東方 編史帖~上白沢慧音の過去へと迫る旅   作:マジカル赤褐色

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EGOIST

 

「──────青葉…………」

 

アリスはただ青葉の亡骸を抱き締める。

涙はただ乾いて痕が残るだけ。

アリスは自分の想いも感謝の気持ちも、その他の何も伝えられずに彼と離れ離れになってしまった。

逢えなくなる事の寂しさ、現実を受け入れねばならない辛さ。

込み上げる感情は次々と泡のように消えていく。

 

「────アリスさん、離れてください」

 

そこへ、梓が近寄る。

 

「え……………」

 

「私なら、彼を助けることができます」

 

「嘘………嘘よ。そんなことできない………」

 

「私の能力で青葉さんにかけられた呪いを殺すことで確実に助けれます。私を、信じてください………」

 

「ほんとに…………助かるの?」

 

「…………はい、」

 

梓はアリスの膝の上で眠る青葉に手をかざす。

そしてしばらく黙って集中したあと、胸の横にある射傷に指を置き、そのすぐ真横に釘を優しく刺す。

 

 

「─────青葉さんの肉体ではなく、この肉体を侵食しているこの呪いを殺します………えいっ!!」

 

梓は藁人形に釘を叩きつける。

すると、藁人形の妖しげな光と共に、青葉に釘を刺した箇所が光りだす。

 

 

「こ………これは────」

 

「青葉の傷が………………治っていく!?」

 

そしてしばらくした後、禍々しい光に穿たれた青葉の胸がなかったかのように完治してしまった。

元通りの身体になった後も青葉の身体は止まったまま。

 

「…………ん───────」

 

 

 

青葉は少し苦しそうにした後、ゆっくりと瞼を開いた。

眠りから覚めたかのような穏やかな声と気だるさと疲れでふにゃふにゃとした動きで眠りから覚醒したあと、アリスの膝に頭を預けたままきょろきょろと辺りを見渡す。

 

「──────みんな、無事?」

 

生き返った自分の事よりも仲間の心配を優先する、相も変わらず他人ばかりの姿を見て全員が緊張からまた涙に戻る。

 

 

「うあぁぁぁぁぁん!!良かったわよぉぉあおはぁぁぁぁ………!!」

 

「うあっ、アリス!?」

 

真上から燦々と降ってくる涙の雨に撃たれながら青葉は驚く。

 

「ちょっ、離して!?なんか、涙と涎と鼻水でくっちゃくちゃになってるよ顔!?ちょ、離れ………うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」

 

平和へと戻ってきて早々、全員にやられる青葉。

 

「青葉……………もう、しんじゃっ…………たかと思ったよぉ…………!!!」

 

まだアリスは泣き止まない。

 

「はぁ…………」

 

仕方なさそうに青葉は顔をベトベトにしながらもアリスの頬を撫でる。

 

「大丈夫…………死んでないから、」

 

「うん……………ぐすっ、」

 

「なにアリスばっかりに………気をとられてるのよぉ………!!私が誰よりもあんたのこと心配してたのにぃ…………!!」

 

「ちょ、ドロシーどうした!?」

 

ドロシーも青葉の手を無理やり取って涙を拭く。

 

「わかったよ…………ほらドロシーも、」

 

「青葉ぁ………!!」

 

ドロシーは青葉のお腹に顔をうずめて赤ん坊のように泣きじゃくる。

 

「はいはい、二人とも心配かけてごめんね」

 

左手でアリスの頬を撫でながら右手でドロシーの背中を撫でる。

 

「やれやれ………あんたは女に迷惑ばかりかけるねぇ」

 

「御衣黄…………」

 

「あーあ、君が死んでくれたら俺が本物の青葉になれたのに………なんてね?」

 

「君らはもう少し俺の死を悲しんでくれ」

 

「ごめんごめん。もちろん生き帰って良かったと思ってるぜ?」

 

「でもさ、君ならここまで読んでいると思っていたから正直死んだ時もそこまで驚かなかったよ」

 

 

 

 

 

───────あの時。

 

 

 

(ぁ…………嘘……………そんなこと、ない…………)

 

(……………信じ…………ぇ………ぅ…………)

 

(やめて……………青葉……………)

 

(梓ちゃ…………ん…………コト……………)

 

(お願い、一生のお願いだから………!!)

 

(………任せ───────ァ)

 

 

 

青葉の遺言はこういうものだった。

 

 

「俺は信じてるよ、梓ちゃんの事を。あとは任せた」

 

 

つまり、青葉は自分が呪い殺されても梓ならその呪いを殺して自分は生き返れる、ということを最初から分かっていたのだ。

梓ちゃんを任せたというのは、そういうことなのだ。

 

─────しかしこの男。見逃してやったところを裏切られて殺されかけたというのに、まだ梓を信じていたのだ。

 

なんとまぁ愚かな事か。しかし、今回はそれが上手く行った。

 

 

 

「とりあえず、みんなが無事そうで良かった。俺も生きて帰れたし」

 

「どこが………どこが良いんだよォ………!」

 

「ん?────げぇぇぇぇっ!?」

 

「お前が…………死んだっていうのにぃ…………!!うわぁぁぁぁん…………良かったよぉ…………」

 

結局、一番号泣しているのは妹紅だった。

 

「はいはい、もこたんもごめんね」

 

「ぐすっ…………ん、もこたんって…………?」

 

(可愛い…………)

 

「─────じゃあ、こんな殺風景なところじゃあれだし。帰ろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、俺たちは裏椰子飼城を出てワンダーランドの街中まで戻ってきた。

とはいえ、街中では混乱が激しいので、街の外れをみんなで歩いていた。

コンクリートだった道路は急に鉄の網になっており、低い鉄柵で区切られた向こうには真っ赤なマグマの海が広がっていた。

ここはこんなに地下深くに作られていたのか…………

 

「青葉さん、」

 

梓ちゃんはてくてくと俺の後ろから近付いてくると袖をぐいぐいと引っ張ってきた。

 

「どうしたの?」

 

俺は後ろを振り向いて屈みこみ、梓ちゃんの顔を見て話を聞く。

 

「………………………………………」

 

梓ちゃんは気まずそうにもじもじしている。

赤芽への恐怖心と罪の意識とお別れできたからか梓ちゃんの性格は静かで恥ずかしがり屋なただのありふれた女の子になっていた。

 

「……………ごめんなさい、」

 

梓ちゃんはちらちらとこっちを見ながら不安そうにそう言ってきた。

 

「その………ハンマーで叩いちゃって………怪我をさせてごめんなさい、」

 

やっぱりいい子だ。いけないことをしたらちゃんと謝れる。

 

「ふふ、いいんだよ。それに君は俺を命の危機から救ってくれたんだ。そこも含めてお礼をさせてよ、ありがとうね、梓ちゃん」

 

梓ちゃんの頭を優しく撫でる。

最初はびっくりしてピクリと跳ねた梓ちゃんだったが俺のことを受け入れてくれるようになった。

 

「えへへ……………」

 

嬉しそうに照れ笑いすると梓ちゃんは幸せそうな顔をした。

 

「───────ふふ、」

 

なんだ、全然ヤバい子なんかじゃないや。

 

「梓ちゃん、君はなんとかしてその能力と折り合いをつけていかないといけない」

 

「……………うん、」

 

「君のその能力はあまりにも危険だ。少しでも使い方を間違えると取り返しのつかないことになる。それは君も理解しているね?」

 

ハサミは使いようだ。

正しい使い方をすれば便利。

だが、間違った使い方をすると周りや自分に怪我をさせる。

この能力はその被害が死という形で現出する。

容易く人を殺める力だ。持っている本人ですら怖いだろう。

 

「でも、それは君が授かった才能だ。神様は優しいからなんの意味もなく能力を与えたりなんてしない。きっと君の将来に、その力が役に立つから君はその呪いの力を持って生まれた。だから、自信を持っていいんだ」

 

「うん、がんばる………!」

 

「君はいい子だから、自分でその能力の力がどれほどのものかよくわかっている。君はきっと、間違った使い方はしない。だから、君はその力を必要だと思ったら使っていいんだよ。人を殺したりさえしなければ、その力は君自身が自由に行使すべきものだ」

 

そればかりは、俺からはどうとも指図できない。

梓ちゃんは母も父もいない。この先は、1人で判断しなければならない。でも大丈夫だ。この子は賢い。

だから、俺は心配ない。

 

 

 

「青葉、そんなところで止まってどうしたんだ」

 

慧音さんが追い付いてきた。

 

「梓ちゃん、それでももし本当に困ったら慧音さんに相談するんだ」

 

「ちょ、青葉…………」

 

「慧音さんは里で一番頼りになるみんなのお姉さんだからね。教え子である君の悩みならいつでも聞いてくれるよ」

 

「お、お姉さん……………!?」

 

慧音さんは照れたように目線をあちらこちらに泳がせる。

 

「なんなら俺でもいい。ただ、妹紅にだけは禁止ね」

 

「おい!遠くだから聞いてないとでも思ったか!きーこーえーてーるーぞー!」

 

「ほら、あの子にとって命の価値は普通の人間とはかなりのズレあるから」

 

たぶんすぐ「腹が立ったら殺せ」とか教えそうだからとにかく妹紅を梓ちゃんに近付けないように努力しよう。

 

「本当に困ったときは自分に何て言うの?」

 

「もちろん、「大丈夫」です。お母様からもらったおまじないです」

 

「うん、大丈夫。君ならできる。自信を持ってこれからの人生を生きていくんだ。君だけの人生を、君だけの決断で進んでいくんだ。そうすれば、いつかは慧音さんみたいな素敵な人になれるよ」

 

「お、おい…………あんまり私を持ち上げないでくれ…………」

 

照れくさそうに笑う慧音さん。

 

「慧音さんはみんなの模範だよ、先生ってそういうもんでしょう」

 

「そ、そうかもしれないが…………」

 

 

 

「さて…………それにしても、」

 

妹紅たちも追い付いてきた。

アリスが少しだけもの寂しそうに柵の外を見つめる。

 

「これで………ぜんぶ終わりなのね、」

 

ドロシーもアリスの隣で溶岩の海を見つめる。

メディスンも、幽香さんも、雛も、女苑も、紫苑も、リリカも、メルランも、ルナサも、雷鼓も、御衣黄も、錦もみんな同じ気持ちだ。

たしかに大変だったが…………仲間たちと同じことをできたのは楽しかったし、みんな仲良くできて嬉しかった。

それだけに────終わるのが少し切ない。出会いがあるならいつかは別れがある。それは当然のことだ。

 

でも、二度と会えないわけじゃない。俺たちは幻想郷というこの世界でまだ生きている。

広そうで意外と狭い幻想郷だ、また歩いていたら出会うことがあるだろう。

その時はまた─────

 

 

「そうだ、最後にワンダーランドを楽しんでいかない?」

 

リリカが名案を出した。

 

「そうね、何か美味しいゴハンがあったりしたら行きたいわ!」

 

メルランも便乗する。

 

「みんな、まだ時間はあったりする?」

 

ルナサも珍しく楽しみそうだ。

 

「今ならプリズムリバーウィズHのアンコールコンサートがついてくるわよ?」

 

「マジで!?私は絶対に行く!!」

 

妹紅は飛び跳ねながら大喜びする。

 

「おいしいお菓子があれば是非是非、」

 

御衣黄も乗り気だ。

 

「ゆうかりんも行こ?」

 

「しょうがないわね、」

 

不服そうな言い方だが顔だけは賛成のようだ。

 

「演奏聴きながらご飯なんて………最高だよ、いこうよ女苑!」

 

「姉さんがそういうならそうしようかしら」

 

「わ、私もいきたーい!」

 

依神姉妹と雛も大賛成。

 

「私も行きたーい!」

 

メディスンも大喜び。

 

「慧音さん、俺たちも行こうよ」

 

「あぁ、たまにはそういうのもありだな」

 

「梓ちゃんもね」

 

「うん!行きたい!」

 

梓ちゃんは大きくうなずいた。

 

「アリス、ドロシー?俺たちと今からご飯にでも行こうよ」

 

 

 

「うそ、ホント!?」

「うそ、ホント!?」

 

 

 

……………ホント仲良いな君ら。

 

 

「私、青葉の隣の席が良い!」

 

「なに行ってるのよ私が隣よ!」

 

「なんですって…………?」

 

「なんか文句ある…………?」

 

険悪なムードが始まる。

 

「そんなに俺の隣が良いなら二人で左右に座ったらいいじゃん」

 

 

 

「それだ!!!」

「それだ!!!」

 

 

 

やれやれ…………

 

 

「あはははは──────ん…………?」

 

錦がもういつもの光景を笑いながらまた道の先を見ると、いきなり歩く脚を止めた。

 

 

「─────ん?錦、どうかした?」

 

ドロシーが錦と同じ視線で先を見ると、ドロシーも止まる。

 

 

 

「あ、青葉…………………………」

 

「ど、どうかしたの…………?」

 

 

俺もそれに習って向こうを見ると────

 

 

 

「────────!!!」

 

そこで、まさかの出来事が起きていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………………………………………………」

 

 

ザッ、ザッ、ザッ、とおぼつかないフラフラとした足取り。

一歩一歩と、どこかを目指して進む草履。

しかし、それは確実にどこかという目標を目指して精一杯歩いている。

そして、俺たちの反対側から歩いてくる人影は前から歩いてくる俺たちを避けるつもりがまるでない。

なんなら、俺たちに用があるようにも見えた。

 

 

 

「───────ふぅ…………はァ…………」

 

止まらない息切れ。身体中が傷だらけ。

自分の血で身体が真っ赤なその人物は、その赤に相反する鮮やかな青の着物と髪をしていた。

半袖の青い羽織、中に着た青白い和服風のワイシャツと和風ズボン。

怒りのような感情を籠めた燃える瞳はどこか見覚えがある。

 

 

 

「──────筆竜、お前…………まだ、」

 

慧音さんがまさかの状況を驚きの表情で迎える。

 

「ん?誰だあれ、ボロッボロだけど」

 

錦たちは彼を知らない。

だが、俺たちはいやというほど記憶に残っている。

 

「どうやらお友達ってわけではなさそうね」

 

俺が最後に筆竜を見たときはあの誇り高い剣士の姿はなかった。あれはただの獣だった。

しかし、今回は違う。俺がもっとも記憶に残る、初めて対峙したときの筆竜だ。

 

 

 

 

「─────お前らは誰一人として地上へは帰さない。地上に帰りたいって言うなら…………俺を殺して先へ進め」

 

 

その肩には1本の刀が担がれていた。

 

 

「往生際が悪いぞ女たらし!お前だってもうボロボロじゃないか!」

 

妹紅が叫ぶ。

 

「死に損ないは黙ってろ…………!!」

 

「──────なんだって?」

 

「妹紅、」

 

詰め寄ろうとした妹紅を止める。

チッ、と妹紅は不服そうに舌打ちする。

 

 

 

「お前らだけは、誰一人として生かしては帰さねぇ………俺をコケにして、俺の女たちを殴り倒し、挙げ句の果てに菖の命すらも奪った…………」

 

肩に担いでいた刀の鞘を左で握り、右でゆっくりと引き抜く。

地に落ちる鞘。

その八卦刀やあの鴛鴦鉞とも異なるまた新しい武器の刀身があらわになる。

 

─────あの形状…………日本刀によく似ているが、少しだけ製法が違う。それに、赤い布を巻かれた柄と、銅でできた釣り鐘型の鍔が中華剣を思わせる。

 

美鈴さんが見せてくれた、あの倭刀か!

かつて大陸の貿易を荒らしたとされる海賊、倭寇が持っていた日本刀から着想を得たとされる大陸製の歴史の古い武器…………

硬い中華剣の特徴と鋭い日本刀の間を取った武器。なるほど筆竜とは相性がいい。

 

 

「菖の怒りのぶん、きっちり身体に刻んでから成仏しろ…………!!!」

 

そう叫びながら筆竜はその刃を振り上げていきなり俺たちに斬りかかってきた。

どうやら標的は存在しないらしい。とにかく、俺の仲間であれば全員がその怨念の対象だ。

 

「よっと危ない!!!」

 

すんでのところで間に入ってくれた御衣黄がその一撃をドスの鞘で受ける。

 

「へぇ………?やるじゃん、」

 

御衣黄は倭刀を弾き返すとドスを横に一薙ぎして筆竜を揺さぶる。

躱した先を狙った縦斬りをぶつけるが、

 

 

 

「──────うっッ……………!!!」

 

「げ……………」

 

当てる前に手首を捕まれてしまう。

 

「ウォォォォォォォ!!!!」

 

動けない御衣黄に振り下ろされる倭刀。

 

「待ちやがれ!!!」

 

ギリギリで妹紅が筆竜の腕を押さえて止める。

 

 

 

「ぐっ…………なんだ、この力…………!!」

 

二人がかりでも押さえるのが精一杯。

 

「くっ…………離せ…………エェェェェ!!!」

 

筆竜は膝で御衣黄の鳩尾を蹴ると緩んだ拘束を振りほどいて御衣黄を殴り飛ばす。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そしてそのまま妹紅の腕をねじってその勢いで回し蹴りを頭に直撃させた。

 

「ぐあっ……………!!!」

 

重い一撃を頭部に受けて妹紅はよろよろと後退する。

やっぱり体術が…………強い…………!!

 

 

「せえぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

正面から殴りかかってくる女苑だがまるで通用しない。

やられるより先に女苑の腹に一撃を打ち込み、そのまま髪を掴んで投げ捨てる。

 

 

「うあぁぁぁぁっ!?」

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

「わぁぁぁぁっ!!!」

 

 

紫苑と雛が巻き込まれてボウリングのピンのように薙ぎ倒される。

これまでとは比べ物にならないくらいの暴力性。

本当に追い詰められているのか…………

 

「うっ……………うぁぁぁぁ!!!」

 

鞘を掴んで投げつける。

 

「──────っ………くっ!!」

 

「きゃぁぁぁ!!!」

 

今度は幽香さんに直撃する。

さらに反射されたものがメディスンにぶつかる。

 

「───────ハァ、ハァ、………ァ」

 

「はぁぁぁぁぁ!!!」

 

その隙に俺は筆竜まで走り寄って身体を蹴り飛ばす。

しかし、相手は倒れることなく地面を踏みしめたまま衝撃で後ろに下がっただけだった。

 

「こんなものかよ…………その程度じゃ、俺は殺せねぇ…………!」

 

「────────くっ、」

 

「俺はなにがなんでも、お前らを皆殺しにする。菖の恨みを晴らせるなら…………この命を、何度だって投げ捨ててやる。俺は今から、俺と言う命のすべてを賭けて、お前たちを滅ぼす!!!」

 

「もう終わりだ、戦いは終わったんだ」

 

「馬鹿野郎…………まだ、終わってねぇだろうが!」

 

筆竜が叫ぶと、ズドズドズドと大人数の足音が聞こえてきた。

すると、筆竜の後ろから武器を構えた女性たちが走ってきて、俺たちを一斉に包囲する。

─────なんだこの数、30は平気でいるぞ。その全員がこいつを愛した女性…………

 

 

「─────お前ら良いか!俺に死なれたくなかったら、お前らの力で俺の手間を少しでも減らせ!それとも、たったこんだけの人数で俺らが全滅して良いのかよ!?」

 

「良くありません!!」

「そんなことは認めません!!」

 

筆竜が掛け声を挙げると女性たちも盛り上がる。

 

「せっかく苦労して築き上げた俺たちの栄華をこの雑魚どもに潰されて、また生きる価値のないゴミに戻っても良いのかよ!!」

 

「いいえ!!!」

「そんなのは嫌です!!!」

 

「こんなやつらに散々コケにされて、あんな仲良く楽しそうにおしゃべりしながら勝ち逃げされても良いのかよ!!」

 

「いいわけありません!!!」

 

「俺から菖を奪って、なんも見返りがないのはおかしいと思わねぇのか!!」

 

「その通りです!!!」

「菖さまのぶんは取り返します!」

 

──────菖………ほかの女性からも慕われていたんだな。

これだけの愛人がいて、ライバル関係なんじゃなくて………同じ一人の男を愛した仲間たち。

動機こそ違えど、俺たちと彼らは、同じような絆で結束されているのかもしれない。

急にアリスが殺されたとしたら…………俺たちは自分を保てるだろうか。

もしかしたら、俺もあんな風になっていたのかもしれない。

 

「良し、その意気だ!邪魔するやつはどうするんだ、言ってみろ!!」

 

 

 

「「「皆殺し!!!!!」」」

 

 

 

「そうだ!!!俺から散々奪ってきたぶんだけ、搾取してきた数だけ、人間たちから奪い尽くす!!!………なにが不殺の模造刀だ、結局菖が死んでるじゃねぇか………!人の人生をめちゃくちゃにしといて、自分達はご託並べて耳障りの良い未来ばかりくどくどと語りやがって………それで当然の報いを与えに来たら「向こうがやってきた、やり返せ、罪のない人を傷つけるな」………?頭で湯沸かしてるんじゃねぇぞクズどもが!!!罪のない人間なんている訳がねぇ!少なくとも………人間の里の連中だけは全員、無実の罪で俺を裏切った紛れもない大罪人だろうが!!!」

 

怒りで震える筆竜は身体を反らし上を見ながら叫ぶ。

 

「────何かを奪われた者には必ず、それを取り返す義務と奪い返す権利が与えられる。人生を里の全員に奪われた俺は、同じように里の全員の人生を奪い取る。不幸なやつは何をすることもできない、だが、その代わりできることなら何をしても許される。一人殺すも二人殺すもなんにも変わらねぇ………だってどうせ、全部が因果応報なんだからな!!!奴らには俺を恨む資格すらねぇ、一回罪を犯したやつは、どうなろうと人を恨む資格がねぇんだからな!!!」

 

──────なるほど、相当救いようのない男だ。

 

 

「────お前だって散々罪を犯してきた。なら、人を恨む権利がお前にはないだろう」

 

「そんな訳があるか、俺はなにもしてないのに奪われたんだ。それこそ罪がないのにな、でも人間どもは違う、先に俺から奪ってきた。奪い返されるのは当然だろ!」

 

「お前が恨んでいるのはごく一部の人間だけだ、それがたまたま全員里の人だったってだけで。お前の恨みなんてものは、毎日を頑張って生きている一般の人からしたら八つ当たりもいいところだ」

 

「──────なら試してみるか。俺のこの怨嗟がただの八つ当たりかどうかを」

 

もはや言葉は尽きたようだ。ここからは戦いあるのみ。

まさか最後の敵がこいつになるとは思っていなかった。

 

「─────俺らは何をしようが許される。なぜなら、俺らは世界一美しく強い、竜胆家なんだからな!!!」

 

「「「オォォォォォォォォ!!!」」」

 

 

─────なるほど、この男のカリスマ性だけは嘘がない。

 

 

 

「─────青葉、正直これは予想外よ」

 

アリスが近づいてくる。

 

「あぁ、俺もそう思ってる」

 

「あの女たちは私たちが抑える。青葉は…………いける?」

 

「もちろんだ、むしろ、誰も手出ししないでくれ」

 

 

あいつだけは────この俺が殴らないと気が済まない。

 

 

 

「いくぞ筆竜、お前の正義を俺たちは否定する。殺されていい人間なんている訳がない。お前は、怒りの使い方を間違えたんだ」

 

 

「──────あ?」

 

 

「【君】の気持ちは良くわかる。君の立場にならないと完璧にはわからないけれど、同情の気持ちはどこかにある。君は些細な勘違いから人生を奪われ、人生のどん底に落とされた。たった一人の女性のために………里の病院を周って誰にも受け入れられなくて、里の医者たちから見限られ………それで永琳さんのところへ行ったことも知っている」

 

「お前─────なぜ、それを…………」

 

「─────そして、不器用に鎖鎌を買ってプレゼントしてやるほどの愛する女性が命を落とした悲しさも、自分と照らし合わせてみると苦しさがわかる」

 

「───────まさかお前、」

 

「でも、俺は君は間違っていると思う。君は強く美しい、それは本当だ。でも、もし強くなりたいのなら………もうこれ以上自分と同じ境遇に遭う人が増えないように見守ってやったり、万一同じ目に遭った人がいたらそれに寄り添ってあげたりすることじゃないのか。それが、心の強い人だと思うんだ」

 

「─────────」

 

「それを、菖も望んでいたはずだ。彼女は君が大好きだったから同じ意思を持っていただけで、本当は………君に優しい人になって欲しかったんじゃないか」

 

「─────────」

 

筆竜は少しだけ顔を落ち込ませた。

 

「──────君は、人を救うだけの力がある」

 

「──────俺が求めたのは多くの人の幸せなんかより、たった一人の人の幸せだ」

 

 

──────そうか。

 

なら、もう言うことはない。

別にそれは否定しない、それもひとつの考えだし俺は誰か一人を愛することを間違ってないと思う。

だが、そのために多くの人を食い物にしたことは許さない。

 

 

 

「───────勝負だ、竜胆筆竜!」

 

「───────覚悟しろ、神門青葉!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はァァァァァァ!!!!」

 

薙刀を持った女がアリスと慧音に斬りかかる。

 

「慧音先生!!」

 

「邪魔だ!!!」

 

慧音の頭突きが炸裂する。

その背後からやってきた敵を今度はアリスが人形で押し返す。

 

 

「────────くっ………!!」

 

「危ない、慧音!!!」

 

そこへやってきたまた刀を妹紅が蹴り返して殴り倒す。

 

「妹紅…………」

 

「へへっ、行くぜ…………!!」

 

 

 

「おらぁぁぁ!!!はぁっ!!!」

 

「う、うわぁぁぁぁ!!!」

 

依神姉妹が拳を振るって一人一人と片付けていく。

 

「ど、ドロシー!!」

 

「わかったわよ、それっ!!!」

 

「きゃぁぁぁぁぁやっぱりこわーい!!!」

 

 

「がぁぁぁぁぁ!!!」

「ぐぁぁぁぁっ!!!」

 

雛を糸でつないで投げつけるドロシーの一発で一気に五人の敵を倒す。

 

 

 

「よっ、」

 

「ふんっ、」

 

 

乱舞する二つの傘。錦の番傘と幽香の日傘が戦地を暴れる。

 

「いい傘~」

 

「そっちもね」

 

「いっけー!メディスンパーンチ!!!」

 

メディスンが両腕をグルグル回しながら敵へと突撃していく。

 

「き、きゃぁぁぁぁぁー!!!」

 

途中で転倒してそのまま滑りこむメディスンが直撃して毒の爆発が発生する。

 

 

 

「やべぇ!!なんだありゃぁ!!」

 

「御衣黄、道頼む!!」

 

 

「よっしゃ!曼珠沙華!!!」

「壁破り!!!」

 

道を塞ぐ女兵を薙ぎ倒す。

 

 

「筆竜────!!!」

 

「先へは行かせない…………!!」

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

目の前を通りすぎる大剣。

 

「くっ、すごくめんどくさい!!」

 

「いっけぇぇオオバぁぁぁ!!!」

 

横から妹紅がそれを殴り飛ばす。

 

「妹紅!!!」

 

「せぇいやぁぁぁぁ!!!」

 

戸惑う青葉の後ろから敵が襲いかかる。

 

「危ない!!!」

 

ドロシーが瞬時に糸で繋いで引き寄せ、キックをぶつける。

 

「ドロシー!!!」

 

「青葉、ここは任せてくれ!!!」

 

慧音がまた新しく敵を捕まえて頭突きを食らわせる。

 

「慧音さん!!!」

 

「──────青葉、行ってきなさい」

 

「アリス……………」

 

青葉は後ろを向いて激しい戦いを見つめる。

必死に戦っている仲間たちが青葉のほうを向いてうなずく。

 

「────ありがとう、みんな!!!」

 

青葉もそれで決心がついた。

背中を仲間たちに預け、一人で筆竜に向かって走っていく。

 

 

 

「ふん───────」

 

筆竜は身を翻すとそのまま倭刀を持ったまま逃げていく。

 

「ま───待て!!!」

 

青葉もそれを全速力で追いかける。

少しすると、筆竜は目の前に見えた柵を飛び越えて下に落ちる。

青葉も迷わずそこへと飛びこんで行く。

 

 

 

 

「う、うわぁぁぁっ!?」

 

 

 

 

そして、青葉はまぶしい空間についた。

 

 

「こ、ここは─────」

 

 

 

青葉は周囲を見回す。

二本の細い板でできた床とその先に繋がる広い広いステージ。

赤と黒と緑の垂れ幕─────

歌舞伎の舞台だ。

花道に立つ青葉と向こうの仮花道に立つ筆竜。

観客は誰もいない。ワンダーランドの異変によって全員安全な場所に避難したのだろう。

二人は無言で見つめ合う。

 

 

「──────────」

 

「──────────」

 

 

その時、するすると上手が開いていく。

中から出てきたのは─────

 

 

 

「はーい!!今日のリクエストでライブに来ました!プリズムリバーウィズHよー!」

 

なんと、マイクを片手にしたメルランだった。

 

「あれあれ?観客が誰もいないけど…………」

 

リリカが少し戸惑った表情をする。

 

「大丈夫よ、ほら、あそこの飛行船から中継しているから」

 

雷鼓が飛行船を指差す。

 

「─────あそこに依頼主の椰子飼県さんがいるようね」

 

ルナサがここでとんでもない事実を公表する。

 

 

 

「────プリズムリバーウィズH………県のやつ、こうなるとわかってて俺が嗜んだ数少ない娯楽を持ってきたのか」

 

「─────────」

 

筆竜がプリズムリバーウィズHのファンだったことを初めて知った青葉は口を開こうとしたが歓談している余裕はないのでやめた。

 

 

 

「どうやらここで、一世一代の格闘勝負が繰り広げられるとのことなので特別に参上しましたー!」

 

「県さんのリクエストは選手のひとりが特にハマっていたという曲とのことです!」

 

「この曲…………懐かしいわね~。このライブが終わった後に初めて依神姉妹と知り合ったんだっけ…………」

 

「思い入れが深い曲ね、私もかなり好きよ」

 

 

──────よくわからない見栄ばかり張ろうとするのは本当に男の意味不明な点だ。

そんなことを改めて思いつつ青葉は花道を降りて誰もいない芝生に降り立つ。

筆竜もそこへ飛び降りてくる。

 

 

 

 

「それではどうぞ!!!」

 

「プリズムリバーウィズH、ワンダーランドコンサート!最初で最後の一曲!!!」

 

「今宵は飄逸なエゴイスト~Egoistic Flowers!」

 

「ゆっくりしていってください!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────そして始まる軽やかな旋律。

 

哀愁漂うピアノの音色。

その中で二人は睨みあう。

プリズムリバーウィズHの演奏で両方の精神は最高潮。

これを止める方法はない。

 

 

「──────お前だけは絶対に俺が始末する」

 

「──────君だけは絶対に俺が止めてやる」

 

青葉が三度笠を脱ぎ捨てる。外の光がないので姿は変わらない。

方や細く脆く鋭い日本刀、方や太く硬く鋭い倭刀。

方やワーハクタク、方や土佐犬人。

これは単なる漢と漢の真剣勝負。相容れぬ正義、どちらが正しいかを証明するための譲れない意地のぶつかり合い。

意味などない。でも、彼らにとっては一番大事なものだ。

 

 

 

「──────うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「──────うぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

ほぼ互角の速さで相手に向かって走る二人。

 

 

「でぇやぁぁっ!!!」

 

「オォラァァッ!!!」

 

 

袈裟に振られた二本の刃が同時に交差した。

ガキン、という撃鉄音と共に火花が散った。

 

 

──────全ての人の為の温厚な心。

──────一人の人の為の冷徹な心。

 

 

──────罪と悪を許さぬ正義の心。

──────不条理を許さぬ秩序の心。

 

 

──────憎悪に耐える不屈の心。

──────復讐に燃える怨嗟の心。

 

 

──────彼は如何なる罪も許さず、

──────彼は時に残忍を必要とし、

 

 

──────自分が嫌だった事は人にはしない。

──────相手へした事への報いを必ず返す。

 

 

──────それが、普遍の当然だから。

──────それが、自分の使命だから。

 

 

──────全ての人のために、

──────一人の女のために、

 

 

──────彼は心を振るう。

──────彼は命を賭ける。

 

 

 

 

 

それが、正しいと信じたことなんだから!

 

 

 

 

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