東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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残焔

 

────俺には一つだけ、思い出があった。

 

 

 

 

クソみたいな人生を生きてきた俺にとって、数少ない良かった記憶。

 

 

「─────綺麗な川ね~」

 

「ただの川だろ?水が流れているだけじゃないか」

 

俺と菖はある日川沿いを歩いていた。

水が流れているだけのつまらない空間に、菖はなぜか、やけに楽しげだ。

こんなもの、なにが面白いのか。

こうやって時々、菖と俺の感覚はズレていることがあった。

 

「そうじゃないわよ~。筆竜さまはなんにもわかってないわね」

 

「わかるわけがない。水が流れているのがそんなに嬉しいのか、お前にとっては」

 

「だって、気になるじゃない。この川の流れた先に何があるのかって………」

 

菖は川の向こうを見つめる。

長い川の向こうは俺たちの視力では見きれない。どんなに千里先を見ようとしても途中で霞んで消えてしまう。

 

「川の果てには海があるらしいな。今でこそないが、昔は幻想郷にも海があったって、新聞記者のような女が言っていたのを聞いたことがある」

 

「えぇ。筆竜さまも気になるわよね?海」

 

「まぁ、確かに見たことはないな。だが、見た目は知っているぞ。一面に水が広がっているだけだ、この道の軽く6倍はつまらないだろうな」

 

ただでさえ川が面白いと思えない俺が大海原に投げ出されたら退屈で死んでしまいそうだ。

 

「もう。このわからず屋ー」

 

「悪かったよ、俺には自然を慈しむ心はあまりないんだ」

 

趣味は花だが、山や川には興味がなかった。

 

「私、いつか見てみたいわ…………海」

 

菖はぽつりと呟いた。

 

「そうか、」

 

「もちろん、筆竜さまも一緒にね?」

 

「えー、俺も………?」

 

「当たり前じゃない、夫婦なのよ私たち」

 

いや…………それはわかってるんだけど…………

 

「筆竜さまの言う通りにつまらないものだったとしても、いつまでも続くものの果てを見れるって憧れないかしら。どう?」

 

「果て……………か」

 

最後、末、終わり…………俺たちとは切っても切れないほど縁のある言葉の羅列だ。

だが、果て…………という解釈か。

その言い方は思い付かなかった。

海、すなわち川の「終わり」とは、俺たちの命の「終わり」とはまったく違う意味があるだろう。

 

「広大な命の海なら、なんでも許してくれるかもしれない。私たちの事だって、許してくれるかもしれないわよ」

 

「行けたらいいな、行けたらだが」

 

「行けたらじゃないわ、行くのよ。絶対に」

 

 

 

行けたらじゃない、必ず行く…………か。

そういえばあいつと、

 

(いつか、外の世界の海を見に行こうね)

 

……………って約束をしたんだっけ。

 

それは果たせなかった、それはもう果たせなくなった。

それはもう、願えなくなった。

海を見せてやれたら良かったのに。

俺たちは、もう生きているだけで良かった。

だから欲しいものなんて……………でも、あれは確かに、俺たちが欲しがったたった一つの────

 

 

 

───────将来の夢だった。

 

 

 

 

………………他でもない、菖のために。

 

 

あいつに見せてやれなかった海を見たい。

 

─────どうしてこうなったのだろう。

 

 

 

「あや…………め……………」

 

 

俺は、ただ菖が、

 

 

 

 

愛しかっただけなのに──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ………はぁ、はぁ……………」

「はぁ、はぁ……………はぁ、」

「はぁっ、はぁっ…………」

 

俺とアリスと慧音さんの三人でなんとか敵を蹴散らしきった。

もうそろそろ限界に近づいてきた俺たちは床に倒れる

 

「つ………疲れた…………」

 

「ほら、もうあと一押しなんだから座ってないでさっさと立ちなさい」

 

ずっと遠くから見ていただけのドロシーが催促してくる。

 

「ふざけないで…………無理よこんな状態で」

 

「あら?もう終わり?七色の人形使いも大したことないものねぇ」

 

「何をォ…………黙って突っ立ってただけのくせに…………」

 

「ハァ!?糸で敵を投げたり縛ったりして戦ってましたが?ひょっとして見えてません?目悪いわねぇ、耳鼻科行きなさいよ」

 

キスしそうなぐらいに顔を近づけてドロシーはアリスを挑発する。

 

「なんですって…………だいたい貴女は活躍がショボすぎるのよ!」

 

アリスも額で勢いよくドロシーを押し出して圧をかける。

 

「へぇ?誰がモタモタとしてる貴女の目の前に来た兵士を縛って行動不能にしてあげたんでしょうね~?」

 

それをまたドロシーが押し返す。

 

「────無芸者!」

 

「────器用貧乏!」

 

あぁ…………パターン入っちゃった。

 

「青葉、なんとかしてやってくれないか………」

 

「うん、もちろんだよ慧音さん…………」

 

相も変わらずドロシーとアリスは犬猿の仲だ。この二人をなんとかして仲良くさせてやるにはどうしたらいいんだ。

 

「ちょっ、二人ともやめて!折角最後まで来たんだ、ここでケンカして台無しにしたら駄目じゃないか」

 

仕方なく二人の間に入って強引に静止。

時間切れだ。

 

「そ、それは…………」

「そうだけど…………」

 

 

「ドロシー、目が悪いときに行くのは耳鼻科じゃなくて眼科。それにアリスも、ドロシーは君の事を助けてくれたんだから酷いこと言わない」

 

俺は耳鼻科が一番違和感を感じたよ。

 

「はぁい…………」

「はぁい…………」

 

とりあえずこの二人が素直に俺の話だけ聞いてくれるのだけまだ助かった。

 

「はい、お互い早く謝る」

 

「─────ぷいっ」

「─────ぷいっ」

 

駄目だこりゃ、俺の手には負えないわ。

 

「君らさぁ、俺が誰と繋がってるか知ってるー?」

 

錦が倒した敵の武器をすべて捨ててから戻ってきた。

 

「俺、母さんの実子だよ?あんまり仲良くしないようだと、母さんに言いつけちゃうかもだ」

 

 

「くっ…………はいはいわかりましたよごめんなさい」

「なによその謝り方、仕方ないから許してあげるけど」

 

解決してないじゃん。

 

「母さん?錦にもお母さんがいるのか?」

 

錦が母の単語を挙げるとすぐにこの二人が丸まっちゃったけど…………

錦の母って魔法使いにとっても恐ろしいのか?

 

「人形としての母はドロシーってことになるけど、魔族としても当然母親がいるさ。まぁ、母さんは俺の母というより、魔界の母に近いけど」

 

「魔界の母…………?」

 

「ま、幻想郷では扱いきれないくらいの大物ってこと。これでも淫魔の王だからね、俺より上のお方はそれはもう、ぶっ飛んだ大御所揃いさ」

 

錦は魔界とやらが生まれなのか。

魔界…………ってどこだ?

さっきの反応………アリスやドロシーも魔界の母について何か知ってるのかな。

 

「さてと。この二人は置き去りにして、俺たちは先を急ごう。行こう慧音さん、錦」

 

「わかった」

「よしよし」

 

 

「ちょっと待ちなさーい!!!」

「ちょっと待ちなさーい!!!」

 

スダダダダダダダーと二人が追い付いてきた。

 

「今さらっと私たちのこと置いてけぼりにしようとしたでしょ!?」

 

「当たり前だよ、だって君ら忙しいでしょ。ケンカで」

 

「わかったわよ、もうしないから!」

「終わってからケンカするから!」

 

終わってからもケンカするな。

 

 

 

 

 

「さぁ、次はいよいよ梓のところだ。準備はいい?」

 

「あぁ!」

 

慧音さんは頷いた。

 

「もちろんよ、」

 

アリスもやる気十分のよう。

 

「さて、行こうかマスター」

 

「わかったわよ」

 

ドロシーと錦も準備万端。

 

 

 

 

 

 

「────────と…………その前に、」

 

錦が俺の着物の襟をつかんで引き寄せてきた。

 

「と、うわぁっお!?」

 

 

 

 

「ぜぇぇぇぇあぁぁぁぁぁ!!!」

 

「な、なんだ────!?」

 

突如目の前の襖が爆炎と共に大爆発した。

錦に引っ張られなかったらいまごろ死んでいた。

 

「どうやら、最後の門番のお出ましみたいだよ?」

 

「お、お前は…………!!」

 

 

 

 

 

「─────はぁ、はぁ………お主は絶対に逃がさぬ、神門青葉!」

 

「吹田山草…………!!」

 

何回やってくるんだよこいつは…………!!

もういい加減に飽きたって!!

 

 

 

「酷い怪我ね、アレは青葉が…………?」

 

「いや、池に落ちてああなったんだろう」

 

山草の顔はもう表情もわからないぐらいに形を歪めてしまっていた。

顔の大半が黒ずんでいて、目と鼻がどこにあるのかすらわからない。

 

「山草、君はどうしてそこまでして俺たちを殺そうとするんだ!」

 

「知れたこと…………拙者は主たる雲月殿に命じられた通りに、お主らを始末するだけでござる!!」

 

「そうやってなんでもかんでも忠誠心か、君はどんな極悪人に仕えているのかわかってないのか!」

 

「そんなことは解っているのだ!だが………拙者にとっては主こそが我が命、この命は、主へ捧げ燃やし尽くすためにある、それこそが…………かつて孤児だった拙者を拾ってくれた師匠への唯一の恩返しにござる!」

 

山草は刀を抜いて絶叫する。

 

「悪いが、その身体で俺たちを止めることは絶対にできないぞ。それに………これ以上お前の遊び相手をしてやる暇はない」

 

俺も遠慮なく刀を抜く。

 

「遊びだと…………拙者の正義を、遊びだと………!?」

 

山草は戸惑ったような声で震えた後、俺を睨み付け一気に走り寄る。

 

「やはりお主は生かしてはおけん………!お主らが拙者の邪魔をするように、拙者もお主らの行く手を阻む…………!これ以上先へは、誰も行かせん!!」

 

山草と俺の剣がぶつかり合う。

金属と金属の衝突と共に火花が散る。

 

「ぬぅぅぅあぁぁぁ!!!」

 

「─────青葉!!!」

「─────青葉!!!」

 

アリスとドロシーが走りよってくる。

 

「バカ!!やめろ!!!」

 

錦が叫ぶするがもう遅い。

 

「うううぅぅぅぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

燃える刃が乱雑に振るわれる。

 

「ぐああああああああああ!!!」

「きやゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うああぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

灼熱の刃が俺たちを薙ぎ倒す。

 

「くっ……………大丈夫か二人とも!」

 

「バカ…………!!私たちのことより、」

「自分の事に気ぃ配りなさいよ!」

 

「立て、神門青葉!!!!」

 

「ぐおっ!!!」

 

倒れる俺に向けて真上から振り下ろされる炎の突き下ろし。

 

「うぁぁぁあだっ!!!」

 

剣を置き去りに身体を転がしてなんと躱した。

 

「ぜぇぇぇぇあぁぁぁぁぁ!!!」

 

起き上がった俺にも容赦なく剣が迫る。

 

「ぬっ…………!!!」

 

強引に押し付けられる刃に押し出される。

山草の腕を掴んで抑えるが依然としてピンチなのは変わりない。

 

「聖剣・日輪の撃銀剣(ガラチン)!!!」

 

「うあああああぁぁっ!!」

 

炎の爆発に吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。

 

「慧音先生、危ない!!」

 

錦があわてて慧音さんに抱きついてそのまま前方に倒れる。

 

「うあぁぁぁ!!」

「ごふっ!」

 

今の一撃で壁と天井が焼け落ちて倒れてきたのだ。

間一髪で二人は潰されずに済んだが、錦の脚が挟まれてしまった。

 

「うわっ、最悪…………!俺だけ炎の海に置き去りかよっ!」

 

「すまない、錦!今助けるから、」

 

「いや、それよりここを離れて!」

 

錦が瓦礫の山をパンチで破壊するとゆっくりと出てくる。

しかし、脚の調子が悪いようだ。

 

「ぐえぇぇぇぇっ、脚のフレーム曲がっちゃったよぉ、ドロシー直して!」

 

「無理に決まってるでしょ今そんなチマチマとした作業!」

 

「あァァァんまりだァァァァッ!!!」

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ…………あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

山草は明らかに消耗している。

動けなくなるのも時間の問題だ。

 

───────だが、

 

「アリス、大丈夫かい?」

 

「えぇ…………でも、このままじゃ…………」

 

 

くっ、このままだとこの通路が燃え尽きて先へ進めなくなる。

先へ進むには、これ以上長い対峙はできない。なんという最悪なタイミングだ…………

 

「くっ…………」

 

薬瓶を…………!

 

「そうはさせん────竜巻剣(フラガラッハ)!!」

 

「ぐ────うあああああああ!!!」

 

炎の竜巻が巻き起こり、俺の胴体を焼き払った。

 

「ご……………あっ……………!!!」

 

口から血を吐いて地面に跪いた。

 

「青葉────!!!」

 

慧音さんが慌てて肩を貸してくれたがこんなところにいると危ない。

 

「離れて…………慧音さん!!」

「うあっ!!!」

 

慧音さんを押し出して自分も床に倒れる。

 

「逃がさん、必ず…………討ち取る!!!」

 

「うぅぅあっ!?」

 

脚を掴まれて宙吊りに持ち上げられる。

ついでに剣を落としてしまう。

 

「これで終わりだ、神門青葉!!!」

 

「青葉!!───やめろぉぉ!!」

 

「駄目だ、ドロシー!離れろッ!!!!」

 

「遅い!!聖剣・光輪の断竜剣(バルムンク)!!!」」

 

「く────ああああっ!!!」

 

山草が床に刃を突き刺すと同時に下から太い火柱が立ち登り、炎の壁がドロシーを襲った。

 

「ドロシー!!!」

 

「くっうっ………そんなっ、なんて不覚………!」

 

ドロシーが大火傷を負った左手と右足を抑えて跪く。

 

「ドロシー!しっかりしなさい!」

 

アリスが慌ててドロシーを担ぎ上げ、炎の壁の侵食から離れる。

 

「あ、ありがとう…………」

「いいから。そんなことより青葉を!」

 

「くっ、うっ…………くっぬ………うっ!!」

 

「無駄でござる、お主の力では絶対に抜け出せん。ここにいる全てはこの灼熱の壁に阻まれ、ここへはこれまい。お主の負けだ、神門青葉!」

 

俺の首に、刃が突きつけられる。

 

「誰も殺さずにここまで戦い抜いた不殺の伝説共に死に絶えよ、神門青葉!!」

 

「ぐぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

突きつけられた剣が燃える。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

慧音さんが叫ぶが炎の壁に阻まれては助ける術がない。

 

「お主の不屈の精神に敬意を籠めて、拙者の誇る改心の灼熱地獄にてその身を焼き尽くす!!」

 

「ふざ…………けるな……………」

 

誰か……………助けてくれ…………!!!

 

「無駄なこと、この領域に侵入できる者でなければ、なんの助けもできはしまい!」

 

くっ、ここまでか!!

俺ではこの状況をどうしようもできない。他三人だって……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────じゃ、越えていいなら越えてやるよ!」

 

炎の柱を突き破って一条の光が飛び込んできた。

誰だ、錦か?

 

「なんだと!?────どぁぁぁっ!!」

 

そいつは山草の顔面に強烈な飛び蹴りを食らわせると鮮やかに着地した。

一方、俺は山草に手放されて盛大に頭から落ちた。

 

 

 

 

 

「間一髪だったな、オオバ」

 

笑った顔で彼女は俺を見てくる。

 

「都合良すぎるでしょ、タイミングがさ」

 

俺も彼女に微笑む。

 

「ほら、手ぇ出せ」

 

「あぁ!ありがとう、助かったよ妹紅!!」

 

彼女の手をとって立ち上がる。

 

 

白銀の髪、真紅のモンペ。

 

 

妖術の焔に身を包んだ少女。

 

 

 

 

──────藤原妹紅が駆けつけてきた。

 

 

 

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