東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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奪われたもの

 

「いっ…………づ……………」

 

痛くて眠ってもいられない。そのまま俺は布団から起き上がった。

─────見知らぬ場所だ。

ここは、里の診療所か何かだろうか。

 

 

 

「よう、オオバ。気分は?」

 

水の入った桶に布を浸しながら妹紅が呼び掛けてきた。

なんか、甲斐甲斐しく看護してくれている妹紅って不思議だ。「医療」が枕詞であろう永遠亭とはライバル関係なのに。

 

「最悪。痛くて眠ることすらできない」

 

「そりゃあな。医者言うには、腹以外に折れている箇所はないんだってさ」

 

腹は折れたのか。

一撃で人の腹の骨を折るなんて、筆竜はなんてやつだ。

 

「アリスは雛も居たんだが、さっきどこかへ行っちまった。もしかしたら何か今後の事で対策でも思い付いたのかな。風見幽香の救出、慧音の奪還。いろいろやることあるからな」

 

「そ、そうだ。伏黒は…………」

 

「なんとか、な」

 

「良かった……………」

 

伏黒のやつ、俺を超える重症を負っていた。あの致命傷、簡単に生きては帰れないものだったのだが、なんとか一命を取り留めたのか…………

一番気にしていたことが解決して俺は力が抜けてまた布団に寝転がった。

 

「──────無事だったんだが………」

 

妹紅が声のトーンを下げてつぶやいた。

 

「なにかあったの?」

 

「その…………医者が言うにはさ、命に別状はないんだけど、特に脚へのダメージがひどすぎるみたいでさ。もう…………激しい運動はできないんだってさ」

 

「──────激しい運動?」

 

「あぁ。リハビリしたところで走ったりするのも困難。まして剣を振るなんて一生無理なんだとさ」

 

「そんな……………」

 

あんな天才剣士が、二度と剣を振れない…………なんて。

確かに、あの神楽はとてつもない足技と敏捷性があってこその大技だ。脚が不自由なら絶対に出来ないのだろうが…………

それにしても、剣すら振れないなんてあんまりだ。

彼は、その剣で、将来に有望な未来を掴めたのかもしれない。頂点に立つくらいのことは出来たに違いないというのに。

 

「───────────っ!!」

 

俺は床を思いっきり殴り付けた。

 

「オオバ……………」

 

「あんな元気な、小さな子供が…………二度と走れないのか?二度と剣を振れないのか?ただ、少し邪魔をしただけで…………」

 

あぁ、伏黒があぁなったのは、完全にあいつのせいだ。

俺たちは、こうならないように、怪我しない程度に留めていたのに。

何が剣術だ。やっぱり、あいつの剣は人を誰も幸せにできない。俺は助けれた。伏黒を傷付けずに倒せた。だが、あいつは血を流させないと気が済まないんだ。

あいつの身勝手な行動が、一人の小さな子供の未来を、夢を、人生を奪ったんだ。

 

 

 

 

 

「竜胆筆竜…………あいつだけは、絶対に許さない…………!!!」

 

 

 

あいつは問答無用で、本物の人殺しだ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────そうですか。僕はもう、剣は振れないんですね」

 

しばらくしたら歩けるほどにまで回復したので、伏黒の病室まで遊びに来てみた。

戻ってきた医者が改めて伏黒に事情を説明すると、彼は特になんにも声を変えることなく、たんたんとその事実を受け入れた。

 

「──────ごめん、俺が、一緒についていれば」

 

「あの致命傷だったんだ、死ぬよりかはまだ良いですよ。それに、青葉さんが助かったのならよかった」

 

なんて、良い子なんだ。こんなに根は良いのに、なんで彼は未来を奪われなくてはならなかったのだろう。彼は、不幸になるべき人種ではない筈なのに。

 

「──────まるで、俺だけが生き残ったみたいで、恨めしいかい」

 

「まさか。仕方のないことですよ、ただ…………少しだけ悔しいですね。筆竜さんには勝ちたかった」

 

「──────必ず君の仇を取る。慧音さんを助けて、筆竜をボコボコにしてみせる」

 

「できたら良いですね。そう簡単に攻略できる相手ではありませんが」

 

……………今なら、行けるかもしれない。

 

 

 

「だから伏黒、俺に教えてくれ。五輪華の事と、梓ちゃんのことについて」

 

「…………………………」

 

「俺は勘違いしていた。梓ちゃんはてっきり、ただの悪い子だと思っていた。だけど、本物の悪魔は梓ちゃんなんかじゃなかった。本物の黒幕は、梓ちゃんのお母さんの財産を狙った男たちと、その護衛たちだった」

 

「そうですね、だからどうすると言うんです?」

 

「俺は、梓ちゃんを守るために、あいつらと戦いたいんだ。だから、森の奥のことと、他の五輪華たちのことについて教えてくれ」

 

「───────なるほど」

 

伏黒はしばらく黙ったあと、決意した。

 

「まぁ良いでしょう。けーね先生はさらわれちゃいましたし、僕はこんなんだし。そもそも、僕のことも助けようと医者を呼んでくれたのもあなたたちですし。恩は返します。知っている範囲でお話ししましょう」

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────まぁ、まず敵のことから把握しないとですね。

主な敵はもちろん五輪華。そして、彼らの率いる数百人の手下たちです。

 

 

 

数百……………!?

 

 

 

はい…………すごい数ですよねまったく。

ですが大体の山賊は下っ端。あなたたちなら余裕で突破できますが、問題は五輪華。

彼らは一騎にして当千。他の雑兵とは比べ物にならない強さを誇ります。

一人があなたがこの前会ったという亦紅さん。

二人目が僕。

三人目と四人目が筆竜さんと菖さんです。

 

 

 

─────最初に会った時に言ってたな。

…………それで、最後の「長ドスの御衣黄」ってヤツ。こいつだけは今の時点ではなんにもわかっていない。こいつはなんなんだ?

 

 

 

実は、僕も知らないんです。彼自身も、その主も、なかなか顔を出さないもので、御衣黄という男の顔も姿も、僕は見たことがないんです。

ただ、長ドスが武器ということしか。

 

 

 

なんか、急に最強感溢れるやつだな…………

 

 

 

ついでに実力も不明です。

なんで僕らと関わりを持とうとしないのか、それがわからないんですが……………

ただ、敵対するのかしないのか、なんにもわからない不安因子の塊なので、他の人たちが潰そうと刺客を遣わしたりしていたんですが、毎回全員致命傷を負って帰還してくるそうです。

 

 

 

彼らは何か言ってたのか?

 

 

 

彼らはみな、「意味がわからない相手」とだけ語っていました。

ただ、彼の髪の毛一本すら、切り落とした人はいないとのこと。だから、彼は五輪華の一人として君臨するにはちょうど良い力量であることは間違いないのだとか。

 

 

 

(なるほど…………つまり、筆竜よりももっと分かりやすい強者ってことか)

 

 

 

なんで顔を出さないのでしょう?

僕らと関わりを持つのが嫌なのでしょうか。

聞いたところ、どうやら僕ら野犬人のことが嫌いなそうで…………自分も五輪華だというのに。

 

 

 

五輪華ってどうやってなるんだ?

 

 

 

五輪華は勝手に結成されました。もともと三輪華だったものが、僕が加入した時に四輪華に。そして、最後にやってきたのが御衣黄だったんです。

彼は手紙だけ寄越してきて、勝手に五輪華に加入したことにしてきて…………

 

 

 

とにかく徹底して表に出ないんだな……………

 

 

 

まぁ、結局のところは僕らも敵同士なので、隠れて立ち回るのは正しいと言えば正しいのですがね…………

 

 

 

よし、とりあえず大まかな勢力図はわかった。どこに行けば良いんだ?

 

 

 

昼、僕と戦った場所がありましたね。あそこをもっと先へ行くと、きっと大きなお堀が見つかるはずです。

そこに沿って回っていくとそのうち門前に出られるはずです。

 

 

 

門…………堀…………なに、そんなにでかいの?

梓ちゃんの家。

 

 

 

はい、めちゃくちゃ大きいですよ。

たぶん、全部歩いて回りきるのに二、三時間は平気でかかると思います。

御衣黄は本丸に、二の丸には亦紅さん。三の丸には僕がいたんですが、三の丸はとっくに陥落しているでしょう。

筆竜さんと菖さんだけはちょっと居所がわからなくて…………

 

 

 

陥落した…………?なんでわかるんだ。

 

 

 

たぶん、僕の主である龍臣さんはもう殺されています。

 

 

 

なんだって……………?

 

 

 

これは五輪華の争いというより、椰子飼家の相続権争いですからね。

僕は負けたのだから、遅かれ早かれ龍臣さんは筆竜に殺されています。

 

 

 

……………筆竜、あいつは、人を殺すことも厭わないのか?

 

 

 

まぁ、あそこまで非情な人は居ませんよ。

外道働きこそしませんが、残忍冷酷を嫌う性格ではないですから。

美しくなければ、強くなければ彼にとって全てはゴミ未満ですから。

むしろ、再利用できるぶん、かつては使われていたという部分、ゴミの方が偉大と評価されるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────わかった。ありがとう」

 

「はい。ですが青葉さん、帰られる前に、ひとつだけ良いですか」

 

「え?」

 

「あなたは、梓ちゃんをどうするつもりなんですか?」

 

「──────────」

 

俺は、その質問にすぐ答えることができなかった。

梓ちゃんを殺すことはするつもりはないが、抵抗してきた場合は、多生の怪我を負わせる形になるのかもしれない。

でないと、こっちが殺されてしまう。

 

「お願いだけはしておきます。…………梓ちゃんを傷付けないであげてください。今回の事、梓ちゃんは悪くないのだから」

 

「───────わかった」

 

「その剣が、いったいなんの為にあるのか。筆竜さんは理解に苦しんでいましたが、僕にはわかります。あなたなら、その剣に意味を与えたはず、それを、忘れないでください」

 

誰も傷付けないで勝つ……………か。

自分でも迷うくらい、意味不明なこと言っているんだな……………俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────」

 

気持ちのやりどころがわからなくなって、俺は自分の病室に用意された布団に寝転がっていた。

妹紅は帰ったから話し相手もいないし。

 

「梓ちゃん…………実家には居るってことなのかな。例の城に梓ちゃんが居るってこと訊き忘れちゃったな」

 

天井を見上げようと寝返りをうつと、背中が酷く痛んだ。

 

 

「──────ぐ………っ!」

 

……………これは痛い。

しばらくは戦えそうにないな。椰子飼城に攻め入るのは…………もっともっと後の事になりそうだ。

まずは、この怪我が治るまで……………

 

「ふぅ……………」

 

この部屋がいい加減退屈になってきた。まぁ、病室に楽しいもなにもないんだけど。

退屈になったので、窓を開けて夜空を見上げようとしたが、屋根が邪魔になって見えない。

 

「よっ、と」

 

窓枠から外に出て、上手いこと窓枠を手すりにしながら壁を伝って、屋根の上に上がれた。

大怪我していてのんきな奴だ。この期に及んでまだこんなに危ないことをしている。

 

 

 

「はぁ…………………」

 

もう、心が疲れたのでため息を一つつく。

結局俺はどうしたらいいのか。そもそも、勝てる保証がない。あの筆竜と菖のタッグを撃破して、亦紅を倒し、なおかつまだどれだけ強いかもわかっていない御衣黄に勝ち、ついでに梓ちゃんともう一度相対するのだ。

そこまでに数百の雑魚たちとの闘いも待ち受けている。

こんなの、命が幾つあっても足りやしない。

ついでに、こうしている間に、拐われた慧音さんはどうしているのだろう。

次々と不安が出てきては新しいものに塗り替えられて消えていく。

 

 

 

「───────もう、疲れた」

 

座り込んで、目下の屋根の木目を眺める。

 

 

 

「何がお疲れなのですか、青葉さん」

 

ポン、と俺の肩に優しく柔らかい手が置かれる。

この感触、匂い……………俺はよく知っている。

首で後ろを振り返る。

────そこには、月明かりを背に、麗しい笑顔の貴婦人が居た。

 

「────────トヨ………さん………」

 

「はい。お久しぶりです、青葉さん」

 

そう言って、トヨさんは微笑んだ。

相変わらず…………ほんとうに綺麗な人だ。

直視していると、顔が火照って体が熱くなってくる。

 

「あ、俺の渡した数珠。着けてくれてたんだ」

 

トヨさんの腕に、蒼いトンボ玉の数珠が巻かれていた。

 

「はい。青葉さんも、私の差し上げた紋章、使ってくださって嬉しいです」

 

俺の刀、その柄にちょっと横向きに孔を開け、そこからチェーンであの紋章を提げたのだ。

なんてったって、身につける場所がない。

俺の着物はトヨさんみたいなヒラヒラとした服ではないので、帯が太い。着ける場所がないので、仕方なく武装に取り付ける形になった。

 

「なんでここに居るってわかったの?」

 

「妹紅さんから聞きました。青葉さん、大怪我して里の病棟で眠っているって聞いて心配したんですから」

 

「にしたって、出てくるの急だねぇ」

 

「もう。青葉さんが連絡をくださらないからではないですか」

 

「そうだね…………ごめん、トヨさん。…………少し、話し相手してくれる?」

 

こうして、俺たちは久しぶりに言葉を交わすことになった。




綿月依姫(わたつきの よりひめ)

永琳の弟子の一人。青葉の姉貴分。
姉と共に月から地上の監視をする役割を担う「月の使者」のリーダー。
なので本来は月に住まう者だが、たまに永琳に挨拶に行くために地上へ出向くことがある。月の民からすれば地上とは欲にまみれた獣が幾千と住まう、まさに穢れに溢れた土地。
なので彼女自身は地上が大嫌いなのだが、師匠に会うことは楽しみらしい。
本編では今のところ戦闘能力は明らかになっていないが、青葉よりはずっとずっと強いそう。
青葉にとっては剣術の師匠でもあり、彼女の指南を受けて彼は剣術において成長していくことになる。木刀とはいえ何百回と殴られるため、地獄のように過酷な修行である。並みの玉兎たちは怖くて出れなかったり、言い訳つけて逃げたりする程の修行なのだが、なんとか青葉はその精神力で耐え抜いたらしい。
礼節が有り、作法が成り、礼儀を重んじ、冷静を欠かないまさに武人の姫と言わんばかりの厳格で負けん気強い女性であり、そのあまりの気難しさには師匠である永琳や姉の豊姫、親友の輝夜ですら手を焼いている。
リーダーとして常に相応しい姿であるべきと自分を厳しく律しているようすだが、本人は意外とルーズで、実は厳しすぎるのは表向きだけなのかもしれない。



綿月豊姫(わたつきの とよひめ)
同。綿月姉妹の姉の方であり、妹と同じく青葉の姉弟子。
厳格な妹に対してこちらはその真逆。食べたい時に食べたいだけ食べ、眠りたい時には飽きるまで眠る。
天真爛漫な性格はどこぞの白玉楼の亡霊にそっくり。
とにかく周りを甘やかし、その倍ぐらい自分自身は自由人。依姫が鞭ならこちらはまさに飴といったところだろう。
依姫の厳しい特訓に限界を迎えた玉兎たちは揃って豊姫と青葉に泣きつくらしい。
青葉は彼女を永琳を同じ師に持つ姉弟子としても、一緒に暮らしてきた第二の姉としても慕っている一方で、理想の女性としてまた特別な想いを寄せている。
当の豊姫も青葉には弟分とも異なる愛情を注いでおり、次の輪廻では一緒に幸せを育むという約束までしてしまっている。
月の民と地上の民では流石に共に暮らすことはできないが、たまに会っては夫婦のような楽しいひとときを過ごしているのだそう。
そんな優しく、自由で可憐な人となりだが、本性は依姫すらもが一歩引き下がるほどの大物。
剣術を会得している様子は見られないが、もしかしたら依姫よりもヤバい人かもしれない。
常に1本の太刀を携えている妹に対してこちらは扇子を持っている。それがマズい武器なのか、今の時点では不明。まぁ、なんもないわけがないんだが。
ちなみに、第二次月面戦争は青葉が永遠亭を出て人間の里で父の道具屋引き継いでからの話だったので、青葉自身は残念ながら綿月姉妹の活躍を目の当たりにしてはいないが、もし参加していたら巻き込まれて粉に変えられていただろうということだけは確かだ。


「青い白沢の歴史編纂」においての永夜異変
これはあくまで本作の世界線における解釈なのでアレだが、実は青葉は永夜異変に関わりかけたことがある。
青葉が事情あって永琳と別れて永遠亭を出てから少し経ったある日、なぜか月の光を浴びてもハクタク化しないことに気付いた青葉はロクな武装も持たずにただいぬゐ舎を飛び出して迷いの竹林へと向かったのだが、結局永遠亭に辿りつけずに迷ってしまい、まったく参加できなかったらしい。
最後は肝試しが始まる前に暇を持て余していた妹紅に偶然拾われて帰れたらしい。
もし青葉が永夜異変に参加していたら、一体どのような結末を迎えたのだろうか。
そもそも、あの異変の真相を知った時、青葉は自分が幼い頃から育った永遠亭側と、人間を守ろうとする異変解決側とで、果たしてどちら側に付くつもりだったのだろうか。
それは作者である私にすら、これだと決めつけ難い内容である。
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