東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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舞い降りる厄は神の恵みなり

 

「青葉……………大丈夫?」

 

アリスが地面に倒れ伏す青葉に近寄る。

 

「─────────ごめん、アリス」

 

胸からよほど出血したのか、藍色の着物にまで血が滲んでしまっている。

ぐったりとした顔で青葉は虚ろにアリスを見つめる。

 

「嘘よ、そんな…………」

 

「無茶…………しすぎちゃったね」

 

死の間際でさえ、彼は穏やかに笑う。

 

「やめて…………お願い…………」

 

アリスの顔がだんだん、濡れてくる。

 

「死ぬわけないよ。確かに、あいつは凄かった。けど、この程度なら…………ね。まだ、アリスを梓から守りきれてないし」

 

「良いの…………そんなこと要らない。居るだけでいいの。だから、死なないで、青葉…………!!!」

 

妹紅は青葉の状況に気付かず、ただ落とし穴の下を見下ろしている。

 

 

 

「──────あはは…………こんなの…………依ねぇとの修行に比べたら、ぜんっ………ぜん…………」

 

「もう喋らないで。それ以上喋ったら傷が開いてしまうわ」

 

「いや、良いんだ。言いたいことが、まだ沢山あるからさ」

 

「……………………」

 

アリスには、もう彼を止める資格などなかった。

 

「えーと…………まず何から言えば、良いのかな…………」

 

青葉の声が弱くなっていく。

 

「とりあえずは…………好きだよ、アリ………ス………………」

 

 

 

青葉の腕が降りてしまった。

 

 

 

「───────────」

 

静かに眠る彼の穏やかな顔が幸せそうだったから、アリスもつい引き込まれる。

その冷えた唇に、顔を降ろし─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、やめとけ?生きてるぞそいつ」

 

ここでようやく妹紅がアリスのところまでやってきて口を開く。

 

「─────────は?」

 

 

 

「あー!!!しぬかとおもった~!!!」

 

青葉が血まみれの状態で起き上がる。

 

「ちょ、え?は?」

 

アリスはめちゃくちゃ複雑な心境に立たされている。

 

 

 

「な……………なんで……………どうして…………僕の神楽を受けて……………」

 

さっきの伏黒が落とし穴から這い上がってきた。

 

「な、こいつまだ動けるのか!」

 

「───────あぁ、それ?」

 

青葉は納得したように、着物の襟を掴んで着物の前を開いた。

 

 

 

「─────────っ!!!」

 

「やー、これがなかったら間違いなく死んでいたよ。君の言うとおり」

 

 

 

着物の襟と青葉の胸が挟んでいたモノが落下する。

地面に落ちたのは、なんとジャラジャラとした装飾が綺麗な人形。神楽を受けたことで傷ついてしまっているが、装飾の部分が金属製のため、人形自体はほぼ無事で、青葉の胸も深い切り傷が出来ていただけだった。

 

 

 

「これ、もしかして…………!!!」

 

「そうそう、メディスンの持っていた人形なんだ~」

 

「どうだオオバ。たまには私だって頭脳労働はできるだろ?」

 

「あぁ。感心したよ」

 

 

 

 

 

 

(シャァァァァァァ!!!)

 

(ぐぉ、危な!!)

 

(青葉!!大丈夫!?)

 

(ほら、私の手を取って立つんだ!)

 

(ごめんありがとう、妹紅!)

 

 

 

 

 

 

 

「まさかあの時……………」

 

「そ。妹紅にこの人形を託されたから、これのお陰で防御できたんだ」

 

妹紅の機転と青葉の激運が重なった結果だ。

もちろん、神楽の辺りどころでは人形もろとも青葉も三枚おろしだっただろう。

 

 

 

 

「そ、そんなっ……………!!!」

 

伏黒が膝から崩れる。

それはそうだろう。自分の必殺を凌がれた理由がまさかの人形だ。

96%くらいの確率で伏黒の勝ちだったろうに、悪運が祟った。

 

 

「なんかさっきから悪運が続いているな。最後に蜜柑の皮踏んだところも面白かったぜ」

 

「そうそう。ついでに転んだ先がまさか落とし穴だったとはね~。なんか運悪すぎないか君」

 

「──────うるさい…………みんなそろって僕のことばっかりバカにして…………!!」

 

伏黒の目は怒りと悔しさに燃えている。

 

「う…………うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

落とし穴で崩れたときに出てきた鉄屑の破片を手に握って、伏黒はまっすぐ青葉に向かう。

怒りに任せた単純な動き、最短距離で突っ切ることしか頭にない。

だが、もう冷静沈着の一言だった彼の面影など、もうどこにもない。

だから、この結末は必然だったろう。

 

 

 

「──────メディスン、頼んだ!!」

 

青葉が人形を顔面に投げつける。

と、同時に─────

 

 

 

『わかったわ!!さぁ、覚悟しなさい、お人形さんを斬ろうとしたサイテー獣人!!あなたにはとびっきりの猛毒を浴びせてやるわ!!』

 

装飾人形から解像度の荒い声が出てくる。

 

「な、なんでだ!?」

 

「ぐわっ、なんだよこれはぁぁ!!!」

 

顔面に張り付いた人形が意志を持つように動き、伏黒の頭を掴んで離さない。

 

『私のお人形さんたちにはみーんなスーさんの毒を仕込んでいるからね!同じスーさんの(どく)を引く私ならどの人形でも遠隔操作できちゃうの!どの人形がどこに居てそこでどうなったかもわかるわ!』

 

 

 

「シェフ~、今日の毒はなんだい?」

 

「今日の毒はこれ。じゃーん、アジサイ!!!」

 

だんだん植物博士の青葉とメディスンのチームワークが良いものになっているのはここだけの話だ。

 

「わーお、マジか!アジサイの葉と言えば料理の飾り付けの定番だね!だけど、葉に実は青酸配糖体が含まれていて、過剰摂取すると青酸食中毒に陥るんだ。そうなると眩暈、嘔吐を起こし、最悪の場合失神、昏睡状態に陥ると言われているまぁまぁ、というかかなり危険な植物だ!」

 

「あーあ、青葉の念仏始まっちゃった」

 

「な、失神…………ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

伏黒は毒と聞いて人形を必死に振りほどこうとするが全く。

 

「無駄だよ、君は速いが力は全然強くない。その人形を振りほどけるのなら、人形ごと俺を真っ二つにできたろう」

 

『えぇ。人形の怒りを買った罰を受けてもらうわよ、死なないだけでもありがたいと思いなさい。これに懲りたら、人形を斬ろうだなんて愚かな考えなんて改めることね!!』

 

「やめ…………う…………………くっ……………あ」

 

 

 

毒が回ってきた上に人形に絞め落とされ、伏黒は今度こそ意識を完全に失ってしまった。

 

「よし、これで完璧。おつかれメディスン」

 

『えぇ。また困ったら人形越しに呼んでね!』

 

「これで、しばらくは目覚めないだろうな」

 

妹紅が安心したように素早く気絶した伏黒を器用に縄で縛る。

 

「それにしてもアリス」

 

一息つけるようになったところで、青葉が話題を反らす。

 

「────────なによ」

 

「眠れる王子様へのキスとか、意外と憧れがあったのかい?フジワラストップがなかったらあのまま行っちゃってたよね?ねぇ?」

 

「──────ちょっとこっち来なさい」

 

「はいはい、王子様のハグググググググゥゥゥゥ!?痛い痛い痛い!!!やめて痛い!!!コブラツイスt」

 

「あっはっは!!いい気味だなオオバ!!」

 

「良くない!!!てゆーか、なんで妹紅は人形なんか持ってたのさ。アレ、俺の店にあったやつだよね?なんで持っていったの」

 

「そ…………そりゃあ…………可愛かったから…………」

 

「ぶははははは!!!妹紅、あの妹紅が…………!?お人形可愛い!?はっはっは!!」

 

「よっしゃ、オオバお前ぶっころしてやるぜ!!」

 

「一緒に殺りましょ」

 

「そうだな!よし、アリス脚抑えてろ」

 

「いだだだだだだだだだだ!!!!やめて!!!!無理やり背中反らさせないで!!!折れる背中折れるゥゥゥゥ!!!俺、怪我人!!!俺怪我人!!!人形に守られたけどいちおう重傷者!!!あと昨日の喧嘩の後の怪我もまだ完治してなーい!!!!」

 

 

 

 

 

「地雷踏んだ貴方が悪い!!!!!」

「地雷踏んだお前が悪い!!!!!」

 

 

 

 

 

 

「すんませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、それにしても、今日のMVPは貴女意外にナシね」

 

アリスが満面の笑顔で指さす。

 

「いやー、それほどでも~」

 

神門青葉は褒めたら伸びる生き物です。

 

「貴方じゃない、そっちのほう」

 

「え?」

 

俺は自分の後ろを振り向いてみる。

すると、木の陰から……………

 

 

 

「あっ…………ひょっとしてバレてたかしら…………?」

 

緑色の髪の少女が現れた。

赤いゴシックワンピに身を包んだ美味しそうな見た目の少女。果物に例えるならサクランボあたりか。

 

「君は………………」

 

「ち、違う違う!!!勘違いしないで!!!味方よ味方!!!敵じゃないから…………お願い襲ったりしないで!!!私に近付いたら大変なことになっちゃうから!!!」

 

「ちょ、落ち着きなさい。誰もそんなこと思ってないよ。君は誰だい、教えてくれ。俺は神門青葉。そっちはアリスと妹紅」

 

「えぇ、知っているわ。はー、助かった…………」

 

少女はホッとしたように胸を抑えて深呼吸する。

優しくて包容力のある穏やかな声だ。

 

「自己紹介するわ、初めまして。私は鍵山 雛(かぎやま ひな)。厄にまつわる神様のたぐいね」

 

 

 

「か、神様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

こ、これが…………神様!?

しかも、厄神!?

 

 

 

「やべ、やべ、供え物供え物…………」

 

「あわあわ、そんなにかしこまらなくたっていいのよ。私は、ただ好きで人間の味方しているだけだから。でも、厄にまつわるからといって、貴方たちを不幸にさせようとか、そういうことは考えていないから、勘違いしないでね?」

 

「あ、あぁ…………君は厄を操るのか?」

 

「正確には溜め込むっていう形よ。だから私自身は不幸にならないけど、貴方たちが迂闊に近付くととんでもないことになっちゃうから…………」

 

ほう。収拾した厄を制御するのは本人でも不可能ときたか。だからさっきから俺たちから距離を取っているわけだ。

だが、性格は人懐っこくて好印象だな。

 

「それはそれとしてごめんなさい、私が偶然ここを通りかかったせいで不幸ばっかり起きちゃって…………」

 

「そうか、どうりで運が悪すぎるわけだ」

 

山賊に紛れてキノコや大木の怪物まで押し寄せてくる。

オマケに偶然五輪華の伏黒がやってくるわで、驚いていた。疫病神にでも取り憑かれたのかと思っていたが、あれはそういうことだったのか。

 

「え?じゃあひょっとして、あそこに偶然蜜柑の皮が落ちていたのは…………」

 

「えぇ。私のせいね。誰が捨てた蜜柑の皮かはわからないけど」

 

やること…………けっこう、ささやか!!!

 

「あの落とし穴も?」

 

「えぇ。誰が掘った穴かはわからないけど」

 

なるほど、これは正真正銘、悪運の神だ。

 

「もしかして、人形に神楽が命中して俺が助かったのも………」

 

「私ね、誰が仕込んだ人形かわからないけど」

 

幸運の神ですか貴女。信仰させてください。

 

「私、厄が誰に移るかなんて想定できないし制御もできない。だから困っていたアリスたちを助けようとしてもちょっと不幸が移っちゃったのよ。結果的には助けられたみたいでよかったけど」

 

「いやいや、本当に助かったわ。貴女がここを通っていなかったら3人ともやられていたところだったわ」

 

アリスの言うとおりだ。悪運の神かなんだか知らないが、ここを通ったことだけは間違いなく奇跡クラスの強運だ。

なんだかんだって神様はどんな形であれ最後はこうして幸運のご利益を持ってくるものだ。

 

「アリスとは知り合い?」

 

「えぇ。彼女とメディスンとは旧知の仲よ。彼女は雛人形の化身とも言えるからね」

 

「そうか、メディスンは人形だし、雛は雛人形の雛か。人形師らしいネットワークだね」

 

雛人形にちなんで流し雛というものがある。

流し雛とは上巳の節句、すなわち「ひな祭り」で使った後の人形を川に流す伝統行事。

罪や穢れを祓うと言われており、祓形代とも呼ばれていた。

そんな流し雛で流される雛人形を象徴する彼女は厄や穢れとは大きな縁がある。そういうカラクリなのか。

 

 

 

「雛、君はどうしてここを歩いていたんだい。ここらへんは獣人の山賊が我が物顔で歩き回っている。いくら近付けぬ神といえども…………」

 

「あぁ、それ。実は、友達が獣人の男の人に捕まってしまって…………」

 

「────────え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「風見幽香っていう妖怪なんだけど…………」

 

 

 

 

 

それって………………

 

 

 

 

 

(いい機会だから覚えておきなさい。何事においても、【綺麗な花には棘がある】ものよ)

 

 

 

 

 

あの風見幽香……………?

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