東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「くぅ~っ!やっぱり慧音の手料理で飲む一杯は至極だねぇ~」
珍しくお酒片手にはしゃぐ妹紅。
さっきの出来事があった直後、お詫びがなんとかやら、窓修理やら、なんやら、なんかいろいろ紆余曲折を経て、こうして俺たちは慧音さんの自宅で夜ご飯を食べることになった。
なんでこうなったんだろう。
慧音さんの家は案外質素。
もっと大きなお屋敷とかかと思っていたら、そうでもなかった。俺の家に修繕工事が入ったらこんな感じになるだろう。
しかし、中は俺とは対照的に、明かりに満ちていて、生活感のある、一介の女性らしい綺麗な部屋だった。
空き家にしか見えない俺の家よりかはずっと豪邸だ。
「慧音さん、これ……………」
机に並んだ料理はおそらく慧音さんの手料理。
すごい、料理するんだこの人……………妹紅はよくお弁当を貰っているらしいが、本当に料理するの好きだったんだ…………
俺も料理は嫌いじゃないが、後片付けがめんどくさいんだよね~。というか、こんな贅沢な料理作るほどの余裕ないし。
肉なんていう高級品、どんだけ食べていないことか。
「あぁ、鯛の刺身だが…………どうかしたか?」
「やっぱり!?」
「あ、あぁ。苦手か?」
「いや、大好物…………!!」
俺のプロフィールをどこで把握したんだこの人。俺、鯖の押し寿司と鯛の刺身が大好物なんだ。
鯛なんてぶっとんだ高級食材だから、好物なのに何ヵ月と食べれていなかったのだ。
まさか、こんなところで食べれるなんて…………
「そうか。なら、好きなだけ食べていくといい。よく食べる者ほどよく育つ、からな」
いやいや、俺と慧音さんって同い年ぐらいだよね…………なんなら、俺のほうが少し上じゃないか?
いや………角を見ないとなんとも言えないか。
ハクタク族は角が長くて太いほど歳上という年齢の見分け方がある程度ある。
まぁ、男女でも大きさは違うし、個人差もあるから人間や妖怪には区別つかないんだけど、ハクタクからするとまぁ、大体のものは見分けがつく。
慧音さんの年齢は不明だが、まぁ間違いなく成人はしているはずだ。
半分は人間なのだから、妹紅ほどの合法ロリでもないはずだ。いや、べつに妹紅はロリというわけではないか。年頃の娘って感じか。
俺の角は昔から男にしては短くて細いものだっただから、よく女性と思われることが多かった。髪も長いし、三度笠被っていたら中性的な見た目に見えるのかもしれない。ありゃあひどいコンプレックスだったなぁ。
ワーハクタク族は、顔がイケメンな男よりも角が長い男のほうがワーハクタクの女性にモテる。角長いほうが喧嘩強そうだし、普通に角が立派だし。
俺は顔面こそ人間的な美形なそうだが、角に関しては角の長い女性ワーハクタクと間違えられるくらい短い。
…………本来は、それを隠すために三度笠を被っていたのだ。
人間の前でハクタク化しないため、とかいう説得力のある理由は後付けのものだった。
「いやしかし、本当にさっきはすまなかったな。昨日が満月だったものだから、私もつい取り乱してしまった…………」
慧音さんが恥ずかしそうに頬を引っ掻く。
いいよ、もう。困ったらすぐに弾幕ぶちかましてくるのは幻想郷じゃよくあることだもん。幻想郷には戦闘民族多いからね。慧音さんもその一人だっただけのことだ。
「いやいや、こっちこそ大事なお話の最中に眠ってしまってごめんなさい…………」
満月の日、要は月イチでハクタク化する慧音さん。一定周期でどうしようもないことが起こるのは女の子の日に近い現象と言えるだろう。なら、多少苛立っていても仕方ない。苦労しているのは間違いないのだし、というかこっちが眠ったことが引き金になったんだし。
「しかし、満月以外では月の光を浴びてもハクタク化しないなんて、慧音さんはホントに特異体質なんだなぁ」
俺は、月イチでハクタク化するなんていう体質のワーハクタクを見たことがない。
こんなのは特例中の特例だ。
生まれてはじめてだ、こんなケース。
俺にとってワーハクタクとは、月の光を浴びることで人間からワーハクタクに変わる、というもの。
中には俺や安曇のように、日光を浴びただけでハクタク化してしまうパターンもよくある。
だが……………慧音さんのようなものは見たことがない。
慧音さんはワーハクタクの里の生まれではない、というのならある程度理由がつくのだろうが……………
「まぁ、そうだな。私は他のワーハクタクと比べると少し特殊だからな」
「うぅん、美味いね、これ。角煮なんて初めて食べたけど、これは美味しいなぁ!」
「妹紅…………話を遮らないでよ…………」
「あれぇ?何か話してたかぁ?」
「酔って話聞けていないんじゃあないのか」
天涯の独身一人暮らしの俺には、こんな華やかで賑やかな食卓が、羨ましく、そして輝かしく思えた。
「──────ということなんだけど、どう思うかしら、みんな」
慧音の自宅から遠く離れたとある場所の暗い部屋。
そこには、
そこにいる数人の少女たち。
「どうもこうも思わないよ。そいつが本当にワーハクタクなんだったら、まずいことになるぜ」
みんなが正座している中で一人だけ
「で、でも。連中はなんで慧音さんを狙うのでしょう…………?」
胡座をかいている少女とはまた別の小柄な少女が言う。
「全くわからないわ。ただ一つわかるのは、慧音の存在を確認したからこそ、彼らはこの里に現れるようになった、ということよ」
皆に意見を問うたリボンの少女が言う。
「獣人の事情などどうでもいいけれど、彼らによって里が危険に晒されているのは事実よ」
鋭い目の少女がそう言ってお茶を飲む。
「里の人々に手を出す理由は?」
長いスカートの少女が寝っ転がりながら言う。
「それが一番の謎なのよ。慧音を狙うのなら、ある程度説明がつく。けれど、それでは里の人間を襲う理由がない」
「悪党が悪さするのに理由なんて要るか?無差別悪事に動機なんかないさ。怨みや妬みを持った「
胡座をかく少女が捲し立てる。
「黙っていないで何か言いなさいよ、あんたはどう思っているの?────鈴仙」
巫女のような服を着た、リボンの少女が言う。
「そうよ、貴女さっきから黙ってばかりじゃない」
鋭い目付きのメイドも続ける。
「何か思うところがあるんだろう?」
胡座をかいていた白黒の服を着た少女が鈴仙と呼ばれた少女の顔を覗き込む。
「ひょっとしてなにか知っているんじゃないの?白状すると、私もたぶんこの前会ったもの、そのワーハクタクに」
長いスカートを履いた、人形劇役者みたいな金髪の少女がため息をつく。
「私も、それらしいものを見たような気が…………」
銀髪の小柄な少女もそう言って空を仰ぐ。
「どうなの、鈴仙」
「──────たぶん、私…………知っているような…………」
鈴仙は頬をかいて誤魔化しながら話を流そうとする。
「なんだったら、早いことなんとかして欲しいわ。私とあんたは里によく踏み込むんだから、見つけたらすぐにとっ捕まえてちょうだい」
「霊夢も会ったら教えてよ…………私よりも貴女のほうがよく里に行くじゃない」
「まぁね、努力はするつもりよ。けれど、未だに尻尾を掴むことすらできやしないわ。きっと連中は冴えているのよ、私たちに見つかったらまずいってわかっているはず。となると、人間になりすまして里に溶け込んでいるというのが自然だわ。もし、満月の夜に、慧音以外の人物がハクタクの姿に変わったなら、十中八九で
霊夢と呼ばれた少女が鋭い目付きを構えた。
その少女の姿が行灯の光で照らされて陽炎のように揺れる。
その姿は、昼間に青葉と出会った、
──────ここ、博麗神社の巫女であった。
上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)
主人公。
人間の里に構える寺子屋の教師にして、幻想郷の歴史の編纂者。
半人半獣のワーハクタクで、人間の血とハクタクの血を引いている。
能力は「歴史を食べる程度の能力」と「歴史を創る程度の能力」。
昼間に歴史を食べ、満月の夜にハクタクの姿となって食べた歴史を紡ぎ、歴史を創って記録する。
高身長に白いシャツと青いワンピース、そして青い冠が特徴の白髪の女性。
文化人ということで基本的には頭脳労働だが、いざという時は里の人々を守るために弾幕を振るうこともあるそうだ。
謎にして不自然である彼女の寺子屋だが、多くの子供たちを招いており、里じゅうの人々から信頼されている大物である。
親友である妹紅との繋がりを経て神門青葉と知り合うことになり、それが彼女の人生を変えていく……………
謎多きワーハクタクであり、如何なる経緯で幻想郷の歴史を編纂することになったのか、詳しいことまでは分かっていない。故郷も生まれも不明。
歴史を創るのは、里に住む人間のためであると本人は言っているが…………
神門 青葉(みかど あおは)
もう一人の主人公、通称オオバ。
基本的に本作は彼の一人称視点で物語が展開される。
わずかに空色が掛かった、腰の辺りまで伸びた長い白髪と、深くて広い三度笠が特徴。
普段着は薄手でゆったりとした、紺の着流し姿だが、本当は洋服も着こなせるそう。
意外と美形のようで、里の女性から惹かれ易い御曹司属性……………なのだが、実際は貧乏生活を送っている。
「いぬゐ舎」という道具屋の肩書きで暮らしており、狭い家で明日の飯は食えるか食えないかと考えながら過ごしているそう。
しかし、身体はべつに臭くはないし、着物も肌も整っており、痩せ細っているわけでもないので、実際はそれほど貧乏でもないのかもしれない。
人間の里から遠く離れた山奥にある「ワーハクタクの里」で生まれた青年であり、自分が憧れた父の跡を継いで里に降りてきた。
「文字を書き換える程度の能力」を持っており、書類の訂正や改訂、看板の誤字修正、外の世界の文献の翻訳などを生業とする民間書士。道具屋としての活躍は無いに等しい。
文字を書き換える程度の能力を応用して、スペルカードを書き換えることで自分のものとし、弾幕が撃てないにも関わらず改造した相手のスペルカードを使って弾幕勝負を行うという離れ業を平然と行うバケモノでもある。
グレイズも通常射撃も不可能でありながらもその実力は、藤原妹紅と互角に戦い、そのうえ紅魔館から生還するほど。
────その能力は、あらゆる文字を書き換えるが故に、ありとあらゆる記録を
歴史や戸籍、律令といった記録や文書の改竄や捏造などは、無知かつ無垢である彼にはない発想ではあるが、もし欲深き卑しき者がその能力を持って生まれれば…………いやはや、どのような世界になっていたか。
世界に革新をもたらし得る、一方で、社会を破滅に
日の光や月の光を浴びるとハクタクの姿に変身するようになっており、普段は変身を防ぐために三度笠を被っている。
ハクタクの血がもたらす強靭な肉体により、魔法の森の瘴気や妹紅の灼熱に耐えることができる。
普段は温厚で寛容、物事を気にしない性格だが、意外とどこまでも考えが深く、考察癖がある。
推理力が高いが、結局なにも気にせず忘れてしまうので、推理力は無駄に終わることが多い。
鯛の刺身と鯖の押し寿司が大好物で、慧音の手料理が好き。
本人はコミュ障を自称しているが、本性を覗いてみれば社交的な人間であり、なにかと交流が多すぎる。
どこから教わったのか中国拳法を使ってきたり、なぜか月人の流派の剣術を扱ったり、神社や寺との交流が多かったり、頻繁に月の賢者と知り合いな様子を醸し出したり。
本当にただのワーハクタクなのか謎なところ。
藤原 妹紅(ふじわらの もこう)
竹林に住んでいるモンペ姿の少女。
外見は慧音や青葉よりも一回り小さい少女だが、すでに1000年以上の時を生きた不老不死の蓬莱人。
どこで身に付けたのか、発火能力を持っている。妖術を使っているのか、あるいは何かしらの能力か。
能力は「老いることも死ぬことも無い程度の能力」。
この能力によって彼女は千の時を越した。
人類の悲願たる不滅の肉体、いつ何があったのか、何かのきっかけでそれを選んだ彼女に待っていたのは果てしない絶望の千年。
何もかもに飽き、何もかもを忘れた少女。
自暴自棄となったその1000年に意味などなく、故に彼女は実質慧音や青葉と変わらない心と経験で生きている。中性的で激しい性格で、小さなことに怒ったりする、青葉とは対照的な性格。
すべてを棄てた彼女を蘇らせたのは一体誰なのか……………慧音だろうか?
彼女自身は、別に青葉のことを友達とは思っておらず、「里に侵入する際の隠れ簑」という風に思っているらしい。
だが、根っからの人が良すぎるからか、日頃の義理を返すためにちょくちょく顔を出しては青葉に依頼をくれてやったり、「大勢で食ったほうが美味いからな」と弁当を分けてくれたりする。
不老不死といえど暑いものは暑いらしく、自分自身の炎にうんざりしてきたら竹林の竹を割って流しそうめんを楽しんだりもしている。