東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「さて、いよいよ決勝始まるわよ。錦、録画の準備は?」
ドロシーと錦は速やかにアリスたちを逃がした後、この大会の会場を遠くから眺めていた。
始まりの時からずっと動かないのだが、今になって考えてみればドロシーの一行は全部で四人いたはずだ。
ドロシー、錦、それに加えて謎の姉妹がいたはず。
しかし、その二人はまだここに来てから姿を見せていない。
「いやいや、そんなん要らないっしょぉ…………お楽しみ回じゃないんだからさぁ。他人の試合なんて録画してなにが楽しいんだい」
「他人といっても身内の試合だからね。しっかりあの二人の試合を残しておかないと」
「そっか、あの二人が出るんだっけ?」
どうやら、あの二人は格闘大会に出ていたらしい。
「えぇ。妹のほうがクイーン・ビーって名前で」
「神門青葉といい、彼女といい、まさかノリで出ようとしたら運良く勝ち残っちゃうとはね。いろいろな意味で流石って言わざるを得ないな」
「で?錦、優勝賞品、出るって言ってたじゃない?貴方が用意するんでしょう?」
「あぁ、そいつがもうすぐ来るって言おうとしていたんだけど…………ねっ!」
錦は立ち上がると、後ろのほうへ歩いていく。
すると、向こうから大きな荷物を頭の上に担いでやってきた小さい子供たちがいた。
「ちょうど来たんだよねこれが。おーいこっちこっち!」
「これ………地上から地下におろすのきっついなぁ」
子供たちには丸みを帯びた大きな兎耳がついていた。
その先頭を歩くのは同じサイズの女の子。
「君、すごい苦労した顔してるね。なんにも持ってないくせに」
「兎たちの指示もまぁ大変なんですよっと。はい、ご注文は兎ですか?」
「冗談。ご注文はお宅のタケノコだよ」
「あいはい、どうぞ~。はい、おろしておろして~」
桃色のワンピースを来た兎が指示すると、10人以上集まった、兎の耳をつけた子人たちが荷物をおろす。
兎たちが蓋を開けると、中からタケノコが出てきた。
「ほんとは私たちの蓄えだったのにぃ」
「送ってくれるって言ったのは君でしょう、てゐちゃん。そんなに大事な蓄えなんだったら無理しなくてもよかったのに」
「いやいやァ、ダイコク様似の美男子サマのお願いなら、私が許さなくても兎たちが甘んじちゃうの。民主主義って怖いもんでね、頭領がどんなに反対しようと民意が多数派だったら負けちゃうの。ま、今回の件は私も賛成だったけどねぇ~。ついでに、お代も三割引きにしてあげるよ~」
「よっしゃ、さっすがてゐちゃん。太っ腹ぁ!」
「昔、オオバってやつが教えてくれたのよぉ。「商売で大事なのは幾ら稼いだかじゃなくて、どれだけ客を喜ばせたかだ」ってね」
てゐという兎の少女はニコニコしながら割引した代金を錦から受け取ると、兎たちを連れて上機嫌で帰っていった。
「あ、そうそう。ここにオオバいるって、ホントなの?」
「まっ、たぶんね」
「そっか。じゃ、私らは帰るね」
「なんだい、居るんだったら声かけたりするのかと思った」
「彼はもう、永遠亭とは関係ないからね。既に、立派な人間の里の商人だから、いきなり兎の妖怪に話し掛けられたら気分悪いでしょ?」
てゐは少し寂しそうな顔をして笑うと、兎を連れてその場から立ち去った。
錦はやれやれ、と頭を搔いてそれを黙って見送った。
「錦、今のは…………いつの間にあんなの手懐けたの?」
「だからさ、俺は淫魔だよ。どんな相手だろうと、その人の思う理想の姿になれるんだから、兎さんぐらい朝飯前さ」
「便利なもんね…………」
ドロシーも我ながらすごいヤツを味方につけたな、と呆れる。
「しかし、いい子じゃないか、あのてゐって子。古い縁でも、やっぱり仲間を大切にしているってことさね」
「誰かさんにも見習ってほしいところね」
「流石は────あの八意様の弟子ってとこか」
「何か言った?」
「いや、なんにも」
錦は首を振ると、箱の中に入っていたタケノコを手に取る。
良い匂いだな、と呟いてからその場で寝っ転がる。
そんなものには見向きもせず、ドロシーはただ高台からリングを見下ろす。
「さて…………クイーン・ビーには絶対に勝って貰いたいところね。そうじゃないと、私たちの計画が成功しないから」
「次はいよいよ決勝よ、青葉」
アリスの声にあぁ、と呟きながら俺は机の上にあるお菓子をつまむ。
「まったく、運動前に菓子類とは…………」
「慧音さん、いつからこれを正当なスポーツ大会だと思ってるのさ。あくまでも潜入作戦の一貫。コンディションとかそういうの気にしてる場合じゃないでしょう。おーい御衣黄、ここのお菓子まぁまぁ………というかかなり美味しいよ。食べないの?」
この苺のタルト気に入った。生地の材料もだいたい予想つくから、今度うちの無花果でやってみようかな。きっと慧音さんや妹紅も喜ぶにちがいない。
「俺はね、洋菓子に興味はないの」
和菓子推しの御衣黄はぷいっ、とそっぽ向いてしまった。
「意固地なやつ…………」
「そういえば、次は誰が出てくるのかな?」
リリカがふと呟いた。
─────そういえば、俺と決勝で戦うっていう選手、まだ聞いていないな。
ここまでこれた俺も凄いが、相手方も強敵のはずだ。最後まで油断はできない。
「ここに書いてある…………「クイーン・ビー」っていう人が相手かしら」
ルナサが机の上に置いてあった紙を俺の前に出してきた。
「クイーン・ビー…………?」
──────女王蜂?
どういうことだろう。虫っぽい相手と戦うことになるのか?
毒蜂相手は勘弁だ。
「──────あ」
俺はふと気付いた。
「どうしたんだ、青葉?」
慧音さんが不思議そうな表情をしている中で、俺は夢中で着物の内を探す。
「あった!!ウドンゲさんから買った対蜂用の超強力対毒剤だ!!」
この前、ウドンゲさんがトヨさんから紋章を託されて俺の所にに届けに来てくれたときに買ったやつ!
「よし…………これなら…………!!」
これなら女王蜂相手でも問題ない!
「それ…………ドーピングってやつじゃないかしら?」
幽香さんがあきれた顔で指摘してくる。
「いや!!!違う!!!」
「違うならなんだっていうのよ」
「凶器持ち込み以外はアリだもん!!!」
県がそう言ってたんだ!!!
ドーピングしたってなんの問題もない!!!
「やれやれ……………」
アリス、幽香さん、慧音さんのクール女子三人組は揃って額を抑えたままうなだれた。
『さぁ、皆様お待たせいたしました。これより花都天下一格闘大会、決勝戦を始めます!!実況はお馴染みの私、椰子飼県。いよいよ始まります、今大会の決着の一戦、今よりリングに上がるお二方は本日において本大会が誇る最強の勇者たちを見事打ち倒し、優勝への切符を掴んだ紛れもない勝者の枠。ただし、残念ながらチャンピオンベルトをつけるに相応しい者はただ一人。勝者の中の勝者、本当の最強を決めなくてはなりません。最後の戦いはこれまでとはさらに次元を越えた熾烈な争いが始まることでしょう!さぁ、一体優勝者は誰になるのか!会場の皆様はもちろん、我々にすらその予想は立てられない!もはや本大会の新たなる風の吹く先は、神のみぞ知るといったところか!』
過激な実況と歓声が巻き起こる中、俺は意を決してリングに上がった。
大丈夫、対毒剤はちゃんと飲んだ。クイーン・ビーとやら…………
悪いがこっちはやることがあるから加減はしてやらないからな。
今までのが3だとしたら今から16出していこうと思う。
『赤コーナー!本日一番盛り上がりました今ではお馴染み、我らが天使こと男の娘!三度笠被るその美貌に魅入られた愚かな男たちは総勢揃って返り討ち!誰一人としてその顔に傷をつけたものはいなかった、絶世の美男子!神門ォォォォ、青葉ァァァァ!!』
「──────────」
なんか……………酷くなってないか!?
嘘ばっかりついてるけど、少なくとも、男の娘ではないだろ俺は!!!
『青コーナー!青葉選手も凄まじいハリケーンだったが、こっちもこっちでまさにライトニング!!クイーン・ビー!!』
来るぞ、クイーン・ビーとやらが。
いったい、どんな相手なのだろうか。
『─────クイーン・ビーの名前の由来を知りたいか!?』
あれ?まだ紹介終わってないのか。
「クイーン・ビーの名前の由来?おしえておしえて!」
「気になるね、これはどんな名前なのかな!」
「女王蜂…………ではないのね」
「ビー…………ビーって、ビー?」
「ほほう、種明かしとはこれはアツいね!」
「頑張れアオハさーん!」
「アリス、なんかまずいのが見えてるんだが!?」
「え、何が…………って、えぇぇぇぇ!?」
観客席からなんか、実況のノリへの応答とは異なる驚愕みたいな声が聞こえてきたが…………どうかしたのか?
『クイーン・ビーのビーは、Bのビー!!では、そのBとは何か、知りたいやつは声で答えろ!!!』
「イェェェェェェイ!!!」
「はぁぁぁぁぁあい!!!」
「わぁぁぁぁぁぁい!!!」
「いぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁ!!!」
「らっせーらぁぁぁぁぁぁ!!!」
「はっはっは!!!!!」
なんか、慧音さんとアリスが必至に叫んでるけど聞こえない!!!
別にいいじゃん、誰が相手だろうと、やることは変わんない!!!
『いいぜ、なら教えてやろうじゃねぇかクイーン・BのBは、バブルのB!!!この花の都、ワンダーランドに相応しい言葉だと思わないか!!金銀財宝を両手に抱え、一攫千金目指して拳振るう!!宝石指輪はメリケンサック、グラサンとハットはプロレスマスク!いっそのことリングも
「さぁぁぁぁぁぁて、やってやるわよ!さっさとチャンピオンベルトかっぱらって帰る!!」
リングの中に、クイーン・Bが飛び込んできた。
なんと、その姿は女の子だった!!!
快活な明るい笑顔と狂気を孕んだまさに女子プロレスラーの如し風格を見せる。
俺よりも背が低いのに、そのくせとてつもない程の力への渇望が感じ取れた。
このゴージャスさと相反する禍々しい雰囲気、一目でバブルを思わせるこの華やかな姿…………そして性格と表情に性質が大きくあらわれるこの感じ、間違いない─────
「
─────────疫病神だ!!!!!
「はぁい!調子どう?ま、どうあれあんたは私にこのあとコテンパンにされる未来が約束されているんだけど。みてるー?姉さんー!!!」
依神女苑は後ろを振り向いて手を振る。
「女苑~!!!頑張って~!!!応援してるよ!!!」
その向こうには彼女とはまったく真逆、貧乏神のような印象を思わせる暗い幽霊のような女がいた。あれが彼女の姉なのか。
「私は依神女苑、
「もちろんだ、俺は相手がどんなのでも油断したりなんかしないよ。ただその代わり─────」
変なやつだが、相手にとって不足はなさそうだ。
「──────俺は容赦もしないけどね」
「へへん、上等じゃない。見かけに反して結構強気ね、いい意味で見かけ倒しな相手じゃない。久しぶりにやる気出てきたわよ。本気で格闘するのって久しぶりでね…………私は寺に閉じ込められていたもんだからしばらくの間はロクに娑婆の空気を吸えなかったのよ。おかげで体がフラストレーション溜まりまくり。その発散のために来てやったら準備運動で全滅していくんだからまぁ余計にイライラするもんよ。でも…………この相手なら、ストレス発散できそうね」
なるほど、筋金入りの戦闘民族だ。
幻想郷の少女あるあるだな。
「─────そうできたら嬉しいな、でも不安だな」
「不安?」
「ほら、うっかり君を負かしてしまったら、余計にストレスを溜め込まれるわけだろ?そいつは避けたいもんだ」
そっちが挑発してくるなら、こっちも遠慮なく挑発させてもらおう。
この通り
「言うじゃない、気に入ったわ!さぁ、そんだけ自信があるならこっちも遠慮なーくボッコボコにしてやれるわ、さぁ覚悟しなさい!あの金ピカのチャンピオンベルトは頂くわ!」
「俺にはそんな置物要らないさ、ただ…………自分より強い人がいるっていうのは、少々納得いかないね!!」
実は、昔から負けず嫌いなんだ俺は!
『両者完全にハイになっている!!これはもう後戻りできないぞ!もう話し合いではどうしようもない!いやまぁ、たしかに戦って貰わないと困るんだけども!!この試合、神と悪魔の最終聖戦、かのアルマゲドンにそっくりだ!いざ尋常に始め、最終戦の始まりだ、ゴングを鳴らせぇぇぇ!!!』
響き渡るゴングの音を聞いた瞬間に、
「たぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「せやっっっっっっ!!!」
俺の拳と女苑の拳が激突した。
クイーンオブバブル、ここで討ち取ってみせる!