東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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プレインエイジア~上白沢慧音の憂鬱

 

私の名前は、上白沢慧音。

人間の里に構える寺子屋の教師だ。

そして、幻想郷の「歴史編纂」を行っている。

 

 

────歴史編纂とは。

 

歴史編纂とは、この幻想郷の歴史を記録し、後世に伝え…………いや、遺すことだ。

起きた事件、ものの流れ、流行、赤ん坊の出生。亡くなった老人。

 

私は、その歴史のすべてを「食べる」ことで保存し、月に一度、満月の夜に歴史を「作る」のだ。不必要な歴史は「削除」し、補足すべき場面では必要に応じて歴史を「添加」する。

この幻想郷に残っている歴史は、すべて私が紡いだもの。

歴史を紡ぐのは、そこに住まう人々と、彼らに与えられる本。私は、それの足掛かりか、橋渡しか、とにかく。私自身がこの幻想郷の歴史を作っている、というわけではない。

語り継がれるものは、教わったこと、遺されたことだけ。

なぜ、1000年以上前の人物である聖徳太子が人々に認知され尊ばれているのか。それは聖徳太子の歴史が記録に遺り、それが伝え続けられていったからである。歴史を遺せず、偉大なる功績を後世に伝えられなかった大英雄は星の数ほどいたに違いない。だが、名を語り継がれるほどの英霊たちはほんの一握り。

忘れ去られたか、記憶が焼失したか、今日(こんにち)も語り継がれている歴史は、昔から人々が伝え続けてきた、記憶の螺旋階段のようなものだ。

時が経つにつれ、その解釈は独自の物として確立されたり、一部が抜粋されて置き去りにされたり、詳細が不明のまま解決されず真実だけを闇に消したり。

歴史は紡がれる概念ゆえに、ただしいカタチを残して伝わるとは限らない。

それを伝えるのが個人であるがゆえに、真実を「見た」のが古人となった者であるがゆえに。

百聞は一見に如かず…………「見た」真実と、「聞いた」真実とでは、信憑性がまったく異なる。虚実と否定することもないが、聞いただけの歴史では、なにも明らかにはならない。

そのために、人々は素晴らしい発明品を産み出した。

それが、「教科書」というものだ。

教科書に限らないぞ。あらゆる書籍、肖像画、伝記、その他諸々は言葉でしか伝えられない歴史を視覚化する、画期的な発明なのだ。

そして、その教科書は複製される。マニュスクリプトと呼ばれる概念がある。和訳すると手記、原稿といった意味があるのだが、それとは別で、「写本」及び、原本となる(のり)に記された記憶を別の書に投影、複製することも言う。

これは書物の焼失を恒久的に守る方法であり、歴史を紡ぐために求められる最大の要素ともいわれている。

歴史の解釈が書物それぞれによって違うのはここが原因だ。

鎌倉幕府は1192年に作られたといわれているが、それが前から作られ初めていたのか、おおかたの支配体型として確立したのがその年で実際は機能していなかったのか。

さまざまな云われがあるのはそれが原因だ。転写の際に、筆者の独自の解釈が添加されることで、ひとつのイメージとして完成されて遺される。

かく言う私も即ち筆者の一人。すべての歴史を食らうことで現場たる事実を知り、それを正確に書き留める。失敗と手抜きを許されない作業だ、1ヶ月ぶんの歴史を満月の日に編纂するのだ。身体への負担は計り知れないものだ。

それでも私は歴史を繋ぎ、記していくとも。あぁ、絶対に遺すさ。

すべては、幻想郷のためなのだから─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くかー………………」

 

「ぐぅ…………ぐぅ…………」

 

「─────────────」

 

 

かつ、かつ、とローファの足音がする。

 

「ん………………」

 

真上を見上げる。誰もいない。

横を見る。

 

 

 

「───────ふッ!!」

 

瞬間、慧音さんがそのお美しいご尊顔の少し上を親友たる妹紅の安らかな寝顔に打ち付けた。

 

「ごはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

妹紅は勢いよくふっとぶ。

 

「────────え?」

 

「目が覚めたようだな。記念にお前も受けていくといい」

 

慧音さんは今度は何が起きているのかわからない俺の前に立ちふさがる。

国と国を分かつ巨大な灰色の壁に見えた。

 

「ちょ、いいや、俺は遠慮して────どぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

頭頂で突撃された。

間違いなく今ので鼻折れました。俺は背中からふっとんだ。

 

「いっ、いだだだだだ……………」

 

「ひぃ…………こりゃたまらん…………」

 

二人してへろへろと座りこむ。

 

「二人とも、人の話はきちんと聞くように育ったはずではないのか?妹紅はともかく、青葉、お前だけは信じていたのに」

 

慧音さんは最初、俺のことを神門くんと呼んでくるのだが、さすがに照れるので、オオバでいいと言ったら、「いや、教師があだ名で呼ぶのは良くない」と、ちゃんと青葉と発音してくれた。

 

「俺、なんでだろう。眠くなんかなかったのに、気がついたら…………」

 

「私もだ…………別に、なんにも眠くないのに…………」

 

「なんだ、あたかも私の話が悪いみたいな言い方をしているが?」

 

うぉぉぉぉ、無言の笑顔ってホントに陰影で真っ黒に染まるんだ。

 

「そうだ、慧音の話は長いわりになんにも進まないんだよ!さっきだって、結局ずっと教科書の話してるだけじゃん!?」

 

「なるほど、教科書の複製から眠っていたのだな。私が毎月1ヶ月ぶんの歴史を編纂するのがどれほど大変ことか知って貰おうとしていたのだが、どうやらまったく分かってくれる気はないようだな」

 

(うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!よくわかんないけどめっちゃ不機嫌だわこの人ぉ!!)

 

(昨日は満月だったからな!慧音は満月の日とその前後1日はすごく機嫌悪いんだよ!!)

 

「どうやら、ここは弾幕を用いて、その身を以て私の苦労を知るしかないようだな────!!」

 

「嘘だぁ、そんなバカな!なんということだぁ!慧音さんも困ったらすぐに弾幕で決着つけようとする戦闘民族だった!!」

 

賢い人の精神構造ってわっかんないなー!

 

(………………こいつ弾幕しないから説得力あるな)

 

「うるさいバーカ!!私の講釈で寝る暇があるのなら、私の歴史編纂の紙一枚ぶんでも手伝ってくれ────!!」

 

「ついに教師が口喧嘩放棄したぁぁぁぁ!!!」

 

涙目でバーカって言う教師とか初めて見たよ…………!!どんだけお茶目なんだよぉこの人………!!

 

慧音さんは涙目のまま走り出したかと思ったらいきなり俺目掛けて小さな光の玉を投げつけてきた。

玉自体はすごく小さい。だが……………

 

 

 

「数、多ッ!?」

 

これは、かなり本気のようだ。

まずい、通常の弾幕が放てない俺ではこの状況、すごく不利だ!

 

「逃げろぉぉぉぉぉ!!」

 

教室を飛び出して廊下に逃げ出す。

 

「逃がすものかー!!!」

 

慧音さんも負けじと廊下に飛び出してきた。

すごい…………教師がものすごいスピードで廊下を走っている…………!!

 

「ま、まずい……………」

 

背後から光の玉がぽいぽい投げつけられる。

 

「オオバ!慧音の得意な弾幕はその光の玉とレーザーだ!本当にそいつの弾幕は眩しいから気を付けろ!」

 

「知るかよォォォ!!」

 

なんで妹紅は追いかけられないんだよぉぉぉぉ!!

 

廊下の突き当たりを右に曲がって、いいものを見つけた。

木刀だ。これなら─────

 

 

 

「せいっ!!」

 

一気に投げつけられた光の玉を木刀で弾き返す。

 

月符(つきふ)依姫(よりひめ)(けん)!!」

 

「────その太刀筋………お前、月の生まれか………!!」

 

「正確には、地上生まれの月人の3日弟子ってとこだけどね…………!!」

 

永琳さんの剣、一目見て惚れてしまったから、ちょっとスペカにさせてもらったぞ。

 

「まさか…………スペルカードの模倣…………」

 

初見で見てしまったらそれはもう大変だろう。あからさまな初見殺しである。

 

國符(こくふ)・三種の神器=玉!!」

 

正面から放たれる特大の光玉。数は先程の倍以上。

だが、俺にスペルカードは絶対に通用しない。

 

(もど)れ───國符・三種の神器=鏡!!」

 

こちらに向かって放たれていたはずの玉は急に停止したかと思えば、その場で驚きの変容をする。

玉だったはずの弾丸はすべてレーザーとなって、慧音さんのもとへと戻っていく。

 

「な……………!?」

 

慧音さんは目をひんむくが、間に合わない。奇跡的に、レーザーは慧音さんの冠の横を通りすぎ、廊下の窓を割って外へと飛んでいった。

当たらなかったが、当てたくなかったのが正直な感想だ。

やってしまった…………そうだよ、なんで傷つけるつもりがないのにスペカの反復を使ってしまったんだ…………自分にもよくわからないスペカになるんだから、当てないように調整することなんてもっとできないんだった…………

 

「………………………」

 

よっぽどの出来事のせいか、びっくりした慧音さんはその場で石像のように固まってしまった。

 

「えーと、もしもし…………?」

 

「……………………」

 

……………本を持って薪背負ってたら完全に二宮金次郎だ。

 

「いや、いいんだ。凄まじい能力に圧倒されただけだ…………」

 

よかった。死んでない。

 

「 す み ま せ ん で し た 」

 

廊 下 の 窓 割 っ て ご め ん な さ い 。

 

「謝ることはない、寧ろ私が謝るべきだ。弾幕をしない君にいきなり弾幕を向けたのはもちろん、スペルカードの模倣をするという能力を目の当たりにしたものだから、興味本位でスペルカードを使ってしまった」

 

慧音さんが髪をいじりながら誤魔化し気味に横を向く。

 

「───────────」

 

……………やっぱり賢い人の精神構造ってわっかんないなー!

 

 

 

 

 

その後、しっかり窓を直す手伝いは妹紅と一緒にやらされた。

 

 

なんか…………ごめん、妹紅。

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