東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅 作:マジカル赤褐色
「青葉!」
「アオハさーん!」
「幽香さん、メディスン!」
城入り口のすぐ手前まで来た俺のところへ、幽香さんとメディスンが降りてきた。
「無事だったの。よかった~」
「なんだかんだで結構しぶといわね。すぐにやられてるのかと思ってたのに」
「もうすでに満身創痍だけどね」
身体の節々が酷使と怪我で痛いし、本当に疲れた。
そもそも、結構この辺りは空気が鈍い。
「えぇ、その顔に書いてある通りね。この辺りは空気が少し違う。呪いの影響かしら、やはりこの近くで間違いないわ」
「ふつうに考えたらこの奥ってことになるんだけど…………」
───────この感じは、普通じゃない。
どうしたら良いのか。
「おそらく、梓は呪いに負けた可能性があるわね」
「呪いに…………負ける?」
「アリスから聞いたのだけど、梓の呪いは生物はおろか非生物ですら殺し尽くす能力なのだそうね。そんな恐ろしすぎる強大な力、子供の身体では手におえないわ。器が能力に負けて、呪いが溢れだした。きっと、この城を覆う邪気は梓が抑えきれなかった呪いの残留よ」
だから近くに居るだけでこんなに苦しいのか…………
「なら、ここで困ったことが起こるわね」
俺の少し先を行っていたドロシーが待ちかねて戻ってきたら、すかさず口を挟んだ。
「…………困ったこと?」
「おそらくこれが普段なら梓本体を叩けば呪いは止まっていた。でも、これが梓の意志とは無関係に放たれた………能力が暴走して能力者のキャパシティを上回ってしまった場合のケースは、呪いが独り歩きしている状態なの」
「つまり…………?」
「梓をどうしようと、この呪いは止められないのよ」
「そんな!どうしたら良いの~?なんとかしてよアオハさーん!」
ちょ、やめて、俺の服を掴んでぐらぐら揺さぶらないで!
「ってことは…………呪いが相手だから物理攻撃は通用しない…………なんなら魔法すら通用しないかもってことか…………」
要は、呪いという実態の持たぬ概念が相手ならば、形を持った攻撃は絶対に通用しないということだ。
物理攻撃は言うまでもなく、魔法も効かないのであれば俺たちの編成では詰みということだ。
「つまり、もっと別の手段によってあの呪いを祓わないといけないってわけよ」
─────これは参った。
どうしたら良いんだろう。
「アオハさーん!名探偵なんでしょー!なんとかしてよー!」
「いやいや無理だよ………!俺、魔法はまったくわかんないから!」
ドロシーの話も半分しか理解できなかった。
「よ、よくわかんないけど巫女さんとか呼んだら良いんじゃないの?」
「巫女が解ける程度の呪いなんだったら、梓の呪いはそんなに強くないわよ」
……………まぁ、そりゃそうか。
「あれは魂というより、意味そのものに通る。物理、魔法、呪術。それらの分野からは専門外よ。意味という概念の単位が相手なら、同じように「概念自体をねじ曲げる」手段でしか対抗できない」
概念を…………ねじ曲げる…………
魔法でもなく、呪術でもなく、物理でも表せない事象…………
「─────幽香さん、メディスン。頼まれてくれるかい、」
「思い付いたの!?」
「あぁ、君たちは雛とプリズムリバーウィズHを連れて地上に上がって欲しい」
「ほう?何かいい作戦でも思い付いたのかしら。どういう策か説明を要するわ」
俺は幽香さんに俺の考えを説明する。
幽香さんは聞き入っていたが、徐々に顔を険しくしていく。
「……………アレね。理にはかなっているけど、ハッキリ言ってアホな案ね」
「理にはかなってるってことは、実現できるってことだろう。なら、やってほしい」
おそらく、これ以外に方法はない。
上手く行くのかは不思議だが、やるしかない。そのための雛とプリズムリバーウィズHだ。彼女らが少しでも上手く行くように保険として連れさせるつもりだが、それでもどこまで行くかは…………しかし、これしかない。
「私の戦いはここまでってことね」
「いやいや違うよ。その作戦が成功してからが一番の山場だ。強いやつと戦いたいんなら、まずそこをやってくれないと」
「わかったわよ。メディスン、出掛けるわよ」
幽香さんは仕方なく受け入れると、背中を翻してゆっくりと引き返していった。
「はーい。アオハさん、また後でね!」
続いてメディスンもその背中に続いていく。
「あぁ、メディスンも頑張ってくれ」
「うん!!」
二人を見送ってから、俺とドロシーはまた走り出す。
「ドロシー、呪いの中枢部はわかる?」
「いいえ、あいにくと人形術以外はからっきし駄目だから。でも、普通はこの城の一番真ん中の一番下がゴールだと考えるのが賢明よ」
「そのようだね……………」
城の中を走る俺たち二人は足を止める。
「─────くっ、それにしても、」
「やっぱりそう簡単には通してくれないか」
敵は梓の始末が最優先。
やっぱりこの城にも何人か残っているか。
「おい、梓の捜索は後だ。こいつらをやっちまうぞ」
─────この様子だと、梓ちゃんはどこかへ行ってしまったようだ。
行方不明なら、余計に心配だ。少し急ぎめで行こう。
「まったくお前ら…………どんだけ数いるんだ!」
「行くぞてめぇらぁぁぁ!!!」
「オオォォォォォォォ!!!!」
「やっちまえぇぇぇぇ!!!」
辺りにいた獣人兵たちが一斉にかかってきた。
「どわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぶわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
しかし、そいつらは一斉に爆発に巻き込まれて吹っ飛んでいった。
「な、な……………」
────なんだ今のは!?
「わーっはっはっは!!この街を恐怖で支配しようとするおバカさんたちには爆発オチが相応しいわね!!」
どこかから小さな子供のような声が聞こえてきた。
爆発の煙の中に包まれた周囲で、俺とドロシーの背後から大量の影が向こうへ走っていく。
すごい脚の速さで敵に突撃していくたくさんの子供たち。
手に持った竹槍で敵を一掃していき、煙幕や爆竹を次々と投擲していく。
「─────こ、こいつらは!?」
ドロシーが目をひんむく。
「み、みんな…………どうしてここに?」
対して俺は感動と疑問でごちゃごちゃな感情になっている。
「さぁ、ここは私たちに任せて先へ行くウサ!」
声の主が遅れてやってきた。
「─────やっぱり、君だったんだね」
「ん?誰の事かしら。私は通りすがりの救世主、クイーン・B!!君たちのピンチを助けるために手下の妖怪兎たちと共に駆けつけてきた!さぁ、もう心配はない!早くこの異変を片付けるウサ!」
出てきたのはメディスン並みに背丈の低い小さな女の子。
白桃色のワンピースと紫のマントに身を包み、仮面舞踏会みたいなマスクと青の格子柄のシルクハットを被ったいかにも変装しただろう兎耳の彼女はたくさんの妖怪兎とともに獣人兵をぶっとばしていく。
「─────青葉、この子たち知ってるの?」
「…………さぁ?知らないね、こんな兎」
クイーン・Bのお言葉に甘えて、ここは先を急ごう!
「ドロシー、行くよ」
「えぇ、」
二人で煙の中を走る。
「ま、待ちやがれ!!」
「ぐおっ!?」
脚を捕まれて転倒する。
「くっ…………この野郎…………!!」
「
クイーン・Bの投げた花火玉が弾けて獣人を吹き飛ばす。
「さぁ、生きて帰ってくるウサ!!」
「ありがとう!クイーン・バニー!!!」
「─────相変わらずノリが良いのよねぇ、オオバったら」
青葉たちが襖を開けた向こうへ消えたのを確認した後、帽子とマントを脱いだ茶髪の兎は少し微笑んだ。
「────我が名は竹林の兎たちの長、因幡てゐ!我が弟を止めたければ、この兎の大群を止めてみせるがいい!」
「な、こんな子供に…………!!」
「子供~?たかだか100歳未満の赤ん坊に言われる筋合いはないわね。かわいいからって判断していると、痛い目見るわよ!」
「大東亜共栄圏頭突!!!」
「
奥では、またまた見馴れた顔たちが戦っていた。
「慧音さん、アリス!」
二人もここへ来ていたのか。
…………てか、なんか物凄い名前の必殺技なかった?
「青葉、よく無事だったな」
「慧音さんもね。てか、まさか鞘で戦うなんて。慧音さんも剣振れるんだね」
「武道も教育の一貫だからな。まぁ、お前ほどでもないが…………」
少し照れたように頭を掻きながら慧音さんは小さく笑う。
「というか、お前が寄越して来た鞘ではなかったのか?」
「え?俺は鞘持ってるよ」
それは敵の落としたやつから拾ったんでしょ?
「あれ?確かにお前が投げ渡してくれたような…………」
「錦、いるんでしょう。早く顔を出しなさい」
ドロシーが奥へ呼び掛ける。
「まーじですか、よく分かったねぇ。どうも、鞘を投げ渡したのは俺です」
あ!俺に瓜二つのあいつだ!
「おっと、青葉さんご本人来ちゃった感じ?よろしくよろしく~…………っても俺はあんたの偽物というよりかは、あんたを模した人形に憑依した妖怪なんですが。妖怪としてはもっと別の名があるけど、ひとまずは青葉弐式…………錦って呼んでくれ」
錦はバッ、と手を挙げると
「俺は神門青葉。お前の元ネタ?だ」
─────なんか、変な感じ。
「本当にお前たち良く似ているな…………」
慧音さんが俺と錦を交互に見る。
「そりゃそうだよ、あのドロシーが作った人形なんだから」
「……………ドロシー?」
「───────仕方ないじゃない」
どこが仕方ないのか三秒以内に説明しろ。
最凶最悪の双子の妹
依神 女苑(よりがみ じょおん)
名前の由来はハルジオンにそっくりな花であるヒメジョオン。
植物がサブテーマであるアリス編においては参戦は避けられないのでこいつの登場を待ち望んでいた読者も多いことだろう。
ピンク色のツインロール髪と、無数に着けたピアスやネックレスやブレスレットや指輪など装飾品の金金金。
とことんギラギラと眩しく華やかで大袈裟な、泣く子も黙る疫病神。まるで我が国における絶世の好景気な時代を表すかのよう。
能力は「財産を消費させる程度の能力」であり、貢がせるような形で相手を散財させることができる。
金を失った相手は当然ながら骸のようになるとかなんとか。
かつては人間たちから金銀財宝を巻き上げる悪党として世に君臨していたが、ある事件を機に寺にブチ込まれ、さすがに懲りたのか改心し、以後は巻き上げを控えるようになった。
まだ巻き上げはやめられないが、その代わり不正な利益や盗んだ金や悪人から巻き上げる義賊的な立場になったため、よい子にしていればその被害を受けることはない。
性格は傲慢で支配欲の強い女王様。自信家であり、血気盛んであり、所々自分勝手なところもあるが何だかんだって良いやつ。
プロレス技を主体とした格闘戦を好む珍しいタイプの少女であり、常に姉と共に行動している。
今回の件で偶然共同作業になった雛のことを気に入り、姉と三人揃って「最厄の災凶義賊団」を名乗る。
最凶最悪の双子の姉
依神 紫苑(よりがみ しおん)
名前の由来はヒメジョオンに良く似た花のハルジオン。別名はビンボウグサ。摘むと貧乏になるという言い伝えがあったりする。
泣く子も貧する貧乏神で、女苑の双子の姉。
薄汚れたパーカーとスカートとリボンに張られた繋ぎの催促状がトレードマーク。
冷たい青の髪からは常に負のオーラが溢れていて初見ではとてもじゃないがかなり近づきたくない印象を見せる。
根倉で臆病で無気力なへなちょこであり、活動的な女苑とは対照的な性格をしている。
しかし、本気になれば一転、普段の穏やかさとは比べ物にならない圧を出せるそう。
能力は「自分も含めて不運にする程度の能力」。
もうすでに嫌な字面だがあえて説明すると、不運にして貧乏にする能力だ。
しかし、貧乏になる意外の厄を呼ぶことはなく、実は貧乏になることで病や事故といったほかの不運を退けることができ、ある意味守り神として解釈できるがやっぱり貧乏になるのはだれだって嫌だ。
自分も含めて、とあるが。相手を不運にすると自分も不運になっていく不便な体質であり、不運は彼女自信の内へ蓄積され、定期的にスーパー貧乏神モードになって放出される。この時は自分含めて近くにあるありとあらゆるものが不幸になる非常に危険な状態なので一刻も早く離れよう。
居るだけで周囲を不幸にするため嫌われものだが、たまーに能力がまったく通用しない巫女がいたりもするらしい。
秘神流し雛
鍵山 雛(かぎやま ひな)
─────ありとあらゆる厄の神。
ラスボス感の漂うヤバすぎる肩書だが………実際は人懐っこい朗らかな少女。
赤のゴスロリ風フリル衣装とでかすぎる赤のリボンが特徴で、緑の髪も相まって赤い果物のように見える。
「厄をため込む程度の能力」を持っており、払った厄や、流された雛人形を回収して厄を収集することができる。
彼女自身は厄の影響を受けないが多少は厄の残留が辺りを蠢いているようで、気安く近付くと………椅子の足に小指をぶつけたりと大変なことになってしまう。
流し雛とは祭りに使った雛人形を流して厄を払うという習慣だ。
集めた厄は神々に渡しているとのことだがその神々がな んなのかは不明。
万が一にも近付いてしまった場合は人差し指と中指を交差させて「えんがちょ」と言おう。
くるくる回っている姿がすごく印象的。
迂闊に近付くと不幸を与える、といってもその一つ一つは結構ささやかだが………あまりにも多くの敵を近付けすぎると…………