東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「妹紅!そっちからも来てるよ!」
「わかってるわかってる!!おらっ、私の邪魔をするな!」
「
俺たちがさっきの茸を退けた後。
さらに奥へ進んだのは良いが、攻撃は激しくなっていく。
瘴気の影響で変異を起こした怪物だけでなく、なぜか武器を掲げた人たちも襲ってくるようになったのだ。
「どうなっている、ここら辺は野蛮人しかいないのか!?」
「いいえ、誰彼構わず襲う野蛮人というよりも…………」
「完全に…………俺たちを敵だと認識しているみたいだ」
獣人の山賊の兵士たちか…………!!
数がかなり多い。もしかすると、この奥まで行くともっともっと多くの敵に襲われることになるのか?
「シャァァァァァァ!!!」
「ぐぉ、危な!!」
敵の攻撃をいなしたが地面に転んでしまった。
「青葉!!大丈夫!?」
「ほら、私の手を取って立つんだ!」
「ごめんありがとう、妹紅!」
くそっ、相手もだんだん強くなり始めている。
てことは、だんだん向こうも俺たちのことを警戒し始めたわけだ。
しかし………………!!!
「グガァァァァァァァァァ!!!!」
アリスと初めて森を訪れた時に戦ったあの大木の化け物がたくさんいる……………なんか、運悪くないか?
俺ら、なにかしらの厄にでも取り憑かれている?
だが…………大木は山賊のことも襲っているので助かるといえば助かる。
ここまで因果律が狂うとなると、なにかしらの外的要因がありそうな気もしないではないが、それは無視。今はまず…………いや、そもそもなんでこんなところに多くの化け物がやってきているんだ。これ、運悪いとかの次元じゃないぞ!
運命の悪戯にしては……………むしろ疫病神の悪戯か。
「オオバ!!」
考えている最中に、妹紅の叫び声。
「え?」
反射的に後ろを振り向く。
「ゴォォォォォォォォ!!!!」
真後ろから大木が走ってきた。
山賊のことも襲っているとはいえ、俺たちの敵でもある。
だから、のんきに立ち尽くしていたら獲物にされるだけだ。
「縛って────
アリスの人形が慌ててやってきて、高速で大木の周りをぐるぐると周回する。
回る毎に重なる魔法の糸が一時的に大木の突進を防いでくれた。
「あ、アリス!!」
「貴方は離れていなさい、ここはさすがに危険すぎるわ!」
アリスの指示に従って大木の目の前から後退する。
たしかにアリスの言う通りだ。ここは俺には危なすぎる。だから、とにかく離れていないと…………!!
「くっ──────」
ふざけるな、そんなこと許されるもんか。
女の子二人が必死に戦っているのに、男の俺は見ているだけ?
情けないにも程がある。二人だって全力なんだ。
二人にできるのなら、俺にだって……………!!!
「和蘭、離れてくれ!!!」
俺の叫びに和蘭人形が反応した。
アリスの命令しか聞かないはずの人形は、何か嫌な予感を察知したからか、強引に大木を拘束するための糸を引きちぎって近くから離れた。
「ちょ、青葉、どういうつも────」
「八霖儚月流奥義・壁破り!!」
右手で刀を抜いて目一杯身体の右側を引き絞って全体重を切っ先に籠める。
10メートルほどの距離を一秒も満たない刹那のうちに詰め、俺の剣は模造刀でありながらも、大木の幹心を貫いた。
大木の中をトンネルを潜るように通過し、俺の攻撃は上海人形の突進に劣らぬ勢いで大木を一撃で伐採した。
「───────ちょっ…………!?」
アリスが聞いたことのないような甲高い音で息を飲んだ。
「嘘でしょ何が起きたの!?」
「八霖儚月流─────!!!!!!」
すぐさま走りだし、今度は驚きで動きが止まっているアリスの背後からやってきた山賊に襲いかかる。
「
脚を横に払って体勢を崩し、頭のてっぺんから股下にかけて渾身の縦斬りを浴びせる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
強烈な一撃で一人昏倒。
「ちぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
八霖儚月流は剣を振った後の硬直が非常に長い。
このように、俺の攻撃が終わったときに相手がやってきたら、対応するのが難しい。
「──────ッ……………
隼返しはそんな時のフォローに使う。
縦斬りが終わった後、強引に下から切り上げることで後隙を擬似的に減らす…………威力は非常に低いが、相手の攻撃を防げればそれでいい。
「──────くっ、」
一度距離を取る。
駄目だ、ぜんぜん調子が悪い。依ねぇに稽古を付けて貰っている時は、もう少し冴えた動きが出来るのに。
そもそも、八霖儚月流は多人数戦が最大の弱みだ。1対1において初めて効果を発揮するこの剣では、大勢を同時に相手するのは難しい。
まして、近距離攻撃を持たないアリスを守りながら戦うのは余計に厳しい。自衛とサポートを兼ねるのは、正直俺の武装では心もとない。
「どうすれば…………!!!」
「───────簡単なことですよ」
「────────誰だ!!!」
妹紅が叫ぶ。
俺は今の流れるような声に気付かなかった。だから、
「オオバ、避けろ!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
今の奇襲に全く反応できなかった。
妹紅が気付いていなかったらやられていた。
「──────いや~残念。当たると思ってたのになぁ。奇襲は特別得意なんだけど」
木の上から襲ってきたのか。
死角だったとはいえ、全く反応できなかった。暴風が吹くほどの高速突進。なんていう速さだ。
地面に降り立った、背の低い少年。
両手には短い脇差のような剣が計2本握られていた。
……………いや、あれは脇差ではなく小太刀か。
小太刀はその名の通り、脇差と太刀の中間の長さを持つ刀。太刀より小回りが効くという特徴があり、素早い攻撃を得意とする。加えて脇差に比べると長いというメリットもあり、防御力も非常に高い。
加えて、それが二本か。その敏捷性に小太刀の機能性が重なればまさに無敵だ。
こんな強敵が混じっていたのか。
「他のとはだいぶ違う雰囲気ね」
「あぁ、私もそう思っていた」
アリスと妹紅が顔を見合わせる。
「初めまして、お姉さんたち。僕は
つまり彼も獣人の山賊だ。
こんな小さい男の子まで戦っているのか。まったく、その歳でなんて攻撃力だ。
獣人の山賊の勢力図は本当にわからない。
(なんで梓たちは揃いも揃って花の名前の仲間ばっかりなんだ…………!!!)
「貴女たちの事は、亦紅さんから聞いています。特にそこのお兄さん。まさか、あの亦紅さんと渡り合う程の実力だなんて。僕も驚きましたよ」
「そんなのは良いけどさ、子供がここに来たら危ないぞ?こいつ子供好きだから相手にして貰えないかもだよ」
「あっはっは。僕も確かに子供ですけど…………たぶんあなた達よりも強いですよ」
「その身体で口が達者なのは良いことなのかねぇ」
妹紅が頭をかきむしる。
「まったく、この先が梓ちゃんの屋敷だってことを知ってて来るなんて。だから僕も出てこなくちゃならなくなっちゃんたんですよ。僕だって遊びたいのに」
「──────俺たちはその梓を探しに来たんだよ」
「へぇ~。どんな用事なんですか?ご用事であるならば、通してあげても良いですよ」
意外と問答無用で来るかと思ったら、そうでもない。ある程度話は通じるのかな、この子供は。
「梓の通う寺子屋の先生が待っているんだ。彼女が音沙汰無しだから、ずっと心配している」
ふむふむ、と仙翁少年は頷く。
「なるほど。つまり、けーね先生の差しがねって訳ですね、皆さんは」
だが、
「なら、生きて帰すわけには行きませんよ~。皆さんはここで死んで貰います」
交渉は逆効果だったようだ。
「来るぞ!!」
「ぐぉぉっ!!!!」
「──────っ!!」
二本の小太刀が凄まじい速度で振るわれる。
この剣を躱すのは簡単じゃない。妹紅はともかく、近距離戦闘ができないアリスが彼に近付かれれば大変だ。
俺が必死に止めるしかない。
「えいっ!!!」
ゆったりとした声からは想像もつかない神速の攻撃。
全て凌ぐのは困難を極める。
「くそっ…………!!!」
「まさか、けーね先生…………まだ探そうとしていたんですねぇ。もう、見つかりっこないっていうのに」
少年はにやけ面のまま呆れたように口を開く。
「なんなんだお前たちは。慧音さんが、何をしたっていうんだ」
「いや、別に。先生は悪くないけど…………今の梓ちゃんに近寄らせるわけにはいきませんよ」
二本の小太刀を構えて彼は笑う。
クソッ、本当に運が悪い。どうしたらここまで運が悪くなれる。
「妹紅、アリス。先に行っててくれ」
「え?」
「ちょ、お前正気か?」
当然、この二人なら反発するだろうと思っていたよ。
「正気だよ。ここに居ても進展はないし、アレを二人に近付けさせるわけにはいかない。止めるにしても、ここに居たら二人が【巻き込まれる】可能性がある」
「───────わかったよ。行こう」
妹紅は素直にアリスの手を引いて先を急ぐ。
「ちょっと、貴女…………!」
「あんたはオオバと戦ったことがないからわからないと思うけど、【本気を出した】あいつは、かなり強い。近くに居たらこっちがアイツに斬られる前にあいつにやられるぞ」
「は…………なん、はぁ…………!?ちょっと、離しなさい!!」
「もう連れていって、妹紅」
「あいよ。ほら、暴れたって無駄だぞ~。こちとら何年生きていると思ってるんだ。人形師なら
「─────────無理しないようにして、青葉」
アリスは俺にだけ聞こえるようにそう言うと、観念して妹紅に連れてかれていった。
「─────うん。すぐ済ませるよ」
「──────あーあ。侵入者を追い払う命令なのに、なんでそういうことするんですか。僕なんのために来たのかわかんないや」
「侵入犯だって正面から堂々と警備にいちいち引っ掛かってあげるわけにはいかない。俺たちのほうこそなんのために来たと思っているんだ」
「へぇ~。でも、あなたと戦えるのは嬉しいですね。一度戦ってみたかったんです。あの亦紅さんがライバル視するなんて、相当な手練れですからね。その剣術、見たことないですが、初見の戦いというのも、それはそれで面白そうですね」
彼の剣も、簡単には見切れない。
おそらく我流か伝家の宝刀だ。著名な道場から来たとは思えない。
「でも、どうするんですか?三人で精一杯だったのに、この数をあなた一人で倒しきるなんて、いくらなんでも」
少年は嘲るように、呆れるように。わかりませんねぇ、と首をかしげる。
「─────あぁ、その心配はない」
三度笠を脱ぐ。日差しの下、ワーハクタクの能力が解放される。
「───────こっちには【弾幕】があるからな」
「──────む?」
俺が言った瞬間、俺の足元に魔方陣が展開される。円形の中に複雑な幾何学模様が描かれた不思議な金色の図形、その要所要所が光り輝き、その中から細長い光の矢が現れる。
光の矢は高く浮上すると、俺の横に規則正しく並び、横向きになって滞空する。
──────俺の能力は文字を使ったものだが、姿が変わることで僅かに本質が変質する。
人間時は「文字を書き換える程度の能力」。
そしてハクタク時は、その能力が別の物に置き変わる。
「怪文書─────保存開始」
文字を書き換える、とあるが。
そもそも、そんなことをしてなんの意味があるのだろう。
文字を書き換えた、すなわち編集したのであれば。
それを【保存】する手段が必要になるはずだ。
なぜなら、保存しなければ変更が破棄されてしまい、書き換える前の姿に戻ってしまうからだ。
作った、変えたカタチを残すためには保存する手段が必要になる。
文字を保存する手段は、4種類存在する。
──────出力。
打ち込んだ文字を紙に印刷してファイルとして取り出す。その際、書かれてある事柄が浮き出てくる。
──────複製。
一つのファイルが駄目になってしまっても、複数同じデータがあるのなら、予備のデータを使えばいい。複製し続けることで書物を恒久的に保存することができる。
──────圧縮。
書いたファイルが分厚く重いのならば、すべてのファイルを一つのファイルに圧縮して一つの薄い軽いファイルとして保存する。
一つのファイルに複数の記録が保存できる。
──────そして、凍結。
資料を冷凍保存する。歴史的遺物も、歴史書物の原典も、すべて冷凍によって保存される。
ファイル氷に閉じ込めて冷凍してしまえば、二度と取り出せなくなる代わりに、絶対に紛失、破損することはない。
「──────全文凍結」
なので、この場にあるすべての事象を、【凍結】によって保存したいと思う。