東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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寺子屋教師・上白沢慧音

 

─────9月15日、夕方。

 

 

 

 

 

そろそろ、例の寺子屋も1日の授業を終わらせたところだろう。

俺と妹紅二人は里で一日中うろちょろしていたんだが、気が付けばもうこんな時間。

ではいざ行かん、人間の里に新しくできた、寺子屋へ。

初めての、里のワーハクタク仲間だ。会うのが楽しみでしょうがない。

 

 

 

「──────────」

 

楽しみ……………だ……………

 

「なんだよ、急に元気無くして」

 

「……………!!いや、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」

 

「何考えてたんだ?教えろよ~」

 

「いや、ほんと些細な疑問だからさ!」

 

「教えろ~」

 

妹紅はほんとに頑固だから一回来ると絶対に引き下がらない。

 

「その…………なんだ。寺子屋は本当に俺が里を離れてる間にできたのかなって」

 

「あぁ、そんなことか。ちょうどお前が里を出たタイミングでできた。確かに、ちょっと合いすぎているよなぁ。まぁ、いいんじゃねぇの?」

 

「そうか……………」

 

まぁ、なんでもいいか。

すごくどうでもいい疑問を憶えたけど、それは穴だらけだから忘れることにした。

 

 

 

「うん?またなんか…………」

 

また人だかりだ。

まさかまた、泥棒か?

 

「いや、そうでもないみたいだ」

 

人々が大喜びしている。

なんだ、何かあったのか?

 

 

 

人だかりに近付いてみる。

 

「あ!あの人…………!!」

 

「知り合いか?」

 

「うん、知ってる人だ」

 

 

 

 

 

「よっしゃあ!今日は大物だぜぇ?見ろこのでけぇ牛!今日は牛肉食い放題だなぁ!」

 

 

 

あの黒髪で筋肉質な快男児。大柄だからか、着物がちょっとはだけていて、ガチガチの胸筋が見える彼。

里では有名な猟師、澤城 慧遠(さわしろ えおん)さんだ。

 

「慧遠さん、久しぶり!」

 

人の波を掻き分けて挨拶に出る。

 

「お?オオバじゃねぇか、久しぶりだなぁ!どこ行ってたんだよ~」

 

慧遠さんはそういってどっしりとした体型で、直接肩を組んできた。

肩がすさまじい重圧を感じる。

 

「オェ…………ケモノ臭ッ!!」

 

あとから遅れてきた妹紅が鼻を押さえながら後退する。

 

「そりゃそうだよ、猟師さんなんだから」

 

「いや、そうじゃなくてな……………」

 

「え?どういうことだよ」

 

「いいよ、もう。お前には一生わかんねぇ」

 

妹紅は拗ねた表情でそっぽ向いてしまった。

 

「よう、知らねぇ嬢ちゃん。デートか?」

 

慧遠さんが妹紅に近づく。

 

「は…………はぁッ!?」

 

妹紅の周囲に炎が走った気がしたが気のせいだろう。

 

「違う違う、ちょっと用事あるだけだよ」

 

「そうかい?どう見ても恋人同士だけどなぁ?」

 

「そんなことないって」

「そんなことねぇから」

 

……………ハモった。

似た者同士じゃねぇか、と大笑いする慧遠さん。

これでもこの人は、里では信頼のあるベテラン猟師だ。こんなでっかい牛を一人で仕留めたんだ。狩りの実力だけは本物ののようだ。

過去の狩猟先でついたものか、胸から顔にかけて、大きく深い傷がついている。

高い背丈と筋肉、そしてその傷も相まってか、ただの怖い人だ。実際、里一番の力自慢であり、喧嘩の達人でもある。

自分よりも大きい岩を持ち上げたり、里の家屋が火事になったとき、一人で瓦礫や倒れた柱をどかして下敷きになった親子を助けたり。今日出たような泥棒が出たら、一人でコテンパンにしていたに違いない。

とにかく、明らかに人間やめている人間である。

 

「どこ行くんだ?俺も手伝うぜ」

 

「どこでもいいでしょうが。てゆーか慧遠さん、そんなに暇じゃないでしょ?」

 

「悪いって!どこ行くか教えてくれたら見逃してやるからさ~」

 

ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ、やめて両肩つかんでグラグラしないで!

 

「はぁ……………寺子屋だよ」

 

「……………へぇ!寺子屋か。なんだ、今さらベンキョーするのか?偉いなぁ、お前はそんなところで勉強しなくても賢いだろうに」

 

「勉強しに行くわけじゃないよ…………」

 

「じゃあなんだ?ガキの送迎か?やるじゃねぇかぁ。お前もついに子供授かったのかい。奥さん今度紹介し…………いや、奥さんならそこに居たなぁ、嬢ちゃん」

 

「もういい!!お前ぶっ殺す!!」

 

「ちょ、やめて妹紅─────!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっは!そうか、そういうことだったのか!」

 

ふぅ…………話を始めるのにだいぶ時間かかった。

 

「はぁ………………」

 

妹紅から色が抜けてる。

疲れたんだな。

 

「なるほどねぇ。つまり、お前は嬢ちゃんのお友達を狙っているわけだ。寺子屋の教師をなぁ、わかるぜぇ、博識な嬢ちゃんっていうのは美女が多いらしいなぁ」

 

すごいこの人、酒と女の人と暴力とお金のことしか考えられないんだ。

 

「慧遠さん、それ偏見だよ」

 

「そうか?学歴の高いセンセーってのは美人が多いんだぜ?ほら、ウワサによりゃぁ、どこぞの竹林にとんでもねぇ別嬪さんの女医がいるとかなんとかな。行ってみてぇなぁ、俺も。どこにあんだろうな」

 

あー……………軽く100000000(いちおく)歳は越えてるんじゃないかなぁ、その人。

 

「それで、もういいかな慧遠さん。俺たち、早く行きたいんだ」

 

「なんだよぉ、つれないなぁ。まぁ、いいぜ。今日はでっけぇ獲物捕まえたしな。上機嫌だから今日のところはこれで勘弁してやるよ」

 

「うん、そうして貰えると助かる。じゃあね、慧遠さん」

 

「おう、気をつけて行きな。嬢ちゃんもな。どうだ、出来れば俺と一杯飲むか?」

 

「行こうぜ、オオバ」

 

妹紅は完全無視して俺の手を引いてその場から離れてしまった。

 

「くぅ~、流石はオオバの相棒。なかなかやるねぇ、おーいオオバ、寺子屋の先生、美人だったら紹介してくれよな~」

 

──────絶対ヤダ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが………………」

 

「あぁ。この階段の先が寺子屋だ」

 

上から子供たちがたくさん降りてきている。

意外と生徒数は少ないわけではないのか。

一介の剣術道場くらいはいる。

 

「よし、行こう」

 

「あぁ」

 

階段を一段ずつ上っていく。

いやしかし、立地悪いなぁ。

この寺子屋、幼い子供が多いのに、階段数多くないかな。

ホントはあの場所、寺院でもあったんじゃないか?まぁ、寺子屋ってそういうもんなんだけどね。

 

 

 

「ふぅ─────ついたぁ」

 

「わりと辛いな…………子供たちはよく頑張ってるよなぁ…………」

 

「同感。脚だけムキムキな子供になりそうだ」

 

しかし、立派な門だな。山門にも似た形状ということは、やっぱりここは古いお寺を改修して作られた寺子屋なんだ。

神や仏の信仰に篤い幻想郷でそんな一大ニュース、俺が里の外に居ても噂になるはずなんだけど…………

俺が知らないのに、生徒だけはこんなに多くいる。

おかしいな、この建物。

なんでだろう、どうして俺が知らない間にできた、古い寺院を使った怪しい建物が、こんなにも民間に浸透しているのだろう。

謎が多いんだなぁ、この寺子屋って。

まぁ、俺が里を出ている間の話だし、俺が知らないのは当然といえば当然か。

それに、こんなにも多くの生徒がいるということは、人気と信頼に溢れた施設ってことだし。

 

 

 

門を潜り抜けた後に、神社の境内のような場所に出る。

誰か人はいないかと見渡したが、子供はもういない。全員帰ってしまったようだ。

 

「これは…………帰っちゃったかな」

 

「そんなことはないだろ。────あ、あそこ!」

 

妹紅の指差した方向を見る。

 

 

 

 

 

そこにいたのは、青い冠に白いシャツ、そしてその上から青いワンピースを着た長い白髪の女性だった。

 

なにやら箒を手に掃除をしているらしい。

 

わりと背が高いんだな。すごい美人…………

─────てゆーか、胸でか。

妹紅と比較すると一目瞭然だ。

子供たち、こんなスタイルも顔も良い美人の授業受けて、集中できるのか?

まぁ、そんなことはどうでもいいか。

 

「あの人が…………?」

 

にわかには信じがたい。見たところ、変わった服装をした美女、というだけだ。

光をギンギンに浴びてもハクタク化していない。

やはり、この人が、満月の夜にハクタクの姿になる寺子屋教師…………妹紅の友人にして、俺以外で唯一人間と共存するワーハクタク、なのだろうか…………?

 

っと、相手がこちらに気付いた。

 

「あ、気付いたな。おーい」

 

妹紅が女性に向かって手を振る。

向こうもそれに反応して、胸元で小さく手を振る。

 

「今はそんなに立て込んでないみたいだ。行こうぜ」

 

妹紅はせっせと向こうに行った。

 

「ちょ、待ってよ妹紅!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、元気か~?」

 

妹紅がこんなにフレンドリーに接する相手なんて、相当仲が良いんだな。

 

「あぁ。妹紅も元気だったか?」

 

しかも声まで美しい!!

芯まで透き通ってる。これは、なかなか聞きやすい授業なのだろう。

 

「おう、私はバッチリだぜ!」

 

「そうか。それで…………彼は…………」

 

「ほい、どうぞ」

 

妹紅に譲ってもらって、女性と向き合う。

 

 

 

「は…………は…………初め…………まして…………」

 

 

クッソォォォォォォォォォォォ!!

俺のコミュ障のバカヤロォォォォォォ!!

 

「ど、どうした…………大丈夫か?顔色が悪いが…………」

 

なにをやっている、神門青葉。

初対面の相手にギクシャクして相手を困らせるな。

 

「ごほん。初めまして、俺は神門青葉。人間の里で道具屋兼民間書士をやってます、どうぞよろしく」

 

……………よし、自己紹介完璧。

 

沈黙が続く。

俺はこの沈黙が大嫌いだ。だから初対面の人とは上手く話せないんだ。この意味不明な間が怖いから。

 

「ふふ、ご丁寧にありがとう」

 

ここまでギクシャクした状態で真面目な挨拶してしまったのが滑稽だったのか、女性は笑ってくれた。

よぉし、笑いが発生しただけで100点だ。

 

「それじゃあ、次は私の番だな。初めまして、神門くん。私の名前は、上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)。妹紅から聞いていると思うが、この寺子屋で子供たちに教育を施している教師だ。…………えぇと、こうして他人に交換するように自己紹介するのは久しぶりでな。私自身も少し緊張しているが、まぁ、軽く受け流してほしい」

 

なぁんだ、ぜんぜん堅い人じゃないじゃん。むしろ面白い人だ。

初対面ですぐに気に入った。

 

「な?仲良くできそうだろ?」

 

「あぁ」

 

「しかし、変わった人だ。こんなところにまで来て、挨拶しに来ただけか?てっきり、お宅の子供が寺子屋(うち)に来るからその挨拶…………というわけでもないんだろう?」

 

あー、それ言われると痛い。

俺、彼女居ない歴=年齢、だからね。

 

「慧音、実はこいつもワーハクタクなんだぞ?」

 

「─────本当なのか!?」

 

分かりやすく驚く慧音さん。

 

「どこの出身だ!?ワーハクタクになった経緯は!?どんな能力を使うんだ!?」

 

「おおぉぉぉぉぉ質問が多い…………っ!!」

 

頭のいい人のこういうところ苦手だわ…………

 

 

 

 

 

「ふむ、ワーハクタクなのは生まれつきなのか。ワーハクタクとワーハクタクの子…………か。ということは、お前の故郷にはワーハクタクが多いということか?」

 

「うん。実は、俺の故郷は山奥にあるワーハクタクの里っていうところで、そこには俺みたいな生まれつきのワーハクタクがたくさん住んでいるんだ。…………慧音さんも生まれつきのワーハクタク?」

 

だとしたらすごいことだろう。生まれてからずっと人間と共存していたのだから。

俺も父さんが死んでしまうまではずっとワーハクタクの里で暮らしていたから、初めて人間の里の店を引き継いだときはずっと人間のことを警戒していたものだ。

 

「あぁ、私も生まれつきでワーハクタクだよ」

 

「……………なぁ、慧音─────」

 

妹紅が何か言いたげそうな表情をする。

 

「おっと、そうだったな。ずっと外っていうのも疲れるだろう。教室は空いているから、続きは中でするとしよう」

 

慧音さんは掃除を済ませると寺子屋の建物の中に入っていった。

 

「──────あ、あぁ」

 

妹紅も続いていった。

 

「──────???」

 

よくわからないが、なんだか妹紅が不安そうな表情を見せている。

どういう意味かはわからないが、まぁ、なんでもいいか。

俺はあんまり物事気にしないから。

 

 

 

俺は慧音さんと妹紅に続いて建物に入ることにした。

まぁ、妹紅や慧音さんの前ではともかく、自分の心の中で誤魔化しても仕方がない。

 

 

 

 

 

本当は、俺はとっくに───────るんだけどね。

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