東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「そぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「グゥゥゥゥァァァァァァ!!!!」
御衣黄の神速の一閃が巴照を弾き飛ばして壁に打ち付けた。
武器の長さは御衣黄のほうが圧倒的。少ない力で強い威力が出せるために御衣黄のほうが有利なのだ。
「ウァァァァ………………!!!!」
「マジかー、痛みとかないのかー」
怒りで我を忘れた上に、命を燃やしている巴照にはもう痛覚などのリミッターなどない。
何を食らっても痛みがないし、痛みがないなら怖くなどない。あらゆる攻撃に対して無敵の状態だ。身体が限界を迎えて死ぬ以外では止まらないのだ。
「黒竜封拳十八式・
巴照は地面を殴りつける。
すると、瞬く間に足場が崩壊していく。
「どわぁぁぁぁお!!!」
「百二十三式・
「くっ…………いや速っ!!!」
崩落していく足場の中で高速で間合いを詰め、追撃を食らわせる。
あまりの前進力に御衣黄が追い付けず、防いだのは防いだが、押されるままに背後へと押し出される。
(けっ…………これ抜け出せないわぁ)
「五十七式・
「ぐぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ!!!」
振り下ろした鴛鴦鉞が御衣黄の両肩を切り裂くと同時に崩落した足場の下へと叩き落とした。
瓦礫に飲まれながら御衣黄はさらに下の足場へと落下する。
ズガァァァン、と強烈な破壊音と共に煙が上がる。
「げほっ、げほっ……………ヤバすんぎ」
「────────しぶといな…………」
巴照が飛び降りてくる。
その紫に濁り僅かに不気味な光を放つ瞳が、膝でなんとか立つ御衣黄を見下ろすような目で睨んでいた。
「死ね…………………」
御衣黄の顔面を蹴り飛ばす。
「ぐほっ………!!」
御衣黄は瓦礫の山から突き落とされ、さらに下へと落下する。
「いった…………」
「死ね!!!」
すぐさままた追い付いてきた巴照が顔面を掴んで地面に叩きつける。
「ぐぁっ……………!」
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!」
そして地面を引きずりながら壁に投げつける。
「うぅぁっ………!?」
壁に巨大な亀裂が入る。
「死ね、死ねぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
壁にめりこんだ御衣黄に巴照の飛び蹴りが炸裂し、壁を粉々に粉砕されて外へ投げ出される。
「おぁぁぁぁっ!!!」
御衣黄は身体中に流れる血を口から吐き出すと、ゆっくりと立ち上がる。
崩壊した壁の中からは巴照が荒い息のまま歩いてくる。
(これ…………勝てるのかなぁ……………)
御衣黄が自分の力量と今の体力、受けたダメージを合わせて考えるがどうも足りない。
(いやいや、これ…………無理じゃね?)
「ハァッ!!!」
「やべやべ…………!!」
考えてる暇など微塵もない。
巴照の速さは異常で、御衣黄ですら簡単には見切れない。
少しでもほかのことに気を配ると瞬く間に見失い、背後を取られて死ぬ。
「怪物になった割には…………結構合理的な立ち回りするんだなぁ!」
彼は理性を失って獣へと反転しようとも、生前に叩き込まれた己の戦い方だけは身体が覚えていた。
彼は単純強化されただけの存在といえる。
「………………ぶっ………!!」
御衣黄の口からまた血が出てくる。
(眩暈するな…………しかもなんか痺れるし。まさかその鴛鴦鉞、毒でも盛られてたり?)
巴照に流れる血液は心臓から来るもの。
巴照の心臓は彼自身のものではなく、生前に愛を誓った大切な人のもの。彼女の能力が、彼の身体にも現れてきているのだ。
「ちくしょう…………これキッツ」
「ウァァァァァァァァ!!!!!!」
巴照が鴛鴦鉞で地面を抉ると、瓦礫が飛び道具となって御衣黄に飛来してきた。
「我流衣沙門剣、曼珠沙華!!!」
なんとか瓦礫を砕くことに成功し、塊の直撃は避けたがその破片が身体を切る。
(ったく、デタラメな…………なんだよそれ!!!)
「黒竜封拳十六式・
地面を這う百足のような低姿勢からの切り上げ。
御衣黄は間一髪背中を反らしてそれを外す。
出来た後隙を狙って御衣黄はここで決死の一撃を放つ。
「我流衣沙門剣・
御衣黄の高速の突進。
「遅せぇぇぇ!!!」
巴照が御衣黄の首を切り裂く。
──────しかし、すでに御衣黄の姿は消えていた。
「我流衣沙門剣・
東一華はこの技に繋ぐためのパーツにすぎない。
この東一華による神速のフェイントで相手をロックする。
ここからが本命。
まず、背後からの回避不能の一撃。
相手の利き手の方向から飛んでくる横の一撃。八卦刀を持った時が右手の筆竜と同じならば、やはり右利き。
「グッァァァァ!!!!」
「せいっ!!!」
背後からの神速の刃を躱す術はなかった。
続いて、三時の方向から。
七時の方向から、十時の方向から。
そして十二時方向。
躱すことの敵わぬ、見ること能わぬ最速の五連撃。刃の残像はアスタリスクを描き、華のような紋様を作る。
(身体が……………動かねぇ…………!!!)
速度が速すぎたために、一撃ごとに舞い上がった気流が全てが対になるように中央へと集中してぶつかり合い、相手の動きを封じる。
「我流衣沙門剣・
そして動かない巴照に対して神速の三連撃を放つ。
真上、右下、左下からの弧を描く刃は風車のように開き、巴照を切り刻む。
「ヴっ…………!!!」
巴照は身体中から血を吹き出して地面に転がる。
「どうだ、これで……………」
「ガァァァァァァァァァァ!!!!!!」
「──────な、わけないか」
巴照には如何なる痛みも通用しない。今のは死んでもおかしくない致命傷だが、まるで効果がない。
「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」
巴照の捨て身の猛進。
そこにはもう理性も見られなくなってきている。
先ほどまでの合理的な立ち回りは見る影もなく、ただ目の前の獲物に肉薄するだけ。
「愚かにも、獣になりつつあるな」
御衣黄の羽織が彼の視界を奪う。
「オオォォォ……………」
「なっ!?」
しかし、御衣黄の脚はがっつりと捕まれた。
獣化の進行で彼は人並み外れた嗅覚を得たのだ。目が見えなくてもあまり関係はない。
「ウァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
2枚の鴛鴦鉞が御衣黄の身体を袈裟に斬る。
「ぐぁぁっ!!!」
御衣黄は羽織を落として吹き飛ばされ、また一段下の空間へ落下する。
「ぐっ……………なんてやつだ」
瞬間、さっきの空間がドギャァァァァァン、という大音響と共に爆発して粉々になった。
「……………マジか」
これには御衣黄も驚きを隠せない。
「オオオオァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「まずっ、」
急降下してきた巴照の攻撃をなんとか躱す。
「やべぇなぁ……………これ」
最強奥義を防がれ、彼にはもう手がない。
今ので確実に仕留める予定だったのに、巴照が思っていた以上に硬かったのだ。
「──────でも…………まだやるさ」
諦めきれない。それが彼の意志。
「──────あいつが勝つまで、俺も負けられない……………」
「─────────────」
巴照が無表情でやってくる。
「さぁ、行くぜ……………」
御衣黄はドスを一度納刀すると、前傾姿勢で力を溜める。
抜刀の居合いのような体勢で巴照を待ち構える。
「黒竜封拳三式・
「───────我流衣沙門剣秘奥義、」
御衣黄がいつもの高速移動に使う脚をこれまで以上に酷使する。
「───────
御衣黄の踏み込み。
踏みしめた地面が亀裂で沈み、飛び立つと共に瓦礫となって霧散する。
御衣黄の進む道も風圧と勢いでひび割れていく。
神速の突進はなんとあの巴照にも見切れなかった。
「せぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
銅に打ち付けられる横薙の刃。
獣の硬い皮膚と肉を切り裂き、骨に到達。
間違いなくこれで決まる。巴照に躱す術はなかった。
御衣黄のほうがずっと速い。
「………………………っ、」
しかし、御衣黄の刃はそこで止まった。
「────────────」
巴照も驚いたような顔をして、止まったまま。
御衣黄の速さは彼にも見切れない。だから、彼は目の前からやってきたものに恐怖し、反射的に武器を突き出した。
その2枚の刃は、御衣黄の身体を正確に貫いた。
「───────駄目か…………グボッ、」
御衣黄のドスが折れた。
地面があれだけ派手に壊れるわけだ。これほどの勢いで相手を斬れば刃のほうが耐えきれない。
御衣黄の身体も風圧でひび割れて流血する。
御衣黄は折れたドスを落とすと、地面に倒れる。
「オレが……………瞬きした………………?」
痛覚を失って、何もかもが怖くなくなった。
痛覚がないから。でも、今の一撃を受けることを彼は恐れた。
それは正真正銘、今の一撃が怪物と化してあらゆる攻撃を無効化する彼をも、一撃で殺すに値するものだったということだ。
「──────関係ない、こいつは死んだ。オレの勝ちだ…………」
動かなくなった肉塊から鴛鴦鉞を抜き取ると、巴照は何の感情も出さずにただ背を向ける。先へ行った、あの忌々しき敵を打ち倒すために。
─────これは最終目標ではないから。
「むきゃぁぁぁぁ!!!」
山賊兵に突き飛ばされて依神紫苑は地面に尻餅つく。
「姉さん!!大丈夫!?」
「ひえぇぇぇぇぇ!!もうやだ!!戦いたくないよぉ!!」
恐怖と不安で泣き叫びそうな表情をして紫苑は転がりながら頭を抱える。
「弱音を吐かないでよー!私もめちゃくちゃピンチなのにぃ!うわぁぁぁん、助けて紫苑女苑!!」
鍵山雛も追い詰められて挫けそうになっている。
頼りは女苑のみ。
「む、無理よこんな数!!どうしろって言うのよ!!」
女苑は自衛でも精一杯なのに、二人の面倒まで見ていられない。
「くっ…………なんで姉さんはこんな大事な時に限ってこんなにも面倒なのよッ!!」
はらいせのパンチが兵士を吹っ飛ばす。
しかし、棍棒で押し出されて女苑も地面に転がる。
「くっ、姉さん……………何とかしてよ!!」
「無理無理!!!ぜったい勝てないもーん!!」
依神姉妹は揃って口々にわめく。
「いまだ、やっちまえぇぇぇ!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁもうだめー!!」
雛が叫ぶ。
「厄を呼んじゃう私のせいだー!」
「なに言ってるのよ、仲間のことすら守れない私の責任よ!」
「違うよ………妹に任せきりな私だよ………」
紫苑は地面に手をつく。
「ごめんね…………女苑…………こんな情けなくて、臆病で…………なにもしてやれない姉で」
「姉さん……………」
「ほんとは、守ってあげたかった…………女苑に、かっこいいところ、見せたかった………でも、無理なんだ、私じゃ…………」
紫苑はぽろぽろと涙を落とす。
「うっ…………なに言ってるのよ姉さんのバカ!!」
「女苑…………?」
「情けないのは私の方!でも、どっちがカッコ悪いかとかじゃなくて!ここは勝って生き残らないといけないところでしょ!私たちは二人揃って最凶最悪の姉妹なんだから!」
「う…………うん…………」
「雛もこんなところでしょぼくれてないの!私たち三人、厄災トリオなら絶対に勝てる!!
女苑は紫苑と雛を同時にビンタすると、立ち上がらせる。
「やってやろうじゃないの!どうせ死ぬんなら、貧乏神らしく、疫病神らしく、厄神らしく、持ってるもん全部投げ棄ててから死んでやるわよ!!」
「うん…………そうだね。せっかく御衣黄から貰った八橋、食べなくちゃもったいないよ」
「そこじゃなーい!!!!!!」
「そこじゃなーい!!!!!!」
女苑と雛がどてーん、と地面に転がる。
「ふざけやがって…………三人まとめて…………!!」
「ちょ、姉さん!!!」
「紫苑!!!」
「ん~♪ 美味しい…………♡」
幸せそうな顔を見て女苑と雛は終わりを確信した。
─────せめて、最期に見たものが幸せそうな顔だっただけまだ…………
「───────あれ!?この八橋、食べると不思議な力が湧いてくるよ!?」
「え」
「え」
「なんか、今なら負ける気がしなーい!!」
紫苑の身体からどきゅーん、という音とともに衝撃波が放たれる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「なんだぁぁぁぁぁ!?」
「うぉぉぉぉどっっっ!!!」
三人に襲いかかろうとした山賊たちが吹っ飛んでいった。
「え……………?」
女苑が白目を剥いて口をあんぐり。
「女苑!!雛!!私、やったよ!!」
紫苑の青い瞳と髪が燃えるように光っている。
「あー、うん…………」
雛もなんとも言えない表情をする。
「─────貧符『超貧乏玉』!!!」
紫苑が真っ黒なエネルギーを溜め込んだ巨大なボールを地面に投下する。
下にいた兵士たちは悲鳴を上げながら吹き飛んでいった。
「私は依神紫苑、泣く子も貧する貧乏神…………悪いやつからは、一銭も残さずむしり取ってやる!!」
紫苑が自信に満ちた笑みを浮かべる。
姉の誇らしげな姿を見た女苑も勇気付けられる。
「えぇ、そしてその妹こそがこの私、依神女苑!お前のものは私のもの、私のものも私のもの!命までは取らないから、有り金全部置いていきなさいよ!」
「わ、私は厄神・鍵山雛!!破滅に呑まれたくなくば、大人しく屈伏しなさーい!!」
『私たち三人揃って、「
「
「
「
三包囲への強烈なスペルカード攻撃。
三人のピンチはチャンス。
相手がどんなに有利な状況でも、運悪くも、まるでなかったかのように不利へと置き換わる。
「さすが姉さん!!!雛もナイスよ!!!」
「女苑も凄かったよ…………カッコいいなぁっ」
「私たち、じつはものすごくいいコンビだったり………?」
三人は交差するようにグータッチ。
「そういえば、姉さん。どうして急にまた能力が覚醒したの?」
「わっかんない。どら焼き食べたときはこうならなかったのに。八橋に何か入ってたのかな」
「まぁ、いいんじゃない?【運が悪かった】ってことで」
「えへへへ…………そうかもね」
「えぇ、それもそうね」
一通りの敵を一掃した後、三人はニコニコ笑いあいながら、裏椰子飼城を目指して下へと降りていった。