東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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地底戦争、開幕

 

「青葉、前に門があるわよ!!」

 

アリスが叫ぶ。

俺もちょうど気付いたところだった。

 

「あぁ、やっぱり大きいな」

 

椰子飼城を目指すには、城下町のように入り組んだこの場所を突破しなくてはならない。

さっきまであんなにも外の世界風を思わせるチャラチャラとした外見の町並みだったのが、街の外れに出ていよいよ城が大きく見えてきたタイミングから雰囲気ががらっと変わった。

棚田のように詰まった高低差のある地形がそこらじゅうに並んでおり、和風の木橋が縦、横、斜めとさまざまな角度と高度で張り巡らされている。

今俺たちが走っている場所の下にも同じ地形が広がっていて、一番下は広い堀になっていた。

 

「どこを目指せば良いんだろう」

 

「あそこだな、」

 

慧音さんが指差した方向には、最下層に広がるお堀の果て。そこには確かに妙に明るい空間があり、おそらくあそこが建物への入り口なのだろう。

 

「まずは、この正門を突破しないといけないわね」

 

「しかしここから先は堀になっている。跳ね橋を下ろさなくては…………」

 

慧音さんの言う通り、この先は堀になっていてとても先に進めそうにない。

ここの跳ね橋が降りてくれれば先へ進めるのだけど…………

 

「誰か開けてくれ!俺たちはこの先に用があるんだ!」

 

 

 

俺が叫んだが応答はなかった。しかし、ゆっくりと跳ね橋が降りてきた。

 

「よかった、通してくれたみたいね!」

 

メディスンが飛び上がって喜ぶ。

 

「嫌な予感がするわ…………」

 

雛の言う通りだ。

開けなければいいのに、わざわざこうやって素直に開けてくれるということは、だいたいそういうコトに決まっている。

 

 

 

「行くぞお前らぁぁぁぁ!!!」

「侵入者をぶっ殺すんじゃぁぁぁ!!」

「女どもも全員捕まえちまえ!!」

「ワァァァァァァァァァ!!!」

 

 

跳ね橋の向こうにあった門の扉が開くと、中から大量の獣人兵たちが武装した状態であふれ出てきた。

この数、地上での戦闘の時を越えている。

本拠地ならば無理もない。おそらく兵士たちも精鋭揃いに違いない。

 

「さっそくお出ましだな!どうするよ青葉!」

 

「この複雑な地形を利用して敵を分散させよう!みんな、散らばって!一人か二人で戦うようにしてくれ!」

 

そう言いながら俺は正面を突っ切る。

 

「「「 了解!!!! 」」」

 

全員でまとめて獣人兵に立ち向かう。

攻城戦だ、一気に蹴散らしていこう、最短で梓ちゃんの元まで駆けつけるぞ。

ここまですごく長かったけど、ようやく決着をつけるタイミングが来たようだ。

誰も死なせずに、梓ちゃんを救いだしてみせる!!

 

「いっくぞぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てやぁぁぁっ!!!」

 

青葉が模造刀で敵を殴り倒していく。

橋の上で戦う青葉一人に容赦なく襲いかかる兵士たちは次々と返り討ちにあっていく。

しかしさすがの青葉も無限ではない。多すぎる兵士の波に囲まれていくうちに、だんだんと動きが悪くなっていく。

 

「くっ………づぁ!!!」

 

ギリギリで振り下ろされた斧を受けるが、勢いを殺しきれず胴体が橋の欄干に押さえつけられ、落下しそうになる。

 

「くっ…………ぐぅぅぅぅ!!」

「くっぅぅぅぅ、死ねぇぇぇぁぁぁ!!」

 

青葉を落とそうと斧兵はより一層体重をかけてくる。

 

「く──────ううぅぅぅぅ!!!」

 

青葉は自ら足場を踏みつける足を浮かせ、欄干に押さえつけられまま頭から落ちるように背中を反らす。

 

「うゥゥァァァア─────!!!!」

 

そのまま巴投げの要領で逆に斧兵のほうを橋の外へ落とした。

 

「う、う───あァァァァァァァ!!!」

 

真下に落下していく斧兵。そこらじゅうに橋があるが、残念ながらその落下ルートでは無事に着地できる橋などないらしい。

そのまま堀にたまった池へと真っ逆さまに落ちていった。

 

「ふっ!!」

 

青葉は身体を勢い良く起こして復帰する。

 

「─────────ふぅ、」

 

「な…………なんだ…………化物か…………!」

 

「お前ら………多すぎるんだよ────!!!」

 

走りよって強烈な飛び蹴りをぶつけてまた一人を落としていった。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」

「な、なんだこいつは…………!!!」

 

 

 

「ぐっ…………うぉ…………ッ!!」

 

唐突に、青葉が剣を落とし、口を抑えた手の中に血を吐きながら屈む。

身体に傷ができていく。

度重なる無茶のために、無理やり治療していた傷が開いてきたのだ。

 

「止まった…………?」

「今だ、やっちまええぇぇぇ!!!」

「ぶっ殺せぇぇぇぇ!!!」

 

一斉に兵士たちが襲いかかってきた。

 

「くっ…………!!!!」

 

 

 

 

 

「そぉら、こっちだよ!!!」

 

その横から青葉を助けるように長い脚が振るわれた。

 

「ぎゃぁぁぁっ!!!」

「ぐぇぇっ!!」

「うがぁぁ!!」

 

兵士たちが蹴倒されて橋から落ちる。

 

「御衣黄…………」

 

「へへっ、」

 

御衣黄は欄干に乗り上げると着物の中から篠笛を取り出すと、軽やかな音色を奏で始めた。

 

「な、何やってるんだあいつ…………」

 

「な、なめてんじゃねぇ!!あいつもやっちまえ!!」

 

大きな隙を晒している御衣黄に向かって兵士たちが走ってくる。

 

「こっちに来んなってよ!!」

 

すると御衣黄は欄干から飛び降り、笛の先で兵士のみぞおちを突く。

 

「ごふっ…………」

 

「よっこら!!────せっ!!」

 

からの胸を穿つ肘打ち。

そして背負い投げで橋から投げ落とした。

 

「な、なぁぁぁぁ!?」

 

「実は俺。笛が演奏できます、さぁ来い!」

 

欄干から飛び降りると、御衣黄は笛をしまってお得意の長ドスを出してその刃を引き抜いた。

 

「うわ~この下、池じゃんか。こんなとこに鞘なんて投げ捨てれないよ」

 

仕方なさそうに、左手で鞘を持ちながら右手に長ドスを握る。

 

「う────うぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

一斉に遅いかかる山賊たちを前に、御衣黄は恐れの色一つと見せない。

むしろ…………へへへ、と楽しそうに嗤っている。

やはり、場数は少なすぎるとはいえ類いまれな才能を持って彼は生まれたのだろう。

 

 

「ハハハハハハ!!そら行くぜ!いい声で泣けよォ!」

 

先陣を切っていくのは長ドスの御衣黄。

御衣黄は六尺を越える上背から伸びるその長い脚で相手を蹴倒しながら、合間を縫ってドスで斬り、刺す。

肉を絶ち、骨を砕く感触に御衣黄はなんの関心も示さない。

 

「ひ、ひぃぃぃ!!」

 

「─────楽しくねぇなぁ。あんたらじゃ御衣黄(オレ)も咲けねぇよ」

 

しかし、やめることはしない。

止まらず空中に飛び上がってその長い刃で突きを浴びせる。

 

「ごが………っ………!!!!」

「ぎぁあっ!!」

 

 

 

「そらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそらそら!!!!!」

 

御衣黄は目にも止まらぬ速度で40人もの大人数で攻めてきた獣人たちを切り裂いていく。

兵士たちはまとめて血の海に倒れ伏し、もがいては次々と橋の下へ落下していく。

 

「安心しな、殺さない程度に加減はしてるさ」

 

「御衣、黄……………」

 

「楽しくない…………?たぶんそれも違うなぁ。俺はもう、殺すために戦ってるってワケじゃないみたいだ」

 

御衣黄は青葉の顔を見て言う。

彼にとって剣とは、これまでは「相手を斬り倒す方法」という認識だった。

だが、今は違う。彼は、仲間を守るために戦う。

誰も死なせないために剣を振るう。

 

「──────だよな?」

 

「──────あはっ、」

 

その生き方は、誰かによく似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

(えーりんさーん!!!)

 

 

 

 

 

「─────────────」

 

 

 

青葉のすぐ目の前から、小さな少年が走ってきた。

 

 

 

(あら、オオバ。どうしたの?何かあった……………え!?どうしたのその傷!?)

 

 

 

 

青葉の横を素通りしていった少年は身体中がアザだらけで所々から血も流れていた。

 

 

 

 

 

(ケガしちゃったー!!治してよぉ!!)

 

(ちょっと、動かないの。ほら、じっとしてて。まったく、なんでこんなことに…………)

 

(あのね、里のね、お店の人をね、困らせていた人がいたから注意したら、そのまま殴られた)

 

 

 

「────────【僕】だ」

 

 

幼き頃の青葉が、彼の目に映る。

今よりもずっと背が低く、手足も小さく。

ただ髪と肌は今よりもずっと艶やかだった。

頭には竹で編んだドーム型の籠を被っていたので、顔まではわからない。

目にはまだ、無垢な子供らしい無邪気な輝きが残っていたのだろうか。

 

 

(もう、下手に関わるからよ。そういうのは無視しなさいって、前にも言ったでしょう?)

 

(僕は昔から、見て見ぬふりをするのが嫌なの。自分がやられてでも、困っている人を助けなくちゃ。ほら─────ちゃんをここへ連れてきた時みたいにね)

 

 

 

 

 

「──────ちょ、おい」

 

今、なんと言ったのか。

聞き取れなくて青葉はつい過去の残像に聞き返してしまった。

 

 

 

 

(ねぇ、僕)

 

「────────!?」

 

(ほんとうに皆を守ることって、できるのかな?)

 

 

 

 

 

 

「君は何を───────」

 

(あ、敵が来てるよ─────早く倒した方がいいぞ、俺)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───────青葉!!!」

 

「ぬなっ─────こぅぅぉ!!!!」

 

青葉は背後から飛んできた敵の攻撃を受けた。

しかし、その衝撃で橋が破壊された。

激鉄音を立てて崩落していく橋と、それに巻き込まれる青葉と御衣黄。

 

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「ひゃっふぉぉぉぉい!!!」

 

幸い、真下には広い空間があったため、そこに投げ出されただけで済んだ。

 

 

「どはっ────こ、ここは…………」

 

「どうやら、ここも普通に使える場所らしい」

 

さっき青葉たちが落とされた橋の前にある階段からこの階層へ降りれる。降りた先の橋を渡ればここまでこれる。

いったい、どれほど広く入り組んだ構造なのだろうか、ここの一帯は。

 

「そこまでだ。堪忍しろ、」

 

 

 

ザッ、ザッ、ザッ、

と足音を立てて誰かが近寄ってきた。

 

 

 

「お前は──────」

 

「あれ?こいつ、新顔だね」

 

 

 

背後に複数の兵士を連れながら、着物の上から西洋風の外套に身を包んだ金髪の男がやってきた。

手にした剣を座り込む青葉たちに突きつける。

その正体はもちろん─────

 

 

 

 

 

「吹田山草……………!!!」

 

「知り合いか?ま、どのみち敵は敵か~」

 

一人で納得しながら御衣黄は立ち上がる。

 

「驚いた。まさかここまで来るとは」

 

すかさず、御衣黄の首に剣を突きつける山草。

 

「おっと、これはまずいね。めちゃくちゃ炭の匂いがするよその剣。大丈夫?燃えたりしない?」

 

「拙者の気炎刀は元より燃やす為の剣。動かばこの刀身に火が灯ることになろう」

 

「おーまじか」

 

御衣黄は改めて座り込む。

 

「────正々堂々と一騎討ちしろ、山草。お前はそういうタチではないだろう」

 

「いや、拙者の武士道とはこういうものでござる。拙者は主に尽くすこと以外に何もない。故に、相手に対する礼節などない」

 

山草は冷たく吐き捨てた。

 

「くっ────────」

 

青葉は歯を食い縛る。

この男には御家人としての誇りはあるが、武士としての誇りはない。

彼にとって一番大切なのは主であり、それへの忠義以外のなにもない。

誇りなど、とうに捨てている。

だから、彼は燃える剣を握ったのだ。

 

「しかし怖れる事はない。拙者はお主らを苦しめるつもりはない。故に、一撃を以て確実にお主らの首を絶つ。まさかこの人数を前に逃げれると、愚かな考えもない筈」

 

青葉たちの回りを兵士らが囲む。

しかし、もちろんの事だが、

 

「それがなぁ…………俺らは馬鹿なんだよ」

 

青葉にはそんな脅しは通用しない。

 

「ぬぐっ!?」

 

背中を反らし、山草の腕を蹴りつけ、そのうちに御衣黄を連れて山草の間合いから離れる。

 

「この後はどうするつもりなんだ?」

 

「行き当たりばったりに決まっているだろ!」

 

この死地を抜け出したあとにやるべき事など考えるまでもない。

 

「やっべぇ、こいつと一緒に来るんじゃなかった」

 

御衣黄が頭をかきむしる。

 

「うるさいな!じゃあ君がここから逃げる方法を考えてくれ!」

 

「いや、一つだけあるけどさ?」

 

御衣黄は呆れた仕草を嘘のように取り止め、ニヤリと笑う。

 

「なにか作戦あるのか?」

 

「あぁ。けど、そんなに良いもんじゃないぞ!」

 

御衣黄は言うが早いか青葉を置いて走り出した。

 

「ちょ、待ってくれ!」

 

 

 

「逃がすな、捕えろ!!」

 

山草の指示で二人を包囲していた兵士たちが飛びかかる。

 

 

「はいそこ、沈みなさい」

 

「邪魔はさせないわ!!」

 

 

「ごぇぇぇぇぇ!!!」

「ぶふはぁぁぁぁ!!」

 

傘の殴打と石の投擲。

青葉たちの前に助けが来たようだ。

 

 

 

「ゆうかりーん!ありがとね!」

 

「例には及ばないわ。むしろ、貴方たちのほうこそ私の邪魔だから、さっさとここを離れなさい?一緒にすりつぶすわよ?」

 

「ここは私たちに任せて、アオハさん!」

 

メディスンも一緒だ。

 

「だってさ、今のうちに行くぞ青葉!」

 

御衣黄は急いで柵を乗り越え、自ら真下の堀へ身を投げた。

 

「ちょ、行くって、どこにだ!?」

 

青葉も少し戸惑ってから飛び降りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと!!」

「どぉぉっ!?」

 

俺たちは二人揃って建物の屋根の上に着地した。

滑り台のように傾いた曲線をまさにそれのように滑っていく。

 

「青葉、このまま城の中に入るぜ!」

 

御衣黄がとんでもないことを言い出してきた。

 

「は!?みんなはどうするんだ!」

 

「これじゃあまるでキリがねぇ、いちいち相手してたらお嬢と筆竜の相手する間もなく力尽きるぜ」

 

くっ、たしかにそうかもしれない。

だが、勝手にそんなことしていいのだろうか。

 

「居たぞ!!あいつらうちおとせぇぇ!!」

 

目の前に見える壇上から弓を構える兵士たちが多数。

一斉に矢が放たれる。

 

 

「─────はっ!!」

「─────せいっ!!」

 

向かってくる矢を確実に剣で叩き落とし、俺たちは屋根からすぐそこの高台に飛び移る。

 

「げ、やってきたぁぁぁぁ!?」

 

もう遅い!!!

 

「おぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

 

俺と御衣黄の横薙ぎが兵士たちを一斉に殴り付ける。

 

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うううぇぇぇぁぁぁぁぁぁ!?」

「ぎぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁ」

「うのぉぉぉわぁぁぁぁぁぁ!!

「ねがぁぁぁぁぁぁ!?」

 

兵士たちは石造りの柵を破壊しながら高台から落下する。

俺たちは高台に乗ったあと、そのまま向こうへと飛び映る。

真下にはまた別の橋がかかっており、また複数の兵士たちが所狭しと並んでいた。

くっ、あの群れの中に落ちたら、たまったもんじゃない。

 

 

 

「─────えぇい、ヤケだ!!行くぞ御衣黄!!」

 

こうなったら……………!!!

 

「おうさ!!」

 

御衣黄も俺の考えを察したのか、「俺も同じこと考えてたぜ」という顔でドスを抜き、両手で持ち振りかぶる。

 

「八霖儚月流奥義!!!」

「我流衣沙門剣!!!」

 

 

 

 

まさか真上からやってくるとは思わなかったのか。

兵士たちは嫌な予感を感じてハッとしたように上を向くと、同時に腰を抜かして驚いた。

 

 

「縁側抜き・霹靂!!!」

「岩蓮華────!!!」

 

 

 

 

重力に全体重を委ねた俺たちは飛び降りながら兵士たちにその橋もろとも、振り上げた剣を叩きつけた。

地面に亀裂をいれるだろう攻撃、その2人ぶん。さらにこの高度からの一撃。

橋がその衝撃に耐えられる筈がなく、橋は先ほどの崩落とは比べ物にならないほどの痛快な轟音を立てて破壊された。

 

そこに立っていた兵士たちはまとめて堀へ投げ出される。

 

 

 

 

 

「いよっと!!!」

「ふっ…………!!!」

 

俺たちは二人揃って地面に降り立ち、思わず顔を見てからグータッチ。

 

「意外と相性良いかもな、俺ら」

 

二人でニヤリと笑う。

 

「あぁ、きな粉と餡蜜のようなハーモニーだったな!」

 

───────ちょっとわかんない。

 

 

 

「さて…………青葉、」

 

御衣黄は今の冗談から急に口調をかえる。

 

「どうしたの?」

 

「悪いが、俺が一緒についてやれるのはここまでだ」

 

そして、いきなりそんなことを言い出した。

 

「えっ………………?」

 

な、何を……………言って……………

 

「絶対に、お嬢救ってこいよ?」

 

そう言って、御衣黄は俺を突き飛ばしてきた。

 

「うわっ!!ちょ、いきなり何をす───」

 

 

 

瞬間、大爆発。

 

 

 

「ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

俺は土煙にもまれながら転がった。

な、なんだ今のは!!

少し先に見える建物の床が崩落していった。

位置が悪かったら俺は真っ逆さまだった。

 

「げっ…………ぐっ…………」

 

背中を強打した。頭がフラフラする。

いやいや、そんなことより、御衣黄は!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テ、テメェこの野郎……………!!!」

 

 

 

「な────────」

 

 

 

そして、俺は絶句した。

御衣黄は生きていた。たしかにそうだ。

御衣黄は生きていた。ちゃんとそこに立って、長ドスを持ちながら、今の攻撃を防いだみたいだ。

何て事だ、今の大爆発は敵の攻撃だったのか。

ともあれ御衣黄が無事でよかった。

だが────────

 

 

 

 

 

「へへッ、懲りないねぇ。てか、何があったの?そんなキャラじゃなかったでしょあんた」

 

 

「どけ衣黄御…………俺は、お前より先に、あの男をブッ殺さなくちゃならねぇんだ!!!」

 

 

だが──────そこに、新顔が並んでいた。

なんだ、この男は、本当に獣人か…………?

 

 

「ウァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

ドスが弾かれる。

 

「おあっ!?ぐっ…………!!!」

 

隙を晒した御衣黄にキックが叩き込まれる。

御衣黄の背中が邪魔して見えなかった。

ようやく相手の姿がわかった。

 

 

 

青紫色の長いだらしない汚ならしい髪。

泥や埃にまみれて汚れきった蒼い着物もボロボロ。流れた血が赤い斑点となって乱雑に焼き入れられており、見た目どおりの狂気を醸し出す。

そして、傷だらけの身体には傷があり、その瞳は怒りに燃えていた。

手に握られていたのは、二枚の半月形をした鉄板のような武器。

 

 

「─────神門…………青葉ァァァ!!」

 

男は口から黒煙を吐きながら俺を睨み付けてくる。

 

「な、なんなんだお前は!誰だ!!」

 

こんなヤツ、知らない!!!

蒼い着物に身を包んだ、男の剣士のことなんて─────

 

「蒼………………青……………まさかお前は…………」

 

 

 

 

 

(五輪華随一の美剣士、竜胆筆竜だ。名前と顔は覚えて帰ることだな)

 

(……………どうだ、お前も俺の仲間にならないか?こっちからお願いしたいな。俺たちと共に汚物どもを根絶やしにしようじゃないか)

 

(剣の出自から勉強し直してこい。剣術は武器を用いた殺人術の一種だ。人を殺すために、人を脅すために、人を支配するためにあるんだ)

 

 

 

 

 

「竜胆筆竜……………なのか……………!?」

 

あの、誇り高い、戦士として完成された。

非の打ち所のない美男子が……………

 

 

あの竜胆筆竜が、コイツだっていうのか!?

 

 

 

「やれやれ、ついにバケモノに成り下がったか。なんか嫌な事があったみたいだが、あんたにはこれからもっと嫌な目に遭って貰わなくちゃならないぜ?」

 

御衣黄はドスを拾い直して構える。

 

「御衣黄……………」

 

「な?だからこれ以上は無理だ。先に行ってくれ。俺はたぶん城に入ってからはあんまり役に立たない。なら、ここで一番強そうなやつの足止めしといてやる」

 

御衣黄は俺から背中を向けると、筆竜と向かい合う。

 

「─────────任せていいのか」

 

「当たり前だろう?さっき言ったじゃんか、また筆竜が出てきたら俺がやっつけてやるってね。一回勝った相手には負けないさ」

 

─────その瞳なら、信じられる。

いや、信じたいんだ、彼のことを。

 

「ごめん、任せた!!!」

 

俺は御衣黄にこの場を託して走りだした。

 

 

 

 

 

「待て、青葉!!!お前だけは…………!!!」

 

 

背後から物凄い速度で筆竜が走ってきた。

なんだ、この速度。いや、筆竜は元から速いが、これはそれともまた違う。

前傾姿勢で走ってくるが、体勢があまりにも低すぎる。

まるで、4本足で走る獣のようだ…………!

 

「おぉぉぉぉっと!!そうは行かないぜ!?」

 

「グォォォォォ、オォォォォォォ!!!」

 

寸前で御衣黄が弾き返してくれた。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、待ちなって。お互い剣士だろ─────なぁ?」

 

御衣黄が筆竜の前に立ちふさがる。

 

「貴様─────────」

 

あの正々堂々とした筆竜ならば、この決闘は快く受け入れてくれただろう。

しかし、彼はただ単に邪魔をされたと思い込んでいる。

どうにかして御衣黄を避けて俺に追い付こうとまだそんな愚かな事を考えている。

 

 

 

 

「御衣黄──────!!!!」

 

「行ってこい、青葉ぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「ウァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

筆竜がまた走り出してくるが、また御衣黄に止められる。

 

 

「御衣黄、頼んだぞ…………っわぁっ!?」

 

俺は御衣黄に夢中だったために躓いてしまい、高所から落下してしまった。

 

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

頭から真っ逆さまに落ちていく。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

目の前に橋も足場も見えない。

しかも、この下は堀の縁、つまり地面だ。

こんなところにこんな高所から落下したら死ぬ。

ヤバい、最悪だ。

御衣黄に貰った命を、ここで使うことになるなんて…………!!!

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

瞬間──────────

 

 

「うっ!?」

 

ピタリ、と俺の身体は停止した。

目と鼻の先に地面の細かな一部一部が見える。

残り数センチのところで、俺の身体は停止した。

 

「もう、バカね。ちゃんと下見なさいよ」

 

その声、アリスだ!!

アリスが落下していく俺の脚をギリギリで上から縛ってくれたお陰で助かったみたいだ。

 

「あ、アリス!!!」

 

「はい…………?」

 

「ぶほっ!!!」

 

急に聞こえた怒りのような重い声の後、急に糸を切られ、俺は顔面から落ちた。

 

「痛い………………」

 

「アリス?誰よその女、早く吐きなさい」

 

仰向けに倒れて鼻を押さえる俺の胸を、女が踏んづけてきた。

 

────いや、君はアリスじゃん。

だってケープつけててドレススカート着てて金髪……………あれ?

 

 

 

 

「あ!!!君って…………!!!」

 

「─────────」

 

思いだした、あの時の人だ!

 

「君って確か、【俺が魔法の森で迷子になってたときに助けてくれた人】だよね!?」

 

「そうだったらなんなのよ」

 

銀髪に黒いケープ、橙のドレススカートを履いた女性は俺を見下ろすようにして言う。

てか、見下ろしながら言う。

 

「あの時はほんとうにありがとう。まさか、君に命を救って貰えるなんて…………」

 

久しぶりに会えて嬉しい俺は急いでることすら忘れてはしゃいでしまった。

 

「………………ぷいっ、」

 

そっぽ向かれた。

 

「え?どうしたの?」

 

「アリスねぇ、アリスねぇ。あの女と間違われるなんて最低よ貴方。貴方なんて助けなきゃ良かったわ、あのまま落ちて死ねば良かったのに」

 

すんごい早口で悪口言われた。

 

「ねぇ、そんなひどいこと言わないでく

れよ。君にまた会えて嬉しいよ、俺は。確かに、君からしたら俺なんてただの迷子だと思うから迷惑なんだろうけど」

 

「め、迷惑だなんて、そんなこと思ってるワケないじゃない!」

 

「あ、そうなの?ありがとう」

 

なんか、よくわからないなこの子。

 

「フン、お礼言うのヘタクソね。そういう時はね、こう、犬のようにすがり付いて、「ドロシー様、こんな私などにお救いを差しのべてくださり、ありがとうございました!この私、神門青葉、ドロシー様のために誠心誠意、心も身体も真心尽くされていだたます!」って言うのよ」

 

ドロシー…………あ。

紫苑と女苑が言ってたドロシーって…………

ドロシーって名前だったんだこの人。

 

「ドロシー様」

 

「あら?何かしら?」

 

ショートヘアをかきあげてお嬢様モードするドロシー。

 

「心も身体も真心尽くされていただきますって…………俺は何をされるんだ?」

 

「へ?バカなの?あんたが私に尽くすのよ」

 

「いやいや、「尽くされていただきます」って、受け身の謙譲語だよ。せめて「尽くさせていただきます」って言うんだよそういうの」

 

気持ちはわかるよ、この国の言語難しいもん。

 

「──────────────」

 

「ドロシー様、この俺、神門青葉、ドロシー様に心も身体も尽くされたいです」

 

「う、うっさい!!黙って!!」

 

またドロシーはぷいっ、とそっぽ向いてしまった。

 

「わかったよ、冗談だから。で?俺は何をしたらいいの?」

 

そこまで言うんだったら何かやらなくちゃならないんだろう。ご飯奢るとかさ。

まぁ、俺はこの通り貧乏だからやれる事なんて限られているが。

 

「なッ…………!?」

 

「いやだって、命を救って貰ったんだから。ある程度の望みには答えてやらないと。俺は商人だからそこのところしっかりしてるよ?急いでるからお返しは後でになるけど」

 

「な、な、な、な、な、な、」

 

「あのー、俺は何をしたらいいんだい?」

 

「あーあーあーあーあー!もういいわよっ!この話ナシ!そんな話してない!」

 

「え!?いや、さっき明らかに」

 

「うっさい!私が言ってないつったら言ってないんですよーだ!」

 

まさか俺が本当に真に受けるとは思っていなかったのか、喚きながらドロシーは暴れる。

 

「ドロシー!!ちょっと厳しいかも!!助けて!!」

 

上の方から、どこかで聞いた声が降ってきた。

なんか──────毎日聞く声がする。

 

「はぁ?あんたが負けるってあり得ないわよ」

 

「そうじゃないんだ、慧音さんが戦わなさすぎて敵に追い詰められてるんだ!」

 

上、上に…………どこだ…………?

 

 

 

「はい?どういうこと?」

 

「そのね、たぶん慧音さんやられる!」

 

慧音さん!!大丈夫か!!

助けに行きたいが、降りてしまった以上は…………

 

「ど、どうにかして上に上がらないと!」

 

「良いわよ、こっちで何とかする。貴方は先行きなさい」

 

「そ。こっからは俺たちの仕事だからね」

 

橋の上からさっきの声の主が顔を出してきた。

 

「─────────────」

 

瞬間、俺は固まった。

そうだ、その声誰かに似てると思えば、俺だった。

いや、いや。いやいやいやいやいや!!!

 

「俺ェェェェェェェェェェ!!!???」

 

 

あいつ、俺にそっくりなんだけど!!!

 

 

 

「ドロシー…………?」

 

「─────────まぁ、」

 

 

 

 

……………いや、「まぁ」じゃないよ!?

 

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