた空間から見上げる夜空は、まるで【歴史ある綺麗な星空】という心持ちになるわけだ。だから空が綺麗なんじゃなくて、アンタの捉え方が変わったっていうことだよ」

 

「なるほど、看板の文字で印象を操作し、中で見る光景の捉え方を変えることでお前は客人を誘っているわけか」

 

「そう。だから刺さらない人には本当に意味がないただ、「ボロ小屋だ」と思われるだけだし、星空もこんなに綺麗には見れない。ただ、アンタのような一部の相手、この良さが分かるような人物に対してはプラスの効果として働く。つまり俺の店にやってくる客は、この通りの隅まで歩くほどの物好き、かつこの古めかしい建物に良さを見出だせる人、かつこの中に入ろうという好奇心がある人ってことだ。厳しい条件なのはわかるか?」

 

いや、厳しすぎるだろう。

ここに来る人がまず少ないだろうに、看板を見てこの古臭い建物を素晴らしい歴史的建造物という風に思える人がいるかどうか。まして店の中に入ってみようと思う人なんて果たしてここへ来た人物の何割だろうか。

 

「人間は新しい物が好きだ。看板はなるべく新しい物にしたほうが良くないか?あれか、予算が足りないのか」

 

「──────まぁなぁ。それもあるが、何よりもこの看板がまだオリジナルのものだったとき、偶然知り合った占い師が「その看板の姿を維持しなさい」って言ってきたもんだから、仕方なくあれを意識しているんだよ」

 

占い、か………………本物の妖怪を退治する巫女が居る幻想郷だ。占い師の場合も人によっては悪夢を見せられているかのように当たってしまうものもあるのだろう。

外の世界ではそこまでは行かないみたいだが。

 

府都志見(ふつしのみ)っていう変わった名前の占い師だったんだけど、予言がびっくりするぐらい当たるらしいって評判なんだよな。本気出せば客の命日を当てることもできるみたい」

 

「縁起でもない……………」

 

「あぁ、だから俺は聞かなかったさ。いつ死ぬかわからんから人は馬鹿みたいに楽しいっていうもんなんだから。後先考える能力があるのに何も考えずにただ当たり前のように明日が来ると思っている。そんなもんだ、人っていうのは」

 

「そう、だな。だからこそ、終わりが来ると知ったときに自暴自棄になってしまうのだろう」

 

「そうだな。でも、あんたは違う」

 

「………………違う?」

 

「あんたには、使命感がある。責任感がある。あんたは何があっても、自分がそこに居る意味がある限り、やるべきことをやり続ける。そうだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────あぁ…………そうだ。全ては、幻想郷のために」

 

本当に、そうだったのだろうか。

私は本当に、何の嘘偽り、偽善感もなく、ただ本当に、「そうしたいから」という理由で、幻想郷の歴史を紡いでいるのか。

どうだったのだろう。

私にはその行為を繰り返すことに、もっと他の理由が、あったような、なかったような。

でも、彼のまっすぐな瞳を前にしたら、頷くことしかできなくて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────あぁ、後になって考えてみれば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この段階で、打ち明けていれば良かったのかもしれない。




作者もイチジク大好き。イチジク愛を語っただけの回になりそう()

野菜類はアボカドが一番好き。アボカドの皮剥いて生のやつを一口サイズに切ってお皿に並べてね、んでね、オリーブオイルかけてね、生ハムを添えて一緒に食べるとね、これマジで美味いんよ。たまに切ったチーズも入れたりもする。
おつまみにちょうど良いからアボカド好きな人はやってみて~ww
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