東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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十八禁の日常エピソード作品、書いているところなので出来たら言いまーす。


黄の華・聖剣の山吹草

 

「どけ…………衣黄御…………!!」

 

「悪いけど、そいつは無理な相談だなぁ」

 

「殺してやる…………俺の邪魔をする奴は、誰であろうと…………!!」

 

鴛鴦鉞を両手に構えたまま、荒い息で巴照は御衣黄を睨む。

 

「あぁ。俺も、本気であんたを殺しに行くぜ」

 

御衣黄が腰を落とす。

 

「──────こっちとしても、これ以上そんな情けない姿の従兄弟なんて見てられない」

 

「────────────」

 

「残念だなぁ。あんたの覇気が大昔からあってくれりゃあ、あんたも俺もこんなことにはならなかっただろうに」

 

「もう俺に…………記憶はねぇ…………!!」

 

「嘘言うなよ、竜胆筆竜としての記憶はもうないみたいだが、【その以前】の記憶はあるんだろう?行方不明になったあんたを探しに行くために、俺ら親戚組がどんだけ苦労したことか。やっと見つけたと思ったらこのザマか。まぁ、竜胆筆竜と対峙した時点で気がつかなかった俺の責任でもあるんだがな」

 

「殺す、殺す…………俺の邪魔をする奴は、皆殺しにしてやる…………!!」

 

巴照と御衣黄の会話はもはや会話になどなっていなかった。

生身の人間と獣では、コミュニケーションを取り合うに値する術がなかったのだ。

 

「そりゃさっき聞いたってばよ。どうやらもう、殺すことしか頭にないみたいだな。なら遠慮なく、こっちもぶった斬れるぜ。過剰防衛………って野暮言うなよ?」

 

御衣黄も手先でドスをくるくる回して遊ぶのをやめた。

両者とも、完全に戦闘態勢に入る。

 

「死ね…………この地底世界の外の柵を越えた先にある溶岩の底こそが、お前には似つかわしい…………」

 

「え、マジで?この町の下マグマなの?」

 

ワンダーランドは地底に作られたということもあり、その下には本物の溶岩の海がある。この地面と思えるものは応急で作った鉄橋の上に石を敷き詰めたり、セメントを流しこんだだけのもの。

地面が割れればたちまちこのワンダーランドは溶岩の底に沈むだろう。

 

「オレは竜藤巴照…………誰にも越えられはしない…………幻想郷で最強の…………」

 

「最強……………か。最強、ねぇ……………」

 

御衣黄はドスを一振すると、その切っ先を巴照に向けた。

 

「そうだ…………オレが…………オレこそが唯一…………!!」

 

「最強か、いい響きだねぇ…………」

 

 

 

 

そして一言、

 

 

 

 

唯一(ぼっち)だねぇ…………可哀想だな!」

 

 

 

「───────────────」

 

御衣黄が滑らせた口のせいで辺りは一気に凍結する。

巴照は一瞬で(おもて)に鬼を宿し、

 

 

 

 

 

「死ねェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

凄い速度で御衣黄めがけて走り出してきたのだ。

 

 

「お…………わぁお!!!」

 

筆竜とは比較にならないほどの速度と力強さ。

 

「ほう?これはこれは、」

 

御衣黄もその差がわかるようだ。

鍔競り合いの様相をすぐに弾き返し、ドスを右、左と順に横へ払う。

 

「チッ、」

 

巴照は難なく二連撃を躱した後、飛び上がって回転しながら鴛鴦鉞を振り下ろす。

 

「うぉぉわぁぁぁ!!!」

 

御衣黄が攻撃を受けると共に4歩後退する。

一撃の重さが殺しきれない。

 

「なにそれ、前の3倍は強いぞ…………」

 

御衣黄が冷や汗を浮かべながら後退する。

 

「やべぇ…………怒らせちゃいけないタイプのやつ怒らせちまったかも」

 

「殺す……………殺す殺す殺す殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺ォォォ!!!!」

 

 

 

「うっげぇっ!!昔兄貴に言われた通りだ!!ヤバそうな人って怒らせちゃだめだわ!!」

 

御衣黄が戸惑っているところにも容赦なく、巴照は襲い掛かる。

 

黒竜封拳(こくりゅうほうけん)一式(いっしき)ィ!!!」

 

次の瞬間、神速の踏み込みから巴照の強烈な一撃が御衣黄を襲った。

 

尼僥比匕(にぎょうびひ)!!」

 

「ぐぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

なんとか防いだものの、地面に亀裂を入れるほどの力強い踏み込みから放たれた撃ち込みは、山をも穿つ杭の如し。

御衣黄はそのまま転がって倒れた。

 

「いっ………てぇ、」

 

直撃すれば即死は避けられない。衝撃を受けただけでもこれだ。

 

「命を賭ける程度の能力…………まさか本当に自分の肉体を犠牲にして、生き物の能力の限界を超えるなんてな…………」

 

「衣黄御……………………!!!!」

 

「なら…………そっちが自滅するまで凌げば良いってことだ。お安いもんだぜ」

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

巴照は大声で咆哮しながら御衣黄に迫る。

 

「さぁ、来い!!」

 

「ウォァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せやっ!!!」

「オラァァァァ!!!」

「よぉぉぁっ!!!」

 

俺、亦紅、ドロシーの三人は追ってきた山草とそこに付いていた兵士たちの相手をしていた。

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

俺は地面を走りながらスライディングを繰り出し、一斉に敵の脚を払っていく。

 

「どらぁぁぁ!!どけどけどけェい!!」

 

そしてその後ろから亦紅が巨大な剣で大振りの攻撃を繰り出して敵を吹き飛ばす。

 

「逃がさないわ…………よっ!!」

 

そして亦紅に吹っ飛ばされた兵士たちはドロシーの魔法の糸で縛り上げられ、まとめてさらに投げ飛ばされてほかの兵士に激突させられる。

 

「おらおら!!てやぁぁぁ!!」

 

模造刀で次から次へと敵を殴り付ける。

 

「山草ぁぁぁ─────!!!!!」

 

そして兵士の波を掻き分けて、山草の姿をついにとらえた。

 

「邪魔………すんなァァァァ!!!」

 

亦紅襲いかかる三人の兵士。

一人の振るった刃が亦紅の腕を捉えた。

 

「亦紅!!!」

 

「チッ………このクソッタレがぁぁぁ!!!」

 

亦紅が自分の背丈を超える巨大な剣を敵に投げつけた。

軽く上に投げた剣はゆっくりと敵のもとへ落ちていく。

 

「どぉぉぉっ!?」

「げっ!!!」

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

三人は力を合わせてその剣を下から抱え込むように防いだ。

 

「受けてみなァ、臥竜殺馬墜鳥掌(がりゅうさっぱついちょうしょう)!!!」

 

亦紅が三人が精一杯に抱える巨大な斬馬刀を精一杯の大振りパンチで殴り付ける。

亦紅の一撃によって、剣と兵士が同時に吹き飛ばされ、悲鳴を上げながら橋から落下して下に広がる巨大な池の中へ落ちていった。

 

 

 

「武器を失ったぞ!」

「いまだやっちまえぇぇぇ!!」

 

 

しかし、亦紅の剣は兵士と一緒に落ちていった。

亦紅は現在丸腰。武装を持っていない。

 

 

「馬鹿野郎ォ、この俺が武器を失った程度で止まるとでも思ってンのかァ?」

 

しかし、亦紅からはより一層強い覇気が出てきた。

あたかも、ここからが本番かのように。

 

「むしろ俺ァ、普段はあのべらぼうに重い大剣で力を制御してるだけなンだよォ!!」

 

亦紅のほうから敵に迫る。

そしてその巨体から伸びる大木の幹のような腕で敵を抱き抱え、地面に叩きつけ橋の外へ投げ捨てる。

 

「───────くっ、」

 

「次はテメェだ、吹田山草ァ!!!」

 

「戯け…………!!!」

 

山草が燃え盛る刃で亦紅に斬りかかる。

 

「づぉぉぉぉぁぁぁ!!!」

 

顔を焼かれて亦紅は後退する。

 

「亦紅!!!」

 

「構うなァ!お前さんらは雑魚をやってな!!」

 

亦紅は橋の欄干にもたれかかって苦しそうにしている。

 

「その一切、灰塵に還す…………!!!」

 

炎の刃が床に叩きつけられる。

炎の床となって波のように押し寄せる攻撃は剣の間合いよりもずっと遠くまで届く。

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

亦紅が火に包まれる。

 

「亦紅!!!くそっ、ドロシー!!」

 

「分かった!!!」

 

俺はドロシーの手を掴む。

ドロシーは勢いよく俺の腕を振るうと、お互いの手を糸で繋ぎ、ハンマー投げの要領で振り回す。

 

「てやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うおぇぇぇぇぇ!!!!」

 

周囲の兵士はほぼ全員片付けた。

あと3人!!

 

「死ねぇぇぇぇぇ!!!」

 

「あっち行け!!!」

 

胸に正拳突きを食らわせて一人気絶させる。

 

「このッ!!!」

 

ドロシーが振るった糸が兵士を一人縛り、ラスト一人に投げつけると共に二人も悲鳴を上げながら橋の下へ転落していった。

 

「亦紅!!!」

 

大丈夫なはずがない。

炎に身体を焼かれていた。

 

「ぐっ…………おぉぉぁぁぁぁぁ!!!!」

 

亦紅は全身に大火傷を負いながらも山草に殴りかかる。

 

「しぶとい男だ…………!!」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

しかし、身体を斬りつけられ、腹を蹴られて転倒する。

 

「まだまだぁぁぁぁ!!!!」

 

亦紅はバウンドするように高速で起き上がると、体当たりを食らわせる。

 

「ぐっ…………!!!」

 

山草と亦紅の距離が大幅に離れる。

山草は欄干に飛ばされ、反動で亦紅も反対側の欄干のほうへ引き下がる。

山草は距離が離れるほど有利。この距離からなら、炎の剣を振るえる。

 

「────────ぜっいっ!!!」

 

山草は橋の欄干を蹴りつけ、高速の踏み込みから亦紅へと斬りかかった。

 

───────【何故】だ?

 

「──────っ………!!!」

 

「やめろぁぁぁぁぁ!!!」

 

すんでのところで俺が防いだ。

 

「くっ…………この人数を…………どうして…………」

 

「そっちは一人仕留めるのにどんだけ時間かけてるんだよ…………ッ!!!」

 

剣を鍔で押し返して、胸を蹴っとばす。

 

「うぐぁ…………ッ!!!」

 

また橋の欄干まで距離が離れる。

 

「亦紅!?」

 

「くっ…………すまねぇ…………ッ!!!」

 

亦紅はいつの間に刺されたのか、肉ごと抉られた脇腹を抑えて倒れてしまった。

 

「くッ…………流石はここまで来るだけの事はあるのだろう。まさか拙者がここまで追い詰められるとは…………!」

 

山草は橋の真ん中まで歩いてきて、また八相の構えで刃を俺に向ける。

 

「────────────」

 

──────ほんとうにどうしてだ?

 

──────なぜ、【そうする】?

 

 

(あの剣………………なっ、まさか!)

 

「覚悟!!!」

 

ダンッ、と木の橋を勢いよく踏みしめ、山草が俺に刃を振るってきた。

 

───────ここしかない!!!

 

 

俺は覚悟を決して刀を納める。

 

「血迷ったか、神門青葉!!!」

 

当然、俺の考えを知らない山草は勝利を確信する。

だが、この状況でもなお油断することなく確実に命中する必殺の一撃を放つあたり、流石としか言えない。

気の乱れが微塵も見られない。これが、武士(もののふ)…………!

 

「ううぅぅぅぅッッッ!!!!!!」

 

身体を縮めて体勢を低くし、俺は上段の回し蹴りを放つ。

渾身の一撃、簡単には躱せまい。

 

「ふッ──────!!!」

 

しかし、山草はひらりと身体を翻すと俺の蹴りを易々と外してしまった。

しかし、今の動きのせいで右上から振るおうとした攻撃を左下からの攻撃に変更せざるを得なかった。

勝てる保証はないが、これなら作戦だけはうまく行く!!!

 

「カァァァァァァァァァァ!!!」

 

「うぉぉぉっ!!!」

 

回し蹴りの反動で俺は山草に背中を向けている。なので背後がどうなっているかはわからない。

感覚で、下からの一撃を鞘に入れた刀で受ける。

そして、その隙に右手を後ろに伸ばして山草の巻いている、麻で出来た抹茶色の首巻きを掴む。

 

「ぬっ…………!?」

 

お前は…………全てにおいて真逆なんだ。

このワンダーランドは妙に暑い。

これだけの地下ならば下には溶岩が広がっているはずだ。そしてギラギラとした電飾と多すぎる人口と機械の熱と排気ガス。そして熱を封じこるコンクリート。

外の世界ではこれをヒートアイランド現象と呼ぶらしいが、この気温の暑いワンダーランドにおいて、なぜ灼熱の炎を操る剣士がそんな小洒落たマフラーや羽織を身に付けているのか。

 

「長いものを身に着けていると戦では命取りになるなんて、そんな常識的なことも知らないようじゃあ、五輪華にすら及ばないよ」

 

「貴様……………!!!」

 

山草が痛い所を馬鹿にされて怒りをあらわにする。

だが、やられっぱなしのヤツが怒っているのを見たってまったく怖くない。

 

「服装の乱れは心の乱れ、心の乱れは武芸の乱れ。お前もまだまだってことだよ!!」

 

首巻きを勢いよく引っ張って山草を引き寄せ、みぞおちを膝で蹴り飛ばす。

 

「ぐぁぁぁぁぁ!!!」

 

腹を抑えながら欄干にガコン、と山草が打ち付けられる。

拍子に首巻きが外れ、俺の手に収まった。

 

「くっ………………ううおぉぉぉぉぉ!!!」

 

これが最後のチャンスだったが、また炎を飛び道具を使うことなく斬りかかってきた。

こいつはそんなにも橋の欄干に居たくないらしい。だが、橋の真ん中であれば炎を放ってくる。

こいつには、取っていい距離の制限があるのか?

いや、でもあの炎は地上ではもっともっと広い範囲を焼き払っていた。

あの火の手であれば、そもそもこの橋もろとも俺たちを全焼させることが出来ただろう。それをしなかったのにはなにか理由があるはずだ。

 

「ゼェェェェェッ!!!!」

 

せっかくだからこの首巻きを使わせて貰う!!

山草の腕を刀ごと縛り上げる。

 

「なっ…………!?」

 

これでお互いに斬り合いはできない。

俺たちの視線が交差する。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「オォォォォォォォォ!!!!!」

 

お互いの拳がお互いの脇腹にめりこむ。

ズドォォン、という大きな音とともに両方が吐血する。

 

「ぐっ……………!」

「ちっ……………!」

 

衝撃でわずかに距離が離れる。

首巻きで縛られたまま、俺たちは片手で戦うことになる。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!!」

「せぇぇぇぇぇっ!!!」

 

走り寄る山草と頭突きする。

相手もなかなかな石頭、俺のほうもかなりのダメージを受けた。

額から流血しながらも俺は強引に腕を振るう。

 

「ううぅぅぅあぁぁぁぁぁう!!!!!」

 

そして、回り込んで橋の中央の山草と欄干の俺との位置を入れ換えることに成功した。

さぁ、お前の大嫌いな橋の端だ。ここからどうする?

 

「くっ…………おのれ…………!!!」

 

「うわっ、うぅぅぅぁぁぁぁぁ!!!!」

 

首巻きが炎上した。

巻き付けていた刃から火が昇ったのだろう。

あわてて首巻きの拘束をほどく。

俺の手は火傷で真っ赤に腫れたが構うものか。

だが………………これで確信がついた。

下手に距離を詰めるよりかは先に拘束をほどく。賢明な判断だ。

 

「──────せやぁぁぁぁ!!!」

 

山草が飛び上がって俺に刃を振るってきた。

重力に身を任せて急降下してくる敵。炎を纏うこの刃を、どう凌ぐか…………!!!

 

「────聖剣・勇士の誉れと王の威厳(ジョワユーズ)!!!」

 

「────────はァァァァァ!!!」

 

なら、剣が炎に包まれる前に…………!!!

俺も飛び上がってヤツに攻撃をすれば良いだけのこと!!!

 

首巻きを勢いよく振りかぶり、鞭で叩くように!!!

 

「───────ぬおっ!?」

 

「食らえェェェェ!!!」

 

首巻きを山草の顔面に叩きつけた。

 

────────しかし、

 

 

「くっ…………!!!」

 

山草はなんと、攻撃を中断して新たに振るった一撃で首巻きを逆に斬ってしまった。

なんて反応速度と身体の可動域、そして空中での動作の自由度だ。

俺にできることはすべてやった。でも防がれてしまった。

地面にこのまま二人降りたとて、剣を仕舞ってからまだ抜いていない俺はなにもできない。

俺が抜くより早く山草が一撃を与えてくる。

まずい、ここまでか……………!!!!

 

 

 

 

 

「甘い、拙者こそが究極の────武士!」

 

 

 

あぁ───────間違いない。

 

俺は、剣ではこいつには勝てなかった。

 

 

 

 

 

「──────フッ、」

 

剣では──────な。

 

 

 

 

 

(なんの笑いだ!?────なっ…………)

 

俺の読みが正しければ…………俺は剣で負けても、勝負には勝ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

山草が剣を落とし、顔を抑えて絶叫しながら狂ったように暴れる。

地面に倒れ伏し、無様に転がる。

 

「あぁぁぁぁぁッ、うああああああァァァァァァ!!!」

 

 

 

「な……………山草が……………」

「弱っちまった…………!?」

 

ドロシーと亦紅はその様子に驚いている。

 

「貴様…………貴様ぁぁぁ!!神門青葉…………貴様、何をした!!答えろ!!」

 

山草が顔を上げてくる。

鬼の形相は顔の半分が焼け落ちていた。炎で焼かれた俺の腕のようになっているかと思えばもっと重症。

焼けただれて荒れた肌が黒ずんでしまっている。

 

「───────これさ!!」

 

山草に使ったモノを見せびらかす。

 

「そ、それは……………解毒剤!?」

 

「元々はメディスン用に、ウドンゲさんから大量に買ったやつなんだけど、水の代わりにはなっただろ?」

 

さっき俺が首巻きを奪って背中を向けたとき。首巻きの中にひっそりと解毒剤の瓶を忍ばせておいたのだ。

そして、今さっき空中で首巻きを振るったとき、対抗してきた山草の刃が首巻きごと瓶を破壊し、中身がぶっかかったという訳だ。

 

「くっ…………小癪な真似を…………」

 

「ごめんな。卑怯な手を使った俺の負けだよ、だが…………俺はどんな手を使ってでも生き残る。お前と違って、俺には戦士としての誇りなんてものはない」

 

「くっ………………」

 

「俺に必要な理念は…………もっと単純で平凡なものでいいんだ」

 

生きていたい、生き残りたい、死にたくないっていうね。

 

 

「ウドンゲさんから山ほど買ったんだ。まだまだあるぞ、」

 

「この外道め……………」

 

立ち上がって斬りかかってくるが、動きが鈍くなっている。

 

「ほら、食らいな!!!」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

二投目も直撃。

馬車に跳ねられたように背中を吹っ飛ばして床に転げる。

 

 

 

「─────まさか、水が最大の弱点だったなんて」

「炎使いだからか?」

 

「いや、厳密には違う。あいつも他の連中や梓ちゃんと同じ、野犬人の類いだ。けれど、こいつはただの野良犬じゃない」

 

その剣がなぜ燃えているのかずっと考えていた。懐炉の仕組みに酷似しているかと思えばそういうことだったのか。

まさか戦っている最中に思い出すなんて。

 

「外の世界で海を隔てた外国に、黒妖犬(ヘルハウンド)っていう妖怪の古い伝承がある。猟犬ぐらいの大きさをしていて、【硫黄の匂いがする炎を吐く】と言われてるんだ」

 

「硫黄…………炎……………」

 

「つまりあの炎は、黒妖犬の能力を応用した、硫黄が燃えた時の炎だったんだ」

 

だから懐炉のような仕組みをしていたんだ。懐炉は鉄や硫黄が酸化するときに放つ熱で身体を暖めるもの。

揉んだり振ったりすることで活性炭と混ざり合って効果を増すということだが、振ったり衝撃を与えたりすることで熱を出す仕組みをまさか剣に応用していたなんて。

 

「そんな黒妖犬の弱点は水。見た者を死に誘う怪物として知られているが、遭遇したときは川を泳いで逃げれば確実に助かるとまで言われているぐらい水が苦手なんだ」

 

「それで解毒剤の液体をかけて弱らせようっていう考えに至ったのね」

 

「ったく、インテリの考えることはやっぱりちげェなぁ」

 

とはいえ、相手は獣人。

黒妖犬と人間のハーフだ。

なので確実に黒妖犬とは確定しづらいし、人間の肉体を得たことで水に耐性を持っていたかもしれない。

だから確実に上手く行くとも思っていなかった。

 

「間合いの外からの炎攻撃ができる山草は距離が離れるほど有利。なのに橋の欄干の近くを避けるように立ち回っていたのは、そこから下のお堀に落ちるのを本能的に恐れていたからだ。そこが俺の推察の決め手になったんだ」

 

「へへへ…………なるほどなぁ。────おい、山草ァ!覚悟はできているんだろうなァ?」

 

ここぞとばかりに元気に立ち上がる亦紅が山草の顎を掴んで持ち上げる。

 

「くづ…………神門、青葉…………ッ!!!!」

 

「俺の勝ちだ、吹田山草…………でも、おめでとう、俺たちの負けだ」

 

「あばよ。いろいろ言いてェ事はあるが、お前さんの事は忘れねェぜ」

 

亦紅はそのまま、橋の下へと山草を投げ捨てた。

 

 

 

───────ざぼーん、と大きな水音がして、あたりは静寂に静まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あァ…………くそッ、こんなんじゃァもう戦えねェぜ」

 

力尽きて亦紅が倒れる。

 

「亦紅……………」

 

「楽しかったぜ…………青葉。たまにはお前さんと協力するのも悪くァねェ」

 

「君がいなかったら勝てなかった。ほんとうに、ありがとう」

 

亦紅の手を取る。

 

「なァに。お嬢を守るって意見が一致しただけだよ」

 

「その割には、息ぴったりだったけどね」

 

「ドロシー、やめてくれよ」

 

「ハハハ────お嬢ちゃん、青春頑張れよ?」

 

「うっさいわね。あんたには関係ないでしょう」

 

「ハハッ、素直じゃねェなァ。青葉、こっから先は俺ナシだ。行けるか?」

 

「あぁ、お前のぶんまできちんと戦ってくるよ」

 

亦紅の肩をドロシーと二人で担いで橋から離れ、適当な柱に近くに寝かせた。

 

「悪いなァ。んじゃ、気ィつけな。間違っても俺がテメェをぶっ倒すまで死ぬんじゃねェぞ?」

 

「当たり前だ。君のほうこそ、俺らが去ったあとにヌルッと死なないでくれよ?」

 

「ハハハ!ったりめェだ!!おら、最後に友だち同士の握手だぜ」

 

「──────あぁ、」

 

俺と亦紅は握手して、そうしてから俺たちはこの場を去ることにした。

 

「行こう、ドロシー」

 

「えぇ、青葉」

 

それじゃ、と亦紅に言い残して俺たちは先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亦紅、良くもまぁ~やってくれたなぁ」

 

「──────お前さんか、」

 

 

「まったく、県より先にお前を見つけるとはな。しかも……………今の戦闘についてはどう説明する?」

 

 

 

「──────あぁ~あ。こんな事ならあんなヤツに手ェなんざ貸さなきゃ良かったぜ……………なんてな」

 

「言い残す事はなにかあるか?」

 

「なら、お前さんに忠告だ。お前さんに限ってまさか無いとは思うが…………お嬢に手を出すと、大変なことになるって、他の連中には伝えたほうが良いぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────ズドォン、と音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄の華・聖剣の山吹草 神門青葉、吾妻亦紅、ドロシー・アンドロメダに敗北

 

 

 

 

 

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