東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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優美なる剣客

 

「耐久戦ね、さて何秒耐えられるか見物だ!!」

 

そう言って、菖は鎖鎌を物凄いスピードで振り回し始めた。

円盤のように残像を描いて回転する鎖が暴風を巻き起こす。

 

「そぉりゃっ!!!」

 

そして、目一杯に勢いをつけたあとに、妹紅に向けてその矢の如し鎖刃を弾いた。

 

「させるかッ!!!」

 

妹紅に直撃する前に飛来する鎖を弾いた。

 

「青葉!!!」

 

「さっきは妹紅が庇ってくれた。今度は俺の番だ」

 

「バカ、やめろ!お前こんなことしている間に慧音はどうしたらいいんだよ!」

 

あっ、そうだった!!

 

「お話するなんて大概な余裕だこと!」

 

今度は鎖についている短刀の柄を握り、鎌の方を投げつけてきた。

 

「うわっ!?」

 

「くそっ、早く行け!!」

 

妹紅は俺を遠くへ突き飛ばし「先に行け」と合図だけ出した。

妹紅の目の前をすごい速度で飛んでいく刃。

くそっ、俺は何をしているんだ。目の前で友達が必死に戦っているって言うのに。

いや、ここは妹紅のためにも早く慧音さんを助けだそう。

 

(悪い妹紅、すぐに助けに戻るから!)

 

俺は立ち上がって慧音さんがいる教室へ直行する。

幸いにも、菖からの妨害はなかった。強者の余裕というやつだろうが、今は助かる。

最短で突っ切って、教室の襖を開いた。

 

 

 

 

 

 

「慧音さん、大じょう………………」

 

襖を開いた瞬間に、俺は絶句した。

大丈夫という簡単な言葉が途中で詰まってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆうかりーん、なんか食べたいものあるか?」

 

「御衣黄、まずはその呼び方をやめなさい」

 

「お前だって俺の事を御衣黄って呼んでいるじゃないか。植物好きすぎて俺の名前が植物にしか聞こえないんだろう」

 

「──────何もないわよ、」

 

「あのなぁ、俺の厚意を何だと思っているんだ。お前はただの餌役なんだから、人道的に扱わないといけないんだよ。最低限の要求には応えなくちゃ」

 

 

 

(だったらこれを外しなさい!!)

 

 

 

「妖怪はわかんないねぇ。人間と違って変な事ばかり考えているし、どいつもこいつも変人ばかりだ」

 

「変人は貴方の方でしょ」

 

「お、正解正解。俺はケダモノじゃなくて変人なんだよね。やっと分かってくれたんじゃんか~。俺、性格こんな穏やかな感じだけどさ、あんなケダモノらと一緒にされるのだけはホントにプチッて来る程に嫌なんだよ~」

 

「……………………それは知らん」

(というか、さっきから思ってたけど仲間どうしで斬り合うってどういう神経の持ち主なんだこいつらは…………)

 

「お、いい質問だね」

 

「なんにも喋ってないけど?」

 

「でも顔に書いてあるから読めるんだ。俺ら五輪華がなんで互いに敵対しているか、教えてあげようか。ここにずっと二人きりで居てもつまんないだろうし」

 

(だからこれを外せと言っているんだけど………!!)

 

黄御…………通称、御衣黄は立ち上がると、お菓子を広げていたちゃぶ台を退かして寝っ転がってしまった。

 

「話すんじゃなくて?」

 

「うん。寝ながら話すわ」

 

幽香は改めてため息をつく。

 

 

 

「俺ら五輪華はな、君たちから見れば、単なるお嬢の護衛に思えるんだろう。だが、それは間違いなんだ」

 

「へぇ~」

 

一方的な話にはなんの関心も示せない。

だが、御衣黄はその生返事を気にも留めず続ける。

 

 

 

 

 

「正しくは、「一家の相続権争い」の関係性だよ」

 

「──────ほう、」

 

一瞬聞こえた闇深そうな単語に、幽香の好奇心は持っていかれることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りには血痕がぶちまけられていた。

机や壺等々の備品はひっくり返って砕けており、向こうの障子の前に、一人の青年がいた。

その左腕の中に、口を布で縛られて声が満足に出せない慧音さんが抱かれていて、青年の右手には刀身の太い、青龍刀のような武器が握られていた。

 

「───────!!!」

 

口を封じられながらもこちらに気付いた慧音さんは必死に声を上げる。

わかっている、それは助けを呼ぶサインだ。

 

 

 

「慧音さん!!!」

 

「けーね…………?へぇ、いい名前じゃあないか」

 

顔も体型も声も全てが穏やかで優しいその青年は完成された理想の男性像を思い浮かべる。

しかし、行動自体はただの悪魔だ。

 

 

 

「慧音さんを離せ─────!!!!」

 

殴りかかりたい気持ちを抑えて冷静に踏みとどまり、叫ぶ。

人質というより人攫いに見える。腕の中にいる慧音さんに怪我はないみたいだ。

じゃあこの血痕はいったいなんの血の痕なのかが気になるが、慧音さんのものじゃないなら別になんでもいい。

 

「────そういうのは自分が有利な時に言うもんだ」

 

男は手にした剣で横を差す。

それにならって俺も右を見る。

血の痕はそこから来ているようだ。

 

 

「─────なっ、」

 

壁に一人の子供が打ち付けられていて、袈裟に斬られた身体から大量の血を流していた。

 

「伏黒!!!」

 

さっきまで俺たちと互角に戦っていたあの伏黒が、こんな一瞬で!?

 

「─────全く、最悪だ。俺にとって命よりも大事な八卦刀がこんな猿の汚ならしい血で汚れた。美しい者以外の血で紙魚を付けたくないんだがな」

 

着物で刀についた伏黒の血を拭いながら男はその美貌を心底不愉快そうな表情に変える。

 

「猿……………だと?」

 

「あぁ、この世は美しい者が全て。その他は不要物。見たところ……………アンタはこいつの夫ってわけだな。へぇ、やるじゃないか。その顔、髪、男気と可愛らしさを兼ね備えていて美しいな。華奢な優男の完成形がアンタの姿と言えるだろう。誇っていいぞ、並みの女は見ただけで狂う。ただ…………瞳が濁っているのは少し減点だな。もっと明るく行こうか」

 

………………はい?

 

「なんなんだお前は、お節介は結構だよ。だいたい、俺は彼女の恋人じゃない、ただの友達だ」

 

「マジかよ!!勿体ねぇな!!こんな綺麗な女が目の前にいるなんて狙わないなんて。アンタ、人生の六割は損してるぞ」

 

「いいからさっさと慧音さんを離せ!恋バナは俺ら二人で十分だ!」

 

「そう焦るなよ。ほら、折角の美貌に瑕が付くじゃないか。……………どうだ、お前も俺の仲間にならないか?俺は美しい者以外の全てを許容しないが、アンタはなかなか非の打ち所のない美男子だ。こっちからお願いしたいな。俺たちと共に汚物どもを根絶やしにしようじゃないか。うちには綺麗な女、いっぱい居るぞ~?遊郭とかとは比べ物にならないぐらいの桃源郷だ」

 

「俺がそんなものに釣られるとでも思ってるのか」

 

俺をからかっているのか、こいつは。

 

「女遊びしたことないのか、そりゃあさぞかしつまらない人生を送っているんだろうな。アンタ、十中八九童貞だな」

 

はぁ!?舐め腐ってるぞこいつ!!

 

「…………お前、目的はなんだ!」

 

「この女が美しいと思ってな。是非とも戴こうと思い、参上した」

 

「どうして伏黒を斬った!!」

 

「邪魔だから、汚らわしいから、敵だから、鬱陶しいから。以上だ」

 

「邪魔だと…………?」

 

「この世で一番美しいとされるこの俺の道を阻むのは万死に値する。あまつさえ、それが美の欠片も見られない蟲ならば、思わず叩き潰さずにはいられない。今日は最高の一日になるはずが、かえって最悪の思いをさせられた」

 

ダメだこいつ。人を斬ることに躊躇がない…………!

 

 

 

「ひとつだけ、関係ないことを訊かせろ」

 

「なんだい?他でもない美少年のお願いだ、一つぐらいは聞いてやろう」

 

強者の余裕っていうはこういう時は便利になる。

 

「まず、お前も五輪華の一人だな」

 

「あぁ、その通り。五輪華随一の美剣士、竜胆筆竜だ。名前と顔は覚えて帰ることだな」

 

うーん、今度は筆竜胆か。確かに、あの美しい、蒼い花弁は彼の容姿に酷似している。

 

「なんでお前ら五輪華は仲間どうしで敵対しているんだ。廊下で合った菖ってやつも、伏黒が嫌いだったみたいだし」

 

「あぁ、お前は伏黒から聞いていなかったのか。菖も下手な所で何も言わんもんだな。幾つになっても(おんな)の扱いってのは難しいねぇ」

 

まさか、愛人どうしか、こいつら。

なら、互いに敵対している五輪華の中で唯一タッグを組んでいるのも納得がいく。

 

 

 

「ま、身柄は確保したんだし。等価交換で情報ぐらいはやってもいいか。いいだろう、教えてやろう」

 

「─────────」

 

「お嬢…………梓にはな、両親が居ないんだ」

 

両親が…………いない?あんな小さな子供が?

 

「ちょうど物心ついた時に死んじまったらしくてな。そうすると、あんな小さなお嬢は一人で生きていく力もない。だから、新しい保護者が必要になるんだ」

 

「保護者……………」

 

 

まさか、アレは…………そういうことだったのか!?

 

 

 

(初めまして神門青葉君。私は椰子飼 雲月(やしがい うづき)。そこいらのしがない獣人だよ)

 

(ちなみに父親は龍臣さんという少し肥った人なんだが、ちょっと困った人でな。)

 

 

 

「父親と思われる奴が複数人居るのは、そういうことだったのか!」

 

「頭の回転まで速いか、やっぱり斬るには惜しい。…………そうさ、俺らはその中でどの椰子飼梓の父が父親に相応しいか競争しているんだ。椰子飼梓の実家は母親側が資産家でな。そこの莫大な財産を手にするためにはその家の父にならなくちゃいけない。だから、ちょうど両親が他界したのを機に俺らの主が動き出したってわけさ」

 

「じゃあお前らは梓の護衛なんかじゃなくて…………」

 

「そう。その父の護衛だ。こっちはこっちでドえらい戦争しているって時にアンタらは要らないちょっかいを掛けててきたってことさ」

 

くっ、勢力図はどうなっている!?

梓はなんなんだ?

この件においては被害者なのか?加害者なのか?

 

「当の梓はどう思っているんだ」

 

「知らねぇ事を訊くんじゃねぇ。…………さて、質問には答えた。こっちも一つ訊いていいか?「はい」か「いいえ」で答えれる程度の事だ」

 

「なんだよ」

 

「アンタ、ちゃんと後ろ見てるかい?」

 

「なっ…………!!!」

 

 

 

 

まさか、もう菖が………………

 

 

 

 

「なぁんて、嘘だよ、馬鹿野郎!!!」

 

「あぁっ!!」

 

腕の中から慧音さんを優しく突き飛ばすと、竜胆はその長い剣を持って俺に突撃してきた。

 

 

 

「卑怯者が………!!!」

 

間一髪。

 

「ほう…………?今の受けれるのか。アンタ、どこの流派だ?」

 

「俺の剣は……………天下の八霖儚月流だ…………ッ!!!」

 

剣を鍔で勢いよく弾き、竜胆の腕を蹴っ飛ばして距離を離させる。

しかし、

 

「ぐっ……………」

 

脚が左手で軽々と止められてしまった。

 

「なんだその無名の流派は。俺の大陸式八卦掌とかいう、普通の技に文字通り手も足も出ていない」

 

「ごはぁぁぁっ!!!!」

 

視界が真っ白になったと思ったら、背後の壁に亀裂が入っていた。

俺は今…………何が…………

 

「ぐづ、─────うごっ…………!!」

 

喉と口が熱くなって吐いたと思ったら吐瀉物に大量の血が混ざっていた。

そして、身体の芯が重い。今になってやっと解った。俺はいま、腹に勢いよく八頸を食らわされて吹き飛んだのか。

かなり離れた距離に竜胆が立っている。

切り傷がないのを見るに、俺は本当にいま、素手でやられたのか…………!?

 

「ふん、剣客の五輪華として、もはや剣を出すまでもないな。女一人も守れないか…………まぁ、模造刀ではそんなもんか」

 

「いっ、っづ……………」

 

駄目だ、立てない。

竜胆は床に転がった俺の剣を拾い上げる。

 

「しかし、理解に苦しむな。なんでよりにもよって模造刀だ?俺も武器にはこだわり深い。武装を厳選する気持ちは共感できるが、劣化品を使うということは、相当腕っぷしに自信があるってことだろう?しかし、蓋を開ければそうでもないじゃないか」

 

模造刀を投げ返された。

握りたいが…………こんな身体では…………

 

「違う…………加減とかじゃない…………俺は…………誰も傷つけないようにするために…………」

 

 

「くっ、くくく、ははははははは!!!」

 

竜胆が腹を押さえて大笑いする。

 

「そういうことか!お前、まさか他人に怪我をさせるとでも思っているわけか!」

 

ひとしきり笑い止むと、満足したように竜胆はこちらに歩み寄る。

 

「安心しろ。今のお前には、本気を出そうが五輪華の誰一人として殺せない。良かったな、真剣を握っても人を殺せないんだぞ?羨ましい限りだ。俺なんて、武器の使い方を少しでも間違えれば今のお前を殺しかねない実力だからな。かなり慎重になっていたよ、お前と同じで、余分な殺生は俺も嫌いだ。武器と着物と身体だけが血で穢れるんだからな」

 

「……………………っ」

 

「おそらくアンタが習ったのは並みの殺人剣ではないようだが…………それも別に人を殺めるほどの力もない。まったく、どんなわからず屋がアンタなんかに剣の免許を皆伝したんだ。親の顔が見てみたい」

 

「───────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

(そして一番大事なこと。絶対に、その剣で他人を斬ってはいけない)

 

 

 

 

 

 

 

 

なにを……………何にも解っていないのは、お前のほうだ。

 

「剣術は、他人を殺すためにあるんじゃない!」

 

「なんて暴論だ。剣の出自から勉強し直してこい。剣術は武器を用いた殺人術の一種だ。人を殺すために、人を脅すために、人を支配するためにあるんだ」

 

「俺もそう思うよ。どんなに綺麗に言いかえたって、剣術は元々誰かを殺すためにあるんだから」

 

「じゃあなぜ、」

 

「でも俺は!師匠にそう教わったんだ!剣術は、人を殺すためにあるわけじゃないって!」

 

「なるほど、それは災難だったな。アンタ、要は武術を趣味程度に嗜んでいるだけの、ただのニワカに育てられていたわけだ」

 

「うるっせぇぇぇぇぇ!!!」

 

勝手に脚が弾けた。

 

「ぐっ!!」

 

そのまま登頂を叩きつけるだけの頭突きが竜胆の顔に直撃した。

顔を押さえながら後退する竜胆。

 

「これ以上、俺の師匠をバカにするなぁぁぁ!!」

 

「フッ、怒った顔も案外綺麗だな。だが…………」

 

竜胆が先程までの穏やかな目付きを急に変え、矢のような目線で俺を睨んできた。

 

 

 

「─────俺の顔を傷付けたっていうのは、誰であれ許されない行為だっていうことぐらい、理解はできるよな?」

 

「─────お前のほうこそ、俺の師匠の顔に泥を塗ったんだ。お互い様だ」

 

「ハン、その理屈がまかり通るのは、お前の師匠がハッタリじゃなかった場合だけだ!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

俺は今一度立ち上がって、動けない身体に鞭を撃つ。

そして、竜胆に斬りかかった。

 

懐かしい、昔もこうして、勝てない相手に斬りかかっていた記憶が……………!!

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