東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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橙の華・小太刀の伏黒仙翁

 

「稲妻落とし!!」

 

「ぐぇぇぇぇっ!!!」

 

 

 

「稲妻落とし!!」

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

「稲妻落とし!!」

 

「うげぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

 

「稲妻落とし!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

「稲妻落とし!稲妻落とし!稲妻落とし!!!」

 

「いだぃぃ、ちょっ、やめっ、ぎゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

「はい、そこまでですね」

 

「トヨさん…………レフェリーストップ遅すぎ…………」

 

「まったく、どういう事ですか。これほどまで連続で同じ技でやられるなど。受け身の練習でもしているんですか?実戦ではどれほど上手に受けようと貴方の肉体なら即死です」

 

「そりゃそうだ、依ねぇが強すぎるだけだもん。さすがにもう少しだけ加減してほしいよ。俺だってまだまだ未熟なんだから」

 

「そうやって言い訳を言って甘えるのが、貴方の一番良くない所です。姉様はともかく、私に甘えるのは50000年ほど速いです」

 

「うぉ~、さすが月の貴婦人。時間のスケール感覚が違いすぎてピンと来ないや」

 

 

 

 

 

「もう…………依姫ったら…………青葉さんが可哀想だわ。稲妻落としに当たりすぎて頭に大きなたんこぶができているじゃない…………」

 

「仕方ないよ、依ねぇの得意技だからね。それに、避けられない俺が悪いんだ。むしろ真剣を持ち出さずに木刀で相手してくれているだけ幸運だよ」

 

「私をなんだと思っているんですか」

 

「まぁまぁ、そう依姫も怒らないの。オオバも彼なりに頑張っているんだから。貴女に隠れて鍛練もしているのよ。時々ウドンゲを誘ったりしてね」

 

「あ、永琳さん、」

 

「あら、おはようございます八意様~」

 

「もう、八意様もいい加減にしてください。だいたい、なんで彼がまだここに居るんですか」

 

「まだって…………そりゃあ、まだ目的も果たせていないんだから。俺は別にここに剣術修行に来ているわけじゃないんだ」

 

「そうではありません、一度あの物狂いになった患者は助かる術がないと、八意様が自分の口で仰っていたではありませ」

 

「依姫!!!!!」

「──────────っ!」

 

 

 

 

 

「あ……………青葉……………さん……………?」

 

「え…………永琳さん…………どういう事ですか」

 

 

 

「───────ごめんなさい。私は、ずっと…………黙っていた」

 

 

 

「──────────」

「──────────」

 

 

「やっぱり…………無理、でした…………か…………」

「青葉さん!!!しっかり!!!」

 

 

「────────ほんとうは、もう少し、隠し通すつもりだったのに…………」

 

「も、申し訳ございません、八意様……………」

 

 

 

「いや、いいんだ。依ねぇは悪くない。永琳さんも…………顔を上げて。トヨさんも、ありがとう」

 

「オオバ……………」

 

「薄々、勘づいてはいた。こんなに長いことここで育って…………医療の修行をしながらも、まだあの娘が助かる方法がまったく見つからないことを。それを永琳さんに聞こうとしなかったのも、俺の責任だ」

 

「そんなことない、全ては、私の……………」

 

「ごめんなさい、永琳さん。貴女には、余計なお世話を掛けました」

 

「やめて…………お願い…………余計だなんて、そんなことを言わないで…………本当に、ごめんなさい、ごめんなさい……………!!!」

 

「いや…………こちらこそ…………貴女に迷惑だけ掛けて。最後まで、こうして困らせてばっかりで、何も…………返してやれなかった」

 

「青葉さん……………」

 

「トヨさん、依ねぇ。永琳さん…………今まで、お世話になりました。ウドンゲさんと、姫様とテーにも、よろしく言っておいてください…………それじゃあ、俺は、親父の店継ぎに、里に戻りますから」

 

「───────────」

 

「でも、勘違いしないで永琳さん。すごく、楽しかったから。幸せだったから。だから、誇りに思って。貴女は、俺の…………二人目の母さんなんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く……………ぅ………………っ」

 

目がうっすらと視界を取り戻してきた。

胸を熱い痛みが駆けているが、それ以外はまだ……………動ける。

 

「青葉!!!」

「オオバ、大丈夫か!?」

 

 

 

びっくりした。目の前にアリスと妹紅の顔があったよ。

 

 

 

「大丈夫。少し、よろけただけだよ」

 

「お前な、自分の身体の状態ぐらい把握しろよ」

 

知ってる。俺の身体には大怪我があるんだろう?

 

「大丈夫、傷を見ていないから痛くない。一瞬眠っていたのが逆に意識を反らせてくれて助かったぐらいだ」

 

「いいえ、やめて。その身体は、少し動いただけで死んでしまうくらいの重傷よ」

 

アリスが青い顔で俺の傷口を見つめながら言う。

 

「どんぐらい?どうなってる?」

 

ここはなるべく早口で済ませたい。

伏黒がそこまで来ているからね。

 

「✕状に身体が斬られている。分かりやすく言えば麻酔無しで心臓摘出手術の切開作業を受けているような感じだな」

 

「なるほど。じゃあやれる」

 

「お前、さてはアホだろ」

 

心配そうに見下ろしてくる妹紅をどかして俺は立ち上がった。

剣は、あるな。よし、

 

 

 

─────でも、今の反動で決心付いた。こいつは一筋縄では行かない。本当にこいつは強い。

 

なら、ここは死ぬ気でやるしかない。

今さら致命傷が何のそのだ。

 

 

 

「へぇ~。その傷で立ち上がれるなんて、なかなかしぶといですね、凄いや」

 

「この程度なら、全然」

 

「なるほどね。じゃあ、もう一度受けてもらいましょうか。それなら、さすがに死んでくれるでしょう」

 

よし、来るぞ…………神楽が。

 

 

 

「ではもう一度…………二天伏黒剣舞、神楽!!」

 

精度は落ちていないな。むしろさらに速くなっている。この程度と罵られてムキになっているのか、さらに本気度が上がっている。

 

 

 

だが、残念ながら…………その動きは俺たちの八霖儚月流からすればタブーだ。

 

 

 

(─────良いですか、青葉。この剣で一番重視されるのは、【同じ手を相手に二度使わないこと】。そして、【同じ手に二度屈しないこと】。一度見た攻撃ならば、二度目は通用しないのが絶対の掟。そして、二度同じ手に引っ掛からないようにするのもまた基本なのです)

 

 

 

姉貴分が、そう教えてくれた。

そうだ、これを耳にたこができるほと聞かされた俺に、二度同じ技は通用しない。

八霖儚月流は、一対一ならばあらゆる状況に対応できるのが強みだ。

上下の打ち分けを重視した神速の二択の繰り返し。

俺にはできない芸当だ、この剣は素晴らしい。俺には到底真似れない秘術だ。

だが、その剣には大きな弱点がある。

 

 

 

───────それは、高さの概念が存在しない事だ。

 

 

 

仮にも子供の低身長では、相手の上空まで行き来するような体力と体格が整っていない。

だから、俺の周囲360°を回ることしかできない。上の座標が関係していないのならば、横に剣を振っていればいつか当たるのだ。

もちろん、そんな雑な方法でやられるほどの相手ではないことは十分に承知している。でも、だからこそだ。

 

 

 

 

 

「そう──────」

 

剣を握り直す。

 

 

 

「確かに全方位からの奇襲と二択を兼ねたこの強襲法は凶悪だ。一度目では絶対に対応できない。だが、お前が技を一つしか作らなかったのが穴になったな!!!」

 

「───────っ!!!」

 

「そちらが全方位から奇襲が可能なように、全方位に対しての攻撃ならばこちらも可能─────!!!」

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「八霖儚月流奥義─────獣哭(けものな)き!!!」

 

模造刀を地面に勢い良く振り下ろす。

刀身が地面に直撃した瞬間、辺り一帯に凄まじい衝撃波を発生させる。

 

 

 

「ぐっ……………ううぅぅぅぅ!?」

 

突然の地響きと風圧には、子供の身体では無効化はできないはずだ。

なにしろ──────

 

 

 

 

 

(青葉、こんな言葉がございます、「最大の個性は最大の弱点」。つまり────)

 

 

 

 

 

伏黒は素早い、故に………………軽い!!!

軽いならば、獣哭きによって発生した風圧と地響きになど耐えられる筈がない!!

どんなに速くたって、動けなくてはなんの意味もないだろう!!

 

「くっ、風圧で身体が……………!!!!」

 

 

 

軽い…………………故に脆い!!!

 

 

 

「八霖儚月流奥義……………!!!!」

 

 

 

 

 

俺が、嫌と言うほど受けてきた依ねぇの得意技は、今となっては俺の身体にすら見慣れた技として刻まれている。依ねぇの顔より見たこの技は必然、俺の得意技にもなる。

 

 

 

「稲妻落とし…………………」

 

だが、ただの攻撃ではダメだ。この相手には、通常の剣では勝てない。その年で、剣を極めた大人を一度でも撃沈させたのだ。

もっと、もっと強力な一撃を────!!!

 

ただの稲妻落としでは火力がまだ足りない、それを伸ばす方法を、俺は知っている。

それこそが、俺が姉から贈られた、俺へのアドバイスだ。

辛くなかったと言えば嘘になる。逃げ出したくもなった。でも今は、あの地獄があったからこそ、戦えているんだ。

依ねぇ、力を貸してくれ─────!!!

 

 

 

 

 

 

「稲妻落とし──────霹靂(へきれき)!!!!!」

 

 

 

通常の稲妻落としよりも何倍も高い高度からさらにさらに速い速度で急降下。

依ねぇの領域にはまだ程遠かったが、依ねぇが独自に考案した必殺を、見よう見まねで再現できた。

火力の期待値は間違いなくある。常人なら捉えられぬ高速を、

 

 

 

 

 

「くっ……………!!!」

 

この少年は防いでしまった。

なんて動体視力だ。いや、こちらの速度的に見てからでは間に合わない。

来ると分かって準備していたのか。

先読みする力まであるなんて、なんていう化け物だ。この子供を子供として扱うのは無理だ。だから、大人げなく、俺は本気でいかせてもらう。絶対に譲ったりしない。

この絶好のチャンスを逃したら間違いなく敗けだ。だから、今やらなくては。

 

 

 

「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「ぐっ、づ……………うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

俺の刃を抑えていた2本の小太刀は、俺の攻撃の破壊力を殺しきれず、両方とも真っ二つに砕けてしまった。

だが、本体には命中していない。

 

 

 

「くっ、ここは引くしか………………」

 

 

後退も非常に速い。

小太刀が砕けた瞬間に、俺の刀は空を切った。

ダメだ、想像以上に相手のバックステップが速すぎる。凌げたのはそうだが、間違いなく逃げられる。

そんな、駄目だ、ここで絶対に勝たないといけないのに…………!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹紅──────!!!」

「分かってる、行くぞアリス!!!」

 

 

 

 

 

紅咒詛(こうじゅそ)・灼熱の蓬莱人形!!!

紅咒詛(こうじゅそ)・灼熱の蓬莱人形!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、燃える人形─────!?」

 

 

 

 

紅の炎を纏いながらミサイルのように突撃してきた人形が爆発して、後退する伏黒の背後を焼き尽くす。

二人のおかげで伏黒の逃げ道を塞ぐことに成功した。

妹紅の底なしの熱量を誇る焔と、アリスの的確な人形コントロール術が織り成した、奇跡の複合スペルカードだ。

 

 

 

「しまった、退路が……………」

 

慌てて横に逃げようとする伏黒だが、横もとっくに火で塞がれている。

 

「くっ……………うぅぅ!!!!」

 

ならば上に跳躍しようと図った瞬間、

 

「なっ!!!」

 

アリスの魔法の糸が、伏黒の脚を縛る。

さらに、糸が妹紅の炎で炎上し始める。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

人生で二度と体験しないだろう高熱に絶叫する伏黒。

当たり前だが、もう逃げ道などどこにもない。

だが、彼は天才剣士。逃げれないと悟ったらすぐに防御体勢に移行する。

その冷静さと臨機応変ぶりには敬意を払わざるを得ない。だが、もう遅い。

 

 

 

 

 

「八霖儚月流、樹氷砕き!!!」

 

 

一気に踏み込んで、前傾姿勢で低空で跳躍。

空を翔ぶ矢のような体勢で突っ込んだ俺は、すれ違いざまに剣を振るう。

両腕で首を守ろうとする伏黒。だが残念ながら相手を間違えたようだ。相手は真剣を握らぬ、模造刀の使い手。

首を狙ったところで斬れやしない。

俺は彼が頭を守ることを予想していたからこそ、あえて胴体を狙った。

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

俺の模造刀は、伏黒の胴を一閃した。

 

「ぐぅぅおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

真後ろにひっくり返るように吹き飛んだ伏黒は尾骶骨を勢い良く地面に打ち付ける。

 

「ぐっ……………!!!」

 

俺は矢のような体勢のまま、地面に転がった。

 

「ぐはっ……………!!!」

 

転倒した伏黒の口から胃液が逆流する。だが、彼へのダメージはこれに終わらなかった。

 

「くっ……………イライラするなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

立ち上がって、炎の傍で倒れている俺に走り寄ってくる伏黒。

俺のすぐ近くの地面を踏んだ瞬間、

 

 

 

「う、くぁっ……………!?」

 

 

突如地面に落ちていた蜜柑の皮を草履の裏で勢い良く踏んづけて再び後ろ向きに転倒。

今度は頭から落ちたが、地面に後頭部がぶつかった瞬間に地面が陥没して伏黒は巨大な落とし穴の中に落下。

 

がっしゃーん、と鉄屑の山が倒れるような轟音の後、4メートルもある落とし穴の下で、伏黒は鉄屑や木の板といった資材の山の下敷きになって失神してしまった。

 

 

 

 

 

「─────────ラッキー、よね」

「─────────ラッキー、だな」

 

 

 

 

 

妹紅とアリスが顔を見合わせながら真下を見下ろす。

五輪華のひとり、伏黒仙翁は度重なる不運に果てたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

橙の華・小太刀の伏黒仙翁 神門青葉に敗北

 

 

残る剣客、4人。

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