東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
シティ・オブ・バブル
「1と3で、4!!」
「わぉ、マジか!引きがいいな坊主ゥ!」
「これはかつてない連勝者になっちまうかもなぁ!!」
「ほんとにどうなってるの~?」
「いよっ、幻想郷一番ッ!」
「いやぁ、ギャンブルって楽しいねぇ~、と、どわぁぁぁおっ!?」
「何やってんだよ御衣黄、さっさと行くぞ」
トイレから戻ってきたら御衣黄が賭場に紛れ込んで荒稼ぎしていた。
ここまで運がいいのはおかしいが、とりあえず今はそれどころじゃない。
「おいおい、もうちょいと遊んでかないのか?」
「ごめんね~、俺たちは奥にあるでっかい建物に行かないといけないんだ…………用事終わったらまた遊びに来るからさ~!」
「ダメだ二度とお前は賭場に出るな」
「えーっ」
御衣黄を強引に引っ張って出ようとする。
どうやらこの空間は獣人の山賊の本拠地とかではなく、俺の故郷であるワーハクタクの里のように、一般の獣人も暮らしているようだ。
まるで全員俺たちに対して敵意がない。
「おい、坊主…………奥の建物ってのは、裏椰子飼城のことか?」
さっきから御衣黄の劇運きどよめいている賭場のおじさんが突然、声をかけてきた。
「裏椰子飼城?」
御衣黄が聞き返す。
「裏椰子飼城って…………あの大きな塔のような建物に四方を囲まれているやつか?」
「あぁ。あそこに行くのはやめたほうがいい…………あそこに入るのは、普通の役人にすら許されていない」
おじさんは低い声で、俺と御衣黄にだけ聞こえるようにささやいてきた。
「そうなのか?」
「あそこに入って良いのは、
県……………って誰だ?
「誰その人~」
「誰も何も、椰子飼県はこのワンダーランドの支配人だ。人間の里でも有名な夜の帝王、竜胆筆竜のご友人様だよ」
「竜胆筆竜……………!!」
あいつの主か…………!
つまり、椰子飼県は雲月、龍臣とも異なる、椰子飼梓の父代わりになる予定だったもう一人の人物か。
「俺たちは、その竜胆筆竜に用があるんだ。ついでに、その県の娘である梓にも会いたい。どうにかして椰子飼県に認められて、通してもらう方法はないか?」
「そんなものがそう簡単に思い付くもんかよ……………」
「そこをなんとかしてくれ、なんでもいいんだ!心当たりとか、予想でも全然いいから!」
おじさんは少し困ったように腕組みして唸ると、少し思い出したように口を開いた。
「そういえば、県様は格闘技を好んでおられる。あまりにもはまりすぎて、定期的に格闘大会をこのワンダーランドの中で開催しているんだ」
「格闘大会……………」
「それが今日、メインストリートの真ん中にある広場で開催される。県様の名前で直々に開催される大会というだけあって、その優勝者は開催者である県様から直接表彰されるのだとか」
「なるほど!」
これなら県の居るという裏椰子飼城に入れるかもしれない!
「だがもちろん武器の持ち込みなど禁止だ。坊主たちが腰から下げてる剣などは持ち込めねぇぞ」
そりゃそうか。
「困ったな、俺は素手に自信がないんだよな。青葉、いけるか?」
言われなくともそのつもりだ。
俺は黙って御衣黄の顔を見て頷く。
「その格闘大会っていうのは自由参加なのか?」
「あぁ。この町中の力自慢が集まるんだからな、気を付けないとお前の綺麗な顔が大変なことになっちまうぜ」
「ご忠告ありがとう、すぐにでも行きたい。メインストリートの場所教えてくれるかい?」
「あぁ、それならこの店を出た通りを進んでいれば着くさ。なんせここがメインストリートなんだからな」
とりあえず、入る手段を見つけたのなら話は速い。
ここは俺が身体を張って大会のチャンピオンを殴り倒せばいいってわけだ!
俺たちはおじさんにお礼を言ってからこの賭場を出た。
「お帰り」
外では幽香さんが退屈そうに立ちながら待っていた。
「ゆうかり~ん、なんで外にいるんだよ~、つまんないじゃん」
「私は博打に興味なんてないから」
うん、それ幽香さんのが正しい。
そりゃ人生の一回の経験的な意味合いとして賭け事はやるべきだと思うけど、常習化するのは良くない。
ギャンブルは人の財産と心を破壊するからね。
あれだって商売だ。どんだけ勝とうとも、最終的にはそこに手を出してしまった時点で店側の勝ちだ。どんだけ勝とうとも負けた時点でその勝敗は揺るがない。
「青葉~、直接城にカチコミに行くって考えはないのか?わざわざ格闘大会に参加だなんてこんな面倒なことしてまで」
「俺たちは梓ちゃんを助けに行くためにここへ来たんだ。強行突破なんてしてしまったら怖がられちゃうよ」
あくまでも敵ではないということを信じてもらうにはカチコミなんて出来ない。
「さっきの様子だと、お嬢の居場所は表椰子飼城だと思っていたようだけど?そこへのカチコミはどう説明するよ」
「うっ……………」
正直そのあたりあのときは考えてなかった……………
今になって冷静になればわかったことだったのに。
「それで青葉、御衣黄。アリスたちを見なかった?」
「いいや、いないね」
賭場にいるわけがないでしょう。
「何故かここだろうと思った座標に誰もいないのよ。きっと、なにか事情があって場を離れたんだと思うわ」
アリス、慧音さん、メディスン、雛、プリズムリバーウィズH。
これだけの人数集まっていて一人も残っていないなんて。
この大人数で、一般人もいる街中で拐われたとは考えにくいし、かといって今は町に大きな動きも見られない。
一体、何が………………
「いや、考えても仕方ない。今はとりあえずワンダーランドの中心に急ごう。この街のオーナーが開く格闘大会なんていう目立つイベントに参加すればアリスたちも気付いてくれるはずだよ」
この街にはあちこちに巨大モニターと音響設備が設置されており、街のあちこちを映し出している。
街一番のイベントである今日の格闘大会の様子はきっと生放送で中継され、このモニターから放送されるに違いない。それをアリスたちが見てくれれば合流できるだろう。
城へ入る権利を正式にゲットできるだけでなく、アリスたちと合流もできる。一石二鳥だ。
「よっしゃ!頑張れ青葉!ほら、このちまきを食べてパワーをつけるんだ!」
どこから持ってきたのか、笹の葉っぱにくるまれた餅を出してきた。
そんなものまで持参してきたのか。
「ごめん。俺、ちまき大の苦手なんだ」
「なっ……………なんだって────!?」
御衣黄は頭を押さえ、大声で驚いた。
「青葉にも苦手なものはあるのね…………」
意外そうな表情で幽香さんが見つめてくる。
「お餅は好きなんだけど…………その…………笹の葉が駄目で……………」
そう、俺はムカデとちまきだけは昔から大の苦手なのだ。
とくに理由はないんだけど、すごく苦手。
とにかくこの二つだけは何があっても受け入れられない。
まぁ、ほら。親父もムカデとちまき嫌いだったからそこは遺伝ってやつなのかもしれない。
「えぇ~、こんなに美味しいのに、勿体ない。まぁいいや、元から元気そうだもんね」
「…………それで、大丈夫なの?激戦続きで消耗しているだろうに。それに、この後も戦いは続くわよ」
「もちろん、ここからの戦いに備えることを考えた体力配分にするからさ」
俺のその辺りは信用してもらってくれて構わない。
「そういえば竜胆筆竜…………あいつは今、何をしてるんだろう」
「さぁな?俺にやられてまだのびてるんじゃない?」
そうだと良いんだけど……………
「何か不安でもあるの?」
「また俺がやっつけてあげるから心配しないの!」
「うん……………」
そりゃ、この二人がいれば心強いが、俺は心の奥底で燻る一抹の不安を消しきれなかった。
敵に対する執着心の塊ともいえるあの筆竜が、ここに来てからなにもしてこない。
御衣黄に負けてから、一刻も早く御衣黄に仕返しをしたい筈なのに、俺たちの前へ来ない。
まさか俺は死んだとは思っていないが、もしアリスたちのほうを狙っていたらどうしようと思ったのだ。
アリスたちには慧音さんがついている。彼が拐おうとしたあの慧音さんがいるのなら、向こうへ向かう可能性も高い。
それとも、俺たちのことはそっちのけで菖に加勢した?
あいつが一番やりそうなことだ。
しかし、そうなるとただ一人どうなったかわからない妹紅は?
菖と一騎討ちすることになってから妹紅の存在は急に確認できなくなった。
まだたたかっているのか、そんなことはないか。
激闘に疲れて休んでいるのか。
「───────────」
それとも……………負けて連れ去られたか。
どちらにせよ、妹紅が不安なことに変わりはない。
だが、まだ筆竜がどうなったのかはわかっていない。
もしかしたら…………城に潜入したら、また対峙することになるかもしれないな。
─────────そうして。
しばらく経過した後、このワンダーランド、通称「花の都」。鉄板の床でできたメインストリート、その奥には巨大な空間が広がっていた。
ここでは常に催し物が開催されており、何かしらの大会、コンサート、ライブが繰り広げられている。
中でも今日はこの街に住まう獣人たちが一番楽しみにしていたイベントの日だった。
「花都天下一格闘大会」。この街に住まう住民、及び観光客、加えてゲスト選手たちがこの広場に作られた巨大な正方形のリングの中で戦いを繰り広げるのだ。
要は総合格闘技大会とプロレス大会の間を取った大会だ。
リングの周囲には無数の警備員が立ってどよめく観客の侵入を防ぐ。
そしてその向こうには数えきれぬ程の人の波。
騒ぎ立てる観客、ギラギラとした華やかな照明。リングの上を映す巨大モニターと実況解説の音声を流すスピーカー。
文明といい、文化といい、あらゆる面でこの世界は人間の里よりも進んでいた。
外の世界の娯楽都市を参考にしただけあって、まるでここは楽園だ。
「マスター、もうすぐ始まるぜ」
「わかってるわよそれぐらい。へぇ、これが例の格闘大会ってやつ?」
その様子を会場の外から覗く二人の人影が。あの謎の少女と番傘の青年だ。
「うんうん、きっとそうだ。見てるだけで俺まで参加したくなって血が滾ってくる」
「あんたは淫魔でしょう、血が滾るワケないじゃない」
「どちらかというと俺は人形だろ?いや、正確にはカカシとブリキと獅子の間って言ったらいいのかな?」
「私が頑張って作った最高傑作ともいえるこのカカシとブリキと獅子の間を取った人形に勝手に取り憑いたのがあんたよ、
「ごめんごめんって。その代わり、忠誠誓ってるじゃん?」
「今のところ忠誠心の欠片も見せて貰ってないんですけど」
「さぁ、今年も始まりました、花都天下一格闘大会!!ワンダーランドメインストリート奥、
高台に用意された実況席から、一人の男が叫ぶように早口でマイクに叫ぶ。
「へぇぇっ、へぇっ、水~」とコップに入れた水を一口で飲み干す。
「本大会のルールは例年通りの時間無制限、凶器以外はなんでもアリ!金的、噛み付き、毒霧、目潰しなんでもオーケー!勝てば良かろうこの戦いはすなわち獣と獣による血で血を洗う殺し合い!弱肉強食に生まれたすべての生き物とこの世界に感謝を込めて、今日この場に降り立つ戦士たちは世界そのものへの聖なる献身をするのです!」
会場から歓声が巻き起こる。
「実況は私、本大会の主催者を勤めさせて頂いております椰子飼当主、椰子飼県でお送り致します!」
そう、ここにてマイクを握るのが椰子飼県である。
竜胆筆竜と庭石菖を護衛につける、椰子飼当主候補最後の一人だ。
龍臣が死亡し、雲月も失脚して気絶した今、この資産争いも彼の勝ちがほぼほぼ確定してはいるのだが、そんな事も知らずに彼は実況席でマイクを握ることのみに専念している。
「本来は解説役に竜胆筆竜様をお呼びしていましたが、どうやらご不在のようですので、まとめてやりまーす」
一通りしゃべりきった後、県は椅子の背もたれに倒れる。
「なぁにやってんすかねぇ、筆竜と菖は」
「県様、」
部屋の中に大会スタッフがやってきた。
「なんすかー?」
「例の埋まっていなかった最後の選手一枠ですが、ぜひとも参加したいと滑り込みがありました」
「マジすか?やったー!」
県はその顔に満面の笑みを浮かべる。
「ちなみにその人はどんな人なんすか?」
「えぇと、三度笠を被って、和服を着た……………たぶん女性かと」
「女っすかー、女性選手はこれで二人目っすね」
「はい。あの観光客を自称する姉妹しか女性選手は居ませんでしたから。たしか、参加するのは妹の方、あの「クイーン・ビー」でしたっけ」
「あぁ、女同士の対決をぜひ見てみたいっすな。でも大丈夫かねぇ、ここに参加する男の連中はろくでなし多いっすから」
「と言いますと…………?」
「いやほら、カメラの前で大胆に凌辱プレイとか勘弁っすよ。僕、基本的にそういうの嫌いっすから。女性への凌辱禁止ってルール追加しとく?」
「凶器以外はなんでもアリと言い出したのは県様では……………」
まいったなぁ、と頭を悩ませる県。
そんな中で会場からひときわ高い歓声が巻き起こる。
すでに最初の戦いは始まろうとしていた。
「県様、一回戦始まりますよ」
「え!?ちょっと待ってよ、もうこんな時間!?」
あわてて県はマイクを手に取る。
「お待たせ致しました!皆様お待ちかね第一回戦!」
「うわぁ………………」
これさぁ、俺が予想していた格闘大会とは全然ちがうんだけど。
もっとこうさ、畳の上でお辞儀してから組み合うのかと思ったらさ……………
めちゃくちゃ血なまぐさそうな戦いになりそうな予感しかしない。
ルール無用感漂うよねこの会場。
なんか観客もうるさいし照明も眩しいし。
「ふぅ、」
これも大事な任務の一貫だ、負けることは許されない。
俺は刀を外すとここまで来てくれた御衣黄に預ける。
「がんばっといで~」
「極力目立つように頼むわよ」
御衣黄と幽香さんに手を振りながら見送ってもらい、俺は頷き、意を決してリングに登った。
『え?なんだって、これ?これでいいの?』
スピーカーからは実況席のドタバタが聞こえてくる。
俺が滑り込みでエントリーしたから急ぎの騒ぎになってしまったようだ。
『はい!失礼しました!ではいよいよ始めましょう!今回ギリギリでエントリーされたのは皆様にご覧になられていましょうこちらのリングにただいま登りました一人の女性!!』
───────俺は一瞬で氷像のように固まった。
『三度笠に隠されたその美貌、誰もが気になるだろう彼女の素顔。しかし、理性と優しさを捨てたこのサバンナの上では如何なる美しさも無意味無意味無意味!かえって華やかな毛皮はただただ野生のケダモノに襲われやすくなるばかり!しかし侮るなかれ、その顔は美貌とは限らない、もしかしたらその正体は般若かもしれない!または目を見ただけで敵を石に変えるゴルゴンの生まれ変わりか!はたまた無数の牙を並べ角を生やした鬼か!本日一番目に登場するのは本日一番の大嵐!赤コーナー、神門ォォ青葉ァァァ!!!』
完全に人をおちょくっているだろこの実況。
まず、俺は絶対女ではないだろ。
性別間違えられるってどういうこと!?
「青葉ぁぁぁぁ!!!なんかポーズするなり決め台詞なりなんかしろぉぉぉ!!!」
御衣黄が叫んでくる。
くそっ、後で覚えておけよ…………!!
「が、頑張るわよ…………!!私が幻想郷一ィィィっ!!」
いい感じに髪をかき上げながら両腕を広げ、歓声の雨にうたれる。寒っ。熱っ。
人から歓迎されるのは悪い気はしないな。
依ねぇにしごかれる兎たちに休憩時間に炊き出しを持ってきて上げたときの歓声を思い出す。
『そしてその青葉ちゃんを迎え撃つのは本大会の常連様、女の尊厳絶対踏みにじるマンこと我らが「エックス」!強靭な肉体と豪腕でほかの選手を圧倒する!戦車のように固い体躯は如何なる打撃も通さない!放たれるパンチと投げ技はミサイルが如し!彼に勝つには凶器を持ち込んで失格負けになるしかないとまでいわれたほど!そして彼のもっとも有名なのは、その暴虐性!何人もの選手を病院送りにし、何人かを昏睡させたり死なせたりすることもたまにあるぐらい!しかも歴代大会でも幾度となく女性選手たちの身体と心を蹂躙し、汚し尽くしたその暴虐っぷりと非常識ぶりは、まさにこの大会に生まれた鬼神!さぁ、暴れるがいい百鬼よ!!青コーナー、我らがお馴染み優勝候補、マスクドォォォォXゥゥゥゥ!!!』
「ウォォォォォォォォォッッッ!!!!」
リングに飛び込んでくるのは俺の1.5倍くらい背の高い大男!
なんだこのリョナ系漫画みたいな展開は────!?
「ククク、いい女だぜぇ…………これはやりがいがあるじゃねぇか…………ぜってぇ犯す」
「あ、あはは……………うん………それは………どうかしら…………」
だめだ、俺はどうやらこの大会の中においては女性という扱いになっているらしい。
もう性別を訂正するタイミング失った。
『─────さぁ!凶器禁止以外のルールは無用!さんざん暴れてくんな!花都天下一格闘大会、第一回戦の幕開けだぁぁぁッ!!』
ゴングが鳴り響く。
どうやら始まったみたいだな。
──────いやさ、これだけやっといて凶器だけは禁止なのなんでなん?