東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「これなかなか美味いね!」
「だろう?俺のお気に入りなんだよ~、ほら、こっちの
「おおっ、あの喉パサパサになるところが柔らかいな、あんこもつぶつぶが後から食感のメリハリになってきて美味しいな」
俺は御衣黄のドスの鞘を回収したあと、御衣黄が持ってきた大量の和菓子を少しつまみながら城を降りていた。
甘菓子はあまり好きじゃないんだけど、この辺はかなり美味しいな。どうやら御衣黄、お菓子ならなんでもいいわけではないらしく、きちんと決まった店の物しか食べないらしいというこだわりまである。
俺からしたらどのお菓子も同じだが、彼からすればまったく違うらしい。
「あら、ずいぶん時間かかったのね」
ある程度降りてようやく本丸の入り口まで戻って外に出たところ、明るい視野とともに正面から女の人の声がした。
「おぉ、誰かと思えばゆうかり~ん、出迎えご苦労だね」
「幽香さん、どうしてここに」
「例の地底都市、入るルートがわかったから。そこまで案内してやるために残ったのよ」
なんだかんだって、この人も親切だ。
「それに、貴方には言わなければならないことがあるしね」
幽香さんは俺の顔を見ると、外で拾ってくれたのか、鞘に入った模造刀を渡してくれた。
「悪かったわね、青葉。こんな騙すような形で御衣黄と戦わせることになってしまって」
幽香さんは頭を下げてきた。
「いや、いいよ。それに…………初めて会ったとき、俺が逃がした泥棒が君の花畑を荒らしたことも謝らなくちゃいけないし。ほんとにごめん、」
俺も頭を下げ、幽香さんに謝る。
「ふふ……………気に入ったわ」
幽香さんは俺の顎を左手で優しく掴むと顔を近付けてくる。
「う、うぉぉ…………!?」
近い、近い、近い!!!
「人柄も嫌いじゃないけれど、顔は特別好きよ。流石はアリスの……………いいえ、なんでもないわ」
「絶対なんでもなくないよね」
発言が思わせ振りすぎるでしょ。
俺がアリスのなんなのか、少し気になるが別に大事なことじゃないならいいや。
「まさかあの御衣黄を手懐けるとはね…………本当に貴方は意外な動きばかりで面白いわ、飽きない人は好きよ」
「あはは…………ありがとう」
──────いま気付いた。
俺…………………………苦手だわ、この人。
こういう毒蛇みたいなしつこい感じのする女の人が昔から苦手だった。
こういう妖しげな美しさを持つあたり、菖に良く似ている。
「穏やかさと小物くささが弱々しいけれど、言動が大胆で後先を顧みない無謀を図る…………慧音先生の評価も的確ね。でも、そういう男はキライじゃないわ」
「う、うん」
「加えて植物博士だと、あの人形からも聞いたわ。どう?花を愛でる者どうし、今度お茶でもどうかしら。散歩でもなんでも、二人きりで話せる時間が欲しいわね」
「────────────」
俺は、この人に好かれてるの?嫌われてるの?
嫌いなものに対してわかりやすく憎悪を浮かべない性分に見えるから、自分がどうなっているのかまったくわからない。
たぶん気に入られているんだなとは思うけれど。
「ふぅ──────」
魔法の森地下に広がる花の都、その様子を高い場所から見下ろす女がいた。
地下のため日光が差し込まないのだが、明かりでライトアップされた建物が街を明るくしている。
ビルのように高い建物の縁に座り街の中を歩いていく獣人たちの歩みの流れを見下ろしている。
その髪は銀髪で、橙色のドレススカートのような物を着て上から黒いケープを羽織っている。
顔立ちも服装も、アリスに瓜二つ。違いと言えば青と白と金髪がメインカラーのアリスとは対照に橙と黒と銀髪が中心のその少女は歓喜のような顔でただ人の流れを見つめている。
「───────来るわ、ついに」
アリスによく似た少女は立ち上がり、ビルの屋上の縁から降りる。
「──────準備は?」
「あいはい、出来てますよ出来てますよ」
少女の後ろから、一人の青年が歩いてきた。
笠……………ではなく、傘を差している。
赤の番傘を担いで現れたその長髪の美男子は、微笑みながら少女の背中を前に跪く。
「感心感心…………あの少女だろう?任せなって、絶対に見つけてくるから」
「貴女たちもしっかりやりなさい?」
少女は後ろに首を向ける。
青年の後ろにも二人の少女がいた。
「うぅ…………お腹空いたなぁ…………任務の前はご飯が食べたいなぁ」
お腹をぐーぐー鳴らしながら気だるそうに一人がうつむく。
「行く前にいっぱい食べなさいよじゃあ。間違ってもご飯で買収されたりしないようにね?」
「ほんと。姉さんは食べ物見ると勝手にそっちのほうこう行っちゃうから困ったもんだわ…………」
二人目の女も頭を抑えて唸る。
「なぁなぁ、いまさらだけどこの二人ほんとに姉妹なの?」
「そうらしいわ…………」
信じられないといった表情で少女はお手上げした。
そう、この姉妹は似ているどころか真逆の存在だった。
「さて、マスター?俺にもなんかくれよ、行く前にさ」
「貴方は私の
「やれやれ…………これじゃあ
首を傾げながら番傘の青年は建物の縁に乗ると傘を開いて飛び降りていった。
傘で空気抵抗をつけながらゆっくり地上へと降下していく。
「おーい、マスター!片想いもほどほどにしろよーっ?」
ギリギリ見える位置でにやつきながら青年はマスターの方を見てそう言った。
「あいつ……………!!!」
頭にきたマスターは何か投げつけるものを探そうとしたがなにも見つからず、諦めて地団駄踏む。
「あのクソ淫魔……………絶対に絞め殺す!」
鬼の形相で女は後を追いかける。
ビルから勢いよく飛び降り、手を伸ばす。
「マリアネッタ、オープン!!!」
広げた両手の先から見えぬほどに細い透明な糸が出てきた。
それらは中空に張り巡らされると共に、街灯や街路樹、さまざまなものに絡み付いくことで垂直に落下する少女の体を支える。
そして、少女はその糸を起点に、ターザンロープのように空を舞う。
滑るように地面に着地して、番傘の青年が走っていった後を追いかけていった。
「───────ここ?マジで?」
俺と御衣黄が連れてこられたのは井戸の前。
小太りな人のウエストでギリギリってぐらいの広さをした入り口の向こうは真っ暗でなにも見えない。
「都ってことは町があるんだろう?町の入り口が井戸ってのはあんまりだよ」
「アリスたちは別の場所から入ったんだけど、そこだと安全性がイマイチなのよ」
仕方ないじゃない、と幽香さんはそっぽ向く。
いやいや、井戸に飛び込むって、仕方なくない。
「ゆうかりん、そのアリスって人たちはどこから入ったんだい?」
「以前、貴方があの男と対峙した時、最後に大穴を開けたじゃない」
「あぁ、あれね。竜胆筆竜はあの中に落ちていったよ」
「ね、ちょ、ちょっとまって?筆竜は落ちていったの?」
「あれ?そうだけど?」
マジかよ、こいつが筆竜を倒したのか。
そういえば菖や亦紅は来てたのに筆竜はいなかったのはそういうことか。
「話を戻すけど、その穴の下には実は花の都があったらしいの。慧音先生が気付いたらしいわ。「こんなに広くて守りの堅い屋敷が簡単に床抜けしてその中に空洞が続いていたら必ずなにかあるだろう」って。でも無理やりできた穴だから安全性がまだわからない、だから井戸から入るのよ」
なるほど~、ってなるわけがないだろう。
まるで説明になってない。
「なるほどね、そういうのもアリか」
御衣黄はドスを引き抜くと、鞘だけ井戸の中へ放り込んだ。
そして頭を入れて中の音に耳を澄ます。
「お、堅い音がした。たしかにこの井戸、かなり深くの位置に地面があるな。水は溜まっていないから普通の井戸じゃないな、これは」
「ね、だから言ったでしょう?」
こっち見んな。
「おっしゃあ!じゃあ行きますか!一番乗りは、俺だーっ!!」
御衣黄は躊躇うことなく井戸の縁に足をかけると足からその中へと飛び込んでいった。
マジかよ、なんて根性だ。
「ほら、貴方も早く行きなさい、ダンディーファーストで譲ってあげるわ」
「初めて会ったときはレディファーストって言ってなかったかい…………?」
ほらほら、と幽香さんは急かしてくるので、こうなったらもう自棄だ、どうでもいい。
御衣黄がいけるなら俺もいけるだろう!たぶん!
まずはちょっとだけ乗り上げて、そのまま脚を開いて中壁に張り付きながらゆっくり降りていこう。
「よっ、とぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
誰だ、俺の背中いま押したやつ!!!
「早くしなさいって言ったのに」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、どはぁっ!!」
柔らかい網に背中を打ち付けると同時に俺は反動で飛ばされ、地面に転がった。
「いった………………」
「大丈夫?」
御衣黄が手を差し出してくれた。
「あ、りがとう…………」
手を取って立つ。
上を見ると、ずっとずーっと真上。空を見上げるほどに首を上に向けるとたしかに天井に丸い窓のようなものがついていて、そこから外の光が差し込んでいる。
その中から植物の鶴に身体を巻き付けてゆっくりと幽香さんが降りてきている姿が見えた。
──────ふざけんなよマジであの女。
…………とはいえ、あんな高いところからここへ繋がっていたのか。
…………この先が花の都なのか?
「見たところ真っ暗だけど……………」
「だな、」
「ね、」
こんな真っ暗なところ、どこが都だ。
ただの地下じゃないか。
「なぁなぁ、この緑色に光っているレバーはなんだ?」
御衣黄が光の前に立ち尽くす。
そこにある、緑色に光るレバーはこの空間で唯一の「明かり」というオブジェクトだった。
いかにも、これを使ってくださいといわんばかりの。
「お、おい、あんまり下手に触ると危険だ」
「えぇい、危険がどうのとかもう先へ進めないよ、ひっぱっちまうぜ…………よいしょっ!!」
御衣黄が力をこめてレバーを引くと、空間が、ガガガガガガガン、と大きな音を立てて大きく揺れ始めた。
「な、なんだ!?」
「おぅ、光が差し込んでくるぜ?」
「あら、この壁のようなものは鉄の扉だったのね」
襖のように閉められた二枚の扉が自動で開かれる。
しかし、そのサイズはとんでもないもので、上方向に20メートルはある。
とても人力では開けないような扉が轟音を立てて開かれたとき、二枚の扉の間から奥の光景が広がっていく。
突然の眩しい光に俺たちは顔を手で覆って眩しがる。
だんだんと扉の向こうが広くなってきた。
光に目が慣れたところで俺は手をどけて、鉄扉の向こうに広がる世界を確認する。
「っ、な──────────」
俺はいまの一瞬で顎が外れたと思った。
御衣黄もワォ、と感心したような表情を見せ、幽香さんもへぇ、と興味深そうな声を上げる。
─────そこは一言で言うなら楽園だった。
地上40メートル下の地下とは思えぬギラギラとした蛍光灯の装飾をふんだんに使った華やかな建物が右に左に並んでいるのだ。
そのライトアップされた建物の高さは外の世界のタワーマンション、推定20から30階建てほど。低い建物でも最低四階建てにはなっていた。
建物の側面に蛍光、真ん中を一直線に通るアスファルト道路の脇に広がる鉄板でできた歩道橋から伸びる街灯の明かり。
まるで、眠らぬ夜の町だ。
花の都はここ自体がひとつの町というより、この町そのものがひとつの巨大カジノのように広がっていたのだ。
右を向いても左を向いても賭場か酒場しかない。向こうにはプールのようなものも広がっている。
じゃあ、あの横にも縦にも長い長方形の建物はまさか…………ホテル!?
そこらじゅうに設置された音響設備からは爆音でチャラチャラとした音楽が鳴り響き、人々の笑い声や話し声、ハッスルする雄叫びなど、もうなんでもあり。
外の世界の資料だと…………なんていう場所だったかな…………
ラスベガス…………?がまさにこんな感じだった。
むしろ、ラスベガスとやらはこっちを参考に作られたのではないかと思うぐらいによく似ていた。
地底ということで空などないが、空からの光などもはやいらない。
それがなくともすでに嫌なぐらいに眩しいのだから。
向こうには花火が止まず絶えず打ち上げられている。
そして、俺が一番目を引かれたのが、その向こうにある建物。
なんと、西洋式建造物らしきお城が建っており、その奥にも世界が広がっている。
城の奥は地形がかなり高くなっている。建物の高さだと6階ぶんぐらいか。
それだけ高くなった地形に貿易センターのような黒塗りのビルディングが四棟建っており、それらが正方形の頂点に建ちながら各頂点を結ぶ辺のように渡り廊下で結ばれているのだ。
そして、その正方形の真ん中には、あの椰子飼城よりもさらに巨大な、超高層ビルが建っていた。
先ほどまでのわびさびとした戦国城のことなどもう忘れてしまった。
獣人の山賊の件が始まって以来、今まで見てきたどんなものよりも巨大で、優れた文明が目の前に広がっていて、俺はおかしくなった。
「なんだ、これは──────!!!!」
ここに広がるのが、花の都だっていうのか!?
「あぁ、花の都っていうからなんの事かと思っていたら…………ワンダーランドの事だったのか」
御衣黄が納得したように腕組みして呟く。
「ワンダー…………ランド?」
「あぁ、「
不思議の国……………ワンダーランド……………
俺たちは、この先を目指すのか……………?