東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「おーい、妹紅~」
青年は俺と女をこの竹林まで連れてくると、竹林の奥に向かって叫ぶ。
「おい、お前が連れていってくれないのか」
「あのね、家出してるのにノコノコと帰ってくるやついないでしょ。それに、俺には道がわからないんだ」
「は?」
「ここは迷いの竹林といって、簡単に奥にはたどり着けない。だから毎回案内役が必要になるんだ」
迷いの竹林……………
「おーい、妹紅~。藤原妹紅さーん?」
男は何度も藤原妹紅という名前を呼び続ける。
それが案内人とやらか。だがこんな真夜中、起きているわけがない。
「まったく、こんな時にばっかり使えないねぇ、彼女は。胸はないし、色気はないし、見たところお尻も堅そうだし、頭悪いし。竹林の焼き鳥はいつまでたってもこの有り様でほんとうに…………」
「あ、おい…………」
「姫様と殺し合うのは結構だけど、その次の朝に焼きたけのこがそこらじゅうに転がっているのはほんとうに勘弁して欲しいよ。あの焜炉はねぇ…………せめて案内人役っていうのだけは四六時中24時間体制でやって欲しいよ、あのニートホームレス…………」
「お、おい、そろそろやめにしないか?」
「しょうがないなぁ、代わりにテーを呼ぼうかな。確かにあの焼き鳥よりかは癒しになるもんね…………」
「後ろ、おい、」
「ん?後ろがどうかし……………ドブェッ!?」
うわ、今のは絶対に痛い。
顔面に拳を垂直に叩きつけられていた。
青年はその場に転がって気絶してしまった。
「あんたがここの奥に行きたいってやつか?」
代わりに、俺の背後にさっきから立っていたもんぺ姿の女が現れた。
「あぁ。この奥にあるという病院に行きたい」
「わかったよ、じゃあついてきな」
藤原妹紅と思われる女は、ただ先を急いでいった。
「────────────」
この男、どうしようか。
とは思ったが仕方ないので、俺はそのままにして女を背負ったまま、少女の後に続いた。
「──────うーん、」
藤原妹紅は俺を病院に連れてくるとそのまま何も言わずに立ち去っていった。
礼を言おうとしたがそのときにはもう居なかったので、俺は仕方なく女を背負って病院に入った。
そこで出会った女医に診て貰ったのだが。
「これは絶望的ね、よくここまで持ちこたえたものよ。見つけてからどれくらい経ったか覚えている?」
「最低でも3時間ほどだ」
そうか……………と女医はうなだれる。
「なんとか救ってやってくれ、彼女は…………」
彼女は……………俺のなんだろう。
「俺の……………嫁なんだ」
「あら、そうだったの?」
「親がその子を嫁がせる予定だった先が俺だったんだ」
こんな解りきった嘘をついてでも、俺は彼女を守ってやりたかった。
「そう……………だするとお気の毒ね」
女医は首を振る。
「どういう理屈かはわからないけれど、呪いのようなものが刻まれているわ。どのみち貴方がほかの病院に行けたとしても、助かる術はなかった」
「呪い……………?どうすればいいんだ」
「巫女さんや仏僧とかに解呪して貰うとかしかないけれど、これはそういう呪いともまた違う。おそらく、もう発動しているわ」
「その呪いは、どんな効能なんだ」
「死の呪い。いいえ、終末の呪いかしら。ともかく、薬や手術、妖術のたぐいでどうにかできるものではない」
医者の告げる余命宣告は淡泊で冷酷で残酷なものだと聞いたことがあるが、こんなにも単純明快に言ってしまうものなのか。
「そんな…………じゃあ彼女は…………!」
女医は残念そうに首を振る。
「もうじきこの命は終わる。助かるには、今の物とは異なる、別の命を吹き込むしかない。それは薬では成し得ることのできない技。おそらく貴方は私のことを万能の薬師として紹介されたようだけど、私にも死者の蘇生まではできないわ」
「別の命を吹き込むしかない…………いとも簡単に言うんだな」
あの青年は確かに「あの人ならどんな病でもどんな怪我でも最終的には解決できる」と言っていた。
(最終的に、ってどういうことだ?)
(つまり、不治の病であろうと、別の形でなんとかして治してしまえるんだよ。あの人にできないことなんてない。最終的には、理想の形にならなくとも、何か別の方法で叶えてくれる)
(そうなのか)
(大丈夫だよ、俺はその娘よりももっと助からないパターンを見ているから)
「───────助かる方法は、あるんだろう」
「─────────」
「別の命を吹き込めばいいんだろう。つまり、その命を流し込む技術が、アンタにはあるわけだ。なら────」
俺は椅子から立ち上がり、女医の顔を見つめる。
「──────俺の命を貸せばいいんだ」
「ば、正気…………!?」
女医は目を見開いて驚いた。
「俺の命は、もう死んでいるようなものだ。全てを捨て、全てに捨てられて、もう俺に残されたのは彼女だけだ。なら、この命を半分彼女に貸し与える。そうすれば、俺の命で生き延びることができるんだろう」
「─────────本当にいいの?」
「じゃなかったら、こんなにボロボロになってまでその女を助けようとしてない」
「──────この幻想郷での人間の平均寿命はだいたい80年前後。貴方たちの今の年齢は推定で25前後。貴方は今の彼女が生き帰るための、彼女が生きた約25年…………そして貴方の年齢である約25を消費し、その上で貴方の今の残りの寿命である30年を二人で半分ずつにするのよ?」
医師は俺の戯れ言に驚いたのか、冷や汗を流しながら必死に説明する。
だが、そんなことはもうわかっているんだ。
「要は、俺の余命は15年しか残らないって言いたいんだろう?15年しかないって、それは違う。それだけやって、15年もあるんだ。もっと早く死ぬかもしれないし、もっと長く生きれるかもしれない。けどそんな些末な問題より、俺は今、彼女を助けたい、それだけなんだ」
女医は俺の決意を目の当たりにして言葉を失っている。
こんな馬鹿げた選択肢、こんな頭の良さそうな女には解るわけがない。
でも、それは勇気とか決意とか善意とか、そんな割りきれた感情じゃない。
もっと単純で、もっと大胆で、もっとありふれた…………当たり前の想いだ。
「惚れた女のために命を賭ける、それの何が間違っているっていうんだ」
「──────でも、駄目よ。そんな禁忌の薬を作るのは、もうやめにしたの。私は」
「禁忌の薬…………?」
「私はかつて、蓬莱の薬という不老不死の霊薬を作った。けれど、それが招いたのはあらゆる破滅。私が作り落としてしまったあの地獄の釜が、すべての歯車を狂わせた。私はもう、常識を外れた薬を作りたくないの」
「不老不死になりたいなんて言ってない。俺はただ助けたいだけなんだ。いつ死んだって構わない。これは俺の意志だし、何より……………」
そうだ、一番大事なのはそれだろう、
「まだ彼女は、患者は、生きていたいと願っているんだ!!」
「───────っ」
医師がハッとした表情になる。
「致命傷を負って3時間、ろくな治療も受けていないのに彼女はまだ苦しんでもがいている。地獄の縁で暴れている。苦しいのはさ、生きたいから苦しいんだろう!死ぬかもしれないから、痛いんだろう!死にたくないから、生きようと苦しんでいるんだろう!それに手を差しのべれなくて、生きたいという願いをはねのけて、なにが医師だ!!」
俺は、怒りと悲しみと憎しみを籠めた声を、女医に無礼極まりない言葉を放った。
「あっ……………」
自分が本当に失礼なことを言ってしまったことに今さら気付いた。
「す、すまない」
「いいえ、貴方の言う通りよ。もうこれ以上、患者の手を無視するわけには行かないわね」
女医は苦笑すると、椅子から立ち上がる。
「いいわ、貴方のその必至の訴えに免じて、彼女の命を救う手助けをしてあげましょう」
「─────ありがとう、ありがとう…………!!」
俺は医師の両手を取って涙ぐむ。
こんな俺にも、まだ味方してくれる人が居たのか。
俺はきっと、この人にすら見捨てられたらほんとうにおしまいだったのだろう。
ここへ案内してくれたあの青年も、ここへ案内してくれた藤原妹紅も、彼らの助けがあったから、今の俺には今があるのか。
「─────それじゃあ、いい?一刻を争う事態だから一回しか説明しないわよ」
医師は俺を布団に寝かせると、その横にまた別の布団を敷いて、女を寝かせた。
医師の指示に俺は黙ってうなずく。
「よろしい、じゃあ今から説明するけど。この薬を二人で飲みなさい。彼女には私が飲ませるから、貴方はそこの赤い錠剤を飲んでから、この粉のほうを飲みなさい」
なんだこの薬…………めちゃくちゃ怪しい。
こんな状況じゃなかったら絶対に飲みたくない色してるな。
「水はないのか?」
「悪いけど私もはじめての試みだから、できるだけ余計なものは飲ませたくないの、我慢して」
「わかった」
水もなしに薬を服用するなんて初めてだから勇気が要った。
うぐぅ…………にっが……………なにこれ、
「次にこの薬を射していくわ」
今度は注射か。
医師は注射器を俺の胸の左側に突き刺すと、女のほうへは何もせず器具をしまった。
「俺だけ?」
「えぇ、貴方の血を今から摘出して彼女に流すわ」
「おい待ってくれ、血液型が一致しなかったら献血できないじゃないか」
「言ったでしょう。彼女の血が貴方の血になるのよ」
「あ、そうか。そいつはもう駄目なのか…………」
つまり、一度彼女の血液を全部抜き取り、代わりに俺の血液の規格に合うように肉体を改造し、新たに俺の血を流すのか。
改めて確認していると凄まじい手術だ。こんなぶっ飛んだ近未来技術をなんでこんな若い見た目の人間が使えるのか。
「そしてだけど。今から貴方の心臓を移植するわ」
医師は急に手袋を嵌めると、バカでかい刃物を取り出した。
「ぬ、なっ!?」
「貴方の心臓は今から彼女の心臓になります。この手術の大まかな説明をするのならば、心臓の交換移植ね」
「………………………………」
────────え?
「麻酔は……………?」
「ない」
鬼畜すぎるだろこいつゥゥゥゥ!!!
そうか、麻酔すらも不純物になるのか。
「いや、失礼。続けてくれ」
大丈夫だ、彼女だったら死なないようにうまくやってくれる。
それに、心臓の交換移植なんだ。だったら今ここでどれだけ血を流そうが関係ない。
俺の心臓が彼女のものと入れ替わるのだから、俺の身体に新たに流れるのは女の血なんだ。
「目を瞑っていた方がいいわよ。信じられないぐらい痛いだろうから。それに、私は本来薬師だから、摘出手術は生業じゃないの」
「ちょ、ちょっと待てそれh、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぜぇ…………はぁ…………はぁ…………」
「よく耐えたわね、最初はめちゃくちゃ叫んでいたけど後はもう大人しかったじゃない。お陰で上手いこと行けたわ。私も手術医やるのも悪くはないわね」
「いや…………彼女はもっと痛かったはずただ…………それに比べたらこんなの…………」
あぁ、女が耐えれて俺に耐えれないわけがない。その一心で歯を食い縛っていた。
それに、ここの手術さえ耐えれば救えるのだから、これぐらいの痛みなど。
「とりあえず、互いの心臓を交換できたわ」
「ありがとう。しかし、気になることがある。どうしてこの手術の力で俺の寿命が半分になるんだ?」
「基本的に、寿命とは穢れを示す。穢れは物質から存在可能な期間を奪い取る力を持っているの」
「穢れ……………」
「本来、彼女は助からない状態だった。こんな手術をしたところで、なにも助かる術などない」
「なら、どうして」
「仕組みは離せないんだけど、この病院には「永遠」や「須臾」といった時間を操る能力を持っている子が居るの」
やはり彼女も超能力者だったのか。
どうりで変な技術ばかりあったわけだ。
だいたい、かつて弟子入りしていた筈の男が道を覚えていないなど、迷いの竹林の時点で魔法じみた仕組みがあるのだろう。
「永遠、それは寿命を作る穢れがないってことか?」
「えぇ。だから、私たちは彼女の肉体時間を止めた………いや、永遠にしたというほうが正しいかしら。穢れに触れぬ限り、彼女は死に際のままで時間が止まっているの」
「な、なら……………彼女は永遠に苦しいまま…………?」
「いいえ、この地上に済む限りは穢れが自動で蓄積される。そうすれば、彼女の死へのルートは一直線に再開される。そこで貴方の心臓を移植したのよ」
俺にはまだ彼女が何を言っているのかまったくわからない。
「その穢れを、貴方の心臓の鼓動で真っ向から打ち消すの」
「なるほど、そういうことか!」
穢れが蓄積されて彼女の永遠性が朽ちていかないように、移植した俺の心臓が穢れの影響を打ち消していく。
「そして、穢れを打ち消せる期間はその心臓が止まるまで。その心臓が止まれば永遠が穢れに触れて即死するわ」
でも、心臓が止まったら普通は死ぬ。
なら、彼女は普通の寿命を手に入れることができたと言うわけだ。
要は、彼女は救われたのだ!
「俺が彼女の心臓を得た今、俺の寿命はどんなもんなんだ」
「彼女の心臓も同じように時を止めている。だから、あれも同じように。彼女の心臓が止まると、貴方に移植した心臓の永遠も停止する」
そうか、じゃあ……………
俺と彼女が死ぬときは…………同時。
だから寿命を半分にすると彼女は言ったのか。
「悪いけれど、貴方たちを永遠にすることはできない。それだけは、私がそれこそ永遠に誓ったことなのだから」
「構わない。俺は今を生きれるだけでも、そして彼女を生かしてやれただけで、悔いはない。これ以上望むものはなにもない。ほんとうに、ありがとう」
「いいの。患者の命を救うのが、医者の大義だと貴方が示した結果よ」
俺はその一言に微笑みながら、横を見る。
安らかな寝息を立てながら、一人の女が眠っている。
「………………なんだか、しっかりとした女になったな」
「貴方も少し丸みを帯びた穏やかな優男になっているわよ。異性の心臓を移植した反動ね」
ふん………………悪くないな。
そこに転がっている金属の器具に照りかえす自分の顔を見る。
確かに、前よりもさらに美貌に磨きがかかっているかもしれない。
「そうだ、何か注意点とかはあるか?」
「特にないわ。ただ、しばらくここで療養してから社会復帰しなさい」
ありがとう、と俺は返した。
「あとそれから…………医師とは関係のない忠告よ。貴方たちは何があろうと同時に死ぬ。もし彼女が勢い余って死ぬ時は、そのときは貴方の永遠性も停止し即死する。例外はない、絶対に貴方たちは同時に命を落とすことになるわ。だから…………互いの命を自分の命と認識すること。貴方たちは、二人で一つ…………一人で二人ぶんの命を抱えているのよ」
「そうだな、」
「だから、絶対に死なせないように守り抜きなさい。本来穏やかに死ぬ予定だったのに貴方が拾ってあげたせいで彼女は生きなくてはならなくなった。その責任は、自分で取りなさい。間違っても、自分からその命を投げ出すことをしてはならない。それだけは、絶対に忘れないで」
それが……………俺と彼女の、始まりだった。
世界で一番美しい…………一番強い2人が…………
この時間を始めることになった。
一週間後。
医師が俺を呼んでくれた。
どうやら女のほうが満足に身体を動かせるくらいにまで回復したとのことなので、俺を会わせてくれるそうだ。
俺も親に殴り蹴りされてボロボロだったのだが、完全に回復した。
そればかりか…………なぜか身体が身軽になった気がする。
全体的に筋力や体力や嗅覚、その他身体能力全般が大幅に向上しており、まるで犬にでもなった気分だ。
何故だろうか、薬の作用?
いや……………女の心臓の影響?
生まれつきでこんな元気な血液が流れているなんて。個人差にしては幅が拾いな。
まぁ、いいか。
「──────────」
安心してきたら、当初の目的を思い出してしまった。
そうか、はじめは女が欲しかっただけだったんだった。
それがいつの間にか彼女を救うことになって…………
「不思議だな」
とはいえ、この見た目ではあんまりだ。
少し、顔を整えておこう。
まずはそうだな…………この髪を何とかしたいな。
こんなに伸ばし放題になっていてはみすぼらしいと言うか不潔だ。
そこにある紐を取り、自分で鏡の前で髪を結う。
長すぎる前髪を少し浮かせ、顔色も明るくなってきた。
後はなんだろう、ここ最近風呂は入っているから別に体臭は気にならないし…………いや、やっぱ朝風呂は入っておこう。
ついでにこの髭も剃っておこう。
後は、何か手土産でも持参するか。
女の元へ手ぶらじゃあんまりだし。
「ははは、楽しみだな」
楽しみ…………そんな感情を抱いたのは生まれてはじめてだったかもしれない。
「─────────」
俺は扉を開けて、部屋の中に入ってみる。
いつでも良いと聞かされていたので、ほんとうに自由な時間に来てしまった。
なんと、夜。
女とは夜に会うのが礼儀だろう。
それに、俺が一番力を発揮する時間帯は夜だ。
こればかりは仕方ない。
昼間は手土産探しに行ったり、自分にあう着物を選んだりするので時間がまぁ~かかったのだ。
初めて会う女の好みなんてわかるわけがない。そこで俺は、ただ自分が気になると思ったものを選ぶことにした。
俺の血が流れているのなら俺と趣味も会うのではと期待したのだ。
まぁ、心臓移植したところでそんなことはたぶんないのだが。
そこで里を歩いていたが結局なにもない。
というか…………もう人間の里はつまらなかった。
あそこに長居していても不愉快な気持ちばかりが押し寄せてくる。
怒りで我を忘れそうになったので、とりあえず人気のないところに行きたかった。
そして俺が入ってきた通りの突き当たりに道具屋があったので、そこに行くことにした。
若い美青年が出迎えてくれて、長々とおすすめ商品の説明を1、2時間ほど食らったのでいい加減に限界を迎え、適当に上品な黒樫の木材で作られた箱を買ってきた。
「お嫁さんへのプレゼント?ならいいよ、タダだよタダ!!」と青年が歓喜してくれたので結局お金は取られなかった。ラッキーだった。あんな人気のない店にして正解だった。
ちなみに俺も中身をまだ知らない。
あの青年は「あぁ、それ?めちゃくちゃいい値段するやつでね、外の世界で有名な職人さんが作ったブランドものなんだよ~」と説明してくれた。
帰るとき、惜しそうに持たせてくれたのを見るに、ほんとうに珍しい骨董品なのかもしれない。
まぁ、気前良さそうってことでこれは手土産として不足はないだろう。
そういえばあの青年のホワッとした雰囲気と心優しそうな口調…………どこかで見たような気がしたのだが…………
「──────あ…………れ?」
こうして今に至るのだが少し問題が起きた。
入ってきたのはいいが、畳の敷いてある六畳部屋に、誰も居ない。
おかしいな…………たしかに布団はそこに敷いてあるが。
「時間を間違えたのか」
たしかに、こんな夜に来てしまえば誰も居ないか。
「いらっしゃいませ~!!!」
「うわぉぉぉぁぁぁ!!」
背後から抱きつかれて俺は床に転がった。
「痛って……………なんだアンタは…………っ!」
言い終わってから顔を見て、俺は言葉を失った。
俺が拾ったあの女…………あのときは血まみれで姿も顔もあやふやだったが、俺が想像していた以上の美人だったのだ。
穏やかで白い顔つき、紫色の短い髪。
俺の心臓の影響か、少しだけ強さを帯びた細い目付き。
「あ……………まさかアンタが……………」
「ほんとうに、ありがとうございました。あの苦しみの中で、必死に私を助けようとしてくれた貴方のことをずっと見ていました」
意識は残っていたのか…………俺のことは認識してくれていたんだな。
「お、おう。初めまして、あの時は急いでいたからちょっと前とは姿が違うけど…………アンタの親が決めていた嫁ぎ先の…………えーと、」
竜藤巴照じゃ怪しまれるな。
竜藤は有名どころだが、さすがに違う名前を使った方がいい。
俺はもう竜藤から追い出された身だし、なにか新しい名前は…………
「えーと……………竜胆筆竜だ」
このときに嘘で名乗った偽名が、俺の今の名前だ。
「初めまして、筆竜さま。私の名前は椰子飼菖。椰子飼の長女です。お母様とお父様は………こんなに素敵な人と結婚させようとしてくださっていたんですね」
あの時、まだ椰子飼だったときの彼女は、
満面の笑顔と赤い頬を携えた微笑みでそう名乗ってくれた。
なんだか…………顔を見るのも少し気恥ずかしいな。
「あ、これ…………お土産…………要るか?」
さっき道具屋で買ってきた黒樫の箱を差し出す。
「な、そんな…………良いんですか?貴方には命まで貰ったと言うのに…………」
菖はもじもじしながら箱と俺の顔を順番に見つめる。
「いいよ、ついでにですます口調も要らない。タメ口でいいさ。べつに、土産物もつまらないものだし」
「ありがとう!嬉しいわ!」
すぐにタメ口に改めてくれるのはいい。
俺が「しても良い」って言ったことをすぐに遠慮なくやってくれるのはこちら側としても気持ちがいい。
「開けていい?」
「開けなくてもいいけど?」
「やだやだ開けたい!」
なんだそりゃ。
「実は俺もまだ中身は知らないんだ。ちょっと見せてくれ」
「わかったわ、それじゃあ開けるわよ…………せーの、」
箱が開く。
中に入っていたのは──────
「え、なんだこれ?」
綺麗な綿に丁寧に包まれて、1本の木の棒が入っていた。
木の棒…………にしてはまぁ、わりと太く長い。まるで木刀の柄部分のようだ。
「もしかしてこれ……………」
菖が木の棒を握り、軽く一振りする。
すると、
「わっ!?」
チン、と音を立てて木の棒の横から刃が生えてきた。
このうねった形状…………まさか、
「鎌?」
「鎌ね。あら、筆竜さま、見て!綿の下から短剣も出てきたわよ!」
なんだ…………これ!?
菖が箱をひっくり返して綿を落とすと、カランと全身金属の短い刀が落ちてきた。
しかも、その短刀とこの鎌は鎖で結ばれていたのだ。
「鎖鎌!?」
マジかよ、女の子の回復祝いに渡したプレゼントが鎖鎌!?
こんなの幾らなんでも、野暮天にもほどがあるだろう。
「あ……………すまん、こんな変なもので」
「ううん…………嬉しいわ…………」
菖は鎌を胸に当てて涙を流す。
それ、どういう感情?
「私が鎖鎌を習っていたことなんて、どこで知ったの?それを知っていて買ってくださったのでしょう?本当にありがとう…………この上なく最高のプレゼントよ!!」
「お、おう。なんか、あの椰子飼家のお嬢様だから、鎖鎌とか習ってそうだなって思ったんだ」
なんか良くわからないけど株が上がったのでよしとしよう。
鎖鎌…………まさか武道女子だったとはな。
「力持ちの女の子は嫌い…………?」
「ばっ、大好きに決まっているだろ!」
「も~う!大好きよ筆竜さま!!」
鎖鎌を投げ捨てて菖は俺に抱きついてきた。
「うわっ………!?」
頬ずりしてくる菖が可愛かったのでそのままにすることにした。
女は誰も彼も、個性はあっても結局は俺に惹かれれば皆頭を下げてくる。おんなじだとは思っていた。
けれど菖は、俺と対等な立場で…………いや、俺をリスペクトはしているが、なんだかこんなにも距離感の短い付き合いは初めてだった。
菖は……………俺の中ではあらゆる意味で特別だった。
「俺もだよ、菖─────」
だから……………この宝だけは、
俺が、自分の家、自分の資産、自分の勇気、自分の運、自分の人生、そして………自分の命。
全てを犠牲にしてでも手に入れたかったこの女の明日は、いま俺の力によってこの手に降りてきたのだ。
俺たちに残された15年の歳月、使いきってやる。
途中で死なせるなんてことはさせはしない。
俺は、このたった一つの宝物を守るためならば、なんだってする。
何度だって、命を捨ててみせる。
「フッ────────」
そして、誰を何人だって殺してやる。
「絶対に、お前を守りきってみせる、菖」
すべては、大切な人のためなのだから。
なんか………どうしようかなぁって()
-
知るかボケ
-
とりあえず………早く文編書きません?
-
東方の18禁作品の執筆とかしないの?
-
サボってないで執筆しろ
-
アボカド食べる?
-
その他(その他ってなんだよ)