東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
───────次の日。9月22日の始まり。
「さぁて、どこから探していく?」
妹紅は背中をぐっ、と伸ばした後に、私たちの前に躍り出てくるくる周りながら指示待ちし始めた。
「元気だねぇ妹紅は…………」
青葉は首を抑えて妹紅になんとも言えない尊敬のような呆れのような顔をする。
「約束が違うぞ、青葉。朝ごはんをつけたらやる気を出すって言っていたじゃないか」
「いや、今はやる気出ているよ…………これが最大」
あ、朝ごはんなかったら絶対協力してくれなかったんだろうな。
最大値低すぎるだろ。
「いやいや、誰だって人探しは面倒だよ…………どこに居るか検討もつかないのに」
「最後の目撃情報は人間の里だった。だから、そう遠くは行っていない…………と信じたいが、2ヶ月も経てばそうはならんか」
自分で何を言っているのだろう。意味のない希望の話は愚かだ。
「そうだ、最後にひとつだけ教えてほしいんだけどさ。そもそも、梓の実家はどこにあるんだい?」
「──────確かに。家出とかだったらその辺に居るんじゃないのか?」
梓の実家か……………それは盲点ではあったが……………
「いや、梓の実家は魔法の森のさらに奥にある。青葉にはとてもではないが…………」
「──────俺?」
青葉は自分を指差して首を傾げる。
「あぁ、そうだったな。あそこは瘴気があったって言ってたっけ」
「あぁ。だから、あまり近付かないほうが良いのではないかって」
「そこは大丈夫。俺も獣人だからね、魔法の森の瘴気には耐えれるんだよ」
青葉はぐっ、と腕を高く挙げる。
「そうか、なら問題ないな。では、行こう、魔法の森へ…………と言いたいが」
「授業?」
妹紅が分かりきった表情で私に問う。
「あぁ。しかも結構急がないと間に合わん」
「そっか。じゃあ、梓ちゃんのことは任せて慧音さん。授業頑張ってね!」
青葉は妹紅を連れて私と別れた。
「すまないな、依頼しておいて依頼人が行けないとは」
「問題ない。幻想郷の民間トラブルは、俺に任せておけば全部解決するさ!」
さて、困ったものだ。
こんなに頼もしい男が、これまでき私の同世代に居ただろうか。
「それで?どういうこと?」
「今すぐ説明しろ、オオバ」
「は、はい……………」
前方左側にアリス。前方右側に妹紅。
なに、このあたかも俺が不倫したみたいなシチュエーション。
俺はとりあえず、梓のことを知っていたということ、アリスと梓の因縁について軽く妹紅に説明した後、妹紅と慧音さんと俺が組んでいるということもアリスに説明した。
「なるほど、つまりオオバは慧音に言われるより前から梓を追っていたわけだ」
「そして、貴方は寺子屋の先生に誘われて梓の調査を進めたと」
「黙っていることはなかったんじゃないのか?」
「知っているって言っちゃうと、情報が得られないからね。慧音さんから貰える限りの情報が引き出せるまで黙っているしかなかったんだよ」
「頭いいやつの言うことはわっかんないなぁ」
妹紅は頭を掻く。
「それじゃあ妹紅、貴方も梓については知っているのね。梓が人形を使う魔法使いであることを」
それは初耳だな、と妹紅は眼を丸くする。
「まったく…………これから戦いになるかもしれない相手の能力ぐらい把握しておきなさい」
「戦いになる?私たちは梓を保護しに行くんじゃないのか?」
「……………梓はアリスに敵対しているようで、どうやらその…………獣人の山賊の幹部格でもあるらしいんだ」
「おい…………!!それ、慧音が話を持ちかけてきた時に言えば良かっただろう!」
「あぁ、俺のミスだ。けど、彼女を前にそんなこと言ったら、良くないことになりそうな予感がしたんだ」
そうだ。どうあれ、梓は俺の敵なんだ。
そうなると、保護と言っても補導に近い形で捕らえることになる。
慧音さんは梓が危険人物であることをまだ知らない。俺とって梓が相容れぬ敵であるように、慧音さんにとって、梓は大切な教え子。
もし、あそこで梓と敵対していることを言えば、余計に事態はややこしくなる。だから、俺はあえて言わなかったのだ。
「──────なるほどな。呆れたよ、お前は私なんかよりもずっと考えが進んでいるみたいだ」
「そんなことはないよ。慧音さんが俺と同じ立場だったら、きっと同じことをするさ」
俺が慧音さんに梓と敵対していることを相談したら、彼女はきっと梓が教え子であることを黙っていたに違いない。
「さて、梓の能力は「相手を呪い殺す程度の能力」よ。投げてくる釘が刺さり次第、即座に殺されるわ」
遮るようにアリスがナイスな話題転換をしてくれた。
「それがどうした?この私を誰だと思っているんだ、不死鳥の藤原妹紅だぞ?どんな能力だろうが、私を殺すことなんて出来ない」
誇るように妹紅は炎を噴き出しながら溢れんばかりのやる気を撒き散らす。
「でも確か、あの釘は蓬莱人すらも、」
「とりあえずは妹紅に任しておけば解決だけど、妹紅の切り込みはナシね」
間髪入れず、危ない口を開いたアリスの脇腹を小突いてやめさせる。
梓はもしかすると妹紅を殺すことすらできるかもしれない。ただ、それを彼女に教えてしまえば…………
妹紅は俺の大切な友達だし、慧音さんの親友でもある。妹紅の「死にたい」という千年の悲願はそれすら忘れさせてしまうだろう。
そうなれば妹紅は梓の目の前に突入して即死する。もちろん、その終末は蓬莱人の身だろうと関係ない。二度と目覚めない。
それは嫌だ。妹紅は本当に自ら死にに行きかねないから、それを説明するのだけはやめなければならない。
その一心で、アリスの口を塞いだ。
「切り込みナシだって!?おいおい、私だからこそ出来るんだぞ?」
「友達が目の前でやられている所を見たくないし、何より関係ない場所まで燃え上がるのは勘弁だよ」
「私の身の心配よりも森の心配か?妙につれないなお前って」
「君が大事だから止めているんだろう」
「お…………おぅ…………?そうか、なら良いけど」
妹紅はこう見えても意外と聞き分けがいいから助かった。
「でも、梓の実家ってそんなに危険なもんなのか?そりゃあ、獣人の山賊の幹部ってことだからあれだけど」
「昨日なんで俺が大怪我したと思っているんだ君は」
「お前が素手でやりあったからだろ」
はい………………すんませんでした。
「俺が正面から戦ってようやく互角の相手がいるってなると、まだまだ似たような強敵が蔓延っているって俺は踏んでいるんだ。きっと、亦紅以外にも梓に従う強敵がいる」
「なんで私まで悪者になっているんだよ」
「あぁぁぁ、ややこしいなぁ。実は俺が昨日やり合った敵の名前も「もこう」なんだよな」
「面倒臭いなぁ」
「とりあえず。要は思ってた以上に、一筋縄では行かないってことだよ、今回の任務は。そもそも、向こうに行って確実に梓を見つけられるとも限らないし」
そこにいない、という場合もあるからね。
まぁ、そうなると本物の行方不明案件なんだけども。しかし、その時はその時だ。
「とりあえずは、アポなしで行くしかないってことね」
「そうなるね」
「オオバ…………意外と無計画な奴なんだな」
「君にだけは言われたくない…………」
絵に描いたような風来坊が何を言っているのやら。
「よし、準備は整ったから、ひとまずは魔法の森へ向かいましょう。場所はわかっているのよね?」
「あぁ。慧音さんが言うには魔法の森の奥ってことだけど」
「なら、魔法の森を突っ切るだけだな!私に任せとけって!」
「よし、脳筋は帰れ」
というわけで、魔法の森に到着。
おとといアリスが拐われたというあの小屋のさらにさらに向こうに行ってみようと思う。
途中でメディスンに会えるかと思って例の人形だらけの場所に来てみたが残念ながら居なかった。留守なのか、人形集めにでも行っているのか、あるいは鈴蘭集めにでも行っているのか。まぁ、いいか。
「ここで襲われたんだっけ」
「えぇ。この辺からあんなのが出てくるってことは、この辺りは案外治安が悪いのかもしれないわ」
「ふーん、そういうわけか。獣人の山賊たちも瘴気には耐えれる。血筋の種類はあまり関係ないのかな」
「そうかもな。もしかしたら、獣人っていうのは瘴気に耐えれる器官があったりするのかもな。今度解剖してみようぜ」
怖い怖い。時々出てくるサイコ妹紅やめて。
「おっと…………のんきに話している場合じゃないみたいだな」
妹紅が脚を止める。俺たちもそれにならう。
「──────だね」
目の前からなんかやってきた────!!!
「アリス!!あれなに!?」
「お化け茸ね。魔法の森の瘴気の影響で妖怪に化けた物で、ここら辺では時々出てくるけど大したことないわ」
「へぇ、アリスは面白いね。これのどこが大したことないんだい?」
くっそでけぇぇぇぇぇぇ!!!!!
大したことありすぎるだろ!!!
なに、目視でも全長14メートルはあるぞ!?
しかも空飛んでるし!!あれ茸じゃなくて気球なの!?
「よし来た、一気に焼き付くしてやるぜ!」
妹紅の白いモンペから大きな焔の翼が生えてきた。
あちちちちち!!隣にいるだけで熱い!!
「ややこしい時にややこしいヤツがややこしいことし始めた────ッ!!!」
「
妹紅が空高く飛び上がる。
日輪の如く空に舞う真っ赤な焔は美しいが森林環境の真上で行われていると思うと最悪の状況だ。
辺り一帯の有機物全てを焼き払いかねない熱量を誇る少女はまるでもうひとつの太陽のように思えた。
自身の焔で自身の身体すら燃やし尽くす。やがて炎上するヒトガタは大きな焔の渦を作り出す。天空の上で産み出された煉獄は勢力を一層増し、竜巻のように膨れ上がる。
それでもその倍以上の大きさを誇る茸。
なに、この馬鹿馬鹿しすぎる状況。
それはともかくとして、本当にこれでなんとかなるのか怪しいところ。だが、下手に近付いたら丸焦げになるのはバカでもわかるので、俺は一切手出ししないことにした。
梓はともかく、さすがに茸に殺されることはないからね。
「いっくぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
赤い竜巻が爆音と共に噴火した。
霊峰が火を噴く瞬間を彷彿とさせたその光景の圧巻さと密度の濃すぎる熱風が辺りの木々を大きく揺らす。熱を帯びた地面が熱すぎる。
妹紅の竜巻は火柱となりて空へ延び、地面に杭を打ったその焔の帯がまた新たな火の螺旋を描く。
辺りを漂う火球が一斉に茸へ突撃していく。
「
豪炎纏う1本の柱がそのまま傾き、火球に続いて1本の矢として茸に向かって放たれた。炎が眩しすぎてまったく見えないが、あの炎柱の中心には妹紅がいるのだろう。
あれだけの炎なら岩盤すらも融解させるに違いない。まして生き物の生存など笑止千万。
あらゆる「生命」という生命を否定する滅亡の爆炎は文字通り、行く手を遮るすべての存在を跡形もなく「炎上」させた。
霊峰の噴火、からの山火事。
地面は燃え広がった炎によって朱黄く染まる。
空は爆発の後の煙によって大雨前かと思うほどの漆黒に塗り変わる。
そして、ひときわ背の高い炎の奥にあったのは、丸焦げに焼き上がった巨大茸だった。
「─────────────」
「─────────────」
アリスと俺は顔を見合わせる。
「──────死んでまうわこんなん」
「──────死んでまうわこんなん」
俺らの第一声これ。
「ふぅ~、やっぱり戦うっていうのは気持ちいいなぁ~!」
焼け跡から、一人の女が現れる。
もはや原型留めていない。
「きゃ…………っ!!!」
刺激が強すぎたのか、アリスが目を押さえて顔を反らす。
もうなんというか、跡形もなかった。両腕はどこかへ吹っ飛んでいるし、身体の中央には大穴開けているし、服は当然ながら全焼しているし、脚…………?と思われる部位の先から頭らしき部分のてっぺんまで真っ黒。錆びた鉄みたいだ。もとの髪色なんて忘れた。こんな姿じゃあ、そもそも髪があったのかすら思い出せない。
皮膚も肉も焼け落ちてほぼ骨。頭部も大半が崩壊しており、顎がなくなっている。
そんな状況から、優しめの炎が遺体の身体を覆う。
今の攻撃の反動で喪った部位の修復が始まる。
不死鳥は寿命が尽きる時、自身の身体を燃やし尽くしその灰の中から再び誕生するという。
これはその原理か。かろうじて残っていた自身の身体を燃やし尽くし、その焔の中から見慣れた姿で戻ってくる。
「ただいま~」
銀髪白肌のモンペ。これなら馴染み深い。
藤原妹紅が完全復活して俺たちのもとへ戻ってきた。
「────────────」
悲鳴を上げないってことはアリスはきっと妹紅の【リザレクション】を既に知っているのだろうけど、これほんとどういう原理なんだろう。
「──────な?心配ないって言ったろ?」
「────────────」
いや……………さ。今さらなんだけどさ。
使うと自分自身が死ぬ弾幕ってどうなんですか。
リ ザ レ ク シ ョ ン 。
親の顔より見たね。